Blog. 歌かインストか ~鶏か卵か~ ソロアルバム編

Posted on 2025/07/01

久石譲は稀代のメロディメーカーである。ここは手短に先に進んでいいですよね。これまでにたくさんの名曲を生み出してきました。さて、今一瞬思い浮かべた名曲は歌ものですか?それともインスト曲ですか?

「鶏が先か、卵が先か」”Which came first: the chicken or the egg?” テーマは明解!いろいろな説明をすっ飛ばしても大丈夫、さっそくいってみましょう。

 

 

ソロアルバム編

久石譲は自身が手がけた映画音楽の主題歌/メインテーマを、音楽作品や演奏会用作品に再構築することで時代を超えて聴かれている曲がたくさんあります。【映画音楽編】でも触れましたが、サウンドトラックには同じメロディをして主題歌(歌曲)とメインテーマ(器楽曲)と収録されている作品もたくさんあります。

ここでは、それ以外のケースつまりソロアルバムで生まれることになった鶏?卵?な楽曲をみていきましょう。

 

 

HOPE

数ある久石譲ソロアルバムのなかでも独特な存在感を放つアルバム『地上の楽園』です。そのあまりの個性的さゆえに隠れていることに気づかない一曲があります。以前にも書いたことがあってそこから引用します。

 

この曲、実は「水の旅人 メインテーマ」と同じ曲なんです。

まったく曲調も雰囲気も違うので、またインスト曲とボーカル曲なので、突然そんなこと言われても、そうだったっけ? と半信半疑かもしれません。今から、Aメロ・Bメロ・サビ・間奏と、ふたつの曲を線でつながていきます。そう言われればそう聴こえてくるかも…。そんなレベルじゃありませんよ。ちゃんと同じ原石から分かれた、いわば二卵性双生児のようなふたつの曲。

「HOPE」
Aメロ(00:25~00:59)
Bメロ(01:00~01:20)
サビ(01:21~01:37)
間奏(02:45~03:18)

この区分けをもとに下に当てはめるとこうなります。

「Water Traveller」(水の旅人 メインテーマ)
Aメロ(01:36~02:23)
Bメロ(02:24~02:50)
サビ(04:41~05:31)
間奏(05:49~06:34)

「Water Traveller」の印象的な主題(サビのようなもの)であり幾度登場する旋律(00:26~01:09)は、「HOPE」には使われていません。

「HOPE」のサビとなっている旋律は、「Water Traveller」の中間部パートにあたるという離れ業。さらには、「HOPE」間奏はコード進行もまったく違うので一致しにくいですが、シンセストリングスで鳴っている旋律が「Water Traveller」ではホルンの旋律、まったく同じです。

Overtone.第30回 久石譲もうひとつの ”HOPE” より)

 

地上の楽園

 

久石譲 『メロディフォニー』

 

 

 

I Stand Alone

器楽曲版で有名な「Tango X.T.C.」です。映画『はるか、ノスタルジィ』の主題歌/メインテーマです。主題歌?あった? そうなるんです。だってこのメロディに歌があるなんて、少なくとも僕は聴いたことがない…。

『Melody Blvd.』は自身の代表作をセルフ・カバーしたアルバムです。”歌詞がすべて英語に差し替えられたAOR的サウンド”とあります。器楽曲「Tango X.T.C.」…じゃないんだった、歌曲「追憶のX.T.C.」は「I Stand Alone」で英語ver.リアレンジになっています。

謎です。歴史を紐解いてみました。映画をDVDで見返してみると本編オープニング/エンディング・クレジットには主題曲「追憶のX.T.C. -はるか、ノスタルジィ 愛のテーマ-」作詞:大林宣彦 作曲:久石譲 歌:石田ひかり(テイチク)と出てくるじゃないですか。でもサウンドトラック未収録、シングルカットされた痕跡もない、エンドロールにも流れていない。映画公開当時に劇場版では使われていたのか、DVDパッケージの際に他曲に差し替わったのか確認にまでは至っていません。謎のままです。

ひとつだけ確かなのは、サウンドトラック盤ライナーノーツに歌詞は掲載されていません。がしかし、『Melody Blvd.』には歌われている英語詞もオリジナルの日本語詞も掲載されています、なんと!!。そして、日本語の言葉数とメロディの音数はしっかり合っています。だから、日本語でしっかり歌うことができます。「Tango X.T.C.」を流しながら歌ってみましょう。

 

 

久石譲 『はるか、ノスタルジィ』

 

 

『Melody Blvd.』には魔女の宅急便音楽から生まれた歌曲「Hush/木洩れ陽の路地」も乾いた風心地よく収録されています。別名…イメージアルバム曲名「かあさんのホウキ」、サウンドトラック曲名「旅立ち」「オソノさんのたのみ事…」、ヴォーカルアルバム曲名「魔法のぬくもり」…ええい、みんな大好きあのメロディ「かあさんのホウキ」です。

 

 

 

長距離電話
White Night
ホワイトナイト

久石譲の冬の定番曲といえば「White Nights」、クリスマスに聴きたい曲といえば「White Night」です。ファンなら誰もが知ってるそして人にすすめたくなる人気曲です。

『Piano Stories II』に収録されていてみんなそのとき好きになりました。それはそうなんです、それでいいんです。その一年前に歌曲版「長距離電話」がリリースされていたとは、しかも楽曲提供の一曲としてひっそり?!と。歌詞もまったく別物語になっています。純粋に時系列から想像すると、楽曲提供で思わず生まれてしまった美メロを自身も大いに気に入り器楽曲でしっかり残そうとなった、そんな感じでしょうか。大英断です。ありがとう、1996年の久石さん。

池田聡さんは当時久石譲さんのカメラ趣味の先生でした。カメラ選びに付き合ってもらったりしてたエピソードも。by おそらく古き著書より

年月は過ぎ、女声コーラスグループ リトルキャロルも合唱曲としてカバーしました。「ホワイトナイト」作詞:河野清香&小池光子(Little Carol)/作曲:久石譲/編曲:松波千映子で冬の歌になっています。

 

池田聡 Saturday

 

久石譲 『PIANO STORIES 2』

 

リトルキャロル

 

 

 

Asian Dream Song
旅立ちの時 ~Asian Dream Song~

1998年長野パラリンピック冬季大会テーマ曲です。器楽曲「Asian Dream Song」は1996年に誕生し、早い段階から大会関連行事や盛り上げていくイベントなどで披露されています。久石譲コンサートで初お披露目となったのも同年です。そうして翌年1997年に歌曲「旅立ちの時 ~Asian Dream Song~」が生まれ大会テーマソングとなりました。

こうやって見ていくと一定の時間の流れの中で歌曲版へと進化したさまは【スタジオジブリ編 1】『天空の城ラピュタ』「君をのせて」と同じタイプになります。どちらも器楽曲版のときにまだサビメロディはなく歌曲版でサビパートが誕生しています。♪夢をつかむ者たちよ~ 君だけの花を咲かせよう~ パートです。そうして1998年3月開会式での多彩なゲストミュージシャンを迎えた大演奏は感動的でした。惜しむらくはVHS時代だったこと、デジタルレガシーになってほしかった。

新しい世代の人たちは、学校の合唱定番曲として育ってきた人も多いと思います。また2016年フィギュアスケート羽生結弦選手が《Hope&Legacy》として久石譲の「View of Silence」と「Asian Dream Song」を合わせた曲を使用したことで輝き甦り、瞬く間に世界中のトレンドを席巻しました。新たな生命とファンを獲得した幸福な曲。

 

久石譲 『PIANO STORIES 2』

 

旅立ちの時 久石譲

 

久石譲 『WORKS2』

 

 

 

 

 

 

World Dreams

久石譲いわく「国歌のような格調あるメロディ」は久石譲&新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ(WDO)のアンセムのように誕生しました。WDOコンサートで聴けずには終われない大切な一曲です。

2011年「西本願寺音舞台」で麻衣さんの作詞を得て合唱付き版(歌曲版)が誕生しました。このバージョン”for Mixed Chorus and Orchestra”は合唱の声部構成に合わせてオーケストレーションも呼応するように改訂されています。WDO2015、WDO2023でも披露されました。

2019年には組曲「World Dreams」が誕生し全3楽章からなる大作へと膨らんでいます。

まるで現代社会や世界情勢を如実に反映するように、2022年から海外公演でもプログラムされていきます。さまざまな海外オーケストラとの共演はこの楽曲の存在をさらに大きなものにしているように感じます。フランスを皮切りにトロント、ヘルシンキ、香港、シカゴ、ロンドン、フィラデルフィアと世界をつなげています。気がつけば2024年久石譲コンサートでアンコールに選ばれた曲TOP1です。まだまだ世界に広がっていきそうです。平和に聴こえるときもあれば、厳しく聴こえるときもある。常に時代を映し出す鏡のような楽曲です。

 

原典

久石譲 『WORLD DREAMS』

 

久石譲 『W.D.O.』 DVD

 

合唱

 

対向配置

 

組曲

 

(コロナ禍や戦争や)

 

 

Joe Hisaishi – World Dreams(2004年版) Music Video

from Joe Hisaishi Official YouTube

 

 

 

MIDORI SONG

ヴァイオリニスト五嶋みどりが理事長を務める認定NPO法人 ミュージック・シェアリングに寄贈された楽曲です。2015年に器楽曲として誕生しましたが、翌年には麻衣さんの作詞によって合唱版も生まれています。編曲はいずれもチャド・キャノンです。現時点ではミュージック・シェアリング主催コンサートなどでしか聴けないもので二つとも音源化されていません。

 

 

 

I Want to Talk to You

「合唱の祭典」のために委嘱され、書き下ろしでは初めての合唱作品になります。また「作曲の過程で思いついた弦楽四重奏と弦楽オーケストラの作品にするアイデアが現実味を帯び」と本人解説で語っているとおり間を置かずに弦楽合奏版も完成しています。コロナ禍を経験しながら、それぞれ2021年と2022年に初演を迎えて以降も少しずつプログラムされています。音源化はこれからの楽しみです。新しいバージョンの誕生をも秘めているかもしれない作品です。

”作品としてはこれで完成しているが、僕としては日本語で聞きたいと思っている。つまり日本語バージョンであり、そこには弦楽オーケストラが演奏していることも想定できる。” by 久石譲

 

合唱版
I Want to Talk to You 〜for Piano and Percussion〜
作曲:久石譲
1. I Want to Talk to You 作詞:麻衣、久石譲
2. Cellphone 作詞:久石譲

弦楽合奏版
I Want to Talk to You ~ for string quartet, percussion and strings ~
作曲:久石譲

*合唱版1.を再構成したもの

 

 

 

スタジオジブリ作品や映画音楽だけじゃない、ソロ作品からもこんなにたくさんあったんですね。たくさん紹介できてうれしいです。これからまた生まれ変わる曲があったならまたうれしいです。

 

 

 

Info. 2025/06/29 《速報》 「The Music of Joe Hisaishi」久石譲コンサート(フィラデルフィア)プログラム

Posted on 2025/06/29

2025年6月25~27日、久石譲コンサートがアメリカ・フィラデルフィアで開催されました。共演オーケストラはフィラデルフィア管弦楽団です。本公演は当初1月3,4日開催予定でしたが久石譲の体調不良により延期されていました。その後追加公演も加えての待ちに待った振替公演となりました。 “Info. 2025/06/29 《速報》 「The Music of Joe Hisaishi」久石譲コンサート(フィラデルフィア)プログラム” の続きを読む

Info. 2023/09/12 [CM] 「キリン よろこびがつなぐ」音楽:久石譲「Summer」使用 O.A.スタート 【6/25 update!!】

Posted on 2023/09/12

キリンビバレッジのCM「よろこびがつなぐ」に久石譲「Summer」が使用されています。映画『菊次郎の夏』(1999)メインテーマとして誕生した曲です。今回のCMは映画サントラ・オリジナル・バージョンです。

キリンはJFAのオフィシャルトップパートナーです。9月12日「キリンチャレンジカップ 2023」にて地上波初O.A.となったのは「サッカー編」です。 “Info. 2023/09/12 [CM] 「キリン よろこびがつなぐ」音楽:久石譲「Summer」使用 O.A.スタート 【6/25 update!!】” の続きを読む

Blog. 歌かインストか ~鶏か卵か~ 映画音楽編

Posted on 2025/06/25

久石譲は稀代のメロディメーカーである。ここは手短に先に進んでいいですよね。これまでにたくさんの名曲を生み出してきました。さて、今一瞬思い浮かべた名曲は歌ものですか?それともインスト曲ですか?

「鶏が先か、卵が先か」”Which came first: the chicken or the egg?” テーマは明解!いろいろな説明をすっ飛ばしても大丈夫、さっそくいってみましょう。

 

 

映画音楽編

久石譲が音楽担当する映画そのケースのひとつに主題歌も含めたその全てをトータルコーディネートすることがあります。映画全体から音楽設計することで主要テーマ曲のメロディが主題歌(歌曲)やメインテーマ(器楽曲)となって多彩に本編に登場してきます。このときその歌とインストは同時に誕生していると言えます。

例えば、ワールドベスト盤に収録されている「Innocent」も「My Neighbour TOTORO」も「Ponyo on the Cliff by the Sea」も。それから「FOR YOU」「TWO OF US」「Tango X.T.C.」も。映画主題歌の器楽曲版とも言えますが、初めのサウンドトラックからインストゥルメンタルver.があります。ワールドベスト盤にあるのは、映画のための曲想や曲尺といった制約から解放された自身の音楽作品(ソロアルバム)や演奏会用作品へと昇華させたものたちです。

だから今回のテーマ「鶏が先か、卵が先か」でピックアップできるような曲はそんなにありません。

 

 

 

 

それもそのはず!

「映画はインストゥルメンタル(器楽)が基本であり、主題歌はインストゥルメンタル(器楽)で通用するメロディーであるのが望ましい」by 久石譲

とはっきり明言しています。そのスタンスは映画音楽を始めた1980年代から一貫しています。なるほど久石譲が手がけた映画音楽には主題歌(歌曲)とメインテーマ(器楽曲)の両方で楽しめるものが多いということですね。これまでに語られてきた中から久石譲の映画音楽・歌の流儀については【テキスト編】でみていきましょう。

 

 

『おくりびと』

この映画のメインテーマといえば「おくりびと/Departures」です。チェロの美しい旋律はただただ耳を傾けたくなります。心を寄せたくなります。久石譲の映画音楽年表にとって欠くことのできないエポックな作品です。しっかりと自身のライフワークであるピアノストーリーズ・シリーズや集大成アルバムにもそのメロディを刻み込んでいます。

実はこの曲、映画主題歌にはなっていませんがイメージソングがあります。12本のチェロと1管編成のアンサンブルにのせてAIが歌詞をつけたものです。その作られた経緯やエピソードも当時からあまり触れられていないため、歌曲版が存在することを知らない人も多いかもしれません。サウンドトラックと発売日は同じです。

 

久石譲 『おくりびと オリジナル・サウンドトラック』

 

 

久石譲 『Another Piano Stories』

 

久石譲 『メロディフォニー』

 

 

映画『海洋天堂』にはメインテーマに歌詞をつけたイメージ・ソング「海洋天堂」があります。映画『川流不“熄”(A Summer Trip)』には主要テーマ曲に歌詞をつけたプロモーション・ソング「慢慢(Slowly)」があります。どちらも映画本編では使われていませんし、編曲は久石譲の手を離れて楽曲制作されています。音源化されていないのでこの話はしません(キッパリ)。

 

 

 

カバー

NHK連続テレビ小説「ぴあの」(1994)は音楽:久石譲です。主演と主題歌も務めた純名里沙の翌年アルバムでは映画『アリオン』から珠玉のメロディ「レスフィーナ」に新たな歌詞をつけた歌曲版「愛の果て」が誕生しています。また『魔女の宅急便』から「めぐる季節」もカバーしています。久石譲プロデュース作品です。

 

 

 

映画から飛び出して新しく生まれた、となったらこのくらいじゃないかなあと思っていますが、何かあったら教えてくださいね。

映画『菊次郎の夏』メインテーマ「Summer」は久石譲の代名詞、いや夏の定番曲、いざ夏の主旋律です。この曲にはコーラスバージョンがあります。!? ほんとです。2022年リトルキャロルのコンサートで初披露されています。音源化はされていません(まだ聴いたことはありません)。器楽曲をコーラス版にしたもので歌詞はありません。編曲は麻衣さん。いつか聴ける日が来たらアップデートして紹介できたらうれしい。

麻衣さんが中心となる女声コーラスグループ リトルキャロルには、スタジオジブリや映画音楽の枠を超えて久石譲のメロディを残していってほしいなと願っています。

 

 

とにもかくにも!

久石譲が映画やドラマのために書き下ろした、その作品のための替えの効かない珠玉の主題歌/メインテーマです。サウンドトラックはそのメロディを歌曲版/器楽曲版で楽しむことができる作品がたくさんあります。

『坂の上の雲』『この世界の片隅に』『ウルルの森の物語』『ぴあの』『LE PETIT POUCET』などなど、イニミニマニモ~

 

 

 

 

Blog. 歌かインストか ~鶏か卵か~ スタジオジブリ編 3

Posted on 2025/06/20

久石譲は稀代のメロディメーカーである。ここは手短に先に進んでいいですよね。これまでにたくさんの名曲を生み出してきました。さて、今一瞬思い浮かべた名曲は歌ものですか?それともインスト曲ですか?

「鶏が先か、卵が先か」”Which came first: the chicken or the egg?” テーマは明解!いろいろな説明をすっ飛ばしても大丈夫、さっそくいってみましょう。

 

 

スタジオジブリ編 3

『崖の上のポニョ』

映画冒頭タイトルバックで流れる「海のおかあさん」です。イメージアルバムは歌6曲・インスト4曲の全10曲です。ここで「海のおかあさん」はインスト曲です。豊嶋泰嗣さんのヴァイオリンソロによってメロディが奏でられています。あえて、です。

映画本編では林正子さんのソプラノで印象的に歌われています。これから始まる物語への期待とまるで海のゆりかごのように大きく優しく包み込む一曲です。

 

曲ができるまでのエピソードをご紹介します。

 

新しい海の唄の誕生 ~覚 和歌子作「さかな」より翻案

宮崎監督は、「崖の上のポニョ」で、これまでにない”新しい海の唄”を作りたいと考えていました。これまで海の唄というと「うみはひろいな 大きいな」(文部省唱歌「うみ」)という唱歌に代表されるように、海を風景や舞台として捉えた唄ばかりでした。監督は今回の作品のために、”海そのもの”を歌った唄を作りたいと思い悩んでいたのです。そんなある日、覚和歌子さんの詩集『海のような大人になる』(理論社刊)の中の一編の詩「さかな」に出会い衝撃を受けます。その詩には、監督が思い描いていた”海そのもの”が表現されていたからです。そして、宮崎監督はこの詩を元に、「海のおかあさん」の歌詞を書き上げたのでした。後日、音楽担当の久石譲氏に手渡された音楽ノートには、歌詞とともに次の一文が添えられていました。《これは覚和歌子さんの詩集『海のような大人になる』の一編「さかな」を元にしました。》こうして、宮崎監督と覚和歌子さんと久石譲さんによる全く新しい海の唄、「海のおかあさん」が生まれたのです。

海のおかあさん
歌:林正子 作詞:覚和歌子 宮崎駿 ~覚和歌子作「さかな」より翻案 作・編曲:久石譲

(CDライナーノーツより)

 

覚和歌子さんの詩をもとにしたイメージ・ポエムを宮崎さんからいただいた時、「文部省唱歌ではない”海の唄”が、もっと日本にはあってもいいですね」と宮崎さんがおっしゃっていたんです。それで出来上がったのが《海のおかあさん》ですが、「今回はクラシックもありですね」と宮崎さんにお話しして、林さんに歌っていただいたら非常に良かった。これを映画冒頭に使ったのは、プロデューサーの鈴木さんのアイディアです。「この曲で映画が始まるとすごいぞ!こんなことは今まで誰もやっていない」という、鈴木さん独特の嗅覚ですね。そのアイディアを宮崎さんも気に入られて、実は去年の夏の前には、オープニングは林さんのソプラノでいくと決まっていたんですよ。イメージアルバムを制作した段階では、本編をご覧になった時のお楽しみということで、敢えてヴァイオリンのインストゥルメンタルで録音しましたが。

Blog. 久石譲 「ナウシカ」から「ポニョ」までを語る 『久石譲 in 武道館』より より抜粋)

 

 

久石譲 『崖の上のポニョ イメージアルバム』

 

久石譲 『崖の上のポニョ サウンドトラック』

 

2012年、ジブリ楽曲たちを集めたアルバムで「海のおかあさん」フルバージョンが初音源化されました。

 

 

『スタジオジブリの歌』(2008)、そして以降の5作品を追加した『スタジオジブリの歌 増補盤』(2015)に収録されている「海のおかあさん」はサウンドトラックと同一約2分半です。フルサイズ約4分半は『ジブリ・ベスト ストーリーズ』だけです。

 

スタジオジブリの歌

 

 

 

ジブリフィルムコンサートでも欠かせない一曲になっています。

 

 

 

そのほかイメージアルバムの時には歌曲だったものが、サウンドトラックでは器楽曲(スキャット含む)になっていろいろな曲に登場しています。

 

イメージアルバム → サウンドトラック 曲名の変化

  • 海のおかあさん → 海のおかあさん, 流れ星の夜, 母と海と讃歌
  • フジモトのテーマ → 浦の町(中間部), 人間になる(後半部), フジモト, トンネル(後半部)
  • いもうと達 → いもうと達
  • ポニョの子守唄 → ポニョの子守唄
  • ひまわりの家の輪舞曲 →嵐のひまわりの家, 水中の町

 

 

 

『かぐや姫の物語』

映画公開から2年後、久石譲が紡ぎだした主要テーマ曲のひとつ《なよたけのテーマ》に高畑勲監督自ら新しい歌詞をつけて歌曲版「なよたけのかぐや姫」が誕生しました。ミニマルな声部を駆使した女声三部合唱で約7分からなる大曲です。

《なよたけのテーマ》そのメロディは、サウンドトラック盤「はじまり」「小さき姫」「なよたけ」「蜩の夜」「悲しみ」「飛翔」「別離」「月」など使われたシーンと曲ごとにいろいろな装いを映す旋律になっています。

サウンドトラック初回プレス限定特典ディスクには、映画収録曲よりサウンドトラック未収録音源5曲が収録されています。その名も「なよ竹のかぐや姫(古筝)」と「レンゲ草(古筝)」の2曲が《なよたけのテーマ》のメロディです。フリークにはぜひその全てを聴いてほしい。

 

かぐや姫の物語 サウンドトラック

 

(初回プレス限定特典)

 

 

 

 

カバー

ジブリソングはたくさんの愛溢れたカバー曲があります。

井上あずみはオリジナル歌唱の「君をのせて」や「となりのトトロ」などのほかに【スタジオジブリ編1】でも紹介した『魔女の宅急便』から生まれた歌曲版などもカバーしています。

 

1. さんぽ(となりのトトロより)
2. めぐる季節(魔女の宅急便より)
3. わたしのこころ(魔女の宅急便より)
4. 想い出がかけぬけてゆく(魔女の宅急便より)
5. 何かをさがして(魔女の宅急便より)
6. 魔法のぬくもり(魔女の宅急便より)
7. 風のとおり道/Instrumental(となりのトトロより)
8. まいご(となりのトトロより)
9. おかあさん(となりのトトロより)
10. ドンドコまつり(となりのトトロより)
11. となりのトトロ(となりのトトロより)
12. 君をのせて(天空の城ラピュタより)
13. 風のとおり道/Voice Edit

井上あずみ 君をのせて

 

新しいジブリ作品が生まれていくなか年代ごとに新たなカバーも録音しています。その最新アルバムは2023年です。

1. いのちの名前(千と千尋の神隠し)
2. となりのトトロ(となりのトトロ)
3. 風になる(猫の恩返し)
4. 君をのせて(天空の城ラピュタ)
5. さよならの夏(コクリコ坂から)
6. Arrietty’s Song(借りぐらしのアリエッティ)
7. ルージュの伝言(魔女の宅急便)
8. 鳥になった私(魔女の宅急便)
9. ひこうき雲(風立ちぬ)
10. テルーの唄(ゲド戦記)
11. さんぽ(となりのトトロ)
12. 風のとおり道(となりのトトロ)

 

 

麻衣×DAISHI DANCEによる「君をのせて」(英語ver./日本語ver.)も隠れた人気曲です。またリトルキャロルの久石譲ソングも素敵なハーモニーで優しく歌われています。麻衣さんが中心となった女声コーラスグループです。

 

DAISHI DANCE the ジブリ set

 

 

 

 

すべてをピックアップできてはいませんが、いろいろなカバー曲も見つけて楽しんでみてください。

 

 

 

 

久石譲はインタビューで「宮崎さんから頂く詩っていうのは、何故かこうメロディーが浮かんでしまうものですから」と語っています。宮崎監督の詩が久石譲に新しいメロディを、時代を超えて愛されるメロディを書かせている根源なのかもしれませんね。ジブリメロディは宮崎駿×久石譲でできている、そう言ってきっと大丈夫です。

 

 

 

Info. 2025/06/15 「久石譲 presents センチュリー・ファミリーコンサート」プログラム 【6/18 update】

Posted on 2025/06/15

2025年6月14日、「久石譲 presents センチュリー・ファミリーコンサート」が京都・ロームシアター京都で開催されました。久石譲が日本センチュリー交響楽団ととも、小さな子どもと家族に贈るスペシャルなコンサートです。 “Info. 2025/06/15 「久石譲 presents センチュリー・ファミリーコンサート」プログラム 【6/18 update】” の続きを読む

Blog. 「久石譲指揮 日本センチュリー交響楽団 第290回 定期演奏会」コンサート・レポート 【6/18 update】

Posted on 2025/06/15

2025年6月13日、「久石譲指揮 日本センチュリー交響楽団 第290回 定期演奏会」が開催されました。久石譲は2021年に日本センチュリー交響楽団の首席客演指揮者に就任して以来数多くの定期演奏会・特別演奏会を精力的に行ってきました。そして2025年4月日本センチュリー交響楽団音楽監督に就任しました。その記念すべき1年目のシーズン、満を持しての定期演奏会登場です。

 

 

日本センチュリー交響楽団 定期演奏会 #290

[公演期間]  
2025/06/13

[公演回数]
1公演
大阪・ザ・シンフォニーホール

[編成]
指揮:久石譲
管弦楽:日本センチュリー交響楽団

[曲目]
ベートーヴェン:交響曲 第6番 へ長調 作品68 「田園」

—-intermission—-

久石譲:交響曲 第2番

—-encore—-
ドヴォルザーク:スラブ舞曲 第8番 ト短調 作品46-8

[参考作品]

久石譲 ベートーヴェン 交響曲全集 JOE HISAISHI IN VIENNA

 

 

前日には同内容公演が茨木市文化・子育て複合施設 おにクル ゴウダホールにて開催されました。2025年2月に追加公演で発表されたものです。「2025-26シーズン 日本センチュリー交響楽団 北摂定期演奏会」として今後も北摂地域(茨木市、高槻市、箕面市)全3カ所で定期演奏会に合わせて開催予定になっています。

 

 

2025.06.18 update
公式写真4枚を追加しました。
from 日本センチュリー交響楽団公式SNS

 

 

まずは会場で配られたプログラム冊子からご紹介します。

 

 

MESSAGE

皆さんこんにちは、久石譲です。

このたび、2025年4月に日本センチュリー交響楽団の音楽監督に就任することになりました。日本センチュリー交響楽団とは10年以上前から共演し、2021年からは首席客演指揮者を務めてきました。

一度はオーケストラともっと深く関わる仕事をしたいと思っていたので、今回このようなポジションを頂くことはとても嬉しく、光栄です。

就任最初のシーズンである2025-2026年の定期演奏会はすべて、ベートーヴェンの交響曲と現代の音楽を組み合わせるプログラムにしました。親子で楽しめるコンサートや小編成アンサンブルで最先端の現代の音楽を聴いてもらえるコンサートも企画します。

このオーケストラとともに、過去から未来につながるクラシック音楽の在り方を追求していく。そして、たくさんのお客様に喜んでもらい、応援してもらえるオーケストラになるよう努めます。

楽しみにしていてください。

(日本センチュリー交響楽団イヤーブック2025-2026 より)

 

 

 

Program Notes

久石譲:交響曲 第2番

Symphony No.2は2020年4月から夏にかけて作曲し、翌年2021年3月から6月にかけて3管編成のオーケストレーションを施し、その年の夏に行ったワールド・ドリーム・オーケストラ(W.D.O.)ツアーで初演した。

本来なら2020年にストラスブールとパリで初演し、その後世界各地で演奏する予定だったが、COVID-19により延期を余儀なくされたためにこのようになった。その後、ストラスブールとパリは2022年5月、そして6月にはバンクーバー、トロントなどで演奏し、現在世界各地で演奏している。

当初は全4楽章を想定していたが、3楽章で完結していることがわかり、またパンデミックの時だからこそ重くないものを書きたかった。つまり純粋に音の運動性を追求する楽曲を目指した。その結果36分くらいの作品になった。

Mov.1 What the world is now?
チェロから始まるフレーズが全体の単一モチーフであり、それのヴァリエーションによって構成した。またリズムの変化が音楽の表情を変える大きな要素でもある。

Mov.2 Variation 14
元々シンフォニーの2楽章として作曲したが、2020年は大きな編成の楽曲がソーシャルディスタンス確保のため演奏できないので「Variation 14」として僕自身が主催しているMusic Future(MF)Vol.7(2020)においてラージ・アンサンブルで演奏した。MFはミニマル系のコンテンポラリー・ミュージックを演奏するコンサート・シリーズである。曲はテーマと14のヴァリエーション、それとコーダでできている。とてもリズミックな楽曲に仕上がった。ネット配信で観た海外の音楽関係者からも好評を得た。

Mov.3 Nursery rhyme
日本のわらべ歌をもとにミニマル的アプローチでどこまでシンフォニックになるかの実験作である。途中から変拍子のアップテンポになるがここもわらべ歌のヴァリエーションでできている。より日本的であることがむしろグローバルである!そんなことを意識して作曲した。約15分かかる大掛かりな曲になった。

(久石譲)

(「日本センチュリー交響楽団 第276回定期演奏会 第290回,第291回 2025年6,7月プログラム冊子」より)

 

 

 

ここからはレビューになります。

 

 

5月「大阪4オケ2025」でのお披露目も経て(プログラム:「久石譲:Adagio for 2 Harps and Strings」「ストラヴィンスキー:火の鳥(1945年版)」)いよいよ音楽監督就任記念となる今シーズン初の定期演奏会です。

ホール入り口に設置された久石譲サイン入りのコンサートポスター掲示は、ちょっとした写真スポットとしておなじみになっています。若い人から海外のお客様までワクワクな期待と笑顔に頬があがっています。そしてこちらもおなじみになっている満員御礼です。

久石譲は年間シーズンプログラムのコンセプトとして「ベートーヴェン交響曲と現代の作品」を掲げています。久石譲指揮ではベートーヴェン交響曲から第6番・第1番・第3番をプログラムしています。

 

 

ベートーヴェン:交響曲 第6番 へ長調 作品68 「田園」

よく知られている作品だけに、観客それぞれにイメージがある第6番、これこそ田園だという演奏もあるだろう作品です。久石譲のアプローチは、弦14型2管編成で古典時代からあった対向配置をもとにバロックティンパニの小気味よさも活かしながら、あくまでも作曲家視点から作品を浮き立たせる。そしてプログラム全作品をとおして同じように現代的なアプローチでオーケストラと臨む、そんな意欲的な演奏が特徴です。

ここは個人の感想を書く場所でもあるので、ちょっと主観的にストレートに書くところもあります。いわゆる画面下隅に「※個人の感想です」テロップがあると思って見てください。

第1楽章から僕の雲行きが怪しい。木管のいくつかのパートが明らかに音楽にブレーキをかけてしまっている印象。周りのテンポ感とそこだけが分離していて違和感が響いてくる。第1楽章も第2楽章も弦楽パートと木管パートがフレーズをかけ合ったりが多いです。弦楽や全体が軽快に刻みながら進んでいるのに、そのいくつかの木管パートがかけ合いで主旋律に出てくるたびにそこでブレーキがかかって0コンマ何秒のはっきりと体感できるテンポダウンする。そして僕の気持ちもトーンダウンする。音楽を進めている推進力を削いでしまっていると感じてストレスのたまる「田園」でした。どうも意図的にとは感じとれなかった。

そのぶん第3楽章は弦楽セクション中心にキビキビとザクザクと勢いよく進むパートもあって、そこは水を得た魚のように活き活きとした響きでした。

そうは言っても全体的には「快速な田園」という感想も多かったです。僕には第1,2楽章の印象もあって…やあやあごにょごにょ…、印象も感想もいろいろです。まだまだアプローチや解釈のせめぎ合いだったんでしょうか。これから久石譲×日本センチュリー交響楽団がどう溶け合っていくのか、どんな化学反応を起こしていくのか、とても楽しみです。

 

 

 

久石譲:交響曲 第2番

堂々久石譲交響曲の第2番です。日本では「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2021」での世界初演以来となる2度目です。どうしてこんなことになってるの、とても悲しい、もっと聴きたい!プログラムされるやテンション爆上がりな作品です。

前半部の「田園」を聴いてからの休憩時間、これ第2番どうなっちゃうのかなと勝手な不安よぎっていました。杞憂でした。素晴らしい演奏でした!!WDO2021、パリ公演配信、グラモフォン録音アルバムなども経てきたなか、かなりベストに近い満足感を得ることができました。もちろん難しすぎる作品なので精度を突き詰めれば違った見方もできるのかもしれません。それでも全体を支配する強靭なまとまり、勢い、重厚なアタック、ハイライトの爆発力、これを聴いてしまったらCDは物足りなくなる。間違っても復習~復習~とルンルンでコンサート後にアルバムを聴き返さないほうがいい、損をする。今日の演奏の余韻を音源でかき消さないほうがゼッタイ良かったと。前半部よりも少し大きい弦14型3管編成です。第2楽章のリズミックで楽しいところや、第3楽章のどこか懐かしいわらべ歌の心地よさと巨大に膨れ上がっていくさまは、今日のこの演奏が記憶に残らないはずはない、そんな満足感でいっぱいです。

耳ではっきりわかるほどの改訂はなかったように思います。グラモフォンアルバムでは見つけることができなかったフレーズに気づいたり、隠れていた楽器の音がライブらしい音像で明瞭に聴こえてきたり。だから楽しい。日本でももっと聴きたい!

 

生演奏に遭遇する2度目ということもあり、やっとしっかり確認できたこともあって以下お詫びして修正いたします。(ほかにも間違ってるとこあるぞのツッコミはうすうす承知…)

 

Mov.3  Nursery rhyme

”ミニマル的アプローチでどこまでシンフォニックになるかの実験作である”、久石譲の楽曲解説からです。ここからはテーマ(メロディ)だけに注目して楽章冒頭を紐解いていきます。コントラバス第1群がD音から13小節のテーマを奏します。2巡目以降は12小節のテーマになります。本来は1コーラス=12小節のテーマでできていて、1巡目に1小節分だけ頭に加えているかたちです。「レーレレ/レーレミ、レーレーレー」(13小節版)、「レーレミ、レーレーレー」(12小節版)というように。なぜ、こうしているのかというと、かえるの歌の輪唱とは違うからです。かえるの歌はメロディ1小節ごとに、次の歌い出しが加わっていきますよね。なので、ズレて始まって、そのままズレズレて終わっていきます。

コントラバス第1群が2巡目に入るとき、同じ歌い出しの頭から、チェロ第1群コントラバス第2群がA音から13小節のテーマを奏します。同じく2巡目以降は12小節のテーマになります。この手法によってズレていくんです、すごい!12小節のテーマだけなら、同じ歌い出しの頭から次が加わっていくと、メロディをハモるように重なりあってズレることはありません。でも、なんらかの意図と理由で、歌い出しの頭を統一しながらもズラしたい。だからすべて1巡目だけ13小節で、2巡目以降は12小節なんだと思います、すごい!テーマは低音域から高音域へとループしたまま引き継がれていきます。つづけて、チェロ第2群チェロはE音から、ヴィオラはC音から、第2ヴァイオリンはG音から、第1ヴァイオリン第1群はB音から、最後に第1ヴァイオリン第2群はD音からと、壮大な太陽系を描くように紡いでいきます。そして全7巡回したころには、壮大なズレによる重厚なうねりを生みだしていることになります。対向配置なので、きれいにコントラバスから第1ヴァイオリンまで時計回りに一周する音響になることにも注目したい。さらに言うと、コントラバス第1群のD音に始まり、最終の第1ヴァイオリン第2群もD音で巡ってくるわけですが、このとき響きが短調ではないと思います。メロディの一音が替わっているからです。あれ? なんで同じD音からなのにヴァイオリンのときは抜けた広がりがあるんだろう、暗いイメージがない。ここからくるようです。

Blog. 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2021」コンサート・レポート より一部抜粋)

 

 

 

 

—-encore—-

ドヴォルザーク:スラブ舞曲 第8番 ト短調 作品46-8

久石譲指揮の舞曲といえばこれこれ、こんな演奏になるよね。とても快速&躍動的に勢い一気に駆け抜けます。思えばスラブはロシアやウクライナなども含まれる民族や地域です。振り返ると、本公演のプログラムは土着的だったり民族的な着想をもった作品で貫かれています。その土地の大切さやその土地で暮らす人々の大切さ、それぞれの人が持ってる壊してはいけない原風景や心象風景、遺していきたい大切なもの。

 

 

本演終了後とアンコール・カーテンコールには「ブラボー!」も幾度となく飛び交っていました。だけど、僕は気になった、団員たちが活き活きと見えない。演奏中もたんたんとしている姿で、難しいスコアに挑む姿勢や食らいつこうとする前のめり感をあまり感じとることができなかった。カーテンコールになっても、やりきった感のシルエットや表情をオーケストラとして見ることは出来なかったと思う。観客の拍手喝采に応える一瞬の笑顔も見れない。あれ、演奏してるほうはそんな演奏でもなかった感じ??ってなったら悲しい。

もったいない、せっかくいい演奏会だったのに。たまたま自分がそう見えただけならそれでいいし、そうであってほしいかな。見せることも大切だと思います。やっぱりオーケストラも楽しさ・難しさ・真剣さを体で伝えてくれたらうれしいです。それを見て聴いたらもっと素晴らしい観客体験ができます。その演奏会の一期一会や感動はたった一瞬見せてくれた表情やしぐさだけで時として一生モノにもなります。関西オケの一つに収まることなく世界と勝負する日本センチュリー交響楽団であってほしいなと思います。

次回も全力で楽しみにしています。

 

 

今シーズンの日本センチュリー交響楽団ラインナップと今後の久石譲登場回です。

 

 

 

リハーサル風景

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茨木公演ゲネプロ

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リハーサル風景動画あり

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公演風景(茨木公演)

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ゲネプロ

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公演風景

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Blog. 歌かインストか ~鶏か卵か~ スタジオジブリ編 2

Posted on 2025/06/12

久石譲は稀代のメロディメーカーである。ここは手短に先に進んでいいですよね。これまでにたくさんの名曲を生み出してきました。さて、今一瞬思い浮かべた名曲は歌ものですか?それともインスト曲ですか?

「鶏が先か、卵が先か」”Which came first: the chicken or the egg?” テーマは明解!いろいろな説明をすっ飛ばしても大丈夫、さっそくいってみましょう。

 

 

スタジオジブリ編 2

『もののけ姫』

もののけ姫といえば主題歌「もののけ姫」、もののけ姫といえば「アシタカせっ記」、もののけ姫といえば「アシタカとサン」と屈指の名曲は堂々神々しい。ここでは物語のクライマックスで流れる「アシタカとサン」の器楽曲から歌曲への変遷をみてみましょう。

宮崎駿監督をして「すべて破壊されたものが最後に再生していく時、画だけで全部表現出来るか心配だったけど、この音楽が相乗的にシンクロしたおかげで、言いたいことが全部表現できた」と言わしめ、久石譲もその言葉が強く印象に残っているというエバーグリーンな曲です。

2008年開催「久石譲 in 武道館」コンサートで歌曲版が初披露されました。本編・アンコールと進んで一番最後に演奏されたこの曲は、1コーラスを久石譲によるピアノで、続けて1コーラスを合唱とオーケストラという流れになっています。『The Best of Cinema Music』のライヴ音源でも聴くことができます。また2021年の交響組曲版はソプラノによって歌われています。ジブリフィルムコンサート世界ツアー版では英語で歌われている「Ashitaka and San」そのメロディと想いは世界中に響いています。作詞は麻衣さんが担当しています。

 

 

久石譲 『もののけ姫 サウンドトラック』

 

久石譲 in 武道館 ~宮崎アニメと共に歩んだ25年間~ DVD

 

久石譲 『THE BEST OF CINEMA MUSIC』

 

 

 

イメージアルバムからの一曲がありました。「失われた民」の日本音階なメロディは、映画本編タタラ場で歌われる「タタラ踏む女達 ~エボシ タタラうた~」になっています。作詞は宮崎駿監督です。

 

久石譲 『もののけ姫 イメージアルバム』

 

 

せっかくだから主題歌「もののけ姫」のエピソードもみてみましょう。

 

「毎回、イメージアルバムを作る時に、作曲の手がかりになるような言葉を宮崎さんから頂くんです。その中の一つに、あの曲の詩のような言葉があったんです。宮崎さん本人は、きっと詩のつもりで書かれたわけではないと思うんですが、僕がこれは曲になるんじゃないかと思って、”歌”として仕上げたものです」

Blog. 久石譲 「もののけ姫」インタビュー 劇場用パンフレットより より抜粋)

 

「タタリ神、犬神モロ、シシ神の森……などでした。さすがに宮崎さんもこれだけではマズイと思ったんでしょうね、言葉に対して自分の思いや説明を長く書いてくれたんです。その中に「もののけ姫」というタイトルでポエムのような言葉が綴られたものがありました。それを見たとき、これは歌になるなと思ったんです。タイトル曲にならなくても、イメージ・アルバムならあってもいいんじゃないかという軽い気持ちで「もののけ姫」という曲を書いたんです。」

Blog. 「キーボード・マガジン Keyboard magazine 1997年9月号」久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

「監督も忙しいですし、私も日本にいなかったんです。レコーディングのとき、私はいろいろと悩んでいたんです。どういう気持ちで歌っていいか判らない。私一人の個性を表現することはたやすいことですが、主題曲は映画のなかの一つの部品ですから、強すぎる個性ではいい映画もだめにしてしまうんです。逆に空気のようにただあるという存在では、私がいやなのです。これは誰の気持ちで、どういう立場で歌ったらいいのかと悩んでいたんです。前日のテストのときも悩みながら歌っていて、でも誰もわからない。そしたらレコーディングの日、監督が見えて、「これはね、アシタカがサンに対する想いを歌った歌なんですよ。米良さんが思ったように歌ってください」とおっしゃってくださって、肩の力がすーっと抜けたんです。」(米良美一)

「短い詩なんですよ。ところが監督は1番しか書けないとおっしゃる。この歌は1番で完結しちゃっているんですね。この詩には美辞麗句もメッセージもないんですが、私の胸の中にすんなり入ってくるんです。詩の中にはこの映画の意味がすべて含まれていました。」(米良美一)

Blog. 「キネマ旬報 臨時増刊 1997年2月3日号 No.1233」 もののけ姫 久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

「米良さんはカウンターテナーの中でも、ちょっと変わった存在だと思うんです。独特の”運命”のようなものを表出しているような声が、この作品には合っていたんじゃないかな。宮崎監督はそういう微妙な差をとても深く理解される人ですから、普通のカウンターテナーだったらOKを出さなかったと思います。実際に米良さんで主題歌を録音してみて、宮崎さんが『このカウンターテナーで行こう』と言った理由がよくわかりました」

~(中略)~

「ところが宮崎監督が『邦楽器は外してください』とおっしゃったので、『全部外しまします』と言って外したフリをしたんだけど、実は外していない(笑)。『♪もののけ達だけ~』という箇所の伴奏では、上の旋律線を南米のケーナという楽器が演奏していますが、その3度下の旋律線を篳篥(ひちりき)が演奏しています。単にケーナで2つ(の旋律線を)重ねたら、音楽的にはノホホンとしてしまうのですが、チャルメラ系の篳篥を重ねると不思議な浮遊感が出てくるんです」

Blog. 「もののけ姫 サウンドトラック」(LP・2020) 新ライナーノーツより より抜粋)

 

最後の部分のメロディーでしょ。あれを考案した段階で「勝った」と思いましたね。「いただき!」という感じです(笑)。結局歌の曲のメロディーをそのまま1コーラス使ってアルバムの中に歩かせると、すごくダサイんですよ。「いかにもテーマ曲ですね」みたいな感じというか。だから、いちばん最後のリフレインのところを使って、インスト・バージョンをもう1個作った。それを映画の旅立ちの場面のところから、順番に要所要所、サン(もののけ姫)と出会うシーンなどにその曲をつけていって、それがだんだんメロディーが伸びてきたら、「もののけ姫」の歌になるという。その設計が自分でも相当気に入ってます。

~(中略)~

インスト・バージョンでメロディーをとっている楽器は、4タイプぐらい録ったんですよ。篳篥、竜笛(りゅうてき)、ケーナ、それからもうひとつなんだったかな。結果的にいちばんクセのないケーナを選んだんですよ。インストゥルメンタルでボーカル曲をやると、本当に陳腐になっちゃう。それをどう避けようかというのがやっぱりあって。

それは、歌と同じぐらい説得力があるインストゥルメンタルがメロディーをとっていないと、相当難しいんです。今回はたまたまケーナだったけど、希望でいうと僕は篳篥で行きたかった。だけど、映像と合わせると音楽が強くなり過ぎてしまったんです。つまりその曲は、サンが乾し肉をかんでアシタカに口移しするシーンつまりラブシーンともとれるシーンに使われているんですね。だから、妙にムードに際立たせられると宮崎さんが恥ずかしいわけですよ(笑)。

~(中略)~

カウンター・テナー米良美一(めら よしかず)さんのボーカルですね。カウンター・テナーというのは、外国ではそんなに珍しくないんですよ。男の人の裏声状態なんですけど。でも日本でこれだけの人はいないですね。

正確に言うと、カウンター・テナーは男性の裏声を使っているためにソプラノの音域には行かなくて、女性のアルトの音域までをカバーするんです。実のところを言うと、アルトというのはやっぱりちょっと暗めになる印象が僕の中にはあって、もしかしてメイン・テーマではどうかな、という不安はあったんですよ。男の人が歌っているという先入観を除いて、純粋に音楽的に大丈夫なのか、暗くならないかという心配が、僕にはあったんです。だけど、やっぱり米良さんは本当にすばらしい歌手で、そういう心配は無用でしたね。

恐らく宮崎さんは、今回の”犬神モロ”というキャラクターの声優に美輪明宏さんを起用したことに象徴されるように、”ひとりの人間の中の二重構造”とか、もっと言ってしまえば、”ひとりの人間の中の善と悪”を意識されていたんではないでしょうか。だから、内容的には、けっして山を切って鉄を作っている人たちを”悪”とも決めてないですよね。要するに、ひとりひとりが矛盾というか、二律背反するものを抱え込みながら、それでも生きていかなければいけないというのが、いちばん深いテーマとしてあったと思うんです。米良さんの声を聴いた時、恐らく宮崎さんは”男性なのに女性の声”というその複雑さにすごく興味を持たれたんじゃないかなという気がするんです。

Blog. 「KB SPECiAL キーボードスペシャル 1997年9月号 No.152」『もののけ姫』久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

 

主題歌「もののけ姫」はイメージアルバムからサウンドトラックへと歌詞の一部が変更になっています。何時間にも及ぶ貴重なドキュメンタリーは必見です。こちらで歌詞の経緯が紹介されています。もっと観たくなる、もっと知りたくなる。

 

 

 

『千と千尋の神隠し』

「あの夏へ」と「ふたたび」が歌曲として生まれ変わっています。

「あの夏へ」については語ることが多すぎて….こちらに完全まとめています。

 

 

 

2008年開催「久石譲 in 武道館」コンサートで「ふたたび」歌曲版が初披露されました。平原綾香による伸びやかな歌声にオーケストラが翼となってどこまでも彼方まで連れていってくれる。世界ツアー版を作品集にした『A Symphonic Celebration』にはブラッシュアップされたものが麻衣さんの歌唱で音源化されています。

2009年平原綾香×久石譲の再タッグで古楽器アンサンブルにリアレンジ、どこか懐かしい牧歌的な雰囲気に。シングル盤c/wでリリースされました。

「ふたたび」歌曲版ができるまでのエピソードは、作詞を担当した鈴木麻実子の著書「鈴木家の箱」で見ることができます。ありありと鮮明に蘇る当時のキャッチボールは感動的です。感想は、尊い。記録に残されたことは、尊い。

 

久石譲 in 武道館 ~宮崎アニメと共に歩んだ25年間~ DVD

 

 

 

 

 

おっと、2曲の印象が強すぎて次にいこうとしてました。

『千と千尋の神隠し』イメージアルバムは、歌4曲・インスト6曲の全10曲というバラエティに富んだ内容です。もちろんこの中から多くのメロディが映画本編で使われています。イメージアルバムの歌曲からサウンドトラックの器楽曲へと変化した曲はどんなものがあるでしょうか。とても楽しいアルバムです。

 

イメージアルバム → サウンドトラック 曲名の変化

  • あの日の川へ → あの夏へ, あの日の川, 帰る家(後半部) ほか
  • 神々さま → 神さま達, 帰る家(前半部)
  • 油屋 → 仕事はつらいぜ
  • さみしい さみしい → カオナシ
  • 白い竜 → 夜来る(前半部モチーフ)

 

久石譲 『千と千尋の神隠し イメージアルバム』

 

久石譲 『千と千尋の神隠し サウンドトラック』

 

 

 

『ハウルの動く城』

今や世界中で演奏されている人気曲「人生のメリーゴーランド」です。すぐにメロディを口ずさみたくなります。実は歌もあります。ほんとです。

2006年、歌手のクミコから宮崎駿監督への依頼で実現しました。作詞:覚和歌子/作曲:久石譲/快諾:宮崎駿で大人のポップスへと生まれ変わっています。2021年には村松崇継のリアレンジでシングル化されています。久石譲編曲でもプロデュースでもない手を離れた歌曲版ですが、宮崎駿監督の公認手形があることとカバー曲とはならない初登場の歌です。

 

エピソードをご紹介します。

 

〈覚和歌子コメント〉より 2006ver.
ジブリ映画とのご縁が続きます。今回は「ハウルの動く城」テーマ曲に詞を付けました。宮崎駿監督からは「映画本編とは全く関係なくていいですから、クミコさんが歌ってリアリティのある内容にしてください。」とのご要望。しかし同時にタイトルは、本編のテーマ曲タイトル「人生のメリーゴーランド」のままでというご指定もあり。それでは、クミコさんの「人生のメリーゴーランド」を作ろうと思いました。

 

〈クミコ コメント〉2021ver.
新録音です。宮崎駿監督の「ハウルの動く城」のテーマ曲ですが、これが流れてきた途端耳が直立してしまいました。何とか唄えないものだろうかと思い悩み、とうとう覚和歌子さんの詞で実現が。新たに詞をつけることをお許しくださった宮崎監督、そして作曲者久石譲さんのあたたかいお心に感謝するばかりです。

 

〈Web うたびと〉より
『人生のメリーゴーランド』は、ジブリ映画『ハウルの動く城』の主題歌。宮崎駿監督がクミコの歌声のファンだったことから、映画のパンフレットにコメントを提供することになり、映画を鑑賞したところ、スクリーンに響く楽曲に大感動。自ら監督に日本語詞をつけて歌わせてほしいと依頼し、快諾のもと実現した一曲だ。

 

 

 

 

久石譲はスタジオジブリ作品の音楽・主題歌そのどちらも担当した作品であれ、メインテーマにもとりわけ重きを置いています。『天空の城ラピュタ』「君をのせて」は当初主題歌を想定して書かれたものではありません。『となりのトトロ』「風のとおり道」は裏テーマと呼んでいたほどです。

『もののけ姫』「アシタカせっ記」については「1ヶ月半くらい悩んで書いた」「この曲の方が本当のメインテーマとしての重みを持っていると僕は思いますね」と久石譲は当時を振り返っています。

主題歌と同じくらいメインテーマや主要テーマ曲に心血を注いでいるからこそ、そのメロディからまた歌曲として生まれ変われるほどの光が宿っているのかもしれませんね。