Blog. 「週刊アスキー 2010年11月16日号」「メロディフォニー」久石譲インタビュー内容

Posted on 2019/06/02

雑誌「週刊アスキー 2010年11月16日号」に掲載された久石譲インタビューです。『Melodyphony メロディフォニー』(2010)を中心に2号連続インタビューになっています。

 

 

無から何かをつくり出しているんだという感動

「100人が真剣にぶつかった音」

ー今作はオーケストラで収録。指揮の際、意識することは?

久石:
「この曲をどうしたいのかを明確に伝えることですね。クラシックを振るときも同じなんですが、指揮者が迷うとオーケストラは100人もいるのでどこを向いていいのかがわからなくなるんです。どれだけ明確に、手短にコンセプトを言葉で、もしくは指揮棒の振り方で伝えるかを絶えず考えてますね。イコールそれは曲について自分できちんとイメージをもっていないといけないってことなんです。」

-その中で大変だからこそ、生み出せるものとは何でしょう。

久石:
「100人の意識が同じ方向に向いたときのパワーは、それは本当にすごいです。電気で機械的に増幅した音とはまるで違う。100人が真剣にぶつかった音なんですよ。それがオケの魅力。会場で聴いてもCDで聴いても100人のエネルギー。それを集結させたときの歓びってすごいんです。ところが裏を返すと全員が育ちも生まれも違う。個性的で、みんな訓練を積んでいるからそれぞれの思いがある。だからこそ迷うことなくディレクションすることが大切なんだと痛感していますね。」

 

「本当の音楽って理屈じゃない」

-ところで多くの作品を生んでいますが制作の原動力とは?

久石:
「音楽が好きだからでしょうね。世界で何よりも好きで、しんどいのが作曲なんです。僕にとっていちばん達成感があって、メタメタに自分が落とされるもので。すべてが名作になるとは限らないけど、なにもないところから何かができる。こんな素晴らしいことないんですよ。”無から何かをつくり出しているんだという感動”それです。」

-その感動が制作の源だと。

久石:
「どこに音楽の神がいるのかはわからないし、たんなる音の羅列なのか、本当に音楽になっているのかもわからない。それにすごい量の作品が日々つくられるけど長い年月でほとんどが消えていく。最後に何十年も経って聴かれる音楽。それが唯一の本当の音楽だというならば、それをいつか自分で1曲でも書けたらという念は常にあります。」

-本当の音楽ですか。

久石:
「”本当の音楽って理屈じゃない、いい部分を絶えずもっているもの”だと思うんです。これは深淵なテーマで、芸術的な側面と大衆性。その両方をもっているものなんだと。今回そして前作、海外で一流の方々と仕事をして、今自分のつくっている音楽が世界の中でどのレベルなのかがわかった。自分の方向性は正しいこれでいいんだと確かめられたんです。それが本当に良かったと思っていますね。」

(週刊アスキー 2010年11月16日号 より)

 

 

今週のプレイリスト
my favorite!

選曲:久石譲

前回の続きでラジオでかけている曲。あの番組ではミニマル・ミュージックだとか、びっくりするくらい自分の趣味でしか選曲していません(笑)。

1曲目
PASCAL ROGE『3つの小品』(アルバム『POULENC PIANO WORKS』収録)
プーランクのアルバムはどれも素晴らしいですから。メロディーメーカーとして最高の方。曲のもっているエスプリ、洒落た感じ、気品。彼の小品は自分がいつか書きたいと思う憧れですね。

2曲目
Donald Fagen『Ruby Baby』(アルバム『The Nightfly』収録)
つぶれたような独特のハーモニー感、音楽性の高さ、あとレコーディングテクニックの高さ。Steely Danもしくは彼のアルバムはレファレンスとして、いつもレコーディングのときにもっていました。それくらい完璧。

3&4曲目
Brahms『交響曲第1番ハ短調op.68』 Mozart『交響曲第40番ト短調K.550』(アルバム『ブラームス:交響曲第1番、モーツァルト:交響曲第40番 久石譲&東京フィルハーモニー交響楽団』収録)
交響曲の1番、これはなんといっても最高です。ブラームスは大学で学んだ原点であるクラシックにもう一度真剣に立ち向かおうと思って取り組みました。今の段階で自分の考えるクラシックを実現できたのがこの2曲。

(週刊アスキー 2010年11月16日号 より)

 

 

2号連続前半

 

 

久石譲 『ミニマリズム』

 

久石譲 『メロディフォニー』

 

 

 

Blog. 「週刊アスキー 2010年11月9日号」「メロディフォニー」久石譲インタビュー内容

Posted on 2019/06/01

雑誌「週刊アスキー 2010年11月9日号」に掲載された久石譲インタビューです。『Melodyphony メロディフォニー』(2010)を中心に2号連続インタビューになっています。

 

 

やっとこれでトータルな自分の音楽が完成した

「音楽的にすべてを表現」

久石:
「つくり終わって大変満足しています。やっとこれでトータルな自分の音楽が完成したなと。なぜかと言うと去年『ミニマリズム』という作家性の強い作品をつくって。その制作中から今回のようなエンタテインメントのメロディー中心の曲をオーケストラで録りたいと思っていたんです。だから2年がかりでひとつのコンセプトが完成したという感じ。自分の持っている内生的な部分と外に向かって人を楽しませたいという部分。その両面をこれで表現できたなと思います。やはりどちらかだけではダメなんですよね。」

-映像ありきの楽曲中心の選曲。サントラと今作の違いは?

久石:
「それはですね、映像の仕事の場合、基本的には監督にインスパイアされて、すごく一所懸命曲を書くわけです。ところがやはり映像の制約というものもある。『このシーンは3分です』だとか。だから映像の中のドラマ性に合わせなくてはいけなくて。映像と音楽合わせて100パーセント、もしくは音楽がちょっと足りないくらいがいいときもある。そこから解放されて音楽自体で表現、音楽だけで100に。つまり本来曲がもっている力を音楽的にすべて表現できる。そこが今作なんです。」

 

「意識下の別の自分と出会う」

-収録曲は”旅”や”新しい世界”的な印象もありますが。

久石:
「音楽を聴くこと自体が、その瞬間日常を離れるんですよね。音楽って楽しいし、いいわけでしょう、ふだんとは違ったレベルの体験ができるというか。意識下の別の自分と出会うような、そういう意味では”旅”なのかもしれないですよね。それに音楽が人間に与える力というのも確かにあるから、それを大事にしたいんですよ。」

-聴いていると思い出や映像が脳裏に浮かんできました。

久石:
「聴くことでいろんなことが思い浮かぶってことですね。それはすごく重要。メッセージを伝えるだけではなく、自分の意識下に触れることでイマジネーションが豊かになるから。それって音楽にとっても大切だし、人間にとっても大事ですよね。」

-「音と向き合え!」と言われているような気もしたんです。

久石:
「ははは(笑)。音を聴かせてしまう部分は確かにあるかもしれないです。どうしても自分の性格で細かくつくり込んでしまうので。心地よいBGMというよりはオーケストラでガツンと世界観はきますよね。聴きやすくしようと思いながらも、鳴っているか鳴ってないかの部分までつくっているし。でもそこもある意味聴きどころなのかもしれませんね。」

※次号に続く

(週刊アスキー 2010年11月9日号 より)

 

 

今週のプレイリスト
my favorite!

選曲:久石譲

今いちばん気に入っている曲。ラジオ番組をやっているのですが、そこでもよくかけている曲ですね。

1曲目
MICHEL CAMILO & TOMATITO『SPAIN』(アルバム「SPAIN」収録)
デュエットアルバムなのですが、これがすばらしい。アルバムを一緒につくろうと話してから6年くらい経つんです。未知数のフラメンコギタリストとの共演をいつか実現させたいと考えていて、そのきっかけになった1枚。

2曲目
ベルリン・フィル12人のチェリストたち『SOUTH AMERICAN GET AWAY』(アルバム「SOUTH AMERICAN GET WAY」収録)
ブラジル風バッハやバンドネオン風のピアソラまで全部入ってます。全曲いいですね。このアルバムを聴いてチェロのアンサンブルがいかにすばらしいかを認識し『The End of the World』という僕の曲に結晶させました。

3曲目
STING『ENGLISHMAN IN NEW YORK』(アルバム「FIELDS OF GOLD-THE BEST OF STING(1984-1994)収録)
彼のアルバムは大概いいですよね。映画音楽のエンドロールに流すとしたら彼以上にいい人はいない! 声を出しただけで人生の哀愁や歓びを出せるのは彼しかいない。それくらい好きなミュージシャンです。

(週刊アスキー 2010年11月9日号 より)

 

 

2号連続後半

 

 

久石譲 『ミニマリズム』

 

久石譲 『メロディフォニー』

 

 

 

Blog. 「キーボード・マガジン 1992年10月号」「Symphonic Best Selection」久石譲インタビュー内容

Posted on 2019/05/31

音楽雑誌「キーボード・マガジン Keyboard Magazine 1992年10月号」に掲載された久石譲インタビューです。

 

 

不特定多数の聴ける音楽が出来ればいいなあと思います

5月に東京芸術劇場で行われた久石譲のコンサートが、ライヴ・アルバムとなって発売された。ソロ活動、映画音楽から、プロデュース活動まで幅広く活動を続けるキーボーディストの彼に、今作について等、いろいろと話を聞いてみた。

 

ーライヴをこういった形でアルバムにするというのは、ライヴを行った段階で決定していたんですか?

久石:
「完全決定ではないんですが、このライヴをやった時には、一応ライヴ盤も作ってみようという発想はあったんです。ただああいうクラシックの形態だと後で手直しがきかないんですよ。ですから、上がったもののクオリティによって出すか出さないかを最終的に決めようというスタンスはとってたんです。ただ、録るということに対する最大限の努力としてアビー・ロード・スタジオのチーフ・エンジニアのマイク・ジャレットを呼んだりとか、サウンドのクオリティが高いものになるよう万全は期したつもりです。」

 

ーもしかしたら、CD化されなかったかもしれないわけですね?

久石:
「そういうふうに言ってて、東芝の人もみんな真っ青になってました。上がりの悪いのは外に出せないというのもあったし、みんな戦々恐々としてましたね。」

 

ー無事作品になったわけですが、率直なところ出来に関してはどのくらい満足されていますか?

久石:
「従来のソロ・アルバムとはまったく違うタイプですから、まったく違うものとして満足しています。中にはミス・タッチもあれば、オケとずれたりとか、いろんな部分があるんですが、その時、お客さんがいてオーケストラがいて僕がいてという独特の熱気、そういうのはスタジオ作品ではちょっと味わえないものがあるんですね。それが出てる部分で僕は凄く満足しています。特に本当にその場でテンポが揺れて気合で行くような時が多いライヴは、その時のエモーショナルな部分っていうのがそのまま演奏に出てくるから、そういう意味で作品がうまく再現されているということです。」

 

ー録音しているのと、していないのでは緊張感が違いますか?

久石:
「出だしは意識しました。(ライヴは2日間なので)チャンスは2回しかありませんから。ところが意識すると優等生の発表会みたいになってしまって、無理をしなくなりますでしょ。だから、途中から意識しなくなりましたね、まあいいやって。」

 

ー今回のアルバムでは宮崎駿さんの作品のためにお書きになった曲がかなり演奏されていますが、久石さんが映画音楽を多く手掛けている理由は、映像に曲を付けるという行為自体に魅力があるからですか。それとも宮崎さんの作品に惹かれる部分が大きいからですか?

久石:
「映画という表現に惹かれていることの方がやはり大きいですね。映画自体が僕は大好きですから。元々インストゥルメンタル・ミュージックをやっているという性格上、映像とは非常に結び付きやすくなる可能性があるんですね。そういう意味でも、映像で表現したいというのが自分の中の半分ぐらいありますよ。もちろん宮崎さんだからというのもありますけど、そういう意味で言うと、大林さんだから、北野たけしさんだからというのもありますから。」

 

ー少女の繊細な心理を描く大林さんと、割と激しいものを描かれるたけしさんの作品用に音楽を使い分けるというのは難しくないですか?

久石:
「難しいよね。たけしさんが本の中で書いているんだよね。”おいら、女を肯定的に捉えたようなあんな「ふたり」みたいな映画は絶対認めない。女は恐いもんなのに、あんな映画撮る人の気持ちがわからない。きっと育ちがいいんだろう。ついでに言うと、ああいう映画をやりながらおいらの映画をやるなんて信じられない”って(笑)。あっ、僕のこと言ってるって、まずいなって思ったんですけどね。確かに正反対ですもんね。彼らからすると理解できないのかもしれないけれど。ただ、大林さんって非常に音楽的な教養が高い人で、僕のメロディ・ラインを欲しがる人なんですよ。映画全体を包みこむような音楽が欲しいという、思考がハリウッド映画の人ですから。かたや、たけしさんっていうのは、非常に尖った人ですから。今回の映画でもはっきり出てるんですが、大林さんの方は非常にメロディ作家で押して、たけしさんとやる時は、元ミニマル・ミュージック作家の顔で作ってます。たけしさんは感情移入の曲を嫌ってらしたし。」

 

ーリスナーには自分のどういった部分を聴いて欲しいと思いますか?

久石:
「基本的にクオリティの高い音楽をやっているから、音楽性を求める人に聴いて欲しいですよね。でももっと大事なのは、そういう音楽性の高い人にしかわからない音楽をやってるつもりはなくて、「あら、きれいなメロディだわ、ちょっとバックに流しながらお風呂に入っちゃおう」みたいなノリでもいいんですよ。それからその人がいろんな音楽を聴いて自分の音楽的レベルが上がると「このレコードこんなこともやってるんだ」というように、なおさら楽しいレコードが自分の理想なんですよ。不特定多数の聴ける音楽ができればいいなあと思います。」

(キーボード・マガジン 1992年10月号より)

 

 

久石譲『Symphonic Best Selection』

 

 

 

Blog. 「月刊ピアノ 2000年4月号」 久石譲インタビュー内容

Posted on 2019/05/30

雑誌「月刊ピアノ 2000年4月号」に掲載された久石譲インタビューです。

 

 

北野(武)さんは、音楽抜きで映画を撮れたらサイコー、と思ってるんじゃないかな。

北野武、宮崎駿監督らの映画音楽の作曲で知られる久石譲は、その仕事をどう捉えているのだろうか。

一昨年から去年にかけて半年間、ピアノに向かうことをやめていたというインタビュー記事を読んだ。それはなぜだったのか。まずそのへんのことから聞いてみたい。

 

ピアノはスポーツだからまずはジムで体力づくり

ー昨年、ピアノを半年間弾かない時期があった、という記事を拝見したんですが?

久石:
「一昨年の秋のツアーを終えてから夏ごろまで、ピアノから遠ざかっていたんですよ。理由は簡単なんです。ツアーで全国10ヶ所くらいを回って、もうピアノはいいや、と思った。技術的にもうこれ以上うまくならないや、というような諦めもふくめて(笑)。一方で、もし続けるなら、いま以上のレベルにいかなければいけないという思いもあって、そのいずれかの決断の時期だったんです。そこで一度、ピアノから離れてみたほうがいい、と。そうこうしているうちに、昨年の秋、イギリスのバラネスク・カルテットとツアーを回ることになった。でも、やっぱりピアノは弾かないで、今度はジムばっかり通ってたんです(笑)。僕のピアノはというか、日本人のピアノの欠点だと思うんですけれど、リズムが弱いんですよ。ところが、彼らは弦楽四重奏でテクノ・ポップをやっちゃうようなバンドだから、圧倒的にリズムがいいんですね。彼らと1ヶ月間ツアーを回ったら、これは負ける、と思った。そこでジム(笑)。僕はピアノを弾くことはスポーツだと思っていたから、まったくスポーツと同じように、筋肉を鍛えて、身体からつくりなおしていったんです」

ーそれで、ツアーのほうはどうでしたか。

久石:
「恐れていたとおり、彼らは素晴らしかったですよ。初日から2、3日めまでは、我々日本チームのほうがいいんですよ。ところが、彼らは日々よくなる。馬力を出してくる。彼らが楽曲を理解して納得して弾いたとき、絶対に日本人はついていけない。僕はそのときに自分はどう対応するかと考えていて、一応、狙ったとおりにはできたんです。体力つけたのは正解でした」

ー狙ったとおりというのは、まずは馬力ですか。

久石:
「そう、まずは馬力でしょう。それから、リズム。ツアーではピアノはほんと打楽器だったんです。ドラムと同じ役割で、ずっとリズムをキープしつづける。16分音符で4分5分弾きつづけるというのは、すごく大変なんです。つっちゃって、つっちゃって。そのつっちゃっているときに、いきなり今度はメロディアスなものを弾かなきゃいけなかったり。チェロのニックは、腕は太いしすごくいい体格をしている。でも、自分たちの楽曲を1曲弾いたときには、もう手がつっちゃって弾けない。想像以上にきついラインナップでした。それについていくには、やっぱり一に体力でしょう」

ーバラネスク・カルテットとは新作アルバム『Shoot the Violist』でも共演なさってますよね。

久石:
「そう、彼らはほんとにすごいミュージシャンなんですよ。音楽するとは、音を出すというのはどういうことか、教わりました」

ーどういうことなんですか。

久石:
「譜面をなぞるような演奏をしていても、絶対に音楽にならないということ、なにも表現できないということが、よくわかった。多くの日本のミュージシャンたちは、このことを忘れてます。バラネスク・カルテットといっしょにやってみて、日本の演奏家と組むのはイヤだな、と正直思いました。自分の書いた曲を聴いて、あっ、こんなふうに自分の音を出してくれたのか、とその演奏家を尊敬したいし、僕自身も感動したいんですよ」

ー日本人にそれを求めるのはむずかしいですか。

久石:
「むずかしい、ほんとにむずかしい。テクニックのうまい人は山ほどいるんです。でも、じゃあ、なぜ自分はこの楽器をやって音楽をやっているのかという意識をちゃんともっている方は少ない。したがって、たぶんこの人と話したら1分で寝ちゃうだろうな、と思うような人が多すぎる(笑)。この人はこうやって生きてきて、それでこういう音が出てくるんだ、と思うと、いっしょにお酒を飲んでいても楽しいし、音楽の話もしたくなるわけです。ヨーヨー・マのインタビューを聞いていても、素晴らしいですもの。まず、人間として素晴らしい。海外では、14、5歳でジュリアード(音楽院)を卒業したなんていう人がけっこういます。彼らが偉いなと思うのは、そのあと一般の大学に入りなおして、哲学だったり美学だったり、人によっては経済だったり学んでいるんです。要するに、音楽しか知らないような狭い視野では人間としてダメだと、もっと広い知性をつけたり、もっと人間をみがかなくてはと。そうじゃないとダメなんですよ、ほんとは」

 

映画音楽に、映画を超えた壮大な広がりがあるのだろうか

ー映画音楽の作曲はどのようにして?

久石:
「映画というのは、基本的に監督のものなんです。僕はスタッフとして、自分はこう思うけれど、監督ならどうだろうというところで、決断をします」

ーすると、監督と意見がぶつかることはない?

久石:
「ないですよ。僕の場合、映画音楽では、わりと引いたところでしか仕事のスタンスをとってこなかったから。僕は、映画のなかの音楽に壮大な宇宙があるかというと、あんまりないような気がするんです。それはその監督の世界だから。だって『七人の侍』を見て、音楽が素晴らしかったとはいわないでしょう。音楽はやっぱりバックグラウンド。もちろん、そこに自分の世界を確立しなくちゃいけないし、少しはもっているつもりでいるけれど、そのこちらの世界で、たとえば今回の『Shoot the Violist』の音で、北野さんの映画を全部やろうとは思いませんよね。監督のいうことを全部聞いたうえで、それでも自分の世界が出るように、という努力の仕方なんです」

ー北野監督はどんなことをいってきますか。

久石:
「北野さんはね、さあ、映像を撮ったぞと、ポーンと僕のほうに預けて、さあ、音楽つけてみやがれ、っていうかんじですね、いつも。生易しいものじゃない。できたら音楽抜きで映画を撮れたら最高だな、と思ってると思いますよ。志ある監督はみんなそうです。また今回も(音楽に)助けられちゃったなあ、ってたまにいいますからね。それはお互いさまで、「Kids Return」にしても「HANA-BI」にしても、核になっている部分は、北野さんのアイディア。北野さんの映像に出会わなければ、ああいうメロディーは書かなかったわけですから、半分は北野さんの作曲だと思ってますよ」

ー今年のはじめに映画音楽家の佐藤勝さんが亡くなりましたね。

久石:
「佐藤さんは一生、映画音楽家でしたよね。僕のお師匠さんなんです。若いころは、佐藤先生の作品を何度も手伝いましたし」

ーそうだったんですか。佐藤さんは、黒澤明監督の遺稿を映画化した『雨あがる』の音楽を手がけて、自分のもっているものを全部出しちゃった、とおっしゃったそうですが、そんなふうに全部出しちゃったと思えることってあるんですか。

久石:
「ありますね。滅多にないけれど、ありますね」

ー『Shoot the Violist』はどうですか。

久石:
「ありましたね。それまで、どちらかというと、あくまで仕事としてソロアルバムをこなしていたところがあるんですよ。はい、北野さんの映画終わった、ソロアルバムの締め切りはここ、はい、次の映画……みたいな調子で。ところが、この『Shoot the Violist』については、さあ、次になにをやろうかじゃなくて、このアルバムのなかにしか次にいく解答はない、というかんじがしています」

ー最後に、お話が戻りますけれど、いまこうしてまたピアノを弾いてらっしゃるということは、もっと上にいこうと思われたわけですね?

久石:
「いきたい、と思いましたよね。自分のスタイルをつくらなければいけない時期って、どこかでくるから。あのツアーを、レコーディングをこなしてみて、はじめて見えたところはあります。ピアノをやめることはないなと、いまは確信しています」

(月刊ピアノ 2000年4月号より)

 

 

久石譲 『Shot The Violist〜ヴィオリストを撃て〜』

Disc. 久石譲 『Shoot The Violist ~ヴィオリストを撃て~』

 

 

 

Info. 2019/06/05 映画『海獣の子供 オリジナル・サウンドトラック』 CD発売決定!! 【5/29 Update!!】

久石譲が全編書き下ろした音楽を収録した、映画『海獣の子供』オリジナル・サウンドトラックの発売が決定しました。スタジオジブリ制作の『風立ちぬ』、『かぐや姫の物語』以来となる、長編アニメーション映画音楽。映画を鮮やかに、そして深海の様に神秘な音で彩る。 “Info. 2019/06/05 映画『海獣の子供 オリジナル・サウンドトラック』 CD発売決定!! 【5/29 Update!!】” の続きを読む

Info. 2019/07/10 「スタジオジブリ 7インチ BOX」発売決定 【5/14 Update!!】

Posted on 2019/04/25

誰もが知っているスタジオジブリの名曲の7インチアナログ盤が完全復刻

映画公開から35年になる『風の谷のナウシカ』をはじめ、『天空の城ラピュタ』『となりのトトロ』の主題歌は、今もなお多くの人に愛され、音楽の教科書にも取り上げられていることでも知られる。 映画公開当時、それぞれ7インチレコードとしてリリースされており、オリジナル盤は今や中古市場でも人気のタイトルとなっていて、海外からも注目されている。

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Info. 2019/05/09 「音楽家久石さん 仙台フィル楽団 宮野森小でコンサート」(石巻日日新聞より)

音楽家久石さん 仙台フィル楽団 宮野森小でコンサート

指揮とピアノにうっとり

世界的作曲家で映画音楽界の巨匠・久石譲さんと仙台フィルハーモニー管弦楽団のアウトリーチコンサートが4月28日、東松島市立宮野森小学校の体育館で開かれた。オーケストラ楽器体験をはじめ、矢本第一、二中学校吹奏楽部の合同演奏もあり、多くの市民がクラシック音楽に触れた。 “Info. 2019/05/09 「音楽家久石さん 仙台フィル楽団 宮野森小でコンサート」(石巻日日新聞より)” の続きを読む

Info. 2019/05/07 《速報》「久石譲 シンフォニック・コンサート スタジオジブリ宮崎駿作品演奏会」(プラハ) プログラム 【5/9 Update!!】

Posted on 2019/05/07

2019年5月5,6日、久石譲によるスタジオジブリ宮崎駿監督作品演奏会がチェコ・プラハにて開催されました。

2017年6月パリ世界初演、「久石譲 in パリ -「風の谷のナウシカ」から「風立ちぬ」まで 宮崎駿監督作品演奏会-」(NHK BS)TV放送されたことでも話題になりました。 “Info. 2019/05/07 《速報》「久石譲 シンフォニック・コンサート スタジオジブリ宮崎駿作品演奏会」(プラハ) プログラム 【5/9 Update!!】” の続きを読む

Disc. 久石譲 『Diary』 *Unreleased

2019年5月5日 TV放送

 

曲名:Diary
作曲:久石譲
演奏:読売日本交響楽団

 

日本テレビ系TV番組「皇室日記」(毎週日曜日、朝6:00-6:15)新テーマ曲として書き下ろされた楽曲。2019年5月1日、時代は平成から令和へ。

いくつかのBGMが使われる番組ではあるが、久石譲が手がけたのは新テーマ曲の1曲。番組オープニングやエンディングを主に内容にあわせて使用されている。

 

先がけて3月10日放送回にて、新テーマ曲について久石譲インタビューやレコーディング風景をまじえて紹介された。録音は2月川崎市にて。またフルバージョン(約3分)もオンエアされた。ナレーションもなく回想映像音もない、録音映像と皇室映像をまじえたPVのように、その音楽だけがきれいに聴けた貴重な回となっている。

 

 

久石譲 談

「『皇室日記』という番組でもあることもあってできるだけひと言で言ってしまえば堂々とした曲。天皇の代も替わるしいろんな意味で新しい時代が来ると。新しい時代の風みたいなそういうような感じに仕上がるといいなとは思いましたね。」

「大っきいこう大河が流れてくような楽曲にしたい。そうするとメロディーが高いほうできらびやかにするよりは、こうお腹の底からと言いますかね、割と低いほうからガツっと音楽を支えたほうがいい。それでやはりヴィオラが何かね、あの音域のメロディっていうのはとても自分にとっては今回合うなと思いまして。」

「皇太子さまがヴィオラ弾かれてるっていうのは何となく風のうわさでは聞いてましたけども、意図したわけではないんですがいい具合に一致したのはとてもありがたいです。」

(3月10日放送回より 書き起こし)

 

 

 

久石譲による言葉がこの楽曲の特徴を語ってくれている。高い品格をまとった曲で、ヴィオラの音域が堂々とかまえ悠々と流れる大河のように旋律を奏でる。それはヴァイオリンなどが高らかに歌うのとは違う、同じ高さ(目線)で語りかけてくれるようでもある。テーマを1回奏した次の中間部では、ソリッドな手法でひとつのモチーフが弦楽・管楽と交錯する。まるで幾重にも織り編まれる時間を刻んでいるようで、まるで幾重にも交わる人のつながりが果てしないように、綴られていく日記。その後2回目のテーマが奏され、1回目よりも弦楽による刻みや低音のリズムがしっかり強調される、力強く前向きに。だがしかし、ドラマティックになりすぎない展開は劇的さを望まず、最後にチューブラーベルの鐘の音がくっきりと響きわたる。

 

未CD化楽曲。これから先、読売日本交響楽団との共演コンサートなどで初演を迎えてほしい。

 

 

 

2019.8.14 追記

2019年8月1日「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2019」にて世界初演された組曲「World Dreams」の第3曲として組み込まれた。

 

組曲「World Dreams」 
1.World Dreams
2.Driving to Future
3.Diary

 

実は「World Dreams」を組曲にしたいという構想はこれまでもありましたが、今年テレビ番組(「皇室日記」)からオファーを受けて「Diary」を書いた時に「World Dreams」の世界観と通じるものがあると感じ組曲にしました。

(久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2019 コンサート・パンフレットより 抜粋)

 

第3曲「Diary」はTV番組『皇室日記』の新テーマ曲として2019年5月から使用されている楽曲。TV版は約3分の楽曲として一度だけO.A.されたことがありますが、それとは異なる組曲用の再構成、大幅にドラマティックに加筆されていました。第1曲のキメのフレーズが再循環で登場したりと、組曲を統一するにふさわしい壮大なオーケストレーション。

Blog. 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2019」コンサート・レポート より抜粋)

 

 

2020.08.19 追記

「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2019」コンサートライヴ盤がCD発売された。