Blog. 「久石譲指揮 日本センチュリー交響楽団 第290回 定期演奏会」コンサート・レポート 【6/18 update】

Posted on 2025/06/15

2025年6月13日、「久石譲指揮 日本センチュリー交響楽団 第290回 定期演奏会」が開催されました。久石譲は2021年に日本センチュリー交響楽団の首席客演指揮者に就任して以来数多くの定期演奏会・特別演奏会を精力的に行ってきました。そして2025年4月日本センチュリー交響楽団音楽監督に就任しました。その記念すべき1年目のシーズン、満を持しての定期演奏会登場です。

 

 

日本センチュリー交響楽団 定期演奏会 #290

[公演期間]  
2025/06/13

[公演回数]
1公演
大阪・ザ・シンフォニーホール

[編成]
指揮:久石譲
管弦楽:日本センチュリー交響楽団

[曲目]
ベートーヴェン:交響曲 第6番 へ長調 作品68 「田園」

—-intermission—-

久石譲:交響曲 第2番

—-encore—-
ドヴォルザーク:スラブ舞曲 第8番 ト短調 作品46-8

[参考作品]

久石譲 ベートーヴェン 交響曲全集 JOE HISAISHI IN VIENNA

 

 

前日には同内容公演が茨木市文化・子育て複合施設 おにクル ゴウダホールにて開催されました。2025年2月に追加公演で発表されたものです。「2025-26シーズン 日本センチュリー交響楽団 北摂定期演奏会」として今後も北摂地域(茨木市、高槻市、箕面市)全3カ所で定期演奏会に合わせて開催予定になっています。

 

 

2025.06.18 update
公式写真4枚を追加しました。
from 日本センチュリー交響楽団公式SNS

 

 

まずは会場で配られたプログラム冊子からご紹介します。

 

 

MESSAGE

皆さんこんにちは、久石譲です。

このたび、2025年4月に日本センチュリー交響楽団の音楽監督に就任することになりました。日本センチュリー交響楽団とは10年以上前から共演し、2021年からは首席客演指揮者を務めてきました。

一度はオーケストラともっと深く関わる仕事をしたいと思っていたので、今回このようなポジションを頂くことはとても嬉しく、光栄です。

就任最初のシーズンである2025-2026年の定期演奏会はすべて、ベートーヴェンの交響曲と現代の音楽を組み合わせるプログラムにしました。親子で楽しめるコンサートや小編成アンサンブルで最先端の現代の音楽を聴いてもらえるコンサートも企画します。

このオーケストラとともに、過去から未来につながるクラシック音楽の在り方を追求していく。そして、たくさんのお客様に喜んでもらい、応援してもらえるオーケストラになるよう努めます。

楽しみにしていてください。

(日本センチュリー交響楽団イヤーブック2025-2026 より)

 

 

 

Program Notes

久石譲:交響曲 第2番

Symphony No.2は2020年4月から夏にかけて作曲し、翌年2021年3月から6月にかけて3管編成のオーケストレーションを施し、その年の夏に行ったワールド・ドリーム・オーケストラ(W.D.O.)ツアーで初演した。

本来なら2020年にストラスブールとパリで初演し、その後世界各地で演奏する予定だったが、COVID-19により延期を余儀なくされたためにこのようになった。その後、ストラスブールとパリは2022年5月、そして6月にはバンクーバー、トロントなどで演奏し、現在世界各地で演奏している。

当初は全4楽章を想定していたが、3楽章で完結していることがわかり、またパンデミックの時だからこそ重くないものを書きたかった。つまり純粋に音の運動性を追求する楽曲を目指した。その結果36分くらいの作品になった。

Mov.1 What the world is now?
チェロから始まるフレーズが全体の単一モチーフであり、それのヴァリエーションによって構成した。またリズムの変化が音楽の表情を変える大きな要素でもある。

Mov.2 Variation 14
元々シンフォニーの2楽章として作曲したが、2020年は大きな編成の楽曲がソーシャルディスタンス確保のため演奏できないので「Variation 14」として僕自身が主催しているMusic Future(MF)Vol.7(2020)においてラージ・アンサンブルで演奏した。MFはミニマル系のコンテンポラリー・ミュージックを演奏するコンサート・シリーズである。曲はテーマと14のヴァリエーション、それとコーダでできている。とてもリズミックな楽曲に仕上がった。ネット配信で観た海外の音楽関係者からも好評を得た。

Mov.3 Nursery rhyme
日本のわらべ歌をもとにミニマル的アプローチでどこまでシンフォニックになるかの実験作である。途中から変拍子のアップテンポになるがここもわらべ歌のヴァリエーションでできている。より日本的であることがむしろグローバルである!そんなことを意識して作曲した。約15分かかる大掛かりな曲になった。

(久石譲)

(「日本センチュリー交響楽団 第276回定期演奏会 第290回,第291回 2025年6,7月プログラム冊子」より)

 

 

 

ここからはレビューになります。

 

 

5月「大阪4オケ2025」でのお披露目も経て(プログラム:「久石譲:Adagio for 2 Harps and Strings」「ストラヴィンスキー:火の鳥(1945年版)」)いよいよ音楽監督就任記念となる今シーズン初の定期演奏会です。

ホール入り口に設置された久石譲サイン入りのコンサートポスター掲示は、ちょっとした写真スポットとしておなじみになっています。若い人から海外のお客様までワクワクな期待と笑顔に頬があがっています。そしてこちらもおなじみになっている満員御礼です。

久石譲は年間シーズンプログラムのコンセプトとして「ベートーヴェン交響曲と現代の作品」を掲げています。久石譲指揮ではベートーヴェン交響曲から第6番・第1番・第3番をプログラムしています。

 

 

ベートーヴェン:交響曲 第6番 へ長調 作品68 「田園」

よく知られている作品だけに、観客それぞれにイメージがある第6番、これこそ田園だという演奏もあるだろう作品です。久石譲のアプローチは、弦14型2管編成で古典時代からあった対向配置をもとにバロックティンパニの小気味よさも活かしながら、あくまでも作曲家視点から作品を浮き立たせる。そしてプログラム全作品をとおして同じように現代的なアプローチでオーケストラと臨む、そんな意欲的な演奏が特徴です。

ここは個人の感想を書く場所でもあるので、ちょっと主観的にストレートに書くところもあります。いわゆる画面下隅に「※個人の感想です」テロップがあると思って見てください。

第1楽章から僕の雲行きが怪しい。木管のいくつかのパートが明らかに音楽にブレーキをかけてしまっている印象。周りのテンポ感とそこだけが分離していて違和感が響いてくる。第1楽章も第2楽章も弦楽パートと木管パートがフレーズをかけ合ったりが多いです。弦楽や全体が軽快に刻みながら進んでいるのに、そのいくつかの木管パートがかけ合いで主旋律に出てくるたびにそこでブレーキがかかって0コンマ何秒のはっきりと体感できるテンポダウンする。そして僕の気持ちもトーンダウンする。音楽を進めている推進力を削いでしまっていると感じてストレスのたまる「田園」でした。どうも意図的にとは感じとれなかった。

そのぶん第3楽章は弦楽セクション中心にキビキビとザクザクと勢いよく進むパートもあって、そこは水を得た魚のように活き活きとした響きでした。

そうは言っても全体的には「快速な田園」という感想も多かったです。僕には第1,2楽章の印象もあって…やあやあごにょごにょ…、印象も感想もいろいろです。まだまだアプローチや解釈のせめぎ合いだったんでしょうか。これから久石譲×日本センチュリー交響楽団がどう溶け合っていくのか、どんな化学反応を起こしていくのか、とても楽しみです。

 

 

 

久石譲:交響曲 第2番

堂々久石譲交響曲の第2番です。日本では「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2021」での世界初演以来となる2度目です。どうしてこんなことになってるの、とても悲しい、もっと聴きたい!プログラムされるやテンション爆上がりな作品です。

前半部の「田園」を聴いてからの休憩時間、これ第2番どうなっちゃうのかなと勝手な不安よぎっていました。杞憂でした。素晴らしい演奏でした!!WDO2021、パリ公演配信、グラモフォン録音アルバムなども経てきたなか、かなりベストに近い満足感を得ることができました。もちろん難しすぎる作品なので精度を突き詰めれば違った見方もできるのかもしれません。それでも全体を支配する強靭なまとまり、勢い、重厚なアタック、ハイライトの爆発力、これを聴いてしまったらCDは物足りなくなる。間違っても復習~復習~とルンルンでコンサート後にアルバムを聴き返さないほうがいい、損をする。今日の演奏の余韻を音源でかき消さないほうがゼッタイ良かったと。前半部よりも少し大きい弦14型3管編成です。第2楽章のリズミックで楽しいところや、第3楽章のどこか懐かしいわらべ歌の心地よさと巨大に膨れ上がっていくさまは、今日のこの演奏が記憶に残らないはずはない、そんな満足感でいっぱいです。

耳ではっきりわかるほどの改訂はなかったように思います。グラモフォンアルバムでは見つけることができなかったフレーズに気づいたり、隠れていた楽器の音がライブらしい音像で明瞭に聴こえてきたり。だから楽しい。日本でももっと聴きたい!

 

生演奏に遭遇する2度目ということもあり、やっとしっかり確認できたこともあって以下お詫びして修正いたします。(ほかにも間違ってるとこあるぞのツッコミはうすうす承知…)

 

Mov.3  Nursery rhyme

”ミニマル的アプローチでどこまでシンフォニックになるかの実験作である”、久石譲の楽曲解説からです。ここからはテーマ(メロディ)だけに注目して楽章冒頭を紐解いていきます。コントラバス第1群がD音から13小節のテーマを奏します。2巡目以降は12小節のテーマになります。本来は1コーラス=12小節のテーマでできていて、1巡目に1小節分だけ頭に加えているかたちです。「レーレレ/レーレミ、レーレーレー」(13小節版)、「レーレミ、レーレーレー」(12小節版)というように。なぜ、こうしているのかというと、かえるの歌の輪唱とは違うからです。かえるの歌はメロディ1小節ごとに、次の歌い出しが加わっていきますよね。なので、ズレて始まって、そのままズレズレて終わっていきます。

コントラバス第1群が2巡目に入るとき、同じ歌い出しの頭から、チェロ第1群コントラバス第2群がA音から13小節のテーマを奏します。同じく2巡目以降は12小節のテーマになります。この手法によってズレていくんです、すごい!12小節のテーマだけなら、同じ歌い出しの頭から次が加わっていくと、メロディをハモるように重なりあってズレることはありません。でも、なんらかの意図と理由で、歌い出しの頭を統一しながらもズラしたい。だからすべて1巡目だけ13小節で、2巡目以降は12小節なんだと思います、すごい!テーマは低音域から高音域へとループしたまま引き継がれていきます。つづけて、チェロ第2群チェロはE音から、ヴィオラはC音から、第2ヴァイオリンはG音から、第1ヴァイオリン第1群はB音から、最後に第1ヴァイオリン第2群はD音からと、壮大な太陽系を描くように紡いでいきます。そして全7巡回したころには、壮大なズレによる重厚なうねりを生みだしていることになります。対向配置なので、きれいにコントラバスから第1ヴァイオリンまで時計回りに一周する音響になることにも注目したい。さらに言うと、コントラバス第1群のD音に始まり、最終の第1ヴァイオリン第2群もD音で巡ってくるわけですが、このとき響きが短調ではないと思います。メロディの一音が替わっているからです。あれ? なんで同じD音からなのにヴァイオリンのときは抜けた広がりがあるんだろう、暗いイメージがない。ここからくるようです。

Blog. 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2021」コンサート・レポート より一部抜粋)

 

 

 

 

—-encore—-

ドヴォルザーク:スラブ舞曲 第8番 ト短調 作品46-8

久石譲指揮の舞曲といえばこれこれ、こんな演奏になるよね。とても快速&躍動的に勢い一気に駆け抜けます。思えばスラブはロシアやウクライナなども含まれる民族や地域です。振り返ると、本公演のプログラムは土着的だったり民族的な着想をもった作品で貫かれています。その土地の大切さやその土地で暮らす人々の大切さ、それぞれの人が持ってる壊してはいけない原風景や心象風景、遺していきたい大切なもの。

 

 

本演終了後とアンコール・カーテンコールには「ブラボー!」も幾度となく飛び交っていました。だけど、僕は気になった、団員たちが活き活きと見えない。演奏中もたんたんとしている姿で、難しいスコアに挑む姿勢や食らいつこうとする前のめり感をあまり感じとることができなかった。カーテンコールになっても、やりきった感のシルエットや表情をオーケストラとして見ることは出来なかったと思う。観客の拍手喝采に応える一瞬の笑顔も見れない。あれ、演奏してるほうはそんな演奏でもなかった感じ??ってなったら悲しい。

もったいない、せっかくいい演奏会だったのに。たまたま自分がそう見えただけならそれでいいし、そうであってほしいかな。見せることも大切だと思います。やっぱりオーケストラも楽しさ・難しさ・真剣さを体で伝えてくれたらうれしいです。それを見て聴いたらもっと素晴らしい観客体験ができます。その演奏会の一期一会や感動はたった一瞬見せてくれた表情やしぐさだけで時として一生モノにもなります。関西オケの一つに収まることなく世界と勝負する日本センチュリー交響楽団であってほしいなと思います。

次回も全力で楽しみにしています。

 

 

今シーズンの日本センチュリー交響楽団ラインナップと今後の久石譲登場回です。

 

 

 

リハーサル風景

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https://www.facebook.com/JapanCentury

 

茨木公演ゲネプロ

from 日本センチュリー交響楽団公式 X(Twitter) / Facebook

 

リハーサル風景動画あり

from 久石譲本人公式インスタグラム

 

公演風景(茨木公演)

from 日本センチュリー交響楽団公式 X(Twitter) / Facebook

 

 

ゲネプロ

from 日本センチュリー交響楽団公式 X(Twitter) / Facebook

 

公演風景

from 日本センチュリー交響楽団公式 X(Twitter) / Facebook

 

from 日本センチュリー交響楽団公式Facebook

 

 

from SNS

 

 

 

Blog. 歌かインストか ~鶏か卵か~ スタジオジブリ編 2

Posted on 2025/06/12

久石譲は稀代のメロディメーカーである。ここは手短に先に進んでいいですよね。これまでにたくさんの名曲を生み出してきました。さて、今一瞬思い浮かべた名曲は歌ものですか?それともインスト曲ですか?

「鶏が先か、卵が先か」”Which came first: the chicken or the egg?” テーマは明解!いろいろな説明をすっ飛ばしても大丈夫、さっそくいってみましょう。

 

 

スタジオジブリ編 2

『もののけ姫』

もののけ姫といえば主題歌「もののけ姫」、もののけ姫といえば「アシタカせっ記」、もののけ姫といえば「アシタカとサン」と屈指の名曲は堂々神々しい。ここでは物語のクライマックスで流れる「アシタカとサン」の器楽曲から歌曲への変遷をみてみましょう。

宮崎駿監督をして「すべて破壊されたものが最後に再生していく時、画だけで全部表現出来るか心配だったけど、この音楽が相乗的にシンクロしたおかげで、言いたいことが全部表現できた」と言わしめ、久石譲もその言葉が強く印象に残っているというエバーグリーンな曲です。

2008年開催「久石譲 in 武道館」コンサートで歌曲版が初披露されました。本編・アンコールと進んで一番最後に演奏されたこの曲は、1コーラスを久石譲によるピアノで、続けて1コーラスを合唱とオーケストラという流れになっています。『The Best of Cinema Music』のライヴ音源でも聴くことができます。また2021年の交響組曲版はソプラノによって歌われています。ジブリフィルムコンサート世界ツアー版では英語で歌われている「Ashitaka and San」そのメロディと想いは世界中に響いています。作詞は麻衣さんが担当しています。

 

 

久石譲 『もののけ姫 サウンドトラック』

 

久石譲 in 武道館 ~宮崎アニメと共に歩んだ25年間~ DVD

 

久石譲 『THE BEST OF CINEMA MUSIC』

 

 

 

イメージアルバムからの一曲がありました。「失われた民」の日本音階なメロディは、映画本編タタラ場で歌われる「タタラ踏む女達 ~エボシ タタラうた~」になっています。作詞は宮崎駿監督です。

 

久石譲 『もののけ姫 イメージアルバム』

 

 

せっかくだから主題歌「もののけ姫」のエピソードもみてみましょう。

 

「毎回、イメージアルバムを作る時に、作曲の手がかりになるような言葉を宮崎さんから頂くんです。その中の一つに、あの曲の詩のような言葉があったんです。宮崎さん本人は、きっと詩のつもりで書かれたわけではないと思うんですが、僕がこれは曲になるんじゃないかと思って、”歌”として仕上げたものです」

Blog. 久石譲 「もののけ姫」インタビュー 劇場用パンフレットより より抜粋)

 

「タタリ神、犬神モロ、シシ神の森……などでした。さすがに宮崎さんもこれだけではマズイと思ったんでしょうね、言葉に対して自分の思いや説明を長く書いてくれたんです。その中に「もののけ姫」というタイトルでポエムのような言葉が綴られたものがありました。それを見たとき、これは歌になるなと思ったんです。タイトル曲にならなくても、イメージ・アルバムならあってもいいんじゃないかという軽い気持ちで「もののけ姫」という曲を書いたんです。」

Blog. 「キーボード・マガジン Keyboard magazine 1997年9月号」久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

「監督も忙しいですし、私も日本にいなかったんです。レコーディングのとき、私はいろいろと悩んでいたんです。どういう気持ちで歌っていいか判らない。私一人の個性を表現することはたやすいことですが、主題曲は映画のなかの一つの部品ですから、強すぎる個性ではいい映画もだめにしてしまうんです。逆に空気のようにただあるという存在では、私がいやなのです。これは誰の気持ちで、どういう立場で歌ったらいいのかと悩んでいたんです。前日のテストのときも悩みながら歌っていて、でも誰もわからない。そしたらレコーディングの日、監督が見えて、「これはね、アシタカがサンに対する想いを歌った歌なんですよ。米良さんが思ったように歌ってください」とおっしゃってくださって、肩の力がすーっと抜けたんです。」(米良美一)

「短い詩なんですよ。ところが監督は1番しか書けないとおっしゃる。この歌は1番で完結しちゃっているんですね。この詩には美辞麗句もメッセージもないんですが、私の胸の中にすんなり入ってくるんです。詩の中にはこの映画の意味がすべて含まれていました。」(米良美一)

Blog. 「キネマ旬報 臨時増刊 1997年2月3日号 No.1233」 もののけ姫 久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

「米良さんはカウンターテナーの中でも、ちょっと変わった存在だと思うんです。独特の”運命”のようなものを表出しているような声が、この作品には合っていたんじゃないかな。宮崎監督はそういう微妙な差をとても深く理解される人ですから、普通のカウンターテナーだったらOKを出さなかったと思います。実際に米良さんで主題歌を録音してみて、宮崎さんが『このカウンターテナーで行こう』と言った理由がよくわかりました」

~(中略)~

「ところが宮崎監督が『邦楽器は外してください』とおっしゃったので、『全部外しまします』と言って外したフリをしたんだけど、実は外していない(笑)。『♪もののけ達だけ~』という箇所の伴奏では、上の旋律線を南米のケーナという楽器が演奏していますが、その3度下の旋律線を篳篥(ひちりき)が演奏しています。単にケーナで2つ(の旋律線を)重ねたら、音楽的にはノホホンとしてしまうのですが、チャルメラ系の篳篥を重ねると不思議な浮遊感が出てくるんです」

Blog. 「もののけ姫 サウンドトラック」(LP・2020) 新ライナーノーツより より抜粋)

 

最後の部分のメロディーでしょ。あれを考案した段階で「勝った」と思いましたね。「いただき!」という感じです(笑)。結局歌の曲のメロディーをそのまま1コーラス使ってアルバムの中に歩かせると、すごくダサイんですよ。「いかにもテーマ曲ですね」みたいな感じというか。だから、いちばん最後のリフレインのところを使って、インスト・バージョンをもう1個作った。それを映画の旅立ちの場面のところから、順番に要所要所、サン(もののけ姫)と出会うシーンなどにその曲をつけていって、それがだんだんメロディーが伸びてきたら、「もののけ姫」の歌になるという。その設計が自分でも相当気に入ってます。

~(中略)~

インスト・バージョンでメロディーをとっている楽器は、4タイプぐらい録ったんですよ。篳篥、竜笛(りゅうてき)、ケーナ、それからもうひとつなんだったかな。結果的にいちばんクセのないケーナを選んだんですよ。インストゥルメンタルでボーカル曲をやると、本当に陳腐になっちゃう。それをどう避けようかというのがやっぱりあって。

それは、歌と同じぐらい説得力があるインストゥルメンタルがメロディーをとっていないと、相当難しいんです。今回はたまたまケーナだったけど、希望でいうと僕は篳篥で行きたかった。だけど、映像と合わせると音楽が強くなり過ぎてしまったんです。つまりその曲は、サンが乾し肉をかんでアシタカに口移しするシーンつまりラブシーンともとれるシーンに使われているんですね。だから、妙にムードに際立たせられると宮崎さんが恥ずかしいわけですよ(笑)。

~(中略)~

カウンター・テナー米良美一(めら よしかず)さんのボーカルですね。カウンター・テナーというのは、外国ではそんなに珍しくないんですよ。男の人の裏声状態なんですけど。でも日本でこれだけの人はいないですね。

正確に言うと、カウンター・テナーは男性の裏声を使っているためにソプラノの音域には行かなくて、女性のアルトの音域までをカバーするんです。実のところを言うと、アルトというのはやっぱりちょっと暗めになる印象が僕の中にはあって、もしかしてメイン・テーマではどうかな、という不安はあったんですよ。男の人が歌っているという先入観を除いて、純粋に音楽的に大丈夫なのか、暗くならないかという心配が、僕にはあったんです。だけど、やっぱり米良さんは本当にすばらしい歌手で、そういう心配は無用でしたね。

恐らく宮崎さんは、今回の”犬神モロ”というキャラクターの声優に美輪明宏さんを起用したことに象徴されるように、”ひとりの人間の中の二重構造”とか、もっと言ってしまえば、”ひとりの人間の中の善と悪”を意識されていたんではないでしょうか。だから、内容的には、けっして山を切って鉄を作っている人たちを”悪”とも決めてないですよね。要するに、ひとりひとりが矛盾というか、二律背反するものを抱え込みながら、それでも生きていかなければいけないというのが、いちばん深いテーマとしてあったと思うんです。米良さんの声を聴いた時、恐らく宮崎さんは”男性なのに女性の声”というその複雑さにすごく興味を持たれたんじゃないかなという気がするんです。

Blog. 「KB SPECiAL キーボードスペシャル 1997年9月号 No.152」『もののけ姫』久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

 

主題歌「もののけ姫」はイメージアルバムからサウンドトラックへと歌詞の一部が変更になっています。何時間にも及ぶ貴重なドキュメンタリーは必見です。こちらで歌詞の経緯が紹介されています。もっと観たくなる、もっと知りたくなる。

 

 

 

『千と千尋の神隠し』

「あの夏へ」と「ふたたび」が歌曲として生まれ変わっています。

「あの夏へ」については語ることが多すぎて….こちらに完全まとめています。

 

 

 

2008年開催「久石譲 in 武道館」コンサートで「ふたたび」歌曲版が初披露されました。平原綾香による伸びやかな歌声にオーケストラが翼となってどこまでも彼方まで連れていってくれる。世界ツアー版を作品集にした『A Symphonic Celebration』にはブラッシュアップされたものが麻衣さんの歌唱で音源化されています。

2009年平原綾香×久石譲の再タッグで古楽器アンサンブルにリアレンジ、どこか懐かしい牧歌的な雰囲気に。シングル盤c/wでリリースされました。

「ふたたび」歌曲版ができるまでのエピソードは、作詞を担当した鈴木麻実子の著書「鈴木家の箱」で見ることができます。ありありと鮮明に蘇る当時のキャッチボールは感動的です。感想は、尊い。記録に残されたことは、尊い。

 

久石譲 in 武道館 ~宮崎アニメと共に歩んだ25年間~ DVD

 

 

 

 

 

おっと、2曲の印象が強すぎて次にいこうとしてました。

『千と千尋の神隠し』イメージアルバムは、歌4曲・インスト6曲の全10曲というバラエティに富んだ内容です。もちろんこの中から多くのメロディが映画本編で使われています。イメージアルバムの歌曲からサウンドトラックの器楽曲へと変化した曲はどんなものがあるでしょうか。とても楽しいアルバムです。

 

イメージアルバム → サウンドトラック 曲名の変化

  • あの日の川へ → あの夏へ, あの日の川, 帰る家(後半部) ほか
  • 神々さま → 神さま達, 帰る家(前半部)
  • 油屋 → 仕事はつらいぜ
  • さみしい さみしい → カオナシ
  • 白い竜 → 夜来る(前半部モチーフ)

 

久石譲 『千と千尋の神隠し イメージアルバム』

 

久石譲 『千と千尋の神隠し サウンドトラック』

 

 

 

『ハウルの動く城』

今や世界中で演奏されている人気曲「人生のメリーゴーランド」です。すぐにメロディを口ずさみたくなります。実は歌もあります。ほんとです。

2006年、歌手のクミコから宮崎駿監督への依頼で実現しました。作詞:覚和歌子/作曲:久石譲/快諾:宮崎駿で大人のポップスへと生まれ変わっています。2021年には村松崇継のリアレンジでシングル化されています。久石譲編曲でもプロデュースでもない手を離れた歌曲版ですが、宮崎駿監督の公認手形があることとカバー曲とはならない初登場の歌です。

 

エピソードをご紹介します。

 

〈覚和歌子コメント〉より 2006ver.
ジブリ映画とのご縁が続きます。今回は「ハウルの動く城」テーマ曲に詞を付けました。宮崎駿監督からは「映画本編とは全く関係なくていいですから、クミコさんが歌ってリアリティのある内容にしてください。」とのご要望。しかし同時にタイトルは、本編のテーマ曲タイトル「人生のメリーゴーランド」のままでというご指定もあり。それでは、クミコさんの「人生のメリーゴーランド」を作ろうと思いました。

 

〈クミコ コメント〉2021ver.
新録音です。宮崎駿監督の「ハウルの動く城」のテーマ曲ですが、これが流れてきた途端耳が直立してしまいました。何とか唄えないものだろうかと思い悩み、とうとう覚和歌子さんの詞で実現が。新たに詞をつけることをお許しくださった宮崎監督、そして作曲者久石譲さんのあたたかいお心に感謝するばかりです。

 

〈Web うたびと〉より
『人生のメリーゴーランド』は、ジブリ映画『ハウルの動く城』の主題歌。宮崎駿監督がクミコの歌声のファンだったことから、映画のパンフレットにコメントを提供することになり、映画を鑑賞したところ、スクリーンに響く楽曲に大感動。自ら監督に日本語詞をつけて歌わせてほしいと依頼し、快諾のもと実現した一曲だ。

 

 

 

 

久石譲はスタジオジブリ作品の音楽・主題歌そのどちらも担当した作品であれ、メインテーマにもとりわけ重きを置いています。『天空の城ラピュタ』「君をのせて」は当初主題歌を想定して書かれたものではありません。『となりのトトロ』「風のとおり道」は裏テーマと呼んでいたほどです。

『もののけ姫』「アシタカせっ記」については「1ヶ月半くらい悩んで書いた」「この曲の方が本当のメインテーマとしての重みを持っていると僕は思いますね」と久石譲は当時を振り返っています。

主題歌と同じくらいメインテーマや主要テーマ曲に心血を注いでいるからこそ、そのメロディからまた歌曲として生まれ変われるほどの光が宿っているのかもしれませんね。

 

 

 

Blog. 歌かインストか ~鶏か卵か~ スタジオジブリ編 1

Posted on 2025/06/09

久石譲は稀代のメロディメーカーである。ここは手短に先に進んでいいですよね。これまでにたくさんの名曲を生み出してきました。さて、今一瞬思い浮かべた名曲は歌ものですか?それともインスト曲ですか?

「鶏が先か、卵が先か」”Which came first: the chicken or the egg?” テーマは明解!いろいろな説明をすっ飛ばしても大丈夫、さっそくいってみましょう。

 

 

スタジオジブリ編 1

『天空の城ラピュタ』

おなじみ「君をのせて」のメロディです。曲名をたくさん持っているのでトップバッターからややこしいですが、英語タイトルの場合は歌曲版「Carring You」器楽曲版「Innocent」と表記されることが近年は多いです。

 

久石譲 『天空の城ラピュタ イメージアルバム 空から降ってきた少女』

「6. シータとパズー」「11. シータとパズー」器楽曲として収録されています。《君をのせて》の原石ともいえるこの楽曲、実はこの時まだサビのメロディはありません。♪父さんが~ のメロディは主題歌のとき生まれたものです。「Asian Dream Song」から「旅立ちの時 ~Asian Dream Song~」と同じパターンですね。♪夢をつかむ者たちよ~ 君だけの花を咲かせよう~ のサビは歌曲版に合わせて誕生したものです。

 

久石譲 『天空の城ラピュタ サウンドトラック』

「空から降ってきた少女」(サビメロディあり)「月光の雲海」(サビメロディなし)で器楽曲版を、「合唱 君をのせて」「ラピュタの崩壊」「君をのせて」で歌曲版を聴くことができます。これだけバリエーションに富んだ楽曲として本編に散りばめることができたのは、イメージアルバムがあったからこそと言えるでしょう。

ラピュタ愛に溢れている書き手としてもうちょっと言わせてください。「月光の雲海」(サビメロディなし)は、タイガーモス号の見張り台でシータとパズーが話すシーンです。サビまでいけなかったわけじゃなくてAメロを繰り返せるほどの曲尺です。イメージアルバム「シータとパズー」を継いでいるようにも感じます。曲名や曲に込められたテーマからも。宮崎駿×高畑勲×久石譲の綿密なディスカッションが目に浮かぶようです。

北米版ラピュタのサントラ盤「Confessions in the Moonlight」では、AB-AじゃなくてAB-サビへと変更がかかっていることもまた注目です。時を経てラピュタという作品を久石譲が再構築するときに、全体から俯瞰的に捉えなおしてそう判断した何かがきっとあったと思います。

 

 

主題歌「君をのせて」誕生までのエピソードはこれまで多方面にて語られています。

 

本編には主題歌は使われない予定であった。しかし、高畑は、観終わった観客に「宝を求めて行ったんだけれど、宝は手に入らなかった。かわりに何を手に入れたんだろう…」と和やかな気持ちで映画を反芻してもらいたい、そのためには歌があった方がいいのではないかと提案。急遽、高畑日く「映画全体と有機的に結びついた」主題歌制作が決定した。

高畑は宮崎に作詞を要請。曲は、「イメージアルバム」収録の「パズーとシータ」を元に中盤のサビを加えるよう久石に依頼した。高畑は久石と共に、メロディに合わせて助詞を添削してこれを補作し、主題歌「君をのせて」が出来上がった。レコーディングは86年7月7日であった。余りにもギリギリに完成したため、公開時にはシングルレコード発売は間に合わず、「サウンドトラック」に収録される形となった。

Disc. 久石譲 『天空の城ラピュタ サウンドトラック 飛行石の謎』 より抜粋)

 

「あれは夜中の11時ぐらいだったかな、他のシーンの音楽を書いていて疲れた時に、ふと浮かんだメロディだったんです。「ワクワクするような冒険活劇に暗いメロディは必要ないな」と、いったんはボツにしたんですが、宮崎さんとプロデューサーの高畑さんがとても気に入られて「歌詞を付けよう」という話になり、気がついた時には《君をのせて》がメインテーマになっていてビックリ(笑)。冒険活劇というと「スター・ウォーズ」に代表されるジョン・ウィリアムズのような曲を連想しますが、それとは正反対の《君をのせて》をメインテーマに据えることで、音楽の方向性が大きく変わった。宮崎さんと高畑さんが《君をのせて》のメロディに新たな意味づけをなされたおかげです。」(久石譲)

Blog. 久石譲 「ナウシカ」から「ポニョ」までを語る 『久石譲 in 武道館』より より抜粋)

 

「天空の城ラピュタ」の「君をのせて」は、最初、久石譲さんが歌われたデモテープを聴かせていただいたんですが、温かくて広がりのあるすてきな歌だと思いました。オーディションだったので、「絶対この曲を歌いたい!」って心から願いました。レコーディングのとき、宮崎駿監督に「自由に歌ってください」と言っていただいたことで気持ちが楽になったのを覚えています。完成披露試写会で作品を見たんですけど、どこで流れるのかを知らされてなくて、いつまでたっても流れてこないので、「使われなかったのかな…」って思っていたらエンディングで流れてきたんですよ。映画の感動もあって、号泣しました。(井上あずみ)

Blog. 「別冊カドカワ 総力特集 崖の上のポニョ featuring スタジオジブリ」(2008) 久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

『天空の城ラピュタ』では、主題歌「君をのせて」を作るにあたって、まず宮崎さんからいただいた詞がありました。それをメロディにはめていく作業を、高畑さんと二人で何日もやったことを覚えています。いまでは世界中の人から愛されるようになったあの歌は、宮崎さんと僕、そして高畑さんがいなかったら、生まれていなかったのです。

Blog. スタジオジブリ小冊子「熱風 2018年6月号」《特集/追悼 高畑勲》 久石譲 内容紹介 より抜粋)

 

久石:
「ラピュラ」の時すごく考えてたのは、音楽的にまとめたオーケストラベースのものをできたらいいなあと。ただあの曲がメインテーマになるとは思わなかった。一応もうちょっと違ったやつを作ったはずなんですが、こういうのもあっていいやと夜の23時半ぐらいから20分ぐらいで作った曲。それで渡したら、これをメインテーマにしましょうと。あれぇ、全部ひっくり返ったぞと、そういう記憶があります。だからその「君をのせて」はメロディが先にあった曲。それに宮崎さんの言葉を当てはめていく作業。そこに足りない言葉を補っていく、これは僕と高畑さんとでやった。あの作業はとても楽しかったですよね。

鈴木:
これが主題歌になるとは思ってなかったですよね。とはいえね、宮崎のメモは大きいんですよ。あの地平線~ でしょ。高畑さんに言われてなるほどと思ったのはね、「わかります?鈴木さん。あの地平線、要するに目線がもう空にいる」って。多くの人は地上から空を見上げる。ところが宮さんの詩は、もう自分が空の上にいてそれで語ってる、それを中心にすれば歌になりますよって。なるほどおと思ってね。

久石:
「たくさんの灯が」っていうのが、まあ普通は言わないんですよね。プロの作詞家では絶対に書けない言葉。宮崎さんの言葉にはいつもそういうのがいっぱいあって、それが曲をかたちづくってる原点にはなってます。

Blog. NHK FM 「今日は一日”久石譲”三昧」 番組内容 -トーク編- より抜粋)

 

 

そして今では世界中で歌われています。日本語で大切に歌われています。

 

 

 

 

『となりのトトロ』

この作品では企画段階から歌が重視されていたこともありイメージアルバムはすべて歌曲からなる「イメージソング集」として生まれました。映画を観て流れてくるあの温かくて可愛くて優しくてわくわくするメロディたちは、そのほとんどに歌が先にあります。ぜひサウンドトラックと聴き並べながら同じ曲を見つけてみてください。名曲「風のとおり道」は歌曲と器楽曲と同時に誕生していたんですね。

 

1. となりのトトロ
2. 風のとおり道
3. さんぽ
4. まいご
5. すすわたり
6. ねこバス
7. ふしぎしりとりうた ※本編未使用メロディ
8. おかあさん
9. 小さな写真 ※本編未使用メロディ
10. ドンドコまつり ※本編未使用メロディ
11. 風のとおり道 (インストゥルメンタル)

久石譲 『となりのトトロ イメージ・ソング集』

 

久石譲 『となりのトトロ サウンドトラック集』

 

 

エピソードもご紹介します。

 

「この作品には二つの歌が必要です。オープニングにふさわしい快活でシンプルな歌と、口ずさめる心にしみる歌の二つです。(中略) せいいっぱい口を開き、声を張りあげて歌える歌こそ、子供達が望んでいる歌です。快活に合唱できる歌こそ、この映画にふさわしいと思います。(後略)」(宮崎駿)

(ジブリの教科書 3 となりのトトロ より抜粋)

 

『トトロ』のオープニング原画はもともと久石譲のイメージアルバム主題歌を元に描かれている。イントロが太鼓とシンバルだけの曲。ところが原画が上がる頃にバグパイプの入った曲が届けられると、これを聴いた宮崎駿は一瞬で気に入って曲の変更を決めている。

(ふたりのトトロ 宮崎駿と『となりのトトロ』の時代/木原浩勝 より抜粋)

 

「となりのトトロ」は、映画に先駆けて制作されるイメージアルバムのデモ作りから参加させてもらいました。主題歌はわたしが歌うことになっていたのですが、当初「さんぽ」は杉並児童合唱団が歌うことになっていました。でも、「井上あずみの声が入った方がしんがあっていいのでは」ということになり、児童合唱団用に歌ったわたしのデモがそのまま映画に使われたんです。こんな経験は後にも先にもこの一曲だけです。その曲が、20年たった今でも子どもたちが歌ってくれるわたしの代表曲になったのですから、出会いや縁は大切なものだなってつくづく思いましたね。(井上あずみ)

Blog. 「別冊カドカワ 総力特集 崖の上のポニョ featuring スタジオジブリ」(2008) 久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

 

『魔女の宅急便』

こちらもまたメロディの宝庫といえる作品です。魔女の宅急便の好きな曲を口ずさんでみて?となったら結構いろいろ飛び出すかもしれませんね。当初から輝くメロディたちの評判も良かったのでしょう。映画公開後に制作された歌曲集は、原作者の角野栄子はじめ作家陣が主人公キキの思いを詠った詩を作り4人の女性シンガーが歌っています。久石譲プロデュースです。

ひとつ添えると、元となっているのは一曲として完成しているイメージアルバムからです。そこからメロディを素材として映画本編用に施しているのがサウンドトラック曲です。曲名も変わっているので、イメージアルバム、サウンドトラック、ヴォーカルアルバムと曲名カード神経衰弱三つ巴にチャレンジしてみてください。

 

魔女の宅急便 イメージアルバム

 

久石譲 『魔女の宅急便 サントラ音楽集』

 

イメージアルバム → サウンドトラック 曲名の変化

  • かあさんのホウキ, 木漏れ日の路地 → 旅立ち, オソノさんのたのみ事…
  • ナンパ通り → 海の見える街(後半), 大忙しのキキ, パーティーに間に合わない
  • 町の夜 → 傷心のキキ
  • 元気になれそう → 仕事はじめ
  • 風の丘 → 海の見える街(前半), おじいさんのデッキブラシ
  • リリーとジジ → 身代わりジジ
  • トンボさん → プロペラ自転車
  • 世界って広いわ → 晴れた日に…, 空飛ぶ宅急便, ジェフ(後半), ウルスラの小屋へ, デッキブラシでランデブー
  • パン屋さんの窓 → パン屋の手伝い

*サウンドトラックに継がれなかった曲:渚のデイト、突風

 

また曲名カードで結びつかずに残ったものは、サウンドトラック盤で初めて登場することになる、新たに映画本編のために書き下ろされた楽曲です。

 

 

久石譲 『魔女の宅急便 ヴォーカル・アルバム』

 

イメージアルバム → ヴォーカル・アルバム 曲名の変化

  • 風の丘 → めぐる季節
  • 渚のデイト → 何かをさがして
  • パン屋さんの窓 → 想い出がかけぬけてゆく
  • 元気になれそう → わたしのこころ
  • 町の夜 → 黄昏の迷い子たち
  • ナンパ通り → 鳥になった私
  • リリーとジジ → 好きなのに!
  • 世界って広いわ → あこがれのまち
  • かあさんのホウキ, 木洩れ日の路地 → 魔法のぬくもり

 

 

 

歌でもインストでもメロディを楽しめるジブリ音楽です。そして歌らしい曲想に、インストゥルメンタルらしい曲想に仕立てあげる久石譲の魔法も光っています。

 

 

 

Blog. 雑誌「モーストリー・クラシック 2025年4月号」久石譲 インタビュー内容

Posted on 2025/05/04

クラシック音楽誌「MOSTLY CLASSIC モーストリー・クラシック 2025年4月号 vol.335 」(2月19日発売)に久石譲のインタビューが掲載されています。特集「ベートーヴェン 傑作の森に分け入る」で組まれた企画です。

 

 

作曲家と指揮者 二つの眼
久石譲が語るベートーヴェンとリズムの力

作曲のみならず、指揮者としても活動を展開する久石譲。日本センチュリー交響楽団の音楽監督として初めて迎える2025~26年シーズンに、プログラムの核として掲げたのがベートーヴェンの交響曲だ。作曲と指揮、2つの眼でもって音楽と向き合う久石は、この不朽の名作をどう見ているのか。

文・植村遼平

 

《英雄》は若々しい作品
浮かぶ楽想を全て入れ込む

ー久石さんはベートーヴェンの交響曲全曲を演奏、録音されていらっしゃいます。

久石:
トータルで見て、ベートーヴェンの9曲の交響曲は、音楽史上最も頂点に近い作品だと思います。クラシックの音楽史は、まずベートーヴェンがいて、そして(音楽史を)豊かにする他の作曲家がいます。今年は日本センチュリー響の音楽監督の1年目。まずはいろんな指揮者で、ベートーヴェンの交響曲を全曲できればと考えました。

ー第3番《英雄》についてのお考えをお聞かせください。

久石:
《英雄》は、ベートーヴェンがまだ若かったせいか、頭に浮かんだ楽想を全部使っている作品です。それゆえに構成があまり見えないのですが、作曲家の視点で言うと、これは非常によく分かる。浮かんできちゃうんだから。第5番《運命》や第7番の頃には、ベートーヴェンは自分の音楽の核が「リズム」であることを自覚していますが、《英雄》ではまだそれがはっきり見えてはいない。それでも、《英雄》には若い時のエネルギーがあり、それが人に対して説得力を持つのだと思います。

 

「もっと言いたい」思い

ー《英雄》はまだ若い作品で、それが魅力でもあると。

久石:
まず当時の作曲家の作品には、全てソナタ形式があります。提示部、展開部、そして再現部。フォーマットがしっかりしていたから、ハイドンは104曲、モーツァルトも41曲の交響曲が書けました。しかしベートーヴェンの時代からは、宮廷ではなく、一般の聴衆を相手にするようになった。すると、音楽に人間の感情をどんどん入れるようになる。ソナタ形式はまだ強く残っていたので、作品の構成は明確だけれども、時代、そして若さゆえに、ベートーヴェンは「もっと言いたい、もっと言いたい」と。そのためにベートーヴェンは曲が始まる前に膨大なイントロをつけるようになります。第7番がまさにそうですよね。《英雄》はいきなり主題から始まる点で潔いけれど、終止部に入ってから、「これじゃ物足りない」というようにもう一度流れをつくっていく。そういった”思い”と、目に見える形式とは別の問題だからね。

そしてもう一つ。ベートーヴェンの中で《英雄》はナポレオンに感化されて作曲したもの。つまり、音楽的な理由からではなく、人間として日々を生きる中での感動をテーマに作曲したんです。これと同じものが第6番《田園》。田舎の情景を表現しようとする、普通の人間の感覚です。また、《田園》の頃はそういう音楽がすごく流行りだした時期でもありました。ロマン派は文学。ストーリーがあるものをなぞっていく。ソナタ形式に代わる形態として、言葉が入ってくるわけです。

 

論理的に作り無駄を省く
究極は後期弦楽四重奏曲

ー浮かんだ楽想を入れ込んでいくことに、作曲家として共感されるのですね。

久石:
もう僕の年齢だと、浮かんだもの全てを入れようとはなりませんが(笑)。(ベートーヴェンの場合は)第9番を聴くとよく分かりますが、ある年齢になると、浮かんでくるものを入れるというよりも、論理的に構成をするっようになります。その結果として、無駄のない作りに変わる。特に第1楽章は非常に形式的にはっきりしていますね。しかし、ベートーヴェンでも昨日には戻れない。第九を書くような晩年に、《英雄》のような曲は絶対に書けない。だから面白いんです、人の歴史って。

ー作曲が洗練されていく流れとはどういうものでしょう?

久石:
ベートーヴェンは、まず新しいチャレンジを真っ先にピアノ・ソナタで実験します。その実験を交響曲に持ち込んで、最終的に弦楽四重奏曲で全ての無駄を排除した形態をとって昇華させるんです。一歩一歩、1つずつクリアしながら登り詰めていく。弦楽四重奏曲の後期作品は、喜怒哀楽に全く左右されない、人間を超越したような作品ですよね。

 

一つのフレーズの積み重ね
リズムの仕掛けは第7番にも

ー先ほどはベートーヴェンの核に「リズム」があったと仰いました。どのように重要だったのでしょうか?

久石:
ベートーヴェンは曲を一拍子で書く癖があります。(例えば第九のスケルツォ楽章は)小節数がとても多いですよね。本来拍子は四つのまとまりで取れるはずだけれども、彼の場合は途中でそれが二つ、三つになったりする。もし通常の4/4拍子で三連符を使って書くと、途中で変拍子をたくさん入れなきゃいけなくなります。突き詰めていくと、一拍子表記によって全てを書くことができる。それを指揮者が二つや三つ、四つのフレーズなどにグルーピングしていきます。ロマン派の作曲家はメロディー優先で、8小節を大楽節とする基本がありますが、ベートーヴェンにその発想は合いません。まず節があって音楽を作るというやり方ではなく、リズムに焦点を当てて一つのフレーズを積み重ねていく。アプローチが根底から違うんです。

ーこのリズムの発想がよく表れている作品とは?

久石:
《英雄》でもすでに表れています。(第1楽章冒頭の)「タータ、タータ、タタタター」という旋律は、変ホ長調のI度のコードのまま。つまり音型です。そこにリズムのバッキング(伴奏)が、3拍子だけれども2拍子のように、断ち切るように現れる。このやり方はその後、シューマンなどの作曲家がみんな真似をするほど、影響力が強いものでした。

自分が指揮をするようになって、リズムのすごさを実感したのは第7番の第3楽章です。同じく第1楽章も、(コーダの)「ダンダダン」というリズムをクリアに演奏するのは本当に大変。色んなところに仕掛けがありますから、心地よいリズムなどという発想ではないんです。

 

「ミニマル」からの視点

ーこういった感じ方は、ご自身が作曲家であることと関係するのでしょうか?

久石:
僕は作曲家としてミニマル的なアプローチを最終的に選びました。その経験からもう一度クラシックを見つめ直した時、「今まで誰もやっていなかったけど、こういうアプローチがあるんじゃないか」、「未来のクラシックはこう変わるんじゃないか」と思って指揮活動を始めたんです。

ー指揮をする際、リズムに関する指示は特に意識しますか?

久石:
意識はあります。メインのメロディーラインの裏には、それを盛り上げる伴奏や、対位法的な別の旋律があります。そこに書かれた音楽というのは沢山あるわけです。メロディーラインを一生懸命指揮するというよりも、むしろそれを支えているものをいかにクリアにするかというアプローチです。リズムをメインに組み立てて、オーケストラにも伝える。そうすると、結果として非常に立体的な演奏になります。

ー日本センチュリー響との定期公演では、《田園》(6月)、《第1番》(9月)、《英雄》(26年1月)を指揮されます。合わせるのは、いずれもご自身の作品です。

久石:
ベートーヴェンのような長い年月支持されてきた絶対的な名曲と、自分の作品を一緒に演奏する時、「クラシックのメインプログラムが、何をもってそこにいられるのか」をすごく考えます。そうすると、自分の作品が「これは自分の思いが詰まった、全てを懸けた曲なんだ」という程度のレベルではいけない気がします。もっと、名曲と呼ばれるものの底辺にある、人々に共感を与える何か。現代音楽の作曲家は、そういうものを激しく忘れてしまっているのではないかという自戒を込めています。

(MOSTLY CLASSIC モーストリー・クラシック 2025年4月号 vol.335 より)

 

 

 

 

 

Blog. ジブリフィルムコンサートを聴く(武道館/パリ/グラモフォン)《後編》

Posted on 2025/03/01

《前編》はジブリフィルムコンサートのプログラムや楽器編成そのほか参考作品までを見ていきました。《中編》《後編》は作品ごとに見ていきます。

 

 

2025.07.27 update
頁末に「久石譲スタジオジブリ フィルムコンサート ツアーファイナル」を追加しました。

 

 

▽プログラム
▽出演/楽器編成
▽歌
▽参考作品(DVD/TV/CD)
▽MUSIC VIDEO
▽INTERVIEW VIDEO
▽コンサート軌跡

▽ポイント

▽風の谷のナウシカ
▽魔女の宅急便
▽もののけ姫
▽風立ちぬ
▽崖の上のポニョ
▽天空の城ラピュタ
▽紅の豚
▽ハウルの動く城
▽千と千尋の神隠し
▽となりのトトロ

▽アンコール

 

6

天空の城ラピュタ
CASTLE IN THE SKY

武道館コンサート/パリ・コンサート

ハトと少年
君をのせて
大樹

編成特記:
マーチングバンド、合唱

グラモフォン・アルバム

ハトと少年
君をのせて

Doves and the Boy
Carrying You

編成特記:
管楽、合唱、バンダ

全体構成は武道館/パリと変わっていません。

世界ツアーは公演ごとにマーチングバンドあり・なしで演奏形態が異なり、それに合わせて構成曲も三曲目「大樹/The Eternal Tree of Life」あり・なしになります。グラモフォン・アルバムはマーチングバンドではないオーケストラの管楽セクションと合唱で演奏される二曲です。世界ツアー版と位置づけられています。

《ハトと少年》武道館コンサートとパリ・コンサートは、観客席通路にくまなく配置された大所帯のマーチングバンドが魅力的です。後半部のくり返しと転調とで曲尺は長くなっています。グラモフォン・アルバムは、トランペットのメロディとホルンによって導かれます。パーカッション群も加わっていくこのパートは交響組曲とほぼ同じ構成と曲尺になっています。

コンサートではバンダによって演奏されます。バンダとは舞台上の編成とは別に離れた位置で演奏する演奏手法のことで、ここではトランペットとホルンが会場二階席の前方左右に分かれています。まるで映画本編でパズーがスラッグ渓谷からトランペットを吹いているように会場にメロディが降ってきます。

《君をのせて》武道館コンサートとパリ・コンサートは、引き続き観客席通路にくまなく配置された大所帯のマーチングバンドとステージの合唱・児童合唱で演奏されます。グラモフォン・アルバムは、オーケストラの弦楽器を除いた木管・金管楽器そしてパーカッション+合唱・児童合唱で演奏されます。この曲は日本語で歌われます。歌に寄り添うようにずっと吹き続けるトランペットの旋律もエスコートヒーローのパズーらしい。威厳ある英国風の曲想に仕上がっています。

《大樹》武道館コンサートとパリ・コンサートそして世界ツアーのマーチングバンドあり公演では演奏されます。パリ・コンサートがTV放送された「久石譲 in パリ」ではカットされていますがしっかり本演では演奏されています。

この作品は、児童合唱(ユースコーラス)が出演しない公演ではメインの合唱団のみで歌われます。

 

 

オーケストラのためのプログラム構成と楽器編成について。世界ツアーを展開していくなかで当初は組み込まれていなかった休憩時間も入るようになります。それにより『天空の城ラピュタ』開始前にバンダへ移動準備する時間もとれるようになります。『天空の城ラピュタ』は弦楽セクションの出番はないため楽器調整など休憩時間にあてることができます。次のプログラム『紅の豚』は管楽セクションの出番はないため楽器調整など休憩時間にあてることができます。プログラムの流れは『天空の城ラピュタ』でも演奏していたトロンボーンやクラリネットらがステージ中央に移動してきます。

 

 

7

紅の豚
PORCO ROSSO

帰らざる日々

Bygone Days

編成特記(武道館コンサート):
トロンボーン3、バストロンボーン1、テューバ1、アルトサックス1、テナーサックス1、大太鼓(グランカッサ)、シンバル、スネア

編成特記(パリ・コンサート/グラモフォン・アルバム):
トロンボーン3、バストロンボーン1、テューバ1、クラリネット2、バスクラリネット1、大太鼓(グランカッサ)、シンバル、スネア

全体構成は武道館/パリ/グラモフォンと変わっていませんが、楽器編成から変化を見てとれます。

《帰らざる日々》久石譲によるピアノと10~11名の奏者によるジャジーなアンサンブルです。武道館コンサートは5人の金管楽器と2人のサクソフォン、そして3人のパーカッションです。パリ・コンサートとグラモフォン・アルバムはサクソフォンからクラリネットへと切り替わっています。サックスのほうが雰囲気でる、武道館のその印象が強い、そう思う人も多いかもしれませんが、そこにはしっかりとした理由あります。

武道館コンサートはオーケストラ編成のなかにアルトサックス1、テナーサックス1も入っていました。これは久石譲の創作活動においてこの時代のひとつの特徴とも言えます。サクソフォンの音色パレットの効いた作品には「Oriental Wind for Orchestra」(2005/2010)、「MKWAJU 1981-2009」(2009)、「The End of the World」(2009/2015)などがあります。以降、クラシック音楽の指揮活動を本格化させるなかで合わせて自作品もオーケストラの楽器編成と編成規模は標準化の流れへと向かいます。一般的なオーケストラ編成にサクソフォンは入っていません。これにより従来サクソフォンも編成された作品が改訂される際にはクラリネットなど他の楽器へと切り替わっていきます。編成に残っている作品もあります。ジャズクラリネットも多くのスタンダード曲があります。落ち着いた雰囲気でくゆらすクラリネットと円熟したピアノと。

コンサートではフィンガースナップ(指パッチン)も演出で聴くことができます。その歴史は2018年9月ロサンゼルス公演まではない、2018年11月カーネギーホールで開催されたニューヨーク公演ではある、ここから始まっているようです。もしかしたらリハーサルまでもなかったのかも、本演中に管楽器奏者の粋な演出で自然発生的に起こったことかもしれません。そうならさすがジャズの街ニューヨークらしいエピソードです。以降の公演でも定着していくことになるパフォーマンスです。

 

 

武道館コンサートはこの後メッセージ動画が流れます。パリ・コンサートはこの後鈴木敏夫プロデューサーと宮崎駿監督のメッセージがスクリーンに映し出されています。映画『君たちはどう生きるか』公開後はどうなっているのでしょう。

 

 

8

ハウルの動く城
HOWL’S MOVING CASTLE

シンフォニック・ヴァリエーション「メリーゴーランド+ケイヴ・オブ・マインド」

Symphonic Variation “Merry-go-round + Cave of Mind”

編成特記:
バンダ(*武道館コンサートのみ)

全体構成は武道館/パリ/グラモフォンと変わっていませんが、楽器編成から変化を見てとれます。

交響変奏曲は「人生のメリーゴーランド」の変幻自在する旋律と「星をのんだ少年」の美しいメロディが組み込まれた作品です。武道館コンサートは「ケイヴ・オブ・マインド」パートはバンダによって演奏されます。バンダとは舞台上の編成とは別に離れた位置で演奏する演奏手法のことで、ここではトランペットとトロンボーンが会場二階席の前方左右に分かれています。各4人ずつ左右で計8人です。会場全体にこだまして響き渡っています。こんな離れ業ができたのも大編成だったおかげです。もともとトランペット8、トロンボーン8いた大規模編成はバンダ要員に配置してもしっかりステージにトランペット4、トロンボーン4と残っています。

パリ・コンサートとグラモフォン・アルバムは一般的なオーケストラ編成でトランペット3、トロンボーン3、バストロンボーン1です。「ケイヴ・オブ・マインド」冒頭からのメロディはトランペット1とイングリッシュホルン(コーラングレ)で奏でられます。バンダではなくステージから聴こえてきます。ここでもまたオーケストラ編成の変化からオーケストレーションの修正が施されています。

うっかり目から鱗かもしれませんがこの作品も待望の音源です。オリジナルアルバム『WORKS III』に収録されているのは「Symphonic Variation “Merry-go-round”」で「ケイヴ・オブ・マインド」パートはありません。「ハウルの動く城 オーケストラのための -オリジナル・スコア-」(2014)スコアの完全音源化とも言えてしまいます。これまでは参考音源は『久石譲 in 武道館』(ライヴ映像)や『The Best of Cinema Music』(ライヴ音源)としていたところに、編成規模もオーケストレーションも同じに対向配置でセッション録音されたものになるからです。今では世界中のコンサートで演奏されている作品です。演奏団体の皆さん、ぜひグラモフォン・アルバムを由緒ある参考音源にしてください。スコアを手に聴きながら、もし異なる箇所に気づけたとすればあの半音和音で揺れ動く久石譲のピアノイントロの長さやメロディ装飾ぐらいだったかもしれません(パート番号25)。

うっかり勘違いしてしまうかもしれませんが「Symphonic Variation “Merry-go-round + Cave of Mind”」は単純に「ケイヴ・オブ・マインド」パートをプラスでくっつけたものではありません。「Symphonic Variation “Merry-go-round”」の楽曲構成からパートの短縮やカットを経て「ケイヴ・オブ・マインド」パートが組み込まれています。その証拠に「Symphonic Variation “Merry-go-round”」約14分、「Symphonic Variation “Merry-go-round + Cave of Mind”」は約12分と演奏時間は短くなる魔法です。またオリジナル・スコアには代替バージョン(Alternative Version)も並べて書き記されています。近年久石譲が指揮するクラシック演奏会などでアンコールに選ばれることもある曲名「Merry-go-round」、冒頭のピアノパートがハープやグロッケンシュピールらに切り替わっているそのバージョンです(パート番号25)。

この作品で「人生のメリーゴーランド」のメロディを一度も弾いていないオーケストラ楽器ってあるかな、というほどの秀逸さです。グラモフォン・アルバムのCD限定盤DISC2には後半部の「人生のメリーゴーランド」パートを抜粋したトラックが特別収録されています。単曲でもオリジナル・スコアと同じに演奏することができます。代替バージョンでも演奏することができます。

 

 

オーケストレーションも楽器もすべての修正は論理的である。ゆえに説明できる。(by …)

 

 

9

千と千尋の神隠し
SPIRITED AWAY

あの夏へ(いのちの名前)
ふたたび

One Summer’s Day (The Name of Life)
Reprise

編成特記:
ヴォーカル

全体構成は武道館/パリ/グラモフォンと変わっていませんが、楽曲ごとには変化を見てとれます。

《あの夏へ(いのちの名前)》武道館コンサートは《あの夏へ vocal version 「いのちの名前」》歌とピアノのコラボレーションです。パリ・コンサートは久石譲によるピアノソロで披露されていて近年コンサートで聴けるものと同じになります。世界ツアーを展開していくなかでピアノソロとピアノ&ヴォーカルの両方が候補にあった時期も経ながら現在はグラモフォン・アルバムに収録されている最新版が定着しています。ピアノと歌どちらも輝き溢れる結晶は世界ツアー版と位置づけることができます。前半はスキャットで後半は日本語で歌われます。

2022年10月フランス3都市公演から英語バージョンも登場するようになります。これにはゲストヴォーカルがグラモフォン・アルバムで歌唱しているグレース・デイヴッドソンさんその人だったこともありそうです(アルバム録音2022年6月/アルバム発売2023年6月)。2023年9月ロンドン公演、2024年4月パリ公演、2024年5月ドイツ2都市公演も同様です。この曲は公演ごとのゲストヴォーカルによって日本語ver.と英語ver.とが選ばれていくのかもしれません。グラモフォン・アルバムのCD限定盤DISC2には英語バージョンも特別収録されています。

《ふたたび》武道館コンサートからグラモフォン・アルバムまでDVD/TV/CDと三つの音源を並べてみてオーケストレーションも少しずつ変化しているように聴こえます。とりわけ歌の最後でピアノとハープだけの伴奏になるところなど、フレーズとしてもピアノが前面に出てきたグラモフォン・アルバムです。振り返ってみるとイメージアルバム「千尋のワルツ」だった頃からピアノは主役のひとつでした。《あの夏へ(いのちの名前)》から《ふたたび》まで世界ツアー版は千尋をより鮮明に表現したものになっているのかもしれません。この曲は日本語で歌われます。交響組曲とはまた別モノでどちらも存分に楽しむことができます。

 

 

世界ツアー版は交響組曲の抜粋や短縮にあらず。どちらも曇りなき眼で見定めよ。(by …)

 

 

10

となりのトトロ
MY NEIGHBOR TOTORO

風のとおり道
さんぽ
となりのトトロ

The Path of the Wind
Hey Let’s Go
My Neighbor Totoro

編成特記:
合唱

全体構成は武道館/パリ/グラモフォンと変わっていませんが、楽曲ごとには変化を見てとれます。

《風のとおり道》武道館コンサートは、チェレスタ、ハープ、グロッケンシュピール、ウィンドチャイム、ピアノらの打楽器・鍵盤打楽器による演奏でした。パリ・コンサートとグラモフォン・アルバムは、ピアノは外れてそこにマリンバやビブラフォンが配置されているように聴こえます。神秘性に包まれた精緻な音世界です。

《さんぽ》武道館コンサートは合唱とゲストヴォーカル総出演で歌詞の1番から3番までを日本語で歌いつないでいきます。パリ・コンサートとグラモフォン・アルバムは合唱によって英語で歌われます。この曲はオーケストラの楽器紹介もそなえた「オーケストラストーリーズ となりのトトロ」ver.がベースになっています。それを承知したうえでパート構成はこのように変化しています。

 

武道館コンサート:日本語
1番 木管楽器/合唱 ー 2番 金管楽器/合唱 ー 3番 弦楽器/児童合唱 ー 1番 打楽器・ピッツィカート/ゲストヴォーカル ー 3番 オーケストラ/大合唱  5times

パリ・コンサート グラモフォン・アルバム:英語
1番 木管楽器/合唱 ー 3番 金管楽器・打楽器/合唱 ー 1番 弦楽器/児童合唱 ー 1番 オーケストラ/大合唱  4times

世界ツアー version A:英語
1番 木管楽器/合唱 ー 3番 金管楽器/合唱 ー 1番 弦楽器/児童合唱 ー 1番 打楽器・ピッツィカート/ゲストヴォーカル ー 1番 オーケストラ/大合唱  5times

世界ツアー version B:英語
1番 木管楽器/合唱 ー 3番 金管楽器・打楽器/合唱 ー 1番 弦楽器/ゲストヴォーカル ー 1番 オーケストラ/大合唱  4times

世界ツアー version C:英語
1番 木管楽器/合唱 ー 3番 金管楽器/合唱 ー 1番 弦楽器/ゲストヴォーカル ー 1番 オーケストラ/大合唱  4times

 

武道館コンサートは、オーケストラストーリーズver.をそのまま土台としてパート構成は進みます。加えて編成されていたサクソフォンも間奏でしっかりフィーチャーしていたことも特徴です。

パリ・コンサートとグラモフォン・アルバムは、ゲストヴォーカルの1コーラス分がなくオーケストラの金管楽器・打楽器パートが合体しています。もともとあったものをなるべく忠実に配置しながらピッツィカートは外れています。

世界ツアーはABCと3つのバージョンがあるのではないかと推察しています。正確性は探求の余地があります。それはゲストヴォーカル参加で児童合唱(ユースコーラス)の出演あり・なしによって1コーラス分異なっているバージョンです。金管楽器・打楽器パートの合体具合(B,C)がよく掴めていない。これからコンサートで聴けるときには、グラモフォン・アルバムで予習しながらも世界ツアーversion A,B,Cのいずれかになるのではと思っています。もう何回も聴いておなじみと思っていた《さんぽ》も世界ツアーでしっかりアップデートされていて複数のバージョンが用意されています。

《となりのトトロ》武道館コンサートからグラモフォン・アルバムまで変わらない名曲です。変わる必要のないパーフェクトさです。中間部には久石譲によるピアノ演奏も入ります。コンサートではソプラノとヴォーカルのパートも入りながら熱狂的なコーダを迎えます。この曲は日本語で歌われます。スタジオジブリのシンボル的キャラクターでロゴにもなっているトトロです。同じようにジブリの夢を音楽のかたちにしたら「となりのトトロ」この曲だと言えてしまう輝きがあります。オーケストラの魅力、ピアノの魅力、歌の魅力、トトロの魅力、パーフェクトです。

この作品は、児童合唱(ユースコーラス)が出演しない公演ではメインの合唱団のみで歌われます。

 

 

 

武道館コンサートでは《さんぽ》のあとに宮崎駿監督の短いVTRが流れます。歌を口ずさんでいる映像の余韻にフェードインするように《となりのトトロ》が始まります。そして演奏後には鑑賞していた客席からステージへ歩いて向かい宮崎駿監督から久石譲へ花束が渡されるシーンは何度見ても感動的です。Blu-ray/DVDはアンコールまで完全収録されています。パリ・コンサートのTV放送はここまでです。アンコールはカットされています。グラモフォン・アルバムはアンコールにあたる楽曲は収録されていません。

 

 

11

—–アンコール—–
Madness (「紅の豚」より)
アシタカとサン (「もののけ姫」より)

—–encore—-
Madness from Porco Rosso
Ashitaka and San from Princess Mononoke

 

《Madness》武道館コンサートは久石譲によるピアノも冒頭メロディ、中間部の強打和音、終結部のメロディワンフレーズにと指揮とピアノを慌ただしく移動しています。アルバム『The End of the World』(2015)に最新の録音があります。世界ツアーはそれよりも少し短縮バージョンになります。そして終結部のメロディワンフレーズはフルートのみに切り替わっています。赤い照明演出も印象的です。

 

《アシタカとサン》武道館コンサートは日本語で、世界ツアーは英語で歌われます。久石譲によるピアノが1コーラスをオーケストラとともに奏で、間奏を挟んで合唱が1コーラスを歌います。コンサートでは間奏のところで今伝えたい久石譲のメッセージがスクリーンに映し出されています。2021年インタビューで「スタジオジブリフィルムコンサート世界ツアーで使用しているオーケストレーションを関連楽曲に導入した」(交響組曲もののけ姫について)と語っているとおり、歌われるキーの高さやオーケストレーションなど統一性もあります。そのうえで交響組曲はソロ・ヴァイオリンが1コーラスを奏で間奏を挟んでソプラノによって日本語で歌われます。

この作品は、児童合唱(ユースコーラス)が出演しない公演ではメインの合唱団のみで歌われます。

 

 

Joe Hisaishi said:

宮崎さんが「すべて破壊されたものが最後に再生していく時、画だけで全部表現出来るか心配だったけど、この音楽が相乗的にシンクロしたおかげで、言いたいことが全部表現できた」と話されていたことが、とても印象に残っています。

Blog. 久石譲 「ナウシカ」から「ポニョ」までを語る 『久石譲 in 武道館』より 一部抜粋)

 

映画「もののけ姫」のラストで「ともに生きよう」というセリフがある。それはお互いの痛みを分かち合いながら、希望を持ってそれぞれの場所でしっかり行動せよという意味にも僕には取れる。

Blog. 「久石譲 3.11 チャリティーコンサート」(2011) コンサート・パンフレットより 一部抜粋)

 

 

ここまででコンサートの全てです。アンコールとはなっていますが切り離すことのできないプログラムです。それは映画エンドロールのあとに続くエピローグのようなもの大切なパートです。本演が終わって夢の時間を楽しんだで終わってしまっては…。今私たちが直面している世界を強く投影したかのような《Madness》、そして私たちの今と未来を問いかける《アシタカとサン》。現実と希望とをこの二曲が私たちに照り返しているようです。これから世界ツアーはどこまで羽ばたいていくでしょうか。アジアそして日本での凱旋公演も待ち望まれます。『君たちはどう生きるか』プログラムも加わってさらにパワーアップするのかどうなのか、夢はいつも膨らむばかりです。

 

 

グラモフォン・アルバム『A Symphonic Celebration』はジブリフィルムコンサートのマッチングアルバムとも言えます。けれど公式の商品情報では「世界ツアー中のジブリフィルムコンサートを最新録音で待望の音源化!」などと一切の関連ワード含めて使われていません。一番効果的かつインパクトのある宣伝で謳っていない。

そこには、アンコールまで完全収録されていないからとか、まだまだプログラムがバージョンアップするかもしれないとか、マーチングバンドあり・なしなど出演者によって演奏形態バージョンがあるとかいろいろあるのかもしれません。一番大切なことは「ジブリフィルムコンサート」は映像×音楽の対等で最高のパフォーマンスだということです。やっぱりコンサートで体感するしかないところが大いにある。もしこれからコンサートに行ける時が来たらチャンスを掴みとりましょう。スタジオジブリと久石譲が仕掛ける一大プロジェクト、その歴史の一ページにいたい。歴史の生き証人になって未来へ伝えたい。最高の瞬間を。

 

最後まで読んでいただきありがとうございます。

 

 

 

 

2025.07.27 update
「久石譲スタジオジブリ フィルムコンサート ツアーファイナル」開催されました!!

 

公式写真と出演者SNSで綴るコンサート記録!写真計81枚!+α

 

みんなのコンサート・レポート

(up to here, updated on 2025.7.27)

 

 

Blog. ジブリフィルムコンサートを聴く(武道館/パリ/グラモフォン)《中編》

Posted on 2025/02/24

《前編》はジブリフィルムコンサートのプログラムや楽器編成そのほか参考作品までを見ていきました。《中編》《後編》は作品ごとに見ていきます。

 

 

▽プログラム
▽出演/楽器編成
▽歌
▽参考作品(DVD/TV/CD)
▽MUSIC VIDEO
▽INTERVIEW VIDEO
▽コンサート軌跡

▽ポイント

▽風の谷のナウシカ
▽魔女の宅急便
▽もののけ姫
▽風立ちぬ
▽崖の上のポニョ
▽天空の城ラピュタ
▽紅の豚
▽ハウルの動く城
▽千と千尋の神隠し
▽となりのトトロ

▽アンコール

 

 

ポイント

武道館コンサート(2008)、パリ・コンサート(2017)から始まった世界ツアー、その最新版を録音したグラモフォン・アルバム『A Symphonic Celebration』(2023)です。最新版のポイントは? まずは作品ごとに一言でズバリ!その前にちょっと確認です。全作品とも堂々と声を大にして初音源化となる内容やバージョンです。それではスタート!

『風の谷のナウシカ』世界ツアー版も遂に完全版、『魔女の宅急便』世界ツアー版のためのオーケストレーション、『もののけ姫』合唱付き&日本語は世界ツアー版だけ、『風立ちぬ』新プログラム、『崖の上のポニョ』グローバルにブラッシュアップ、『天空の城ラピュタ』世界ツアー版(管楽+合唱)初登場、『紅の豚』新しいアンサンブル編成、『ハウルの動く城』オフィシャルスコアと対向配置で完全音源化、『千と千尋の神隠し』ピアノと歌の結晶、『となりのトトロ』さんぽのバージョン注目、です!

これから作品ごとにぐぐっと迫っていきます。時に細かいところに注目してしまうこともあるかもしれません。今まで聴いてたものと何が違うの?どこが違うの?となったらここを思い出してみてください。

 

クラシック名門レーベル、ドイツ・グラモフォンからのデビュー盤です。宮崎駿監督の輝かしい功績を称えるものであり、久石譲の音楽が世界に認められる瞬間です。前人未到の快挙を成し遂げてきたスタジオジブリと海外でも華々しい活躍をみせる久石譲。とは言っても前代未聞です。世界的クラシックレーベルからスタジオジブリにスポットライトを当てた作品が出ること、その第一弾に久石譲は自身の交響曲ら現代作品ではなく宮崎駿監督作品を選んだこと。映画音楽がクラシックになる日、私たちは今その道のうえを共に歩いています。

世界に聴かせたかったジブリがここにあります。久石譲のピアノでしか伝えることのできないジブリの世界があります。歌いたくなるメロディは空を翔けていく。海外オーケストラらしい空気と風の生まれる音。私たちは音楽を聴きながら自分なりのジブリ的情景を気の向くままに描くことができる。知っている曲たちの、知らなかった輝きをぜひ。

 

 

1

風の谷のナウシカ
NAUSICAÄ OF THE VALLEY OF THE WIND

オープニング「風の伝説」
ナウシカ・レクイエム
メーヴェとコルベットの戦い
遠い日々
鳥の人

The Legend of the Wind
Nausicaä Requiem
The Battle between Mehve and Corvette
The Distant Days
The Bird Man

編成特記:
合唱

全体構成は武道館/パリ/グラモフォンと変わっていませんが、楽曲ごとには変化を見てとれます。

《オープニング「風の伝説」》武道館コンサートは大規模編成、ティンパニも2台だったことから連打する幕開けもこだまして轟いています。ここの木管の入りも異なります。パリ・コンサートとグラモフォン・アルバムは一般的なオーケストラ編成になっていてティンパニは1台です。楽曲が進んでいくなかでも他の太鼓系が活躍しています。すべてはここから始まった、宮崎駿×久石譲ゴールデンコンビの歴史です。コンサートも久石譲によるピアノからメロディを奏ではじめることは象徴的です。

《ナウシカ・レクイエム》パリ・コンサートとグラモフォン・アルバムは、盛り上がりのところでティンパニロールが追加されていたり管楽器の厚みやハープ、ピッツィカートの修正などを聴くことができます。合唱パートは、『ヴェルディ:レクイエム(鎮魂ミサ曲)より「怒りの日」』のラテン語歌詞が引用されています。

《メーヴェとコルベットの戦い》パリ・コンサートとグラモフォン・アルバムは、最後にシンバルやティンパニロールが追加されています。

《遠い日々》最も改訂されている楽曲です。ひらひらとコードが展開する導入部は、パリ・コンサートとグラモフォン・アルバムは小節数が増えています。次にメロディに入ってからです。武道館コンサートは合唱です。オーケストラはストリングスが土台になっています。くり返しなしです。パリ・コンサートはスキャットで始まります。そのときチェレスタ、ハープ、グロッケンシュピールで静かに添いピッツィカートが加わっていきます。後半は合唱が入りオーケストラも広がりくり返しありになります。グラモフォン・アルバムは合唱ですがオーケストレーションは武道館/パリとも異なります。くり返しもありです。ここでの合唱声部は精緻に分かれて織りあがっています。たしかな聴きどころです。

パリ・コンサート(2017)とグラモフォン・アルバム(2023)だけを比べても大きく飛躍したようにも感じます。ここで見逃してはいけない作品があります。それは「Symphonic Poem NAUSICAÄ 2015」完全版です。グラモフォン・アルバムの《遠い日々》パートはこれとほぼ同じ構成です。久石譲は2021年インタビューで「スタジオジブリフィルムコンサート世界ツアーで使用しているオーケストレーションを関連楽曲に導入した」(交響組曲もののけ姫について)と語っています。つまり、ナウシカでいうと2017年の時には2015年版の継承はまだ据え置かれいた。世界ツアーを展開していくなかで楽曲構成やオーケストレーションを出来得るところは統一させていった。これはほかの作品でも見ることができます。

《鳥の人》武道館コンサートにはありませんが、パリ・コンサートとグラモフォン・アルバムには中間部に「風の伝説」冒頭のアルペジオが2小節入ります。ハープとピアノでグラモフォン・アルバムのほうがピアノに比重が寄って聴こえます。TV音源とCD音源の違いもあるため聴こえ方や判断は難しいところです。聴かせたかったのはもちろんCD音響のほうになるでしょう。

おまけ。エンディングのティンパニ最強音は何回鳴っているでしょうか?正解は武道館8回、パリ9回、グラモフォン8回です。交響組曲もまた8回です。2017年から2023年まで修正を重ねている小さい確かな証拠です。

最新版の風の谷のナウシカは見てきたとおり正真正銘の初音源化になります。さらにオーケストラの対向配置から混声合唱・児童合唱のステレオ配置まで完成度を極めた壮大なタペストリー、世界ツアー版も遂に完全版です。

この作品は、児童合唱(ユースコーラス)が出演しない公演ではメインの合唱団のみで歌われます。

 

 

一番目の作品ということもあって少し丁寧に長くなりました。あくまでも個人の耳で聴きとれた範囲のことを記しています。オーケストラ編成の違い、フォーメーションの違い(通常配置/対向配置)、録音環境や音質の違い(ライヴ/セッション、DVD/TV/CD)などもあって、フラットに聴き比べることは難しい面もあります。違って聴こえるようだけどスコアは同じかもしれない、ここも明らかに違うようだけど触れられていない、たくさん気づきもあると思います。以降の作品も武道館/パリ/グラモフォンの三つで進めていきます。交響組曲は突っ込んで触れていません。好きな作品をもっと楽しみたいときは合わせて聴き並べてみてください。

 

 

2

魔女の宅急便
KIKI’S DELIVERY SERVICE

海の見える街
傷心のキキ
かあさんのホウキ

A Town with an Ocean View
Heartbroken Kiki
Mother’s Broom

編成特記:
ヴァイオリン・ソロ

全体構成は武道館/パリ/グラモフォンと変わっていませんが、楽曲ごとには変化を見てとれます。

《海の見える街》サウンドトラックから「海の見える街」「大忙しのキキ」の2曲が再構成されていると言っていい楽曲です。時折コンサートでプログラム「魔女の宅急便/Kiki’s Delivery Service」として単曲演奏されることもある人気曲です。パリ・コンサートとグラモフォン・アルバムは、ピッツィカートで始まるメロディの後フルートやストリングスで奏でられるメロディに装飾が付いています。クラシカルな旋律を奏でる中間部は武道館コンサートはオーボエでしたが、後者二つはフルートからオーボエへそして木管のアンサンブルも少し変化しています。終結部は武道館コンサートは金管楽器のみでしたが、後者二つはストリングスも入りオーケストラ全体でフォルテで終わります。この曲全体に言えることで「Kiki’s Delivery Service 2018 *改訂初演」(WDO2018/未音源化)をグラモフォン・アルバムは継承しています。とりわけ後半部はジャジーなホーンセクションをはじめ華やかにリズミカルに踊っています。

《傷心のキキ》武道館コンサートは、ハープ2台だったこともあり歌い出しのメロディと伴奏とを2奏者で分け合いながらメロディラインにビブラフォンの響きが重ねられているように聴こえます。パリ・コンサートとグラモフォン・アルバムは、ハープ1台で歌い出しはハープ、ピアノらで紡がれています。さらに言うとグラモフォン・アルバムはシロフォンも加わっているようにも聴こえ、そのたった8~9小節のなかに繊細さがつまっています。

《かあさんのホウキ》武道館コンサートは、ヴァイオリン・ソロのメロディ歌い出しを久石譲によるピアノがエスコートしています。Aメロ一巡目はヴァイオリンとピアノだけにスポットが当たっている時間です。Aメロ二巡目から久石譲は指揮へ移りオーケストラも加わっていきます。パリ・コンサートとグラモフォン・アルバムは、久石譲は指揮者としてヴァイオリン・ソロを導いていきます。そのため歌い出しの伴奏は、ハープのアルペジオとピアノの伴奏音型が紡いでいます。二巡目もその流れを引き継いだままオーケストラが加わっていきます。

パリ・コンサートから新たに手を加えられたBメロのファゴットとホルンの織りなす内声がなんとも美しい。グラモフォン・アルバムはちょっと後ろに引いていますがしっかり聴こえます。そこからのカデンツァ風のヴァイオリン・ソロは奏者ごとの個性を楽しめるパートです。同じ楽器でも歌い方や響かせ方から艶感までを感じることができます。

交響組曲の《海の見える街》《傷心のキキ》《かあさんのホウキ》はいずれもオーケストレーションが異なります。比べられる箇所はいくつも挙げらると思いますが、大きくはサウンドトラックを基盤にしていること、そして何と言っても楽器編成にアコーディオンやマンドリンが入っていることです。世界ツアー版の魔女の宅急便は、一般的なオーケストラの音色パレットで最大限に描かれています。交響組曲とはまた別モノでどちらも存分に楽しむことができます。

 

 

3

もののけ姫
PRINCESS MONONOKE

アシタカせっ記
タタリ神
もののけ姫

The Legend of Ashitaka
The Demon God
Princess Mononoke

編成特記:
ソプラノ、合唱

全体構成は武道館/パリ/グラモフォンと変わっていませんが、楽曲ごとには変化を見てとれます。

《アシタカせっ記》《タタリ神》《もののけ姫》武道館コンサートの合唱付きは強烈に焼きついています。パリ・コンサートとグラモフォン・アルバムでもしっかり継承されました。その一方で交響組曲は2021年に完全版となりましたが、合唱編成は外れてあくまでもサウンドトラックに忠実にさらにダイナミックに再構築されています。合唱付き&日本語のもののけ姫が聴けるのは世界ツアー版だけです。また『The Best of Cinema Music』には全体構成は同じで合唱付き&英語で歌うもののけ姫がライヴ収録されています。

《もののけ姫》武道館コンサートは、イントロから久石譲によるピアノで一音一音降りていきます。ヴォーカルとピアノを主役にしながらオーケストラはそっと支える。1コーラスを経て最高潮に達する後半部から久石譲は指揮へ移ります。パリ・コンサートとグラモフォン・アルバムは、指揮に専念することになりオーケストレーションも修正されています。イントロの一音一音はハープとストリングスが美しい層をつくり、歌い出しからはハープとオーケストラのピアノ奏者などが伴奏フレーズを受け持っていきます。この曲はどの開催地/ソプラニストでも日本語で歌われます。作品の精神世界と日本語の美しさを伝える一曲です。ソプラノの歌唱を聴かせたい交響組曲と、ソプラノ+合唱に拮抗して絡み合ってくるホルンやトランペットの咆哮が前面に出ている世界ツアー版、この後半部の燃焼度もまたすごいです。

和太鼓・締め太鼓・チャンチキといった打楽器も登場する作品です。日本から持参されて業者も同行してなどして現地の気候で楽器メンテナンスを行い公演を迎えます。舞台裏でも多くの人が携わっている一大プロジェクトです。

 

 

ピアノと距離とオーケストレーションと。世界ツアーを展開していくなかで久石譲によるピアノパートは従来より少し減っています。指揮に重きを置くことでオーケストラの演奏やプログラム全体のコントロールもしやすくなります。映像とテンポやタイミングを合わせる演出面もあります。久石譲にとってはもう何回も重ねたプログラムであってもオーケストラはいつでも初共演でリハーサルも限られています。

武道館コンサートでの「もののけ姫」ヴォーカルとピアノのパート、「かあさんのホウキ」ソロ・ヴァイオリンとピアノのパートなど印象に残っているシーンです。ピアノはポロロンとテンポを揺らしても情感を込めてニュアンスをつけても、ステージ中央で距離も近い二者間は気配や息遣いを感じながら阿吽の呼吸でパフォーマンスできます。

世界ツアーでピアノから切り替えられるときハープやオーケストラのピアノ奏者などを絡めながらオーケストレーションの修正が施されています。このときピアノのパートは久石譲によるニュアンスを必要としない、誰が弾いてもその表現は担保される、あるいはリズムもしっかりとりやすい伴奏フレーズになっていたりもしそうです。半径3メートル内の二者間とは異なり、15メートル以上離れたオーケストラのピアノ奏者とステージ中央のソリストと、呼吸やタイミングを合わせたり音の伝達スピードも出てきたり。ピアノにハープなど他の楽器を組み合わせていることも意図や効果がありそうです。この視点から見ていくと、久石譲本人が弾いている曲やピアノパートもまた必然性がありそうです。

交響組曲も久石譲本人がピアノを弾いているパートとそうじゃないパートがあります。加えて言うなら交響組曲は音源化とスコア化とが並行して進められています。久石譲が出演しないコンサートでもスタジオジブリ交響組曲は人気プログラムです。ステージ中央にピアノの置かれない、オーケストラの後方にあることを想定して交響組曲も再構築されているのかもしれません。交響組曲の「もののけ姫」パートや「かあさんのホウキ」パートもピアノの役割や伴奏フレーズは変わっています。

 

 

4

風立ちぬ
THE WIND RISES

旅路(夢中飛行)
菜穂子(出会い)
旅路(夢の王国)

A Journey (A Dream of Flight)
Nahoko (The Encounter)
A Journey (A Kingdom of Dreams)

編成特記:
マンドリン

パリ・コンサートから加わった新プログラムです。

《旅路(夢中飛行)》マンドリンと久石譲のピアノで始まります。マンドリンのトレモロによるブリッジから久石譲は指揮へ移り曲想はオーケストラで大きく膨れあがります。

《菜穂子(出会い)》パリ・コンサートはピアノメロディでした。久石譲は前曲が終わってすぐにピアノに戻り、またこの曲が終わってすぐに指揮へ移りと忙しいパートでした。世界ツアーの途中からこの曲は指揮に専念することになり、そのメロディはマンドリンに託されます。

《旅路(夢の王国)》こちらも公演を重ねていくなかでオーケストレーションが修正されています。グラモフォン・アルバムは、細かいところではリズム系パーカッションが鳴ってる鳴ってないパートが変わっていたりします。それよりも注目したいところがあります。曲はトランペットで奏でられる美しい中間部の後クライマックスへと盛り上がっていきます。そこでトランペットは俊敏にミュート(音を抑える役割や音色を変化させる機能)を付けて伴奏のリズムを刻みそしてメロディへと加わっていきます。この音像がバヤンを模してその狙いがあるように感じてきます。バヤンはロシアあるいはウクライナの民族楽器でアコーディオンの仲間です。「風立ちぬ第2組曲」は、バラライカ、バヤン、ギターといった特殊楽器が色彩を添えています。世界ツアー版はトランペットがメロディを響かせることで気高さや力強さもまた引き立っていると感じます。

 

 

5

崖の上のポニョ
PONYO

武道館コンサート

深海牧場
海のおかあさん
波の魚のポニョ
フジモトのテーマ
ひまわりの家の輪舞曲(ロンド)
母の愛
いもうと達の活躍〜母と海の讃歌
崖の上のポニョ

パリ・コンサート
グラモフォン・アルバム

深海牧場
海のおかあさん
いもうと達の活躍~母と海の讃歌
崖の上のポニョ

Deep Sea Pastures
Mother Sea
Ponyo’s Sisters Lend a Hand – A Song for Mothers and the Sea
Ponyo on the Cliff by the Sea

編成特記:
ソプラノ、合唱

全体構成は武道館コンサートから大きく変わっています。

『もののけ姫』と同じようにすべての構成曲で合唱付きです。

《深海牧場》合唱パートは、物語に関連する単語(海、水、愛、母 etc)をラテン語で組み合わせてはめ込まれています。パリ・コンサートがTV放送された「久石譲 in パリ」ではカットされていますがしっかり本演では演奏されています。

《海のおかあさん》ソプラノによって日本語で歌われます。後半には合唱も加わっていきます。

《いもうと達の活躍~母と海の讃歌》ここまでの曲に言えることですが武道館/パリ/グラモフォンとすぐに見つけられるほどの変更点もなく引き継がれているように聴こえます。それだけ当初からオーケストレーション含めて完成されていたとも言えます。

《崖の上のポニョ》武道館コンサートは大橋のぞみほかゲストヴォーカル総出演で大合唱です。主題歌オリジナルバージョンを基調としてオーケストラサウンドでダイナミックに。当時大ヒットした主題歌は振り付けも話題になり大橋のぞみと児童合唱も一緒に振り付きで披露されました。パリ・コンサートとグラモフォン・アルバムは合唱です。児童合唱は編成されていません。ピッツィカートが奏でるAメロは弾(はじ)ける音で泡から生まれ溢れるようです。オーケストラ楽器がBメロと奏でていきサビは英語で歌われます。独特なリズミックを生む単語と弾ける発音(子音,破裂音)の英語で大合唱は相性抜群です。たくさんの泡たちが弾ける生命の力です。静かになる中間部ではピアノがメロディを奏でていますが、パリ・コンサートの時からオーケストラのピアノ奏者が担っています。

この作品は交響組曲(2023・未音源化)と比較しても断然おもしろい作品です。交響組曲は《深海牧場》も《海のおかあさん》も曲尺は長くオーケストレーションもさらに精緻です。《崖の上のポニョ》も英語で大合唱は共通していますが終盤に聴かれる海から空まで高く昇っていくごとく讃歌する大転調は圧巻です。そうは言っても今はまだ音源がない。武道館コンサートからの進化で披露された「久石譲 3.11 東日本大震災チャリティー・コンサート」で世界ツアー版の基盤は出来上がっています。残念ながらコンサートを収めたライブアルバム『The Best of Cinema Music』には収録されていません。このたびグローバルにブラッシュアップされて初音源化です。

 

 

—-intermission—-

 

 

次回《後編》につづく

 

 

 

 

Blog. ジブリフィルムコンサートを聴く(武道館/パリ/グラモフォン)《前編》

Posted on 2025/2/20

ジブリフィルムコンサートの歴史をみていきます。2008年開催『久石譲 in 武道館 ~宮崎アニメと共に歩んだ25年間~』コンサート、2017年から世界ツアーが始まった『JOE HISAISHI SYMPHONIC CONCERT:Music from the Studio Ghibli Films of Hayao Miyazaki』コンサート、その第1回パリ公演の模様がTV放送された『久石譲 in パリ -「風の谷のナウシカ」から「風立ちぬ」まで 宮崎駿監督作品演奏会-』、これらを総評してここではジブリフィルムコンサートとしています。また同コンサートをほぼ完全コンパイルしたドイツ・グラモフォンからのアルバム『A Symphonic Celebration』もとなりに並べます。スタジオジブリと久石譲が仕掛ける一大プロジェクトに迫ります。

 

 

2025.07.20 update
コンサート軌跡に「久石譲スタジオジブリ フィルムコンサート ツアーファイナル」を追加しました。

 

 

▽プログラム
▽出演/楽器編成
▽歌
▽参考作品(DVD/TV/CD)
▽MUSIC VIDEO
▽INTERVIEW VIDEO
▽コンサート軌跡

▽ポイント

▽風の谷のナウシカ
▽魔女の宅急便
▽もののけ姫
▽風立ちぬ
▽崖の上のポニョ
▽天空の城ラピュタ
▽紅の豚
▽ハウルの動く城
▽千と千尋の神隠し
▽となりのトトロ

▽アンコール

 

 

プログラム

久石譲 in 武道館(2008)

1. 風の谷のナウシカ
2. もののけ姫
3. 魔女の宅急便
4. 崖の上のポニョ
5. 天空の城ラピュタ
6. 紅の豚
7. ハウルの動く城
8. 千と千尋の神隠し
9. となりのトトロ
ーアンコールー

初のオール・ジブリ・プログラムは夢の一大イベントでした。キャッチコピーに【『崖の上のポニョ』公開記念】ともあり同作品から多くの楽曲が選ばれたこともまた特徴です。多彩なゲストヴォーカルも話題を集めました。ケタ違いの楽器編成は追って見ていきます。

 

 

久石譲 in パリ(2017)

1. 風の谷のナウシカ
2. もののけ姫
3. 魔女の宅急便
4. 風立ちぬ
5. 崖の上のポニョ
6. 天空の城ラピュタ
7. 紅の豚
8. ハウルの動く城
9. 千と千尋の神隠し
10. となりのトトロ
ーアンコールー

あの感動ふたたび。待望の再公演は日本でなくパリで開催されたことも驚き駆け巡りました。バージョンアップしたプログラムは2013年公開作品『風立ちぬ』が新しく加わり『崖の上のポニョ』はバランスよく短縮されました。そして予想もしていなかった世界ツアーへと広がっていきます。公演ごとにますます磨きがかかり出演者によってそのパフォーマンスを変えるものもあります。『天空の城ラピュタ』はマーチングバンドあり・なしでは演奏形態も構成曲も異なります。『千と千尋の神隠し』は当初「あの夏へ(いのちの名前)」がピアノソロ版かピアノ&ヴォーカル版かの候補がありました。また作品ごとに見ていきます。

 

 

A Symphonic Celebration(2023)

1. 風の谷のナウシカ
2. 魔女の宅急便
3. もののけ姫
4. 風立ちぬ
5. 崖の上のポニョ
6. 天空の城ラピュタ
7. 紅の豚
8. ハウルの動く城
9. 千と千尋の神隠し
10. となりのトトロ

2008年武道館コンサートから15年、色褪せることなくさらに輝き放つ未来で待ってた音源化です。2017年パリ・コンサート(久石譲 in パリ)を経て第2回開催となった2018年メルボルン公演から『魔女の宅急便』と『もののけ姫』の順番は入れ替わります。『天空の城ラピュタ』はマーチングバンドではない管楽+合唱が収録されています。『千と千尋の神隠し』は公演を重ねて定着していったピアノ&ヴォーカル版が収録されています。コンサートのアンコールにあたる楽曲は残念ながら収録されていません。詳細はこれからたっぷりと見ていきます。

 

 

 

出演/楽器編成

久石譲 in 武道館(2008)

指揮・ピアノ:久石譲
管弦楽:新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ
合唱:栗友会合唱団、東京少年少女合唱隊、一般公募コーラス隊
マーチングバンド:京華女子中学高等学校マーチングバンド部、中央区立日本橋中学校吹奏楽部、川崎市立橘高等学校吹奏楽部、川崎市立高津高等学校吹奏楽部
ゲストヴォーカリスト:藤岡藤巻と大橋のぞみ、林正子、平原綾香、麻衣

フルート5(バスフルート持替)、ピッコロ1、オーボエ4、イングリッシュホルン1、クラリネット5、バスクラリネット1、ファゴット4、コントラファゴット1、ホルン8、トランペット8、トロンボーン(バストロンボーン)8、テューバ1、アルトサックス1、テナーサックス1、ティンパニ2、パーカッション群、ハープ2、ピアノ(チェレスタ)2、弦楽5部 [通常配置]

(*楽器編成はDVD映像目視による)

 

【200名の大オーケストラ、800人の大合唱団、160人のマーチングバンド、そして素晴らしいゲストヴォーカリストと、総勢1160人もの超大規模編成による演奏】(メーカー・インフォメーションより)とあるとおり、とにかく夢の巨大編成です。弦楽5部は弦24型で第1ヴァイオリン24、第2ヴァイオリン22、ヴィオラ20、チェロ18、コントラバス16です。木管も6管編成、ほかにはホルン8、トランペット8、トロンボーン8などとケタ違いです。ピンとこないですよね。

『マーラー:交響曲第8番「千人の交響曲」』の初演は1030人(演奏可能は850人)です。また大編成で有名な『ストラヴィンスキー:春の祭典』は弦16型5管編成です。これらを超えるスケールになります。例えば弦楽器だけをみても弦24型100人vs弦16型60人とその差は歴然です。

多彩なパーカッション群その全てを書き出すことはできませんでしたが、太鼓・シンバルなどのリズム系に、グロッケンシュピールやマリンバなどの鍵盤打楽器です。作品ごとに様々なパーカッションを6人で慌ただしく複数楽器を担当しています。それに加えてダブル・ティンパニ、ハープ2、ピアノ(チェレスタ)2などとこちらも大所帯です。

「久石譲 in 武道館」は再現不可能!? 一度きりのメモリアル開催と言われてもしょうがない!? それほど奇跡的な歴史的な大規模編成コンサートです。特注で作られた88メートル×約162メートルの巨大スクリーンも音楽と映像の絶妙なバランスを演出しています。

 

 

久石譲 in パリ(2017)

指揮・ピアノ:久石譲
管弦楽:ラムルー管弦楽団
合唱:ラムルー合唱団、ラ・メトリーズ・デ・オー・ドゥ・セーヌ
ソプラノ:エレーヌ・ベルナルディー
ヴォーカル:麻衣
マンドリン:マチュー・サルテ・モロー
マーチングバンド:(5団体による合同演奏)

フルート3(ピッコロ持替)、オーボエ3(イングリッシュホルン持替)、クラリネット3(バスクラリネット持替)、ファゴット2、コントラファゴット1、ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、バストロンボーン1、テューバ1、ティンパニ1、パーカッション群、ハープ1、ピアノ(チェレスタ)1、弦楽5部 [対向配置]

(*楽器編成はTV映像目視による)

 

弦楽5部は弦14型で第1ヴァイオリン14、第2ヴァイオリン12、ヴィオラ10、チェロ8、コントラバス6です。木管も3管編成になります。ここで大きく注目したいのは、一般的なオーケストラの編成規模にあたるということです。多くのオーケストラ団体が所属団員だけでやれる。客演はパーカッション群やピアノ奏者などを招聘してぐっと実現可能になる。それでもパリ・コンサートもパーカッション群6人いたりはします。

合唱は約70名に児童合唱(ユースコーラス)の約30名です。マーチングバンドはおそらく5団体ほどが合同演奏しています。ソプラノ、ヴォーカル、マンドリンと作品に華を添えるゲストを迎えています。世界ツアーを展開できる編成規模が確立されたと言えます。

さらに深堀りして見ていくと、出演者に左右されないプログラム構成を目指していくことになります。これだけ多くのオーケストラ奏者やゲスト出演のスケジュールを交渉していくだけでも大変です。輪をかけてマーチングバンドや児童合唱(ユースコーラス)の出演スケジュールや事前練習・合同リハーサルまで入れると一つ一つのコンサートが一大イベントであることがわかります。そこでマーチングバンドあり・なし、児童合唱あり・なし、公演によって演奏形態を変えられるパターンもまた練り上げられていきました。こうやって世界ツアーの盤石なパッケージが築き上げられていった。出演/楽器編成の変遷から浮き上がってくる重要なポイントです。世界ツアーを可能にしたのは巨大編成から一般編成への大きな転換、そこから必要になる作品オーケストレーションの修正、こうなると作品の聴き方がぐっと面白くなってきます。

 

巨大スクリーンもグレードアップしています。2020年3月メルボルン公演は初の野外開催となりました。その時登場した巨大スクリーンの数は5基?5台?とにかく5つです。ステージに3つと会場中部に2つ、どこからでも映像と音楽そのどちらも楽めるように。世界ツアーはいつでもどこでも熱狂と安定のSOLD OUT、さらに応えるように会場も選択肢が広がっていきます。以降、大ホール・多目的アリーナ・スタジアム・屋外といった大規模会場では巨大スクリーンが3つ設置される公演も出てきます。常に空気を感じとりながら進化しているジブリフィルムコンサートです。

 

 

A Symphonic Celebration(2023)

指揮・ピアノ:久石譲
管弦楽:ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団
ヴァイオリン・ソロ:スティーブン・モリス
合唱:バッハ合唱団、ティフィン少年合唱団
ソプラノ:グレース・デイヴィッドソン
ヴォーカル:麻衣
マンドリン:アヴィ・アヴィタル

弦14型3管編成 [対向配置]

(*楽器編成はMV映像目視による)

 

パリ・コンサートと同じ編成規模になります。世界ツアーを展開するパッケージ(プログラム/出演/楽器編成)をスペックしています。『天空の城ラピュタ』はマーチングバンドではない管楽+合唱が収録されています。

映画『007』シリーズや『ロード・オブ・ザ・リング』の録音や大物ポップミュージシャンらと共演歴のあるスティーブン・モリスさんをゲスト・コンサートマスターに迎え、グラモフォン専属アーティストのアヴィ・アヴィタルさん、マックス・リヒターのアルバム『SLEEP』『VOICES』などにも参加、ジブリフィルムコンサートはじめ数々の久石譲コンサートでも共演を重ねているグレース・デイヴッドソンさん、そして武道館コンサートはじめ久石譲コンサートやアルバムで多数共演している麻衣さんです。

 

 

 

日本語ver.

  • もののけ姫
  • 海のおかあさん
  • 君をのせて
  • あの夏へ(いのちの名前) **
  • ふたたび
  • となりのトトロ

英語ver.

  • 崖の上のポニョ
  • あの夏へ(いのちの名前) **
  • さんぽ
  • アシタカとサン

 

ジブリフィルムコンサートで歌われる曲は9曲ほどあります。武道館コンサートは全て日本語で歌われます。パリ・コンサートから始まった世界ツアーは日本語と英語とに振り分けられています。作品の精神世界を表現したいものや日本語の美しさを伝えたいもの、一緒に口ずさんでほしいものやダイレクトに伝えたいもの、など様々な意図で選ばれているのだろうと思います。またここにある中で作詞:宮崎駿の曲「もののけ姫」「君をのせて」「となりのトトロ」は日本語で歌われています。今日まで引き継がれています。

2022年頃から「あの夏へ(いのちの名前)」は公演ごとの出演ヴォーカリストによって日本語ver.と英語ver.が候補になっていきます。グラモフォン・アルバムはそのどちらも特別収録されています。また作品のところで見ていきます。

 

 

 

参考作品

久石譲 in 武道館 ~宮崎アニメと共に歩んだ25年間~ DVD

コンサートの本編からアンコールまでその全てを完全収録した映像作品です。音響も素晴らしくこれだけの大規模編成とりわけ豊潤なストリングスを堪能できるのは大変貴重です。映像特典には、メイキングのほか巨大スクリーンに映し出されたスクリーン・アニメも収録されています。同コンサートのポスターは宮崎駿監督が描き下ろし、それはコンサートグッズやBlu-ray/DVDジャケットにも使われています。映画たちと一緒で長く愛され楽しまれているジブリがいっぱいコレクションのひとつ、永久保存盤です。

 

 

2017年6月9,10日開催「JOE HISAISHI SYMPHONIC CONCERT:Music from the Studio Ghibli Films of Hayao Miyazaki」コンサートの模様をTV放送した番組『久石譲 in パリ -「風の谷のナウシカ」から「風立ちぬ」まで 宮崎駿監督作品演奏会-』(初回放送:2017年9月6日)です。大好評を博した同番組はその後もNHK BSプレミアム/NHS BS4K(当時のチャンネル名)で再放送、2020年にはNHK総合で地上波放送されたことでさらに大反響を呼びました。2022年、2023年にもNHK BSプレミアムで再放送されたのが現時点の最新です。

2008年『久石譲 in 武道館』からバージョンアップしています。しかもこの時はまだ世界ツアーの記念すべき第1回として刻まれるとも翌2018年に第2回・第3回と開催されていくとも夢にも思っていない。TV放送では『崖の上のポニョ』より「深海牧場」、『天空の城ラピュタ』より「大樹」、そしてアンコールがカットされた約1時間半の番組構成になっています。

 

 

ドイツ・グラモフォンからのデビュー盤にして「ジブリフィルムコンサート」をほぼ完全コンパイルした企画盤です。世界ツアーの最新版がコンサートのライヴ録音ではなく教会でセッション録音されています。フィジカル/デジタルで世界同日発売されました。米国ビルボード2部門で1位を獲得したほか世界のクラシック・チャートを席巻し話題を呼んでいます。全作品とも堂々と声を大にして初音源化となる内容やバージョンです。詳細はこれからたっぷりと見ていきます。

アルバムジャケットは映画『ハウルの動く城』からの背景画が選ばれています。発売当時この絵についてSNS上で質問したところ豊富に精通したジブリファンの方から丁寧ピンポイントな回答をいただきました。ありがとうございます。それは「映画本編の約14:50あたり、ソフィーが荒地を登っていくカットの足元」「このカットの2カット後」とスタジオジブリ提供の場面写真付きでした。まさにでした。

 

 

アルバムジャケットに荒地を選んだ真意は何か?これもまた好奇心をそそられるお題です。ハウルや荒地の魔女と同じように久石譲もまた荒地に棲む音楽の魔法使いなのか。はたまた、映画終盤の荒地でのシーン、バラバラな人たちが家族になっていくように、この音楽で世界中のバラバラな人たちがつながることを夢見ているのか、お互いに手を取り合う未来へと希望を抱いているのか。はたまた、誰も足を踏み入れなかった荒地から新しい一歩を切り拓いていこうとする音楽家久石譲の意志の表れか。ここから始まる場所なのか、いよいよ到達した場所なのか。アルバムを受け取った一人一人がジャケットを眺めながら想いを描くことができそうですね。

 

 

 

またアルバムに先駆けて先行リリースされた「人生のメリーゴーランド」のジャケットには『風立ちぬ』からの背景画が使われています。

 

 

 

 

MUSIC VIDEO

アルバムリリースを記念してミュージックビデオも公開されました。

 

Joe Hisaishi – Merry-Go-Round of Life (from “Howl’s Moving Castle”)

Joe Hisaishi – Merry-Go-Round of Life (Visualizer)

Joe Hisaishi – Mother’s Broom (from Kiki’s Delivery Service)

Joe Hisaishi – Mother’s Broom (Visualizer)

Joe Hisaishi – A Town with an Ocean View

Joe Hisaishi – A Town with an Ocean View (Visualizer)

Joe Hisaishi – One Summer’s Day (English Version) featuring Grace Davidson

Joe Hisaishi – One Summer’s Day (English Version) featuring Grace Davidson (Visualizer)

from Joe Hisaishi Official YouTube

 

 

INTERVIEW VIDEO

Joe Hisaishi – A Symphonic Celebration Interview

Joe Hisaishi – Interview (Steve Quigley)

Joe Hisaishi – Interview (Grace Davidson)

Joe Hisaishi – Interview (Avi Avital)

from Joe Hisaishi Official YouTube

 

 

コンサート軌跡

 

 

次回《中編》につづく

 

 

 

 

Blog. 『NHKスペシャルドラマ 坂の上の雲』楽曲解説(8)第3部(第十回~第十三回)使用楽曲

osted on 2024/10/22

つづけて、第3部(第十回~第十三回)使用楽曲をみていきましょう。

 

 

 

*間違いがあったら修正お願いします

*<89分版>オリジナル版をもとにしています

*<44分版>は編集に伴い音楽の追加・削除・差し替えなど一部異なる放送回があります(第十回/第十二回/第十三回)

*<44分版>第3部のエンディング曲は「Stand Alone (Vocalise) サラ・ブライトマン×久石譲」 [1] [総] へ変更になっています

 

 

第3部

第十回 旅順総攻撃

  • 第三部 序章 [3] [総]
  • 00:04:55- 未収録楽曲(オーケストラ)*第六回/第七回/第十三回
  • 獣たちの宴 [3]
  • 二人の将 [3]
  • 00:18:05- 強国ロシア [2] 未収録ver.(コーラスなし、オーケストレーション)*第六回/第七回/第八回/第九回
  • 戦争の悲劇 [1]
  • 海と命と [3]
  • 狼煙 [2]
  • 煉獄と浄罪 [3]
  • 00:37:55- 強国ロシア [2] 未収録ver.(コーラスなし、オーケストレーション)*第六回/第七回/第八回/第九回
  • 疵 [2]
  • 00:46:00- 二人の将 [3] 未収録ver.1(調性、オーケストレーション)
  • 00:50:45- 若き精鋭たち [2] 未収録ver.3(冒頭ホルン独奏、オーケストレーション)*第十一回/第十二回/第十三回
  • 00:54:30- 終曲 [3] 未収録ver.1(調性、オーケストレーション)
  • 破局の始まり [2]
  • 00:59:20- 戦争の悲劇 [1] 未収録ver.(調性、オーケストレーション)
  • 01:04:20 蹉跌 [1] 未収録ver.2(後半部調性、オーケストレーション)
  • 01:07:05- 未収録楽曲(パーカッションのみ)
  • 疵 [2]
  • 二人の将 [3]
  • 偵察 [2]
  • 開戦への決意 [2]
  • Stand Alone 久石譲×麻衣 [3] [総]

 

 

第十一回 二〇三高地

  • 00:00:00- 旅立ち [1] 未収録ver.1(Piano & Strings)*第一回/第二回/第四回/第七回/第八回/第十三回
  • 蹉跌 [1]
  • 偵察 [2]
  • 戦争の悲劇 [1]
  • 時代の風 [1] [総]
  • 海と命と [3]
  • 疵 [2]
  • 開戦への決意 [2]
  • 二人の将 [3]
  • 獣たちの宴 [3]
  • 激動 [1]
  • 00:37:00- 若き精鋭たち [2] 未収録ver.3(冒頭ホルン独奏、オーケストレーション)*第十回/第十二回/第十三回
  • 偵察 [2]
  • 狼煙 [2]
  • 蹉跌 [1]
  • 二人の将 [3]
  • 律 ~愛と悲しみ~ [2]
  • 絶望の砦 ~二〇三高地二起ツ~ [3] [総]
  • 01:15:00- Stand Alone for Orchestra [1] 未収録ver.2(調性、オーケストレーション)*第十三回
  • 少年の国 for Woodwinds & Strings [2]
  • 01:21:55- 二人の将 [3] 未収録ver.2 (調性、オーケストレーション)
  • Stand Alone 久石譲×麻衣 [3] [総]

 

 

第十二回 敵艦見ゆ

  • 00:00:00- 開戦への決意 [2] 未収録ver.(調性、オーケストレーション)
  • 00:00:50- 蹉跌 [1] 未収録ver.3(調性、オーケストレーション)
  • 獣たちの宴 [3]
  • Human Love [1] [総]
  • 偵察 [2]
  • 旅立ち [1] [総]
  • 戦争の悲劇 [1]
  • 煉獄と浄罪 [3]
  • 孤影悄然 [3]
  • 二人の将 [3]
  • 疵 [2]
  • 少年の国 for Woodwinds & Strings [2]
  • 00:33:40- 若き精鋭たち [2] 未収録ver.3(冒頭ホルン独奏、オーケストレーション)*第十回/第十一回/十三回
  • 律 ~愛と悲しみ~ [2]
  • 絶望の砦 ~二〇三高地二起ツ~ [3] [総]
  • 獣たちの宴 [3]
  • 少年の国 [2] [総]
  • 海と命と [3]
  • 二人の将 [3]
  • 列強と日本 [2]
  • 戦争の悲劇 [1]
  • 終曲 [3]
  • 破局の始まり [2]
  • ガキ大将!真之 [2]
  • Stand Alone (Vocalise) サラ・ブライトマン×久石譲 [1] [総]
  • 狼煙 [2]
  • 天気晴朗ナレドモ波高シ [3] [総]
  • Stand Alone 久石譲×麻衣 [3] [総]

 

 

第十三回 日本海海戦

  • 広瀬の最期 [2] [総]
  • 激動 [1]
  • 破局の始まり [2]
  • 偵察 [2]
  • 日本海海戦 [3] [総]
  • 列強と日本 [2]
  • 00:22:15- 若き精鋭たち [2] 未収録ver.3(オーケストレーション)*第十回/第十一回/第十二回
  • 開戦への決意 [2]
  • 絶望の砦 ~二〇三高地二起ツ~ [3] [総]
  • 獣たちの宴 [3]
  • 00:37:10- 未収録楽曲(オーケストラ)*第六回/第七回/第十回
  • Human Love [1] [総]
  • 若き精鋭たち [2]
  • 00:47:00- 旅立ち [1] 未収録ver.1(Piano & Strings)*第一回/第二回/第四回/第七回/第八回/第十一回
  • 律 ~愛と悲しみ~ [2]
  • AIR [3]
  • 蹉跌 [1]
  • Human Love [1] [総]
  • 赤い花 [3]
  • 01:14:05- 広瀬 ~快活な人物~ [2] 未収録ver.(調性、オーケストレーション)*第六回/第七回/第九回
  • 旅立ち [1] [総]
  • 01:22:00- 終曲 [3] 未収録ver.2(調性、オーケストレーション)
  • 01:23:10- Stand Alone for Orchestra [1] 未収録ver.2(調性、オーケストレーション)*第十一回
  • Stand Alone 久石譲×麻衣 [3] [総]

 

 

 

一口コメント

第3部で一番使われたサントラ楽曲は「偵察」(5回)です。もっと広げて、アレンジ・ヴァージョンや未収録ver.も含めたテーマからみると「Stand Alone」(11回)「蹉跌」「戦争の悲劇」「若き精鋭たち」「二人の将」「獣たちの宴」(各5回)「旅立ち」「疵」(各4回)などになります。

「二人の将」はサントラver.とサントラ未収録ver.1,2の三つがあります。各半音ずつキー(調性)が異なります。どの場面では半音下がったものが、どの場面では半音上がったものが使われているのか、それぞれにしっかりと意図がありそうです。「終曲」もまた同様にサントラver.とサントラ未収録ver.1,2の三つがあります。各半音ずつキー(調性)が異なります。「Stand Alone for Orchestra」もまた同様です。

「大地と命と」「運命の死地」は本編では使われていません。(4)サウンドトラック 頁をご覧ください

 

 

『坂の上の雲』それは音楽:久石譲もスペシャルだった作品です。第1部から第3部まで3枚のサウンドトラックと総集編アルバムがリリースされました。ひとつの作品での楽曲の多さは手がけた映画・ドラマと見渡しても歴代指折りです。その世界観を彩る主要楽曲たちは全3部を連なって流れることで物語を大きく有機的に結びつけています。また、映画ワンシーンのために書かれたような特別なシーンにしか流れない楽曲ももったいないほどに充実しています。余すところなく曲尺も長く見ごたえ聴きごたえたっぷりです。久石譲が音楽担当した作品において、ぶれることのない作品世界観から音楽を書くアプローチと、そこへ映画的手法とドラマ的手法を合わせるという、音楽:久石譲の醍醐味を高い次元で昇華させた記念碑作品です。もっと注目されるべき聴かれるべきはもちろんのこと、もっと演奏されてしかり、いまの時代が現代社会が強く求めていると感じています。

 

 

久石譲はこう語っています。

「約80曲つくった。今回の作品は現代音楽からメロディアスな音楽まで、自分が作ってきたすべてを総動員して力を入れて作った」

 

 

一番使用されたサントラ曲

Track.

  • 9. Human Love [1] [総] 12回
  • 11. 戦争の悲劇 [1] 12回
  • 6. 疵 [2] 12回
  • 8. 狼煙 [2] 12回
  • 7. 偵察 [2] 11回

 

 

一番使用されたテーマ

(メロディ/モチーフ/アレンジver./未収録ver. 含む)

  • Stand Alone 44回
  • 時代の風 25回
  • 旅立ち 24回
  • 少年の国 18回
  • 若き精鋭たち 13回

 

 

全3部を通して一回だけ使用された曲

Track.

  • 8. 最後のサムライ [1](第1部 第三回)
  • 4. ふるさと ~松山~ [1](第1部 第四回)
  • 17. 大英帝国のテーマ [3](第2部 第六回)
  • 20. 奸計 [2](第2部 第九回)
  • 1. 第三部 序章 [3] (第3部 第十回)
  • 2. 孤影悄然 [3](第3部 第十二回)
  • 8. 天気晴朗ナレドモ波高シ [3](第3部 第十二回)
  • 11. 日本海海戦 [3](第3部 第十三回)
  • 9. AIR [3](第3部 第十三回)

 

 

サントラ未収録ver.一覧(全3部)

  • Stand Alone サラ・ブライトマン×久石譲 未収録ver.(以下同)
  • 時代の風 ver.1,2
  • 旅立ち ver.1,2,3
  • 青春
  • 蹉跌 ver.1,2,3
  • 戦争の悲劇
  • Stand Alone for Orchestra ver.1,2
  • 少年の国
  • 奇跡の時 ver.1,2
  • 偵察
  • 終の住処
  • 広瀬 ~快活な人物~
  • 若き精鋭たち ver.1,2,3
  • 真之と季子
  • 強国ロシア
  • 開戦への決意
  • 二人の将 ver.1,2
  • 終曲 ver.1,2
  • 獣たちの宴

(ふらいすとーん調べ)

 

 

*サントラ未使用曲/サントラver.未使用曲は(4)サウンドトラック 頁をご覧ください

 

 

 

New!
2024年テレビ一挙再放送に連動するように、これまで『サウンドトラック 総集編』のみサブスク解禁となっていたりの音楽ストリーミング・サービスも、2024年9月3日『サウンドトラック 1・2・3』を加えた全4アルバムが一挙ラインナップ!この作品に触れる視聴者からリスナーまで広くグローバルに聴き楽しめるようになりました。

 

 

最後まで読んでいただきありがとうございます。

 

『NHKスペシャルドラマ 坂の上の雲』楽曲解説

(1)イントロダクション
(2)語られたこと
(3)Stand Alone
(4)サウンドトラック
(5)組曲
(6)第1部(第一回~第五回)使用楽曲
(7)第2部(第六回~第九回)使用楽曲
(8)第3部(第十回~第十三回)使用楽曲

 

 

Blog. 『NHKスペシャルドラマ 坂の上の雲』楽曲解説(7)第2部(第六回~第九回)使用楽曲

Posted on 2024/10/20

つづけて、第2部(第六回~第九回)使用楽曲をみていきましょう。

 

 

 

*間違いがあったら修正お願いします

*<89分版>オリジナル版をもとにしています

*<44分版>は編集に伴い音楽の追加・削除・差し替えなど一部異なる放送回があります(第九回)

 

 

第2部

第六回 日英同盟

  • Stand Alone for Orchestra [1] [総]
  • 00:02:30- 旅立ち [1] 未収録ver.2 (調性、オーケストレーション)
  • 00:06:00- 未収録楽曲(オーケストラ)*第七回/第十回/第十三回
  • 00:08:20- 広瀬 ~快活な人物~ [2] 未収録ver.(調性、オーケストレーション)*第七回/第九回/第十三回
  • 偵察 [2]
  • 列強と日本 [2]
  • 律 ~愛と悲しみ~ [2]
  • Human Love [1] [総]
  • 少年の国 III [3]
  • 戦争の悲劇 [1]
  • アリアズナ [2] [総]
  • 戦争の悲劇 [1]
  • 狼煙 [2]
  • 獣たちの宴 [3]
  • 疵 [2]
  • 大英帝国のテーマ [3]
  • 蹉跌 [1]
  • 01:04:20- 若き精鋭たち [2] 未収録ver.1(冒頭ホルン独奏、パーカッションなし、オーケストレーション)*第七回/第八回
  • 01:09:20- 強国ロシア [2] 未収録ver.(コーラスなし、オーケストレーション)*第七回/第八回/第九回/第十回
  • 慕情 [2]
  • 若き精鋭たち [2]
  • Stand Alone 歌/森麻季 [2] [総]

 

 

第七回 子規、逝く

  • Stand Alone for Orchestra [1] [総]
  • 奇跡の時 [2]
  • 00:07:25- 若き精鋭たち [2] 未収録ver.1(冒頭ホルン独奏、パーカッションなし、オーケストレーション)*第六回/第八回
  • 00:10:00- 真之と季子 [2] 未収録ver.(チェレスタ、オーケストレーション)*第八回
  • Stand Alone for Violin & Violoncello [2]
  • 赤い花 [3]
  • 律 ~愛と悲しみ~ [2]
  • 偵察 [2]
  • 00:27:25- 広瀬 ~快活な人物~ [2] 未収録ver.(調性、オーケストレーション)*第六回/第九回/第十三回
  • 00:30:30- 時代の風 [1] 未収録ver.1(主旋律の入れ出し、オーケストレーション)*第二回/第五回
  • 00:32:45- 強国ロシア [2] 未収録ver.(コーラスなし、オーケストレーション)*第六回/第八回/第九回/第十回
  • 蹉跌 [1]
  • 開戦への決意 [2]
  • 赤い花 [3]
  • 律 ~愛と悲しみ~ [2]
  • 00:52:25- 終の住処 [2]  未収録ver.(オーケストレーション)*第三回/第五回
  • Stand Alone with Piano サラ・ブライトマン×久石譲 [1] [2] [3]
  • 01:02:05- 未収録楽曲(オーケストラ)*第六回/第十回/第十三回
  • 少年の国 for Woodwinds & Strings [2]
  • 01:13:45- 若き精鋭たち [2] 未収録ver.1(冒頭ホルン独奏、パーカッションなし、オーケストレーション)*第六回/第八回
  • 01:19:05- 真之と季子 [2] 未収録ver.(チェレスタ、オーケストレーション)*第八回
  • 01:21:50- 旅立ち [1] 未収録ver.1(Piano & Strings)*第一回/第二回/第四回/第八回/第十一回/第十三回
  • 激動 [1]
  • Stand Alone 歌/森麻季 [2] [総]

 

 

第八回 日露開戦

  • Stand Alone for Orchestra [1] [総]
  • 00:02:00- 獣たちの宴 [3] 未収録ver.(コーラスなし)
  • 00:05:55- 真之と季子 [2] 未収録ver.(チェレスタ、オーケストレーション)*第七回
  • 00:08:35- 旅立ち [1] 未収録ver.1(Piano & Strings)*第一回/第二回/第四回/第七回/第十一回/第十三回
  • Stand Alone for Violin & Violoncello [2]
  • 蹉跌 [1]
  • 獣たちの宴 [3]
  • 広瀬 ~快活な人物~ [2]
  • 少年の国 for Woodwinds & Strings [2]
  • 00:31:00- 未収録楽曲(オーケストラ)*第二回/第三回/第五回
  • 偵察 [2]
  • 00:37:10- 時代の風 [1] 未収録ver.2(オーケストレーション)*第三回/第四回/第五回
  • 疵 [2]
  • 00:44:10- 若き精鋭たち [3] 未収録ver.2(中間部オーケストレーション)
  • 律 ~愛と悲しみ~ [2]
  • 戦争の悲劇 [1]
  • 旅立ち [1] [総]
  • 狼煙 [2]
  • 01:08:00- 疵 [2] 未収録ver.(トランペットなし、オーケストレーション)
  • 01:12:20- 強国ロシア [2] 未収録ver.(コーラスなし、オーケストレーション)*第六回/第七回/第九回/第十回
  • 狼煙 [2]
  • 01:19:55- 若き精鋭たち [2] 未収録ver.1(冒頭ホルン独奏、パーカッションなし、オーケストレーション)*第六回/第七回
  • 開戦への決意 [2]
  • Stand Alone 歌/森麻季 [2] [総]

 

 

第九回 広瀬、死す

  • Stand Alone for Orchestra [1] [総]
  • 開戦への決意 [2]
  • 00:06:55- 旅立ち [1] 未収録ver.3(後半部調性、オーケストレーション)
  • 00:09:00- 未収録楽曲(ピアノ、パーカッション)
  • 獣たちの宴 [3]
  • 列強と日本 [2]
  • アリアズナ [2] [総]
  • 00:20:20- 強国ロシア [2] 未収録ver.(コーラスなし、オーケストレーション)*第六回/第七回/第八回/第十回
  • 時代の風 [1] [総]
  • 偵察 [2]
  • 奸計 [2]
  • Stand Alone for Violin & Violoncello [2]
  • 戦争の悲劇 [1]
  • 疵 [2]
  • 少年の国 for Woodwinds & Strings [2]
  • 若き精鋭たち [2]
  • 00:53:00- 広瀬 ~快活な人物~ [2] 未収録ver.(調性、オーケストレーション)*第六回/第七回/第十三回
  • 慕情 [2]
  • 律 ~愛と悲しみ~ [2]
  • 列強と日本 [2]
  • 破局の始まり [2]
  • 時代の風 [1] [総]
  • 狼煙 [2]
  • 広瀬の最期 [2] [総]
  • Stand Alone with Piano サラ・ブライトマン×久石譲 [1] [2] [3]
  • 若き精鋭たち [2]
  • Stand Alone 歌/森麻季 [2] [総]

 

 

 

一口コメント

第2部で一番使われたサントラ楽曲は「律 ~愛と悲しみ~」(5回)です。第2,3部と正岡律の登場しない場面でも流れています。登場人物ごとにテーマをつけるのではなく、その時代の若者達を群像としてとらえてテーマを書いていることがわかります。ここでは「愛と悲しみ」のテーマ、作品のなかで哀歌(エレジー)として幾度響いています。

もっと広げて、アレンジ・ヴァージョンや未収録ver.も含めたテーマからみると「Stand Alone」(13回)「若き精鋭たち」(8回)「旅立ち」(6回)などになります。また第1部と同じく「疵」(5回)です。全編をとおして鎮魂(レクイエム)のように響く楽曲です。

『サウンドトラック 2』はロシアが色濃く反映された楽曲が並んでいます。第1部未収録楽曲も合わせて、時代の渦の重厚さに覆われています。『同 1』とはまた違った世界観を堪能できるアルバムです。「アリアズナ」で使われているバラライカはロシアの楽器です。映画『風立ちぬ』(2013)でも登場することになります。

「真之と季子」「強国ロシア」は本編ではサントラ未収録ver.のみが使われています。(4)サウンドトラック 頁をご覧ください

 

 

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2024年テレビ一挙再放送に連動するように、これまで『サウンドトラック 総集編』のみサブスク解禁となっていたりの音楽ストリーミング・サービスも、2024年9月3日『サウンドトラック 1・2・3』を加えた全4アルバムが一挙ラインナップ!この作品に触れる視聴者からリスナーまで広くグローバルに聴き楽しめるようになりました。

 

 

次回は、第3部使用楽曲です。

 

『NHKスペシャルドラマ 坂の上の雲』楽曲解説

(1)イントロダクション
(2)語られたこと
(3)Stand Alone
(4)サウンドトラック
(5)組曲
(6)第1部(第一回~第五回)使用楽曲
(7)第2部(第六回~第九回)使用楽曲
(8)第3部(第十回~第十三回)使用楽曲

 

 

Blog. 『NHKスペシャルドラマ 坂の上の雲』楽曲解説(6)第1部(第一回~第五回)使用楽曲

Posted on 2024/10/17

つづけて、第1部(第一回~第五回)使用楽曲をみていきましょう。

 

 

 

*間違いがあったら修正お願いします

*<89分版>オリジナル版をもとにしています

*<44分版>は編集に伴い音楽の追加・削除・差し替えなど一部異なる放送回があります(第二回/第三回/第四回/第五回)

 

 

第1部

第一回 少年の国

  • (オープニング) Stand Alone for Orchestra [1] 未収録ver.1(調性、オーケストレーション)*第二回/第四回
  • Human Love [1] [総]
  • 00:10:40- 旅立ち [1] 未収録ver.1(Piano & Strings)*第二回/第四回/第七回/第八回/第十一回/第十三回
  • 00:12:35- 未収録楽曲(オーケストラ、マリンバ)
  • 少年の国 for Woodwinds & Strings [2] (= 少年の国 III [3] 後半部)
  • 夢 [3]
  • 00:29:40- Stand Alone サラ・ブライトマン×久石譲 [1] 未収録ver.(ヴォーカルなし、ピアノなし、終結部調性とピアノ)
  • 夢 [3]
  • 蹉跌 [1]
  • ガキ大将!真之 [2]
  • Human Love [1] [総]
  • 少年の国 III [3]
  • 旅立ち [1] [総]
  • 青春 [1] [総]
  • Stand Alone for Violin & Violoncello [2]
  • 広瀬 ~快活な人物~ [2]
  • 少年の国 for Woodwinds & Strings [2] (= 少年の国 III [3] 後半部)
  • 狼煙 [2]
  • 奇跡の時 [2]
  • 少年の国 [2] [総]
  • Stand Alone (Vocalise) サラ・ブライトマン×久石譲 [1] [総]

 

 

第二回 青雲

  • Stand Alone for Orchestra [1] [総]
  • 悪ガキ行進曲 [2]
  • Stand Alone for Violin & Violoncello [2]
  • 夢 [3]
  • 00:11:05- 未収録楽曲(バスクラリネット、パーカッションほか)
  • 青春 [1] [総]
  • 奇跡の時 [2]
  • 00:21:35- 時代の風 [1] 未収録ver.1(主旋律の入れ出し、オーケストレーション)*第五回/第七回
  • Human Love [1] [総]
  • 青春 [1] [総]
  • 少年の国 for Woodwinds & Strings [2]
  • 少年の国 [2] [総]
  • 00:47:50- 旅立ち [1] 未収録ver.1(Piano & Strings)*第一回/第四回/第七回/第八回/第十一回/第十三回
  • 00:53:55- Stand Alone for Orchestra [1] 未収録ver.1(調性、オーケストレーション)*第一回/第四回
  • 00:56:20- 未収録楽曲(パーカッションのみ、トランペットは状況内音楽)
  • 00:58:30- 未収録楽曲(トロンボーン、テューバ、オーケストラ)*第三回/第五回/第八回
  • 01:07:30- 奇跡の時 [2] 未収録ver.1(ホルン調性、後半は同じ)
  • Human Love [1] [総]
  • Stand Alone (Vocalise) サラ・ブライトマン×久石譲 [1] [総]
  • 01:20:30- 少年の国 [2] 未収録ver.(冒頭ハープ伴奏、後半は同じ)
  • Stand Alone (Vocalise) サラ・ブライトマン×久石譲 [1] [総]

 

 

第三回 国家鳴動

  • Stand Alone for Orchestra [1] [総]
  • 00:03:35- 蹉跌 [1] 未収録ver.1(調性、オーケストレーション)
  • 少年の国 for Woodwinds & Strings [2]
  • Human Love [1] [総]
  • 最後のサムライ [1]
  • 00:17:50- 青春 [1] 未収録ver.(オーケストレーション)
  • 夢 [3]
  • Stand Alone with Piano サラ・ブライトマン×久石譲 [1] [2] [3]
  • Human Love [1] [総]
  • 偵察 [2]
  • 戦争の悲劇 [1]
  • 疵 [2]
  • 00:46:10- 奇跡の時 [2] 未収録ver.2(パーカッションなし、オーケストレーション)
  • 悪ガキ行進曲 [2]
  • 00:53:45- 未収録楽曲(トロンボーン、フルート、オーケストラ) *第二回/第五回/第八回
  • 広瀬 ~快活な人物~ [2]
  • 00:58:55- 時代の風 [1] 未収録ver.2(テンポ、オーケストレーション)*第四回/第五回/第八回
  • 狼煙 [2]
  • 蹉跌 [1]
  • 疵 [2]
  • 01:16:30- 終の住処 [2] 未収録ver.(オーケストレーション)*第五回/第七回
  • 少年の国 [2] [総]
  • 激動 [1]
  • Stand Alone (Vocalise) サラ・ブライトマン×久石譲 [1] [総]

 

 

第四回 日清開戦

  • Stand Alone for Orchestra [1] [総]
  • 戦争の悲劇 [1]
  • 狼煙 [2]
  • 時代の風 [1] [総]
  • 00:14:30- 偵察 [2] 未収録ver.(ピアノ、オーケストレーション)
  • 激動 [1]
  • 疵 [2]
  • 蹉跌 [1]
  • ふるさと ~松山~ [1]
  • 戦争の悲劇 [1]
  • 激動 [1]
  • 疵 [2]
  • Human Love [1] [総]
  • Stand Alone for Violin & Violoncello [2]
  • 少年の国 for Woodwinds & Strings [2]
  • 01:05:50- 時代の風 [1] 未収録ver.2(テンポ、オーケストレーション)**第三回/第五回/第八回
  • 01:09:30- 旅立ち [1] 未収録ver.1(Piano & Strings)*第一回/第二回/第七回/第八回/第十一回/第十三回
  • 終の住処 [2] [総]
  • 01:23:05- Stand Alone for Orchestra [1] 未収録ver.1(調性、オーケストレーション)*第一回/第二回
  • Stand Alone (Vocalise) サラ・ブライトマン×久石譲 [1] [総]

 

 

第五回 留学生

  • Stand Alone for Orchestra [1] [総]
  • 00:02:35- 未収録楽曲(オーケストラ)*第二回/第三回/第八回
  • 疵 [2]
  • 悪ガキ行進曲 [2]
  • Human Love [1] [総]
  • 偵察 [2]
  • 狼煙 [2]
  • 00:25:25- 未収録楽曲(木管、オーケストラ)
  • 奇跡の時 [2]
  • Stand Alone for Violin & Violoncello [2]
  • 広瀬 ~快活な人物~ [2]
  • 蹉跌 [1]
  • 00:45:25- 未収録楽曲(パーカッションのみ)
  • 狼煙 [2]
  • 戦争の悲劇 [1]
  • 00:57:25- 未収録楽曲(オーケストラ)
  • 激動 [1]
  • 01:03:45- 終の住処 [2]  未収録ver.(オーケストレーション)*第三回/第七回
  • 01:09:05- 時代の風 [1] 未収録ver.2(テンポ、オーケストレーション)*第三回/第四回/第八回
  • Stand Alone for Violin & Violoncello [2]
  • 01:18:30- 時代の風 [1] 未収録ver.1(主旋律の入れ出し、オーケストレーション)*第二回/第七回
  • 少年の国 [2] [総]
  • (第2部予告)破局の始まり [2]
  • (エンディング)Stand Alone (Vocalise) サラ・ブライトマン×久石譲 [1] [総]

 

 

 

一口コメント

記念すべき第一回放送は『サウンドトラック 1』収録楽曲のほか、『サウンドトラック 2』より「少年の国」「Stand Alone for Violin & Violoncello」、『サウンドトラック 3』より「夢」「少年の国 III」などがすでに流れています。テレビ放送と同じく3年間にわたってリリースされたサウンドトラックです。各話とも『同 1・2・3』を並べてみていきます。

第一回だけ長めのオープニングは「Stand Alone」も映像にあてて作られています。全3部を通して未収録ver.1,2とありますが、キー(調性)がそれぞれ半音ずつ異なる/オーケストレーションが異なると微細な変化になっています。「旅立ち 未収録ver.1(Piano & Strings)」は全十三話中で7回も登場している殊勲賞ものです。ぜひともサウンドトラック収録してほしかった。

第1部で一番使われたサントラ楽曲は「Human Love」(8回)です。もっと広げて、アレンジ・ヴァージョンや未収録ver.も含めたテーマからみると「Stand Alone」(20回)「旅立ち」(13回)「少年の国」(11回)などになります。第1部の視聴者としてもぴったりの印象になりますね。その中で「疵」(5回)は注目です。全編をとおして鎮魂(レクイエム)のように響く楽曲です。

「Stand Alone サラ・ブライトマン×久石譲」(日本語歌唱)は本編では使われていません。(4)サウンドトラック 頁をご覧ください

 

 

二口コメント

久石譲コメントより

ーーーー

「でも、司馬さんがこの作品で表現したかった精神世界や明治という時代の空気感を描くためには、個々の人間をクローズアップする手法ではニュアンスは伝わらない。それよりは時代に衝き動かされた若者達を群像としてとらえて、それをテーマに曲を書く方がいいと考えました。」

「『坂の上の雲』の音楽を制作するにあたり、その時代の高揚感を日本の五音階の世界観と西洋のモダンな和音の感覚を融合させながら描き出したいと考えました。そして敢えて協和音と不協和音がせめぎあう大人の音楽を目指しました。さらに音楽の手法として、僕の原点であるミニマル・ミュージックを随所で取り入れ、「激動」や「蹉跌」などでそれを前面に打ち出しています。」

ーーーー

 

第1部は青春期であり西洋への憧れです。実は、第1部は未収録楽曲も一番多く土着的な曲想をもっていたりもします。物語の年代や舞台とリンクしているところもありますが、サウンドトラックにはあえて収録しなかったという見方もできそうです。「ふるさと ~松山~」「最後のサムライ」といった楽曲も1回しか使われていません。日本的すぎるものよりも、西洋との融合にバランスを合わせることで未来につながっていく若者達の姿、サウンドトラックもその世界観に統一されています。

「広瀬 ~快活な人物~」は第一回放送から流れています。もちろんまだ広瀬武夫は登場していません。全3部を通して登場人物ごとにテーマをつけるのではなく、その時代の若者達を群像としてとらえてテーマを書いていることがわかるひと場面です。言うなればここでは「快活な人物」のテーマということになるのかもしれませんね。

『サウンドトラック 1』は時代の変化を感じながら生き生きと進む若者達、力強く活力に満ちた楽曲たちが並んでいます。一方では、全編で繰り返し使われることになる「蹉跌」「激動」「戦争の悲劇」といった楽曲も聴き逃せません。「戦争の悲劇」には、『ストラヴィンスキー:春の祭典』にも聴けるモチーフが登場しています。そこに共鳴するキーワードは、戦争・生贄・犠牲者です。ロシア民謡からいくつかの素材が使われているとも言われる『春の祭典』です。坂の上の雲の世界もまたロシアは大きな舞台のひとつです。

 

 

New!
2024年テレビ一挙再放送に連動するように、これまで『サウンドトラック 総集編』のみサブスク解禁となっていたりの音楽ストリーミング・サービスも、2024年9月3日『サウンドトラック 1・2・3』を加えた全4アルバムが一挙ラインナップ!この作品に触れる視聴者からリスナーまで広くグローバルに聴き楽しめるようになりました。

 

 

次回は、第2部使用楽曲です。

 

『NHKスペシャルドラマ 坂の上の雲』楽曲解説

(1)イントロダクション
(2)語られたこと
(3)Stand Alone
(4)サウンドトラック
(5)組曲
(6)第1部(第一回~第五回)使用楽曲
(7)第2部(第六回~第九回)使用楽曲
(8)第3部(第十回~第十三回)使用楽曲