いよいよ今回の2本柱のひとつ、『My Lost City』の始まりです。拍手喝采の中、バンドネオンの三浦さんと久石さんが登場しました。
『Prologue』 朧げなストリングの音色で一気に『My Lost City』の世界へと誘います。ヴァイオリンの乾いたような高い音色から、渦巻くような弦の旋律。スーッと伸びていく和音の先に響く音色は…
『漂流者~Drifting in the City』 バンドネオンのソロが、寂し気なメロディを紡いでいきます。もう本当に美しかった。原曲ではピアノの音色が印象的で、個人的にはどこかピアノの音色は俯瞰するような形で聴こえていました。それが今回はバンドネオンに置き換わることによって、リアルで、その物語の主人公が鼻歌で歌っているような雰囲気も感じました。それにしてもピアノの旋律しか似合わないと思い込んでいたこのメロディが、こんなにバンドネオンがはまることも衝撃的でした。
『TWO OF US』 久石さんのピアノの伴奏に合わせ、バンドネオンの三浦さんがメロディを奏でていきます。続いてはコンマスの豊嶋さんによるヴァイオリンソロ。どちらも甲乙つけがたい美しさ。そして、バンドネオンとヴァイオリンが絡みつつ演奏していくシーンでは、豊嶋さんと三浦さんがアイコンタクトで息を合わていました。まるで「すみだクラシックの扉」でのコンマスのチェさんとソリストのリーウェイさんがアイコンタクトを取っているのを彷彿とさせる瞬間でした。
『My Lost City』 組曲の最後の曲は、原曲CDでも最後を飾るこの楽曲。東京公演では久石さんのピアノで始まっていましたが、浜松公演では豊嶋さんソロヴァイオリンに差し替えられていました。その後、冒頭の『Prologue』と同じパートを回想し、バンドネオンが音色を加えながら、静かに楽曲が終わりました。
『Madness』
前半の『My Lost City』内ではバンドネオンメロディで演奏されていたものが、こちらでは満を持して久石さんのピアノにて披露されてました。東京公演の配信時では、若干オケとのズレもあり心配な箇所もありましたが、浜松公演ではピタリと演奏されていてとてもカッコよかったです。中盤のピッコロとオケとの掛け合いの部分も聴いていて楽しいんですよね。後半では再度久石さんがピアノに戻り、オケとの掛け合いへ。
曲ごとに丁寧でわかりやすい感想はすでに周知のとおりですね。WDO2022は初日から最終日に進むなかで修正が加えられている珍しいパターンです。ライブ配信では聴けなかった箇所があります。大きくは3つ、『My lost City』終曲のピアノからヴァイオリンへの変更、『Porco Rosso』終曲のピアノソロでのフィンガースナップ追加と、同曲アウトロでの弦楽追加です。そのあたりにも注目しながらもう一度読み返してみるとおもしろいですよ。
World Dream Orchestraは、久石譲の最も代表的なコンサートシリーズだ。韓国にも来韓して素敵な演奏を披露したことがある。(W.D.O.2017) 特に2008年の「久石譲 in 武道館」をはじめ数多くの公演を行い、2015年から新しいプロジェクトでスタジオジブリアニメーション音楽を交響組曲として進行している。2022年の交響組曲は紅の豚だ!
「水の旅人 侍KIDS」の主題歌の器楽バージョンとなる曲だ。メロディーメーカーの久石譲らしい本当に素敵な曲だ。「WORKS・I」または久石譲ベストアルバムVol.2(Songs of Hope)に収録されたものと似たバージョンだが、今回のコンサートのために金管楽器のフレーズが少し追加されたことが分かった。
今回のコンサートには、私が大変な時期を過ごした時に慰めになった大切な曲がたくさん演奏されたが、この曲のEnglishバージョンである「MELODY Blvd.」アルバムの「I Believe In You」も力になる素敵な曲の一つだった。
「水の旅人 侍KIDS」は、久石譲と親しくしていたAbey Road StudiosのミキシングエンジニアMike Jarratt氏と最後に一緒にした作品だったというエピソードがある。「My Lost City」も彼と一緒にしたアルバムなので、つながる面があるようだ。「地上の楽園」アルバムも大変だった時に大きな慰めを与えてくれたアルバムだが、このアルバムの「HOPE」という曲にも「Water Traveller」のいくつかのメロディーが入っている。
Joe Hisaishi:My Lost City for Bandoneon and Chamber Orchestra
「My Lost City」は1992年発売された久石譲のソロアルバムだ。宮崎駿がこのアルバムを聴いて「紅の豚」に数曲使ったというのは有名なエピソードだ。私が一番好きなアルバムだが、すでに生産中止となり、ストリーミングでも聴くことができない。(まだ中古市場で手に入れることはできる。)
今回のコンサートのためにバンドネオンを中心にアルバムが再構成された。バンドネオンの演奏者はMFコンサートで「The Black Fireworks」を完璧に演奏した三浦一馬さんだ。はじめに弦楽を中心に演奏される曲は「PROLOGUE」。 続いて演奏される曲は「DRIFTING IN THE CITY」だ。
実は、WDO2021をはじめとする最近のコンサートでは、久石譲のピアノの比重が減り続けていた。残念ながら久石譲の年齢と指の負傷のお知らせのため理解するしかなかったし、短くても演奏してくれたことにも感謝していた。そんな状況で「My Lost City」をはじめ「Madness」「Il Porco Rosso」まで、ファンを十分に満足させる久石譲の演奏は本当に感激した。
思いも掛けず流れる「Prologue」に背中がゾクゾクする感覚を覚える。「My Lost City」のアルバム構成を考えれば、これなくして「My Lost City」は始まらないが、WDOと言うコンサートの性質を考えれば、時間的にも曲の知名度としても入れるのは難しいのではと思っていたこの曲をさも当然のように持ってくる久石さんに、このコンサートへの意気込みを感じた。
「Two of Us」が始まった瞬間、私の身体には寒けが走った。手術による血圧低下が貧血を起こしたからでは無い。想像していた理想の編成でその曲が演奏されたからだ。悲しさと寂しさ漂わせるバンドネオンの音色と、孤独さと哀愁漂うバイオリンの音色。それを優しく包むように響くピアノの音色。まさにこの曲の理想の形の一つでは無いだろうか。バンドネオンとバイオリンが重なる辺りから寒気も涙も止まらない。手術による血圧低下が貧血を起こしたからでは無い。感動したからだ。余りの美しい響きに。私はこの響きを聴けて幸せである。
年齢を重ねるたびに深く思うが、哀しい、つらいと言った感情を感じるからこそ、嬉しい、楽しいと言った感情も感じることができる。若かった30年前には判らなかったそう言った表裏一体の感情を表すかのように、センチメンタルなバンドネオンのメロディラインを奏でつつ、曲は伸びやかに、自由気ままに。そして愉しげになってゆく。演奏者の動きや、久石さんの笑顔がそれを表すかのようだ。そして、人生のクライマックスが訪れるように曲は終わる。次の曲「My Lost City」があるのが判っていても拍手を送りたいと思った。いや送っていた。それほど、この「Tango X.T.C.」は素晴らしかった。
当時の空気のなか手にとっていること、そこからずっと聴いていること、ほかのファンの人からしたらとてもうらやましい貴重な限られた体験だと思います。そして僕はひとつ気づいた。久石さんのフェアライトやデジタルといった80-90年代サウンドが好きでいつしか離れていった人はいるけれど、「My lost City」を好きになった人で離れた人はいない。この作品に出会ったときからずっとファンのまま歩んでいる。そういう作品なんです「My lost City」。
バージョンアップされた2 Dancesは全体的にはるかに華やかで、より洗練された感じだった。Step to heavenのスピードが速くなって疾走する部分は、弦楽器を除いた楽器たちが少しテンポが遅くなったようでしたが、弦楽器は依然として速く演奏しているため、コントラストが際立って浮揚感が感じられた。クライマックスがもっと素敵になった!
1.Main Titles (You’ve Been Called Back to Top Gun)
2.Danger Zone Kenny Loggins 3.Darkstar
4.Great Balls Of Fire (Live) Miles Teller 5.You’re Where You Belong / Give ‘Em Hell
6.I Ain’t Worried OneRepublic 7.Dagger One Is Hit / Time To Let Go 8.Tally Two / What’s The Plan / F-14 9.The Man, The Legend / Touchdown 10.Penny Returns (Interlude)
11.Hold My Hand Lady Gaga 12.Top Gun Anthem
Harold Faltermeyer, Lady Gaga, Hans Zimmer, & Lorne Balfe – Main Titles
from Interscope Records (Official Audio)
「1.Main Titles (You’ve Been Called Back to Top Gun)」「3.Darkstar」「7.Dagger One Is Hit / Time To Let Go」「8.Tally Two / What’s The Plan / F-14」「9.The Man, The Legend / Touchdown」「12.Top Gun Anthem」で使われています。
「3.Darkstar」「5.You’re Where You Belong / Give ‘Em Hell」「7.Dagger One Is Hit / Time To Let Go」「8.Tally Two / What’s The Plan / F-14」で使われています。
「3.Darkstar」は、[A]Top Gun Anthemのところでも紹介しています。「2.Danger Zone」の歌詞”Haiway to the Danger zone”と歌っている箇所は「ソ・ファ・ミ・ド・レ」です。そのモチーフを聴くことができます(00:30-)。低音ストリングスで何回も出てきます。ときに速いフレーズにもなって(00:50-,01:05-)。以降もこの8分音符と16分音符を入れ替えながら、まるで空中で機体たちが交錯するようにスリリングさと疾走感ましましです。
Harold Faltermeyer, Lady Gaga, Hans Zimmer, & Lorne Balfe – You’re Where You Belong / Give ‘Em Hell
from Interscope Records (Official Audio)
「5.You’re Where You Belong / Give ‘Em Hell」は、2つの曲から構成されています。後半のほうに聴くことができます。ここなんかわかりやすいですね(02:50-,03:05-,03:20-)。同じ曲想になっているので先に解説した「3.Darkstar」のモチーフが説得力をもってくると思います。モチーフの歌う長さを効果的に伸縮させて。そしてホルンで力強く歌われます(04:55-)。ハーモニーを変えること(Dm-B♭, F-C)でくり返しでも高揚感がどんどんアップします。
Harold Faltermeyer, Lady Gaga, Hans Zimmer, & Lorne Balfe – Dagger One Is Hit / Time To Let Go
from Interscope Records (Official Audio)
「7.Dagger One Is Hit / Time To Let Go」は、[A]Top Gun Anthemのところでも紹介しています。前半のほうで聴くことができます。…ここは少し飛躍して僕は聴くことができると思っています…。Danger Zoneモチーフのバリエーションとして(01:00-)。反転したというか逆方向へ流れているように。「ソ・ファ・ミ・ド・レ」と高い音から低い音へ降りてくるモチーフが、「ド・レ・ミ・ファ・ソ」と低い音から高い音へ昇っています。先の「3.」「5.」と同じ曲想なこと、さらに「5.」のホルンで力強く歌われる箇所と同じハーモニーの変化をしていること。たっぷりと繰り返されるので(-02:20)聴いてみてください。ここを現実と過去とのオーバーラップ、過去へのフラッシュバック、そんな時間軸の逆流とみるのもおもしろいです。
Harold Faltermeyer, Lady Gaga, Hans Zimmer, & Lorne Balfe – Tally Two / What’s The Plan / F-14
from Interscope Records (Official Audio)
「8.Tally Two / What’s The Plan / F-14」は3つの曲で構成されています。ハーモニーの変化(01:20-)、Danger Zoneモチーフ(01:35-)、その間を縫うように[A]Top Gun Anthemモチーフも登場(01:40-)とそんな感じで進んでいきます。ベースの踏み上がり(02:25-)は、「5.」(03:35-,05:25-)でも先に出てきていました。そしてホルンとストリングスで力強く歌われます(02:35-)。
Lady Gaga – Hold My Hand (From “Top Gun: Maverick”) [Official Music Video]
from Lady Gaga Official YouTube
「5.You’re Where You Belong / Give ‘Em Hell」(前半)、「9.The Man, The Legend / Touchdown」(後半)、「10.Penny Returns (Interlude)」で使われています。聴けばそれと教えてくれるインストゥルメンタル・アレンジです。
映画のなかでたびたびメロディが登場し、「11.Hold My Hand」レディー・ガガによる歌が流れます。どのシーンに使われていたか、どの登場人物のときによく聴くことできたか。注目ポイントです。
もしHold My Handが好きなら。新作はこの曲なしじゃ語れない。もっとサントラ盤に愛着わいたならうれしいです。
[A] Top Gun Anthem + [B] Danger Zone + [C] Hold My Hand = New “Top Gun Anthem”
最初これ見たとき、え手抜き?と思ったんですけど、そうじゃないですね。ハロルド・フォルターメイヤーは「Top Gun Anthem」作曲者、レディー・ガガは本作主題歌「Hold My Hand」作曲者、そしてそれらの楽曲も素材として巧妙にスコアを作り上げているハンス・ジマーとロアン・バルフェの作曲家。すべてのインスト曲は3つの主要曲から各々の素材を選び抜いて料理しているから、アーティスト名は連名になっている。本当は曲ごとに中心になって制作している人いるのに。お互いへのリスペクトも表しているように感じます。もちろんそこには、主要曲の持ち主(作曲者)がはっきりしているからうやむや感なくできること、どのアングルから捉えてもトップ・クオリティなプロたちです。
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”短編小説は実験の場、可能性を試す場”と語っています。アイデアをかたちにしてみる、新しいことに挑戦してみる機会とも言えます。なるほど、「ダンロップCM音楽」からオリジナル作品へと発展させた「Variation 57 for Two Pianos and Chamber Orchestra」なんかもあります。また久石譲が追求している単旋律(Single Track Music)手法は、小さな曲や小さな編成から試されながら、手応えと磨きあげをもって交響作品でしっかりとのこされています。
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「書き直し」という点では「MKWAJU 1891-2009」も浮かびます。曲名にあるとおり、発表時には技術が足りなくてうまく実現できていなかったものを時を経て直しています。もうひとつ思い浮かべたいのは、「交響曲第1番 第1楽章」として未完のまま発表したきりになっていたものを5年後に「THE EAST LAND SYMPHONY」として完成させた事例です。しかも村上春樹さんの「街と、その不確かな壁」という中編作品は文芸誌で一度発表されて以後どの著作にも収録されることなくお蔵入りです。久石譲さんの「交響曲第1番 第1楽章」も演奏会で一度披露されたきり、直して引き継がれた「1. The East Land」はあるものの、その原型を聴けることはもうありません。