Blog. 「久石譲指揮 日本センチュリー交響楽団×九州交響楽団 ジョイントツアー」コンサート・レポート【2/27 update!!】

Posted on 2023/02/22

2月16,17,18日、久石譲指揮 日本センチュリー交響楽団×九州交響楽団によるジョイントツアーが福岡・大阪・一宮で開催されました。両楽団のシーズンプログラムから定期演奏会や特別演奏会のスケジュールにあたる3公演です。久石譲は2021年に日本センチュリー交響楽団の首席客演指揮者に就任して以来数多くの公演を行っていますが、このたび関西を越えて九州のオーケストラとの合同演奏会が実現!100名以上のラージオーケストラは大迫力と歓喜です。

 

 

2023.02.27 update
九州交響公式Facebookにアップされた写真7枚を追加しました。

 

 

特別演奏会 九響×日本センチュリー響

[公演期間]  
2023/02/16

[公演回数]
1公演
福岡・アクロス福岡 シンフォニーホール

 

日本センチュリー交響楽団 定期演奏会 #270

[公演期間]  
2023/02/17

[公演回数]
1公演
大阪・ザ・シンフォニーホール

 

久石譲、日本センチュリー交響楽団×九州交響楽団が奏でる 春の祭典 愛知特別公演 in 一宮

[公演期間]  
2023/02/18

[公演回数]
1公演
愛知・一宮市民会館

 

[編成]
指揮:久石譲
管弦楽:九州交響楽団/日本センチュリー交響楽団(合同演奏)
コンサートマスター:西本幸弘

[曲目] 
久石譲:Metaphysica(交響曲 第3番)

—-intermission—-

ストラヴィンスキー:バレエ音楽「春の祭典」
マルケス:Danzón 第2番

—-encore—-
となりのトトロ

[参考作品]

久石譲指揮 東京交響楽団 『ストラヴィンスキー:「春の祭典」』

 

 

まずは会場で配られたコンサート・パンフレットからご紹介します。

 

 

久石譲/Metaphysica(交響曲 第3番)

Metaphysica(交響曲第3番)は新日本フィル創立50周年を記念して委嘱された作品。新作は2021年4月末から6月にかけて大方のスケッチを終え、8月中旬にはオーケストレーションも終了し完成した。前作の交響曲第2番が2020年4月から2021年4月と1年かかったのに比べると約4ヶ月での完成は楽曲の規模からしても僕自身にとっても異例の速さだった。楽曲は4管編成(約100名)で全3楽章からなる約35分の長さで、この編成はマーラーの交響曲第1番とほぼ同じであり、それと一緒に演奏することを想定して書いた楽曲でもある。

Metaphysicaはラテン語で形而上学という意味だが、ケンブリッジ大学が出している形而上学の解説を訳すと「存在と知識を理解することについての哲学の一つ」ということになる。要は感覚や経験を超えた論理性を重視するということで、僕の場合は音の運動性のみで構成されている楽曲を目指した。

I. existence は休符を含む16分音符3つ分のリズムが全てを支配し、その上にメロディー的な動きが変容していく。

II. where are we going? は26小節のフレーズが構成要素の全て。それが圧縮されたり伸びたりしながらリズムと共に大きく変奏していく。

III. substance は ド,ソ,レ,ファ,シ♭,ミ♭の6つの音が時間と空間軸の両方に配置され、そこから派生する音のみで構成されている。ちなみにこれはナンバープレースという数字のクイズのようなゲームからヒントを得た。

久石譲

作曲/2021年 初演/2021年9月11日、東京

編成/フルート4(ピッコロ2持替)、オーボエ4(イングリッシュ・ホルン持替)、クラリネット4(E♭管クラリネット、バスクラリネット2持替)、ファゴット2、コントラ・ファゴット、ホルン6、トランペット4、トロンボーン3、テューバ、ティンパニ、ドラムセット、大太鼓、合わせシンバル、吊るしシンバル、小太鼓、トライアングル、タンバリン、クラベス、ウッドブロック、シェイカー、鈴、ボンゴ、タムタム、グロッケンシュピール、ヴィブラフォン、鐘、ハープ、ピアノ(チェレスタ)、弦楽5部

使用楽譜/未出版

(「月刊九響 2023年1・2・3月号」プログラムノートより)

 

*「春の祭典」「ダンソン第2番」の解説は割愛

*「春の祭典」「ダンソン第2番」の解説は九州交響楽団/日本センチュリー交響楽団がそれぞれ発行している冊子よりプログラムノートの音楽評論家・筆者は異なる

*「Metaphysica(交響曲第3番)」の編成は福岡公演で配布された九州交響楽団「月刊九響 2023年1・2・3月号」プログラムノートには明記

 

 

 

ここからはレビューになります。

 

 

久石譲:Metaphysica(交響曲 第3番)

約35分の作品。2021年新日本フィルハーモニー交響楽団と世界初演して以来2度目の登場となります。「マーラー:交響曲 第1番」とプログラムを並べたこの作品は、楽器編成も同じように4管編成16型(約100名)を想定して書かれています。

「ストラヴィンスキー:春の祭典」はさらに上をいって5管編成16型です。わかりやすいところで言うと、テューバもティンパニも2奏者を必要としています。これらの楽器はふつう各オーケストラとも1奏者、なかなか楽団単体の演奏会にはあがらなさそうです。

 

~おさらい~ 16型は弦16型のことです。第1ヴァイオリン16人、第2ヴァイオリン14人、ヴィオラ12人、チェロ10人、コントラバス7-8人などと少しずつ減っていきます。単純に弦楽5部で約60人になりますね。

~おさらい~ 10型は弦10型のことです。第1ヴァイオリン10人、第2ヴァイオリン8人、ヴィオラ6人、チェロ4人、コントラバス2-3人などと少しずつ減っていきます。単純に弦楽5部で約30人になりますね。

弦16型と弦10型でなんとストリングス2倍近く違うんです。このポイントをおさえると数字も体感も変わってきます。

 

日本センチュリー交響楽団は現在2管編成10型のオーケストラを基本としています。まず「久石譲:Metaphysica(交響曲第3番)」をプログラムしたかったら客演を呼びたい。そして「ストラヴィンスキー:春の祭典」、そこへ九州交響楽団との合同演奏会が実現することにより単純2倍(違うけど)!テューバやティンパニも解決できる!そう、ジョイントコンサートだからこそのプログラムになっています。クラシックファンのあいだでも「春の祭典聴くの2回目」なんて声もレア感があることがよくよくわかります。「久石譲:Metaphysica(交響曲第3番)」でいうと、WDOや新日本フィルなど(同じじゃないか)大所帯なオーケストラでできる、貴重なプログラムだということはぜひ覚えておこう(だから行こう)。

会場ごとに聴いただけでも、ホールの反響・座席の場所などもあって、聴こえてくる音・強調される音が違ったりします。こんなところでこんな楽器鳴ってたっけ?と変わって聴こえてくることもたくさんあります。2度目となったこの作品は全体構成は同じだったと思います。もしかしたら改訂とはいわない範囲の細かい修正はあるのかもしれません。上のプログラムノートを見たときに、初演の編成にはなくて今回の編成にある楽器に「ボンゴ」が明記されていました。ただボンゴってラージオーケストラでその音を掴み取るのはなかなか難しい、舞台奥で視認も難しい。「ボンゴ」が記載ミスとかでなければ(失礼しました)、このたびその楽器は追加されている可能性はあります。それにともなうパーカッション群の微調整もあるのかもしれません。とにもかくにも複雑に構築された交響曲です。2回聴いたくらいでわかるわけないじゃないかわかられてたまるか。レコーディング版を届けられるまで、スコアが出るまで、答え合わせは楽しみに待ちたいと思います。

初演時の前回感想にはメモ程度のことを書いていました。興味あったら下にあります、そこに編成も明記しています。今回もさほど変わらず、むらなくこの作品について語ることはできず、印象に残った点だけ記します。だからこれを見ても作品の全体像はわかりません、いつか聴くチャンスをつかんでください。

 

I. existence
ライブ演奏では大太鼓のパンチがとても効いていてティンパニと合わせてすごかったです。パーカッション炸裂する第1楽章、リズムも旋律も入り乱れてカオスです。前回はマーラー交響曲とのプログラムもあってホルンのベルアップ(楽器を高く掲げて演奏する)もありましたけれど、今回はなかったかも気づけませんでした。舞台スペースもぎっしりですし。ちょっとしたフレーズやハーモニー感に「TRI-AD for Large Orchestra」を連想できたりもして、いつかその序曲と交響曲第3番を並べて聴いてみたいです。

II. where are we going?
きびしく美しい楽章です。急緩急をとる第3番で緩徐楽章ともいえるこの第2楽章の印象もまた変わりました。ストリングスの重厚さがすごい。第1楽章と第3楽章の激しさに挟まれて少し落ち着きそうな印象だったのに、後半の迫りくるエモーショナルパートも一層分厚く感じて、全3楽章ともに肩を並べるほどの力強さを感じました。これはうれしい。

中間部に弦楽四重奏(+パーカッション)になるパートは、「I Want to Talk to You」などにも見られる近年の久石譲特徴のひとつです。新しく取り入れたアプローチが、室内楽と交響曲をまたいでどちらにも採用されている。単旋律の手法が室内楽作品にはじまり交響曲第2番にまで取り入れられたように。作品を線で追える楽しさです。

III. substance
久石譲楽曲解説にもある基本モチーフが幾重にも炸裂する楽章です。強烈な印象を残します。個人的なヴィオラ贔屓を差し引いても、ヴァイオリンたちよりも一番休みなくそして起点となってずっと動いている勇姿を見ることができました。これが音源だけだときっとわからない。ぜひお気に入り楽器の勇姿をしかと見届けてほしいところです。

視覚的にもおもしろい発見があったので、ここではそこにフォーカスします。久石譲のオーケストラ・フォーメーションは対向配置をとっています。このおさらいは下リンクをご参照ください。

 

対向配置(左)、一般配置(右)

 

 

交響曲第3番の第3楽章でとくに目立ったのは、対向配置の上をいくオーケストレーションです。第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンが両翼に分かれている配置です(図1)。この作品に限ったことではないですが、第1ヴァイオリンの全員が同じ旋律を弾く以外にも、第1ヴァイオリンのなかで何パートかに分かれて違う旋律を演奏(例えばハモリ)したり、必要な人数分だけ演奏することもあります。

今回、扇のようにステージ奥から前方にかけて、各セクションが分かれて演奏するさまがありました(図2)。チェロまでやってたか自信はない。第1・第2ヴァイオリンとヴィオラは、各2パートくらいに分かれて速いパッセージの旋律をディレイするようにリレーしています。

同じように、ヴィオラ、第2ヴァイオリン、第1ヴァイオリンの順番だったと思う(図3)。今度は前方・中方・後方の分け方で速いパッセージをこだまさせるようにつないでいく。各3-4パートくらいだったと思います。そう、野球やコンサートで客席ウェイブが起こるような動きを弦楽で見ることができるんです。この動きに気づいたり魅了されたファンはきっといたはず。これから音源になって聴いたときには、なんとでも加工技術のある昨今驚かないかもしれませんが、生演奏の時点からこのステレオ感や立体的な音響をつくっているということは、ぜひおさえておきたいポイントです。

最後にもうひとつ気づくことがあります。(図3)をみると第1ヴァイオリンで4パートに分かれています。実際は4-5だったかもしれません。もしこれが弦10型だったら、、2人ずつくらいになって、たぶんフレーズが浮き立ってきません。弦16型だったら、4人ずつで演奏することができてバチッと鋭く鳴らせる聴こえる(16人=4パートx4人)。第2ヴァイオリンやヴィオラはさらに人数が減っていくから切実以下同文。ああ、弦16型を想定して書くということは、こういうことができる如何にも関わってくるのか、と震えた次第です。

 

対向配置 図1

出典:Daxter Music

対向配置 図2

対向配置 図3

 

 

「久石譲:Metaphysica(交響曲 第3番)」2021年新日本フィルハーモニー交響楽団との世界初演のライブ映像から第2楽章などが公開されています。次のチャンスを楽しみにしながら聴いてみてください。

 

 

世界初演レポート(2021)

 

 

ストラヴィンスキー:バレエ音楽「春の祭典」

めったにプログラムにあがらないことは上の編成規模で書きました。久石譲作品ではティンパニやテューバは1奏者でしたがここからは2奏者です。九州交響楽団・日本センチュリー交響楽団のファンや定期会員も多く集まるコンサート、反響もすごかったです。僕だったら、大迫力ですごかったです!くらいしか言えないところ、コンサート後のSNS感想もおのおの想い想いに賑わっていました。

今まで聴いたハルサイのなかで一番よかったとか、具体的なパートや楽器のところをさして感想があったり、とても楽しく眺めていました。なかには、久石譲交響曲とハルサイで同じアプローチをしているとか、クラシックファンからみた久石譲交響曲の解釈もあったりして、とても興味深かったです。自分にはない見方や聴こえ方を知れるっておもしろいです。

もし僕から何か追加で言えるとしたら、、『YAMATO組曲(男たちの大和)』や『坂の上の雲』もこのくらい派手にバーン!とやってほしいな、聴いてみたいな、以上です。

 

マルケス:Danzón 第2番

けっこう人気のある作品で楽しみにしていた観客も多かったみたいです。僕はこの公演のプログラム発表で知ったくらい、周りを見渡せば「やっぱりこの曲いいよね!」ホットな空気を感じました。序盤では第2ヴァイオリンらがまるでマンドリンやウクレレのような楽器の抱え方でピッツィカートを奏でていたり、視覚的にもラテンのおもしろさが伝わってきます。リズム音楽でありながら一本調子じゃない、めまぐるしく変わるテンポや転調そして展開に惹き込まれます。艶のある上品なラテン・クラシックは、聴かせどころのツボもいっぱい、構成もしっかりしていてクラシックファン納得なのもうなずける。シンフォニックなダンスでいうと「ウエストサイドストーリー」が有名ですが、ダンソンのほうがクラシカルな印象です。ヨーロッパの伝統ならハンガリー舞曲とかになるし、ラテンの伝統ならダンソンとかになる感じ。

久石譲指揮のリズムコントロールもいつもながら絶妙です。メロディ以外のパートを歌わせたり緩急自在。ラテンならではの軽快さのなかに、久石譲らしい重心の効いた弾力感のあるリズムはたまりません。バン!バン!じゃなくてバン!ぶぁん!

 

 

-アンコール-

久石譲:となりのトトロ

大編成だし「World Dreams」かクラシック音楽からかなと予想していたところ、なんととなりのトトロでした。演奏が始まった瞬間、そうか!「舞台 となりのトトロ 5冠」の祝福なのかもしれない、そんなふうにも思いました。ちょうどタイムリーにロンドンから飛び込んできていたニュース、久石譲もきっと喜んでいることでしょう。そうであってもそうでなくても、みんなが明るく笑顔になるお祭りのフィナーレにふさわしい一曲です。

ダブルティンパニだし『久石譲 in 武道館』を連想してしまうほどの大迫力、この演奏を聴けた観客はとても得した気分だと思います。今回のティンパニは左右対称に演奏していたのもおもしろかったです。下の写真の最後のほうを見たらわかるかもしれませんが、太鼓の配置が鏡のように反転しているんですね。だから左奏者が一番左を鳴らしているとき、お隣の右奏者は一番右を鳴らしています。おそらく太鼓の数が多いし振動や反響なんかの影響もあるのかもしれません。そういう動きが見れるだけでも楽しいです。

本公演は大掛かりな舞台配置もあって中央にピアノを置けるスペースはありません。中間部のピアノパートはオケ奏者です。いつもならピアノを弾いているその時に、久石譲指揮は第1ヴァイオリンの流れるような対旋律を「もっと聴かせて」と誘導するようにタクトを振っている姿も、なんだか貴重でうれしい。

 

 

2時間ぎっしりです。定期演奏会ベースの雰囲気と観客なのでなかなかスタオベまではいきませんが、それでもカーテンコールの拍手は演奏に負けないくらい大きいものでした。ハルサイやダンソンでブラボー言えないなんて、そんな観客も多かったかもしれません。その想いを拍手に力いっぱい込めていました。

久石譲コンサートは、ほかの公演に比べて若者層・女子層・カップル層・海外層が高いのは周知のことですね。大阪公演では、客席中央の通路なんかに補助席がずらっと並ぶほどの満員御礼でした。こういった客層をみながら、若い人が初めて聴けるジブリ音楽、海外観光客が来日期間の幸運で聴けるジブリ音楽、ああたしかに「となりのトトロ」はあってよかったと思います。

そして、それ以上に感じたこと。アンコールに違和感のないというリスナー空気感です。クラシックファンのSNS感想をみても「となりのトトロ」がそぐわないとか浮いてるみたいな感想を一切見なかった。ほら、クラシック通ならハルサイやダンソンの余韻のまま終わりたいみたいな、なんかありそうでしょ。ハルサイもダンソンも聴けてとなりのトトロまでこの振り幅がすごい、むしろそんな印象でした。これは久石譲指揮コンサートでしかできない最大の魅力です。選ぶクラシック・プログラムもいいし本家本元の自作も聴ける、そんな空気感に変化していると感じました。大切だからもう一回言いますね。プログラムの振り幅こそ久石譲指揮演奏会の魅力!バラエティに富む古典・現代・自作・映画を同じクオリティに高めて観客を大満足させてしまう!どうぞお見知りおきを。

久石譲交響曲第3番で堂々の幕開け!そしてハルサイ!ラテンも満載!大喝采!九州交響楽団×日本センチュリー交響楽団のジョイントだからこそできたプログラムはホント祭典。またやってほしい企画です。これからも久石譲指揮だからこそ振り幅いっぱいのコンサートを楽しみにしています。

 

 

ふたつの楽団が並ぶだけあってSNSも活発に発信してくれていました。ここでご紹介するリハーサル風景や公演風景のほか、楽団員リレーインタビュー動画や公演休憩時間の舞台早替え動画などもあります。盛りだくさんです。ぜひ好きなオーケストラのSNSをフォローチェックしてみてください。

 

リハーサル風景(福岡)

ほか

リハーサル風景(大阪)

公演風景(大阪)

ほか

from 久石譲本人公式インスタグラム
https://www.instagram.com/joehisaishi_composer/

 

 

リハーサル風景(福岡)1日目

2日目

3日目

当日 ゲネプロ

 

公演風景(福岡)

from 九州交響楽団 Kyushu Symphony Orchestra 公式ツイッター
https://twitter.com/KyushuSymphony

 

ほか 全10枚

from 九州交響楽団/Kyushu Symphony Orchestra 公式Facebook
https://www.facebook.com/TheKyushuSymphonyOrchestra

 

 

リハーサル風景(福岡)

 

公演風景(福岡)

 

リハーサル風景(大阪)

 

公演風景(大阪)

 

公演風景(一宮)

from 日本センチュリー交響楽団 公式ツイッター
https://twitter.com/Japan_Century

plus 日本センチュリー交響楽団 公式Facebook
https://www.facebook.com/JapanCentury

 

 

最後まで読んでいただきありがとうございます。

 

 

 

 

 

Blog. 「音楽の友 2022年12月号」久石譲×ニコ・ミューリー 対談内容

Posted on 2023/01/16

クラシック音楽誌「音楽の友 2022年12月号」(11/18発売)に久石譲×ニコ・ミューリーの対談が掲載されています。

 

 

対談
久石譲×ニコ・ミューリー

共鳴し合う二人が語る”作品が生まれるとき”

取材・文=片桐卓也

久石譲のナビゲートで”現代の音楽”を紹介するコンサート・シリーズ「ミュージック・フューチャー」の第9回公演が10月に東京の紀尾井ホールで開かれ、アメリカから作曲家のニコ・ミューリーと、彼の友人でヴィオラ奏者のナディア・シロタが招かれた。この公演のため来日中のミューリーと久石による対談をお届けする。

 

「ミュージック・フューチャー」ニコ&久石がともに新作を披露

2014年にスタートした〈久石譲プレゼンツ〉による「ミュージック・フューチャー」も2022年の秋、第9回目のコンサートを迎えた。これは「明日のために届けたい音楽」を作曲家・久石譲がナビゲートするコンサート・シリーズで、久石の最新作だけでなく、いま世界の最前線で活躍する作曲家の作品を集め、紹介するというユニークなコンサートである。そのために「Music Future Band」も創設され、気鋭の奏者を集めている。

第9回のコンサートだが、アメリカを中心に活躍するニコ・ミューリー(1981年生まれ)を招き、紀尾井ホールで2日間開催された。両日とも満員の聴衆を集めた。

第9回ではまず久石の「室内交響曲 for Electric Violin and Chamber Orchestra」が、西江辰郎のエレクトリック・ヴァイオリン・ソロをフィーチャーして演奏された。これは「ミュージック・フューチャー」Vol.2で初演された作品である。その後、ニコ・ミューリー(p)とナディア・シロタ(va)による《Selection from the Drones and Viola》が演奏された。飛行機のエンジン音を聴いたときにそのアイディアを思いついたという作品は、それぞれの楽器が奏でるドローン(長く持続する音)をモティーフにした連作からの2曲を繋げて演奏したものだ。

後半には、今回のコンサートに合わせて久石が書いた《Viola Saga》と、これもニコ・ミューリーの新作《Roots, Pulse》が演奏された。前者は、もちろん今回のゲストであるシロタの演奏を前提に書かれた作品だが、協奏曲的な要素を持つ室内交響曲のようなイメージでもあった。ミューリーの新作はミュージック・フューチャーのアンサンブルのために書かれた作品で、作曲家自身によれば「快活vs抽象的」「前景vs背景」という二つの要素の葛藤のなかでの模索を表現しているという。実際に、一種シンプルなハーモニーの組み合わせが、次第に複雑化し、さらにアンサンブルの楽器それぞれの音色とリズムが溶け合い、さらには分解されて消えて行くというような、シンプルと複雑の間を縫うようなイメージの美しい作品だった。

その翌日、リハーサル前の時間に、久石&ニコの対談が実現したので、今回のコンサートに寄せる想いをうかがった。

 

ミューリー作品がきっかけに生まれた久石作品

ーお二人が知り合ったきっかけを、まず押してください。

久石:
第1回の「ミュージック・フューチャー」を開催するにあたり、現在の世界の音楽家がどんな音楽を書いているのか、膨大なリサーチを行いました。そのときにスコアを見て、とても印象に残ったのがニコ・ミューリーさんの作品《Seeing is Believing》で、それを第1回のコンサートで取り上げました。それは6弦のエレクトリック・ヴァイオリンを使った作品で、近藤薫(東京フィルハーモニー交響楽団コンサートマスター)が初演してくれたのですが、実は日本にはその楽器がなかったので、アメリカから購入して使ったというエピソードがあります。それ以来、いつかは実際にニコさんと一緒にコンサートができたら嬉しいなという想いがあり、ようやく今回実現したのです。

ミューリー:
僕もほかの多くの音楽関係者と同じで、最初はフィルム・ミュージックの作曲家として久石さんの名前を知っていましたし、その音楽もよく聴いていました。そんなときに、久石さんから僕の作品を日本で演奏したいという連絡があったので、とてもびっくりして、かつ、嬉しかったのを覚えています。

久石:
彼の作品を演奏するためにエレクトリック・ヴァイオリンを購入したので、それを使って作品を書くことにもなりました。それが今回再演した「室内交響曲」ですが、そうした出会いがなかったら、この作品も書かれなかったかもしれないですね。

 

ヴィオラの個性をどう生かすか二人の考えは?

ー今回は、とくにヴィオラのソリストえあるナディア・シロタさんを招き、彼女のための作品を久石さんも書かれたわけですが、彼女とはどんなつながりがあったのですか?

ミューリー:
それは僕が説明しますが、彼女とはジュリアード音楽院時代からの古い、しかもとても親しい友人で、彼女のために数多くの作品を書いています。

久石:
そう、ニコさんの「ヴィオラ協奏曲」は彼女のために書かれた作品ですが、とてもすばらしい作品で、もちろん演奏もすばらしい。ニコさんを呼ぶなら、一緒に彼女も呼びたいとオファーしたのが今回のプロジェクトのスタートでした。

ーヴィオラという楽器はやはり地味な内声楽器という印象がありますが。

久石:
確かにそういうイメージはあるのかもしれませんが、オーケストレーションに気をつければ、ヴァイオリンにもチェロにもない個性を引き出せると思っていました。

ミューリー:
やはりヴィオラの音域が人間の声のそれに近いということは大きな要素だと思います。今回のコンサートでは、久石さんが彼女のために《Viola Saga》という新作を書いたのですが、この作品もそういうヴィオラの特性をよく理解して、非常に繊細に書かれた作品でした。それに久石さんの作品にはよく登場する和声感、それもいろいろな所に感じることができて、とても印象的でした。

久石:
いわゆるヴィオラ協奏曲というよりは、やはり室内アンサンブルとヴィオラのための管弦楽曲というイメージの作品になったと思います。

ミューリー:
久石さんがこのコンサート・シリーズのために組織した「ミュージック・フューチャー・バンド」の演奏もすばらしかったですよね。

ーニコさんの新作《Roots, Pulse》もとても興味深い作品でした。

ミューリー:
タイトルにもいろいろな意味を持たせているのですが、いわゆる基音となる低音=ルーツ、その上に展開されるリズムと色彩の変化というインスピレーションのもとで書かれた作品です。バンドのメンバーが見事に表現してくれました。実は今朝、ホテルのジムで過ごしていたときに、テレビで「芋」についての番組が流れていました。土の中で成長する芋もさまざまな形に曲りくねりますが、この音楽もまた同じように、さまざまに変型するルーツの上に音楽が展開されます。

久石:
おもしろいアイディアに満ちた作品でしたよね。一緒に作品を発表できて、本当によかったと思います。

(音楽の友 2022年12月号より)

 

 

目次

【特集】
●ショパン―その全魅力に迫る 演奏・作品・生涯・食
読者アンケート結果発表!!

【カラー】
●[News]パーヴォ・ヤルヴィ&ドイツ・カンマ―フィル コロナ禍を経て、来日決定!
●[連載]小林愛実ストーリー(5) 巻頭特別編(小林愛実/高坂はる香)
●[Report]トリトン晴れた海のオーケストラ&小林愛実(p)(越懸澤麻衣)
●[Interview]マリア・ジョアン・ピリス(p)― ふたたび日本のステージへ!(伊熊よし子)
●[Interview]アンネ=ゾフィー・ムター(vn)&パブロ・フェランデス(vc)― 愉悦の共演(中村真人)
●[Report]ロンドン交響楽団― サイモン・ラトルが音楽監督任期中、最後の来日(奥田佳道/池田卓夫/萩谷由喜子/山田治生)
●[Report]クラウス・マケラ&パリ管弦楽団― 世界を席巻する色彩の宝玉(那須田 務/長谷川京介)
●[Report]リセット・オロペサ(S)&ルカ・サルシ(Br) 世界屈指の絶唱に酔う(岸 純信)
●[Report]クリストフ・プレガルディエン(T) シューベルト「三大歌曲」を歌う(岸 純信/伊藤制子/那須田 務)
●[Report]新国立劇場《ジュリオ・チェーザレ》― 欧州で好評のプロダクションをもとに新制作(萩谷由喜子)
●[Report]神奈川県民ホール《浜辺のアインシュタイン》― 国内初の新制作上演(渡辺 和)
●[連載]わが友ブラームス(12)(最終回) ゲスト:坂入健司郎(指揮)(越懸澤麻衣)
●[連載]山田和樹「指揮者のココロ得」(7)(山田和樹)
●[連載]楽団長フロシャウアーかく語りき
●[連載]ショパンの窓から(19) ― ポーリーヌ・ガルシア=ヴィアルド(川口成彦)
●[連載]宮田 大 Dai-alogue~音楽を語ろう(7) ゲスト:植松伸夫(作曲家)(山崎浩太郎)
●[連載]和音の本音(28)― ラヴェルとみる夢I(清水和音/青澤隆明)
●[連載]マリアージュなこの1本~お酒と音楽の美味しいおはなし

【対談】
●久石 譲×ニコ・ミューリー~共鳴し合う二人が語る”作品が生まれるとき”(片桐卓也)

【News】
●ヨーヨー・マ(vc)「ビルギット・ニルソン賞2022」受賞(後藤菜穂子)

【特別記事】
●[Report]東京フィル《ファルスタッフ》
●[Interview & Report] アンサンブル・ウィーン=ベルリン―伝統ある木管五重奏団が来日(高山直也)
●[Report]辻井伸行(p)×三浦文彰(vn)による「ARKクラシックス2022」
●[Report]百花繚乱の響き―弦楽四重奏団コンサートレポート(渡辺和彦)
●追悼 一柳 慧(柿沼敏江/成田達輝/池田卓夫)
●[座談会] 明日の巨匠は誰だ」プレ座談会(小倉多美子)
●[Interview]千住真理子(vn)
●[Report]第91回日本音楽コンクール~全国から新進演奏家が集結(梅津時比古)
●[Interview]野平一郎(p・作曲)
【連載】
●池辺晋一郎エッセイ 先人の影を踏みなおす(33)水上 勉(1)(池辺晋一郎)
…ほか

【People】

【Reviews & Reports】

【Rondo】

【News & Information】

【表紙の人】
小林愛実(ピアニスト)(c)ヒダキトモコ

【別冊付録】
●コンサート・ガイド&チケット・インフォメーション
観どころ聴きどころ
(戸部 亮&室田尚子)

【特別付録】
Music Calendar 2023「はばたく日本の若手アーティスト」

 

 

 

 

 

Blog. 「久石譲 presents MUSIC FUTURE Vol.9」コンサート・レポート 【NY 11/15 Update!!】

Posted on 2022/11/02

10月26,27日開催「久石譲 presents MUSIC FUTURE Vol.9」コンサートです。春の開催発表から7月には追加公演(10/26)決定、そして公演前日にライブ配信の発表、なんとも直前まで目が離せない。2日間を完売にできる現代音楽のコンサート。日本国内だけでなく世界各地からも視聴できるコンサート。シリーズを重ねるごとにリスナーの好奇心をつかみ、さらにその少し先をいってみせてくれるコンサートです。

 

 

久石譲 presents MUSIC FUTURE Vol.9

[公演期間]  
2022/10/26,27 and 2022/11/05

[公演回数]
3公演
10/26,27 東京・紀尾井ホール
11/05 ニューヨーク・カーネギーホール(ザンケルホール)

[編成]
指揮:久石 譲
作曲・ピアノ:ニコ・ミューリー
ヴィオラ:ナディア・シロタ
室内楽:Music Future Band

[曲目]
久石譲:室内交響曲 for Electric Violin and Chamber Orchestra
ニコ・ミューリー:Selections from the Drones and Viola
久石譲:Viola Saga (世界初演)
ニコ・ミューリー:Roots, Pulses (世界初演)

 

New York

November 5, 2022
Zankel Hall

Performers
Joe Hisaishi, Conductor
Nico Muhly, Piano
Nadia Sirota, Viola
Bang On A Can Festival Ensemble

Program
JOE HISAISHI: 2 Dances for Large Ensemble
NICO MUHLY: Selections from Drones & Viola
NICO MUHLY: Roots, Pulses for Chamber Orchestra
JOE HISAISHI: Viola Saga

 

 

まずは会場で配られたコンサート・パンフレットからご紹介します。

 

 

Joe Hisaishi
室内交響曲 for Electric Violin and Chamber Orchestra

室内交響曲は2015年のMUSIC FUTURE Vol.2で初演した。その前年のVol.1でNico Muhlyの「Seeing is Believing」を演奏したいと考えたのだが、その曲で使用される6弦のエレクトリック ヴァイオリンは日本に無くて結果としてアメリカから買わざるを得なくなった。その時の演奏は東フィルのコンサートマスターである近藤薫氏によって素晴らしい演奏になった。と同時にそのサウンドに魅了された僕も翌年にエレクトリック ヴァイオリンを使用した室内交響曲を作曲した次第である。全3楽章で約28分の協奏曲として完成したが、タイトルはあえて室内交響曲とした。たぶんにアメリカンなムードが漂うのはエレクトリック ヴァイオリンの特性かもしれない。もちろんジョン・アダムズがこの楽器のために書いたようにエスニックな方向もあるのだが。

今回は初演と同じく、我がMusic Future Bandのバンドマスターであり新日フィルのコンサートマスターでもある西江辰郎氏が演奏する。

久石譲

 

Nico Muhly
Selection from the Drones and Viola
including
Drones and Piano
Drones and Viola

もう何年も前になるが、私の乗った飛行機がなかなか離陸できず滑走路で延々と待機させられたことがある。その時、私は飛行機のエンジン音や客室の空調の音をはじめとする、さまざまな機械が発する音がある一定の音符に相当する音を出していることに気づいた。真ん中のドの音より低いシの音だ。飛行機が少しずつ前へ進むたび、音程が徐々半音上がったり、下がったりする。飛行機が進んでは止まり、進んでは止まりを繰り返していたので、止まるたびにその音に合わせてメロディやパターンをメモに残した。この即興で作ったメモがきっかけとなり、「ドローンとピアノ」、「ドローンとヴィオラ」と題した連作の曲作りが始まったのだ。あの機内でのひらめきの可能性を探りたいと思った。ドローンはどんな楽器でも作ることができる。アコースティック楽器とエレキ楽器を組み合わせてもすばらしい効果を発揮する。このシリーズの楽曲は、それぞれ複数の楽章で構成されているが、楽章と楽章の間に小休止を置かず、ドローンの音程を変えることで楽章ごとの特徴づけがされている。

ニコ・ミューリー

 

Joe Hisaishi
Viola Sage

Viola SagaはMUSIC FUTURE Vol.9で初演するために作曲した。今回は世界で活躍している若手作曲家Nico Muhlyとのジョイントコンサートであるが、同時にニューヨークからヴィオラ奏者のNadia Sirota氏を招聘していて彼女のために書いた曲である。

タイトルのSagaは日本語の「性──さが」をローマ字書きしたもので意味は生まれつきの性質、もって生まれた性分、あるいはならわし、習慣などである。同時に英語読みのSagaは北欧中世の散文による英雄伝説とも言われている。あるいは長編冒険談などの意味もある。仮につけていた名前なのだが、他に思いつかず、これにした。

僕自身は今年から海外のコンサートが再開し、作曲依頼も溜まりに溜まっていたためこなしきれず、凄まじいカオスの中にいた、いやまだいるのだが、そのためSagaは8月ニューヨークのRadio City Music Hallでの5回公演の直前にやっとII.の基本モチーフが浮かんだ。初演するコンサートの2ヶ月前である。もちろん考えていたのは数年前に遡るし、そもそもNicoとNadiaは2020年のMFに来る予定だった。その時からCOVID-19のため何度も中断を余儀なくされ、今日に至った。Radio City Music Hallの楽屋でNadiaと一緒に約2分のDemoを聞いた。彼女のホッとした安堵の表情が忘れられない。その後いくつかのコンサートと、作曲をこなしつつ10月の初め、フランスツアーの直前にやっと完成した、、、と思う。

曲は2つの楽曲でできていて、I.は軽快なリズムによるディヴェルティメント、II.は分散和音によるややエモーショナルな曲になっている。特にII.はアンコールで演奏できるようなわかりやすい曲を目指して作曲した。この2~3年は前衛的なものより、わかりやすいものを書きたいと思っていた。つまり誰もが疲れている時に疲れる曲を聞いてもらおうとは思わなかった。その意味ではノンジャンル音楽ではある。が、リズムはかなり複雑で演奏は容易ではない。Music Future Bandへの信頼があってこその作曲である。

2022年10月
久石譲

 

Nico Muhly
Roots, Pulses

「Roots, Pulses」は今回の演奏会のために書き下ろされた楽曲。”快活vs抽象的”、”前景vs背景”の間の葛藤を模索する様を表現している。冒頭の2分半は、シンプルなハーモニーの牧歌的で楽しい活気のある曲調が続き、その後、ピアノ、鍵盤打楽器、弦楽器で空虚五度の和音が多用され、曲の雰囲気は窮屈なドローンに近い厳しく統制された様相へと変化していく。そして転換の範囲や変わり目を曖昧にしたまま、再度、快活でやや危険な様相へと移行する。曲の途中、快活な調べは鳴りを潜め、代わりに低音弦楽器、ピアノ、コントラバスーン、バスクラリネットのアンサンブルが最も低い音域と中低音の間の音域の主旋律を担うことで、より暗くて抽象的な曲調へと変化する。冒頭の長音でゆっくりと流れる連続したアンサンブルとは真逆の曲調だ。その後、長いオーボエソロを境に快活な曲調が復活するが、冒頭部よりもさらに拍車のかかった明るさでより一層の盛り上がりを見せる。

ニコ・ミューリー

(「久石譲 presents MUSIC FUTURE Vol.9」コンサート・パンフレットより)

 

 

 

ここからはレビューになります。

 

 

第4回 Young Composer’s Competition

受賞者 山本哲也 Tetsuya Yamamoto
受賞作 「ギミックバッハ3(Gimmick Bach 3)」

「Young Composer’s Competition」とは?
若手作曲家に活動の場を与えたいという久石譲の思いから始まった若手作曲家の新作を募集する企画。毎回、世界各国から作品が寄せられ、久石をはじめとした評論家・アーティストによる厳正なる審査のもと、優秀作品が選ばれる。

(「久石譲 presents MUSIC FUTURE Vol.9」コンサート・パンフレットより)

 

本演前に披露されました。冒頭で足本憲治さん、ニコ・ミューリーさん、久石譲さんが登壇され司会進行のもと講評がありました。口を揃えて評されていたのがユニークな作品だということ。久石さん談では、10年前に国立音楽大学で教えていた生徒だった(もちろん審査は番号でやるから名前はわからない)、ギミックバッハというタイトルに少し覚えがあった、BACH(バッハ)を音名にした「シ♭-ラ-ド-シ」を使った曲をという講義をしたことがある。そんなお話だったと思います。26日公演からです。5分ほどの講評の後、Music Future Band奏者によって演奏されました。ヴァイオリン、コントラバス、クラリネット、ファゴット、トランペット、トロンボーンによる6重奏作品です。

難しい悩ましい。開場18時ー受賞作披露18時半ー19時開演、このコーナーは開場時間中にやっています。だから演奏中照明は落としているものの出入り自由です。ロビーコンサートのようというかとても作品をしっかり聴く雰囲気にはない。始まるときは3割くらいだった客席が終わるころには8割まで埋まっていた、となればどれだけ演奏中に人が移動していたかわかると思います。作曲者も会場に来ているなか、、。(前からこんなに集まり悪かったかな?早めに密集することを避けたい心理が働いてるのかな?)

せっかく定着している企画なのにもったいない。本演と分ける必要はあるけれどしっかり聴きたい。聴く立場ではあるけれどちゃんと受賞作として聴きたい。じゃあ開場時間を早めるか、もっと告知するか、、難しい悩ましい。と閃いた!「受賞作演奏および久石譲によるプレトーク!本公演プログラムについて作品ごとに魅力を語ります!ぜひお早めにご来場ください!」これしかない。本気で、前向きに、そう思った次第です。

 

Joe Hisaishi
室内交響曲 for Electric Violin and Chamber Orchestra

久石譲解説にあるとおりです。もう初演から7年になるんですね。MFプログラムはMFならではの作品がのることを証明するかように今回で2度目の披露となりました。それだけ前衛性も楽器編成も尖った作品という現れです。エレクトリック・ヴァイオリンつながりでいうと、「天音 / EXILE ATSUSHI&久石譲」(2017)にもフィーチャーされています。そこでの演奏も西江辰郎さんです。また第3楽章は「The Border Concerto for 3 Horns and Orchestra」(2020)の同じく第3楽章「III. The Circles」として再構成されました。エレクトリック・ヴァイオリンからホルンとオーケストラのための作品へ。

今回改めて聴きながら、時間の経過とともに作品を線で感じれるところもあっておもしろかったです。第1楽章・第2楽章は「The End of the World for Vocalists and Orchestra」の「II. Grace of the St. Paul」、サックスが編成されている共通点もありますが、雰囲気として近いと感じる箇所がいくつかあります。エレキギターさながらのエレクトリック・ヴァイオリンだけがアメリカ色を作っているんじゃないんだ、みたいな印象です。

第3楽章は「2 Pieces for Strange Ensemble」(2016/2020)、アンビル(Anvil/鉄塊を打つ金属音)・大太鼓・シンバルといったパーカッションのスパイスが同じくよく効いています。2 Piecesで語られていた「NYのSOHO/ワイルドなサウンド」という音響的効果がつながってくるように感じました。

 

Nico Muhly
Selection from the Drones and Viola

楽器編成:ヴィオラ、ピアノ、エレクトロニカ (楽器編成はライブ配信の映像目視による、以下同)

約14分にセレクトされた作品。ニコ・ミューリー自らのピアノにナディア・シロタのヴィオラというデュオからなります。導入楽章は電子音源も背景に使われていました。楽曲解説に「複数の楽章で構成」とあるとおりアルバム『Drones』収録から選ばれています。アルバムは、ピアノ、ヴィオラ、ヴァイオリンをそれぞれフィーチャーしたEP盤をのちにまとめたもので全14曲です。うちシリーズ・ヴィオラの全4曲をベースにプラスアルファで、録音されたものとは異なる箇所もあったりと演奏会でしか聴けないパフォーマンスでした。瞑想的でただ身を任せていたいとも思います。暗示的で何かを仄めかしたり示唆したりとも思います。そして、僕が不思議と強く思ったのは歴史的だということ。いかなる現代社会にもフィットしてくる曲。今でいうと……。リアリズムをあぶり出してしまう。5年後10年後に聴いたときには、またその時の今が浮かび上がってきそうな作品です。この機会に見つけたアルバムもまたゆっくり聴いてみたいと思います。

 

Joe Hisaishi
Viola Sage

楽器編成:ソロ・ヴィオラ、ヴァイオリン2、ヴィオラ、チェロ、コントラバス、フルート、オーボエ、クラリネット、ファゴット、ホルン、トランペット、トロンボーン、ピアノ、パーカション (2奏者) 

約20分の作品。このかっこいいヴィオラの世界!この美しきヴィオラの世界!伝えたい感想はこれだけでいいかなと思います。これからつらつらと書いてしまいますけれど、それは記憶から消してしまっていい、あとはやっぱり聴いてみてほしい。

I.

ヴィオラの独奏から始まります。あなたのタイミングでどうぞ始めてください。ソリストも呼吸をつくることができる。久石譲のソリストへのリスペクトが見えてきそうです。久石譲のソロ楽器をフィーチャーした作品には、こういったスタイルの作品がいくつかあります。

冒頭「ドー、ソー、レー、ラー、シ♭ーラシ♭ソー」と始まります。2オクターブにまたがる広い音域のモチーフです。実はこの最初の「ド、ソ、レ、ラ」はヴィオラの開放弦です。4本張られた弦の指を押さえない状態で鳴る低音から高音の4つの音。そこへケルティック感のあるハーモニーの重奏になっています。はい、ここだけでももう久石譲楽曲解説にある「Saga、生まれつきの性質、北欧中世の」を見事にクリアしています。すごい!着想もそうだしそれを音楽として魅力的にかたちにしてしまう。

独奏のあと軽やかなアンサンブルが始まります。第一印象で「2 Dances」と並べたくなりました。それは5拍子の「タン、タタンタ、タン、タン」という音型やリズムがひとつの基調となっているからです。そしてこのモチーフが「2 Dances I.」の少し暗い雰囲気とは逆の少し明るい雰囲気なのもまた対称的です。かなり距離感の近い作品だと思います。このことはまた後で。

5拍子のリズムが中低音で支えていてワクワクしてきます。冒険ゲームのステージやダンジョンが変わっていくように曲想も変わっていく。そんなおもしろさあります。「冒険」というキーワードも楽曲解説にありましたね。主人公になった気分で楽しく進めたくなります。

6分あたりの静かになるところは、ヴィオラは冒頭や前半に奏でていた旋律のヴァリエーションです。そのあとまたボンゴなども加わりリズミックになります。「Variation 14 for MFB」楽器編成が近いこともありますが快活さもつながってきそうと感じます。「ならわし、習慣」というキーワードも楽曲解説に。聴けば聴くほど「2 Dances」と「Variation 14」のエッセンス入ってるってなるんですけど、僕の心の声を書き出したら止まらなくなるのでここはメモにしよう。

 

  • 2020.09 MF Vol.7 出演者とプログラム変更・ニューヨーク公演中止の案内
  • 2020.10 MF Vol.7 久石譲「新曲」→「2 Pieces for strange Ensemble (New version)」発表
  • 2020.11 MF Vol.7 久石譲「2 Pieces 2020 for Strange Ensemble」「Variation 14 for MFB」初演
  • 2021.10 MF Vol.8 久石譲「2 Dances for Large Ensemble」初演
  • 2022.10 MF Vol.9 久石譲「Viola Saga」初演(Vol.7予定出演者によるプログラム)

 

~(僕の心の声)~

  • 2020.09 MF Vol.7 出演者・プログラム変更・ニューヨーク公演中止の案内
    ~この時すでにViola Sagaの原型や基本構想はあった。
  • 2020.10 MF Vol.7 久石譲「新曲」→「2 Pieces for strange Ensemble (New version)」発表
  • 2020.11 MF Vol.7 久石譲「2 Pieces 2020 for Strange Ensemble」「Variation 14 for MFB」初演
    ~急遽の対応として2 Piecesをアップデートさせた。交響曲第2番 第2楽章をMF編成で先出しした。
  • 2021.10 MF Vol.8 久石譲「2 Dances for Large Ensemble」初演
    ~Viola Sagaの線上にある作品。
  • 2022.10 MF Vol.9 久石譲「Viola Saga」初演(Vol.7予定出演者によるプログラム)
    ~2020年時点で完成していたものではなく(完成していなかった?!)直前まで作曲されてお披露目。

 

II.

久石譲楽曲解説にあるとおり「分散和音によるややエモーショナルな曲」です。そして一貫しています。弦楽器のなかでヴィオラというのは、縁の下の力持ち的役割をすることが多いです。ヴァイオリンたちのメロディをハモったり、チェロたちのリズムを支えたりと。主役になることはないけれど、それだけメロディもリズムも曲のバランスに目を配っていないといけない、オーケストラの要とも言われることあります。

そんなヴィオラを主役にしようとしたときに、久石譲はありのままのヴィオラの役割をまっとうさせた。そう思うとじんわり熱くまります。言ってしまうと、ヴィオラが奏でる分散和音は伴奏音型としてもいいわけです。飛びますけれど、7分半あたりのクライマックスの盛り上がりなんて「Will be the wind」よろしく、ヴィオラの上に悠々と滞空時間の長い大きなメロディを奏でてもいいわけです。ヴィオラを脇役にして。でもそうはしていない。「2 Dances」第1楽章にもメロディらしいものは登場する。「Viola Saga」はI.II.ともにない。もしこの作品を聴いて、今ひとつ何か足りないと思ったなら、たぶんそれで合ってると思います。それこそこの作品の正しいあり方な気がしています。

飛びますけれど、2分あたりから1分間ほど、艶を消したような弦楽器アンサンブルになっていてトーンが変わる。まさに、いぶし銀。頭から終わりまでいつもより控えめで慎ましい他の弦楽器や管楽器たちとのアンサンブル。まさに、わびさび。

久石譲楽曲解説にあるとおり「もって生まれた性分」、オーケストラにおけるヴィオラの性分をまっとうさせた。だから僕はじんわり熱くなる。そして反対のことを言う。メロディを支えて歌えるヴィオラ、リズムセンスに長けたヴィオラだからこそできることがある。メロディ抜きの作品のように見えるけれど、分散和音からなるモチーフを、これだけエモーショナルにリズミックにメロディほど奏でてしまうヴィオラ。徹底してやりきり約20分を魅了してしまうヴィオラ。足りないことなんて何もない。ちゃんとヴィオラは主役を演じきっている。ああ、ヴィオラ弾きからみたらもっといろんな美味しいところが詰まってるんだろうな。ぜひ知りたい。とにもかくにも、あますところなくヴィオラ!ぜひご堪能ください。

 

Nico Muhly
Roots, Pulses

楽器編成:ヴァイオリン2、ヴィオラ、チェロ、コントラバス、フルート、ピッコロ (持替)、オーボエ、クラリネット、バスクラリネット (持替)、ファゴット、ホルン、トランペット、トロンボーン、ピアノ、パーカション (2奏者) 

約15分の作品。ニコ・ミューリーによる楽曲解説がとても具体的です。手引きに聴くのが一番です。とてもくっきりした音像が印象的でした。それぞれの楽器が今なにをやっているかすごくよくわかる。改めて久石譲作品と並べられると、お互いのスタイルの違いもまたくっきりしてくるようです。久石さんの場合、旋律も楽器も絡ませることで生まれる魅力があります。ニコ・ミューリーさんの場合は、スコーンと抜けてる魅力があります。楽器の使い方の違いというよりは、旋律の作り方というか音符の動き方というか。まあわからないから墓穴もほどほどにして。

久石譲×ニコ・ミューリー。共演プログラムもすごい、来日したのもすごい、ニューヨークでやるのもすごい。このインパクトはもちろんあります。そんななかでやっぱりここに注目したい。現代音楽の間口を広げてきたふたりの現代作曲家によるコラボレーションだということ。世界中から引く手あまたの作曲家が現代作品で共演した。しかも新作をもちよった同時世界初演。この企画と実現はなかなかできることではありません。来年Vol.10あたりほんとうにテリー・ライリーさん、くるかもしれませんよ。

 

 

みんなの”MF9”コンサート・レポート、ぜひお楽しみください。

 

 

 

 

ニューヨーク公演

from Official Website | Carnegie Hall

 

日本プログラムとは一部異なり「2 Dances for Large Ensemble」が披露されます。また、Bang on a Can Festival EnsembleはMUSIC FUTURE Vo.5 ニューヨーク公演でも共演しています。スティーヴ・ライヒ、テリー・ライリー、ニコ・ミューリーなど現代作曲家の多くを録音しています。デヴィット・ラングさん達が始めた現代音楽グループです。この年は日本公演・NY公演ともにそのデヴィット・ラングとのジョイントコンサートでした。

 

 

 

 

 

Backstage

from 久石譲コンサート公式ツイッター
https://twitter.com/joehisaishi2019

 

 

ほか

リハーサル風景動画もあります

from 久石譲本人公式インスタグラム
https://www.instagram.com/joehisaishi_composer/

 

 

ほか

日本滞在中の食レポみたいで楽しいです。そばにうなぎに。

from ニコ・ミューリー公式インスタグラム
https://www.instagram.com/nicomuhly/

 

 

ほか

from 西江辰郎インスタグラム
https://www.instagram.com/tatsuo_music/

 

 

from テリー・ライリー公式ツイッター
https://twitter.com/TerryRiley_info

 

 

会場では、最新アルバム(前回Vol.8/2021を収録)の先行販売もありました。いち早く聴けることはうれしいです。こうやってMFコンサート毎に音源化してくれることはもっとうれしいです。

 

 

 

まだ間に合うライブ配信!

アーカイブ配信期間
配信終了後~11月3日(木)23:59

購入ページや視聴環境については公式サイトご覧ください。

公式サイト:久石譲プレゼンツ・ミュージック・フューチャー Vol.9|ライブ配信
https://joehisaishi-concert.com/mf-vol9-online/

Official web site for overseas:JOE HISAISHI presents MUSIC FUTURE VOL.8|LIVE STREAMING
https://joehisaishi-concert.com/mf-vol9-online-en/

 

 

 

2022.11.07 update
NY Photos

Joe Hisaishi, Autumn in New York !

ほか

 

リハーサル風景

ほか

 

公演風景

リハーサル風景動画もあります

 

公演後日

from 久石譲本人公式インスタグラム
https://www.instagram.com/joehisaishi_composer/

 

 

from フィリップ・グラス公式ツイッター

 

 

2022.11.15 update
NY公演風景& Young Composer’s Competition優秀作品音源公開

from 久石譲本人公式インスタグラム

 

 

 

 

MFシリーズ

 

 

最後まで読んでいただきありがとうございます。

 

Blog. 「音楽の友 2022年8月号」久石譲×宮田大 対談内容

Posted on 2022/08/11

クラシック音楽誌「音楽の友 2022年8月号」(7月15日発売)に掲載された久石譲と宮田大の対談です。[連載] 宮田 大 Dai-alogue~音楽を語ろう コーナーの第3回ゲストとして久石譲が登場しました。

 

 

連載
宮田大 Dai-alogue~音楽を語ろう
Vol.3 ゲスト:久石譲

今回のゲストは作曲家・指揮者として世界的に活躍の久石譲さん。久石作品に大きな影響を受けてきたという宮田と、チェリスト宮田を高く評価する久石で、話しは大いに盛り上がった。それぞれが受けてきた音楽教育では共通点もあった。作曲家、演奏家それぞれの視点で、「作曲家、演奏家の音の個性とは?」などについて語る。

 

名演は作曲家と演奏家によって生み出される

二人の意外な共通点

宮田:
自分は久石さんの音楽が大好きなんです。たぶん最初に触れたのは、映画『天空の城ラピュタ』。1986年公開なので、自分と同い年なんです。学生時代には、監督もされた『Quartet カルテット』(2001年)を観て、その影響で仲間と弦楽四重奏を組みました。

クラシックの作品も聴いています。《DA・MA・SHI・絵》が大好きで、ずっと聴いているんですよ。だから今日はちょっとドキドキしています(笑)。

久石:
ほんとう!? それは嬉しい。娘の麻衣が宮田さんと親しくさせてもらっていて、宮田さんは現代音楽にも興味があると聞いたから、ああいうのを書いて、一緒に演奏したいと思っているんですよ。チェロは、いくつから始められたんですか。

宮田:
3歳からです。母がヴァイオリン、父がチェロの指導者だったので。

久石:
すごいですね。うちは親が化学の先生だから、音楽はまったく無縁でしたよ。地元が長野県だったので4歳から鈴木鎮一ヴァイオリン教室やスズキメソードで学びましたが、小さいころは耳から音楽を学ぶことが多かったので、楽譜を読むのに苦労しました。

宮田:
スズキで習われたんですか。うちは両親がスズキの先生なので、やっぱりまず耳から。

久石:
まず耳からなので、覚えるのは早くなったんだけど、譜面を見て弾くっていうのは、なかなかうまくいかなかった。

宮田:
自分は、今でも譜読みするときは指番号をぜんぶ自分で書いて、暗号のようにその番号を見て、あとはピアノとかクレッシェンドとかを確認しながら弾くスタイルになっていますね。自分のスタイルができたので、初見は苦手でも楽譜に書いてあることを時間をかけてしっかりと理解でき、今では私にとって最高のスタイルです。

久石:
仲間だな。スズキ・メソードは、海外での評価が圧倒的に高いんですよね。

宮田:
大人数で演奏する楽しさは、そこで学びました。だから今でも、いろいろなかたとアンサンブルするのが楽しいんです。

 

自分ではわからない「自分の音」

久石:
自分はチェロの音色がとても好きなんですよ。オーケストレーションをしているときにも、決めどころでチェロを使ったりします。

宮田:
いいところでチェロが鳴るので、嬉しいです(笑)。

ところで、いつも本番前に聴く久石さんの曲があるんです。『紅の豚』の《ポルコ・ロッソ》。あれを毎回聴くんです。そうするとすごく視野が狭まってくるというか、あれこれ頭が働いていたのが落ちついてきて、今からお客さんにこんな演奏をしたいとか、そうしたエゴがなくなってきて、今音楽を楽しみたいという気持ちにしてくれる曲なんです。

久石:
なるほど。

宮田:
いろいろな作品を聴かせていただいて思うのですが、ぜんぶ、”久石さんの音楽”じゃないですか。私もよく、お客さんや先生がたから、「宮田さんの音は宮田さんの音だってとてもよくわかるね」と言っていただけて、すごく嬉しいんですけど、どういうものが自分の音なのかは、自分ではわからない。久石さんご自身ではどう感じていらっしゃいますか。

久石:
やっぱり自分ではわからないですよね。もちろん、自分の曲は聴いたらわかる。昼間作った曲は夜にはもう完全に忘れていますけれどね。作り続けるためには忘れるのがいちばん大事で、空っぽにしないといけないから。そういう意味では忘れちゃうんだけど、どこかで鳴っていたら、僕の曲だってわかります。

それから、僕の曲を誰かがアレンジしたものもわかるんだけど、下手だなと思うことがあります(笑)。僕をメロディ作家だと思っている人は、メロディがあれば成立すると考えがちですが、シンプルなメロディにするためには、ほんのちょっとしたコードの差、ちょっとしたリズムの差などでアクセントをつけているんです。だから、メロディだけを抽出してアレンジしても、うまくいかないんです。

宮田:
そこに秘訣があるわけですね。

 

演奏家が補うことで作品が活かされる

久石:
ただ、その一方で、技術的にいちばん初歩の段階で素朴に歌う田舎のおばあちゃんに勝てるかって言ったら、僕は絶対勝つとは言えないんだよね。そこに音楽の怖さがあって、自分の歌いかた、自分の音で勝負できるという強い自信を持たないと、本当には勝負できないよね。

宮田:
日本人が今のコンクールになかなか優勝できないのは、そういうところかもしれません。

久石:
コンクールまでは勝てるんじゃないの?

宮田:
以前は上手であれば評価されたんですが、最近のコンクールは、個性もすごく評価される流れになっているんです。チェロでも、上手なのは当たり前で、さらに個性がある人が強い。今はYouTubeのような動画共有サイトで往年の巨匠の演奏を見て、真似をすることはできる。技術があるから真似はできるんです。でも自分がない。借り物ではなくて、本当のあなたはどんな音楽をしたいのかということを、これからは問われますね。

久石:
作曲をする立場で言うとね、最後、楽譜に表情記号を書くときには、じつはもう頭がクタクタになっているんです。そこまでの段階で、モティーフの構成に心身ともに全力を尽くしちゃっているから、もう譜面を見たくない状態なんです。クレッシェンドがどこから始まるかなんて、どっちだっていいよと言いたいぐらい。

演奏家は、基本的に作曲家が書いたものを大事にする。それは正しい。大事なんだけど、同時に作曲家の側が限界を感じながら書いているところもあるんです。そうすると、演奏家に補ってもらわないとできない部分が相当あるわけです。それをわかってくれて、一緒に演奏してくれる、作品を活かしてくれる演奏家と出会うことが、作曲家はいちばん嬉しいんです。

クラシックの過去の名曲だって、演奏の視点を変えれば、まだまだできることはあるし、そうしなきゃいけない。同じことの繰り返しでは古典芸能になってしまうけれど、身のまわりのことや現代の世界のことなどを反映させることは十分可能だと思います。宮田さんとは新曲だけでなく、クラシックの曲でもぜひ共演してみたいですね。

宮田:
喜んで。ドヴォルジャークの「チェロ協奏曲」など、ご一緒したいです!

取材・文=山崎浩太郎 写真=ヒダキトモコ

 

 

Column 3
映画を観て、聴いて感じてきたこと

私の好きなことの一つが、映画を観る&聴くことです。観るという表現に聴くという表現をなぜ加えたかというと、映画に使われる音楽が大好きで、観ていると同時に音楽も楽しんでいるからです。映画は、クラシック音楽、ジャズ、タンゴ、などのいろいろなジャンルの音楽が使われたり、映画のために作曲された新作が使われたりと、音楽の時代とジャンルを超えて一つの作品の中で表現されます。垣根をつくらず、良いと思った音楽を取り入れている映画の世界は、私にたくさんの刺激を与えてくれました。

私はいつも演奏する際に、どの作品にも物語を感じ、喜怒哀楽の感情表現や、世界中の景色をイメージするようにしています。映画を観て聴くことにより、頭の中のイメージの図書館がたくさん増えていきます。

特に久石譲さんは、私にたくさんの感情を与えてくださったかたです。映画のなかの人物が「どう悲しいのか、どのように嬉しいのか、なぜそのような感情が生まれたのか」を久石さんの音楽から感じた経験は、私の音楽人生の大切なコアになる部分を形成しています。

これからの演奏会でも、クラシック音楽だけではなく、いろいろなジャンルの中に生き続けているすばらしい作品をたくさん取り上げていきたいと思います。

(文=宮田大)

 

(「音楽の友 2022年8月号」より)

 

 

from 久石譲本人公式インスタグラム

 

 

音楽の友 2022年8月号

特集
NIPPON・オーケストラ譚―過去から現在、そして未来へ

(奥田佳道/池田卓夫/佐渡 裕/片桐卓也/岡部真一郎/水谷川優子/山崎浩太郎/井形健児/西濱秀樹/桑原 浩/小倉多美子/セバスティアン・ヴァイグレ/山田治生/山本祐ノ介/三光 洋/下野竜也/堀江昭朗)
現在活動している日本のオーケストラは、第二次世界大戦後から高度経済成長期にかけて創設されたものがほとんどだ。2022年、そのオーケストラのいくつかが創立50周年等の記念年を迎えた。この機会に日本のオーケストラの創設期から現在までをたどり、今後の行くべき方向性を考えてみようと思う。

●[Interview]篠崎史紀(vn)が語る演奏への信念(ふかわりょう/堀江昭朗)/[対談]篠崎史紀×ふかわりょう(堀江昭朗)
●[新連載]小林愛実ストーリー(1)(小林愛実/高坂はる香)
●[Report]第22回別府アルゲリッチ音楽祭&マルタ・アルゲリッチ(p) 東京公演3夜(澤谷夏樹/渡辺 和/池田卓夫/山田治生)
●[Report]ウィーン・フィルのサマーナイトコンサート2022(中村伸子)
●[Report]シャルル・デュトワ&新日フィルが48年ぶりの共演(長谷川京介)
●[Report]室内楽の饗宴 サントリーホール「チェンバーミュージック・ガーデン 2022」(山田治生)
●[Report & Interview]アリス=紗良・オット ~「エコーズ・オブ・ライフ」公演で描きたかったストーリーとは?(池田卓夫/伊熊よし子)
●[連載]楽団長フロシャウアーかく語りき「ウィーン・フィル、わが永遠のオーケストラ」(17)(ダニエル・フロシャウアー/渋谷ゆう子)
●[連載]宮田 大 Dai-alogue~音楽を語ろう(3) ゲスト:久石譲(作曲・指揮)(山崎浩太郎)
●[連載]山田和樹「指揮者のココロ得」(3)(山田和樹)
●[連載]マリアージュなこの1本~お酒と音楽の美味しいおはなし(24)/口福レシピ― ゲストに捧げる(3)―〈ゲスト〉大西宇宙(Br)(伊熊よし子)
●[連載]ショパンの窓から(15) ―フェルディナンド・ヒラー(川口成彦)
●[連載]わが友ブラームス(8) ゲスト:森野美咲(S)(越懸澤麻衣)
●[連載]和音の本音(24)― ロマン派のゆくえ(清水和音/青澤隆明)
●[告知]読者招待イヴェント「明日の巨匠は誰だ!」観覧者募集

別冊付録:コンサート・ガイド&チケット・インフォメーション

ほか

 

 

 

Blog. 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2022」コンサート・レポート

Posted on 2022/08/04

7月23~29日開催「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2022」です。今年は国内5都市5公演&国内海外ライブ配信です。予定どおりに開催できることが決して当たり前じゃない今の状況下、出演者も観客も会場に集まることができた。まだまだ足を運べなかった人もいます。昨年に引き続きの開催&ライブ配信に喜んだファンはいっぱいです。今年も熱い夏!

 

 

久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2022

[公演期間]  
2022/07/23 – 2022/07/29

[公演回数]
5公演
7/23 東京・すみだトリフォニーホール 大ホール
7/25 広島・広島文化学園HBGホール
7/26 愛知・愛知県芸術劇場 コンサートホール
7/28 静岡・アクトシティ浜松 大ホール
7/29 大阪・フェスティバルホール

[編成]
指揮・ピアノ:久石 譲
管弦楽:新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ
バンドネオン:三浦一馬
ソロ・コンサートマスター:豊嶋泰嗣

[曲目]
久石譲:水の旅人
久石譲:FOR YOU

久石譲:My Lost City for Bandoneon and Chamber Orchestra
Original Orchestration by Joe Hisaishi
Orchestration by Chad Cannon

—-intermission—-

久石譲:MKWAJU
久石譲:DA・MA・SHI・絵

久石譲:交響組曲「紅の豚」
Symphonic Suite Porco Rosso
Original Orchestration by Joe Hisaishi
Orchestration by Chad Cannon

—-encore—-
One Summer’s Day (for Bandoneon and Piano)
World Dreams 

[参考作品]

My Lost City 久石譲 『紅の豚 サウンドトラック』 Dream Songs: The Essential Joe Hisaishi Songs of Hope: The Essential Joe Hisaishi Vol. 2

 

 

 

さて、個人的な感想はひとまず置いておいて、会場で配られたコンサート・パンフレットからご紹介します。

 

 

ご来場の皆さん、2022年のWORLD DREAM ORCHESTRA(WDO)に来ていただきありがたく思っています。

本日演奏する交響組曲「Porco Rosso」とバンドネオンとオーケストラのための「My Lost City」について少し解説します。

「Porco Rosso」は宮﨑駿監督の映画「紅の豚」に書いた音楽をもとに交響組曲として再結成し、「My Lost City」は僕のソロアルバムとして発表した作品をバンドネオンと小オーケストラの楽曲として新たに構成し直しました。バンドネオン奏者の三浦一馬さんは僕の作品「The Black Fireworks」というとてつもなく難しい楽曲を演奏してもらいましたが、今回はもっとバンドネオンにふさわしい楽曲なので彼も安心して演奏できるのではないかと思っています、、、たぶん。

両作品とも1929年から始まった世界大恐慌の時代を舞台にしていて、方や当時のアメリカの象徴的作家であり破滅的な人生を送ったスコット・フィッツジェラルド、方や豚の風態を変えてしまったポルコと一見無関係に思える二人がそれぞれの主人公です。それは人が人でいられた時代から、そうで無くなった時代に馴染めなかった、あるいは否定した男たちの話です。

両作品ともバブルの時代の1992年に発表されました。個人的な思いとしてはバブルに浮かれている人たちへの警鐘の意味もありました。

これは誰にも言っていないことですが、イメージアルバムの「Porco Rosso」と「My Lost City」を同時に宮﨑さんにお送りしたら、「逆にしてほしいな」と言っていたそうです。つまり「My Lost City」を「Porco Rosso」の映画に使いたいということでした。冗談なのか本気なのか当時は意味がわからなかったのですが、今は少しわかります。宮﨑さんが「Porco Rosso」の音楽に求めていたのはもっと大人の、しかもパーソナルな音楽だったのかもしれません。その片鱗が「Madness」です。「My Lost City」の中の曲としてレコーディングしたのですが宮﨑さんがどうしても使いたい、ということで映画でも使用しています。だから今回は両作品で演奏します。

こんな秘密書いてもいいのかな?誰にも言わないでください、、、、

そして2022年の今、まるで「風の谷のナウシカ」の腐海に住むように我々はマスクを着用し、21世紀に起こるとは誰もが想像すらしなかったロシアによるウクライナ戦争が勃発しています。しかも信じられないくらいアナログで!

「僕たちはどこに行くのか?」という問いが「My Lost City」のテーマであり「Porco Rosso」のように豚になることで世間と距離を置くことが一つの答えかもしれません。しかし「飛べない豚はただの豚だ!」という明快な言葉が全ての答えであり、「しっかり生きる」ことが僕たちに一番必要なことだと僕は思います。

もう1つ大事なことがあります。それは大林宣彦監督へのオマージュです。2020年春に他界された大林監督とは公私ともにお付き合いさせていただきました。冒頭の「水の旅人」「FOR YOU」それに「My Lost City」の中では映画「ふたり」「はるかノスタルジー」からそれぞれ「Two of Us」「Tango X.T.C.」を演奏します。これらの作品はどれも大林監督の人を慈しむ思いが込められている素晴らしい映画であり、僕にとっても重要な音楽作品です。今日演奏できることはとても幸せです。

2022年7月
久石譲

 

(「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2022」コンサート・パンフレットより)

 

 

 

ここからはレビューになります。

 

今年のWDOもオール久石譲プログラム!スタジオジブリ作品交響組曲プロジェクト『紅の豚』、さらに時代をフラッシュバックするような珠玉の名曲たち。さて、今回は未知の新作が並ばなかったこともあって浮足立ったふわふわ感想もセーブできます。若い客層や新しいファンの集う場にもなっているWDOコンサートです。作品ごとにその経歴を振り返りながら少し落ちついて(ほんとに?!)ご紹介していきたいと思います。

 

水の旅人

映画『水の旅人 -侍KIDS-』(1993/大林宣彦)よりメインテーマ「Water Traveller」です。大きなメロディ、独特なハーモニーの流れ、咆哮する金管楽器、大きな水しぶきのようなシンバルやドラ。壮大な序曲のようにコンサートでも開幕を飾ることの多い曲です。ファンにとっては北極星のような曲のひとつだと思います。いろいろな音楽に触れて、いろいろな年月が流れて。でも、振り返ったらいつもそこに定点で輝いている曲。そうだったそうだったよね、久石譲の音楽の魅力ってこういうことだよね、って今の自分の居場所や方角から測ってくれるもの。

ファン投票にによって選ばれた楽曲を久石譲指揮・ロンドン交響楽団でレコーディングした『Melodyphony メロディフォニー ~Best of JOE HISAISHI〜』(2010)に収録されました。変わらぬ人気を現すように全世界リリースのベスト盤『Dream Songs: The Essential Joe Hisaishi』(2020)に同音源が入っています。変わらぬなかに進化もあります。WDO2014以来のプログラムとなりましたが、本公演は1分弱ほどテンポが速くなっています。久石譲のテンポ処理やアクセントなどは、たしかに最新版となって輝きも磨かれています。

 

FOR YOU

映画『水の旅人 -侍KIDS-』(1993/大林宣彦)より主題歌です。「あなたになら…/中山美穂」として生まれたこの曲は英語版「I Believe In You」もあります。器楽版のタイトルは「FOR YOU」オーケストラ版のほかヴァイオリン&ピアノのデュオ版もあります。切なくて涙が溢れる久石メロディもあれば、この曲のように温かくて涙が溢れる久石メロディもあります。ピュアにハートウォーミングにまっすぐに。

宮﨑駿・北野武・大林宣彦監督作品より厳選された曲をロンドン・フィルと共演した『WORKS・I』(1997)に収録されました。全世界リリース第2弾となるベスト盤『Songs of Hope: The Essential Joe Hisaishi Vol. 2』(2021)に同音源が入っています。久石譲の曲はチェロとホルンがいいところでいい感じに鳴るんだよ(誰の声?!)。そのとろけるようなスウィートな音たちに包まれる一曲です。2007年以来の登場にやられちゃいましたね。そんななかにも、中盤以降大きく金管楽器の出番が増えています。トランペットやトロンボーンあたり、Water Travellerとセットでみると厚みのバランスもとれているような気しますね。

 

大林宣彦×久石譲

久石譲が語ったこと、大林監督が語ったこと、一緒に作り上げた作品たち。それから、WDO2022プログラムを象徴しているようなもうひとつ、1990年代のテーマ”HOPE”について。いろいろなエピソードがここまでの時間をつくっています。よかったら見てください。

 

 

My Lost City for Bandoneon and Chamber Orchestra

1992年映画『紅の豚』と同年に発表された久石譲オリジナルアルバムです。長いキャリアのなかで、久石譲本人も代表作のひとつだと公言しているほどの完全結晶。それは、巷に定着しつつあった”久石メロディ”を大きく凌駕して”久石譲というジャンル”を大きく拡げてみせた時代の渾身作です。紅の豚×My Lost CityがWDO2022で並ぶ双璧!

本公演で披露されたのはバンドネオンと小オーケストラのための約23分の作品です。アルバム『My Lost City』(全11曲)の8曲からなる組曲のような構成になっています。

 

Prologue
映画のオープニングのようです。なにかを予感させるプロローグ。洗練のストリングスが秀逸すぎます。霧のたちこめるニューヨーク、マンハッタン。

漂流者~Drifting in the City
My Lost Cityのテーマともいえる旋律がバンドネオンによって奏でられた瞬間、ぎゅっと胸を締めつけられたファンはきっと多いと思います。もうコンサートで聴けることはないかもしれないとまで思いつめてしまっていたあのメロディがホールを観客を僕を震わせている。再会とか久しぶりなんて軽く簡単に言えないたくさんのものを含んだ想いが一気に溢れ出そうになります。

三浦一馬さんの演奏すばらしかったです。どの曲もメロディの歌わせ方が絶妙なんです。バンドネオン特有の音の立ち消え方ってあります。弦楽器はすーっと音が持続するしピアノはポンと音が減衰する。そのちょうど中間のいい塩梅みたいに、音の立ち上がり方も鋭かったりそっと入ったり、音の消え方もパッと勢いまま切ったりそっと消えいったり。だから、ああこんなにバンドネオンって合うんだってこの曲も魅せられてしまった。

原曲からは、前半と後半とテーマが1コーラスずつカットされています。中間部の「Solitude~in her‥」パートもカットされています。原曲にはないオーケストレーションの継承についてはまたあとに。

Jealousy
ジャズタンゴと昭和ロマンをブレンドさせたような不思議な魅力をもった曲です。それはそのまま、1920年代のアメリカと日本をクロスオーバーさせて音楽的にあぶり出してみせた、と思うとかなりかっこいい一曲です。翻弄される魅惑さとそこに漂う危うさ、溺れてしまうともう元には帰れない。

原曲からは、サクソフォンがクラリネットになっていたり、ピアノよりもビブラフォンに振れていたりと、フィーチャーされる楽器が変わったことで雰囲気も印象も新しい魅力です。とりわけ、バンドネオンとクラリネットの組み合わせはこの作品全体のポイントのひとつ。この曲でいうと、お互いにセッションするように掛け合ったりしています。音が重なるときの魅力も以降の曲で魅せてくれます。

Two of Us
映画『ふたり』(1991/大林宣彦)より。主題歌で監督とデュエットしている歌曲版はタイトル「草の想い」です。久石譲アルバムでもオーケストラ版やアンサンブル版などあります。バンドネオンと久石譲ピアノでたっぷりと歌い、つづいてコンサートマスターのヴァイオリンも加わる三重奏を基調としています。弦楽オーケストラがやさしくそっと寄り添っています。コンサートでは、バンドネオンとヴァイオリンのソロをエスコートするところまでが久石譲ピアノでした。

原曲からは、チェロがバンドネオンへ、中間部のピアノソロはカットされています。それから『Shoot The Violist ~ヴィオリストを撃て~』(2001)に収録されたバージョンは、チェロ・ヴァイオリン・ピアノのトリオです。『Songs of Hope』に同音源が入っています。ソロ楽器とアンサンブルするピアノパートの雰囲気はこのときに生まれ変わっています。【HOPE】Piano&Strings版と本公演のピアノはそれを継承した近いものです。

Madness
My Lost City×紅の豚、両作品で演奏された曲です。ピアノがバンドネオンになっています。それだけのようにも見えますが、オーケストレーションは別モノです。こちらでは、バンドネオンと相性のよいオーボエやクラリネットで旋律を分け合い、金管楽器は厚くなるからなるべく抑えて、打楽器からはシロフォンやグロッケンで彩りを加えています。バンドネオンが負けてしまわないように。使われている楽曲パートも少し短くなっています。

原曲からは、と言いたいところですけれど、近年演奏されるMadnessはもうこのオリジナルからは大きく離れています。ベースとなっているのは「交響組曲 紅の豚」にも登場する、みんなそれが自然になっている大迫力Madnessです。そこからこの組曲用に厚みが直されています。狂気の進化論はまたあとに。

冬の夢
この曲をコンサートで聴ける日がくるなんて。

原曲からは、チェロ・ピアノ・ストリングスとさながらPiano&Strings版だったものが、チェロはバンドネオンへ、そして木管楽器・金管楽器も入って色彩豊かになっています。内声や対旋律の美しい『Symphonic Best Selection』のオーケストレーションをふまえたものが聴ける日がくるなんて。

だけど、だけどどうしても言いたい。この曲はシューベルトなんですチェロなんです。その雰囲気をもった曲だと思っています。だからチェロとストリングスをメインとした曲想のほうがよかった。組曲のすべてでメインにバンドネオンを据えること、休める曲があってもいいこと。Two of Usのチェロがバンドネオンに置き換わるのとは異にすると思うんだけどな、僕の偏愛です。

Tango X.T.C.
映画『はるか、ノスタルジィ』(1992/大林宣彦)よりメインテーマです。久石譲のタンゴはいたく官能的です。ジャジーに展開していく後半のバンドネオンのアドリブも快感です。そしてこのパートでクラリネットと同じ旋律をユニゾンで奏でています。まるでひとつの楽器のように音色が溶け合っていて、こんな味わいの音になるんだと舌鼓を打ってしまいます。

原曲からは、もともとバンドネオンをフィーチャーした曲、楽曲構成もフルサイズで披露されました。フルオーケストラ版は、ホーンセクションのダンシングな合いの手も華やかで、そちらは『Songs of Hope』にも入っています。ダイナミックです。さておき、本家本元バンドネオンでこの曲が聴けるコンサートは、かなりかなり久しぶりですし、この先もなかなか(x2)ないと思いますよ。

My Lost City
表題曲です。曲が大きく展開していく「漂流者~Drifting in the City」とは異なり、メインメロディを丁寧に紡いでいって、終結部は「Prologue」と対をなすエピローグのような曲想になっています。

原曲からは、ピアノで1コーラス、ヴァイオリンで1コーラスと2回テーマを奏したあとに終結部に入ります。コンサートではピアノで1コーラスにバンドネオンが絡みながら終結部へ(東京・配信)、ヴァイオリンで1コーラスにバンドネオンが絡みながら終結部へ(広島以降)と変わっています。個人的には、My Lost Cityのテーマはピアノで紡いでこそ、「漂流者~Drifting in the City」でバンドネオンが奏していたぶん「My Lost City」最後はピアノでこそ締めてほしかった、そう思っています。

この曲、”出だしの音型を決めるのに10日以上悩んだ”っていうエピソードがあるんです。出だしだけでです。だから、久石さんがピアノで弾く姿、久石譲ピアノでおもむろに紡ぎだされていく音こそ、この曲そのものだ、と僕は強く思っているのです。東京公演/ライブ配信のあの瞬間は、当時メロディが生まれる瞬間そのすべての時間がつまっていた、と僕は強く思っているのです。

もうひとつ。これまでアルバム『My Lost City』の代表曲は「漂流者~Drifting in the City」と思っていました。それは変わりないのですが、なぜ同じメロディの表題曲「My Lost City」があっさりしてるのかなとも思っていました。たまたまコンサート前に一曲ずつ文章にしていたときにハッとしました。

「Prologue」という一曲があるなら「Epilogue」という一曲があっていい。でもなぜか「My Lost City」という曲のなかにエピローグ的曲想が含まれている。表題曲なのに。シングルカットしてもアルバムのエンディングが入ってきちゃう感じ。…いや違う!! ひとつの時代の終焉、1920年代の終わり、バブル崩壊。そしてマイ・ロスト・シティ、いち時代に生活した場所やひとつの故郷を失うこと。「My Lost City」という一曲には、そんな終わりが象徴的に含まれていたんだ、だからエピローグ的曲想が内包されているんだ。という結論へ1992-2022、30年の時を経て今思う。遅かったですか、そうじゃないですか、まだわかっていませんか。

 

作品至上主義
アルバム『My Lost City』からどうしてこの曲が選ばれたのか、選ばれなかった曲との違いは。コンサート直前に《号外》で楽曲レビューしたなかにもヒントあるかもしれません。よかったら見てください。

「My Lost City for Bandoneon and Chamber Orchestra」は、「Two of Us」と「Jealousy」を除いて全て曲順とおりに構成されています。いかにコンセプトもストーリーも揺るぎないものがある、ということがわかってきます。コンサート・パフォーマンスだけなら、こっちのほうが盛り上がりやすいとか、観客が拍手のタイミングに迷わないとか、いろいろあるのかもしれません。でも、難しくてもそこにあるのは作品至上主義です。ライヴが求めるかたちではなく作品が求めるかたち。

小オーケストラ
コンサートを聴けばわかるんですけれど、バンドネオンをフィーチャーした時点で小オーケストラ(室内オーケストラ)だったんですね。弦8型です。通常オーケストラの編成の大きさだと12-14型になります。『Symphonic Best Sellection』のようなフルオーケストラにできなかった理由はここにあります。ラージオーケストラだと大きな音の時にバンドネオンが押され気味になってしまいます。「Madness」も厚みを回避することで対峙しています。

それでも「漂流者~Drifting in the City」の展開部のホルンの対旋律は『Symphonic Best Sellection』からもってきていますし、「冬の夢」の美しいホルンの対旋律なんかも同じです。『My Lost City』から『Symphonic Best Sellection』で拡大したものが、バンドネオンと小オーケストラのためにブラッシュアップされたものそれが本公演で聴けたものです。だから三つそれぞれに作品の味わいかたがあります。もしいつかの機会に音源化されるなら、ぜひとも現在入手しにくい2つのアルバムもあわせて復刻してほしい。そうしないと…ファンたちは…根無し草のように落ち着き場所を知らない漂流者のまま…。

 

 

 

My Lost City

 

久石譲『Symphonic Best Selection』

 

 

ー休憩ー

……

休憩時間を使って。

久石譲×三浦一馬は、2017年開催「久石譲 presents MUSIC FUTURE Vol.4」で共演しています。そのときに書き下ろされた新作が「室内交響曲 第2番《The Black Fireworks》」です。直前になって想定していなかったタンゴをモチーフにした終楽章も追加されるなど燃焼度の高い作品です。『久石譲 presents MUSIC FUTURE III』(2018)にライヴ音源収録されています。

そのタイミングで雑誌対談も実現し久石譲はこんなことをむすびに語っていました。

 

”今回は始まりです。だからやりたいんですよ。オケとやる。小さいオケでもいい。オケで演奏することになったら、そこでやんなきゃいけないのが、コンチェルトを作る。そうすると今の音は当然フィーチャーする楽器対オケになりますよね。ですから、そういう方法を取るなり、なんかでまた是非書きたいなと。”

 

「My Lost City for Bandoneon and Chamber Orchestra」は、ひとつのアイデアとして実ったバンドネオン・コンチェルトともいえますね。

 

 

 

 

休憩ベルが鳴る。

……

 

 

MKWAJU

ムクワジュアンサンブル版(1981)をオーケストラ版に再構成したもの(2009)が『Minima_Rhythm』(2009)に収録されました。全世界リリース第2弾となるベスト盤『Songs of Hope: The Essential Joe Hisaishi Vol. 2』(2021)に同音源が入っています。タイトルは「MKWAJU 1981-2009」です。

本公演は、サクソフォンがバスクラリネットやホルンとほかの楽器に置き換わっています。一般のオーケストラ編成にサクソフォンはありません。広くどのオーケストラでも演奏できるように改訂されているんだと思います。また、盛り上がるクライマックスのコンゴやティンパニも強調されているように聴こえ、より大地的な印象をうけました。それじゃなくても日本では2010年ぶりの披露です。久石譲指揮の対向配置にかかるとこの曲も魅力が倍増していることがよく実感できました。楽器編成のこともあり(もしかしたら細かい修正もかかっているかもしれない)年数表記もなくなった「MKWAJU」はたしかに進化を遂げた曲になっています。

 

DA・MA・SHI・絵

近年コンサートでよく演奏される曲です。その魅力もよく語られている曲です。

 

 

交響組曲「紅の豚」
Symphonic Suite Porco Rosso

けっこう鼻を大きく膨らませてずっと待ち望んでいたファンは多い。けっこう鼻を大きく膨らませて当日を楽しみにしていたファンは多い。

構成楽曲はサウンドトラックからいうと「4. 帰らざる日々」「1 .時代の風 -人が人でいられた時-」「7. Flying boatmen」「10. Fio Seventeen」「6. セリビア行進曲(マーチ)」「8. Doom -雲の罠-」「15.アドリアの海へ」「12. Friend」後半「14. 狂気 -飛翔-」「4. 帰らざる日々」の順からなる約21分の作品です。少しピックアップします。

帰らざる日々
サウンドトラックでは「帰らざる日々」「セピア色の写真」「Porco e Bella」「失われた魂~LOST SPIRIT~」前半「Porco e Bella~Ending~」後半、イメージアルバムでは「真紅の翼」「マルコとジーナのテーマ」で聴ける『紅の豚』メインテーマです。武道館コンサート/世界ツアー版では「帰らざる日々/Bygone Days」となっているピアノソロからジャジーなアンサンブルに展開していく曲です。WDO2015で抜粋披露された「il Porco Rosso」はその前半部分ピアノ(+弦楽ver.)です。『The End of the World』(『Dream Songs』)に収録されています。交響組曲オープニングはそのピアノからイントロのみ奏されます。

時代の風 ~ Doom
「時代の風」チェロの弓で強く弦を叩く奏法がとても効果的でした。「Fio Seventeen」オーボエの奏でるメロディにハープやシロフォンをうまく重ねて、原曲マンドリンの雰囲気やトレモロ感を演出していました。つづく原曲ギターのアルペジオなんかも、ピアノや第2ヴァイオリン・ヴィオラのピッツィカートでうまく表現されていました。「セリビア行進曲」ピッコロやフルートの軽やかな装飾フレーズが加えられていてすぐに耳がいきます。

アドリアの海へ/Friend
映画ストーリーや使われたシーンに合わせて2曲をつないでいるというよりも、もともと同じテーマからなる曲、Friendのテーマとして再構成したものだと思います。

狂気 -飛翔-
Madnessです。久石譲アルバム『My Lost City』から監督の熱望で使用された一曲です。その嗅覚の鋭さとセンスに脱帽!もし久石譲があのシーンに新曲を書き下ろしていたらここまでの狂気はあったのか?!純度の高い化学反応で爆発しています。久石譲の作家性がジブリ作品に色濃く反映された転換点ともいえます。

『My Lost City』のピアノ&弦楽オーケストラにシンセサイザーも馴染ませていたものが原曲です。『WORKS・I』(1997)木管楽器は高鳴り金管楽器は炸裂し打楽器は跳ねるフルオーケストラへ。そこからスネアも加わり疾走感アップしたものが「久石譲 in 武道館」コンサート(2008)です。これを聴き親しんだ人も多いと思います。コンサートでも2011年まで一時代の定番曲でした。継承したものがWDO2015で披露され『The End of the World』(『Dream Songs』)に収録されています。今世界ツアー版で駆け巡っているのもこちらです。組曲の一部となったMadnessは短縮版になっています。

帰らざる日々(終曲)
もしも曲名をわけるならオープニングのほうは「Bygone Days」、こちら終曲は「il Porco Rosso」となるのでしょうかどうでしょうか。組曲オープニングでイントロのみ奏したピアノソロが再び導入からメロディへと流れていきます。WDO2019ではアンコールでピアノソロを抜粋披露していますし世界ツアー版でもおなじみのピアノパートです。ちょっと混乱しそうですが、ここで披露されたのはWDO2015版、『The End of the World』(『Dream Songs』)に収録されているピアノ+弦楽ver.を継承したものです。ここまでは曲序盤のお話。交響組曲版は、フリューゲルホルン・ソロやトランペット3奏者によるアドリブリレーをスタンディング演奏で聴かせてくれます。エレガントいっぱいに華やかさを極めたあとは久石譲ピアノによるエンディングになります。東京・広島公演を経て、名古屋公演からは序盤にフィンガースナップが追加されていたり、アウトロに美しく繊細なストリングスが添えられています。

 

『紅の豚』は根強いファンをもつ作品です。みんな大好き『となりのトトロ』などとは一種異なる、この作品を好きと言っている人は好きが強い、そんなイメージあります。それには到底及びませんがそれでもどうしてこの曲が入っていないの!?どうして順番が違うの!?と消化不良なところがありました。「遠き時代を求めて」「Porco e Bella~Ending~」「ピッコロの女たち」、メロディの際立つかつ映画シーンも印象的な曲が入っていない。もちろん、ここも好きな人によって候補曲が入れ替わってくると思います。

映画を見返しました。選曲や曲順の意図をつかみたくて。「セリビア行進曲」は2回流れていました。物語前半の軍隊パレードと物語終盤の決闘のはじまり。店主のセリフに「戦争で稼ぐ奴は悪党さ。賞金で稼げねぇ奴は能無しだ」というのが前半にあります。一方で戦争、一方で決闘。どちらもお祭り騒ぎにしていることへの嘲笑やシニカルさを含んでいるのかもしれません。その能天気さをさらに強調するような、組曲に書き加えられたピッコロやフルートの装飾フレーズ。そんなことを思い消化促進を図っているところです。

ツアー終了後にファン5人集まって座談会しました。もし叶うなら「Porco e Bella~Ending~」「遠き時代を求めて」この2曲を組曲に加えてほしいという強い要望になりました。たった5人の意見がどのくらい『紅の豚』ファンの賛同を得られるかは自信ありません。でも共感得られると直感は信じています。

 

 

ーアンコールー

One Summer’s Day (for Bandoneon and Piano)

アンコールにバンドネオンの再登場は大歓迎です。また違った夏の景色が見られた気分でした。チリチリした夏というか残暑感あるというか。ああ、こういうのも素敵だなと素直に思ってすっと沁みわたっていきます。タンゴのイメージの強いバンドネオンも、この曲にかかるとなんとも日本的な情感が生まれるものです。とても不思議でした。夏の終わり、虫の鳴き声、線香花火。移りゆく時間のグラデーションとピアノとバンドネオンの揺らぐ音色のグラデーション。とても素敵でした。

この曲は、世界ツアー版「One Summer’s Day」がベースになっています。麻衣ヴォーカル&久石譲ピアノによるもの。1番はピアノをメインにしてメロディを掛け合っています。歌詞のないヴォカリーズパートがバンドネオンです。2番はヴォーカルをメインに「いのちの名前」が日本語詞で歌われます。ここではバンドネオンがたっぷりと歌っています。

世界ツアー版では麻衣さんが参加しない公演のとき、1曲目の「One Summer’s Day」はおなじみ久石譲ピアノソロ版、開催地ヴォーカリストが2曲目の「Reprise ふたたび」のみを歌うこともあります。そういうこともあるのかないのか、歌曲版「いのちの名前」をつなげていますが曲名は「One Summer’s Day」で統一されているんだろうと思います。

それはそうと、こんなことができてしまってどうしますか!?これから先も多彩なソリストを迎えたコンサートがつづくと思います。チェロとのデュオ?!クラリネットもいける?!いろいろな可能性が輝きだしてしまいました。「Departures」はチェロと一途に、こちら「One Summer’s Day」はカラフルに、珠玉のデュオピースとなっていくかもしれませんね。すごいときめく。

 

World Dreams

WDOのテーマです。久石譲いわく「国歌のような格調あるメロディ」は、近年空を越えて海外オーケストラとも共演の歩みをはじめた一曲です。またコンサートに行けた、またコンサートで会えた、WDOコンサートには欠かせない一曲です。

原典『World Dreams』(『Songs of Hope』)、合唱版『The End of the World』、対向配置『Spirited Away Suite』、組曲版『Symphonic Suite “Kikiʼs Delivery Service”』、WDO2021版『Symphonic Suite “Princess Mononoke” 2021』と各アルバムに収録されています。

コンサートを聴いてとても引っかかって上の4つの音源を聴いていました。ラスト1分間弱の箇所を何回も何回も何回も聴きくらべていました(コワイ)。1コーラスをひとかたまりとするとその後半部分のところベルが入ってくる箇所です。トランペット、トロンボーン、ホルンなんかがメロディをハモりながら奏でているところです。会場や配信のどちらを聴いたときにも、今までよりも重いな、と直感で感じました。だから音源をグルグル聴きまわしていました。譜面変わった?いっしょ?このパートの重厚感は強調されているように感じています。

この曲は大きな改訂を経ることなく、いくつもの演奏が音源化されてきました。コロナ禍での開催となったWDO2021版が収録された『Symphonic Suite “Princess Mononoke” 2021』と、本公演WDO2022(ライブ配信音源)に共通している重みと聴こえました。大きな夢、明るい希望を描きながらも、今に照らし返したパフォーマンスになっている。踏ん張ったもの、重く強い願いのようなものが込められていると感じました。同じスコアを使いながら、今の世界を反映したアプローチで届けようとしている久石譲指揮。そう思うと年ごとに収録していることの意味が浮き立ってくるように思えてきます。僕の錯覚かどうかぜひいろいろ聴いてみてください。常に時代を映した鏡といえる曲です。時間の架け橋となってこれからも一緒に歩んでいく曲です。

 

 

今年のWDOコンサートも全公演SOLD OUT!全公演スタンディングオベーション!とてもとても熱い夏でした。新しいファンの生まれる場所にもなっていると感じています。会場の客層をみても感想の溢れるSNSをみても。「初めてのコンサート」はもちろん「曲名が知りたい」そんなキーワードもますます増えている。One Summer’s Dayのピアノイントロでどよめきが起こる。海外公演では象徴的だった光景がここ日本でも。はじめましてのファンが増えているたしかな証。

WDO2022コンサートの感動の余韻を日常生活へ持ちこもう。プログラムからもたくさん収録されているふたつのワールドベスト盤は入門編として太鼓判のおすすめです。久石譲ファンサイト 響きはじめの部屋では、どのオリジナルアルバムに収録されていたのか、久石譲ファンの一口コメントで曲の魅力や思い出まで、たっぷりとご紹介しています。お気に入りの曲からどんどん巡って広がっていきますように。

 

「Water Traveller」「il porco rosso」「Madness」「One Summer’s Day」収録

 

「FOR YOU」「TWO OF US」「Tango X.T.C.」「MKWAJU 1981-2009」「DA・MA・SHI・絵」「il porco rosso」「World Dreams」収録

 

 

『紅の豚 サウンドトラック』もお忘れなく。

 

 

コンサート・パンフレットはWDO2021に引き続き販売はなく観客に配布されるものになっていました。各会場特設販売コーナーでは、ベストアルバムCDや最新スコアなどが並んでいました。新譜『Symphonic Suite “Princess Mononoke” 2021』(7月20日発売)もタイミングよくSNSで感想と一緒に写真をよく見かけました。販売コーナーは長い行列でしたもん。すごい。

 

WDOオリジナルTシャツのデザイナー丹羽マリアさん。SNSで見つけることができたので紹介させていただきます。

 

Theme
「集合した個体の”バランス”から産まれる
豊かなハーモニーに”無限の可能性”と世界の夢を乗せて」

from 丹羽マリア公式インスタグラム
https://www.instagram.com/artemaria061/

 

テーマにつづいて解説もあります。ぜひオリジナルテキストご覧ください。丹羽さんといえば、ピンときた人は鋭い、とても素敵なデザインです。久石譲ベートーヴェン交響曲全集の写真ほか丹羽大さん撮影です。とてもアーティスティックなご家族なんですね。

 

 

~お願い~

最終日の大阪公演の際、Tシャツ販売はありませんでした。ツアー中の状況をキャッチしていたファンはたくさんいます。確実にゲットしたいと早くから会場へ向かった人はいます。行ってみたらなかった。売切れてたことよりも事前にアナウンスがなかったことがとても残念です。そんな思いをした人が数十人、数百人といるかもしれない、これは小さいくすぶりではないと思います。せっかくのコンサートなのに心証が悪くなる。久石譲さんサイドも新日本フィルさんサイドも。そんなことは誰も望んでいないのに。どちらからでもいいので主催運営側として「本日の販売はありません」たったひとつのSNS発信してくれるだけでショックはだいぶん軽減できたかもしれません。せっかくのコンサート、小さいことではありますが、その小さいことの積み重ねでファンは楽しみをエネルギーにしています。関係者のみなさま、どうぞ今後の参考にしていただけたら幸いです。

 

 

 

みんなの”WDO2022”コンサート・レポート、ぜひお楽しみください。

JOE HISAISHI & WORLD DREAM ORCHESTRA 2022 東京公演 (コンサートレポート)
from Sho’s PROJECT OMOHASE BLOG 改 seconda

 

僕はショーさんのコンサート・レポートで育ってきたファンのひとり。そのくらいいつ読んでも楽しく心地よい安心感すらあります。会場の雰囲気からコンサートを追体験できるようなわかりやすいレポートのファンです。これからも書いていこう!と宣言してくれているので、これからも楽しみにしています。いろいろな人の感想が聞けるのって、自分が何人分もの楽しみ方をできたみたいでほんとうれしい。感動をどんどん吸収して感動がますます膨らんで。

 

 

2022.08.18 追記

(up to here, updated on 2022.08.18)

 

 

リハーサル風景/バックステージ

ほか

リハーサル風景動画もあります

from 久石譲本人公式インスタグラム
https://www.instagram.com/joehisaishi_composer/

 

 

ほか

from 新日本フィルハーモニー交響楽団公式ツイッター
https://twitter.com/newjapanphil

 

 

ほか

from 三浦一馬公式ツイッター
https://twitter.com/KazumaMiura_

 

ほか

from 三浦一馬公式インスタグラム
https://www.instagram.com/kazumamiuraofficial/

 

 

風物詩になっている。久石譲WDOコンサートにいけば体験できるスタンディングオベーションも再び!!次はこの光景のなかにいるかもしれない、次はこの光景をつくっているひとりかもしれない!

 

 

公演風景

 

from 新日本フィルハーモニー交響楽団公式ツイッター
https://twitter.com/newjapanphil

 

 

 

 

 

最後まで読んでいただきありがとうございます。

 

 

Blog. 「久石譲 FUTURE ORCHESTRA CLASSICS Vol.5」コンサート・レポート

Posted on 2022/07/20

7月14,16日開催「久石譲 FUTURE ORCHESTRA CLASSICS Vol.5」コンサートです。前回Vol.4は2月開催となんと半年も経っていない、そしてリアルチケットは完売御礼。Vol.2,3,4に引き続いてライブ配信もあり、国内海外からリアルタイム&アーカイブで楽しめる機会にも恵まれました。

 

 

久石譲 FUTURE ORCHESTRA CLASSICS Vol.5

[公演期間]  
2022/07/14,16

[公演回数]
2公演
東京・東京オペラシティ コンサートホール
長野・長野市芸術館 メインホール

[編成]
指揮:久石譲
管弦楽:Future Orchestra Classics
コンサートマスター:近藤薫

[曲目] 
ベートーヴェン:「エグモント」序曲 Op.84
久石譲:2 Dances for Orchestra

—-intermission—-

ブラームス:交響曲第4番 ホ短調 Op.98

—-encore—-
ブラームス:ハンガリー舞曲 第16番 ヘ短調

 

 

 

まずは会場で配られたコンサート・パンフレットからご紹介します。

 

 

プログラムノート

ベートーヴェン:「エグモント」序曲 作品84

ブラームス:交響曲 第4番 ホ短調 作品98

*寺西基之氏による楽曲解説

 

久石譲:2 Dances for Orchestra
Mov.I How do you dance?
Mov.II Step to heaven

この曲は、昨年のMUSIC FUTURE Vol.8で「2 Dances for Large Ensemble」として世界初演した。ダンスなどで使用するリズムを基本モチーフとして構成しているのが特徴で、聴きやすそうでありながら、リズムが巧みに交錯した構造になっている。久石譲は発表時、「使用モチーフを最小限にとゞめることでリズムの変化に耳の感覚が集中するように配慮した。Mov.2では19小節のメロディックなフレーズが全体を牽引するが、実はそこにリズムやハーモニーのエッセンスが全て含まれている」と語っており、これは近年追及している方法の一つである「単一モチーフ音楽=Single Track」の最新版ともいえる。今回のFUTURE ORCHESTRA CLASSICS Vol.5では、もともと「for Large Ensemnble」としていた初演版から編成を拡大し、Future Orchestra Classicsにふさわしいバージョンとして初披露する。

(*筆者明記なし)

(*久石譲 挨拶文なし)

 

(「久石譲 FUTURE ORCHESTRA CLASSICS Vol.5」コンサート・パンフレットより)

 

 

リハーサル風景/公演風景

from 久石譲本人公式インスタグラム
https://www.instagram.com/joehisaishi_composer/

 

 

from 久石譲コンサート@WDO/FOC/MF公式Twitter
https://twitter.com/joehisaishi2019

 

 

 

ここからはレビューになります。

 

 

ベートーヴェン:「エグモント」序曲 作品84

ベートーヴェンらしい力強い序曲です。録音では交響曲とカップリングされることも多いですし、ベートーヴェン序曲集のようなアルバムには収録マストです。とても人気のある曲です。今の世界的状況をにじませた選曲なのか(作品についてはウィキペディアなどご参照)はわかりませんが、パフォーマンスとしてもFOCにぴったりの曲です。

快速でした。

久石譲指揮/FOC 6:25
ノリントン指揮/ロンドンクラシカル 6:54
ヤルヴィ指揮/ドイツカンマーフィル 8:04
その他一般的 8:00-9:00くらい

タイムを計っても一目瞭然です。雄渾に重厚感たっぷりに演奏することもできる曲です。がしかし、演奏に陶酔しすぎないように、あくまでもインテンポで、颯爽と疾走感たっぷりに駆け抜けていきます。久石譲指揮のポイントになっているリズム重視ということはもちろん、そこには演奏も精神も重くなりすぎないように、そんな印象を受けました。

上の久石譲からヤルヴィまでの3つは非常にアプローチの近い演奏に聴こえます。タイムを縮めていきましょう。ヤルヴィ版との違い、たとえば弦楽器と木管楽器が掛け合う序盤の2分あたり(何回も登場します)とか、木管の掛け合いがちょっと歌うようにゆっくりになったりします。久石譲版とノリントン版はあくまでもインテンポでテンポが落ちていないですね。気づいたことだけで1分間近いタイムは縮められていないですけれど。

ノリントン版との違い、終盤のコーダかな。久石譲版はコーダ突入が5:05-くらい、ノリントン版はコーダ突入が5:25-くらい。この時点で残りタイムは-1:20,-1:25くらいなので、コーダ以降のテンポはそこまで変わらないのかなと推察できます。久石譲版は序盤からここに来るまでがずっと速いんです!コーダとテンポが変わらないほどに。多くの演奏では、コーダの前と後ろでテンポが大きく変わって、それがコントラストにもなっていて終盤の迫りくるラストスパート感があります。久石譲版は頭から終わりまでノンストップぶっちぎり!フォームもかちっとした作品で、切れ味のよいオープニングでした。

ヤルヴィさんも、ノリントンさんも、久石さんラジオで登場したことのある指揮者/オーケストラです。だから手元に持っていたこともありますけれど、挙げて場違いではないと思うので、ぜひ聴いてみてください。とりわけノリントン版のテンポアプローチが念頭にあるんじゃないかと思わせてくれるほど楽しいです。

 

 

久石譲:2 Dances for Orchestra

先にプログラムノートから少し補足します。スケジュールからは、2022年9月24日開催「日本センチュリー交響楽団 定期演奏会 #267」にて世界初演(予定)となっていました。事前アナウンスのプログラム変更もあって、FOC Vol.5で繰り上げて初演を迎えることになった作品です。FOCコンサートはライブ配信が定着してくれていることもあって、聴ける!と喜んだファンはきっと多い。

難しい2 Dances。いや、感覚的にはすごく惹き込まれる作品で魅惑的です。実際にMF Vol.8で披露されたアンサンブル版のレビューには、タイトルにある「dance,heven」というキーワードから「踊る=生きる」としてみたり、のちに極上のサスペンス/ミステリーみたいに聴こえだしたときには「踊る=踊らされた人たち」「heven=解決,出口」としてみたり、この作品から受けたイメージを記していたと思います。聴くごとに印象は七変化して。そこには一貫した前向きなメッセージが込められているようにも感じています。

オーケストラ版に拡大された本作は、楽曲構成(パート展開)はほぼ同じようです。声部の追加や楽器の厚みはあるでしょう、なによりダイナミックです。ただ、カオスすぎるというかアンサンブル版よりもごちゃごちゃ感のある印象もありました。それは構成の難しさはもちろん、太鼓系パーカッションも拍子を刻むようなアタックをしていなくて、旋律的にもリズム的にも寄っかかれるところが少ない。僕は会場で聴いたときに、これは反響して音が回っているせいかなと思い、ライブ配信(ステージマイク)のものを聴いたときも、あまり印象が変わらなかったです。とにかく難しい。

……

と、さじを投げてはもったいないのでがんばりたい。虫めがねをこらすように覗いてみたい。まあ難しいんだけど。タイムを計るとMov.I アンサンブル版10:20、オーケストラ版10:25とほぼ同じです。細かく分数区切って聴き比べもしましたけれど、タイムからも楽曲構成が変わらないことはわかると思います。Mov.II アンサンブル版11:55、オーケストラ版12:20と約20-30秒程の差があります。詳しいことはまたあとに。

 

Mov.I How do you dance?

この曲はモチーフが少なくとも2~3つあります。なにが難しいかって、これらのモチーフが同時進行的に並走していること!これらのモチーフが同時進行的に変奏していること! どのモチーフを追いかけるかでわからなくなって道に迷ってしまう、モチーフの並走に気づかずに出くわす(聴こえてくる)モチーフごとに振り回されてしまう。

ライブ配信・アーカイブ配信は期間限定一週間です。特別配信のアンサンブル版は今のところ継続視聴できます。シンプルに聴き分けやすいのもあってこちらをベースにのぞいていきます。

 

“JOE HISAISHI presents MUSIC FUTURE Vol.8” Special Online Distribution

from Joe Hisaishi Official YouTube

 

冒頭からモチーフAがヴィオラ・チェロで登場します(00:38-)。そのとき同音連打のモチーフCはファゴットです。少し遅れてモチーフBがトランペットや第1ヴァイオリンで登場しますが、すでにオーボエも拍子ズレして登場しています(00:42-)。モチーフBいろいろな楽器へと移り変わっていってクラリネットになったりします(01:10-)。そのときにはヴィオラなんかが拍子ズレして追いかけています。

…と開始1分間くらいだけでもう目が回りそう。僕は基本モチーフをABCの3つとしました。これらが3つの声部として3本ならまだいいんだけど、AもズレてA’が並走している、BもズレてB’が並走している、Cは律動ベースではあるから…少なくとも5本並走して交錯している。たとえばそんなイメージ。それはもう目が回るわけだ。

息つく間もなく、モチーフAはチェロで早くも変奏を始めた(01:33-)。突然、鋭く速い第1ヴァイオリンのパッセージが登場しますがモチーフBの変奏とみました(02:00-)。前述のクラリネット(01:10-)と聴き比べても、同じ音型からできていると思うからです。パーカッションが増えて一気に躍動的になるところは、同音連打のモチーフCからのバリエーションじゃないかな…と思わせといて不正解、ここでモチーフCはピアノで通奏しています(02:17-)。

こんがらがる。

わかりやすいモチーフのズレでいうと、モチーフAの聴きやすいところ。チェロ(02:47-)からトランペット・ファゴット(03:11-)。あ、このあたりのシンバルのリズムはモチーフCと同じ律動ですね(03:22-)。あ、拍節感なく無造作に音を出しているようなトロンボーンかホルンなんかの旋律もたぶんモチーフAのバリエーションです(03:47-)。

こんがらがるけれど。

もう一回同じところ、モチーフAのチェロ(02:47-)です。コントラバスが少し違う音型で重なってきます(02:57-)。これをモチーフAの変奏とみるのか。あるいはモチーフAチェロから少しずつ音を抜き取って同じ単音で重なっている単旋律とみるのか。おもしろいですね。僕は単旋律(Single Track)手法だと思っています。モチーフたくさん並走してる変奏してる変拍子にもなるズレる単旋律もある。まいった。

気づいたしこ言い出したら止まらなくなってしまう。こんな感じでABCにだけ集中して聴いたとしてもすごいことになります。さらに、別の旋律や別の展開に入ったり、気づいていない仕掛けやなんやもあるもう大変です。

一個だけでもとっかかりを見つけると楽しいです。モチーフAはいちばん要になっているように聴こえ、このぐっと魅惑的になるピアノも変奏されたものです(07:17-)。そこに基本型をヴィオラ・第1ヴァイオリンで登場させて変奏型と交錯させたり(08:20-)。そのあともグロッケン・ピッコロ・トランペットなどいろいろな楽器に移り変わっていき、9:30くらいまでの約2分間だけでもたくさんのモチーフAを聴くことができると思います。

 

Mov.II Step to heaven

Mov.II アンサンブル版11:55、オーケストラ版12:20と約20-30秒程の差があります。大きくふたつ、盛り上がりのピークを迎えるパートがやや速いか遅いか、それ以降の静かになる終盤コーダからのテンポがオーケストラ版のほうは顕著にゆっくりになっています。

プログラムノートにあるとおり「19小節のメロディックなフレーズが全体を牽引するが、実はそこにリズムやハーモニーのエッセンスが全て含まれている」です。主役は単一モチーフだから、Mov.Iよりも聴きやすいかもしれません。でも、なかなか歌えない憶えられない19小節なんですけれど。

ひとつのモチーフがズレることによってリズムやハーモニーが変化しているのは、聴いていてもなんとなくわかるような。いろいろなリズムエッセンスがあってタンバリンやカスタネットはスパニッシュだし、音符からは日本的だし。中間部あたりからシンバルがスウィングしだしてジャジーかなと思ったりもします。けれど、このときピアノや低音で単一モチーフを奏しています、付点リズムなんです。だから4ビートのジャズにはならない。微妙な塩梅でリズムがなっている。

改めてこの曲の七変化、シュールなカーニバルと日本民謡をブレンドさせたブラックユーモアのようにも聴こえてきます。わらべ唄とまではいかない、民謡や歌謡のような雰囲気をスタイリッシュにした感じ。イメージを押し売りしてはいけないのですが、大ヒットで認知もあるし軽く聞き流してください。たとえば『鬼滅の刃』の列車や遊郭、大正ロマンのような香り。ほんとおもしろい曲です。ヨーロッパの品格あるミステリーと思ってみたり、雅な日本を感じてみたり。饗宴乱舞です。

 

強く添えておきます。

上に書いたことハズレの可能性は十分にあります。何点もらえる答案用紙かはわかりません。アンサンブル版とオーケストラ版のテンポの差は、それぞれ今回のライブ演奏においては、です。音源化されたものがひとつの標準テンポになってくると思います。さて、アンサンブル版からの紐解きをもとに、オーケストレーションの増幅されたオーケストラ版を聴きわけていく。まだまだ道のりは長いです。ダンスもゆっくりからステップ覚えていってステップアップしていきたいところです。

 

 

 

ブラームス:交響曲 第4番 ホ短調 作品98

ブラームス最後の交響曲です。久石譲FOCの編成規模は、弦8型(第1ヴァイオリン8、第2ヴァイオリン8、ヴィオラ6、チェロ5、コントラバス3)に木管2管と室内オーケストラくらいの大きさです。ブラームスらが当時演奏していたのもこのくらいの大きさだったとも言われています。前回Vol.4での第3番も同じ弦8型とコンパクトに臨んでいます。そして、久石譲指揮は対向配置です。さらに、久石譲が振る古典作品はバロックティンパニが使われています。本公演は古典も現代も全作品ともにこの小編成規模でパフォーマンスされています。FOCは立奏スタイルです。迫力や躍動はもちろん、楽器間のアンサンブルも目配せ以上に体でコンタクトとっているさまが楽しいです。

第2番のときにも見られたかもしれません、とても音価を短くした旋律のアプローチだったように聴こえました。第4番第1楽章はイントロもなく(言い方適切じゃない)頭からかの有名な第1主題が流れてきます。なんとも哀愁と孤高の極みのようなメロディです。久石譲版は、これすらもまるでモチーフや音型のようにリズムを区切っています。そう、メロディじゃなくて素材的な扱いにしたように。そのほかにしても、こんなフレーズだったっけ?こんな印象だったっけ?というところが全楽章をとおして随所に感じてきます。ベートーヴェン交響曲のアプローチに近いような気がしました。でもブラームスはロマンもたっぷり。古典かロマンか、むずかしい。

なるべく歌わせたくなかった。歌うとタメが抑揚が緩急が生まれる。そしてテンポが遅れてくる。なるべくそうはしたくなかった。と仮定したときに…なんでだろう? 僕なりの回答です。ひとつは、綿密に構成されたモチーフが展開したり変奏するさまをしっかり浮き立たせたかった。久石譲版を聴けば、あのフレーズここでも鳴ってたんだつながってたんだということなんかが新しく発見しやすいかもしれません。もうひとつは、ブラームスが特徴的にアンサンブルだから。フレーズを掛け合ったりすることの多い交響曲たちばかりです。それも一小節や二拍ごとといった細かいスパンでキャッチボールしている。だからかなと思いました。キャッチボールするならお互いテンポを合わせないとうまく進まないですよね。あうんの呼吸です。片方はとてもインテンポで投げてるのに、もう片方は速度遅かったりふりかぶるのに時間かかったりだと、トントンとリズムよくできません。そんなイメージです。インテンポで歌わせる、インテンポで歌えないなら、リズムをそろえるほうに舵を取る。僕なりの回答でした。

メトロノームのような機械的リズムの演奏とは違います。メトロノームのテンポにきっちり合っていてかつ独特のグルーヴ感を生み出す演奏っていっぱいありますね。その絶妙な機微のようなもの。また、久石譲のリズム重視のアプローチというのは、聴く人に印象を押しつけないためのものかな、そんなことも思います。メロディを煽りすぎない、リズムを煽りすぎない、想いを煽りすぎない。ミニマルもそうですけれど、なるべく演奏側はニュートラルでいることで、聴く人にいろいろなイマジネーションをもってもらえる。だからベートーヴェンもブラームスも重い演奏を排除することで、新しい風を運んでくれた。聴く人は新しいイマジネーションをもつことができた。ミニマルが得意な久石さんにかかると、こういうところも根源にあるような、潜在的武器としてそなわっていたような、そんなことも思います。

全楽章で拍手が入りました。びっくりです。第1楽章はまあわかる。力強くどっしり終わる。第2楽章はゆっくり穏やかに終わる。わりと半数以上の盛大な拍手がきた。第3楽章なんてフィナーレかと思うような終わりかたするからもう当然に。周りを見ても拍手していない僕がいけないんじゃないかとわからなくなる。第4楽章は満員御礼の大きな拍手が送られました。「楽章間で拍手が起こるのは、新しいお客さんが来ているか、それほどの演奏だったか、そのどっちかだからどちらあってもうれしい」、そんなことを語っていたオケ奏者のインタビューを思い出しました。

 

 

ーアンコールー

ブラームス:ハンガリー舞曲 第16番 ヘ短調

ブラームス交響曲ツィクルスの「久石譲 FUTURE ORCHESTRA CLASSIC Vol.2-5」では、アンコールはハンガリー舞曲からセレクトされています。2020年 Vol.2「交響曲第1番」「ハンガリー舞曲第4番」、2021年 Vol.3「交響曲第2番」「ハンガリー舞曲第17番」、2022年 Vol.4「交響曲第3番」「ハンガリー舞曲第6番」、そして本公演になります。一番有名な「ハンガリー舞曲第5番」は過去にも数回演奏歴があり、ベートーヴェン交響曲ツィクルスのアンコールなどでも登場していました。

まったくウィキ的調べがヒットしませんでした。とても哀愁感のあるメロディで始まる曲は、交響曲第4番第1楽章をフラッシュバックしそうです。1分経過した頃から、打って変わって陽気に快活にひらけていきます。

 

 

本公演Vol.5をもってブラームス交響曲ツィクルスは完走です。作品ごとに多彩なブラームスを聴かせてくれました。ブラームスファンが増えたらうれしい。さてさて、ブラームス全集は発売されるのか?Vol.6以降はあるのか?あるならどんなシリーズか?今からもう待ち遠しいです。日本センチュリー交響楽団ともシューマン交響曲ツィクルスが予定されていたり、新日本フィルハーモニー交響楽団のシーズンプログラムにも登場したりと、話題は尽きません。

FOCでぜひ聴いてみたい久石譲作品は「Sinfonia」です。NOCで披露された「Orbis」もとてもよかったです。予定にあったベートーヴェン「大フーガ」もいつか聴きたいです。「Links」とかもいい感じになるのかな?「Untitled Music」とかもってこいじゃない?しれっとアピールは尽きません。

 

 

 

 

2022.08.18 追記

(up to here, updated on 2022.08.18)

 

 

FOCシリーズ

 

 

最後まで読んでいただきありがとうございます。

 

Blog. 「新日本フィルハーモニー交響楽団 すみだクラシックへの扉 #6」コンサート・レポート

Posted on 2022/04/22

4月15,16日開催「新日本フィルハーモニー交響楽団 すみだクラシックへの扉」です。2020年9月から新日本フィルハーモニー交響楽団 Composer in Residence and Music Partnerに就任した久石譲は、定期演奏会・特別演奏会といろいろなコンサート共演を広げています。「クラシックへの扉」シリーズへの登場は2015年以来です。

今年だけでも、「久石譲指揮 新日本フィルハーモニー交響楽団 特別演奏会」(三重・3月)、「RaiBoC Hall オープニング記念コンサート 新日本フィルハーモニー交響楽団」(埼玉・4月)、本公演、そして「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2022」(5都市・7月予定)と、名実ともに揺るぎないミュージック・パートナー、久石譲×新日本フィルです。

 

 

新日本フィルハーモニー交響楽団 すみだクラシックへの扉 #6

[公演期間]  
2022/04/15,16

[公演回数]
2公演
東京・すみだトリフォニーホール

[編成]
指揮:久石譲
チェロ:リーウェイ・キン ◇
管弦楽:新日本フィルハーモニー交響楽団

[曲目]
ドビュッシー:牧神の午後への前奏曲
サン=サーンス:チェロ協奏曲 第1番 イ短調 op.33 ◇

—-Soloist encore—-
ジョバンニ・ソッリマ:アローン (4/15,16)
バッハ:無伴奏チェロ組曲 第4番より サラバンド (4/15)
プロコフィエフ:子供のための音楽 op. 65より第10曲 行進曲 (4/16)

—-intermission—-

ムソルグスキー/ラヴェル編曲:組曲「展覧会の絵」

—-Orchestra encore—-
ラヴェル:亡き王女のためのパヴァーヌ

 

 

会場でも配られたプログラム・ノート(小冊子)は、コンサート前日にはウェブ閲覧できるこまやかさでした。コンサート前にゆっくり読めて、ゆっくり聴けて、楽しみふくらんで。そんな心配りうれしいですね。対象期間中しか公開されていないと思います。早めにPDFはこちらへ。

 

公式サイト:新日本フィルハーモニー交響楽団|2022年4月・5月定期演奏会のプログラムノートを公開
https://www.njp.or.jp/magazine/27140?utm_source=twitter&utm_medium=social

 

 

プログラム・ノートは音楽評論家によるもので、本公演について久石譲が語ったものは先がけて動画公開されました。フランス音楽のプログラム構成、作曲家視点での作品紐解き、とても興味深いです。ぜひご覧ください。

 

 

 

 

ここからはレビューになります。

 

久石譲作品ないのに、久石譲感のたっぷり味わえたコンサート。感想はこのひと言にまとめあげられます。そのくらい久石譲指揮の魅力、久石譲音楽への影響、久石譲のやりたい音楽表現、これらがこのうえなく満ちたコンサートでした。

今回はとことん久石譲視点でレビューできたらと思います。もし、おもしろいと思ってもらえたら、久石譲指揮のクラシック演奏会にもぜひ気軽に楽しみに足を運んでみてくださいね。

 

 

ドビュッシー:牧神の午後への前奏曲

久石譲が語ったことから。

Q.久石さんは“作曲家”として「ドビュッシー」をどのように とらえていますか?

久石:
この曲は小節数にするとそんなに長いものではないんですが、この中に今後の音楽の歴史が発展するであろう要素が全部入っていますね。音楽というのは基本的に、メロディー・ハーモニー・リズムの3つです。メロディーというのはだんだん複雑になってきますから、新しく開発しようとしてもそんなに出来やしないです。そうすると「音色」になるわけです。この音色というのは現代音楽で不協和音をいっぱい重ねて特殊楽器を使ってもやっぱり和音、響きなんですね。そうするとそっちの方向に音楽が発達するであろう出だしがこの曲なんだと思います。20世紀の音楽の道を開いたのはこのドビュッシーの「牧神」なんじゃないかなと個人的にすごく思いますね。

Blog. 「読響シンフォニックライブ 2012年8月15日」 放送内容 より一部抜粋)

 

もっといろいろな文献があった気もするほど、この作品はお気に入りであり音楽史のなかの重要な点と線と見ていると思います。2018年台北コンサートでもラヴェルのピアノ協奏曲とプログラムしています。

思いめぐらせると、フランスや印象派といった音楽からの影響は、初期の久石譲から、いや初期の久石譲曲ほど如実に香りたちこめています。『PIANO STORIES』(1988)からは「A Summer’s Day」「Lady of Spring」「Green Requiem」など。『My Lost City』(1992)「Cape Hotel」など。『PIANO STORIES II』(1997)「Rain Garden」など。

サウンドトラックにも、そのエッセンスは気づく気づかないたくさん散りばめられていると思います。また『映画 二ノ国 オリジナル・サウンドトラック』(2019)「清めの舞」、映画音楽のオーダーだからこその大胆な印象派オーマージュも聴いていて楽しいです。

久石メロディが花開き久石ハーモニーが磨き上げられていく創作系譜にそって、フランスや印象派といったバックボーンは影を潜めていった、そんな印象もまたあります。印象派だと感じるのはやはりハーモニーからくるところが大きいような気がします。雰囲気として感じるハーモニー。自分の作品になじませようとしてもどうしてもその影を薄めにくいのもまた印象派の音楽の特徴でしょうか。だからたとえば、『イメージ交響組曲 ハウルの動く城』(2004)「シークレット・ガーデン」なんて、印象派のエッセンスを取り込みながらもしっかりとした久石譲のハーモニーとミニマル手法をもってして昇華させた曲。そんなふうに聴くこともできませんか。(※これはレビュー上の個人の解釈です)

オリジナル作品から『WORKS III』(2005)「DEAD for Strings,Perc.,Harpe and Pianoより II.The Abyss 〜深淵を臨く者は・・・・〜」、『Minima_Rhythm III』(2015)「THE EAST LAND SYMPHONYより II.Air」、そして2022年2月待望のFOC披露「Winter Gardenより 2nd movement」。クラシック音楽の歴史のなかで先達から影響を受けたものを、久石譲は久石譲のフィルターを通すことで現代作品として新しく結実させた。そんな聴こえかたもできませんか。(※これはレビュー上の個人の感想です)

ほかにもきっとたくさんありそうですね。あったら教えてください。安易に印象派のラベルをつけたいわけじゃない。今までまったく別物と思っていたものが、急に親近感わいてくることってありますね。ドビュッシーのこの作品には一切触れませんでしたけれど、同じように「牧神の午後の前奏曲」の聴きかたも変わってくるような気がしませんか。いや、久石譲ファンとして愛おしく感じてくる作品です。

 

 

サン=サーンス:チェロ協奏曲 第1番 イ短調 op.33 ◇

とにもかくにも聴き惚れてしまうチェロでした。作品はかなり技巧的な演奏を求めているチェロパートですが、リーウェイ・キンさんは軽々と難しいパッセージをこなしてしまう。ソリストというと大きく強く表現をと力むところもありそうですが、なんのそのどこまでも自然体で流麗に観客を引き込んでしまいます。コンサート・マスターと旋律のかけあい楽しそうに会話したり、久石譲指揮ともアイコンタクトをとりながら、まぶしい主役でした。

久石譲はシューマン:チェロ協奏曲(2012・金沢)、ドヴォルザーク:チェロ協奏曲(2017・宮崎,台北)、レポ・スメラ:チェロ協奏曲(2021・大阪)、そして本公演のサン=サーンス:チェロ協奏曲(2022・東京)となります。弦楽協奏曲のなかからチェロをフィーチャーした作品を一番多くプログラムしているような気がします。もちろんそれだけチェロ協奏曲のレパーリーが充実しているということもあるでしょう。

現代の弦楽協奏曲をコンプリートしてほしいです。「Winter Garden(ヴァイオリン協奏曲)」「チェロとオーケストラのための おくりびと」「ヴィオラ協奏曲(仮)(2022 MF Vol.9 初演予定)」「コントラバス協奏曲」とあります。作曲のために指揮をしているスタンスを基盤にしている久石譲です。新しいオリジナル作品として現代のチェロ協奏曲が誕生する日がくると強くうれしいです。

 

 

ジョバンニ・ソッリマ:アローン (4/15,16)
バッハ:無伴奏チェロ組曲 第4番より サラバンド (4/15)
プロコフィエフ:子供のための音楽 op. 65より第10曲 行進曲 (4/16)

こんなにもメインディッシュくらい強烈な印象を浴びせるソリスト・アンコールは初めて経験しました。もうデザートなんて言わせない、ちょっとしたサービスなんて言わせない。2公演とも1曲目に演奏した「アローン」は見ているのに耳を疑いました。ゆっくりとした弓の動きで歌うメロディに、ハープのような合いの手が入るんです。一人で弾いているとは思わない一瞬惑うほどです。ハープのようにポロロンとではなく、旋律を伸びやかに弾きながら、伴奏の合いの手のように単音でポンポンと自らピッツィカートもやっていたんです。こんなこともできるんだ!っていうか、リーウェイ・キンさんはそんなことも涼しい顔して、ときにエキゾチックに魅惑して。チェロ協奏曲でも独奏パートのときなんかに発揮できそうな手法です。すでにそんな作品ちゃんとあるのかな古典から現代まで。「Alone Li-wei Qin」で公式音源サブスクすぐに探せると思います。チェロの表現力、新しい世界でした。

 

—-休憩—-

 

ムソルグスキー/ラヴェル編曲:組曲「展覧会の絵」

久石譲指揮で「展覧会の絵」が聴ける。それだけで動機としては十分すぎるほどでした。そして、今まで聴いてきたなかで一番圧倒的でした。初生演奏でしたけれど、初めてがこの公演で幸せでした。感動しました。いつもはコンサート終わったあと振り返るように聴きかえしたりするのですが、今回のこの印象を失いたくなくて上書きしたくなくて、あれから一切の円盤聴いていません。そこまで鮮明に憶えていないしこれから忘れていくことも多いけれど、できるだけこの余韻をのこしたい。

オーケストラは久石譲といえば対向配置です。弦14型(第1ヴァイオリン14,第2ヴァイオリン12,ヴィオラ10,チェロ8,コントラバス7)とはいえコントラバスが多めなのも久石譲編成の特徴です。3管編成(フルート3ほか木管楽器)にホルンやトランペットが4本ずつ。パーカッショニスト5も多い、サクソフォンもいます。とても近現代的なオーケストラ編成です。いま日常に聴いている映画音楽などにも近いカラフルな楽器たちのオーケストレーション。この作品の親しみやすい魅力のひとつですね。そして、それぞれの楽器の見せ場も多く用意されている、演奏素晴らしかったです。

 

久石譲指揮の魅力をまた一歩小さく。

久石譲指揮クラシック演奏会で「ジブリをイメージした」「さすがジブリ作曲家」みたいなSNS感想をたまに目にします。もちろん好意的な感想としてなんですけれど、それは僕も共感するところあります。ジブリ交響組曲を聴いてるような躍動感やダイナミクスを体感するからです。まったく違うクラシック作品なのにどうしてそう感じるのか? 本公演を聴きすすめながら頭のなかで飛び交っていたキーワード[メリハリ、リズム、作曲家視点のパート譜、構成力、プロデュース型指揮]こんなことを支離滅裂を抑えられないまま、なるべく丁寧に記していきたいと思います。

メリハリ
ジブリ交響組曲は、物語のめまぐるしい展開にあわせて曲想もテンポも緩急豊かに進んでいきます。これを作曲した久石譲ですから、絶妙なテンポバランスでスピーディーに駆け抜けて、たっぷりタメて、のびやかに歌わせて。そんなのお手のものに決まっています。久石譲指揮は得意に実現できてしまいます。

リズム
現代的なソリッドなアプローチというのは、決してテンポの速い遅いだけではありません。決してリズムの縦のラインを揃えるだけでもありません。旋律のアクセントの付け方が久石譲ならでは独特だったり、歌わせ方に抑揚やグルーヴを感じさせたり。人によっては平坦に見えるスコアを、高低差くっきりに活き活きと。旋律の表現方法においてもリズムを生み出す、そんなアプローチをしてるんだと思います。

作曲家視点のパート譜
スコアを眺めてすべての音は必要がある、とその必然性や関係性を紐解いているのだろうと思います。すべての音に意味がある、だから意味があるように鳴らす。これをメロディはもちろんそれ以外の旋律にも細かく効かせる、だから立体的になる。ディテールごとに光を当てていく。それらがパート譜の数だけ絡みあうことで、複雑なリズムやうねりを生み出している。光と影の照度が広がり深まり、遠近豊かな音像を響かせている。

構成力
絵画的な鮮やかさよりも、音色的な色彩感よりも。表現のヴィヴィッドさ、込める想いのヴィヴィッドさがピカイチでした。順路にそってゆっくり絵を眺めてるなんてとんでもない、「展覧会の絵」という音楽作品の世界観と現代の世界観を生々しくシンクロさせているようでした。この作品の解説は別でしっかり見てもらうとして、「第4曲 ビドロ」のまるで戦時下のような不穏さと恐怖感など、今の世界情勢としてヒリヒリとリアルに感じるものがありました。

「第10曲 キエフの大門」についてはしっかり記しておきたい。スリリングな第9曲で音楽は最高潮に達し、その勢いで高らかに第10曲が開始されるのが一般的です。というかそれしか知りえません。今回久石譲は、第10曲の導入をぐっと抑えていました。ファンファーレのようにトランペットがパーンと弾けるイメージはそこにはありません。それは厳かに始まる国歌のようでした。こう言ってよければ、僕は「君が代」の導入にと聴いた瞬間すぐに結びつきました。これはウクライナの首都キーフ(キエフ)を象徴するように、まるでウクライナ国歌に仕立てて響かせたのではないか。そしてフィナーレに向かうにつれて音楽は力強く。どこまでも力強くなっていく。そうして勝利を手にした終わりではない、力強く生きていくことへの悲痛なまでの力強い願いのようなものが集まっているように感じました。圧倒されました。感動しました。心を揺さぶられました。

プロデュース型指揮
久石譲にはしっかりと表現したいものがある、クラシック演奏会のどのプログラムを聴いてもそう思います。メリハリ、リズム、作曲家視点のパート譜、構成力と考えてきましたが、これらをまとめてあわせてプロデュース型な指揮だと思います。実際に、耳の肥えた常連のクラシックファンからも、SNS感想の感触は極めて良好でした。「新鮮、斬新、こんな演奏は初めて」と聴き馴染んだ作品への満足な反応をみる機会もますます増えています。

久石譲が振れば、久石譲らしい表現になる。ここに書いてきたことは、久石譲音楽が染みこんでいるファンだからこそ、久石譲と生理的テンポが合ってしまっているファンだからこそ、きっときっと肌で体感できると思います。だから、クラシック演奏会でも期待して楽しみに足を運んでみてくださいね。

 

 

ラヴェル:亡き王女のためのパヴァーヌ

オーケストラ・アンコールは、フランスつながりラヴェルからです。タイトルから誤解されますが、この曲は葬送の哀歌ではなくノスタルジアを表現した作品です。久石譲もよくあるしっとりゆっくりしたテンポではなく、舞踏(パヴァーヌ)のように軽やかなテンポで進められました。

だから、表面的には追悼のようには感じませんでした。それよりも、未来の平穏さや安らかな日々をイメージした祈りのように感じました。ラヴェルは晩年の病床で「誰だ、こんなに美しい曲を書いたのは」と言ったエピソードもあります。もし、この曲をレクイエムに見立てるなら、夢見心地で安らかな死を迎えられない今の戦時下の人々への悲痛な祈りのようですらありました。アンチテーゼな軽やかなステップだからさらに悲痛です。今は悲しみに浸るノスタルジーになってしまっていて、未来には幸せに振り返るノスタルジーになってほしい。平穏に生き安らかに眠りにつく権利を凶悪に奪われている。だから、最後のこの曲を祈りと聴きました。

 

 

話は変わります。

 

サイン入りスコア販売

関係者のみなさまへ

久石譲サインをあなどってはいけません。クラシック演奏会であれ一定の久石譲ファンは必ず来場します。久石譲サインは最強の販促です。最高のギフトです。サイン会もできない状況はさらに千載一遇のチャンスになっています。WDOや久石譲作品公演であれば若い観客も多いです。直前のSNS発信であってもきっともっと多くの人がつめかけます。混雑やトラベルを避けるためにも、楽しい機会となるためにも。もしこういった企画をまた提供いただけるならお願いあります。

一例です。開場時間の1時間前、その時点で並んでいる人に先着で整理券を配る。もしくは並んでいる人数が多い場合は、人数分の抽選券にしてその場で当落(アタリハズレくじ)わかるようにするなど。開場時、多くの人が一気に特設販売コーナーへ押しかけないようにする。ゲットできる人たちは、開演前や休憩時間を使って密を避けて落ち着いて購入できる。開場の1時間前でも来る、そこまでして欲しい人はいます。

関係者のみなさま、どうぞご検討のほどよろしくお願いいたします。つたない思いつきのひとつです。そして、またこういった機会を提供いただけることを、コンサートがワクワクな一日になることを、楽しみにしています。

 

……

これまでの前例をみると。FOCやMFのコンサートサイン会でもわりと多くの人に整理券が用意されています。コアな「MUSIC FUTURE」新譜CDであっても、高額な「ベートーヴェン交響曲全集」であっても、連日50人70人と列をつくったサイン会盛況ぶりです。それはチャンスあるなら欲しいです!とびきりのコンサート記念にもなります。

今回はというと。コンサート前日にSNS発信されたうれしいサプライズでした。数量限定でどのくらい用意されていたのか、1日目が優先的だったのか両日均等に準備されていたのか、このあたりのことはわかりません。2日目に限っては幸運な7-10人がゲットできました。それ目当てに開場時間よりも早くから並んでいた人もいると思います。土曜日ということもあって都合つけて狙いに行けた人も多いかもしれません。しかも、これがまたとない組曲「World Dreams」のスコアですからね。それはもうみんな欲しいです!

……久石さんも指揮してピアノしてサインして……WDOなら会場ごとに100名分でもすぐに争奪戦のにぎわい……そんなこと軽々しくもお願いできない……地方公演でもチャンスほしい……またいろいろな機会に恵まれますように!

 

 

直近の久石譲×新日本フィル コンサート・レポート

 

 

久石譲オフィシャル、新日本フィルハーモニー交響楽団オフィシャル、各SNSでリハーサルから終演後までワクワクする投稿が溢れていました。たくさんの写真のなかから少しセレクトしてご紹介します。今後のコンサート情報や日頃の音楽活動など、ぜひ日常生活のなかでいろいろチェックしていきましょう。

 

勉強中 at March, 2022

from 久石譲本人公式インスタグラム

 

リハーサル風景

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ほか

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公演風景

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最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

 

 

Blog. 「オーケストラで楽しむ映画音楽 XIII」コンサート・レポート

Posted on 2022/04/11

4月9日開催ホールアドバイザー秋山和慶企画「オーケストラで楽しむ映画音楽 XIII」コンサートです。久石譲がゲスト出演という珍しいかたちでのコンサートです。西洋と東洋を代表する現代のキング・オブ・映画音楽、ジョン・ウィリアムズと久石譲を特集するプログラムはとても魅力的です。

 

 

オーケストラで楽しむ映画音楽 XIII

[公演期間]  
2022/04/09

[公演回数]
1公演
神奈川・ミューザ川崎シンフォニーホール

[編成]
指揮:秋山和慶
ナビゲーター:中井美穂

ゲスト:久石譲(指揮・ピアノ)◆
    三浦文彰(ヴァイオリン)◇

管弦楽:東京交響楽団

[曲目]
プレトーク
秋山和慶・三浦文彰・久石譲
(開演前 ナビゲーター×各1名登壇)

ジョン・ウィリアムズ生誕90年
『インディー・ジョーンズ』より レイダース・マーチ
『シンドラーのリスト』から3つの小品 ◇
『ハリー・ポッターと賢者の石』より ヘドウィグのテーマ
『E.T.』より フライング・テーマ

—-intermission—-

久石譲 作品集
チェロとオーケストラのための『おくりびと』
(チェロ独奏:伊藤文嗣 東京交響楽団 ソロ首席チェロ奏者)
ヴァイオリンとオーケストラのための『私は貝になりたい』◇
交響組曲『天空の城ラピュタ』◆

—-encore—-
One Summer’s Day (for Piano and Orchestra)
指揮:秋山和慶
ピアノ:久石譲
管弦楽:東京交響楽団

[参考作品]

久石譲 『メロディフォニー』  交響組曲「天空の城ラピュタ」久石譲 Symphonic Suite Castle in the Sky

 

 

 

今回は、コンサート・レポートを書かないつもりだったので、演奏会後に感想ツイートをたて続けにしてめでたく終わりのつもりでした。一口レポと言いながら19コも書いていましたけれど。コンサート・レポートとしてきちんと書きのこしてないことが何かもやもやと居心地わるくて、習性ってこわいですね。数年後にめくりたくなるかもなあとか、ツイッター見てない人いるしなあとか、欲深くなってしまいました。

ということで、コンサート・パンフレットからの紹介は省略させていただき、ここからはレビューになります。

 

プレトーク

14時会場、14時20分からプレトークでした。司会進行のもと秋山和慶、三浦文彰、久石譲の順番で一名ずつ登壇してインタビュー形式でした。トータル約25分くらい、終わったら開演15分前、意外にギリギリまでたっぷりあったなという印象です。指揮台を挟むように広めのディスタンスを保っていたステージは、本来全員登壇であればもう少し時間短縮できたのかもしれませんね。「最後にひと言」とか同じような質問もありますしね、流れるように進められるところも、お一人お一人になります。

久石さんは、ジョン・ウィリアムズについて、直近のウィーン・フィルとベルリン・フィルで開かれたコンサートについて語られました。パッケージ化のときにコメントを寄稿しているのと同旨になります。

 

 

それから、ハンス・ジマーが語ったことを引き合いに「映画音楽というのはどんどん落ちていくもの」という話。ソースが見つけられないので要約すると、アイデアが浮かぶ~監督の意向~セリフや効果音がかぶるなどの工程を経てどんどん音楽的には作曲家の意向や純度が落ちていく、そんなふうに解釈しています。「それでも映画音楽は世界中の人に聴いてもらえるから、今はやりたがる作曲家とても多いです」と締めていらっしゃいました。

 

 

ジョン・ウィリアムズ生誕90年

ジョン・ウィリアムズと久石譲が同じプログラムに並ぶ。はいドン!前半と後半でみっちりジョン・ウィリアムズ×久石譲。はいドン!久石譲作品で作曲家自ら指揮とピアノを披露。こんなにアツいことありますか!?と思ってチケット・ワンクリック楽しみに心待ちしていました。企画バンザイな映画音楽祭りです。

 

『インディー・ジョーンズ』より レイダース・マーチ

オープニングにふさわしい華やかな曲です。映画を越えてエンターテイメントやバラエティ番組にも使われているほどキャッチーです。そんななか、中間部のあまりにも甘美な気品のある旋律は、往年の名作やフィルム映画のよき時代へと陶酔させてくれるようでした。ゆっくりめに進められるテンポもあいまってうっとりです。ほんときれい。

 

プログラムごとにMCが入ります。この時間を使って舞台替えもしています。弦14型を基本としながら、次の作品はヴァイオリン協奏曲なので弦10型くらいと人数がぐっと減ってるのもあったり、金管楽器もそんなに登場しないし、などなど。言っちゃうとMCありきの時間ではあります。演奏会としての統一感や緊張感は半減してしまいますけれど、オーケストラ・コンサートとしての距離感は近くなりますね。そういえば照明もあまり落としていなかった気もします。親しみやすさを趣向していたのかもしれませんね。そういう意味ではもっと子供たちに聴いてほしかったコンサートだったとも思います。

 

『シンドラーのリスト』から3つの小品 ◇

メインテーマだけではなくて演奏会用に3つの曲をまとめたもの。「I. Theme from Schindler’s List」「II. Jewish Town」「III. Remembrances」トータル15分ほどです。I. III.の単曲は聴いたことあるけれど、このバージョンはなにかCDになってたりするのかな、ジョン・ウィリアムズ名義では録音なかったような。もうすぐ5月に、ヨーヨー・マ×ジョン・ウィリアムズのアルバムが出ます。チェロ版のシンドラーのリストなんて涙ものです。そのなかにこの3つの小品バージョンが収録されます。こっそり要チェックしているのです。

CDで聴くような艶加工(エコー)を控えたヴァイオリンの音は、生音そのもので、リアリティをもって心に訴えかけてきます。くしくも、『私は貝になりたい』もまた戦争をテーマにした作品、そして今。久石さんがときおり語る”あらかじめ予定されていたこと”のように時代と共振したプログラムとなりました。慈しむ、悼む、レクイエム、いろいろな感情ありますけれど、最悪な事態が現在進行中の今、まだまだ追悼するほど落ち着いたときにもなっていない、切実な戦争悲劇を感じながら聴いていました。一日も早く終わってほしい、それしかないと。

 

『ハリー・ポッターと賢者の石』より ヘドウィグのテーマ

記念すべき第一作『ハリー・ポッターと賢者の石』から公開20周年を迎える今年、聴きたかった一曲です。ジョン・ウィリアムズが音楽から離れて以降もシリーズ全作で登場するメインテーマです。映像が出来てから曲を書くやり方をしているなか、この曲は原作をお気に入りにしていたこともあり、映像にあてるかたちじゃない、原作を読んだイメージから純粋に書き下ろされたまさに渾身の一曲です。聴くほどにイマジネーション豊かに羽ばたくようです。

冒頭のチェレスタというキラキラした音は、ジョン・ウィリアムズによって魔法を連想させる代名詞となったほどだと感じます。流れをみると、チャイコフスキー:くるみ割り人形、それを使用したディズニー映画『ファンタジア』があります。そしてジョン・ウィリアムズがここに作曲したもの。チャイコフスキーに聴かせてみたかった。きっと喜びそうな気がしますね。今もこれからも、チェレスタという楽器を紹介するときに、ちょっと弾いてみるフレーズは、チャイコフスキーかジョン・ウィリアムズ。たぶんそうでしょう。すごいですね。

 

『E.T.』より フライング・テーマ

「地上の冒険」という約10分ほどにまとめたものもありますが、「フライング・テーマ」はほぼメインテーマで構成された約5分の曲です。秋山和慶さんの指揮は、全作品とも丁寧にゆっくり進められ、たっぷりと味わうことができました。ハリー・ポッターもそうですけれど、咆哮するホーンセクションが魅力のジョン・ウィリアムズ作品。実際には、第1,第2ヴァイオリンをはじめとした弦楽器が、とても細かいパッセージを高度に刻んでいるのをまのあたりにできます。風や翼がぶるぶる震えているような高揚感と推進力。ジョン・ウィリアムズが”飛翔”を得意としている秘密を少し肌で感じられた気がします。宮崎駿・高畑勲のスタジオジブリ作品にも”飛翔”はテーマとして描かれていますね。久石さんはまた違ってどういうアプローチをしているのか、聴きわけて発見する楽しみもまたありそうですね。

 

 

ジョン・ウィリアムズ作品集についてはいくつか記しています。時代とともに一緒に聴いてきた感もまあまああります。抜けてる時代もまあまああります。僕が唯一ファンクラブに入っていたのが久石譲とジョン・ウィリアムズです。インターネットで情報収集できない当時(1990年代初頭?)は、ましてや外タレ(死語?)なジョン・ウィリアムズなんて、毎月(隔月?)届く会報を見ながら、次やる映画やサントラ情報をチェックしていました。こんなことろでアピールすることでもないですけれど。あったんですよ、日本国内向けファンクラブっていうのが。ライナーノーツや音楽誌くらいサントラのレビューや解説も詳しかったような記憶です。それを参考にしながらお小遣いから次買うサントラの優先順位をつけていましたね。なつかしいおわり。

 

 

おまけ

 

 

休憩後MC

久石譲再登壇。司会者の一問一答で5分ほどありました。ミューザ川崎ホールの印象や設計者とお知り合いなこと、東京交響楽団とはストラヴィンスキー:春の祭典などで共演していること、ラピュタは宮崎駿監督・高畑勲監督との共同作業だったことなど。

ここで初出エピソードだったのは「必殺9時間寝」です。かいつまんで言いますね。ここまで前半から待っている間は何されていましたか?という質問に”寝てました”と笑いを誘う久石さん。地方公演や海外公演では外に出れないとき何もすることなくてホテルにずっといる。だから9時間近く寝ちゃうとリラックスするのかテンポが速くなる。それを知ってる団員なんかは9時間寝たって言うとうぅって構えるみたい。今日は7時間半だから大丈夫だと思います。と、そんなエピソードだったと思います。

 

チェロとオーケストラのための『おくりびと』

こちらもタイムリーなプログラム、映画『ドライブ・マイ・カー』がアカデミー賞国際長編映画賞を受賞したばかりです。同賞は映画『おくりびと』以来13年ぶりの快挙だったというつながりがあります。

起伏の少ない丁寧な演奏でした。裏を返せば、抑揚ひかえめな平面的な演奏に聴こえてしまったりもします。これはもうしょうがない。久石さんのそれを普段から聴きなじんでいるから、久石さんの生理的テンポに合ってしまっているから、染みついちゃってるから、これはもうしょうがない。

だったらなにがどう違うのか、どう違うと感じるのか、それをピンポイントに言い当てられるのか、説明できるほど言語化できるのか。そうやって自分を鍛える楽しみにもっていきます。まあこれは自分に課したトレーニングのようなものです。そう思考回路をスイッチしたほうが初めて気づくこと発見できることもあったりして楽しいですね。なんかもっともらしく言ってますけど全然うまくできていませんからね。マネるな危険!です。純粋に楽しみましょう。

【おくりびと。気になる点あったからCD聴き返し。4:10-くらいからのテーマの盛り上がりはオーケストラが悠々と歌っていますが、コンサートでは弦楽おさえてチェロがメロディをリードしていたような気がします。ん?って思ったからたぶん。】

【おくりびと。6:47-からの約10秒間のチェロパート。たぶんなかったと思います。そのあとにつづくメロディと超絶パートはありました。ん?って思ったからたぶん。】

とふたつツイートしていました。コンサート後にわりと時間をおかずにメモを振り返りながらCDを聴き返したのでたぶん鮮明だと思います。CD音源と同じスコアを使いながらも、チェロをより引き立たせる演出にしたのだろうひとつめと、手堅くいったふたつめと。クライマックスこんなにチェロ休んでたかなあと思うくらい手をとめている印象があったから。チェロをチェロの音をきれいに聴かせたい、そんな今回のアプローチだっんじゃないでしょうか。けれど、僕の記憶違いかもしれないということは添えておきます。

 

ヴァイオリンとオーケストラのための『私は貝になりたい』◇

【私は貝になりたい。リハーサルの時間が足りなかったのでしょうか。素晴らしい演奏でしたけど、もったいない演奏でもありました。指揮者×オーケストラ×ソリストの呼吸が乱れそうな箇所が一瞬ありました。一瞬だけ。演奏会はナマモノです。持ち直すところもふくめて体感できる醍醐味ですね】

とツイートしたままです。ヴァイオリンが前面に出てくるパートの入りのタイミングが合わなかったんですね。たぶん曲を知らない人でも雰囲気を察知できるほどに。ヒヤッとどうなるんだろう。ちょうどヴァイオリンの旋律がリズムを刻んでいるようなパートだったこともあって、そこにオーケストラがついていくかたちですぐに持ち直しましたよ。そのあと引きずることもなかったですよ。

完成度は期待していますけれど、完璧は求めていませんからね。もちろん演奏者も観客も最高のパフォーマンスだったと共有できることが一番うれしいです。でも、録音には残さないような多少荒い演奏が生演奏のときにはぐっと伝わる、そんなこともあります。ライヴを減点方式で採点するのはなにかもったいない気もします。もちろん度合いにもよりますけれど。そして起こったハプニングもまた事実、どうやって軌道修正したかというプロフェッショナルたちを体感したのもまた事実です。この話はまた最後に。

 

交響組曲『天空の城ラピュタ』◆

ここでようやく久石譲登場です。今回のコンサートはオーケストラ通常配置になっていて、久石さんのときどうするんだろう移動するのかな?なんて思っていたらそのまま続けられました。久石譲×対向配置じゃないパフォーマンスはレアだと思います。対向配置ってなに?よかったら下記のぞいてみてください。

 

 

(左)対向配置、(右)通常配置

 

そうだもんだから、たとえば「空から降ってきた少女」も「大樹」も、第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンがメロディをユニゾンで歌う箇所なんてわかりやすかったです。ステレオのように左右からバランスよく均等に聴こえる対向配置と、中央やや左寄りから固まって聴こえる通常配置と。こう聴こえるんだと新鮮でした。ほかの楽器配置のことまで聴き分けれるほどの耳は持っていませんので、これ以上はピックアップできないのが残念なところです。

もちろん、久石さんは対向配置を前提にこの作品も交響組曲化していると思います。久石譲指揮=対向配置なので、それはオリジナル作品ふくむ全てにおいて作曲の時点から念頭に作られていると思います。でも、どちらの配置をとるかは指揮者に委ねられています。

ベートーヴェンやブラームスも対向配置を念頭に書いていたと言われていますが、コンサートホールでの演奏会が定着した20世紀のほとんどは通常配置で演奏されてきています。最近では対向配置をとっている場合もあったりします。久石さんも現代作品・古典作品すべて対向配置で臨んでいます。じゃあ、ジョン・ウィリアムズは?というと本人ふくむ多くの指揮は通常配置です。僕が知っているかぎりドゥダメル指揮は対向配置でした。でもそのくらいしかすぐに思い出せないくらい少ない気がします。今回の秋山和慶さんも通常配置を採用しています。

おもしろいですよね。スコアにいろいろな音楽指示をのこすのに配置には触れないんですね。久石譲オフィシャルスコアにも編成表に対向配置での演奏を推奨するなんてありませんもんね。配置による音響の差異って選択基準として大きなウェイトを占めないものなのか、指揮者の志向性によるものなのか、おもしろいですね。これから久石譲作品も対向配置・通常配置どちらでも聴ける機会がふえていくでしょう。そう巡らせると、スコアとセットで音源化していることはとてもいいことですよね。対向配置による響きや効果を事前確認できるわけだから。「DA・MA・SHI・絵」や「Links」(こちらは対向配置ver.未音源化である!?)なんて、対向配置だからこその醍醐味を感じたらどの指揮者もよし対向配置でやってみようとなるんじゃないかな、…とことん話が逸れてとことん素人目線ですいません。

 

交響組曲『天空の城ラピュタ』ですね。どれだけCDなんかでたくさん聴いても、やっぱり生演奏でしか聴けない表現ってありますね。歌と同じで、今日はこうきたかとか歌い方変えてきたな、みたいな。そんなワクワク感とやられた感あります。とてもよかったです!

印象的だったのは、ゴンドアの思い出。まるでおばあちゃんがシータとお話をしているような、ボリュームの緩急がすばらしかったです。やさしくおなじないを教えているおばあちゃん、くり返すシータ、その掛け合いというか温かいシーンそのままのようでした。

ここは恥ずかしながらお伝えします。どれだけ好きな作品で何回も聴いていると自負していても、あれっ?今回新しくなってる?と勘違いすることってあります。たとえば(言いたくない)、「ドーラおばさん(Gran’ma Dola)」歌い出しのメロディは金管低音のイメージが強くて、今回フルートが一緒に鳴ってることに新しく注目して[ドーラフルート?]とかメモしているわけです。たとえば(言いたくない)、「大樹(The Eternal Tree Of Life)」グロッケンやフルートのイントロ部分、久石さんが「イノセント(Innocent)」のピアノから指揮へ戻るところです。ゆっくり余裕をもって戻れるように1小節分多くなっているように感じたから[大樹1多い?]とかメモしているわけです。でも、どちらもCD聴き返したら僕の勘違いだったとわかります。

そのくらい、生演奏で味わう印象って錯覚させるものがあるというか、やっぱりそのときにしかない聴こえ方ってあるんですね。一曲のなかでも、よりどこかのパートがどこかの楽器が記憶との違和感で強調されることもあるし。だから全ての感想に正解はないというか、いろいろな感想があっていいと思うんですよね。この話はまた最後に。

【ラピュタ。Innocentに感動したなんて一口もレポするにおよびません。ありがとうございました!!】とツイートしたままです。

 

 

ーアンコールー

One Summer’s Day (for Piano and Orchestra)

もしも、秋山和慶(指揮)久石譲(ピアノ)東京交響楽団(管弦楽)のアンコールなんてあるとしたら何の曲だろう。「Oriental Wind」かな、でも映画音楽にちなんだ曲じゃないよね、灯台もと暗しでした。答えは「あの夏へ」でした。ここでもタイムリーに、映画『千と千尋の神隠し』は今年初舞台化されただいま公演巡回中ですね。

久石譲の指揮の先生でもある秋山和慶さんと、ピアニスト久石譲という夢のコラボレーションが実現するなんて。スペシャルの極みです。ピアノ演奏に徹した久石さんのお姿を見れるなんて何十年ぶりでしょうか!?

 

秋山和慶さんの経歴や久石さんのことにも触れたロングインタビューもぜひご覧ください。とても新しい記事です。

日本センチュリー交響楽団ミュージックアドバイザー秋山和慶、大いに語る!(2022.02.26)
https://spice.eplus.jp/articles/299247

 

Joe Hisaishi – One Summer’s Day

from Joe Hisaishi Official YouTube

 

このミュージックビデオを見てもらったらわかるとおり、けっこうピアノが主役で出ずっぱりです。そしてこれと同じように久石さんエア弾き振り状態でした(笑)それはそうですよね、もう演奏と指揮と一体になって染みついてしまっていますから。秋山先生の邪魔にならないように、なるべくオーケストラのほうを振り向かないようにして、あるいは指揮者とコンタクトをとるようにして、身振り手振り動いていました。うん、とってもレアな光景でした。うれしい。

 

 

カーテンコール

交響組曲『天空の城ラピュタ』の終わりも、久石さんソロを務めたトランペットやファゴットを指して立たせて拍手浴びさせたり、いつものように両手広げて観客の大きな拍手にこたえるもんだから、あれっ、いつのまにか久石譲コンサートになってる(笑)っておかしくて。笑みがこぼれまくります。

アンコール「One Summer’s Day」も弾き終わって立ちあがってお礼して拍手にこたえて、思わず腕をオーケストラのほうに振り回そうとしたら、そこに秋山和慶さんがちらっと視界に入りこみそうな瞬間、そうだったそうだった、指揮者じゃないんだった、みたいなそんな瞬間ありましたよねたぶん。僕は(おそらく凝視な久石さんファンも)見逃しませんでしたよ。もう指揮者が二人いる状態。笑みがこぼれまくります。

 

 

誤解が理解を深める

僕の好きな言葉に「誤解が理解を深める」というのがあります。村上春樹さんの言葉です。小説を読んだ人のいろいろな感想・意見・解釈が今はSNSを中心に溢れていますね。個別に見ていくと間違ったものもあるかもしれないけれど総合的にみれば合っている。総合的にみると真実になる。そんな意味合いだったと思います。とても含蓄のある言葉だなと印象深いです。

明らかな間違いや勘違いであれば、言葉が飛び交うなかで教えてくれたり教えたり修正されていきますよね。でも、感想や解釈には正解ってない。その数が多くなればなるほどいろいろな一面が見え隠れしだして立体的にかたちづくっていくことになる。そんなイメージだと思っています。

今回のコンサートも、いろいろな感想が見れてとても楽しかったです。気づかない発見もあったり、なるほど!とか、たしかに!とか、挙げだしたらきりがありません。いつも聴きなじんだものとの小さな違いが積み重なって、それは大きな印象の違いとなって届けられます。そう感じられることもまた、しっかり聴き込んでいるファンの証と胸を張りたい気分です。

そして、真剣に心を込めて聴いているからこそ、厳しい目と耳で注がれますね。観客の聴く姿勢の本気度はそのまま感想にも反映される。とても健全なことです。だから、もっともっと気軽で素直な(そして責任も後ろに控えた)感想にたくさん触れたいですね。僕なんかも何か自分の言った感想や意見に「あ、それはこうですよ」とか突っ込んだり修正してもらったほうがうれしいです。それで得ることのほうが大きいから。

誤解が理解を深めるのなら、そのもととなる誤解(自分の意見)を積極的に発信したほうが、それはうれしいかたちで自分に跳ね返ってくるんじゃないかな、そんなことを思ったりします。風通しいいのが一番です。たくさんコンサート行って、たくさん聴いて、そんなコンサートもあったね、いつかそう笑って思い出話に花を咲かせたいですね。思い出にするための磨きあげかた、少しでもキラキラ輝きの強い思い出として残していきたい。そう思っています。

 

 

今回も何人かファンの方とバタバタご挨拶することができました。短い時間でしたけれどとてもうれしいです。ありがとうございます。

 

リハーサル風景・公演風景

from 久石譲本人公式インスタグラム
https://www.instagram.com/joehisaishi_composer/

 

from 中井美穂インスタグラム

 

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

 

 

Blog. 「東京人 2022年4月号 no.452」久石譲インタビュー内容

Posted on 2022/03/28

月刊「東京人 2022年4月号」(3月3日発売)に掲載された久石譲インタビューです。本号特集「日本が生んだクラシックの名曲」のなかの「令和に活躍する作曲家に聞くコーナー」にて、カラー見開き2ページで登場しています。

 

 

『東京人2022年4月号 特集「日本が生んだクラシックの名曲」』

バロック、古典派、ロマン派……クラシック音楽といえば、古い時代の音楽が定番ですが、実は日本でもたくさんの作品が生まれているのです。〝日本らしいクラシック音楽″とは——童謡、歌曲、軍歌、交響曲、オペラ、映画音楽……明治・大正・昭和を代表する作曲家の近代音楽史を、音楽評論家の片山杜秀氏が語ります。池辺晋一郎、久石譲、野平一郎、細川俊夫、藤倉大、坂東祐大――いま国境を超えて活躍する人気作曲家も大集合!

(東京人公式サイトインフォメーションより)

 

 

令和に活躍する作曲家に聞く

クラシック音楽は、欧米だけのものではない!世界中から委嘱やコンサート依頼が絶えず、日本のクラシック音楽界をリードする久石譲さん、細川俊夫さん。そして、次世代を担う若手として注目を集める坂東祐太さん、小野田健太さん。人びとの心に届く、数々の作品を生み出す期待の作曲家たちに、音楽への想いと創作活動について伺った。

 

久石譲
僕は立ち止まらない
全盛期はこれからと信じて進む。

ー久石さんは長野県の出身ですが、長野にいらした若い頃に、東京というまちはどんなふうに見えていたのでしょう?

久石:
特別に「東京へ行きたい」という意識はなかったかな。NHKラジオで「現代の音楽」という歴史ある番組が放送されていて、高校時代にはそれをよく聴いていました。当時は武満徹さんとか三善晃さんとか、そういった作曲家の方々が活躍されていた時代で、現代音楽が華やかな時代でした。

 

ー作曲家を志されたのも、やはりその頃ですか。

久石:
中学校時代はブラスバンドをやっていて、楽器の演奏が得意ではあったのですが、実はその頃から自分で書いた曲を持っていって、みんなに演奏してもらうということが素直に嬉しかった。高校時代には月に二回程、作曲のレッスンのために東京に来ていました。音楽大学を卒業した後、映画音楽の仕事を始めたのが三十代、もちろんそのときよりも今のほうが、自分としてはずっと良い状況になったと感じています。昔は良かったな、とか、そういうふうに懐古することはないですね。

 

ーコロナ禍でも立ち止まることなく、「フューチャー・オーケストラ・クラシックス」など、さまざまな公演を企画されています。クラシック音楽の古典、例えばベートーヴェンとかブラームスの交響曲の新しい解釈を、盟友である演奏家の面々と練り上げつつ、同時に自分の新作なども披露されていますね。

久石:
ようやく自分の思い通りに作品が書けるようになって来たという実感はあります。このコロナ禍でもシンフォニーの新作を二曲書きましたし、大変な状況でも自分を見据えてやっていけば、この状況をプラスにすることはできます。世界に受け入れられるまで、この歳までかかったという想いもありますが。そういう意味でも、やはり今が自分にとっては一番良い時期です。いや、今よりも今年の夏のほうがさらに良くなると思うし、そうなるように努力するだけです。

 

ー久石さんは常にポジティブで、より良い未来を見ている人という感じがします。

久石:
作曲家というのは不思議なもので、僕よりも年上の作曲家の方に会っても、みんな前向きというか、基本的に明るく、人間として面白い人が多いです(笑)。話をしていても飽きないし、あえて言えば自己中心的というか。例えば、ベートーヴェンとゲーテが逢ったときのことを、ゲーテが回想して、とにかく「うるさい、自分のことばかり話す」と書いていますが、そのぐらい作曲家というのは自分のことばかり考えている人種かもしれません(笑)。

 

ー東京の音楽シーン、特に一九七〇年代以降の日本のクラシック音楽作曲家たちの活動は、大きな変化があったと思うのですが。

久石:
武満さんなどが活躍していた時代は、やはりバブルの前の時期で、新しい音楽にも光があたり、それに目を向ける企業なども多くて、音楽祭なども盛んに行われていました。それに比べると、バブル後は停滞しています。しかし、そこに留まっていてはどうしようもない。新しい音楽的な価値観をもっと世の中に広げなければいけないと感じていますし、もう一度〈王道〉を探求しなければならないと思いますね。

 

ー「ミュージック・フューチャー」(久石さんが現代の優れた音楽を紹介すべく立ち上げたコンサートシリーズ)もその一環ですね。

久石:
今年も十月に開催する予定ですが、そこでは海外の優れたミニマル・ミュージックを紹介しています。例えばニューヨークのメトロポリタン歌劇場でもオペラが上演されている作曲家のニコ・ミューリーに作品を委嘱したり、とか。そうした試みを通して、東京の音楽シーンをさらに活性化させていきたい。欧米では、新しい音楽がたくさん演奏されており、それが聴衆にもまれることによって、作曲家が演奏家も育っていく訳です。日本でもそういう意識を持って、作曲家や聴衆を一緒に育てていかないと、将来が見えて来ないと思っています。そこに関心を持ってくれる方が増えることに期待しているのです。

文・片桐卓也

(「東京人 2022年4月号 no.452」より)

 

 

from 東京人 公式ツイッター

 

 

目次

東京人4月号
april 2022 no.452

特集 日本が生んだクラシックの名曲

令和に活躍する作曲家に聞く
久石譲 僕は立ち止まらない 全盛期はこれからと信じて進む
細川俊夫 沈黙の中に消えていく 音もまた美しい
坂東祐大
小野田健太

【7つのキーワードで読み解く】
作曲家の近代音楽史
片山杜秀(音楽評論家)/小室敬幸(音楽ライター)
1.明治 「文明開花と日清戦争」 瀧廉太郎/シャルル・ルルーほか
2.大正 「第一次世界大戦とブルジョワジー」 本居長世/山田耕筰ほか
3.レコード、ラジオ、映画の誕生 中山晋平/服部 正/早坂文雄ほか
4.昭和戦前、戦中 「皇紀2600年と日本主義」 信時 潔/橋本國彦ほか
5.昭和戦後 「戦争経験とハイカルチャーの終焉」 池内友次郎/黛 敏郎/伊福部 昭/三善 晃ほか
6.テレビ、アニメーションの誕生 山本直純/冨田 勲ほか
7.ゲーム、サイバーカルチャーの誕生 すぎやまこういち/吉松 隆ほか

【座談会】“新しい音”をおもしろがろう!
藤倉 大(作曲家)×山田和樹(指揮者)×林田直樹(音楽評論家)

[演奏家に聞く 音楽のちから]
澤矢康宏(小平市立小平第三中学校吹奏楽部 顧問)
柳澤寿男(バルカン室内管弦楽団音楽監督、指揮者)
藤井隆太(フルート奏者、龍角散社長)
カーチュン・ウォン(指揮者)/海道弘昭(テノール歌手)/LEO(箏曲家)/成田 達輝(ヴァイオリニスト)

[多彩なコンサートホール案内]
東京文化会館 野平一郎(音楽監督、作曲家)
昭和女子大学人見記念講堂 坂東眞理子(理事長・総長)
サントリーホール 堤 剛(館長、チェリスト)/本條秀慈郎(三味線奏者)
東京芸術劇場
東京佼成ウインドオーケストラ
東京オペラシティ コンサートホール 東京オペラシティ リサイタルホール 池辺晋一郎(ミュージックディレクター、作曲家)
すみだトリフォニーホール 佐渡 裕(指揮者)
トッパンホール 西巻正史(プログラミング・ディレクター)
ミューザ川崎シンフォニーホール 原田慶太楼(指揮者)

2022年おすすめ公演情報

正確に再現された多彩な音色を車でも

谷川俊太郎、武満眞樹に聞く いま想う、私たちの武満徹 文・青澤隆明

東京音楽散歩 作曲家ゆかりの地を訪ねて 文・山崎浩太郎

日本で最初期の音楽カメラマン 小原敬司のコレクションより 昭和初期の歴史的音楽シーンを拝見

いま聴きたい! 女性の作曲家10人
三宅榛名/萩京子/挾間美帆/木下牧子/たかの舞俐/田中カレン/藤家溪子/望月京/牛島安希子/山根明季子

日本人作曲家を堪能するためのCD10選 選、文・麻倉怜士

「最高の感動度」で日本の名曲を オーディオシステムの決定版はこれだ!

オーディオショールームを訪問 「on and on」 こだわりの音に出会う喜び

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ほか

 

 

 

Blog. GS9 Club「MASTER OF JAPAN 世界が注目する日本人」久石譲インタビュー内容

Posted on 2022/03/28

2月18日グランドセイコー会員制ウェブサイトGS9Clubにて公開された久石譲インタビューです。「MASTER OF JAPAN 世界が注目する日本人」コーナーです。会員限定ですが、期間限定で閲覧できるキャンペーンにも恵まれました。

 

 

INTERVIEW
MASTER OF JAPAN 世界が注目する日本人

久石譲 作曲家

 

壁にぶつかるのなんて、毎日ですよ。
それでも作曲を続ける理由は、
まだ気に入った音楽ができていないから。

世界を舞台に疾走し続ける音楽家、久石譲。
「すべては良い音楽を作るため」。ブレない音楽家の覚悟に迫った。

 

ベートーヴェンと並び立つ名曲を作る

久石譲は、「行動する音楽家」だ。世界中の賞賛をほしいままにしてきたというのに、その歩みを止める気はさらさらないらしい。

スタジオジブリ作品をはじめ国内外の映画音楽などを手がけて芸術の域へ押し上げ、2018年、最先端の現代の楽曲を紹介するコンサート・シリーズ「MUSIC FUTURE」をアメリカ・ニューヨークのカーネギーホールで開催すると大きな話題に。今後もフランス、カナダ、イギリスなど各国で様々なコンサートが予定され、チケットは発売と同時に完売状態と聞く。

そんな中、50歳を過ぎて、指揮法を一から勉強するため日本を代表する指揮者の1人、秋山和慶(かずよし)氏に師事。作曲家として、自身の作品を本当の意味で理解するには自ら指揮するのが最良、という考えに至ったからだ。ホルン協奏曲を制作しようと決めると、演奏者にホルンを借りて自ら吹いてみるし、コントラバスやクラシックギターに至っては実際に購入した。

「ああ、その辺は向こう見ずですよねえ(笑)。でも、自分で指揮をしたり音を出したりすると、“体感”するんですよ。遠くにあるものをただ眺めるんじゃなく、実体験する。窓から外を見るだけじゃなく、暴風雨の中に飛び出す感覚です。すると、感じるのも10倍、100倍になりますから」

近年は、クラシック音楽の指揮にも精力的に取り組んでいる。16年に日本の若手トップの演奏家たちを集めたオーケストラを結成すると、3年かけてベートーヴェンの交響曲9曲をすべて演奏し、現在はブラームス交響曲シリーズに挑戦中だ。

「10年以上前、解剖学者の養老孟司先生とラジオ番組で対談した時、僕はすごく意地悪な質問をしたんです。『いい音楽って、何ですか』って。そしたら先生は1、2秒考えた後、『長く聴かれるもの』って、スパッとおっしゃった。要するに、長い時代を経て生き残った曲は名曲である、と。すごくシンプルだけれど、深い言葉です」

「長く聴かれるものとは何か」と考えれば、やはりクラシック音楽に行き着く。現代まで聴き継がれる音楽は、細部に至るまで非常によくできている、と久石は言う。

「音楽がどこで成立しているのか、僕は知りたい。それが、クラシックを自分で指揮する理由です。ものを作る人間の仕事って、基本がアウトプットですよね。でも、インプットがなければ、自分の中に何もなくなるから新しいものも出てこなくなる。その刺激を、自分があえて指揮することで作っているんです。どんなに苦しくても、指揮と作曲、両方やっていかなければ自分の音楽は成立しないと思う。つまり、やり続けるしかない、ということですね」

しかも久石は、長年愛されるクラシックと、自ら作った現代の音楽をあえて同じ夜のコンサートで演奏するのだ。

「図々しいよねえ(笑)。でも、その大きなプレッシャーを味わうことで、自分の音楽を少しでも良くしようとしているんです。それを繰り返していく中で、ベートーヴェンやブラームスと並べても遜色ないものに、自分の楽曲を育てていきたいから」

 

撮影中、スタジオに置かれたグランドピアノで、北野武監督の映画『菊次郎の夏』のメインテーマ『Summer』などをさらりと演奏。その場に居合わせたスタッフにとって、至福のひとときとなった。

 

仕事の時、特に指揮をする際には必ずこれらを持参するという。クリック(メトロノーム)は、テンポの確認をするために使用。巻物型の筆箱には、シャープペンシルや色鉛筆など必要最低限の筆記用具がすべて用意されている。それぞれに役目があり、いずれもスコアにメモを書き込む時に用いる。名前入りのオリジナルタオルは指揮をする際、指揮台の横に置いておき、これで汗を拭う。

 

 

作曲家人生の転機となった、1984年

3歳の時には、すでに音楽の道に進もうと心に決めていた。というより、音楽家になるのが当たり前だと思っていた。

1950年12月、長野県中野市で生まれた。両親が音楽に特に造詣が深かった、というわけではない。父は高校の化学の教師。育ったのは、いたって普通の家庭だ。だが、少年は物心ついた頃には音楽が大好きになっていた。最初に心惹かれたのは、『カルメン 前奏曲』や『トルコ行進曲』などの聴きやすいクラシック、そして歌謡曲や童謡など。4歳の時、自分から進んでヴァイオリン教室に通い始め、中学に上がるとブラスバンド部に所属して、トランペットを担当した。

「自分で言うのも何ですが、どの楽器をやってもすぐにできちゃうんですよ。でもね、あまり楽しくないんです。それより、好きな曲を聴いて自分で一生懸命音を取って、それに和音をつけて譜面を書くほうが面白かった。練習の合間にその譜面をみんなに渡して、音が出ると、『わあ、すごい』って驚くわけですよ。演奏する喜びより、何かを作ってそれが音になる喜びの方が強かったんでしょうね。中学の終わりには、『作曲家になる』と決めていました」

ラジオで流れる現代音楽を耳にして、「こんな不協和音の音楽があるのか」と驚いたのも、その頃だ。以来、作曲するのは主に現代音楽。が、国立音楽大学作曲科に在籍中だった20歳の頃、人生を決める1つめの転機が訪れる。最小限の音を使い、パターン化した音型を繰り返して構成される、60年代にアメリカで誕生したミニマル・ミュージックとの出合いだった。

「テリー・ライリーの『A Rainbow in Curved Air』という曲を聴いた時、衝撃を受けましたね。それからは、ミニマル・ミュージックの作曲にシフトしました。でも、曲が全然書けないんですよ。もちろん、その当時なんて曲をちゃんと仕上げる技術力もないし。30歳くらいになって、本当の意味で初めて書けたという感じかな」

在学時から自身や仲間の曲を発表する演奏会のプロデュースを行う一方、大学卒業後ほどなくしてテレビ番組の音楽を担当。プロとして、順調に商業デビューを飾った。以来、作曲や編曲をしながら着実に実績を重ねたが、30代前半で、久石の人生が急展開することになる。84年のことだ。

「一番大きかったのは、やっぱりアニメーション映画監督、宮崎駿さんに出会い、『風の谷のナウシカ』が公開されたことだと思います。スタジオジブリ作品を手がけたことで、世間に広く知っていただくことができました。でも、それとは無関係に、この年制作された薬師丸ひろ子さん主演の映画『Wの悲劇』の音楽も担当しているんです。さらに、当時大人気だったカネボウの男性用化粧品、『ザナックス』のコマーシャル音楽も」

この年の飛躍は、とにかく凄まじかった。こんなエピソードもある。ある日、テレビを見ていて「この歌手、うまいなあ。アレンジしたい」と思った翌日、なんとその人物から久石のもとにアレンジの依頼が舞い込んだ。それが、井上陽水だった。

「これ全部、84年に起こったんだよね。音楽業界のトップの仕事が、一気に来ちゃったという感じ。それらが一応すべて評価されたので、ラッキーだったと思う一方で、ずっと一生懸命やってきたのがよかったのかな、とも感じています」

 

 

 

音楽で世界のトップを獲る

ポップスや映画音楽など活動の幅を広げながら継続してミニマル・ミュージックや現代の音楽も手掛け、約40年にわたって最前線で疾走してきた。順風満帆に見えるが、途中で行き詰まったり壁にぶつかったりしたことはなかったのか。そう訊ねると、即座にこう答えた。

「そんなの、毎日ですよ。小さな行き詰まりは毎日だし、かなり大きな落ち込みは年に何回かあります。5年や10年単位でも波が来るし」

例えば指揮の場合、辞書ほどの厚さのある楽譜をすべて覚えなければならない大仕事だが、それでも、譜面という“もの”がすでにある。それに全力を傾けて向き合えば、多少なりとも何らかの成果はあるものだ。だが、作曲は、どれだけ努力してもフレーズが浮かばなければ、その日の収穫は何もない。

「作曲は世界で一番きつい商売の1つじゃないかな、とよく思います。ありとあらゆる忍耐や絶望、そういうマイナス要素が満載なんですよ。別に大変さを強調しているわけじゃないけれど(笑)、本当にそう思う。今日は書けても、明日は書けないかもしれないし」

想像を絶する、生みの苦しみ。それでも曲を作り続ける理由は、「まだ、気に入った音楽ができていないから」。今回はここまでできたけれど、ここがダメだった。次はそれをクリアするのが目標。少しでも良い音楽を作るために、それを繰り返すだけだ。

「それと、これは苦しみの裏返しなのだけれど、やっぱりゼロから何かを作る喜びがすべてに勝るんですよね。朝、起きた時には影も形ないけれど、1日音を紡いでいくと夕方には“何か”が生まれているかもしれない。もちろん翌日になったら『昨日のはつまらない』と思って捨てることもあるけれど、さらに手を加えていくうちに、気づいたらそれがシンフォニーになっていたりする。すごいことだよね」

久石の視線の先にあるのは、「音楽の本質を少しでも理解し、時代を超えて愛される音楽を作ること」だ。つまりそれは、未来の人たちにとっての新たなクラシックを生み出すことと同義と言っていい。

「わかりやすさや流行に頼れば、みんながすぐ喜んで拍手喝采してくれる曲ができると思います。でも、それでは先に広がっていかないんですよ。一方で、時代に左右されない本質を追い求める人たちは常に新しいものに挑み続けるから、前衛と呼ばれるんですね。でもそればかりやっていると、一般の支持は得られません。大切なのは本質を追求しながらも、その上で大勢の人に理解してもらえる努力をすること。これを怠っている音楽家が多すぎると、僕は思う」

コロナ禍になり、制作環境にも変化が生まれた。この約2年間、作曲は東京ではなく、主に軽井沢の仕事場で行ってきたという。

「軽井沢では毎日必ず1時間とか1時間半、散歩します。するとね、例えば11月の紅葉シーズンになると、黄色、赤、まだ少し緑が残る葉っぱなどが地面に落ちて、それらが本当に美しく配列されているのを目にするんです。どうやったらこんなに見事に並ぶんだろう、と不思議に思うくらい。でも、葉っぱや風景の一部だけを写真で撮っても、そこそこきれいだけれど、普通なんですよ。歩いているときに目に入る全体の美しさには、敵わない」

そこで、はたと気づいた。「作曲で必要なのはこの感覚だ」と。

「つまりこの葉っぱが音符だと考えれば、1個1個の音はソとかドとか無機質で普通のものなんだけれど、トータルで見ると完成されているんですよ。それも、わざとらしくなく。ああ、本当に目指さなきゃいけないのは、この風景と同じように音が自然に連なる音楽なんだなあ、と実感します。そこに至って、長野で生まれ育ってよかったとつくづく思う。だってそんな自然が幼い頃から日常の中にあって、そのことを体感してきたわけだから」

グランドセイコーの故郷の一つ、長野から世界へと羽ばたく「行動する音楽家」。現状に決して満足せず前進し続ける強靭な精神は、豊かな自然に育まれた繊細な感性から生まれ、時の本質を追い求めるグランドセイコーのそれと、驚くほど似ている。

「様々な分野で、『自分が世界のトップを獲る』というくらいの夢を持つ人が、日本にも大勢現れるべきだと思う。当然、僕は音楽で世界のトップを獲るつもりです」

その覚悟に、こちらまで背筋の伸びる思いがする。インタビューを終え、音楽家が穏やかな笑顔で去った後も、その場には熱気と高揚感が残り続けた。

 

 

久石 譲
ひさいし・じょう

作曲家

1950年生まれ、長野県出身。国立音楽大学作曲科在籍中からミニマル・ミュージックに心惹かれ、現代音楽の作曲家として活動を始める。84年に公開された映画『風の谷のナウシカ』以降、宮崎駿監督作品の音楽を担当。他に、滝田洋二郎監督『おくりびと』(2008年)、李相日監督『悪人』(10年)、高畑勲監督『かぐや姫の物語』(13年)、山田洋次監督『家族はつらいよ』(16年)など国内外で多数の映画音楽を手がけ、8度にわたって日本アカデミー賞最優秀音楽賞を受賞。作曲と並行し、クラシックを作曲家の視点で指揮するプロジェクト「フューチャー・オーケストラ・クラシックス」や、世界の最先端の現代の音楽を紹介するコンサート・シリーズ「MUSIC FUTURE」などの活動も精力的に行う。20年より新日本フィルハーモニー交響楽団 Composer in Residence & Music Partner、21年より日本センチュリー交響楽団の首席客演指揮者に就任。

 

 

出典:GRAND SEIKO|GS9 Club|INTERVIEW
(*会員限定)