Blog. 2017年「久石譲ファンサイト 響きはじめの部屋」アクセス・ランキング

Posted on 2018/01/05

2017年「久石譲ファンサイト 響きはじめの部屋」年間アクセス・ランキングです。

2017年も精力的活動を展開した久石譲、近年その軸は多種多彩なコンサート。海外公演も充実し、コンサートから派生したCD作品やTV放送などますます話題に事欠かない一年でした。コンサートを追いかけ、最新情報を追いかけ、その合間に資料整理や横道それて想いしるし。1年間をバイオグラフィから振り返ってみましょう。

 

2017  

  • コンサート:「久石譲 ナガノ・チェンバー・オーケストラ 第3回定期演奏会」開催 C D 1 2 3 4 5 6 7
  • コンサート:「久石譲 オーケストラ・コンサート with 九州交響楽団」開催 C 1
  • コンサート:「THE WORLD OF JOE HISAISHI」(プラハ)ゲスト開催 C 1 2
  • コンサート:「久石譲 & ミッシャ・マイスキー」(台北)開催 C 1 2
  • コンサート:「久石譲 シンフォニック・コンサート 宮崎駿作品演奏会」(パリ)開催 C 1 2 3 4 5
  • コンサート:「アートメントNAGANO 2017」開催 1 2 3 4 5 6 7
  • コンサート:「善光寺・奉納コンサート」開催 C 1 2
  • コンサート:「久石譲 ナガノ・チェンバー・オーケストラ 第4回定期演奏会」開催 C 1 2 3
  • コンサート:「久石譲 ナガノ・チェンバー・オーケストラ 第5回定期演奏会」開催 C 1 2
  • コンサート:「W.D.O. 久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2017」ツアー開催 C 1 2 3
  • コンサート:「久石譲プレゼンツ ミュジック・フューチャー vol.4」開催 C D 1 2 3 4
  • コンサート:「久石譲指揮 新日本フィルハーモニー交響楽団特別演奏会」(三重)開催 C 1
  • コンサート:「久石譲 PREMIUM CONCERT 2017 in 仙台」開催 1 2
  • コンサート:「久石譲 ジルベスターコンサート 2017 in festival hall」開催 1
  • CD:ソロアルバム「Minima_Rhythm III  ミニマリズム 3」発売」 D
  • CD:ソロアルバム「久石譲 presents MUSIC FUTURE II」発売  D 1
  • CD:「家族はつらいよ 2 オリジナル・サウンドトラック」発売 D 
  • CD:「花戦さ オリジナル・サウンドトラック」発売 D
  • CD:「ベートーヴェン:交響曲第1番&第3番『英雄』」発売 D 1
  • 配信:「天音」/EXILE ATSUSHI & 久石譲 D
  • 映画:「たたら侍」(監督:錦織良成)※主題歌 「天音」/EXILE ATSUSHI & 久石譲 1 2
  • 映画:「家族はつらいよ 2」(監督:山田洋次) 1 2
  • 映画:「花戦さ」(監督:篠原哲雄) 1 2 3
  • 映画:「Our Time Will Come (明月几时有/明月幾時有)」(監督:アン・ホイ) D 1
  • TV:NHK WORLD「Direct Talk」出演 1 2
  • TV:NHK「NHKスペシャル ディープ オーシャン 第2集・第3集」音楽担当 D 1 2 3 4
  • TV:NHK「シリーズ ディープオーシャン 南極大潜航 幻の巨大イカと氷の楽園」音楽担当 D 1
  • TV:NHK「深海大スペシャル 驚異のモンスター大集合!」音楽担当 D 1
  • TV:NHK BSプレミアム「久石譲 in パリ「風の谷のナウシカ」から「風立ちぬ」まで 宮崎駿監督作品演奏会」放送 C 1 2 3 4
  • TV:スカパー!「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2017」放送 1
  • CM:東北電力「よりそう地域とともに篇」CM音楽 1
  • CM:ダンロップ「LE MANS V誕生篇/選べるダンロップ篇」CM音楽 D 1
  • CM:サントリー「サントリー緑茶 伊右衛門」「川下りの夏 編」「Oriental Wind」Newヴァージョン D 1
  • Topics:富山県ふるさとの歌「ふるさとの空」駅到着メロディー D 1 2
  • Topics:久石譲公式チャンネル開設 1
  • Topics:「平成29年度双葉郡中高生交流会 FUTABA 1DAY SUMMER SCHOOL」出演 1 2 3
  • Topisc:「NHK WORLD presents SONGS OF TOKYO」出演 C 1 2

Biography 2010- より)

 

 

眺めるだけでもすごい量と質です。気になった項目は各リンクを紐解いてみてください。さて、このなかからどんな活動がランキングに。一年を象徴するトピックに定番の人気ページも。今年2018年もさらなる久石譲活動に期待して、点と点をつなげるサイトとなるよう追いかけていきます。

 

 

2017年アクセス・ランキング -総合-

TOP 1

Info. 2016-2017 羽生結弦フリーFS楽曲 久石譲「Hope & Legacy」 について 【10/2 Update!!】

2016年の話題ながらその勢いはとまらず。大晦日「ジルベスターコンサート2016」から夏ツアー「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2017」で、オリジナル楽曲「View of Silence」「Asian Dream Song」の2曲が久石譲ピアノ&弦楽合奏でプログラムされたことも象徴的でした。

 

TOP 2

Info. 2017/06/09,10 「久石譲 シンフォニック・コンサート Music from スタジオジブリ」(パリ) コンサート決定!!

「久石譲 in パリ」コンサート開催情報をキャッチしたのは2016年11月。ジブリコンサートというだけでも注目度は絶大でした。

 

TOP 3

Blog. 「かぐや姫の物語」 わらべ唄 / 天女の歌 / いのちの記憶 歌詞紹介

ファンサイト4年連続でのトップ3君臨。いつか映画「かぐや姫の物語」の音楽についていろいろな角度から記してみたいと思っています。

 

TOP 4

Info. 2017/03/20 「久石譲 オーケストラ・コンサート with 九州交響楽団」(宮崎) 開催決定!! 【3/10 Update!!】

国内外問わずその地域のオーケストラと初共演も多い一年でした。ツアーでは回れない土地でコンサートすることも、その土地で愛されるオーケストラと久石譲のコラボレーションも。足を運ぶ観客の期待と満足感はSNSなどでたくさん見ることができました。

 

TOP 5

Info. 2016/04/16 [CM] 三井ホームCM「TOP OF DESIGN」 久石譲音楽担当

本格的なミニマル音楽で話題となったCM音楽。他CM音楽やTV音楽でもミニマル・ミュージックを全面におしだした音楽を聴く機会がふえ。新しい楽曲がエンターテインメントメディアで流れるたびに「かっこいい」という声。こういった反応や言葉に芸術性×大衆性の新しい久石譲が凝縮されています。

 

TOP 6

Blog. 「ふたたび」「アシタカとサン」歌詞 久石譲 in 武道館 より

「W.D.O.2016」にてジブリ交響作品化第2弾「交響組曲 もののけ姫」が世界初演されたことも記憶に新しいところ。そして「久石譲 in パリ」公演での「ふたたび」歌唱。これからまたコンサートやCD/DVD化などで触れる機会に恵まれたい名曲たち。

 

TOP 7

Info. 2017/09/06 [TV] NHK BSプレミアム「久石譲 in パリ」放送決定!! 【9/4 Update!!】

コンサート開催から3ヶ月後早くもTV放送、待ち焦がれたファンのボルテージは最高潮、TV放送当日はファンサイトもアクセスが集中してしまいちょっとパンク状態に。素晴らしいコンサートプログラムと映像美・音響美に酔いしれました。

 

TOP 8

Info. 2017/12/31 「久石譲 ジルベスターコンサート 2017 in festival hall」開催決定!!

上位常連の「ジルベスターコンサート」インフォメーション。大晦日にスペシャルなコンサート、年間コンサートのなかでも関心の高さと恒例行事としての定着感があります。最高の音楽で一年を締めくくることができるのはチケットを手にした人に贈られる最高のご褒美です。

 

TOP 9

Info. 2017/06/11 《速報》「久石譲 シンフォニック・コンサート Music from スタジオジブリ宮崎アニメ」(パリ) プログラム 【6/12 Update!!】

トップ10に「久石譲 in パリ」関連が3つも。なんだかパリな1年と錯覚してしまいそうでうれしいやらなにやら。今後の開催地は? これからもワールドツアー旋風を巻き起こす予感。

 

TOP 10

Info. 2017/Aug. Oct.「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ2017」「ミュージック・フューチャーVol.4」コンサート開催決定!! 【7/10 Update!!】

2大コンサートとして近年大きな軸となっているコンサート。ツアーで都市をまわるW.D.O.は各会場で大盛況、海をわたって海外公演も大熱狂。久石譲の新作とジブリ交響作品シリーズが世界初演される場としても注目度が年々あがっています。そして現代の音楽を届けるコンサートも定着しながらますますどんどん濃く進化しています。

 

TOP 11

特集》 久石譲 「ナウシカ」から「かぐや姫」まで ジブリ全11作品 インタビュー まとめ -2014年版-

久石譲の音楽が作られる過程に興味をもってくれる人がふえとてもうれしいです。聴いて楽しむ音楽、知って楽しむ音楽、なにか新しい発見や新しい聴こえかたがする。そうやって日常の音楽が豊かになっていくなら、作曲家や演奏家だけでなく聴き手にも”いい音楽”を育てていくことができるのかもしれませんね。

 

TOP 12

SCORE

久石譲監修、オフィシャル・スコア、オリジナル・エディションの楽譜を紹介したページです。ピアノ譜、室内楽、オーケストラスコアなど。

 

TOP 13

Info. 2017/12/20 「久石譲 PREMIUM CONCERT 2017 in 仙台」開催決定!!

地元オーケストラとの初共演となったひとつ。クラシック音楽「カルミナ・ブラーナ」と自作「風の谷のナウシカ」という作曲家としては並べて易しいプログラムではないなか、甲乙つけがたい対等な感想が多かったこと、指揮者としての充実ぶりをも象徴しているようでした。

 

TOP 14

Disc. 久石譲 『明日の翼』 *Unreleased

根強い人気と関心のある楽曲です。2011年に発表されてから今現在、未CD化であり、コンサートでも披露されたことのない幻の作品です。

 

TOP 15

特集》 久石譲 「Oriental Wind」 CD/DVD/楽譜 特集

久石譲の代名詞ともいえる曲のひとつ。2017年は長い沈黙を破ってNewヴァージョンのCMオンエアには驚きました。海外に発信するコンサート「NHK WORLD presents SONGS OF TOKYO」でも披露され、今ではもう日本の代名詞ともいえる曲のひとつ。

 

TOP 16

Info. 2016-2018 「久石譲 ナガノ・チェンバー・オーケストラ」 全7回定期演奏会 ラインナップ発表

長野市芸術館オープンから3年かけてのベートーヴェン全交響曲演奏会。いよいよ2公演を残すのみとなっています。久石譲作品もプログラムされたり、久石譲が今注目している古典/現代作品も意欲的に盛り込まれ、何と言っても久石譲が今追求している音が響きわたる演奏会です。

 

TOP 17

Overtone.第3回 羽生結弦×久石譲 「Hope&Legacy」に想う

TOP1にひっぱられるように見ていただいてありがとうございます。このコーナーは、直接的には久石譲情報ではないけれど、《関連する・つながる》かもしれない、もっと広い範囲のお話をしたいと始めました。いろいろな角度から眺めていきたいと思っています。

 

TOP 18

Info. 2017/11/25 「久石譲指揮 新日本フィルハーモニー交響楽団特別演奏会」(三重) 開催決定!! 【6/2 Update!!】

W.D.O.2017にもプログラムされた「TRI-AD」「天空の城ラピュタ」に、久石譲が指揮者として最も振っているクラシック作品のひとつ「悲愴/チャイコフスキー」。三重でしか聴けない特別なプログラムというキャッチコピーは、まさにそのとおり。

 

TOP 19

久石譲 最新コンサート情報

トップページバナーの「Concert」、開催予定の久石譲コンサート情報をまとめています。

 

TOP 20

久石譲 最新スケジュール情報

トップページバナーの「Joe Hisaishi Recent Schedule」、冒頭にも掲載しているスケジュールリストです。最新情報にあわせて随時更新しています。

 

 

 

ファンサイト例年以上に重い腰をあげた一年だったかもしれません。やりたかったこと、課題となっていたことに多く手をつけて結実することができました。「Overtone スタート」(1月)、「Works -Official ver. / Fansite ver. 掲載」(1,4月)、「サイトリニューアル」(3月)、「チャット/アンケート 企画開催」(8月)、サイトSSL化(12月)など。

常に最新情報を追いながら、コンサートに足を運びながら、新しい楽曲にレビューしながら、いろいろな資料を整理しながら。とてもパワルフに充実して動けた一年となったことに感謝しています。そして、新しい久石さんファンとの一期一会な出会いもたくさんありました。コンタクトいただき、そこからいろいろな久石さんへの愛を感じることは喜びであり、今後も交流がつづいていけるなら、ファンサイトの大きなエネルギーになります。

今年はなにか新しいことできるかな? 新しい出会いやつがなりをつくれるかな? ぜひ気軽に部屋をノックしてください♪気軽に話しかけてください♪

どうぞこれからもよろしくお願いします。

 

Related Page

 

 

Blog. 「キネマ旬報 1988年8月下旬号 No.991」 久石譲 インタビュー内容

Posted on 2018/01/04

映画誌「キネマ旬報 1988年8月下旬号 No.991」に掲載された久石譲インタビューです。

 

 

SPECIAL INTERVIEW
久石譲

「風の谷のナウシカ」やこの春公開された「となりのトトロ」の宮崎駿作品、「Wの悲劇」等の澤井信一郎作品の音楽で映画ファンにも馴染み深い久石譲氏が、自分のレーベルを作った。その第一弾が「ピアノ・ストーリーズ」だ。このアルバムは今まで書いた映画音楽をピアノで再演奏したもので、素晴らしいものになっている。写真ではサングラスをしていてわからないがとても綺麗な目をした素敵な人で、それが音楽にもよく現れている。このインタビューでは、レーベルを中心に、今の映画状況やビデオの事について聞いてみた。

 

-今まで書かれた映画の曲を改めてピアノで演奏しなおそうと思った理由は。

久石:
「この前に出したアルバム『カーブド・ミュージック』(ポリドール)がCMの曲を集めたものだったんです。僕はどちらかというとCMの場合、自分の中の先鋭的な部分をメインにほとんど生楽器を使わないで作ってきたんですよ。そういったものをまとめてアルバムにした時、自分の中でちょっと原点に帰りたいな、と思いまして次に何をやろうかと考えた時、それがピアノだったんです。やはりサウンドではなく、あくまでメロディにこだわってものを作りたい。そう考えた時にピアノが一番良かったんです。」

 

-この中の曲もオリジナル(ナウシカ、Wの悲劇、恋人たちの時刻 etc)がピアノがメインになっているものが多いですね。

久石:
「やはりピアノというのが、自分にとってそれだけ身近なんでしょうね。」

 

-選曲の基準はどうされたんですか。

久石:
「実は全部オリジナルでやろうかなとも思ったんです。だけど、あえてオリジナルである必要はないんじゃないかと、それは今までの曲をピアノで弾きなおす、という事自体が自分の過去、現在、未来を含めて一体何なのかという問いかけになる訳だから、過去のものでも心をこめて演奏すればいいんじゃないかと。これはほとんど偶然だったんですけど曲を選んでいったとき、映画が一番多くなったんです。だったらいっその事、映画だけに絞ってしまおうと思ったんです。」

 

-この『ピアノ・ストーリーズ』というタイトルの由来は。

久石:
「映画のテーマを集めてはいるんですけど、その映画を見た人がああこの音楽はあの映画で見た時が懐かしかったね、と思うために作っているのではなくて、逆に映画で扱われた事を全然無視して、聞いた人が新たにストーリーを再構成するといいますか、新たに架空のサウンド・トラックみたいな感じでとらえて欲しい、ということで『Piano Stories』としたんです。」

 

-このアルバムを聞いて自分の中でストーリーを作り上げて欲しいと。

久石:
「そうですね。」

 

-新しいレーベル、IXIAレーベルについてお聞きしたいのですが、これはどういうきっかけで。

久石:
「やはり作家というのは、誰でもそうだと思うんだけど自分のソロ・アルバムを作るだけじゃなくて、自分のレーベルを持つという事が一生の夢なんですよ。レーベルってレコード会社の中にあるもう一つのレコード会社みたいなもんでしょ、そうするとレーベル・カラーというのも打ち出せるし、自分のやってきた仕事の集大成も出来るし。僕もずっとレーベル持ちたくて、本当は一番やりたいのはボブ・スケア・レーベルのようにブライアン・イーノ的なものをやりたいんだけど、日本でそんな事やったら二枚もださない内につぶれちゃうから。で、今一番みんなが要求しているのは、ポップ・ミュージックだと思うんですよ。日本の音楽産業が、アイドル中心で作られているから、大人が安心して聞ける音楽って少ないでしょ。レコード店へ入っても何買っていいかわからない。そうするとみんなどんどん聞かなくなってしまいますよね。みんなカラオケやなんかで歌ってはいるけど、同時に自分も聞きたい音楽があるはずなんですよ。特にビートルズ・エイジだった人たちが四十代に突入してってる訳だから、そういう人たちは、やはりカラオケで演歌っていうだけでは物足りないと思うんですよ。」

 

-特に邦楽の場合はそれはありますね、洋楽はまだ数が揃ってますからね。

久石:
「洋楽の感性で聞けて、アダルトまでを対象とした日本のポップ・ミュージックが、あってもいい時期だと思うんですよね。ですからこのレーベルではその辺にターゲットを絞ったものをやりたいですね。僕の中にあるクラシックからポップスまでの中から良質なものを提供できるんじゃないかと思ってるんですけどね。」

 

-そういったポリシーで他のアーティストもプロデュースされる。

久石:
「そうですね。第一弾が7月22日に発売された『Piano Stories』、8月が『Night City』というCDシングルで、なんと僕が歌を唄ってるんですよ、それも日本語で。やんなっちゃいますけどね(笑)。9月にそれを含んだアルバムを出します。7、8、9月と連続で出すんで、とんでもなく忙しくてヘトヘトですね。」

 

-歌を唄われるという事はお好きなんですか。

久石:
「いや、あんまり好きじゃないです(笑)。やっぱり最後はメロディアスなものを書きたくて、メロディにこだわりだすと、じゃあそれをピアノではなくて何で表現するかと考えたときにやっぱり歌だったんです。しかも日本語で唄うという事が一番コミュニケーションしやすいですよね。だから今回は歌までやってしまったんです。それで、やる以上は、素人っぽくてはしょうがないんで、徹底してやりました。結構大変でしたね。」

 

-話はかわりますが、久石さんが音楽を担当されたもので長い間お蔵になっていた「グリーン・レクイエム」が公開されますが、あの音楽についてはどうですか。

久石:
「あの作品は、結構イメージ・ビデオっぽかったんですよ、イメージ映画というか、一種のファンタジーだったんで、どう取り組もうか悩みまして、「卒業」のサイモン&ガーファンクルのような感じで歌を効果的に使っていこうとなったんです。いわゆる映画音楽的なインストもあるんですが、重要な部分はほとんど歌になるように仕上げました。因みにこの『グリーン・レクイエム』映画自体はとても冬っぽいものなんですけど、テーマは常夏のモルジブで思い浮かんだんですよ。でもうまく合いましたね。」

 

-昨年は随分映画の仕事をされてましたが、今年はどうですか。

久石:
「自分のレーベルを作ってしまいましたので、ソロ・アルバムや他のアーティストのプロデュースをしなければならないので、今年は映画や他の仕事はあまり出来ないでしょうね。」

 

-それは残念ですね。当分映画の中で久石さんの音楽は聞けない訳ですね。

久石:
「去年は映画音楽の位置を高めようと頑張ったんですけど、やはり難しい所はありましたね。その原因としてレンタル・ビデオがあると思いますね。昔は映画を思い出す手段としてサントラ盤があったんですけど、今はビデオで映画そのものが楽しめますからね。よほどの事がないかぎりレコードは買いませんよね。」

 

~中略~

 

-今まで御覧になった映画で、これは絶対というのはありますか。

久石:
「色々ありますけど「ブレードランナー」ですね。もしああいう映画が日本で作られるとしたら、他の仕事を後回しにしても音楽つけたいですね。それともう一つやってみたいのがオカルト映画なんですよ。ところが日本映画にはあまりないでしょ。」

 

-「エクソシスト」みたいな。

久石:
「「エクソシスト」は是非やってみたいタイプですね。」

 

-マイク・オールドフィールドの音楽が印象的でしたね。

久石:
「あの曲がやはりミニマル・ミュージックなんですよ。当時は「サスペリア」とか、結構ミニマル的な音楽がそういったホラー映画によく使われていましたね。ミニマル・ミュージックは自分がよくやっていた音楽なんで、一回昔に戻った気分でやってみたいですね。」

 

-久石さんの書くホラー映画の音楽というのは聞いてみたいですね。

久石:
「是非やりたいですね。これは相当強力なものがありますよ。やりたくてしょうがないですね。」

 

(「キネマ旬報 1988年8月下旬号 No.991」より)

 

 

Blog. 「久石譲 ジルベスターコンサート 2017 in festival hall」 コンサート・パンフレットより

Posted on 2018/01/04

毎年恒例!大晦日に開催される特別なコンサート「久石譲 ジルベスターコンサート 2017 in festival hall」。2014年から続く今年は「風の谷のナウシカ」と「カルミナ・ブラーナ」というプログラム。また先立って20日には同プラグラムを引き下げ仙台フィルと初共演。なぜカルミナ・ブラーナだったのか? そんな想いのつまった久石譲プログラムノートです。

 

 

久石譲 ジルベスターコンサート 2017 in festival hall

[公演期間]  
2017/12/31

[公演回数]
1公演
大阪・フェスティバルホール

[編成]
指揮:久石 譲
管弦楽:日本センチュリー交響楽団
ソリスト:安井陽子(ソプラノ)、鈴木 准(テノール)、萩原 潤(バリトン)
合唱:大阪センチュリー合唱団、ザ・カレッジ・オペラハウス合唱団、Chor.Draft
児童合唱:岸和田市少年少女合唱団

[曲目] 
久石譲:Symphonic Poem Nausicaä 2015

—-intermission—-

カール・オルフ:世俗カンタータ「カルミナ・ブラーナ」

—-encore—-
One Summer’s Day (Pf.solo)

 

 

久石譲のプログラムノート

「カルミナ・ブラーナ」は「第9」に取って代われるか?

年の暮れに「カルミナ・ブラーナ」を演奏する、というアイデアは数年前からありました。隔年で僕もベートーヴェンの「第9」を演奏させていただいていましたが、「暮れって第9だけ?」という素朴な疑問があったからです。もちろん「第9」はとても好きですし、来年の夏!に演奏(初めてベーレンライター版で臨みます)も決まっています。しかしこの小さな列島から12月に放出される「第9」の熱量は全世界の1年分の熱量をはるかに超えていると思われます。

なぜこれほど日本人は「第9」が好きなのか?これを語りだすと本が一冊書けるくらいなので、ここでは触れずに強の本題『「カルミナ・ブラーナ」は「第9」に取って代われるか?』について書きます。つまり「第9」以外に年の暮れに演奏して聴衆が納得できる楽曲を探した結果が「カルミナ・ブラーナ」だったわけです。

 

「第9」は全4楽章からなり「苦悩から歓喜へ」という構造です。対して「カルミナ」は全25曲(冒頭とラストは同じ曲)で「春に」とか「酒場で」や「愛の法廷」とか大きな塊はありますが、止めどなく続きます。

かたやフロイデ(歓喜)と人類愛を歌い上げるのに対してこちらは「春が来てうれしい」という歌や「振られた女への思い」「紅を買って男の子にモテたい」はたまた「丸焼きにされた元白鳥の嘆き」「イングランドの女王を抱きしめたい」などもう何でもあり!もちろん美しいソプラノのラブソングもありますが、高邁さに関しては形勢不利です。これはテキストをドイツのバイエルン地方の修道院で寄せ書き帳から取っているからです。訪れた老若男女のそれぞれの勝手な思い(今でいうところのツイッターみたいなものですかね)から作曲者のカール・オルフが選んだわけなのでそれは当然シラーの詩(第9)とは訳が違います。

両曲とも1時間を越すくらいの演奏時間で、合唱を使っているのは同じですが「第9」の合唱は第4楽章のみに入り、その3分の1の約10分強の長さを歌うだけと効率がいいのですが(それなのに存在感が大きい)、「カルミナ」の方はほぼ全編にコーラスや歌が入ります。おまけにラテン語や古いドイツ語の歌詞なので意味を調べるだけで一苦労、しかも超早口言葉のところもあって合唱団の人たちはかなり大変です。

あれ、「カルミナ」の良さをアピールするつもりが逆を書いてますね、まずい。気を取り直して今度はソリストについて。「第9」は4人なのに対してこちらは3人、これはコストパフォーマンスが良い(オーケストラのコンサートは大人数なのでこういうことは大事です)のですが、テノールは1曲のみ、しかもカウンターテナー(とても高い音で歌う)の音域で先ほどの「丸焼き元白鳥」の心情を歌うだけ。そのうえ児童コーラスが入りオーケストラの編成も大きい。バリトンは「第9」に負けず活躍しているのですが、はたして効率が良いのか悪いのか?

こう書いていると失点ばかりくり返しているようなのですが、実は違います。

この1曲しか歌わないテノールだからこそ、その存在は大きいし聴く人にインパクトを与えます。演出が入る場合もあり、まるで違う世界に連れて行ってくれます。またラテン語や古いドイツ語であることは言葉の内容とは関係なく、発音の面白さや響きが楽しめます。「第9」ほど高邁な言葉ではないですが、人々の日常の悩み、願望、怒りや希望がストレートに表現されています。

そう、これは「世俗カンタータ」です。宗教的なものではなく、一般庶民の日常のエネルギー、下世話なバイタリティーを表現したたくましい曲なのです。そして実は構成も巧みにできていて、お定まりな方法を捨てているのでわかりやすいのに今なお実験的であり、前衛的でもあります。カール・オルフの面目躍如です。

日本人(僕だけかもしれませんが)は暮れに1年を振り返りあれこれ考えますが、年が明けたら気分も新たに出直します。そういう暮れに「いろいろあったけどさー、飲んで騒いで、まあ明日(新年)頑張ろう」というポジティブな人間賛歌である「カルミナ・ブラーナ」は「第9」とともに演奏されていくべき楽曲だとつくづく思います。

 

「Symphonic Poem Nausicaä 2015」は1984年に公開された映画『風の谷のナウシカ』をもとにして新たに交響組曲としてつくった楽曲です。またこれは宮崎さんのために最初に書いた音楽でもあるので、人一倍思い入れがあります。

よく宮崎さんとの映画でどれが一番好きですか?と聞かれます。僕は「全部好きですが、あえて選ぶなら『風の谷のナウシカ』です、ここから始まったんですから」と答えます。

あれから33年が経ち宮崎さんは新作を作り出した。挑戦はまだまだ続きます。

以上のプログラムです。明るい元気な暮れの一夜になりますように、一同張り切って演奏します。楽しんでいただければ幸いです。

2017年12月16日
久石譲

(「久石譲 ジルベスターコンサート 2017 in festival hall」コンサート・パンフレット より)

 

*なおコンサート・パンフレットには「カルミナ・ブラーナ」の全歌詞(原語詞/日本語詞)も掲載されています。

 

 

Blog. 「FMファン 1991年 3.18-3.31 VOL.7」 久石譲 インタビュー内容

Posted on 2017/12/17

雑誌「FMファン 1991年 3.18-3.31 VOL.7」に掲載された久石譲インタビューです。

 

 

Joe Hisaishi
久石譲

柔軟な思考と確かな哲学を持つメロディ・メイカー

彼のニュー・アルバム『I am』を聴いていると、彼が数多くの映画音楽(TVも)を手がけているにもかかわらず、映画音楽を作っていないのがよく分かる。映像に従属した音楽を作っていない、という意味である。これから想像して、気位の高い気難しい人かもしれないと思っていたのだが……。

「生ピアノと弦楽オーケストラで作り上げたわけですけれど、必ずしもアコースティックがいいという意味ではないんです。ピアノの微妙なニュアンスは、打ち込みではどうしても出てこない。打ち込みでやって、微妙なニュアンスを修正していくと、ワン・フレーズに半日かかってしまう。だったら、初めから生ピアノでやったほうがいいでしょ(笑)。いまは、深いニュアンスを要求する時代だと思うんです」

柔和な笑顔で、アルバムについて語りだした彼は、想像に反して気難しい人ではなかった。むしろ、柔軟な思考と確かな哲学を持っている人のようだった。僕たちは、日本の音楽状況について話し始める。

「日本で一番足りないのは、エンターテインメントだと思うんです。これが充実して、初めていろんなことがやれるんじゃないですか」

簡単に言えそうで、なかなか言えない言葉。

「僕の好きな音楽は、幹みたいな音楽。それ自体はきれいじゃないけれど、幹がなければ枝もきれいな葉も出てこない。音楽を変えていくようなパワーのあるものがやりたいですね。たとえばこのアルバムを作ったのも、日本では、音楽でリリカルな精神世界に入っていけるものがないからなんです。どうしてもムード・ミュージックになりがちなんです。人のやっていないことをやりたい、という気持ちは、どこかにありますね」

「人は、一生に1冊の小説を書ける」という言葉と同じ意味で、ひとつの歌を書ける。最近、どうもそんな歌が多いような気がする。その後が問題。そんな人とそんな音楽状況に彼のこんな言葉はどうだろうか。

「1ヵ月に1個、新しい技術を覚えると、1年で12、3年で36。もしかしたら、1週間で1個も可能かもしれない。上昇思考、そういう発想が、自分の糧になっている。やっぱり、音楽を尊敬していますからね。そのための苦労はいとわない」

彼は、体はやわらかくエンターテインメント(ポップス)、心は、クラシカル(正統的、古典的)という人だと思った。こういう人が、もっともっと必要な時代ではないか。

インタビュー・分 こすぎじゅんいち

(FMファン 1991年 3.18-3.31 VOL.7 より)

 

 

Blog. 「TITLE タイトル 2005年8月号」久石譲 スター・ウォーズ ジョン・ウィリアムズ音楽 コメント内容

Posted on 2017/12/15

雑誌「TITLE タイトル 2005年8月号 特集 スター・ウォーズは終わらない。」に掲載された、スター・ウォーズ音楽への久石譲コメントです。

 

 

ジョン・ウィリアムズの音楽で映画の格が上がった。

第1作(『EP4』)の当時、僕はシンセサイザーとオーケストラの音を混ぜたスタイルをとっていました。その時代にフルオーケストラを、しかもあれだけ派手に鳴らしたのは相当オールドスタイルに感じましたね。でも、今は僕もオーケストラの指揮もするようになって、クリックに縛られない、映像のエモーショナルによってテンポも変わる、揺れの音楽の良さを再認識しているんです。

ジョン・ウィリアムズの音楽がないと、もしかしたらお子様向け映画に見えてしまったかもしれない。映像の格、画格を上げる音楽だと思います。去年『スター・ウォーズ』や『E.T.』の曲を指揮させてもらったんです。それで改めて思ったのは彼のスコアがすごく良く書けているということ。とくに『スター・ウォーズ』は、あれだけすごい音がするので、相当大きい編成だと思っていた。でも本当はスタンダードな三管の編成。これでこういう音鳴らすの? と驚きました。各パートが几帳面に書いてあって、学ぶことが多いんです。

よく「日本のジョン・ウィリアムズ!」なんて製作発表の時に紹介されたりするんですけど(笑)、違うんですよ。僕はやっぱり東洋人なのでファとシを抜いた5音階をベースに作るんですけど、彼の場合は逆にその2音に特徴がある。違うからこそ逆に彼の良さがよくわかる気がします。

(TITLE タイトル 2005年8月号 より)

 

 

あわせて、「スター・ウォーズ」はじめ作曲家ジョン・ウィリアムズに関する過去の興味深いインタビュー内容もご紹介します。いろんな角度から見るとおもしろく、その真意が深く紐解けるかもしれません。作曲家同士だからこそわかる作家性やリスペクトが見え隠れするようです。読めば読むほどに深い内容です。

 

 

「何なに風に書いてください、と頼まれると、すぐお断りしますね。たとえば、ジョン・ウィリアムズ風に勇壮なオーケストラ……じゃジョン・ウィリアムズに頼めば……となっちゃうわけですよ。僕がやることじゃない。余談になりますけど、ジョン・ウィリアムズの曲はどれを聞いても同じだ、という風に良く言われますけど、それはまったくナンセンスな話なんですね。つまり、彼ほど音楽的な教養も、程度も高い人になると、あれ風、これ風に書こうと思えば簡単なんですよ。だけど、あれほどあからさまに『スター・ウォーズ』と『スーパーマン』のテーマが似ちゃうのは、あれが彼の突き詰めたスタイルだから変えられないわけですよ。次元さえ下げればどんなものでも書けるんです。だけど、自分が世界で認知されている音というものは、一つしかないんです。大作であればあるほど、自分を出しきれば出しきるほど、似てくるもんなんです」

Blog. 「キネマ旬報 1987年12月上旬号 No.963」 久石譲 インタビュー内容 より抜粋)

 

 

「作品によってあえて違うものを書こうという考えはないんです。前の作品に似ていようと、その映画に合っていると思った自分の正しいメロディを正しい形で書くということに徹したんですよ。ジョン・ウィリアムズも、けっこう何を書いても同じでしょ。すごい技量があって何でもやれるハズの彼が、何故ワンパターンと言われながらもやっているのか。自分に忠実に一所懸命書いたら、同じタイプになっていいと思うんですよ。オリジナリティっていうのは、そういうものでいいんですね」

Blog. 「CDジャーナル 1991年4月号」 久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

「ハリウッドでも、「何でこんな付け方をしたんだ?」というのもありますね。たとえば、スピルバーグなんかが、これは大林さんが言っていたんですけど、音を消してスピルバーグがつないだ絵を見ると、余りよくないんですよ。シーンのつなぎがぎくしゃくしている。でもスピルバーグはやろうと思えば完璧にできるんですよ、すごいテクニックがあるから。なぜそういうことをしているかというと、そのところにジョン・ウィリアムズのオーケストラの音楽がガーンと流れるんですよ。それでつないじゃうんです。逆にきれいにつながった絵にあの太い音楽をつけると流れちゃうんですよ。音楽がガーンと行くから、シーンは少しごつごつのつなぎをした方が、見る側に衝撃が来る。そこまで計算して、わざと荒くつなぐ。音楽を信じている。だからスピルバーグは絶対ジョン・ウィリアムズとしかやらない。あれは正しいやり方です。だから僕らが音楽を頼まれて、監督さんが期待したものを出したら、もうだめですね。えっ、こういうふうにもなるんだな、となるように。監督は音楽のプロじゃないから、その人が想像した範囲内のものを出したら、それは予定調和でしかないから、何もそこからはドラマが生まれないんですよ。」

Blog. 「ダカーポ 422号 1999.6.2 号」鈴木光司 × 久石譲 対談内容 より抜粋)

 

 

「音楽をやっていても、毎回リセットしてゼロから作ってるつもりなんですけど、やはり覚え慣れた方法論というのがいくつかある。それだと大量に作れるのがわかるんですけど、ゼロにしてまだ開けたことのないドアを開けようとする、そこまでが大変ですよね。一番近いドアを開け続けるとやっぱり枯渇していくし、悪いほうへ向かっちゃいますね。昔ジョン・ウィリアムズがやった『スターウォーズ』と『スーパーマン』と『E.T.』は全部同じメロディーじゃないかと言われてたのね。ほとんどの人はそう言った。でも僕はその時擁護したんです。なぜかと言うと、ジョン・ウィリアムズは自分の音楽を突き詰めて、突き詰めて、その結果自分の音楽はこうだと言い切ったんです。自分をきちんと突き詰めていない人間だと、ジャズ風、クラシック風、ロック風と簡単に書き分けることができる。それはオリジナリティがないということです。でも最後まで自分を突き詰めた人は、似ていてもいいんです。そうしないと、彼も音楽家としてのアイデンティティがなくなってしまう。彼は自分の曲がどれも似ているというのを誰よりもよく知っているはずだし、でもそうせざるを得なかったというところに作家性を感じる。毎回違うことをやろうとした結果、同じような音が生まれたとしても、それは次に発展することだからオーケーなんだと思う。」

Blog. 「秋元康大全 97%」(SWITCH/2000)秋元康×久石譲 対談内容 より抜粋)

 

 

「やっぱりオーケストラを扱って映画音楽をやってるから比べられるのはしょうがないと思うし、昨年、ワールド・ドリームでスター・ウォーズのテーマを自分で振ってみてよくわかったんだけど、あれだけのクオリティと内容のオーケストレーションをやれる人はいないですよ。すごく尊敬してるし、僕なんかまだまだだな、と思います。でもね、実際の音楽でいうと、僕と彼の作るものはまるで違うんですよ。僕は東洋人なので、5音階に近いところでモダンにアレンジしてやったりするものが多いんです。でもJ・ウィリアムズはファとシに非常に特徴がある。正反対のことをやってるんです。それはすごくおもしろいなあと思いますね。音楽の内容も方法論も違うけど、僕もあれくらいのクオリティを保って作品を発表し続けたいですね」

Blog. 「月刊ピアノ 2005年9月号」 久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

 

Blog. 「DVD&ブルーレイでーた 2017年11月号」我が愛しのブレードランナー/久石譲 コラム 内容

Posted on 2017/12/01

雑誌「DVD&ブルーレイでーた 2017年11月号」より「我が愛しのブレードランナー」リレー・コラムの最終回に登場した久石譲です。

映画「ブレードランナー」に惚れ込んだ理由から、「ブレードランナーの彷徨」(アルバム『illusion』(1988)収録)なんて初期作品まで飛び出し!? 懐かしさと同時に、あぁ覚えてるんだとファンならではのうれしさもあったり。ついついアルバムを聴きかえしたくなります。聴きかえしてしまいます。

「自分のやりたいことがそのままできる機会なんてまずないですからね。それでも『これだけは譲れない』とぶつかったり、譲ったフリをして別の方法で取り返したり。みんなそうやって生き抜くために努力しているのが現実ですよ。」(一部抜粋)

折にふれて語ることのある話題ですが、映画・音楽という異なるジャンルをこえてあぶり出される作家性のようなもの。共鳴し重なりあうことでわかりやすく理解できるのかもしれませんね。

 

 

”ブレラン愛”を語り尽くすリレー・コラム
我が愛しのブレードランナー

最終回 久石譲

3号連続でお送りしてきた本連載、満を持して登場してくれたのは、世界的音楽家である久石譲。数々の名曲を生み出してきた彼が『ブレードランナー』に惚れ込んだその理由とは?

「ヴァンゲリスの温かい音楽はSF映画では異質だった」

-初めて『ブレードランナー』(以下BR)を観た時の印象を教えてください。

久石:
「SF映画は好きなので、劇場公開された’82年に映画館で観たと思います。ただ正直に言うと、その時はあまり印象には残らなかったんですよね。『なんか暗い映画だな』くらいで(笑)。でもその後に原作小説(『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』)を読んで、それがかなり飛んでる話で『映画もこんな話だったっけ?』と、ビデオでもう一度見観直してみたんです。するとどういうわけか、そこからジワジワと好きになっていったんですよね」

-徐々に良さが分かったということですよね。一体どんなところに惹かれたのでしょうか?

久石:
「ひとつはヴァンゲリスの音楽です。ほとんどシンセサイザーなんだけど、いわゆるシンセ臭くなくて、それが素晴らしいなと。当時僕はフェアライトという何千万もするシンセサイザーを購入して試していた時期なので、『こういうアプローチをするのか』と、作曲家として非常に刺激を受けた部分がありました」

-”シンセ臭くない”というのは、どの辺りから感じたんですか?

久石:
「シンセサイザーは既に映画音楽に浸透していて、当時はちょっとした流行でもあったんです。だからヴァンゲリスがシンセの先駆者というわけではないんだけど、彼はクラシックの素養もあり、それまでのシンセを使った映画音楽とは一線を画していたんですね。ちょっとジャジーなコード使いだったり、スローテンポ感だったりで、音楽全体に温かい雰囲気が漂っていて、それは当時のSF映画の音楽としてはかなり異質なアプローチだったんです。それが『BR』のシリアスな近未来の世界観によく合っていた。ヴァンゲリスの音楽でなかったら、『BR』の雰囲気はもっと重苦しいものになっていただろうし、そういう意味では影から全体を支えていたと思いますね」

-久石さんは1988年に『ブレードランナーの彷徨』(アルバム『illusion』収録)という楽曲を発表されていますよね。しかも、ご自身で歌われて…。

久石:
「それは言わないで。誰も歌い手がいなかったもんだからさ(笑)。でも確かにこの曲のタイトルは『BR』を基にしましたね。当時はバブル期の絶頂で、みんなが孤独な仮面舞踏会状態だったから、まるでレプリカントのようだと揶揄したんです。実は同じアルバムに収録している『オリエントへの曳航』や、その後につくった『MY LOST CITY』も終末的な世界観が『BR』と同じです」

-そうだったんですね。一方で、『BR』の映像についてはどう感じられましたか?

久石:
「素晴らしいです。リドリー・スコットのこだわりが尋常じゃないですよね。近未来という設定を見事に使い切り、ここまでの映像で表現している作品はほかにないですよね。世界観も美術もほぼ到達している感じ。雨を降らし、スモークを焚き、ライティングやカメラ・アングルは徹底的にやって。そりゃあ膨大な時間と手間が掛かりますよ。これは有名な話だけど、リドリー・スコットのあまりのこだわりぶりにスタッフも役者も暴動寸前で、監督を罵る言葉をプリントしたTシャツを着て仕事をするほど、現場の雰囲気は最悪だったらしいよね(笑)。さらに予算が足らずにシーンをかなり削ったり、上層部の意向で監督としては不本意なラストシーンが追加されたりトラブルの絶えない作品だったみたいだけど、結果として、こだわりがいのある映像に仕上がっていましたね」

-そんな苦しい状況下で不朽の名作が生まれたというのは本当に驚きですね。

久石:
「それは結果としてそうなった。カットが減り、シーンの繋ぎが分かりにくくなったことで観客の想像力を刺激することになったとも言えるし。『BR』の成功はどこにあるのかなと考えると、あの映像とヴァンゲリスの音楽、台本も非常にしっかりしていた。色々なシチュエーションが重なって、いつの間にか”不朽の名作”になっていたんじゃないかと。まあ監督としては自分が思う通りのものにならず、悔しい思いをしたでしょうけどね」

-久石さんもリドリー・スコットと同じような苦労を味わったことがありますか?

久石:
「それは僕に限らず、モノづくりしている人みんながそうだと思いますよ。自分のやりたいことがそのままできる機会なんてまずないですからね。それでも『これだけは譲れない』とぶつかったり、譲ったフリをして別の方法で取り返したり。みんなそうやって生き抜くために努力しているのが現実ですよ。リドリーも『BR』で妥協したり踏ん張ったことで、その後素晴らしい作品を生み出すことになったわけですから。それで思い出しましたけど、初めて『BR』の予告篇を観た時は思わず笑っちゃいましたね。アクション&ラブ・ロマンスの大作として大々的にアピールされていて。実際にはアクションもラブ・ロマンスもそんなにないのにね…(笑)。本当、大変だったんだろうなと思います」

-久石さんが最も印象に残っているシーンと言えば、どこでしょうか?

久石:
「やっぱりラストの屋上でのやり取りですね。レプリカントの寿命が尽きて鳩が飛んでいくあのシーンは、もうほとんど哲学的と言っていいくらいだし、映画史に残る名シーンだと思います。エンターテインメントのフリをしながら、最後に”人間とは何なのか”という命題をボーンと突きつけてくる。小難しい問答があるわけではなく、シンプルな形でこれだけ深いテーマを表現できるのはスゴイですよね。それって音楽の在り方としてもまさに理想で、『自分もそういう音楽をつくりたいな』と思った記憶があります」

-では最後に、本作の続編となる『ブレードランナー 2049』への期待についてお聞かせいただけますか?

久石:
「正直、不安と期待が入り混じっていますね。何しろ、続編で『1』を超えるものって、なかなかないんですよね。リドリーの『エイリアン』(’79)でさえ、やっぱり『1』が最高ですし。ただし今回だけは期待してもいいかなとは思っています。ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督はオリジナルの大ファンみたいですし、リドリー・スコットも彼に全面的に任せているんでしょ? それはすごく正しい選択ですよ。上からコントロールしようとしたら、逆に上手くいかないと思う。『ラ・ラ・ランド』(’16)のライアン・ゴズリングも役になりきれる強さがあるし。それに何より、ハリソン・フォードが出るということは、デッカードという存在についての何がしかの答えを出さざるを得ないということでしょ。ハードルはかなり高いと思うけど、それでも新鮮な驚きを与えてもらいたいし、きっと与えてもらえるんじゃないかなと期待しながら公開を待っています」

(「DVD&ブルーレイでーた 2017年11月号」より)

 

 

 

Blog. 「久石譲 in パリ」に想う ~風の生まれる音~

Posted on 2017/11/17

6月にパリで開催された久石譲コンサート「JOE HISAISHI SYMPHONIC CONCERT: Music from the Studio Ghibli Films of Hayao Miyazaki」。スタジオジブリによるコンサートのための公式映像と久石譲による指揮・ピアノ、オフィシャルジブリコンサートは久石譲だからできるスペシャル・プログラム。「久石譲 in 武道館 ~宮崎アニメと共に歩んだ25年間」コンサート(2008)を継承し映画「風立ちぬ」(2013)も加えた宮崎駿監督作品全10作品としてスケールアップ。オーケストラはパリの名門、ラムルー管弦楽団。巨大なスクリーンに映し出される映画の名シーンと共に奏でられるオーケストラの迫力の音楽が、フランス・パリの聴衆を感動の渦に巻き込みました。

その模様は「久石譲 in パリ ~「風の谷のナウシカ」から「風立ちぬ」まで 宮崎駿監督作品演奏会~」と題し9月NHK BSで放送され大きな反響を呼びました。そして早くも11月再放送決定。

 

音楽に耳を澄ませ、そのとき頭に浮かんだこと、想いめぐらせたことを、しかるべき長さの文章にまとめる。とても個人的で私的なものですが楽しい時間です。もしこれから書くことに意見が合わなかったとしても、あまり深追いしないでくださいね。もしうまく伝わることができて、ぬくもりのようなものを感じてもらうことができたら。見えないたしかなつながりを感じることのできる幸せな瞬間です。

 

 

久石譲 in パリ 「風の谷のナウシカ」から「風立ちぬ」まで 宮崎駿監督作品演奏会
JOE HISAISHI SYMPHONIC CONCERT:
Music from the Studio Ghibli Films of Hayao Miyazaki

[公演期間]  久石譲 パリ コンサート JOE HISAISHI SYMPHONIC CONCERT 2017
2017/6/9,10

[公演回数]
3公演 (パリ パレ・デ・コングレ・ド・パリ)
Palais des Congrès de Paris

[編成]
指揮:久石譲
管弦楽:ラムルー管弦楽団
合唱団:ラムルー合唱団/ラ・メトリーズ・デ・オー・ドゥ・セーヌ

Conducted by Joe Hisaishi
Orchestre et Choeur Lamoureux

[曲目]
I. 風の谷のナウシカ
風の伝説
ナウシカ・レクイエム
メーヴェとコルベットの戦い
遠い日々 (Vo: 麻衣)
鳥の人

I. Nausicaä of the Valley of the Wind
The Legend of the Wind
Nausicaä Requiem
The Battle between Mehve and Corvette
The Distant Days (Chant: Mai)
The Bird Man

II. もののけ姫
アシタカせっ記
タタリ神
もののけ姫 (Vo: エレーヌ・ベルナディー) *日本語詞

II. Princess Mononoke
The Legend of Ashitaka
The Demon God
Princess Mononoke (Soprano: Hélène Bernardy) *Japanese Lyrics

III. 魔女の宅急便
海の見える街
傷心のキキ
おかあさんのホウキ

III. Kiki’s Delivery Service
A Town with an Ocean View
Heartbroken Kiki
Mother’s Broom

IV. 風立ちぬ
(マンドリン: マチュー・サルテ・モロー)
旅路(夢中飛行)
菜穂子(出会い)
旅路(夢の王国)

IV. The Wind Rises
(Mandoline: Mathieu Sarthe-Mouréou)
A Journey (A Dream of Flight)
Nahoko (The Encounter)
A Journey (A Kingdom of Dreams)

V. 崖の上のポニョ
深海牧場
海のおかあさん (Vo: エレーヌ・ベルナディー) *日本語詞
いもうと達の活躍 - 母と海の賛歌
崖の上のポニョ  *フランス語詞

V. Ponyo on the Cliff by the Sea
Deep Sea Pastures
Mother Sea (Soprano: Hélène Bernardy) *Japanese Lyrics
Ponyo’s Sisters Lend a Hand –
A Song for Mothers and the Sea
Ponyo on the Cliff by the Sea  *French Lyrics

VI. 天空の城ラピュタ
(マーチング・バンド)
ハトと少年
君をのせて  *日本語詞
大樹

VI. Castle in the Sky
(Marching Band)
Doves and the Boy
Carrying You  *Japanese Lyrics
The Eternal Tree of Life

VII. 紅の豚
帰らざる日々

VII. Porco Rosso
Bygone Days

VIII. ハウルの動く城
シンフォニック・バリエーション “人生のメリーゴーランド+ケイヴ・オブ・マインド”

VIII. Howl’s Moving Castle
Symphonic Variation «Merry-go-round + Cave of Mind»

IX. 千と千尋の神隠し
あの夏へ
ふたたび (Vo: 麻衣)

IX. Spirited Away
One Summer’s Day
Reprise (Vo: Mai)

X. となりのトトロ
風のとおり道
さんぽ  *英語詞
となりのトトロ  *日本語詞

X. My Neighbor Totoro
The Path of the Wind
Hey Let’s Go  *English Lyrics
My Neighbor Totoro  *Japanese Lyrics

—–encore—-
Madness from Porco Rosso
Ashitaka and San from Princess Mononoke  *English Lyrics

 

 

 

さて、今回は「久石譲 in パリ」へのいろいろな想いを綴りたく、各楽曲の感想は一口コメントです。きっと一人一人に大好きなジブリ作品ジブリ音楽があると思います。語り尽くせないものがあると思います。溢れだしたらとまらないと思います。

 

開演前
会場で流れていた音楽は、久石譲が宮崎監督へ献呈し三鷹の森ジブリ美術館でのみ展示室BGMとして聴くことができる楽曲たちです。2008年武道館の時もそうでした。そして、久石譲登場とともに観客総立ちスタンディング・オベーションでお出迎え。待ち焦がれたパリファンのボルテージはすでに最高潮。

I. 風の谷のナウシカ
冒頭のティンパニが鳴り響いた瞬間そこはもうナウシカの世界が広がります。宮崎駿×久石譲のコラボレーションはここから始まった、歴史が動きだした瞬間と思うと。

II. もののけ姫
海外オーケストラのパーカッション奏者が日本の和楽器を演奏することも、海外ソプラノ歌手が日本語で披露することもとても貴重です。メイド・イン・ジャパン100%の純度で作品が尊重されている証。

III. 魔女の宅急便
さすがヨーロッパの名門オーケストラ、横揺れする旋律の歌心は流れるような調べ、気品のある演奏。思春期の繊細でこまやかな感情の揺れ動き、音色への表現は日本でもパリでも。

IV. 風立ちぬ
プログラム追加された最新作。これまでに披露された「風立ちぬ 組曲」「風立ちぬ 第2組曲」とも音楽構成は異なります。なんといってもマンドリンのあのどこまでもレガートな奏法にはうっとり。

V. 崖の上のポニョ
2008年は公開記念もあって大きな構成だった作品。「崖の上のポニョ」主題歌はフランス語による大合唱。もしかしたらこのパートは、これから先開催地ごと母国語で歌われるのかもしれませんね。世界何十カ国語で歌われるジブリの歌、ジブリのメロディ。

VI. 天空の城ラピュタ
プロ・アマ問わず、大人・子ども問わず、音楽を奏でる人たちにジブリの種が蒔かれる瞬間。マーチングバンドによる演奏は、世界中にジブリの根が広がっていく、未来へジブリ音楽をつないでいく原石たち。いつまでも輝きを失うことのないあの石のように。

VII. 紅の豚
アンサンブルによるJAZZYで大人な世界。鈴木敏夫プロデューサーと宮崎駿監督のコメントも巨大スクリーンで紹介されました。

VIII. ハウルの動く城
2008年版の「人生のメリーゴーランド」ステージを空撮したその映像は、管弦楽が弧を描き楽器を弾く手振りがまるで華麗な舞踏会で踊っている姿のようで印象的でした。パリ公演の話ではないですが。見事にハマってしまうヨーロッパならではの優雅で華麗な響きは最良の装い。

IX. 千と千尋の神隠し
「One Summer’s Day」久石譲ピアノソロ、演奏後そっと目頭の涙をぬぐうような仕草が印象的でした。こみあげてくるものがあったのか、特別な雰囲気と特別な演奏に久石譲自身なにか感じるものがあったのか。これぞまさに、久石さんの言葉を借りれば「音楽が音楽になる瞬間」です。(詳しくは書籍「音楽する日乗」にて)

V. となりのトトロ
指揮者もオーケストラも観客も、自然と顔がほころび体弾み心躍る。会場いっぱいに夢と笑顔が溢れるとき、この一瞬だけは誰もが未来の平和と幸せを願う、今の幸せを実感する。そんな日本が誇るアンセムとして響きわたっていきますように。

*未放送
「II. 崖の上のポニョ」より「深海牧場」、「VI. 天空の城ラピュタ」より「大樹」、アンコール「Madness」「アシタカとサン」

終演後
ラムルーから久石譲へのサプライズ。舞台裏で「君をのせて」日本語大合唱プレゼント。現地動画で少しだけ紹介されていましたが、興奮と達成感に満ちた空気のなか、何度も浮かべた涙をぬぐう久石さんの姿が印象的でした。

 

6月公演直後のインフォメーションでも、会場の様子や鈴木敏夫プロデューサー、宮崎駿監督のコメントなどご紹介しています。

 

 

 

もうひとつの宮崎アニメ交響作品全集

2015年から始動した一大プロジェクト、ジブリ交響作品化シリーズ。「風の谷のナウシカ」(2015)、「もののけ姫」(2016)、「天空の城ラピュタ」(2017)とコンサート初披露されています。今のところ年1回で交響組曲化されているということは、全10作品が出そろうのは!?

パリ公演で披露されたのは2008年版を継承したもので、新しい交響作品としてスケールアップしたものは反映されていませんでした。ちゃんと考えてみるとそれは当然なことかもしれません。映像と音楽による演出・プログラム構成のため、30分近くに及ぶ交響組曲を持ってくることはできません。また組曲内の同じ楽曲であっても、スケールアップしたオーケストレーションを組み込むこと、部分的な修正はすでに完成された作品世界と音楽構成を歪めてしまうのかもしれません。

細かいことをいうと、すべての作品において2008年版と全く同じものはありません。微細なオーケストレーションの修正やテンポの抑揚などなど着実に進化しています。ここで言っているのは、新しい交響組曲から大きく持ちこむことはしていないとうことです。

すでに完成された作品世界と音楽構成、そうですね、もうひとつの宮崎アニメ交響作品全集は、ここにもうあるんです。「風の谷のナウシカ」から「風立ちぬ」まで全10作品。もちろんシンフォニー(交響)ではない編成の作品もあります。ソプラノ・合唱・独奏楽器・マーチングまで多彩な編成でバリエーション豊かに堪能できるジブリの世界。私たちは、映像と音楽による交響全集、音楽による長大壮大な新交響全集。ふたつの交響作品全集を受けとることができる、幸せなオーディエンスです。

 

 

みんなジブリで育った

小さい頃からジブリ映画を観て育った。楽器をはじめてジブリの曲を弾いてみた。鼻歌で口ずさんでみた、みんなで大合唱した。こんな経験に当てはまらない人は、いないと言い切れるほどでしょう。そのなかから音楽の道を選んだ人たちが、今度は届ける側に立っている。「昔から大好きだったジブリの作品を久石さんの指揮で演奏することができて幸せ」と語る奏者も日本ではよく耳にします。

これは日本だけの現象でしょうか?まったく同じことがパリでも世界中どこでも起こっている。そして音楽人たちは、いつか自分が聴き育った音楽を多くの人へ届けたいと願う。新しい交響作品化シリーズも世界中で演奏したいニーズをうけて、久石譲自ら音楽作品として再構成しているプロジェクトでもあります。

どこで開催されようとも、そこにはジブリ音楽を聴き育った人たちによる最高のパフォーマンスが約束されている。合唱団やマーチングバンドには将来音楽をつないでいく子供たちもたくさん参加します。「久石譲 in パリ」それはまさに花開き、芽吹き、新しい種が蒔かれるとき。

 

 

超ドメスティックはインターナショナルになる

この言葉は久石譲さんが時折語る格言のひとつ。ここに託され象徴されています。

 

「「もののけ姫」は日本にとどまらず、これから世紀末を迎える、世界中のすべての人々に向けて作られるものだと思う。その音楽を手がけることになって、いま一番考えていることは、日本人としてのアイデンティティーをどう保ち、どう表現するか。非常に深いところでのドメスティックさ、日本人であるということが、かえって世界共通語になるんじゃないかと思う。ではどうすればいいか。映画の公開まで、宮崎監督との豪速球のキャッチボールが続きそうだ。」

(CD「もののけ姫 イメージアルバム」(1996)ライナーノーツ より)

 

「シンセも入っていますよ。あと、ひちりきとか和太鼓などの民族的なニュアンスのある和楽器も使っています。日本初の世界同時公開の映画なので、何らかの形でドメスティックなものを出すべきだと思ったんです。それで”超ドメスティックはインターナショナルになる”という考えを持ち込みました。富士山と芸者のようなあいまいなイメージではなくて、本当の日本的な音の感性が核にあれば、インターナショナルとしての価値が出ると思ったんです。だから和楽器を使って、なおかつイメージを限定しない使い方を目指しました。これはすごく悩みましたね。」

(「キーボード・マガジン Keyboard magazine 1997年9月号」久石譲インタビュー より)

 

「言葉の問題はあると思うんですけど、本来は、インターナショナルを狙うという発想は違うんですよね。ある意味では超ドメスティックにやることで、どこまでも掘り下げていき、深いところで理解すると、それが結果、インターナショナルになる。だからその辺が、たとえば今度の北野さんの映画(『菊次郎の夏』。この対談は99年4月に収録)でも、あれは絶対日本の空間でしか成立しない話なのに、外国の観客にもかえって分かり合えたというところがありますよ。」

(「ダカーポ 422号 1999.6.2 号」鈴木光司×久石譲 対談内容 より)

 

「第二次世界大戦の後70年間まったく戦争がなく、平和の中で暮らしてきた我々は、グローバルという言葉を経済用語だと勘違いしている。真のグローバルとは思いっきりドメスティックであり、多様な考えを受け入れるということである。」

(書籍「音楽する日乗」(2016) より)

 

「一番良かったと思うのは、中途半端なインターナショナルとか中途半端なグローバリゼーションとか一切無関係で、超ドメスティックに作り続けてきた。それで、超ドメスティックであることが、実は超インターナショナルだった。結果、そうだったような気がします。」

(「NHK WORLD TV」(2016)番組内インタビュー より)

 

 

宮崎駿監督の言葉にも。

「つい最近まで『日本が世界に誇れるものは?』との問いに、大人も子どもも『自然と四季の美しさ』と答えていたのに、今は誰も口にしなくなりました。(中略)この国はそんなにみすぼらしく、夢のない所になってしまったのでしょうか。国際時代にあって、もっともナショナルなものこそインターナショナルのものになり得ると知りながら、なぜ日本を舞台にして楽しい素敵な映画をつくろうとしないのか。(中略)忘れていたもの 気づかなかったもの なくしてしまったと思い込んでいたもの でも、それは今もあるのだと信じて、『となりのトトロ』を提案します。」

(映画「となりのトトロ」企画書 より)

 

 

ジブリ音楽は日本オーケストラの財産

優雅で華やかさの際立った「久石譲 in パリ」。どこかで「なにかこぶしが足りないなあ、もうひとつグッと迫るものがなあ」と感じた瞬間があったとして。

モーツァルトのような作品を日本オーケストラが演奏しても、どうしてもなにかしっくりこない越えられない一線があると聞いたことがあります。そこにはヨーロッパの培われてきた特有のニュアンスや精神性があって音楽に込める何かがあるからです。外国人が日本民謡や演歌を上手に歌ったとしても小節回しにどうしても違和感を覚えてしまうのと同じです。

西洋発祥のクラシック音楽にはひとつのハンディキャップがあるならば、日本発祥のジブリ音楽は一転大きなアドバンテージがある。これは日本のオーケストラにとって最大の強みであり、未来へ大きな財産になっていくのかもしれない、と。

モーツァルトを聴くならやっぱり本場のオーケストラ・音がいいよねとあれば、ジブリ音楽を聴くならやっぱり本場日本のオーケストラ・音がいいよね、となる。日本で培われた特有のニュアンスや精神性、音楽に込める何かは、これから先もずっとずっと世界中のファンを魅了する。日本オーケストラの未来は明るい!—と安直なことは言えません、でも明るい未来へと受け継がれるべきものは、ここにしっかりある。これは今を生きる私たちが思っている以上に、ジブリが遺した偉大なる音楽遺産なのかもしれません。

 

 

風の生まれる音

宮崎アニメの魅力のひとつ、空を飛ぶ風を感じる。青い空を蒼い海をいっぱいに飛ぶ登場人物たち。そして風景や身にまとうものはもちろん、感情の変化や表情の動きに髪の毛まで揺れ動く、まさに風が立つ。

久石譲がつくりだす音楽にも共通点があるような思います。「久石譲 in パリ」を観ながら、どの作品にも風を感じる。「風の谷のナウシカ」冒頭ティンパニが鳴った瞬間に谷を流れる風の音が聞こえてきそうですし、「ハウルの動く城」ハウルとソフィの空中散歩の瞬間も、「となりのトトロ」トトロが高く高く登っていく瞬間も、いろいろな風が表情豊かに響いています。

映像やストーリーとリンクしているから、という話ではありません。風が起こる、風を感じる。風とは心なのではないか。気持ちの芽生えや気持ちの変化。一瞬自分のなかに吹く風、たしかに感じるなにか。久石譲が紡ぎだすジブリ音楽は、まさに風の生まれる音。聴く人を魅了してやまない、世界中で愛されつづづけるのは、心の生まれる音そのものだから。

 

 

そして、これから

パリ公演のような宮崎駿監督作品演奏会は、ワールドツアーとして今後も世界各地で開催予定のようです。開催地のアーティスト(オーケストラ・ソリスト・合唱・マーチング)で演奏することも重要なひとつであるならば、準備期間には相当の時間を要します。いつか日本でも凱旋公演を!とも期待してしまいます。

「久石譲 in パリ」がいつかDVD/Blu-rayやCDとしてその映像や音楽がパッケージ化されることも強く望みます。今回TV放送されなかったプログラム完全版として、準備期間やリハーサル風景をまじえたドキュメンタリーとして、現地の反応やインタビュー、公演前後の舞台裏をも鮮明に記録した保存版として。そうしてできたパッケージが、待ち焦がれる世界中のファンへ、コンサートには行くことの叶わない世界中のファンへ届けられる。その先には、ひとりひとりの日常生活とともにある音楽、日常生活で出会える感動・勇気・心の変化。素晴らしい音楽の力、広がりつながり螺旋を描き、そして個へ帰る。

こんなスペシャルなコンサートが開催されるとひと言で「お祭り」企画です。でも、そう簡単には片づけられないなにかがある。エンターテインメントの姿をまとい、ジブリ映画を久石譲音楽を未来にてわたす壮大な一大プロジェクトとしたら。ジブリの根が世界中に広がる、そのどっしりとした根のうえにはどんな樹が空高く立ち、どんな花を咲かせ、どんな実がなっているのか。「久石譲 in パリ」はそんな大切な大切な過程のひとつ。

 

 

「久石譲 in パリ」を観ながら、満足感と幸福感いっぱいに感動しながら、余韻はそれだけでは終わりませんでした。私的に受けとったものめぐらせる想い、テーマごとに綴ってきました。あぁこうやって未来につながっていくんだろうなあ、と。まるで未来への過程をまのあたりにしている生き証人のように。「久石譲 in パリ」、それは今まさに、歴史をつくっている瞬間です。

 

 

パリ公演の歩み ~開催決定から「久石譲 in パリ」放送まで~

 

 

2018.11 追記

ジブリコンサートの映像と音楽のバランス。

久石譲は武道館コンサート(2008)のときにこう語っています。「スクリーンが大きすぎると映像に音楽がくっついてる感じになるし、小さすぎると映像がオマケになってしまう」。そこから88m x 162mの巨大スクリーン、映像と音楽のバランスがいいと導き出した。オーケストラと合唱の大編成、ステージの大きさと大人数が与える視覚的インパクト。それらと対等になるスクリーンの大きさがあの特注スクリーンです。

映像に合わせて音楽をシンクロさせる手法もとっていません。スクリーンに映し出される本編映像とそのとき奏でられる音楽は映画とコンサート違います。でも、観客はその世界観に違和感なく映像と音楽にどっぷりひたることができる。映画ワンシーンの”そのためだけの音楽”ではないからこそ、自由に羽ばたくイマジネーションの広がり。”作品の世界観に音楽をつける”その結晶です。

映画シーンとLive映像を織り交ぜることも。フィルムはフィルムでずっとダイジェスト映像ではなく、今その瞬間ステージLive映像と交錯させることで、臨場感や高揚感、観客の満足度は最高潮に達します。そして映像のつながりや切り替えもなめらかな職人技が光ります。

「映像と音楽は対等であるべき」久石譲の映画音楽に対する信念の象徴、見事に具現化したものそれがジブリコンサート、ひとつのコンサートのかたちです。サービス精神に付随しただけのフィルムコンサートとは一線を画するもの、Concert for Film & Music です。

Info. 2018/11/04 《速報》「久石譲 シンフォニック・コンサート スタジオジブリ宮崎駿作品演奏会」(ニューヨーク) プログラム より抜粋)

 

 

 

 

Blog. 「キーボード・マガジン Keyboard magazine 1997年9月号」久石譲インタビュー内容

Posted on 2017/11/13

音楽雑誌「キーボード・マガジン Keyboard magazine 1997年9月号」に掲載された久石譲インタビューです。

この年1997年公開されたばかりの映画「もののけ姫」の音楽についてたっぷりと語っています。”超ドメスティックはインターナショナルになる” ”オーケストラの圧倒的な表現力” ”環境ループ” ”果物が腐る直前のような音” …!! 音楽制作における貴重な宝庫、音楽が生まれる瞬間の永久保存版です。

 

 

超ドメスティックはインターナショナルになる

この7月に全世界同時上映が始まったアニメ映画「もののけ姫」。宮崎駿監督が描くこの空前のスケールの作品は室町時代の山里を舞台にした歴史活劇だ。サウンドトラックを担当したのは宮崎監督の作品ではおなじみの久石譲。監督との意見のキャッチボールでは最初から豪速球でやりあったという。壮大なオーケストレーションで作られたこのサントラは久石譲の記念碑的な作品となるだろう。

 

サントラは控え目であることを美徳とする必要もない

-このサントラを作るにあたって、宮崎監督とはどのようにコミュニケーションを取っていきまっしたか?

久石:
「この話を頂いたのは一昨年なんです。その時にこの映画の大体の内容、登場人物のことなどを聞いたんです。絵コンテも少ししかできてなかったけど、今まで以上の意気込みで作ろうとしていることが伝わってきましたね。話を聞いている段階で、直感的にこれはフル・オーケストラのサウンドでやるしかないと思ったんです。

宮崎さんの仕事では毎回、イメージ・アルバムというのを作るんです。まず作品のキーワードを10個くらいもらって、それからイメージを広げてまず10曲作ってしまうんです。今回のアルバムも既に『もののけ姫 イメージアルバム』(徳間ジャパン:TKCA-70946)として1年前にリリースされています。そして、その音を基にサントラを作りました。」

 

-今回はどういうキーワードだったんですか?

久石:
「タタリ神、犬神モロ、シシ神の森……などでした。さすがに宮崎さんもこれだけではマズイと思ったんでしょうね、言葉に対して自分の思いや説明を長く書いてくれたんです。その中に「もののけ姫」というタイトルでポエムのような言葉が綴られたものがありました。それを見たとき、これは歌になるなと思ったんです。タイトル曲にならなくても、イメージ・アルバムならあってもいいんじゃないかという軽い気持ちで「もののけ姫」という曲を書いたんです。」

 

-今回オーケストラ・サウンドを使おうと思った理由は?

久石:
「オーケストラのサウンドはそんなに色があるものではないんです。だから、こういう時代ものアニメでも、その匂いや日本的情緒を出すことができるんです。全世界公開のサントラなので豊かな弦の音がいちばん合うと思いましたね。」

 

-サントラは生のオーケストラのみですか?

久石:
「シンセも入っていますよ。あと、ひちりきとか和太鼓などの民族的なニュアンスのある和楽器も使っています。日本初の世界同時公開の映画なので、何らかの形でドメスティックなものを出すべきだと思ったんです。それで”超ドメスティックはインターナショナルになる”という考えを持ち込みました。富士山と芸者のようなあいまいなイメージではなくて、本当の日本的な音の感性が核にあれば、インターナショナルとしての価値が出ると思ったんです。だから和楽器を使って、なおかつイメージを限定しない使い方を目指しました。これはすごく悩みましたね。」

 

-具体的にはどういう部分に注意したんですか?

久石:
「例えばひちりきなんですが、すごく個性的な音なんです。だからこの音が単独で鳴ると見ている人の注意がそっちに向いてしまう。すると音としては面白いけど、劇の流れを止めてしまうんです。それで、ほかの楽器とハモらせたりして何とも言えない音にする。ソフィスティケートされるので個性も残り、画面の流れも止まらない。」

 

-サントラならではの試行錯誤ですね。

久石:
「今回の映画では、2時間15分の長さに対する作曲をするわけです。だから音を付けないところも含めてどこで何のテーマが出て、どういう形で宮崎さんが言いたいテーマを浮かび上がらせるかがポイントなんです。そういう設計をして論理的に作ることが大事ですね。黒澤明さんの言葉で「映画は時間の流れの中に作るものだから、音楽ととても構造が似ている」というのがあるんですが、本当にそう思いますね。だから、自分も映画を撮っている感覚で作ります。単純に画面が速くなったからといって、速い音楽にはしたくないんです。時間軸と空間軸の中で作るものですから、音楽が主張し過ぎても問題が起こる。また、控え目であることを美徳とする必要もないんです。」

 

生のオーケストラの圧倒的な表現力

-サントラを作るときにイメージの基本となるような、既成のサウンドなどはあるんですか?

久石:
「直接ではないですが、例えばオーケストラのサウンドをイメージするときに、アビーロードの1スタジオの音というのは定着しているんです。だから、その世界観に近い音を国内で録ろうとしますね。そういうイメージの基本はあります。」

 

-プリプロの作業ではどのような機材を使ったんですか?

久石:
「AKAI S3000XLなどのサンプラーを5台使いました。これらはほとんど弦と管の音で使いましたね。サンプラー1台で2音色くらいしか使わないようにして、オーケストラを入れないでも十分なクオリティのものが、プリプロの段階でできたんです。でも、それらの弦の音は全部生のオーケストラと入れ替わりました。生き残ったのは特殊な音だけですね。」

 

-結局は生オーケストラに替わってしまったという一番の理由は何だったんでしょうか?

久石:
「やっぱり、ニュアンスやアーティキュレーションですね。最後にオーケストラを録ってみたら、やっぱりオーケストラの方が圧倒的に良かった。シンセではやはり限界があります。サンプリングを人との会話にたとえると、”同じ顔でずっと話す”ということなんです。やはり、表情が変わらない顔では会話に無理がある。何も生だけが最高だと言っているわけではなくて、サンプリングにはサンプリングの良さがある。ただ、今回のオーケストラ・サウンドに関してはやはり、生にかなわない。弦のピチカートなどはサンプリングだと安定しててきれいなんですけどね。」

 

-ほかにどんな機材を使っているんですか?

久石:
「YAMAHA VP1を使いました。最近は一番好きな楽器ですね。前面には出てこないけど、このアルバムでは隠し味としていろいろな部分で使っているんです。VP1は、まず音が太くてクオリティが高い。そして、普通のシンセ特有のプリセットのピアノとか弦のような音が入っていないところがいいですね。それで、かえって個性が出てくる。あとシシ神の森というのが映画に出てくるんですけど、その場面ではちょっと特殊な響きがほしかったんです。それで生の弦と、以前に自分で作った”環境ループ”と名付けている音を混ぜました。そこでもっと神秘性が出ましたね。」

 

-環境ループ!

久石:
「耳につくようなしっかりしたメロディがあるわけではないけど、それが流れているかないかでは大違いという音なんです。空間を広げるようなスーっと鳴っている感じです。簡単に言うと、ブライアン・イーノのループ・サウンドのようなものですね。」

 

-ほかに興味がある楽器はありますか?

久石:
「やはり僕はピアノがメインなので、”これしかない”という響きのピアノに出会いたいといつも思ってます。「アシタカとサン」では生ピアノのマイキングに凝って録りました。マイクの位置をミリ単位で変えてみたり、蓋を外したりしていろいろ実験してみたんです。ピアノは譜面台を外すだけでも音は変わりますからね。調律師には”果物が腐る直前のような音”にしてくれと頼みました。ピッチがズレる直前というギリギリの感じですね。」

 

宮崎監督との仕事は倍々返しできつくなる

-主題歌「もののけ姫」を歌っている米良美一さんの歌声も男性にしてはかなり高いですよね。

久石:
「宮崎監督も初めラジオで聴いてびっくりしたそうです。この映画には二重性のようなものもストーリーに含まれていて、例えば善悪を決めつけない部分などもそうなんですが、そういう二重性を米良さんの声にも感じるんです。だから、この映画にはぴったりの声ですね。」

 

-全体の仕上りに関してはどうですか?

久石:
「すごく満足しています。宮崎さんとの仕事は6作目になるんですが、慣れてくるというよりも、倍々返しにきつくなっていくんです。同じ手は使えないですからね。だから、きついけど初心に返ったようなつもりで作業できました。しかも宮崎さんとそうとう深い部分でコミュニケーションできたんです。それが収穫でしたね。今回はストレートな音楽表現は、極力抑えたんです。普通、戦闘シーンなんかは派手に音を使いますよね。だけど、そういうところは抑えて、戦いが終わったあとに心が痛んでいるところに音楽を付けるようにしたんです。結果的にこの方法は成功しましたね。そういう意味で全然悔いはないし、これでだめだったら仕方ないと思えますよ。ミックス・ダウンは最終的に十何日間もかけました。これは一部の劇場ではデジタル6チャンネルで再生されるんです。レフト、センター、ライト、後方のレフトとライト、そしてスーパー・ウーファーなんですが、ハリウッドと違って、日本ではほとんどこの分野のノウハウがない。観客の入り方によっても音は変わるので、音を決めるのには苦労しましたね。」

 

-今後の予定は?

久石:
「北野武さんの新作映画のサントラをちょうど仕上げました。8月中旬にはロンドン・フィルハーモニーと僕のピアノでソロ・アルバムを作ります。これは10月15日の発売予定です。9月は台湾でコンサートをやって、10月はツアーをやります。」

 

(「キーボード・マガジン Keyboard magazine 1997年9月号」より)

 

 

Related page:

 

 

 

Blog. 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2017」 コンサート・レポート 【11/10 Update!!】

Posted on 2017/08/23

8月2日から8月16日まで国内5都市と韓国ソウルを廻る「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2017」コンサートツアー。2014年から2016年までの「鎮魂3部作」テーマが完結し今年は。久石譲による新作書き下ろし初演をふくむAとBふたつのプログラムを引きさげ壮大なスケールで各地を魅了しました。宮崎駿監督作品の楽曲を交響組曲にするプロジェクトは第3弾「交響組曲 天空の城ラピュタ」、さらに「オーケストラストーリーズ となりのトトロ」も披露するなど、今年のW.D.O.も出し惜しみなしの熱い夏。

 

 

2017.11.10 追記
スカパー!放送後、レビューを追記しました。主に交響組曲「天空の城ラピュタ」の構成についてです。文末に記しています。(BSスカパーは11/11放送です)

追記へジャンプ

 

 

まずは演奏プログラム・アンコールのセットリストから。

 

久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2017
Joe Hisaishi & World Dream Orchestra 2017

[公演期間]  
2017/08/02 – 2017/08/16

[公演回数]
7公演
8/2 広島・上野学園ホール A
8/3 大阪・フェスティバルホール A
8/4 神奈川・ミューザ川崎シンフォニーホール B
8/6 福岡・アルモニーサンク北九州ソレイユホール B
8/8 韓国 ソウル・ロッテ コンサートホール B
8/9 韓国 ソウル・ロッテ コンサートホール A
8/16 東京・東京国際フォーラム ホールA A

[編成]
指揮・ピアノ:久石譲
管弦楽:新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ

B オーケストラストーリーズ「となりのトトロ」ナレーター
養老孟司(解剖学者)(神奈川)
鈴木敏夫(スタジオジブリ・プロデューサー)(福岡)
藤井美菜(女優)(ソウル)

[曲目]
【Program A】 All Music by Joe Hisaishi
TRI-AD for Large Orchestra

ASIAN SYMPHONY
1. Dawn of Asia
2. Hurly-Burly
3. Monkey Forest
4. Absolution
5. Asian Crisis

—-intermission—-

【mládí】for Piano and Strings
Summer
HANA-BI
Kids Return

交響組曲「天空の城ラピュタ」
Original Orchestration by Joe Hisaishi
Orchestration by Chad Cannon

【Program B】 All Music by Joe Hisaishi
TRI-AD for Large Orchestra

Deep Ocean
1. the deep ocean
2. mystic zone
3. trieste
4. radiation
5. evolution
6. accession
7. the origin of life
8. the deep ocean again
9. innumerable stars in the ocean

—-intermission—-

【Hope】for Piano and Strings
View of Silence
Two of Us
Asian Dream Song

オーケストラストーリーズ「となりのトトロ」

—-encore—-
Dream More (大阪・韓国A・東京)
World Dreams

 

 

さて、個人的な感想はひとまず置いておいて、会場にて販売された公式パンフレットより紐解いていきます。

 

 

W.D.O.の夏がきた

W.D.O.の夏がきました。今年のテーマはエンターテインメントです。2014年から始まった鎮魂3部作が去年の「THE EAST LAND SYMPHONY」をもって完結し(いや、心情としては続いていますが)次は楽しいコンサートにしたいと思ったわけです。

前半はミニマル・ミュージック(僕のライフワークです)をベースにした楽曲ですが楽しめるものを、後半は最近あまり演奏していなかった曲を含めてメロディー中心の楽曲を選びました。

また弾き振り(ピアノを弾きながら指揮もする)もおこないます。これは昨年の大阪ジルベスターコンサートで初めて実践し、今年もチェコのプラハ等で好評だったのでW.D.O.としても初めて試みます。ちなみに今までは指揮の合間にピアノを弾いていたのですが今回はピアノの合間に指揮をする? ややこしいですね、その違いをぜひご覧ください。以下は各楽曲についての一口コメントです。

A・Bプロ共通の「TRI-AD」は3和音を基本コンセプトにした祝典序曲です。金管楽器のファンファーレは幾十にも重なって微妙なハーモニーを作り出します。とにかく元気な楽曲です。タイトルの「TRI-AD」は3和音という意味です。

「ASIAN SYMPHONY」は2006年におこなったアジアツアーのときに初演した「アジア組曲」をもとに再構成したものです。新たに2017年公開の映画『花戦さ』のために書いた楽曲を加えて、全5楽章からなる約28分の作品になりました。一言でいうと「メロディアスなミニマル」ということになります。作曲時の上昇カーブを描くアジアのエネルギーへの憧れとロマンは、今回のリコンポーズで多少シリアスな現実として生まれ変わりました。その辺りは意図的ではないのですが、リアルな社会とリンクしています。

「Deep Ocean」は同名のNHKドキュメンタリー番組のために書いた曲をコンサート楽曲として加筆、再構成したものです。去年の大阪ジルベスターコンサートで初演しましたが、今年の夏に最終シリーズとしてオンエアーされる楽曲を新たに加えてリニューアルしています。ミニマル特有の長尺ではないので聴きやすいと思いますし、ピアノ2台を使った新しい響きをお楽しみください。

弾き振りの「HOPE」はフィギュアスケートの羽生結弦さんが昨シーズンの演目で採用していた楽曲が2曲含まれています。また「mládí」は北野武監督映画に作った楽曲を構成したものです。チェコ語で青春という意味でヤナーチェクにも同名のタイトル曲があります。

オーケストラストーリーズ「となりのトトロ」の目玉はナレーターです。僕が最も敬愛する養老孟司先生、ジブリの鈴木敏夫さん、それに若手の藤井美菜さんというなんとも豪華な顔ぶれです。同じ楽曲がナレーターによって別の世界が生まれる。個人的には一番楽しみなコーナーです。

最後に「天空の城ラピュタ」について。先日高畑勲監督と『かぐや姫の物語』の上映前にトークイベントをおこなったのですが、このラピュタについての話題がもっとも長かった。それだけ思い入れがあったわけです。考えてみれば宮崎監督、高畑勲プロデューサーという両巨匠に挟まれてナウシカ、ラピュタを作っていたわけですから、今考えれば恐ろしいことです。

今回すべてのラピュタに関する楽曲を聴き直し、スコアももう一度見直して、交響組曲にふさわしい楽曲を選んで構成しました。約28分の組曲ができました。

以上、長くなりましたが、楽しいコンサートになれば幸いです。そしてコンサート会場を出たあと、満面の笑顔があらんことを。

久石譲

(「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2017」コンサート・パンフレット より)

 

 

 

さて、久石譲本人による楽曲解説で充分にコンサートの雰囲気は伝わると思います。補足程度に感想や参考作品、アンコールもまじえてご紹介していきます。いや、とことん長い!はりきっていきましょう。今回はBlog.とOvertone.のはざまのテンションで書き進めていきます。(Blog.は「久石譲、私」、Overtone.は「久石さん、僕」、文章の書き方やくずし方など微々たる線引きがあったりします。)

 

各会場特設販売コーナー、今年は久石譲最新ソロアルバム「ミニマリズム3」とパンフレットのセット販売ということで、いつもCDを手にとらない人も聴くきっかけになったかもしれませんね。ファンのなかには、先にCDを買っていて2枚になっちゃったという人も!?(はい、僕もその一人です)。そんな人は、久石譲音楽を聴いてほしい人にCD1枚プレゼントしてはいかがでしょうか♪

 

 

 

TRI-AD for Large Orchestra 【A / B】
全公演でオープニングを飾った曲です。「トライアド」と読みます。”3和音を基本コンセプトにした祝典序曲”とあるとおりとても華やか幕開けにふさわしい快活な管楽器の咆哮が印象的です。最新CD作品「Minima_Rhythm III ミニマリズム3」にもレコーディング音源初収録されています。演奏しているのは本公演と同じ新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラです。フル・オーケストラの魅力がつまったこの作品は、これから始まるオーケストラ・イントロダクションとしても期待を高める圧巻の響きと臨場感。CDやコンサートで聴けば聴くほど、いろいろな音が新しく顔を出してくるおもしろさ。ぜひいつの日かスコアを眺めながら聴き楽しみたい作品です。読めません、でも耳では聴こえてこなかった楽器やパートを総譜で追いながら耳をすませる。そんな至福の音楽時間です。

「TR-AD」のもう少し詳しい久石譲解説、また2016年長野初演から計4-5回コンサートで聴いてきた立体音空間(音がまわる・音がうねる)、オーケストラ楽器配置(対向配置)の魅力など感想も一緒に下記CD作品ページにて記しています。ぜひ最新の久石譲を感じとってください。

 

 

ASIAN SYMPHONY 【A】
1. Dawn of Asia / 2. Hurly-Burly / 3. Monkey Forest / 4. Absolution / 5. Asian Crisis
2006年初演から長い沈黙をまもってきた大作、ついにその封印が解けた瞬間でした。久石譲解説に「メロディアスなミニマル」とあります。当時の言葉を補足引用すると「僕の作曲家としての原点はミニマルであり、一方で僕を有名にしてくれた映画音楽では叙情的なメロディー作家であることを基本にした。ただそのいずれも決して新しい方法論ではない。全く別物の両者を融合することで、本当の意味でも久石独自の音楽を確立できると思う。ミニマル的な、わずか数小節の短いフレーズの中で、人の心を捉える旋律を表現できないか…」(「Asian X.T.C.」CDライナーノーツより)、久石譲が現代の作曲家として強い意志をもって創作した作品「アジア組曲」改め「ASIAN SYMPHONY」です。

めまぐるしいアジアの成長と魅惑を時代の風でかたちにした2006年版「アジア組曲」、それはまさに天井知らずのエネルギーの放出であり同時に先進国が辿ってきた発展後にある危機(Crisis)を警鐘したものとなっていました。それから11年、現代社会におけるアジア、世界におけるアジアは、今私たちがそれぞれ感じとっているすぐ隣にある現実です。

久石譲が「ASIAN SYMPHONY」への進化でリコンポーズしたもの。既出4楽曲は大きな音楽構成の変化はありません。それでも当時の「アジア組曲」の印象とは変わった空気を感じる。溢れ出るエネルギーのなかに無機質な表情で鼓動する怒涛のパーカッション群、パンチの効いた鋭利な管楽器群。躍動的で快活なのに決して手放しで笑ってはいない。そんなシリアスな変化を感じとったような気がします。

そしてもうひとつ注目すべきは、映画『花戦さ』のために書かれた音楽から「4. Absolution」として組み込まれた楽曲。映画サウンドトラック盤では「赦し」(Track-21)として収録されています。そっと手をさしのべられるような、言葉少なにそっと寄り添ってくれるような、慈愛に包まれた楽曲。悠々と感情たっぷりに歌うのではなく、弦楽の弦のすすりが聴こえる涙腺の解放。”罪を赦す”というように、過去の過ちをも包みこみ苦しまなくていい安らかな気持ちで生きていきなさい、そんな意味あいになるのかなあと思います。”相手を赦す・自らを赦す”、そして前向きに未来へ歩んでいく。映画音楽のために書き下ろされた、誤解をおそれずにいえば「エンターテインメントのための楽曲」がこうして「久石譲オリジナル作品の一部」として組み込まれる。これはこれまでにはなかったことで、とても重要なポイントなのかもしれません。それだけに「4. Absolution / 赦し」という楽曲に対する久石譲の納得と確信すら感じます。見方をかえれば、映画音楽の一楽曲としては時とともに流れてしまう可能性のあるものが、オリジナル作品の一楽章として新しい命を吹きまれた、そして未来へとつながっていくもうひとつの機会を得ることのできた楽曲。そう思いめぐらてみるとこの楽曲が加えられたことに深い感慨をおぼえます。

そして、赦しのあとの警鐘。同じ過ちをくり返す危機(Crisis)、今までになかった新しい危機(Crisis)。そんな現実を僕たちは力強く生きていかなければいけない。久石さんは、当時のインタビューで「危機(Crisis)の中の希望」というフレーズを口にしています。危機を警鐘するだけではない、その中から希望をつかんで切り拓いていく、そんなエネルギーを強く打ち響かせる作品です。

壮大な大作「ASIAN SYMPHONY」の「アジア組曲」からの変遷は、時系列でまとめていますので、ぜひ紐解いてみてください。どんな音楽が気になった人はCD作品「Asian X.T.C.」でアンサンブル版を聴いてみてください。2016年「THE EAST LAND SYMPHONY」につづき2017年「ASIAN SYMPHONY」。こうやって久石さんの”シンフォニー”がひとつでも多く着実に結晶化している喜びをひしひしとかみしめながら聴きいっていました。そして1年後には…CD化が実現してくれることを強く願っています。

  • Disc. 久石譲 『アジア組曲 ~ ASIAN SYMPHONY』 *Unreleased

 

久石譲 『 Asian X.T.C.』

 

 

Deep Ocean 【B】
1. the deep ocean / 2. mystic zone / 3. trieste / 4. radiation / 5. evolution / 6. accession / 7. the origin of life / 8. the deep ocean again / 9. innumerable stars in the ocean
2016年から2017年にかけて全3回シリーズで放送される「NHKスペシャル シリーズ ディープオーシャン」のために書き下ろされた楽曲を演奏会用にまとめたものです。2016年大晦日ジルベスターコンサートで事前予告なく初披露されサプライズとなりましたが、今回「3.trieste」「7.the origin of life」が追加され9つの小品からなる作品へと再構成されています。久石譲の最も旬ソリッドなミニマル・ミュージックが堪能できる作品です。

小編成オーケストラとピアノ2台という大掛かりなステージ配置変更をしての演奏は、楽器ひとつひとつの微細な音、普段なかなか見聴きできない打楽器群、特殊奏法による音色のおもしろさ、ミニマル特有のズレをあますことなく体感できる贅沢な音空間です。冒頭から一瞬で神秘的な深海の世界へと誘ってくれます。

気になる追加された2楽曲は、どうもコンサートで初めて聴くような。7月にオンエアされたばかりの第2集からの音楽ではなく、8月にオンエア予定の第3集からのものかもしれません。「3.trieste」は明るく清らかなミニマル音楽だった印象で、「7.the origin of life」は生命の起源にふさわしく音楽の起源バロック音楽まで遡ったような優美な旋律だった印象。第2集はTV放送後何回もリピートしています、たぶん流れていなかったと思います。

その答えは8月27日放送、第3集「超深海 地球最深(フルデプス)への挑戦」(NHK総合21:00)で確認したいと思っています。それまで曲の印象を覚えていられるか心配ですけれども。

エンターテインメント音楽(TV番組メインテーマ)としては贅沢なほどに作り込まれた完成度、楽器編成としても意欲作。久石譲オリジナル作品という位置づけでもまったくおかしくない最新の久石譲がたっぷりつまったメインテーマをはじめ、久石譲独特のミニマル・グルーヴを感じる楽曲群。TVでなんとか耳をすませ、コンサートで臨場感たっぷりに体感し、それでファンとして終われるはずがありません。もしオリジナル・サウンドトラックが発売されたとき、それは久石譲ミニマルアルバムという肩書きでもおかしくない逸品ぞろいです。「これサントラのクオリティ超えてるよね!久石さんのオリジナルアルバムかと思った!」なんて言いたい、そんな日がきっと訪れますように。

久石さん、サントラ出してくれますか? NHKさん、尽力してくれますか? どうかよろしくお願いします!

 

 

【mládí】for Piano and Strings 【A】
Summer / HANA-BI / Kids Return
久石譲弾き振り(ピアノを弾きながら指揮もする)コーナーです。Aプログラムでは北野武監督作品からおなじみのメインテーマをセレクトし久石譲ピアノと弦楽オーケストラによる演奏です。おなじみでありながらここ数年のコンサートでは聴く機会のなかった「HANA-BI」「Kids Return」というプログラムには多くのファンが歓喜したはずです。

「Summer」はピアノとヴァイオリン・ソロの掛け合いがみずみずしく爽やかで、弦楽もピチカートではじけています。きゅっと胸をしめつけられるような思い出の夏、日本の夏の代名詞といえる名曲です。この曲が生演奏で聴けただけで、今年の夏はいいことあった!と夏休みの絵日記に大きなはなまるひとつもらえた、観客へのインパクトと感動は超特大花火級です。

「HANA-BI」は一転して哀愁たっぷりでしっとりななかに内なるパッションを感じる演奏。特に後半はピアノで旋律を弾きながら、低音(左手)で重厚に力強くかけおりる箇所があるのですが、今回それを弦楽低音に委ねることでより一層の奥深さが際立っていたように思います。ピアノも同フレーズ弾いていましたけれど、従来のようなメロディを覆ってしまうほどの激しい低音パッションというよりも、ぐっとこらえたところにある大人の情熱・大人の覚悟のようなものを感じるヴァージョンでした。渋い、貫禄の極み、やられちゃいます。

「Kids Return」は疾走感で一気に駆け抜けます。弦のリズムの刻み方が変わってる、と気づきかっこいいと思っているあっという間に終わってしまいました。そして今回注目したのが中音楽器ヴィオラです。相当がんばってる!このヴァージョンの要だな、なんて思った次第です。ヴァイオリンが高音でリズムを刻んでいるときの重厚で力強い旋律、一転ヴァイオリンが歌っているときの躍動感ある動き、かなり前面に出ていたような印象をうけます。管弦楽版にひけをとらない弦楽版、フルオーケストラ版では主に金管楽器の担っている重厚で高揚感あるパートをストリングス版ではヴィオラが芯を支える柱として君臨していたような、そんな気がします。これはスカパー!放送でじっくり確認してみたいところです。

ピアノとストリングスで3曲コーナーか、なんて安直なこと思ったらいけません。こんなにも楽曲ごとに色彩豊かに表情豊かにそれぞれ異なる世界観を演出してくれる久石譲音楽。メロディは違っても楽器編成が同じだからみんな同じように聴こえる、そんなことの決してない三者三様の巧みな弦楽構成。清く爽やかで、憂い愛のかたち、ひたむき疾走感。それは誰もが歩んできた「mládí」(青春)のフラッシュバックであり、少年期・円熟期・青年期いつまでも青春そのもののようです。

 

【Hope】for Piano and Strings 【B】
View of Silence / Two of Us / Asian Dream Song
約30名の弦楽オーケストラと久石譲ピアノの共演にて。往年の名曲たちが極上の響きとなって観客を陶酔させてしまったプレミアム・プログラムです。あまりにも素晴らすぎて、語ることがありません。

「View of Silence」や「Asian Dream Song」は、「a Wish to the Moon -Joe Hisaishi & 9 cellos 2003 ETUDE&ENCORE TOUR-」の楽曲構成・ピアノパートをベースにしていると思いますが、9人のチェリストから約30人のストリングスへ、豊かな表現と奥ゆかしさで、たっぷりねかせた&たっぷり待ったぶん熟成の味わい。

「Two of Us」は、コンサートマスター(ヴァイオリン)&ソリスト(チェロ)&久石譲(ピアノ)を中心に、バックで弦楽が包みこむ贅沢なひととき。楽曲構成・ピアノパートは「Shoot The Violist ~ヴィオリストを撃て~」収録バージョンに近いと思います。そこに弦楽(ストリングス)が大きく包みこむイメージです。

(【HOPE】レビュー 「ジルベスターコンサート2016 in festival hall」コンサート・レポートより)

 

Bプログラムでの3曲もまた往年ファンにとってはたまらない選曲です。そして2016年フィギュアスケート羽生結弦選手が「Hope&Legacy」というフリープログラムで「View of Silence」と「Asian Dream Song」を採用したことは大きな話題となり一躍注目を浴びました。そんなきっかけで久石譲ファンになった人もいるでしょうし、懐かしい名曲へのスポットライトに感動をおぼえたかつての久石譲ファンも。久石譲ファンが時代を越えてクロスオーバーするエポック的作品になっていくのかもしれません。楽曲としてもファンの広がりとしても、間違いなく過去と現在をつないだ記念碑的な象徴。いい音楽は何度でも甦る、いつでも命をふきかえす、おそらく立ち会えない未来においても、廻りつづける尊いサイクル。そんな音楽のもつ力を肌で感じ、まざまざと証明してみせた名曲です。コンサートではオリジナル・フルサイズをいまの久石譲の音楽構成とピアノによって演奏された、そのことに大きな価値がある、そんな楽曲たちです。

 

【A・B】あわせて「for piano and Strings」について。近年のコンサートを振り返ると「ジルベスターコンサート2016」から初の試みとなり観客の反応と久石譲の手応えでW.D.O.としてもプログラミングされたコーナー。フルオーケストラコンサートのなかに久石譲ピアノ+弦楽オーケストラ、バラエティ豊かというより、それは音世界のコントラスト変化を感じとることができる至福のときです。一気に会場の空気がかわる。管弦楽と弦楽でこんなにもオーケストラってかわるんだと観客はひとつのコンサートで二度得したような気分に陶酔してしまいます。なんとも贅沢なコンサート構成、ぜひこれからもつづいてほしいコーナーです。

【A・B】あわせて久石譲ピアノについて。やっぱりいい、としか言いようがないんです(って、これどこかでも同じ言い回しを使った記憶)。論理で解決できること、それは作曲家自らによる演奏だから。でもそれだけじゃ到底説明することができないなにかがあるんです。特に最近の久石さんの奏でるピアノの音色は円熟味を感じます。とてもやわらかい、凛とたった、ピュアで無邪気な、悟ったような慈しみのある、いくつもの矛盾する表現が浮かびますでもそれが音を多面的につくっている。

プログラムが前後します「となりのトトロ」から「まいご」も「Dream More」もピアノが旋律を奏でます、W.D.O.楽団奏者によるたしかな演奏です。あっ、ピアノの音が鳴っているなと思います。でも、このコーナーでたっぷり聴くことができるピアノや、「天空の城ラピュタ」から「君をのせて」、「風のとおり道」「となりのトトロ」で顔をのぞかせるピアノ、それは仮に目をつぶって聴いていたとしても、久石さんが弾いてるんだとわかる。あっ、久石譲の音が鳴っているなと思います。音を聴くだけで誰が弾いているかわかるピアニスト日本に何人いるんだろう? と僕なんかは思います。そのくらい指揮をする手も音を紡ぎ出す手も、かけがえのない宝物です。同じ時代に生きて同じ空気のなかで聴けてほんとうによかった。

久石譲 『Shoot The Violist〜ヴィオリストを撃て〜』

 

 

交響組曲「天空の城ラピュタ」 【A】
ジブリ交響作品シリーズ第3弾です。どんなイントロで始まるのかなと楽しみにしていました。CD「天空の城ラピュタ シンフォニー編 大樹」から「プロローグ~出会い」をベースとした導入部になっていました。ほかにも「Gran’ma Dola」などがたっぷり聴けました。

ちょっとわかりやすく解説するのが難しいのです。

1.「交響組曲 天空の城ラピュタ」はストーリーの展開に大枠では即したラピュタ音楽のダイジェスト、いやオールハイライトのような贅沢な音楽構成になっています。

2.オーケストラ+シンセサイザーで編成され本編シーン尺にあわせた「サウンドトラック盤」からではなく、オーケストラ編成で音楽作品として制約なしに成立している「シンフォニー編」をベースにしているパートもあります。

3.2002年北米公開に合わせてリコンポーズ、リオーケストレーションされた「天空の城ラピュタ USAヴァージョン・サウンドトラック」からの楽曲やオーケストレーションがふんだんに盛り込まれています。

この大きな3つの土台があり、久石譲解説に「今回すべてのラピュタに関する楽曲を聴き直し、スコアももう一度見直して、交響組曲にふさわしい楽曲を選んで構成しました。約28分の組曲ができました。」という、巨渦に入り乱れ再構築された大迫力のラピュタの世界が姿を現していました。約28分ですか、あっという間だったな。

さて、話を冒頭に戻すと、どんなイントロからはじまるのか楽しみにしていた本作品。シンフォニー編の「プロローグ~出会い」をベースとしながらも、オープニングのクライマックスはUSA盤が踏襲されていました。どういうことかというと…USA盤では「シータが空から降ってきて飛行石が光るその瞬間」に音楽が盛り上がってバーンッ!といくようにオリジナルサントラ盤にはない数小節のタメが加筆されはさまれていますそのヴァージョンを聴くことができて超感動!86年公開ラピュタは飛行石が光る瞬間と音のピークが数秒ずれていますでも数小節をはさむほどの長い秒数ではないそうUSA盤はそこにいくまでの前半のテンポが微妙に速くなっているそして映像と音楽が見事にシンクロする最高潮へ向かうべく計算しつくされたっぷりためた(rit.)高揚感でもってこのバーンッ!とメロディが解き放たれる(息つぎしていない)…ふうっ、トランペットをフィーチャーしたW.D.O.版のクライマックスもこれが継承されています…そうお祭り状態です。

ストーリーを再現しているパートもあるので、たとえばシータを救出するシーンも、音楽ステージを見ているのか劇場スクリーンを見ているのか錯覚するほどありありと目に浮かぶわけです。そしてオリジナルサントラ盤ではオーケストラ+シンセサイザーとなっていたものが、USA盤をベースにしたフルオーケストラで聴ける、そうお祭り状態です。

USA盤は久石譲が加筆・楽曲追加してオーケストレーションも手を加えたラピュタファンにはたまらないCDです。ですが、指揮が久石譲自らによるものじゃないんです。だからちょっと淡白な印象を持っていた僕としては、シンフォニー編+USA盤が継承されフルシャッフル・パワーアップしたラピュタ完全版、久石譲指揮によってコンサートで聴けること、音源化されるであろうことに、「ここに極まる!」このひと言につきます。

はじめて耳にするオーケストレーションももちろん随所にありました。これはもうスカパー!で確認するまでは全貌を語ることができません(覚えている箇所だけしゃべってこの量か、これは大変なことになる)。

 

音楽作品として成立した楽曲で構成されているので、純粋にストーリの展開にそった(曲の長さとしての尺度/曲の順番)ものにはなっていません。だから「交響組曲」なんですね。振り返れば「風の谷のナウシカ」は《交響詩 Symphonic Poem》、「もののけ姫」「天空の城ラピュタ」は《交響組曲 Symphonic Suite》、シリーズ開始前でいうと「となりのトトロ」は《オーケストラストーリーズ》、「かぐや姫の物語」は《交響幻想曲 Symphonic Fantasy》などなど。このあたりの作品ごとの立ち位置というか音楽構成のコンセプトについても、いつか久石さんから聞いてみたいですね。

そうです!大切なことを忘れていました!

「君をのせて」が久石譲ピアノでフルコーラス堪能できます。しっとりとしたピアノをオーケストラが優しく寄り添うイメージ。これはもう抜粋してアンコールピースなど聴ける機会をふやしてほしい、そう思ってやまないラピュタの結晶です。そしてクライマックス「大樹」ダイナミックなオーケストラサウンドへつづいていきます。ここのティンパニもかっこよかった!どっしりと根をおろした鼓動。

回想。

「天空の城ラピュタ」それは僕が久石譲音楽に出会った特別な作品です。9歳くらいの頃、お小遣いを握りしめてはじめて買ったCDが主題歌「君をのせて」のシングルCDです。はやる気持ちで自転車駆けた行き道帰り道、町の小さなCD屋さんの店内、家に帰ってその日ずっとスピーカーの前から離れず何回も聴いていたあの日。ありありと思い起こせます。なんてないCDショップの包装袋までいっとき大切にしまっておいたくらい、おもちゃよりも目を輝かせた子どもの大切な宝物です。

約30年の時をこえて、同じ曲が今こうやって目の前で奏でられている。久石譲という作曲した人自らの指揮とピアノで。ステージから「ここまでがんばって生きてきたね」と言われているような、からだ全体を包みこむ音楽から抱きしめられているような、おおげさかもしれませんがそんなかけがけのない瞬間。ファンサイトのペンネーム「ふらいすとーん」と名乗っています、やっぱりラピュタは順位づけできない選ぶ選択肢を超えたところにある特別な存在です。

僕の話はここまで、ぜひ久石譲ファンのみなさんに、久石譲ファンだからこそ、そんな自分だけのとっておきの久石譲音楽、歩んできた人生をやさしく包んでくれるようなやさしく認めてくれるような、そんな感覚におそわれることができる(日本語がおかしい)久石譲音楽に出会ってほしいなあと思います。コンサートで聴ける日を夢みてほしいなあと思います。

久石譲 『天空の城ラピュタ サウンドトラック』

久石譲 『天空の城ラピュタ シンフォニー編 大樹』

久石譲 『Castle in the sky 天空の城ラピュタ・USAヴァージョン』

 

 

オーケストラストーリーズ「となりのトトロ」 【B】
大人から子供まで楽しめる「となりのトトロ」オーケストラの世界。「さんぽ」ではオーケストラ各楽器紹介をまじえた音楽構成になっていて、はじめて生のオーケストラに触れる子供はきっと好奇心旺盛に身をのり出し体を動かすそんな光景が浮かんできます。この作品版としてCDにもスコアにもなっているので、多くの人に聴かれ演奏され愛されつづけている永遠のスタンダード作品です。

スタジオジブリ作品交響組曲化シリーズとして、第1弾「風の谷のナウシカ」(2015)、第2弾「もののけ姫」(2016)、第3弾「天空の城ラピュタ」(2017)となりました。今回「となりのトトロ」を聴きながら、もうこの作品は交響作品化としても完成しているじゃないか!と改めて納得させられる完成度の高さです。合唱あり、ソプラノあり、多彩な交響作品が新しい輝きで命を吹きこまれていますが、ナレーションありの交響作品というバリエーションとインパクトとしても充分、スタジオジブリ×久石譲のコラボレーションとしてこれだけジブリカラーをおしあげ作品世界の相乗効果その最高峰はない、と言い切れてしまうほどです。

じゃあCD作品「オーケストラストーリーズ となりのトトロ」(2002)のままでいいのか、と言ったらそんなことはないんです。音楽構成は変わっていませんが、オーケストレーションは緻密大胆豊かに変化しているからです。CDを聴く回数が多いせいか、すぐに気づいてしまいます。「五月の村」も軽快なメロディに管楽器の明るいフレーズが呼応し一層のこれからはじまる新しい生活と冒険に胸わくわくさせてくれます。そして今回コンサート後も耳から離れないのが「ネコバス」。あのおなじみのメロディを管楽器が歌っているんですが、その後ろで弦楽が楽しそうにかけ合っています。タラ、ラタタタタタタタ~♪というふうに。あれっ、こんな好奇心くすぐる旋律あったかな?とCDを聴き返すとやっぱりない。ほかにもネコバスの愛らしくもどっしりしたキャラクター、金管楽器の厚みでパワーアップしていたような印象もあったり。

満場一致拍手喝采!圧巻の「となりのトトロ」を聴いて、音楽再構成の必要ない交響作品完成度の高さを感じながら無邪気に音を楽しみストーリーの世界に浸っていました。映画と同じくらい聴き終わったあとにトトロにふれあえた満足感、これはすごいことですね。そして、最新のオーケストレーションでCD盤が届けられる日が待ち遠しいなあとも思いました。いつもなら”久石譲の緻密なオーケストレーションは見事”と言いたいところです、「オーケストラストーリーズ となりのトトロ」は大人も子供もピュアな心になれる”久石譲の童心オーケストレーション”です。絵本ならぬオーケストラによるトトロ読み聴かせタイム。ぐっすり眠れていい夢がみれそうですね。また会いたい、また聴きたい。

久石譲 『オーケストラストーリーズ となりのトトロ』

 

 

—–アンコール—-

Dream More 【大阪・韓国A・東京】
サントリービール「ザ・プレミアム・モルツ マスターズ・ドリーム(Master’s Dream)」のために書き下ろされた楽曲をコンサート用に再構成したフルオーケストラ版です。久石譲のノスタルジックかつ心躍る旋律美に、今の久石譲だとこうなるというソリッドで立体的なオーケストレーション。華やかでつややかな気品をまとった作品です。

直訳すると「もっと夢をみる」(になるのかな?)、本公演が終わって夢見心地の観客へ夢の余韻のプレゼント。はたまた、コンサートでいっぱいのエネルギーをもらった僕たち観客へ、新しい夢を追い求めることへ背中をおしてくれるような。コンサートの前と後で、自分のなかでなにかが変わったそんな変化を感じとれるなら、そのコンサートは一生ものですね。

 

 

World Dreams 【全公演】
久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラのアンセムです。プログラム予定を見ながらこの曲がアンコールかな?とうっすらわかっていても、やっぱり聴いてたちまちうれしい不朽の名曲です。聴けないとしたらその落胆は大きく、これを聴かないとW.D.O.コンサートは終われない、大きな声で「コンサートごちそうさまでした!」と言えないそんな楽曲です。2004年に発足したW.D.O.、ファンのなかにはもう十数回コンサートで聴いた人もいるかもしれません。それでも飽きたという声を聞いたことがない。今年もここに帰ってきた、今年もまた会えた、そんなシンボルとして高らかに悠々と響き流れつづけるW.D.O.と観客のかけ橋です。

久石譲 『WORLD DREAMS』

 

 

 

今年は例年以上にコンサートパンフレットの写真をよく見たような気がします。コンサート後のSNS書きこみでツイッター、インスタグラム、フェイスブックなどパンフレットをコンサートのアイコンとして被写体にしているものが多かったです。ということは、CDもコンサート余韻にひたりながら聴いた人もたくさんいますね。知って楽しむ音楽、聴いて楽しむ音楽。生音で楽しむ音楽、個人空間で楽しむ音楽。音楽の楽しみ方っていろいろあるからこそパーソナルでありコミュニティなんですよね。

今年は例年以上に海外の人を会場で見たような気がします。そりゃあもう日本にいるんだから久石譲のコンサート行かないとバッドだよね!なんてことかもしれませんし、はるばる日本旅行のプランのなかにコンサートを組みこんだ!なんてクールな人もいるかもしれません。ワールドツアーとしては「ジブリコンサート」が2016年パリ公演からスタートしたばかりですが、W.D.O.公演としてもきっと世界各国で待ち望まれているでしょう。中国公演のリベンジもふくめて、久石譲コンサートがもっと世界中で平和に開催されますように!そしてコンサートに行けないけれど待ち焦がれている日本国内・世界中の人へ、久石譲音楽があらゆる機会・メディア・パッケージを通じて響きわたりますように!

 

 

お礼が最後になってしまいました。

W.D.O.2017 特別企画&連動企画としてはじめてファンサイトで参加型イベント「久石譲ファンのためのチャット」「久石譲ファンのためのアンケート」を開催しました。多くの人に参加してもらって充実したものになりました。このファンサイトへ日々数百・数千のアクセスがあったとして、多くの人に見てもらっているうれしさは日々あります。それにくわえて、つながったと実感できるチャットのひと声、アンケートの一票は、その”1”がまた違ったものとして心の底から染みわたる喜びを感じていました。気軽に楽しく参加ご協力してくれた久石譲ファンのひとりひとりに心から感謝します。本当にありがとうございました。

特集「久石譲ファンのためのチャット」「久石譲ファンのためのアンケート」についてはまた近いうちに結果をまとめて書き記したいと思っています。

⇒ ⇒  2017.8.30 追記

 

 

そして10月には「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2017」東京公演の模様が早くもTV放送されるうれしいニュースです。このコンサート・レポートもスカパー!後に追記追記の嵐になるかもしれません(うーん、それも良し悪しかな)。コンサートだけではかなわない気づきや発見がきっとたくさんあると楽しみにしています。こうやって映像として記録に残してくれることも、コンサートの感動再びも、コンサートに行けなかった人のためにも、とてもうれしい収録映像です。音楽はいろんな楽しみ方でどんどん豊かにつながっていきますね。

リアルに共感共鳴できるコンサート数千人規模の感動体験。これが一番大切です。でも、これだけにとどめておくのはもったいないのが久石譲音楽。記録として刻まれ発信されること、それは感動が数千人から数十万人、あるいはボーダレスに数億人規模に届けられる可能性を秘めているということです。いま現在でも日常生活のなかで「2008年武道館コンサート」のDVD映像を見ながら感動し日々のエネルギーや勇気をもらっている人たくさんいます。SNSをみわたせば日本で海外でごくごく日常的パーソナルなワンシーンとして。こんなに素晴らしいたしかな幸せ、稀有な現象ってないですよね。より多くの人がそれぞれの日常においてもっと豊かに久石譲からの感動ギフトにふれる機会にめぐまれますように。

 

 

 

2017.11.10 追記

スカパー!放送にてコンサートの感動ふたたびです。完全ノーカット、アンコール含む完全版で「W.D.O.2017」最終日東京公演の模様が映像美と音響美で甦ります。コンサートではわからなかったこと気づかなかったことも、こうやって多数のカメラによる複数アングルと、多数の収録マイクによる各楽器の鮮明なステレオ音響で、あの日の感動がより深く広く溢れますね。

さて、各楽曲ごとに記したい発見や思いもあるのですが止まらなくなりますので、それはコンサート直後上のレビューに譲りたいと思います。多くのカメラとそのアングルのおかげで、どの楽曲も今演奏している楽器にカメラがよってくれて、まるで視覚的に譜面を見ているようで、目と耳が喜ぶひとときです。

 

交響組曲「天空の城ラピュタ」について

ようやくその全貌をつかむきっかけができましたので、しっかり紐解いていきたいと思います。思っていた以上にほぼ映画本編ストーリーに沿ったパート構成になっていました。おそらくコンサートで聴いたときには、あ、この楽曲はシンフォニー編だな、これはUSA盤だな、と頭の記憶が入り乱れていたので、ストーリーに関係なく音楽的に再構成した度合いが強いのかなと思ってしまっていました。

この傾向から「サウンドトラック盤」を基にして、便宜上パート名もサントラ楽曲名に準ずるかたちで整理しました。そして「サウンドトラック」「シンフォニー編」「USA盤サウンドトラック」それぞれどの楽曲にあたるかを挙げ、交響組曲版の音楽構成・オーケストレーションに近いものに下線をしました。

 

~~~~~~~~~~

ちょっとわかりやすく解説するのが難しいのです。

1.「交響組曲 天空の城ラピュタ」はストーリーの展開に大枠では即したラピュタ音楽のダイジェスト、いやオールハイライトのような贅沢な音楽構成になっています。

2.オーケストラ+シンセサイザーで編成され本編シーン尺にあわせた「サウンドトラック盤」からではなく、オーケストラ編成で音楽作品として制約なしに成立している「シンフォニー編」をベースにしているパートもあります。

3.2002年北米公開に合わせてリコンポーズ、リオーケストレーションされた「天空の城ラピュタ USAヴァージョン・サウンドトラック」からの楽曲やオーケストレーションがふんだんに盛り込まれています。

この大きな3つの土台があり、久石譲解説に「今回すべてのラピュタに関する楽曲を聴き直し、スコアももう一度見直して、交響組曲にふさわしい楽曲を選んで構成しました。約28分の組曲ができました。」という、巨渦に入り乱れ再構築された大迫力のラピュタの世界が姿を現していました。

~~~~~~~~

と、コンサート直後のレビューに記していましたが、その理由と今回改めて整理できた結果を見て、なんとなく伝わっていただけたら幸いです。

 

交響組曲「天空の城ラピュタ」

O:『天空の城ラピュタ サウンドトラック 飛行石の謎』
S:『天空の城ラピュタ シンフォニー編 大樹』
U:『Castle in the Sky ~天空の城ラピュタ・USAヴァージョン・サウンドトラック~』

A. 空から降ってきた少女
O:1.空から降ってきた少女
S:1.プロローグ~出会い ※前半
U:2.The Girl Who Fell from the sky (Main Theme) ※後半

B. 愉快なケンカ(~追跡)
O:3.愉快なケンカ(~追跡)
S:6.大活劇
U:7.A Street Brawl 8.The Chase ※オーケストレーション

C. ゴンドアの思い出
O:4.ゴンドアの思い出
S:4.ゴンドア(母に抱かれて)
U:9.Floating with the Crystal 10. Memories of Gondoa

D. 失意のパズー
O:5.失意のパズー
S:4.ゴンドア(母に抱かれて)
U:12.Disheartened Pazu

E. ロボット兵(復活~救出)
O:6.ロボット兵(復活~救出)
U:13.Robot Soldiers 〜Resurrection – Rescue〜

F. タイガーモス号にて
O:9.タイガーモス号にて
S:2.Gran’ma Dola
U:14.Dola and the Pirates

G. 天空の城ラピュタ
O:12.天空の城ラピュタ ※後半部
S:8.時間(とき)の城
U:18.The Forgotten Robot Soldier

H. 君をのせて
*「サウンドトラック盤」に準ずれば「11.月光の雲海」「13.ラピュタの崩壊 (合唱/杉並児童合唱団)」「14.君をのせて (歌/井上あずみ)」で聴かれるメインテーマ。(USA盤「15. Confessions in the Moonlight」「22. The Destruction of Laputa (Choral Version)」)交響組曲の構成と並べてみたときに、ここは久石譲ピアノをフィーチャーした「君をのせて」交響組曲版スペシャルパート、と、思っています。

I. 天空の城ラピュタ
O:12.天空の城ラピュタ ※前半部
S:5.大いなる伝説
U:23.The Eternal Tree of Life

 

 

 

Related Page:

 

お気軽にコメントやメッセージをお待ちしています。響きはじめの部屋 コンタクトフォーム または 下の”コメントする” からどうぞ♪

最後まで読んでいただきありがとうございます。

 

 

Blog. 「久石譲 presents MUSIC FUTURE Vol.4」 コンサート・レポート

Posted on 2017/10/31

10月24,25日に開催された「久石譲 presents ミュージック・フューチャー Vol.4」コンサートです。2014年から始動した同コンサート・シリーズ(年1回)、今年で4回目を迎えます。

今年も意欲的なプログラムと久石譲新作、初の試みとなる若手作曲家の新作オリジナル作品の公募、選ばれた優秀作品の演奏という、まさに今を走り抜ける現在進行系の音楽たちの響宴です。

 

まずは、コンサート・プログラム(セットリスト)および当日会場にて配布されたコンサート・パンフレットより紐解いていきます。

 

 

久石譲 presents MUSIC FUTURE Vol.4

[公演期間]  
2017/10/24,25

[公演回数]
2公演
東京・よみうり大手町ホール

[編成]
指揮:久石譲、太田弦
チェロ:古川展生
バンドネオン:三浦一馬
管弦楽:フューチャー・オーケストラ、西江辰郎(コンサートマスター)

[曲目]
デヴィット・ラング:pierced (2007) *日本初演
David Lang:pierced *Japanese premiere
(チェロ:古川展生)

『Young Composer’s Competition』優秀作品受賞作
門田和峻:きれぎれ (2017) (10/24)
Kazutaka Monden:Kiregire
(指揮:太田弦)

フィリップ・グラス / 久石譲 編:Two Pages (1968) (10/25)
Philip Glass / Arranged by Joe Hisaishi:Two Pages

—-intermission—-

ガブリエル・プロコフィエフ:弦楽四重奏曲第2番 (2006)
Gabriel Prokofiev:String Quartet No. 2

久石譲:室内交響曲第2番《The Black Fireworks》〜バンドネオンと室内オーケストラのための〜 *世界初演
Joe Hisaishi:The Chamber Symphony No.2 “The Black Fireworks” Concerto for Bandoneon and Chamber Orchestra *world premiere
1. The Black Fireworks
2. Passing Away in the Sky
3. Tango Finale
(バンドネオン:三浦一馬)

 

 

ご挨拶

今年で4回目をむかえるミュージック・フューチャー(MF)は内容を充実させるべく、より深いあるいは衝撃力のある作品を選びました。

例えば、デヴィッド・ラングの《pierced》における執拗にくり返されるリズムとフレーズはまるでストラヴィンスキーの《春の祭典》のように原始的な力を感じさせる一方、強い人間の性、衝動、哀しみといった人間的な感情をも刺激します。フィリップ・グラスの《Two Pages》も加算されていくフレーズ(これも執拗にくり返します)の向こうに人間的な感情の起伏を感じます。それは去年彼の日本でのコンサートで、僕が彼のピアノ曲を演奏したときにも強く感じました。ミニマルはエモーショナルでもいいんだ!そう思ったものです。同時に音楽を変えよう、あるいは新しい音楽に出会いたいという強い信念もこの曲にはあります。このような楽曲が1968年に書かれていたことは奇跡です。そして今でも斬新です。

ガブリエル・プロコフィエフの《弦楽四重奏曲第2番》もクラブシーンの影響を受けながらも祖父譲りの強い音の構成力と感情を揺さぶる強い力があります。そう、今年は「くり返す」ということと「揺さぶられる感情」あるいは「揺れ動く感情」がテーマです。

このお三方とは今年ニューヨークやロンドンで直接お会いしてそれぞれの楽曲へのアドバイスをいただきました。また作曲家どうしの話題はとても刺激的で至福の時間でもありました。

そしてもうひとつ今年の挑戦としては「Young Composer’s Competition」として若い作曲家の作品を公募したことです。期間が短かったにもかかわらず海外を含め約20作品の応募がありました。到着順にすべて番号を振り(年齢、国籍、出身学校などの付加情報に左右されないためです)足本憲治氏と僕で5作品に絞り込み、それを審査員の先生方に採点していただきました。だから選ばれた優秀作品の《きれぎれ》の作曲家が門田和峻さんという名前であることは最近知ったわけです(笑)

またこのようなコンペでは作曲関係者が審査員を務めるケースが多いのですが、MFでは映画監督の高畑勲氏、作家の島田雅彦氏のように異分野の先達に審査をお願いしました。もちろん音楽にも詳しい方々です。これは作曲関係者のごく狭い世界だけで完結するのではなく、広く創作に関わるアーティストの目を通すことで、観客との接点を大切にしたいという思惑です。もちろん日本を代表する作曲家西村朗氏と音楽評論家の小沼純一氏にも加わっていただき、たくさんの助言をいただきました。諸先生方には心より感謝いたします。

さて、今年のMF 多少の忍耐はいると思いますが、聴き終わって何かを感じていただければ幸いです。

久石譲

 

 

PROGRAM NOTES

デヴィッド・ラング (1957-)
pierced 約15分
《pierced》はチェロ、パーカッション、ピアノのリアル・クワイエット(Real Quiet)というアンサンブルと弦楽合奏のための協奏曲として委嘱された。伝統的なスタイルにならないよう、ソリストと弦楽合奏が関連性を持つよう工夫した。両者間にある正反対な性格はいいアイデアだと思ったが、伝統的な協奏曲スタイルによくあるソリストがオーケストラと戦うような競い合いは避けたかった。私が思いついたアイデアは、両者を隔てる透明な布のような壁があり、各々の世界にあるすべての音・音符・調がしばしば自由にその壁を行き来し、音が片方から他方へ移動するときに、演奏家たちを分ける布が穴を開けられたり、切り裂かれたりすることだった。

初演は2007年6月12日にリアル・クワイエットとミュンヘン室内管弦楽団、クリストフ・アルフテッドの指揮。ソロ弦楽バージョンはリアル・クワイエットとフラックス・カルテット、アラン・ピアソン指揮によって初演された。

作曲者によるプログラムノートより

 

フィリップ・グラス (1937-)
Two Pages 約16分
調性のないリズミカルなミニマリズムと《1+1》(1967年フィリップ・グラス・アンサンブルにより初演)に見られる即興形態は、グラスに単旋律の主要構想をもたらし、彼の最初のミニマル作品として《Two Pages》は完成するに至った。最初の主題に音を足したり引いたりすることでメロディが伸び縮みし、曲全体の輪郭が作られていく。曲の構造を圧縮して表現できるシステマチックな乗数を用いた省略法で記譜した初の曲として《Two Pages(2つのページ)》というタイトルが付けられた。

参考文献:『フィリップ・グラス自伝 音楽のない言葉』ほか

 

ガブリエル・プロコフィエフ (1975-)
弦楽四重奏曲第2番 約17分
《弦楽四重奏曲第2番》はガブリエルの作曲形式の雄大さが顕著に表れている。メカニックなテクスチャーやテクノ音楽のエネルギーに多いに影響を受け、かの有名な作曲家である祖父のセルゲイ・プロコフィエフとは対照的な作曲形式である。

ガブリエルはあるインタビューの中で、「《第2番》のカルテットは《第1番》の残り香から始まった。より迫力があり、リズミカルでエッジが効いていてメロディックだ。《第1番》で引用したダンスミュージック(テクノ、ハウス、ヒップホップ)をさらに掘り下げたいと思った。目まぐるしく動くヨーロッパの大都会で生きるスピード感を与えたかった。」と語っている。

《弦楽四重奏曲第2番》は2006年、エリシアン・カルテットによって委嘱された作品で、《第1番》を初演した彼らによって、この《第2番》も引き続き初演された。

 

久石譲 (1950-)
室内交響曲第2番《The Black Fireworks》
~バンドネオンと室内オーケストラのための~ 約24分
バンドネオンでミニマル!というアイデアが浮かんだのは去年のMFで三浦くんと会ったときだった。ただコンチェルトのようにソロ楽器とオーケストラが対峙するようなものではなく、今僕が行っているSingle Trackという方法で一体化した音楽を目指した。Single Trackは鉄道用語で単線ということですが、僕は単旋律の音楽、あるいは線の音楽という意味で使っています。

普通ミニマル・ミュージックは2つ以上のフレーズが重なったりズレたりすることで成立しますが、ここでは一つのフレーズ自体でズレや変化を表現します。その単旋律のいくつかの音が低音や高音に配置されることでまるでフーガのように別の旋律が聞こえてくる。またその単旋律のある音がエコーのように伸びる(あるいは刻む)ことで和音感を補っていますが、あくまで音の発音時は同じ音です(オクターヴの違いはありますが)。第3曲の「Tango Finale」では、初めて縦に別の音(和音)が出てきますが、これも単旋律をグループ化して一定の法則で割り出したものです。

そういえばグラスさんの《Two Pages》は究極のSingle Trackでもあります。この曲から50年を経た今、新しい現代のSingle Trackとして自作と同曲を同時に演奏することに拘ったのはそのためかもしれません。

全3曲約24分の楽曲はすべてこのSingle Trackの方法で作られています。そのため《室内交響曲第2番》というタイトルにしてはとてもインティメートな世界です。

また副題の《The Black Fireworks》は、今年の8月福島で中高校生を対象にしたサマースクール(秋元康氏プロデュース)で「曲を作ろう」という課題の中で作詞の候補としてある生徒が口にした言葉です。その少年は「白い花火の後に黒い花火が上がってかき消す」というようなことを言っていました。その言葉がずっと心に残り、光と闇、孤独と狂気、生と死など人間がいつか辿り着くであろう彼岸を連想させ、タイトルとして採用しました。その少年がいつの日かこの楽曲を聴いてくれるといいのですが。

久石譲

(「ミュージック・フューチャー Vol.4」コンサート・パンフレット より)

 

Message for MUSIC FUTURE vol.4

夕食時、私の音楽が日本で演奏されることを家族に話しました。23歳、21歳、18歳の3人の子どもたちがいつも歌うのは大好きな久石譲さんのメロディ。それは美しくてとても幸せな瞬間です。今日のコンサートで私の曲が久石さんの指揮で演奏されるのを光栄に思います。ありがとう。皆さんに楽しんでもらえますように。

-デヴィッド・ラング

《弦楽四重奏曲第2番》はエッジの効いたリズムによって構成されています。エレクトロニックダンスミュージック(テクノ、ハウス、ヒップホップなど)からインスピレーションを得たほか、ヨーロッパの都市が急速に動いていることにも影響されています。現代的でありながらクラシックな方法でレイヤーを重ねています。

-ガブリエル・プロコフィエフ

(「ミュージック・フューチャー Vol.4」コンサート・パンフレット より)

 

注)
「きれぎれ」作曲者によるプログラムノート、および審査員評もパンフレットに掲載されていますが割愛しています。こちらでご覧いただけます。

受賞結果の詳細はこちら>>>
https://joehisaishi-concert.com/competition/

 

 

 

以上、ここまでがコンサート・パンフレットからの内容になります。

 

ここからは、感想をふくめた個人的コンサート・レポートです。

 

パンフレットの久石譲挨拶に「より深いあるいは衝撃力のある作品」、「”くり返す”ということと”揺さぶられる感情”あるいは”揺れ動く感情”がテーマ」とあるとおり、とてもディープで刺激的な作品たちばかりです。それでいて無機質ではないパッションやエモーショナルな躍動を感じる。10分以上にも及ぶくり返しが奏されたとしてもまったく飽きを感じることのない、どんどん引き寄せられていく感覚。それはおそらく作品の持っている力もあるでしょうし、今この場で生身の人間が演奏しているという生きた音楽を肌で感じることができたからかもしれません。

デヴィッド・ラング「pierced」のチェロの力強いフレーズと弦楽合奏やパーカッションが創り出す独特な世界観にはただただ圧倒されるばかり。覚醒的で揺れ溺れる危険なグルーヴ感。フィリップ・グラス「Two Pages」はエレクトリック・オルガンと木管四重奏、マリンバという編成。久石譲編となっていたのはこの編成によるところもあるのかもしれません。というのも、この作品いろいろな編成で演奏されることの多いようで、ピアノ2台(もしくは連弾形式)、バンド編成(ベースやギターなどさながらロックバンドのような)、あるいはマリンバ。いかなる楽器にも置換可能でありながら作品世界観を失わない究極のミニマル(最小)音楽とも言えるのかもしれません。久石譲編のそれは、オルガンと木管が不思議なほど溶け合い、ユニゾンを奏でる楽器が集まってひとつの音・旋律になり、なんともいえない揺らぐ音色の変化。ガブリエル・プロコフィエフ「弦楽四重奏曲第2番」は、コンサートマスター西江辰郎さんのヴァイオリン、体全体を使って大きなアクションでフレーズを体現するその姿や、弦楽四重奏の一糸乱れぬ合奏とリズム。

こんなにもクオリティの高い演奏を生で聴くこと目で見ること肌で感じることができるだけで幸せな時間です。まったく音楽専門知識がないなかで、作品のなにがすごいのかどこが聴きどころなのか、そんなことは正直わかっていません。作品や演奏から浴びせられる半分くらいも受け取れていないのかもしれませんが、新しい体験をしたという自信、これまでにはなかったものに出会えたという感動はしっかりとあります。

今回特に強く感じたのは「むきだしの音・むきだしの音楽」という感覚です。血がどくどくと脈うっているような音楽、生身の音楽。もしCD盤など録音されたものだけを聴いていたら、いくぶん耳に馴染まない音楽で終わっていたかもしれません。あるいは執拗なくり返しに飽きる。ちょっとした先入観やイメージで拒絶するのが「食わず嫌い」だとしたら、まさにミュージック・フューチャーで聴くことのできる音楽たちは「聴かず嫌い」をはらんだ濃い作品たちです。だからこそ、どれだけ言葉をならべても実際に生で聴かないと感じることのできないなにかがあります。

たとえば、フル・オーケストラ・コンサートであればその壮大な響きに大きく包まれ感動します。この小ホールで開催されどの作品も4人、7人、約15~20人という小編成アンサンブルおよび小編成オーケストラで構成されるコンサート。奏者一人一人の息づかいや鼓動がダイレクトに伝わる生身の演奏、生々しいほどのリアルな音楽と最高品質の演奏。畑に入って採れたての野菜をその場でかじる格別の美味しさと同じように、楽器そのものの音や今発せられたばかりの新鮮な音色と会場いっぱいに広がる響き。そんな贅沢な音楽空間こそこのミュージック・フューチャー・コンサートです。

 

 

1曲目「pierced」演奏後、ステージのセットチェンジの時間を使って久石譲MCがありました。一問一答形式インタビュー形式によるものです。主にパンフレットに書かれている各作品解説で10分もなかったかな5分くらいでしょうか。デヴィッド・ラングは今一番注目している作曲家であること、「Two Pages」とは実際に2ページの楽譜でできているということ、ガブリエル・プロコフィエフと会った時のエピソードなど、パンフレットを補完するような貴重な語りを聞くことができました。

そして、自作の新作については、興味深いコメントも。これは自分が勝手にそう思ったそう捉えたということだがとことわったうえで、サマースクールでの生徒の言葉が副題となった「白い花火の後に黒い花火が上がってかき消す」、東日本大震災を経験した彼の発したこの言葉にいろいろと思いずっと心に残っていた、というようなことをおっしゃっていました。また、パンフレットでは約24分となっていますが、おそらく27分くらいあります、とも。サマースクールについては下記インフォメーションも発信していますのでぜひご覧ください。

 

 

さて、久石譲新作「室内交響曲第2番《The Black Fireworks》~バンドネオンと室内オーケストラのための~」について。単旋律の音楽ということで、約27分全3曲一貫した単旋律で構成されています。

単旋律というキーワードを掘り下げたときに、「Single Track Music 1」(吹奏楽版・2014年)「Single Track Music 1」(サクソフォン四重奏と打楽器版・2015年/「Minima_Rhythm II」CD収録)があります。この作品を聴いたときに、なにか新しい挑戦がはじまった布石のような作品かもしれない、と少し時間が経過してから思った記憶があります。このSingle Track(=単旋律の音楽、線の音楽)が久石譲のなかでも大きなテーマのひとつになっていることを今回パンフレットでも感じとることができました。

単旋律について多くを語ることができません。なにが醍醐味でなにが組み立ての妙で、という専門的なことがまったくわからないからです。パンフレット久石譲解説と、「Singe Track Music 1」の吹奏楽版久石譲解説、CD作品「ミニマリズム2」評論家による専門的解説の項を読んでいただき、理解を深めていただければ幸いです。

 

今言えること。約27分にも及ぶ長大な単旋律にもかかわらず、決して単調とも単純とも思うことの絶対にない豊かで広がりのある作品。この先どんな展開をしていくのか気になって仕方のないあっという間の時間。単旋律ながら広がり奥ゆき厚みのある立体的な音楽。不思議な迫力です。

三浦一馬さんのバンドネオンも相当な演奏難易度だったと思います。張り詰めた緊張感と真剣なる熱演。久石譲指揮とオーケストラ奏者、ステージ全体が気迫に包まれそのエネルギーだけでも圧倒されてしまうほど。「今自分たちが届けたい音楽はこうだ!」と野心と確信にみなぎったオーラで、それはまさに狂気。

なにか不思議な魅力を感じます。とても個人的な解釈だけでもって言葉にすることを許されるならば。始点と終点がわからない魅力、待ちうける展開の魅力。単旋律ということはハーモニーがない、和声がないということですよね(ここが間違っていると根底から覆される)。どこまでも1本の旋律であり多声の伴奏や対旋律のない音楽。メロディやコード進行がはっきりしているということはその音楽の起承転結がわかりやすいということです。小学校の「起立・礼・着席」をピアノで伴奏することもコード進行のひとつです。全3曲ともにパートが展開しているはずなのですが、どこが始点かどこが終点かわからない。次につながる展開もよめない。フィリップ・グラス「Two Pages」は4-5音からなる基本音型(モチーフ)があってそれが伸縮展開していくわけですが、久石譲作品は単旋律が様々な装いでおり重なっているように聴こえます。実に入りくんでいる、実に難しい、としか言えないのです。

実際に鳴っている楽器や音色はとても緻密で細かく配置され豊かな世界を構築しているのだけれど、別の見方をすると全体を大きく太い線1本で貫かれているような。そして、普段耳にする多くの音楽が複旋律・多声音楽(ポリフォニー)であり、それぞれが独立した旋律をもつことで音楽三要素のメロディ・ハーモニー・リズムがつくられ、メロディと異なる伴奏や対旋律によって奏でられているとしたときに。これはすごい!と思うわけです。単旋律でメロディ(モチーフ)を奏でることはもちろん、分散和音のように音を散らすことやおり重なって交錯する単旋律がハーモニー的響きを錯覚させ、ズレや変化によってグルーヴ感のあるリズムを生み出す。もしあまりにも見当違いな勘違いをしていないのならば、これはすごい!と思うわけです。

こういう音楽って聴き飽きることがないだろうな、とまたすぐにでも聴きたい衝動にかられます。ループのようでありエンドレスのようであり、でも同じところをぐるぐる廻っているわけではなく螺旋のように上昇下降と展開をもった音楽。単旋律って日本固有の響きとしても親和性があるのかなあ、そんなことも頭をかすめたりしますが、今感覚だけで語るのはここまで。ぜひ1年越しにCD化されるならば、そのときにまたしっかり向き合って聴き楽しみたい作品です。

 

さて、三浦一馬さんについて。以前音楽番組で聴いた作品が強く印象に残っています。バンドネオン協奏曲「TANGOS CONCERTANTES」すぐにCDを探したのを覚えています。全3楽章からなる作品でテレビではたしか第3楽章(抜粋もしくは編集)でした。師匠でありバンドネオンの世界的権威でもあるネストル・ マルコーニ作曲とあります。これがすごくかっこいい!バンドネオンとオーケストラによるタンゴでありながら新しい響き。全楽章とおして聴いてみたいと探したのですが、まだ録音はされていないんですね。とても大切な作品なのだろうと思うのですが、いつの日かその全貌を聴いてみたいです。また11月には久石譲が芸術監督を務める長野市芸術館でもリサイタル公演があります。今回のミュージック・フューチャー・コンサートのリハーサル風景も公式Facebookに掲載されていました。ぜひチェックしてみてください。

 

 

コンサート終演後の観客の拍手も鳴り止むことがなく、何度も舞台袖から久石譲はじめ奏者の皆さんが再登場し大盛況で幕をとじました。決してポピュラーでも馴染みのある音楽でもない前衛的・実験的・意欲的なこのようなコンサートで、ここまでの拍手(もちろん満員御礼)って珍しいと思います。それだけに真剣勝負の選曲・演奏に感動し、そんな貴重な時間を提供してくれたことへの感謝と感動の拍手だったのかもしれません。言葉にならない感動、まだ消化できていないなにかを表すこと、それが体全体で表現する拍手しかなかったように。たしかに観客にも忍耐を必要とするプログラムかもしれません。とするなら忍耐を通って得た解放が、あの瞬間ステージとオーディエンスをつないだのだと思います。なにかが伝わった、なにかを受けとった、音楽のもつかけがえのない瞬間です。

コンサート会場には献花もたくさんありました。これから先の久石譲活動をうかがわせるような献花もあるのかなあと、ついつい順を追って見してしまいます。ただ札だけではわからないものもありますからね、なにつながりだろうと。そして、今年vol.4は例年以上に若い観客が多かったようにも思います。もし毎年恒例夏W.D.O.コンサートを聴いて、それとは異なる志向のコンサートがすぐ秋にあるなら行ってみたいと思ったり、いろいろな久石譲を感じとってみたいと思う人がふえているなら、とても素敵なことだと思います。またシリーズが定着し、今年こそはと楽しみにしていた音楽ファンもきっといると思います。

 

同コンサートの様子については、下記Webニュースでも詳しく取り上げられていますので、より音楽的な理解はこちらのほうが最適だと思います。ぜひご覧ください。

 

 

 

最後になんともうれしいサプライズ。コンサートにあわせて会場でのみ先行販売されたのが11月22日発売予定の新譜CD「MUSIC FUTURE II」。昨年2016年開催「久石譲 presents MUSIC FUTURE Vol.3」ライヴ音源化です。なんの予告もなかっただけに会場に着いてのサプライズ、約1ヶ月以上も先行して手に取ることができる喜びです。

さらには「MUSIC FUTURE II」会場購入者の先着特典として、コンサート終演後久石譲によるサイン会参加券付き!久石譲がコンサートにあわせてサイン会を実施するなんてかなり希少です。両日あわせると80-100人以上はサイン会の列を作っていたのでは。終演直後の安堵と疲労のなか、この人数だとかなりの時間も要するなか、そんな機会に恵まれた観客にとってはうれしい記念です。

コンサートで新しい音楽を体感し、同じシリーズである昨年のCD盤をいち早く入手でき、さらにサインや握手までしてもらえた日には。もちろん来年以降、サイン会まで実施してもらえるかはわかりませんが、コンサート・シリーズがつづくかぎり、必ず毎回新しい音楽を受けとることができるミュージック・フューチャーです。なによりも回を重ねしっかりとその足跡を残しつづけていること、音源化され多くの人が聴くことができること、そしてCDとして未来へ手渡していけることが、素晴らしいことだと思います。

 

 

 

”現代(いま)の音楽”を伝える──ナビゲーターでありクリエーターである「久石譲 presents ミュージック・フューチャー」コンサートシリーズ。毎年1回2公演とはいえ、企画からプログラミング、自作創作から入念なリハーサルまで。とてつもないエネルギーと集中力をすでに4年間も続けている。そして観客もしっかり入り刺激的な大盛況でカーテンコール。来年以降も新旧入り乱れたディープな音楽を届けてくれることへ期待が高まります。うまく言えませんが、ミュージック・フューチャー・コンサートそれは「今を生きているんだ」と改めて感じさせてくれるのかもしれません。

 

Related Page:

and