Overtone.第39回 「ジョン・ウィリアムズ・セレブレーション」を聴く

Posted on 2021/03/20

ふらいすとーんです。

映画音楽のレジェンド、ジョン・ウィリアムズです。わりと新しいCD作品から、ジョン・ウィリアムズが到達した偉業の集大成であり、かつ現在進行系でもある、そんなホットなアルバムを紹介します。4回にわたる予定、前回につづいてその2回目になります。

 

前回まで

 

 

ジョン・ウィリアムズ傑作集といえる収録曲たちは、2CDのボリュームです。若手人気指揮者ドゥダメルによって、ゴージャスなサウンドに心躍ります。本盤は、2019年1月コンサートのライヴ録音で、アンコールまで収録した完全盤でのリリース。ジョン・ウィリアムズの代表作を網羅した作品集になっています。

 

 

ジョン・ウィリアムズ・セレブレーション
ドゥダメル/ロサンゼルス・フィルハーモニック(2019)

CELEBRATING JOHN WILLIAMS
LOS ANGELES PHILHARMONIC・GUSTAVO DUDAMEL

CD 1

1. オリンピック・ファンファーレとテーマ
2.『未知との遭遇』から抜粋
3.『ジョーズ』から 鮫狩り/檻の用意!
4.『ハリー・ポッターと賢者の石』から ヘドウィグのテーマ
5.『ハリー・ポッターと秘密の部屋』から 不死鳥フォークス
6.『ハリー・ポッターと賢者の石』から ハリーの不思議な世界
7.『シンドラーのリスト』から テーマ
8.『E.T.』から 地上の冒険
9.『フック』から ネヴァーランドへの旅立ち

CD 2

1.『ジュラシック・パーク』から テーマ
2.『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』から オートバイとオーケストラのスケルツォ
3.『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』から マリオンのテーマ
4.『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』から レイダース・マーチ
5.『SAYURI』から さゆりのテーマ
6.『スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲』から 帝国のマーチ(ダース・ベイダーのテーマ)
7.『スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲』から ヨーダのテーマ
8.『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』から 王座の間とエンドタイトル
9.『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』から アダージョ
10.『スーパーマン』から マーチ

グスターボ・ドゥダメル 指揮
ロサンゼルス・フィルハーモニック

録音:2019年1月24-27日 ウォルト・ディズニー・コンサート・ホール〈ライヴ〉

 

 

曲名を見ただけで、いくつかはメロディが自然に浮かんでくる。いろいろなオススメポイントを書いていきたいところです。でも、その必要はないかもしれません。本盤は、クラシック音楽誌「レコード芸術 2019年5月号」で、堂々とクラシックCD盤たちと並んで紹介されていただけでなく、なんと特選盤にも選ばれました。クラシック音楽界やクラシック音楽専門家から見ても、熱い視線で話題となり太鼓判な一枚として選ばれた、そんな王道作品です。

 

 

特選盤

ドゥダメルは、「ジョン・ウィリアムズは現代のモーツァルトだ」というほど、彼の大ファンなのだという。そのドゥダメルが、ロサンゼルス・フィルとともに、今年87歳を迎えたこの大作曲家の名曲の数々を演奏したアルバムだ。今年1月のライヴ録音だが、3月には東京でも同様のプログラムによる演奏会が行われたので、聴かれた方も多いだろう。ドゥダメルは、ウィリアムズの作品をしばしば取り上げており、2015年末に公開された『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』では、オープニング及びエンディング・テーマの指揮も担当していた。なお、ドゥダメルは2014年にも同様のコンサートを行なっていて、これはブルーレイ/DVDが出ている。作曲者本人やパールマンの出演したそちらも良かったが、曲目の豪華さでは今回の方が上だ。とにかく、スピルバーグ作品を中心に、誰もが知っている名作の、誰もが聴いたことのある名旋律がずらりと並ぶ。あらためて、ジョン・ウィリアムズの業績の桁外れの大きさを実感させられる。近現代のクラシック音楽のさまざまな語法を自由自在に使い、それでいて誰の心も揺さぶる力のある彼の音楽には、どこか魔術的な魅力がある。演奏は非の打ちどころがない。輝かしく澄んだサウンド、シャープで生き生きとしたリズム、そして迫力とスピード感。いわゆるクラシックの指揮者とオーケストラが映画音楽を演奏したアルバムは結構あるが、これはその究極の形だろう。

[録音評]
かなりの大編成による演奏のようであるが、聴こえて来る感じは広いステージのイメージではなく、むしろサウンドトラックのようなスタジオ収録風である。ロス五輪をはじめ、懐かしい名画からの聞き憶えのある曲ばかりだから、自然と頭の中に映像が浮かんでくる。映画館で聞いた迫力ある効果音的な打楽器の重低音や金属音がここでも同じように再現されている。

(「レコード芸術 2019.5月号 Vol.68 No.824」より)

 

 

レコード芸術評をもとに補足です。

2019年1月ロサンゼルス・フィルハーモニック創立100周年記念シーズンのハイライト(2018/2019)としてコンサート開催されました。3月21日、オーケストラもプログラムもそのままに日本公演を果たしています。そのときの「シンドラーのリスト」ヴァイオリン・ソリストは三浦文彰さん。日本公演の模様は、5月5日にTV放送(NHKEテレ)され反響を呼び、時期をおいて再放送もされました。

 

 

21世紀のクラシック ~指揮者~

グスターボ・ドゥダメルは、ロサンゼルス・フィルハーモニックの音楽監督も務め、「ウィーンフィル・ニューイヤーコンサート2017」の指揮も務めるなど、今最も注目されている指揮者の一人です。また、ジョン・アダムズがドゥダメルのために作品を書き下ろしたりと、古典作品だけでなく現代作品にも鋭い感覚をもっています。

ジョン・ウィリアムズとの交流も深く、映画『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』でのOP/ED曲の指揮はジョン・ウィリアムズたっての希望だったというエピソードもあります。そのほか、ディズニー映画『くるみ割り人形と秘密の王国』(作曲:ジェームズ・ニュートン・ハワード)のサウンドトラック録音指揮を務めていたり、エンターテインメントでも活躍の場は広いです。

クラシック音楽も現代作品もこなせる感覚の新しさ。複雑な構成やリズムも得意とするソリッドなアプローチも特徴です。ジョン・ウィリアムズへのリスペクトも強く、本盤でも決してポップスな指揮はしていません。ドゥダメルが選曲したというプログラムは、まるでジョン・ウィリアムズの作品群をひとつの大きな交響曲として構成しているような、そんな意気込みや気概をひしひしと感じます。

 

 

 

久石譲がドゥダメルについて語ったこと。

『音楽する日乗』の「ドゥダメルの演奏会を聴いて」「指揮者のような生活」項にてたっぷり語られています。演奏会で聴いたプログラム感想(マーラー:交響曲第6番、ドヴォルザーク《新世界》ほか)、オーケストラのアプローチ特徴や対向配置のこと、ほか。久石譲指揮や久石譲コンサートにも通じる反映されている、久石譲の指向性がとてもよく伝わってきます。ぜひ手にとってみてください。

 

 

 

21世紀のクラシック ~オーケストラ~

ロサンゼルス・フィルハーモニックは、映画『スター・ウォーズ』シリーズ(1980’s)のサウンドトラック録音を担当するなど、古くから映画音楽やジョン・ウィリアムズ作品ともゆかりのあるオーケストラです。

本盤も、大編成オーケストラです。3管編成、ホルン8、トランペット5など、マーラー作品にも負けないほどの大きさで、ダイナミックに迫ってきます。また、ドゥダメルは対向配置をとっているのも特徴で、ほとんどのクラシック公演でも録音でも、オーケストラは対向配置です。久石譲も対向配置です。

映画音楽名曲集コンサートのような、ポップス・コンサートには決してなっていない。ポップス・オーケストラのように、ドラム・ギター・ベースがリズムを刻むこともありません。純粋なオーケストラの編成で、クラシック音楽と同じように至極の音楽空間が広がっています。

本公演から1曲だけコンサート動画がアップロードされていました。圧巻の大編成!対向配置!パフォーマンス!ぜひ堪能してください。

 

LA Phil & Gustavo Dudamel – Williams: Theme from “Jurassic Park” (Live at Walt Disney Concert Hall)

from ドイツ・グラモフォン公式YouTube

 

 

対向配置の特徴やその魅力については、ここでも少し語っています。もし興味あったらどうぞ。

 

 

21世紀のクラシック ~プログラム I~

ジョン・ウィリアムズの作品を集めるということは、アメリカ音楽史プログラムです。ハリウッド映画=アメリカ(たとえ映画がアメリカを描いていなくても、映画産業の象徴としてのハリウッド)。映画を巡る旅は、音楽を巡る旅であり、アメリカ音楽史を巡る旅にもなります。これまでに、ガーシュウィン「ラプソディ・イン・ブルー」や、バーンスタイン「ウエスト・サイド物語」が演奏会でプログラム定番曲となってきたように、これからは、同じアメリカ人作曲家のジョン・ウィリアムズ作品が、新しいレパートリーとなっていきそうな予感です。

あまりにもキャッチーなメロディは、あまりにもエンターテインメントな盛り上がりかたは、クラシック音楽と並列にはできない、そぐわない。そんな傾向もまだまだ根強い昨今です。でも、モーツァルトだって、誰でも口ずさめるキャッチーなメロディもあれば、清らかで純粋なハーモニーで直球いってる作品もたくさんあります。

本盤の収録曲はすべて、映画公開終了後にジョン・ウィリアムズ自ら演奏会用に編曲したものです。サウンドトラックからそのまま引っ張り出すと、曲の一部しか聴けないとか、フェードアウトして終わるとか、演奏会では披露できない曲もあります。それらを、もっと音楽的に発展させたり、音楽作品として独立できるよう再構成したものです。ジョン・ウィリアムズ作品は、公式スコアが普及しているおかげもあってか、多くの演奏機会に恵まれ定着してきた曲たちです。

 

 

21世紀のクラシック ~プログラム II~

ドゥダメルは、ジョン・ウィリアムズの数ある名曲たちから、ベストアルバム的にプログラムしているわけではありません。《フライング・テーマ》《空への憧れ》《自由への夢》をテーマにおき、『ハリー・ポッター』『E.T.』『フック』『スーパーマン』の飛翔テーマを含めた大きなプログラム構成になっています。

久石譲に置き換えたら。演奏会用に再構成すること、公式スコアとしてかたちに残すことは、並行して行われています。これまでに手がけてきた数多くの映画・TV音楽から、《海》をテーマにプログラムを組むこともできるようになるかもしれません。スタジオジブリ映画・ジブリ交響作品から《フライング・テーマ》を象徴する楽曲たちを選んで、作品を超えてプログラムすることもできるようになるかもしれません。

音楽作品(再構成・スコア)としてきちんと残すということは、未来のクラシックになるためにとても大切なことです。それを今かたちにしている、そんななかに僕らは聴衆として一緒に歩んでいる。そんな気もしてきませんか?

 

 

Out To Sea / The Shark Cage Fugue (From “Jaws” / Live At Walt Disney Concert Hall, Los Angeles / 2019) · Los Angeles Philharmonic · Gustavo Dudamel

from ロサンゼルス・フィルハーモニック LA Phil 公式YouTube

 

ドゥダメルの指揮は、きっちり縦のラインのそろった、ソリッドなリズム表現です。ジョン・ウィリアムズ本人の指揮のほうが横揺れしているかもしれません。それほどに、律儀に正確に忠実に、スコアと向き合い具現化しているアプローチです。

映画『ジョーズ』の音楽といえば、あの恐怖がじわじわと迫ってくるような曲がポピュラーですが、こんな音楽もあったんだと新鮮さのある曲です。バロック音楽のフーガのような精緻な声部が折り重なり、まるで陽気で軽やかな海賊映画のようです。

 

 

ロサンゼルス・フィルハーモニック公式YouTubeには、本盤全19曲の公式音源が公開されています。ライブ音源ながら、スタジオ収録のような引き締まった音像です。CD2枚組のボリュームと練られたプログラム構成は、聴きごたえたっぷりです。

 

Celebrating John Williams (Official Audio) playlist 19 songs

https://www.youtube.com/watch?v=uHWIbM2NGOE&list=OLAK5uy_ll6sgiqDqqf99gUOws2nl–OF3RMPF8nI

 

また、CDライナーノーツのほうは、一曲ごとに充実した楽曲解説になっています。久石譲CD作品でもおなじみ前島秀国さんによる音楽的解説と、映画シーンから見た視点なども盛り込まれ、とても深く紐解いた分析になっています。ぜひ手にとってみてください。

 

 

 

「ジョン・ウィリアムズ・セレブレーション」このアルバムの最大の功績は、ジョン・ウィリアムズ音楽を、21世紀のクラシック作品として花開かせたことだと思います。この第一歩は、やがて未来への大きな布石となっていくだろう、大きな分岐点となっていきそうです。

それではまた。

 

reverb.
昔ジョン・ウィリアムズ ファンクラブにも入会していました♪

 

 

*「Overtone」は直接的には久石譲情報ではないけれど、《関連する・つながる》かもしれない、もっと広い範囲のお話をしたいと、別部屋で掲載しています。Overtone [back number] 

このコーナーでは、もっと気軽にコメントやメッセージをお待ちしています。響きはじめの部屋 コンタクトフォーム または 下の”コメントする” からどうぞ♪

 

Overtone.第38回 「ジョン・ウィリアムズ・プレイズ・スピルバーグ」を聴く

Posted on 2021/02/20

ふらいすとーんです。

映画音楽の巨匠ジョン・ウィリアムズです。2017年、生誕85周年を記念して企画されたディスク「ジョン・ウィリアムズ・プレイズ・スピルバーグ」です。スティーヴン・スピルバーグ監督とのコンビ(43年間の交流と27本の作品)から、選りすぐりの曲をすべて新アレンジ・新スタジオ録音、ジョン・ウィリアムズ自ら指揮したアルバムです。

 

このアルバム、すごくいい!

おすすめしたい理由は2つあります。ひとつは、音がいい。ひとつは、聴き逃していた名曲たちです。収録曲だけ見たなら、なかなか手にとらない一枚かもしれません。自信をもっておすすめします。

 

音がいい

音がいい。サウンドトラック盤よりもダイレクトに解放された音像がそこにはあります。耳が喜ぶ楽器たちの生の音がします。

ハリウッド映画音楽ってフィルターかかってる?!音質が抑制されてる?! そんなことを思うときがあります。マイルドな音像仕上がりといえば聞こえはいいですが、どうも薄い膜が一枚あるような印象を受ける。端的に言えば、楽器そのもののからの音がダイレクトに響かない。ざくざく強く摩擦する弦楽器も、突き抜けて破裂するような金管楽器も、息を吹き込む風圧の木管楽器も。まるでそのままだと粗いからと、少しヤスリをかけたようなまろやかなミキシングになっている。

ジョン・ウィリアムズの手がけた『ハリー・ポッター』や、近年フィナーレを迎えた『スター・ウォーズ』の新作音楽も、そのほか多くのハリウッド超大作に同じような音像を感じていまうときがあります。ずっと鳴りっぱなしのハリウッド映画音楽だから?音も丸くしてる?、、、これはハリウッドでは主流な音響の仕上げ方なのかな? 久石譲音楽や邦画サウンドトラックではあまり感じないことです。

そこへきての本アルバムです。音楽作品として新アレンジ・新録音したというだけでも、期待は高まりますが、一曲目からそのダイレクトな楽器音に感動します。特に、ハリウッド映画音楽といえば、フルオーケストラのなかでも、金管楽器たちの咆哮が魅力です。ファンファーレ的ホーンセクションは定番ものです。ここに収録された楽曲たちは、音楽構成として映像から解放されただけでなく、音像としてもなんの遠慮もいらないほど解放的に響きわたります。

 

聴き逃していた名曲たち

わりと新しめのスピルバーグ作品から選ばれています。それは、スピルバーグ作品集の3枚目にあたるからです。

スピルバーグ×ウィリアムズのコラボレーションによる作品集は、過去2枚リリースされています。本作同様、サウンドトラック盤からのセレクトではない、本人指揮・新録音されたもので、演奏はいずれもボストン・ポップスです。そちらのほうに『ジョーズ』『未知との遭遇』『レイダース』『E.T.』『インディ・ジョーンズ』『ジュラシックパーク』『シンドラーのリスト』等、世界中で大ヒットした映画から収録されています。(『スピルバーグの世界』1991CD/『スピルバーグ・スクリーン・ミュージック・ベスト Williams on Williams』1995CD)

あえて、過去2枚のウィークポイントをあげるとすれば、サントラ盤と変わらない1990年代の音質であり、サントラ盤と変わらない同アレンジで録音だけが新しい。コンサート用に書き直されたものではない。ボストン・ポップスの音でとおして聴きたいファンにはうれしいディスクです。

3枚目に当たる本作は、演奏会用に再構成されたもの、より大胆で自由な多楽章に飛躍したもの、サウンドトラック盤よりも解放された高音質。収録曲だけを眺めてみると、いくぶん馴染みのないラインナップに見えますが、そんな心配を見事に裏切ってくれます。そこには、今も変わらぬ最高に豊かで実りの多いコラボレーションの結晶たちが、自信に満ち輝きながら待っています。

 

 

ジョン・ウィリアムズ・プレイズ・スピルバーグ(2017)

The Spielberg/Williams Collaboration Part III

 

※日本独自企画2枚組
(Blu-spec CD2+DVD)

DISC1(CD)
01. マットの冒険~『インディ・ジョーンズ クリスタル・スカルの王国』(2008)
02. アフリカよ、涙を拭いて~『アミスタッド』(1997)
03. BFG~『BFG:ビッグ・フレンドリー・ジャイアント』(2016)
04. 何人に対しても悪意を抱かず~『リンカーン』(2012)
05. 決闘~『タンタンの冒険 ユニコーン号の秘密』(2011)
06. 新たな始まり~『マイノリティ・リポート』(2002)
ー アルト・サックスとオーケストラのための逃奏曲~『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』(2002)
07. 第1楽章《包囲》
08. 第2楽章《揺れる心》
09. 第3楽章《歓喜の飛翔》
10. マリオンのテーマ~『レイダース 失われたアーク《聖櫃》』(1981)
11. 戦没者への讃歌~『プライベート・ライアン』(1998)
12. 1912年、ダートムア~『戦火の馬』(2011)
13. ヴィクターの物語~『ターミナル』(2004)
14. 平和への祈り~『ミュンヘン』(2005)
15. 移民と建築~『アンフィニッシュト・ジャーニー』(1999)
16. 何人に対しても悪意を抱かず[オルタネイト・ヴァージョン]~『リンカーン』(2012)

1.The Adventures Of Mutt  “Indiana Jones And The Kingdom Of The Crystal Skull”
2.Dry Your Tears, Africa  “Amistrad”
3.The BFG  “The BFG”
4.With Malice Toward None  “Lincoln”
5.The Duel  “The Adventures Of Tintin”
6.A New Beginning  “Minority Report”
7.Escapades For Alto Saxophone And Orchestra Movement 1:Closing In  “Catch Me If You Can”
8.Escapades For Alto Saxophone And Orchestra Movement 2:Reflections  “Catch Me If You Can”
9.Escapades For Alto Saxophone And Orchestra Movement 3:Joy Ride  “Catch Me If You Can”
10.Marion’s Theme  “Raiders Of The Lost Ark”
11.Hymn To The Fallen  “Saving Private Ryan”
12.Dartmoor, 1912  “War Horse”
13.Viktor’s Tale  “The Terminal”
14.Prayer For Peace  “Munich”
15.Immigration And Building  “The Unfinished Journey”
16.With Malice Toward None (Alternate Version)  “Lincoln”

指揮、作曲:ジョン・ウィリアムズ
演奏:レコーディング・アーツ・オーケストラ・オブ・ロサンゼルス
録音:2016年9月~10月

DISC2(DVD)
スペシャル・ドキュメンタリー映像(2016年10月撮影)

スピルバーグとウィリアムズの対談/レコーディング風景
日本語字幕付 approx.24min

 

 

※世界発売4枚組「JOHN WILLIAMS・STEVEN SPIELBERG THE ULTIMATE COLLECTION」(3CD+DVD)から、最新盤のDISC3と日本語字幕付DVDとして発売。DISC1・2は上にも書いた過去作品(1991・1995)です。

 

 

 

公式チャンネルSony Soundtracks VEVO には、本作から3曲ほどセレクトされた公式音源が公開されています。くわえて、DVD収録されているレコーディング風景+インタビューの動画もいくつかの曲でトリミング公開されています。それらをまじえながら。

 

01. マットの冒険~『インディ・ジョーンズ クリスタル・スカルの王国』(2008)

一曲目から音がいい!よく鳴ってる!インディ・ジョーンズのあのメロディがモチーフとして散りばめられて、あらるゆところで顔を出す愉快な一曲。勢いある序曲のような迫力です。

(search for “Indiana Jones and the Kingdom of the Crystal Skull – The Adventures of Mutt (John Williams – 2008)”)

(*以下、くすぐる好奇心すぐに音源聴いてみたい人は、英語曲名で検索すると便利かも、サントラver.も本アルバムver.もヒットしやすくなるかも)

 

02. アフリカよ、涙を拭いて~『アミスタッド』(1997)

いかなるテーマの映画でも、本格的な音楽をつくりあげてしまうジョン・ウィリアムズ。本盤のために編成されたオーケストラ95名と合唱120名はレコーディング風景動画でも見ることできます。この曲を聴きながら、、『ライオン・キング』や南の島を題材にしたディズニー映画なんかをふと思い出し、、そういえばジョン・ウィリアムズってディズニー映画やったことないよね、、たぶん。

John Williams – Dry Your Tears, Afrika from “Amistad” (Pseudo Video)

John Williams – Dry Your Tears, Afrika from “Amistad” (Behind the Scenes)

 

03. BFG~『BFG:ビッグ・フレンドリー・ジャイアント』(2016)

『ハリー・ポッター』にも負けないファンタジー音楽に心躍ります。ストリングスが大きく羽ばたいたり、フルートが自由に駆けまわったり、スリリンズな緊迫シーンもはさみながら、映画本編ダイジェストのような約7分作品に。思わず映画見ました、思わずサウンドトラック聴きました。こんな作品あるなんて知らなかった。

 

04. 何人に対しても悪意を抱かず~『リンカーン』(2012)

サウンドトラックでは2分に満たないメインテーマ、かつ、ストリングス・メインだったもの。新アレンジでは約5分構成、メロディにトランペットをフィーチャーしています。沁みます。アメリカを象徴する音=トランペット、みたいなイメージを築いた感のあるジョン・ウィリアムズ。『JFK』『プライベート・ライアン』の主題曲でも、気高い旋律を悠々と奏するトランペットは、アメリカの誇りすら感じます。またメロディだけを抜き取るとちょっと牧歌的だったりするところも、郷愁感を刺激するのかもしれません。

 

ー アルト・サックスとオーケストラのための逃奏曲~『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』(2002)
07. 第1楽章《包囲》
08. 第2楽章《揺れる心》
09. 第3楽章《歓喜の飛翔》

本作のハイライト約16分の大作です。アルト・サックス、ビブラフォン、ベースにそれぞれゲスト・プレーヤーを迎え、JAZZYで華やかなザ・アメリカンです。フィーチャーされた楽器たちはカデンツァのような独奏パートもふんだんに盛り込まれ、かなりかっこいい、とにかく楽しい作品です。

どうしても聴いてほしい、探しました。公式楽譜もあるということかな、同じ構成で演奏されたコンサートから。アメリカ音楽=『ウエスト・サイド物語』と定着した演目もありますね。この作品は、演奏会に腕利きプレーヤーたちを招集し、新定番のアメリカン・プログラムになっていける作品。そんな未来を感じます。映像でみるとソリストたちの活躍も光ります。聴いてしまったら、アメリカ夢見心地。

John Williams – Catch Me If You Can, conducted by Andrzej Kucybała

 

 

ここで唐突に久石譲。新たにサックスパートが書き加えられた2015年版『The End of the World for Vocalists and Orchestra』 II. Grace of the St. Paul も印象的です。

 

II. Grace of the St. Paul
“楽章名はグラウンド・ゼロに近いセント・ポール教会(9.11発生時、多くの負傷者が担ぎ込まれた)に由来する。冒頭で演奏されるチェロ独奏の痛切な哀歌が中近東風の楽想に発展し、人々の苦しみや祈りを表現していく。このセクションが感情の高まりを見せた後、サクソフォン・ソロが一種のカデンツァのように鳴り響き、ニューヨークの都会を彷彿とさせるジャジーなセクションに移行する。そのセクションで繰り返し聴こえてくる不思議な信号音は、テロ現場やセント・ポール教会に駆けつける緊急車両のサイレンのドップラー効果を表現したものである。”(楽曲解説より)

 

 

10. マリオンのテーマ~『レイダース 失われたアーク《聖櫃》』(1981)

この新アレンジ版は、以降のコンサート定番曲になっていきます。ウィーン・フィルとの世紀の共演(2019)でもプログラムされました。その話はまたいつか。

John Williams – Marion’s Theme from “Raiders of the Lost Ark” (Pseudo Video)

John Williams – Marion’s Theme from “Raiders of the Lost Ark” (Behind the Scenes)

 

11. 戦没者への讃歌~『プライベート・ライアン』(1998)

あっ、ここで出てきた『プライベート・ライアン』。『リンカーン』で話したことです。アメリカを象徴するような音=トランペット、崇高で厳粛な佇まい、胸に手をあてる誇りと気高さ。愛国心と郷愁感を包みこむ旋律。ジョン・ウィリアムズの3大アメリカン・トランペット・メロディ(と勝手に呼んでいる)、一番好きなのは『JFK』です。

John Williams – Hymn to the Fallen from “Saving Private Ryan” (Pseudo Video)

John Williams – Hymn to the Fallen from “Saving Private Ryan” (Behind the Scenes)

from SonySoundtracksVEVO YouTube

 

ほかにも、5.『タンタンの冒険 ユニコーン号の秘密』楽しい冒険音楽とハラハラドキドキ臨場感、13.『ターミナル』クラリネットが自由に跳躍、14.『ミュンヘン』重厚な弦楽が美しい、15.『アンフィニッシュト・ジャーニー』ファンファーレ金管楽器の大活躍。この音楽構成にこの最高音質あり、録音してくれてありがとう!と叫びたくなるアルバムです。

 

 

ジョン・ウィリアムズが語ったこと

■映画音楽の仕事の魅力について

「音楽を書くチャンスを与えられること、かな。もし映画が成功すれば、何万、何百万もの観客がその音楽を聴くことになる。より多くの人が楽しんでくれれば、より大きな喜びになるからね。このことは作曲家にとって今世紀でも新しいことのひとつだ。今世紀初めには千人、2千人だった観客が、今では世界中の人が対象になっているんだ」

■理想的な映画音楽について

「理論でいえば、音楽それ自体がしっかりしたメロディーを持ち、さらに覚えやすい要素を持っているものだろう。言い換えるなら、個性的で覚えやすく、音楽自体が力強いものということになる」と述べており、旋律への配慮の一方で「テクスチュア(構造)やトーンカラー(音色)を考えることはとても重要なこと」とも加える。

(CDライナーノーツより 一部抜粋)

 

 

久石譲がジョン・ウィリアムズ音楽について語ったこと

”「何なに風に書いてください、と頼まれると、すぐお断りしますね。たとえば、ジョン・ウィリアムズ風に勇壮なオーケストラ……じゃジョン・ウィリアムズに頼めば……となっちゃうわけですよ。僕がやることじゃない。余談になりますけど、ジョン・ウィリアムズの曲はどれを聞いても同じだ、という風に良く言われますけど、それはまったくナンセンスな話なんですね。つまり、彼ほど音楽的な教養も、程度も高い人になると、あれ風、これ風に書こうと思えば簡単なんですよ。だけど、あれほどあからさまに『スター・ウォーズ』と『スーパーマン』のテーマが似ちゃうのは、あれが彼の突き詰めたスタイルだから変えられないわけですよ。次元さえ下げればどんなものでも書けるんです。だけど、自分が世界で認知されている音というものは、一つしかないんです。大作であればあるほど、自分を出しきれば出しきるほど、似てくるもんなんです」”

 

深いお話です。これ、1987年のインタビューなんです。当時からいち早くジョン・ウィリアムズの魅力とその本質を見抜いていた! そんな決定的証拠になります。その後も、けっこういろいろな機会に語っています。上に抜粋した同旨を別の言葉でかみくだいていたりと、多角的に発言の真意をつかみやすくなる、とても興味深いです。こちらにまとめています。

 

 

本作録音のあと。

29本目のコラボレーションとなった新作映画『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』(2017)。これがなぜか、今回の流れに反して、サントラ盤の音がいい。鳴りのいいダイレクトな音しています。

実話をもとにしたもので、サウンドトラックも40分ほど、音楽の出番は控えめです。このために編成された76人オーケストラながら、ハリウッドらしい音の厚みもまた控えめです。

CDライナーノーツには、”同音型や律動の反復による劇的緊迫の創出”、”これみよがしな旋律美は差しこまれない”、”実にストイックな仕事”、などというキーワードが並んでいますが、この言葉のピースたちで十分に言い表している、そんな作品です。

 

The Court’s Decision And End Credits (“The Post” Soundtrack)(約11分)

エンドロール楽曲11分と長いですが、これは本編の主要楽曲たちをつなげているからです。アレンジもエンドロール用に書き直されていて、紹介するのにわかりやすい。

4:10~6:00
「ラシドレ」とか「シドレミ」とか、横並びする4つの音が基本音型になっています。このシンプルな音型が強弱や厚みをともないながら緊張感増していきます(4:30~)。音型の間隔がタイトになり、金管楽器も重厚にプラスされます(5:05~)。つかのまクールダウン、木管楽器に音型を引き継ぎ(5:15~)、ダイナミクスの十分なバネで大きく展開ピークを迎えます(5:30~)。

7:10~9:00
なんとも極上サスペンスな極小音型。最初だけ登場するようにみえますが、主役が管楽器に移ってからも後ろにまわり(7:40~)、高音弦楽器が大きなメロディを奏でるときも低音弦楽器で刻みつづけ(7:47~)、大きく開ける展開になっても通奏パターンは保たれ(8:03~)。最後にまた第1主題を再現します(8:45~)。

 

えーっ!ジョン・ウィリアムズでもこんな音楽書くんだ! それでいて、ちゃんとジョン・ウィリアムズしてる! そんなふたつの感想をもってしまう。作家性の垣間見える珍しい立ち位置の楽曲、好きです。クラシック音楽でいえば、ベートーヴェン:交響曲 第5番《運命》第1楽章が「ダダダダーン」のモチーフで構築されているのと同じ手法ですよね。そのピンポイント版というか、手法のひとつを抜き出したわかりやすさみたいなものがあります。

 

 

近年の映画音楽の傾向。

これは個人の解釈です。旋律美のメインテーマとそのバリエーションという方法論は少し影をひそめ、同音型の反復手法やそこからの変化・発展という方法論に、ますますシフトしてきているように感じます。もちろん旋律タイプも音型タイプも昔からあるものですが、その比重やバランスが変わってきているように感じる。

ミニマル・ミュージック主流とも、ポスト・ミニマルとも言わないけれど、明らかにモチーフ主体の音楽構成が増えてきています。『ファンタスティック・ビースト』の映画音楽もそうですし、日本ではまだ少ないかもしれないけれど、海外TVドラマ音楽(欧米・アジア)などでも強く感じます。

少し前までは、この手法がなんちゃってミニマルみたいで、あまり好きではありませでした。とりあえず、通奏低音のように鳴っているBGMや場繋ぎ音楽みたいで。でも、『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』のジョン・ウィリアムズのように、一線を画して本格的につくりあげている人はいるしいたし、この手法をメインとした映画音楽作曲家たちの点在は、若い世代へも着実に増えてきているように思います。

同音型の反復手法やそこからの変化・発展という方法論。言い換えると、モチーフ、小さいメロディ、限られた一つの素材、短い旋律のパターン、これらを変化させること・展開させていくこと。久石譲の映画音楽ではおなじみのことです。いや、むしろ何十年も前からその手法をリードしてきた人のひとりです。久石譲の”幹をつくる”音楽たちが、次の世代の作曲家たちの”花”へとなろうとしているような気がしてきます。そういう視点で、いろいろな国の、いろいろなサウンドトラック盤にふれてみるとおもしろいです。

 

 

話を、音がいい、に戻して。

久石譲さんです。

2001年に指揮者デビューを果たして以降、オリジナルアルバムもサウンドトラックも久石譲指揮によるものが多くを占めています。サントラ音楽であっても、映像のために音質を犠牲にすることはありません。すべての録音でプロデュース、トラックダウンの仕上げまできっちり監修しています。

ここで、条件の近いもの(オーケストラメインの編成・ホール録音)として、『千と千尋の神隠し』を聴いてみます。サウンドトラック盤も交響組曲盤も、どちらも臨場感あるダイナミックな音像が広がっています。

2001年に指揮者デビューを果たして以降、、そう書きました。ここは結構なポイントになりそうです。なぜなら、指揮者久石譲として研ぎ澄まされていくということは、音楽収録にもおのずと反映されてくるからです。そこには、指揮者の耳、指揮台で耳にする音、ダイレクトに録音される。今、聴いている久石譲音楽たちは、指揮台で久石譲が耳にしていたものに限りなく近い音、指揮台で楽器ごとバランスや立体的な音配置を納得した音、指揮者のもとへ集まってくる音圧を感じた音、それをそのままバーチャル体感することができている。そんな言い方もできるかもしれませんね。

もしそう言えるのなら。『交響組曲 風の谷のナウシカ』(2016)や『交響組曲 天空の城ラピュタ』(2018)は、1980年代から時代を経て、新たに久石譲による指揮はもちろん、新たに指揮台バーチャルな音質的価値を獲得した録音の登場となった。そんな言い方もできるかもしれませんね。

 

久石譲 『千と千尋の神隠し サウンドトラック』

 

 

 

監督と作曲家の運命的な出会い。ジョン・ウィリアムズ自身が指揮した、スピルバーグ映画がなければ作曲しなかった、生まれることのなかったかもしれない名曲の数々。輝けるコラボレーションの軌跡を集大成したアルバム「ジョン・ウィリアムズ・プレイズ・スピルバーグ」です。どんどんいい音にふれていきましょう!

それではまた。

 

reverb.
次のコラボレーションは映画『インディ・ジョーンズ 5』(2022予定)です♪

 

 

*「Overtone」は直接的には久石譲情報ではないけれど、《関連する・つながる》かもしれない、もっと広い範囲のお話をしたいと、別部屋で掲載しています。Overtone [back number] 

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Overtone.第37回 ピーター・ガブリエルを聴く

Posted on 2020/01/20

ふらいすとーんです。

”1990年代後半の久石さんインタビューに「ピーター・ガブリエルよく聴いている」ってあったけど、きっと今も聴いてるよね。Scratch My Back (2010)、New Blood (2011)”

…こんな感じでさらっとツイート、2枚のアルバムジャケット写真と一緒に。そうやって流れるように終わろうと思った。140文字のつぶやきではなく、Overtoneに記すことにしたのは、公式音源がすべてそろっていたからです。公式音源のおかげで一緒に聴いてもらえる。テンポよくいければいいなと思います。

 

ピーター・ガブリエル(Peter Gabriel)、イギリス出身、ロックバンド「ジェネシス」の初代ボーカリストとして有名になり、ソロ転向後も活躍している現役アーティストです。9枚のスタジオ・アルバム、3枚のライブ・アルバム、4枚のサウンド・トラックなど、独特で多彩な創作活動をしています。そして、それらすべての楽曲が公式YouTubeチャンネルにて公開されています。

 

 

まずは軽くウォーミングアップ。

 

No Self Control

Lead A Normal Life

from Peter Gabriel 3: Melt (1980)

2曲ともミニマル・エッセンス溢れるマリンバが印象的です。

 

The Rhythm Of The Heat

San Jacinto

from Peter Gabriel 4: Security (1982)

「The Rhythm Of The Heat」重みのある低音シンセサイザーにラストは執拗なアフリカン・パーカッション。「San Jacinto」にんまりミニマル全開な伴奏とエスニックな曲想がやがて大きく広がり、ポップスの自由さを感じます。

 

Red Rain

from So (1986)

硬質なシンセサイザー音色と、アタック感の強いベースやドラミング。あの時代を象徴するような(いまの時代には出せないのかな?!)独特なグルーヴ感。

 

ここまで紹介した曲は、オリジナル・ソロアルバム(スタジオ・アルバム)からです。のちにベストアルバム『Hit』(2003)にも収録された曲ばかりです。公式チャンネルでは、再生リストから聴きたいアルバムを選んでいろいろ聴くことできます。

 

サウンドトラックから。

 

At Night

Slow Marimbas

from Birdy バーディ (1984)

「At Night」霧がかったようなシンセサイザーの世界、大林宣彦監督作品の映画サウンドトラックや、NHK人体シリーズの音楽などを連想させるようです。「Slow Marimbas」ワールド・ミュージックの普及にも力を注いだアーティスト。自身のボーカル曲にもエッセンス盛り込まれていますし、インストゥルメンタル楽曲書き下ろしたサウンドトラックたちには、とりわけ色濃くエスニックな旋律やアフリカのリズムなどが見られます。いちロックアーティストの枠を超えた音楽づくりです。この雰囲気好きだなあ、そんな久石譲ファンもいるかな。

 

 

ピーター・ガブリエル1980年代でした。

同じように1980-1990年代の久石譲作品にも通じるものがあるように感じます。上の楽曲たちを聴きながら、久石さんのいろいろな曲が浮かんだ人もいるかもしれません。こんな音色の使い方あったな、エッセンスや味つけがクロスオーバーしている、そんな聴き方もできて楽しいです。ルーツというか、、その時代のなか作家たちの共鳴性と言いたいところです。

 

 

ちょっと長い引用です。

”僕が大学生の時にテリー・ライリーの「A Rainbow in Curved Air」を聴いた時に、もうすごいショック受けて3日間ぐらい寝込んじゃって。それまでは不協和音とか現代曲を書いてて、そこでミニマルの洗礼を受けて。ところが人間そんなに変われないんですよ。最初のミニマルっぽい曲を書くのに最低3年かかったかな。それでも全然曲になってないんですよ。20代はほとんど挫折、いろんなコンサートで曲を発表するんですが全然かたちにならない。当時のコンサートは作曲家が4~5人集まって曲を持ちあって個展を開くんですよ。客席ははっきりと隙間だらけなんですよ。塊が5つぐらいあって、ここはあいつの親戚、ここはうちの親戚、そういう感じなわけで(笑)。向上心もあって燃えてたんだけど、その仲間が集まって話してると、相手を論破することに専念しだすわけですよ。いかに自分の理論武装が正しいか。でも、そのことと出てる音が違うだろうおまえたち!っていうのがだんだん強くなってきた。その世界は何をしたいのかって思うようになってきて。その時にふっとポップスのフィールドを見たんですよ。そしたらイギリスのロキシー・ミュージックとかあって。フィル・マンザネラとかブライアン・イーノとかね。ロックなのにミニマルのパターンの要素をうまく取り入れている。みんな楽しそうにやってるわけよ、あっちいいなあと思ってね。その時にタンジェリン・ドリームだとかマイク・オールドフィールドの「チューブラー・ベルズ」だとか、これはのちに映画「エクソシスト」のメインテーマになる、全部そういうパターン的なもの。これらがドーンと出たときに、もういいやと、芸術家であることをやめた。ポップスフィールドにいくって決めて、まずはソロアルバム作ろうと。そうすると現代音楽にいた時の自分ががんじがらめになって自分の思い通りのものが一つも書けなかったのが、ポップス・フィールドに行った瞬間書いた曲のほうがよっぽど前衛的だったんですよ。なんかね、その瞬間吹っ切れて。それは「ナウシカ」よりもずっと前だったんですけれど、そこから20年・30年ずっとポップス・フィールドに本籍を置きながら音楽をやってきたわけです。”

Blog. NHK FM 「今日は一日”久石譲”三昧」 番組内容 -トーク編- より抜粋)

*このあとトークは、”今は本籍をクラシックに戻して”という話に流れていきます

 

久石さんが影響を受けてきた音楽たちをテーマに語られたもの。

 

久石譲ディスコグラフィ

 

 

時は流れて2010年。

カバー集かつ純粋なオーケストラ編成でつくったアルバム「Scratch My Back」。全曲原曲知らないし(僕は)、おそらくポピュラーな曲を集めたのではないだろう、意欲的で斬新なコンセプト。

かなり本格的な一枚です。ポップスをオーケストラにアレンジしてみました的な安直なものではない、前衛的で現代的な、聴けば聴くほど味がしみ出てくる、そんなアルバムです。原曲を知らないぶん先入観なく楽しめます。オリジナル版と聴き比べてみるともっと広がるかもしれません。

 

Scratch My Back (2010)

01. Heroes (Original Artist: David Bowie)
02. The Boy In The Bubble (Original Artist: Paul Simon)
03. Mirrorball (Original Artist: Elbow)
04. Flume (Original Artist: Bon Iver)
05. Listening Wind (Original Artit: Talking Heads)
06. The Power Of The Heart (Original Artist: Lou Reed)
07. My Body Is A Cage (Original Artist: Arcade Fire)
08. The Book Of Love (Original Artist: The Magnetic Fields)
09. I Think It’s Gonna Rain Today (Original Artist: Randy Newman)
10. Apres Moi (Original Artist: Regina Spektor)
11. Philadelphia (Original Artist: Neil Young)
12. Street Spirit (Fade Out) (Original Artist: Radiohead)

 

 

1. Heroes

全曲ギターやドラムは排除されていますが、リズム感はしっかりオーケストラ楽器が担っています。通奏でベースラインがあるわけでもなく(2:40~)、このあたりもポップスオーケストラになっていない妙技です。また弦の刻みも単調にならないよう微細に変化しています。1曲目に配置されたこの曲で、アルバムの本気度は先制パンチOKです。

 

3.Mirrorball

細い線と鋭利感を演出してる冒頭からの高音弦楽器の伴奏。静パートは速いパッセージの伴奏音型へと変化していき緩急をともないながらダイナミックに展開していきます。

 

5.Listening Wind

第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、すべて旋律が異なる。ハモリでもなく、つかのまユニゾンするくらいで、一曲とおして独自の性格をもった声部がそれぞれに割り当てられています。いやあ、こんなことしなくても、そこまでしなくても、ポップスとしてはちゃんと成立するのに…ついついいらぬ労いの言葉をかけたくなる。ここまでするからこそ深みと味わいは単純でなくなり、足腰のつよいくり返し聴くに耐えうる曲に。ホンモノ志向すごい。

 

 

ほかにも、「7.My Body Is A Cage」映画のワンシーンから抜け出たような緊張感をまとった曲、「8.The Book of Love」「11.Philadelphia」エンドロールで映画の余韻を優しく包みこんでくれそうなメロディのきれいな曲、「10.Apres Moi」オペラのようなドラマティックさに魅了される曲。

 

公式アルバム再生リスト
https://www.youtube.com/watch?v=LsvuipGq2ns&list=OLAK5uy_kpqglluQOJ54ENN27uiEkWD3KfoDpgLQ8&index=1

 

 

翌2011年。

前作からの流れを受け継いだオーケストラ編成による、今度は自身の楽曲たち、新たな解釈に挑んだセルフカバー・アルバムです。こちらも前衛的・現代的なオーケストレーションはお見事、コンセプト・アルバムとしての完成度は高い。2CD Deluxe Editionには、オーケストラのみのバックトラックがDisc2にパッケージされています(公式YouTubeにはない…オケサウンド好きにはたまらないDisc2)。本作品はその後ライヴ盤もCD/DVDなどで発売されています。

 

New Blood (2011)

01. Rhythm of the Heat
02. Downside Up (featuring Melanie Gabriel)
03. San Jacinto
04. Intruder
05. Wallflower
06. In Your Eyes
07. Mercy Street
08. Red Rain
09. Darkness
10. Don’t Give Up (featuring Ane Brun)
11. Digging in the Dirt
12. The Nest That Sailed the Sky
13. A Quiet Moment
14. Solsbury Hill

 

 

1.The Rhythm of the Heat

1980年代楽曲でも紹介した曲です。オリジナル版「重みのある低音シンセサイザーにラストは執拗なアフリカン・パーカッション」と書きました。オーケストラ版の後半はすごいです(3:50~)。パーカッションの連打はなくなり、新しいパートが書き加えられています。これがなんとも前衛的で最先端いってます。もしこの箇所を気に入ってもらえたなら、久石譲オリジナル・シンフォニーや「久石譲 presents MUSIC FUTURE」コンサートで取り上げられる作品たちもきっと楽しめると思います。

前作カバー集にひき続き、本作の編曲を手がけるジョン・メカトーフは、”スティーヴ・ライヒ、アルヴォ・ペルト、ストラヴィンスキーなどを指向している”ようで(from ライナーノーツ)、なるほど現代音楽にも通じる響きだし、ミニマル・ミュージックにも通じる特徴があるわけですね。とにかく圧巻のモダン・リズミックです。

 

Peter Gabriel – New Blood – The Rhythm of the Heat(約4分)

インタビューとレコーディング風景のメイキング動画です。まるでクラシックの現代作品を録音しているような緊張感です。本作のために編成された約50人規模のオーケストラです。ピッコロの雄叫びなんて、もう久石譲作品『The End of the World』をひっぱり出して聴きたくなってきます(3:05~)。

 

3.San Jacinto

1980年代楽曲でも紹介した曲です。オリジナル版「にんまりミニマル全開な伴奏とエスニックな曲想がやがて大きく広がり」と書きました。シンセサイザーによるミニマル音型たちがオーケストラではどうなるのか? 久石譲ファンならきっとイメージできますよね。イントロからピアノ、マリンバ、ピッツィカート、そして木管楽器たちをカラフルに使い分けながら、豊富なミニマル・フレーズたちで彩られています。ただの反復ではない、次々に新しいミニマル音型たちを生み出しながら、常に変化し進んでいく曲です。

 

6.In Your Eyes

オリジナル版はさわやかなポップスですが、オーケストラ版とのコントラストがわかりやすい。原曲Bメロで登場するギターの伴奏パターン(1:06~)と、その流れで変化するサビのギターの伴奏パターン(1:35~)。これが、オーケストラ版では主軸となりイントロから堂々と鳴り響いています。乾いたギターのリフで爽やか脇役くんが、弦楽器の大きく揺れるような力強い表現で主役へと躍りでた。”君のまなざしに”という曲タイトル、キュートなポップス曲から、心の息吹や鼓動を感じる広がりのある曲へと昇華しているようです。

 

8.Red Rain

1980年代楽曲でも紹介した曲です。オリジナル版「硬質なシンセサイザー音色と、アタック感の強いベースやドラミング。あの時代を象徴するような(いまの時代には出せないのかな)独特なグルーヴ感。」と書きました。

力強い躍動感と推進力をもった曲です。この曲は、リズム的オーケストレーションのお手本のようです。ドラムはもちろんリズムパーカッションを使っていません。低音に必要な太鼓と少しのシェイカーは登場しますが、スネアがタッタタ・タッタタ軽快にリズムを先導することもありません。

本アルバムのなかでもリード曲に相当するような、キャッチーでポップな仕上がりにはなっていますが、リズムパーカッションなしという封じ手を、見事に超えてみせたリズム的オーケストレーションのお手本。各楽器に散りばめられたリズム感あるフレーズたちがビートを感じさせ、緩急うねるようなグルーヴ感を絶えず生みだします。あの手この手で、これでもかこれでもかと、次々にリズムモチーフを紡ぎだし、ヒートアップする熱量でラストまで突き進みます。

 

Peter Gabriel – Red Rain Recording at Air(約2分)

レコーディング風景のメイキング動画では、オーケストラのバックトラック収録にスポットを当てていて、ボーカルなしでもかっこいい曲だと証明してしまった。

 

 

ほかにも、「2.Downside Up」チャーミングで愛らしい曲想でリズム・トラップ輝いている曲、「4.Intruder」エキゾチックで野性的な曲想はストラヴィンスキーゆずりな曲、「11.Digging In the Dirt」スリリングうねる伴奏音型で楽しませてくれる曲、「14.Solsbury Hill」ポップスのオーケストラアレンジの典型わかりやすく楽しい曲。

 

 

Peter Gabriel New Blood Interview(約9分)

少し長めのメイキング動画では、ほかの曲のレコーディング風景やインタビューも登場します。

 

公式アルバム再生リスト
https://www.youtube.com/watch?v=lj35-VCN1jo&list=OLAK5uy_mtci60K44D1iJprGVB4QT68E6P3Rcb9dg

 

 

久石さんは過去UKロックに慣れ親しんできたことを書籍やインタビューで語っています。飛び出すアーティストもジャンルも幅広くさまざまです。

いきなりクラシックを聴くよりも、こういった方向からオーケストラを楽しむのもまたひとつ。いきなりストラヴィンスキーなどの近代クラシックを聴くよりも、こういった方向から現代的な響きやアプローチを体感してみるのもまたひとつ。とっつきやすくて助かった、第一印象でつまずかずにすんだ。軽いジャブからうけてみる。そんなこともあります。

好きなアーティストから飛び出すキーワードに触れてみることは、聴くこちら側にも幅をもたせてくれます。バックボーンを旅する楽しみがあります。今回紹介したような楽曲たちも一度聴いてみるか聴かないかでは、ゼロかイチの違い。久石譲音楽の聴こえ方や楽しみ方にも、新しい感動や広がりを運んでくれるかもしれませんよ。

なぜ久石譲音楽にはリズムを感じるか? 今回のピーター・ガブリエル音楽を紐解くことは、そのヒントにもなりそうです。オーケストラの音色を使って、こんなにもリズムを感じさせる旋律・モチーフ、奏法のアプローチ、失速しない推進力をもった音楽構成。いつもなら《緻密なオーケストレーション、凝ったつくり込み》、こんな言葉たちで表現していることも、具体的に解き明かせそうなカギがあります。今回は、いつか記したいと思っていることへの前進する一歩です。

 

 

おまけ。

ピーター・ガブリエルとディープ・フォレスト。後者は1990年代久石譲LIVEでも共演しています。そんな久石譲つながりのアーティストの化学反応は、踊れー!(Long Versionです)

 

While The Earth Sleeps – Peter Gabriel & Deep Forest

 

 

”1990年代後半の久石さんインタビューに「ピーター・ガブリエルよく聴いている」ってあったけど、きっと今も聴いてるよね。Scratch My Back (2010)、New Blood (2011)”

それではまた。

 

reverb.
YさんKさんに感謝を込めて♪

 

 

*「Overtone」は直接的には久石譲情報ではないけれど、《関連する・つながる》かもしれない、もっと広い範囲のお話をしたいと、別部屋で掲載しています。Overtone [back number] 

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Overtone.第36回 オーロラ管弦楽団を聴く Listen to Aurora Orchestra

Posted on 2020/11/12

ふらいすとーんです。

好きなアーティストを日々追いかけていると、いろいろなものがくっついてくることがあります。そして、偶然か必然か、つながりと発見にびっくりすることがあります。

マックス・リヒターという作曲家を追っかけています。オリジナルアルバム、映画サウンドトラック、さまざまな企画やコラボレーション。そうしていくと、あるアーティストのために書き下ろした作品なんかは、マックス・リヒター名義ではないアルバムに収録されたりします。1曲のためにアルバム1枚買うのか!?、そんなささやかならぬ葛藤もありますが、買います。なぜ、マックス・リヒターは新曲を提供したのか。コラボレーションのコンセプトやアーティスト性は、全体から聴いていかないとつかめないこともあると思っています。

 

  • マックス・リヒター
  • モーツァルト交響曲の現代的アプローチ
  • ニコ・ミューリー
  • 久石譲FOCコンサート
  • 久石譲MFコンサート

 

こういったピースが、グルグルつながっていく流れを、なるべくサクサクご紹介していきます。

 

 

”2020年、マックス・リヒターが、とあるオーケストラのために、新曲を書き下ろした。”

これがすべてのきっかけです。

以下、引用します。

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世界で最もクリエイティヴなオーケストラのDGデビュー盤!

近年、急激に存在感を増しているオーロラ管弦楽団は、並外れた音楽家により構成された卓越した室内オーケストラであり、非常に高いクオリティで感動的な演奏をするばかりでなく、先駆的で斬新な様々な手法で豊かな音楽体験を提供している世界で最もクリエイティヴなオーケストラ。

『ミュージック・オブ・スフィアーズ(天球の音楽)』は、惑星の動きが、宇宙の調和(ハーモニー)を生み出すという古代ギリシャの数学的な概念に基づいています。当アルバムのために特別に委嘱されたマックス・リヒターの新作『ジャーニー(CP1919)』は、最初に発見されたパルサー「CP1919」に触発されて作曲されました(注:パルサーはパルス状の可視光線、電波、X線などを発生する天体で、超新星爆発後に残った中性子星と考えられています)。 この作品は、古代ギリシャの天文学者が惑星の軌道を説明するために使用した数学的な比率によって支配されたリズムを使用して、オーロラ管弦楽団が暗譜で演奏することも取り入れて作曲されています。

出典:HMV|コロン&オーロラ管/モーツァルト:交響曲第41番『ジュピター』、他
https://www.hmv.co.jp/news/article/2007271007/

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マックス・リヒター作曲「ジャーニー(CP1919)」の説明文は、なんとも難解な印象を受けますが、約9分半の作品、とっても神秘的で浮遊的、心とからだの瞑想っといった感じです。落ちつきます。弦楽合奏とシンセサイザー低音、複数のパターン・モチーフが交錯します。マックス・リヒター公式にティーザー動画が公開されています。

 

Max Richter – Journey (CP 1919) Teaser (約1分)

from Max Richter Music YouTube

 

ここまでなら、マックス・リヒターのコレクションとして終わりますが、このアルバムはそれだけではありませんでした。

 

 

メインとして収録された「モーツァルト:交響曲 第41番 ハ長調 K.551《ジュピター》」を聴いてびっくりしました。久石譲FOC(フューチャー・オーケストラ・クラシックス)が演奏してるのか!? と思うほど、キレッキレのモーツァルト。古典クラシック音楽の最高峰ともいわれる交響曲、こんなに現代的な演奏が聴けるなんて。堂々として風格のある往年の名盤たちとは一線を画する、風の吹き抜けるような響き。久石譲FOCのベートーヴェン交響曲やブラームス交響曲と同じような印象をうけます。

その後見つけた2つの公式動画で、さらに納得しました。

 

Mozart’s Jupiter Symphony from memory – Aurora Orchestra (約2分半)

from Aurora Orchestra YouTueb

 

立奏スタイル、室内オーケストラ編成(規模の小さいオーケストラ)。さらに、彼らは交響曲を暗譜、アルバムはセッション録音です。

 

 

Aurora Orchestra – ‘Music of the Spheres’ Trailer (約5分半)

from ドイツ・グラモフォン公式YouTube

 

トレーラー動画のほうは、アルバム収録曲すべて紹介され、そこにはマックス・リヒターやニコ・ミューリーまでも登場します。ニコ・ミューリーという作曲家は、このオーロラ管弦楽団と深いつながりがあり、本作では一曲編曲を担当してます。

 

 

『ミュージック・オブ・スフィアーズ(天球の音楽)』/オーロラ管弦楽団 (2020)

【収録情報】
1. モーツァルト:交響曲第41番ハ長調 K.551『ジュピター』
2. マックス・リヒター: ジャーニー(CP1919)
3. ダウランド/ニコ・ミューリー編:時は立ち止まり
4. アデス:ヴァイオリン協奏曲 Op.24『同心の道』
5. デヴィッド・ボウイ/ジョン・バーバー編:火星の生活

 ペッカ・クーシスト(ヴァイオリン:4)
 イェスティン・デイヴィス(カウンターテナー:3)
 サム・スワロー(ピアノ、ヴォーカル:5)
 オーロラ管弦楽団
 ニコラス・コロン(指揮)

 

Music of the Spheres / Aurora Orchestra (2020)

1 Mozart: Symphony No. 41 in C Major, K. 551 “Jupiter” – 1. Allegro vivace 11:29
2 Mozart: Symphony No. 41 in C Major, K. 551 “Jupiter” – 2. Andante cantabile 10:17
3 Mozart: Symphony No. 41 in C Major, K. 551 “Jupiter” – 3. Menuetto. Allegretto. Trio 4:10
4 Mozart: Symphony No. 41 in C Major, K. 551 “Jupiter” – 4. Molto allegro 8:21
5 Richter: Journey (CP1919) 9:31
6 Dowland: Third Booke of Songs, 1603 – 2. Time Stands Still (Arr. Muhly) 3:42
7 Adès: Violin Concerto “Concentric Paths” – 1. Rings 3:53
8 Adès: Violin Concerto “Concentric Paths” – 2. Paths 9:57
9 Adès: Violin Concerto “Concentric Paths” – 3. Rounds 4:39
10 Bowie: Life on Mars? (Arr. Barber) 3:41

Deutsche Grammophon (DG)

 

 

久石譲は、2016年から新しい取り組みとして、ベートーヴェン交響曲を演奏・録音し、2019年度第57回レコード・アカデミー賞特別部門特別賞を受賞するなど、指揮者としてもさらなる注目を集めています。そして2019年からはブラームス交響曲を演奏・録音するプロジェクトがスタートしています。ブラームスからは、立奏スタイルを採用しています。それぞれ詳しいことは、紐解いてみてください。

 

 

 

 

オーロラ管弦楽団の過去作を見てみると、ニコ・ミューリー名義のアルバムで録音を残しています。マックス・リヒター同様、オーロラ管弦楽団が作曲家に委嘱したその作品は「Seeing Is Believing」。

実はこの曲、久石譲の新しいコンサートシリーズ「久石譲 presents MUSIC FUTURE Vol.1」コンサート(2014)で披露された、エレクトリック・ヴァイオリンをフィーチャーした約25分の作品です。

さらには、翌年「久石譲 presents MUSIC FUTURE Vol.2」コンサートで、久石譲は触発されたようにエレクトリック・ヴァイオリンをフィーチャーした作品を新たに書き下ろし初演しました。また同プログラムでは「ジョン・アダムズ:室内交響曲」も披露していますが、オーロラ管弦楽団も同作を録音・演奏しています。

 

すごいつながりかたですね!

ちょっと整理しますね。

 

Seeing Is Believing / Nico Muhly (2011)

 

「ニコ・ミューリー:Seeing Is Believing」や「ジョン・アダムズ:室内交響曲」をプログラムした2011年コンサート公式動画。

Nico Muhly: Seeing is Believing (約1時間)

from Aurora Orchestra YouTube

 

「久石譲:エレクトリック・ヴァイオリンと室内オーケストラのための 室内交響曲」、「ジョン・アダムズ:室内交響曲」収録

 

「久石譲:エレクトリック・ヴァイオリンと室内オーケストラのための 室内交響曲」抜粋、2015年コンサート公式動画。

Joe Hisaishi : Chamber Symphony (selections) (約8分)

from Joe Hisaishi Official YouTube

 

 

すごいつながりかたですね!

久石譲がオーロラ管弦楽団の音楽活動をなぞっている、もちろんそんなことではありません。大切なのは、《現代(いま)の音楽》を発信する、演奏する、というスタンスが共鳴していることです。だからこそ、偶然か必然か、つながってくるものがある。

もうひとつ大きなポイントは、久石譲もオーロラ管弦楽団も、古典クラシック音楽も現代音楽も、どちらも並べて演奏・録音しているというところです。言い換えれば、現代的アプローチで古典作品も現代作品も演奏している。この共通点からくる、音楽的表現や響きは大きいと思います。

だから、オーロラ管弦楽団のモーツァルト交響曲を聴いて、久石譲FOCが演奏しているのかと思うくらいな印象をうけ、それは同時に、もし久石譲FOCがモーツァルト交響曲を演奏したらこうなるんだろうなあという、想像する楽しみ方すらあります。

 

  • マックス・リヒター
  • モーツァルト交響曲の現代的アプローチ
  • ニコ・ミューリー
  • 久石譲FOCコンサート
  • 久石譲MFコンサート

 

グルグルつながることが、サクサク伝わったならうれしいです。

 

 

オーロラ管弦楽団は、コロナ禍の今、2020年9月に再開されたイギリスBBCプロムスでの無観客演奏で「ベートーヴェン 交響曲 第7番」を披露。少数精鋭な室内オーケストラ編成と立奏スタイル、さらに距離を大きくとったステージながら、躍動した大迫力な演奏に驚きます。

 

Aurora Orchestra performs Beethoven 7 at the BBC Proms (約1分半)

from Aurora Orchestra YouTueb

 

 

また、ロンドンのキングス・クロス駅での屋外演奏も。日本でも、少しずつオーケストラの演奏活動がいろんな場所で増えていったらいいですね。

 

First symphony since lockdown at Kings Cross (約2分)

from Aurora Orchestra YouTueb

 

 

なんでイギリス音楽って、聴いてすぐイギリスってわかっちゃうんだろう。気品漂い、はたまた、牧歌的な香り。1枚とおして心地よい。けっこうお気に入りの、とっておきのアルバムです。オーロラ管弦楽団を紐解いているなかで、みつけた宝物です。

 

Introit: The Music of Gerald Finzi / Aurora Orchestra (2016)

 

 

久石さんの音楽も、どこかアイルランド的だったりしますよね。久石メロディを感じさせるというよりは、なんだかDNA的におちつくような安心感。

たとえば1曲目♪

Finzi: Lo, the full, final sacrifice, Op.26 – Amen (Instrumental) (約2分半)

 

フィンジというイギリス作曲家の楽曲を集めているアルバムです。おそらく合唱曲などを器楽版にしたものもあるのかな、きれいで親しみやすい旋律にうっとりします。もし気に入ったら1枚とおして聴いてみてください。おすすめです。

 

……

いろいろとフィンジを聴きあさっていったら。この曲、なんと14分近くある合唱曲のエンディングにだけ聴けるひと旋律を器楽版にアレンジしたものだったんです。オーロラ管弦楽団の選曲とセンスが光ります。原曲は下、13:10-。

 

Lo, the Full, Final Sacrifice, Op. 26 (約14分)

 

ほかにも。

オーロラ管弦楽団のインストゥルメンタル版。

Finzi: Clear and gentle stream, Op.17, No.4 (Instrumental) (約4分半)

 

原曲の合唱版。

7 Partsongs, Op. 17: 7 Unaccompanied Partsongs, Op. 17: No. 4. Clear and gentle stream (約4分)

 

とまらなくなるので、フィンジについては、またいつか。原曲2曲と少し聴き比べてもらっただけでも、オーロラ管弦楽団のこのフィンジアルバム「Introit: The Music of Gerald Finzi / Aurora Orchestra (2016)」のおすすめ度が伝わるなら、うれしいです。

 

 

最後に。

2020年12月23日開催予定「久石譲コンサート 2020 in ザ・シンフォニーホール」では、モーツァルト:交響曲第41番ハ長調K.551「ジュピター」がプログラムされています。日本センチュリー交響楽団との共演です。久石譲FOCの編成とは異なりますが、指揮者久石譲のアプローチは、オーロラ管弦楽団に近いものではないかと期待できます。

ぜひ楽しく予習したい人は、『ミュージック・オブ・スフィアーズ(天球の音楽)』/オーロラ管弦楽団 (2020)を手にとってみてください。

ぜひ楽しく予習したい人は、オーロラ管弦楽団のステージ動画もどうぞ。約1時間におよぶこの動画では、楽しいレクチャーコーナーが演奏前にあって(11:00-)、第4楽章のモーツァルトの天才的な交錯するモチーフたち、その聴きどころをわかりやすく分解して、やさしく紹介してくれます(13:00-23:00)。こんなふうになってるんだあ、楽しいです。2016年のパフォーマンスですが、2020年10月つい先日に公式公開されたホヤホヤです。

 

Mozart’s Jupiter from memory at the BBC Proms – Aurora Orchestra – Complete performance (約1時間)

from Aurora Orchestra YouTueb

 

 

 

 

それではまた。

 

reverb.
今回紹介したのは、オーロラ管弦楽団のアルバム2枚です♪

 

 

 

*「Overtone」は直接的には久石譲情報ではないけれど、《関連する・つながる》かもしれない、もっと広い範囲のお話をしたいと、別部屋で掲載しています。Overtone [back number] 

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Overtone.第35回 久石譲を短歌で詠む 100

Posted on 2020/09/27

ふらいすとーんです。

久石譲を短歌で詠む、気ままにツイートしていたものが百首たまりました。ちょうど年号が平成から令和に変わった、2019年5月から始めたものです。なぜ短歌? 久石譲短歌のルール? 短歌のおもしろさ、そんなことも記します。

まずは気楽に、つたない短歌を眺めてもらって、曲が思い浮かんだり、共感できたり、そんなものがひとつでもあったならうれしいです。

 

 

久石譲を短歌で詠む

行ったこと見たこともない宇宙(そら)や深海(うみ)
誘う音楽僕らは自由だ

踊るよう笑顔で楽しく指揮をする
のせられるオケ肩弾む客

あなたの手指揮棒にぎるペン走らす
そしてピアノに触れる手好きだ

タクト振る風をあやつるように見え
風を味方につけた音たち

コンサート一期一会の音出逢い
一期一会のファン出逢い

コンポーザー、プロデューサーに、マエストロ
真の肩書き久石譲

ドからド狭い少ない、でも僕ら
十二の音で羽を持つのだ

LinksとOrbis好きと言うファンは
広さと深さ測るものさし

コンサート曲知ってる僕らこそ
拍手最初に力強くね

おでかけの準備するメモ先頭に
プレイリスト作成とある

 

十一

ピアノ弾く人の通るステップに
Summerを弾けるようになりたい

ここ行きたい!ではない順番
この曲が映るところ!と選ぶ場所

これ勝る宣伝効果ないほどに
音楽:久石譲の威力よ

令和という新たな時代になりました
生まれくる曲綴るDiary

春告げる満開憧憬SakuraTour
早咲き遅咲き待ちわびし土地

新緑に”五月の村”を聴きながら
ビル風からも土草のにおい

世界ツアー日本公演こっちにも
どこでもドアがあっても足りぬ

アジアの夢世界の夢のそのさきに
日本の夢を五輪で聴きたい

マリンバのごとく会話が弾むとき
豊かな倍音アンサンブルだ

いざ試験自転車駆けるゴング鳴る
“KidsReturn”聴き会場乗りこむ

 

二十一

朝日課願かけ占いおまじない
いいことあるかな曲の神さま

急いでる朝の支度にコマーシャル
十五秒分奪取キメこむ

温泉の効能いっしょに染み入るね
湯あがり涼み薫る”Oriental Wind”(いえもん)

音楽を言葉にかえる難しさ
言葉にならない想い音にのせ

イヤホンで密封して聴く快感と
スピーカー越しふるえゆらぐ音

もう少しがんばってみる
音楽に背中押されて心ほぐれる

演奏会前のめりかぶるブラボー!は
気持ちわかるけどオフサイドかなあ

演奏会観客総立ちスタオベも
はじめはひとりふたりの動から

ファン歴を天秤にかけ間合いとる
いま好きです。そっちが大切

作曲も演奏会も切れ目なく
ファンつづけれることのうれしさ

 

三十一

時間軸・空間軸と君は言う
僕にとっては宇宙のようだ

衣食住生きていくのに不可欠なことに
僕はそれを加える

負けるなよ希望はあると君は言う
音楽にのせ国籍すら越え

紋どころ目に入らぬかとかざされて
音楽:久石譲とよみふす

伊右衛門はんえらいたくさんCM版
いつか盤にもしておくれやす

運動会かけっこ行進表彰台
盛り上がりそう二ノ国サントラ

夢に希望癒しやすらぎ鼓舞勇気
一日一錠、一日一譲

紫陽花と雨粒とけあう”la pioggia”(しぐれのき)
梅雨なきイタリア和心はこぶ

アジサイに雨やどりするかたつむり
出番まちたるホルン奏者

雨音とアンサンブルする部屋のなか
ただよう残響うるおう空気

 

四十一

三要素メロディリズムにハーモニー
どれをとってもあなたとわかる

あの曲がなければ出会わぬ人たちと
今こうやってつながっています

『深海』に『Deep Ocean』果てしない
『海獣の子供』海がひろがる

降りそそぐ雨照りつける陽のごとく
からだいっぱい浴びる音楽

コンビニのスイーツ数回ガマンして
ほしかった曲美味しくいただく

陽あたりよい窓辺に置いたサボテンに
ナウシカ聴かせ喜ぶようみえ

「今キテる最近ハマってるんだよね」
わかるニンマリどうぞ深みへ

生きものに命吹きこみ
背景に重力あたえ映像生きる

メロディと神秘和音に包まれて
心のトゲがやわらかくなる

陽あたりよい窓辺に置いたサボテンに
ナウシカ聴かせ喜ぶようみえ

 

五十一

休日の洗濯日和の昼下がり
“星の湖(うみ)へ”でうとうと気分

思い立つ”この世界の片隅に”
今年の盆は会いに行こうと

あの彼方立ちのぼる白ラピュタ雲
さがす夏の日空への憧れ

私しか知らない秘密の小屋ありて
“神秘なる絵”と向きあう時間

わたしにも脈々流れる血と誇り
気づかせたのは”アシタカせっ記”

くもりなき眼(まなこ)でまっすぐ駈けるとき
“旅立ち-西へ-“勇壮ふるえ

春とけてうるおう景色に”The Rain”聴き
“Summer”の調べ夏もそこまで

落ちてきてほしい呼吸と間でもって
ピアノの音がふと降りてくる

気まぐれにシャッフル選ぶは”帰る家”
湯婆婆みなで大当たり!とな

淡い青”Silent Love”その音は
とても静かに近づいてくる

 

六十一

立奏は活き活きと跳ね群れ泳ぐ
大きい小さい魚と楽器

花ひらく瞬間みつめる子どもの目
おはよう”Summer”ひまわり笑う

速弾きに超絶技巧のメカニック
想い伝えるテクニックと差異

コンサートいつかは聴きたい名曲に
尺玉花火”この空の花”

人間(ひと)と樹(き)の”アシタカとサン”かかわりと
この限りある一刻(ひととき)を想う

たくさんの音からひとつを聴くことと
ひとつの音からたくさんを聴く

夏休み冒険のとき少年の
“タスマニア物語”にのせて

風物詩あれもこれもと胸弾む
“Summer”といっしょに夏をさがして

いつの日かジブリツィクルス
4日間交響組曲全作披露

“あの夏へ”この夏のことふり返り
思い出かさねる夏の終わりに

 

七十一

空ちかく流れとどまるラピュタ雲
黄昏赤く燃ゆるしずかに

封開けてケースひろげるCDと
学期始めに開く教科書

大切な思い出ずっと忘れない
あの曲聴けばあのときの自分

ふるさとに納税する習慣(こと)根づくよう
好きなオケにも寄付する文化

聴いてきた年月(としつき)盤に遺るなら
立派な年輪たしかに刻まる

時代ごと地層が変化するように
聴こえ感じる風合い変わる

夢のなか未知の新曲聴いたとき
砂漠のオアシスごとき渇望

ゆっくりと背中あずけて音楽に
心のずれをチューニングする

自分でも気づかずにもつ悲しみを
あふれださせる音楽がある

いっぱいの空気を吸ってまっさらの
あたらしい朝”始まりの朝”

 

八十一

衣替え秋の気配に誘われて
聴く音楽も装いあらた

風うけて涼しくいこうよ空みあげ
MELODY Blvd.(ブルーバード)サウンド

星空にスーパームーンの映るとき
憑かれたようにETUDE聴く夜

上弦と下弦の月のあじわいと
高弦低弦チェロの響きと

進化するスマホカメラの解像度
ジブリ交響作品もまた

“おくりびと”ピアノとチェロに誘われて
草原をなでる風のたちの声

身体ごと昔の記憶で温める
“Nostalgia”と明日のぬくもり

コロコロロ靴に当たったどんぐりに
“小さなオバケ”も聞こえてきたよ

“星の歌”宇宙のまばたきほどの時間
永遠(とわ)に廻れよ うたいたい旋律(うた)

音楽が人の数だけ街歩く
喜怒哀楽をポケットしのばせ

 

九十一

キラキラがこぼれてしまわないように
“White Night”イルミネーション

歩き指揮・運転中のながら指揮
たいへん危険となっております

賑やかに宴愉しみ湯につかる
“神さま達”と迎える正月

一瞬の風が心に舞ったとき
“空中散歩”ハウルのワルツ

「寒いね」と私が言えば「寒いね」と
温めかえす冬の音楽

コンサートむかう靴音 弾む呼吸
胸の鼓動のポリリズム鳴る

首もとをやさしく包みこむように
あったかマフラー冬の五線紙

首もとの顔をうずめる心地よさ
あったかマフラー冬の五線紙

並木道やさしい空になでる風
そして聴こえる秋の旋律

結局ね久石さんの音楽が
好きな自分が好きってなるよね

 

 

なぜ短歌をはじめたのか?

言葉遊びを楽しみたかったからです。限られた文字数のなかで、久石譲音楽の魅力をどう表現できるのか、それが出発点です。僕は、どうしても書きだすと文章が長くなってしまうタイプです。時間を置いて添削もするのですが、読んだ人には「ここいらないよね」と思う文章も、書いた本人はわからない、名残惜しい。だから、言葉遊びを使ったトレーニングをしようと。

久石さんのインタビューに「音楽的な主張が強くなって、複雑な方向にいきそうなとき、シンプルなワルツの力をかりる」といった発言があります。それと並べるなんておこがましいですが、気分は同じと思わせてください。ワルツの三拍子という制限と枠、短歌の三十一文字という制限と枠。制限は、ときに手法の一部になることがあります。

言葉さがしをしたかった。自分の言葉ってキャパ狭いです。いつも使う言葉、同じ表現に偏ってしまいがち。表現力を磨きたいとまで高い志はないにしても、使ったことのない言葉をさがす、自分の言葉の引き出しをふやす。それには短歌がうってつけだと思いました。文字数が限られているから、そこにおさまる言葉を必死に見つけようとします。あっ、これだとはみ出す、これだと足りない、これならおさまる。そんな小さな小さな積み重ねがキャパを広げてくれたなら。久石譲コンサートレビューや久石譲CDレビューも、もっと伝わるような表現豊かなものになってくれたなら。修行はつづくよ。

 

久石譲短歌のルール?

正式な短歌にならって、季語のようなルールをつくろう。必ず、〈音楽にまつわる言葉やキーワードを入れる〉/〈曲名やアルバム名を入れる〉。どちらかを満たせばOKとしました。…そして数ヶ月したころ気づきました。季語のルールは俳句(五七五)だけ、短歌(五七五七七七)は季語いらないと。まあ、”音語”ルールには影響しないことです。音楽にまつわる言葉を見つけるだけでも楽しいですね。

曲を聴きながら思ったこと、思い出をふり返りながら思ったこと。具体的な日常の一場面を連想させるもの、抽象的な思いのようなもの、季節も一緒に連想させるもの。なかなかに楽しいですよ。

 

リズムを味わう

短歌をはじめてから、ふだんの生活のなかで、気に入った言葉の文字数を数えてしまうことが増えました。五文字や七文字なら、短歌に使えばポンとおさまるとか、四文字や六文字なら、うーんどう組み合わせられるかなあとか。同じように三十一文字のなかでどう区切るのか。これがパズルみたいで結構ハマります。

 

五|七|五|七|七

型どおりにきれいに区切ることもできます。たまに、おもしろいおさまり方をしてくれるものが浮かぶとうれしいです。

 

五|七五|七|七

キラキラが|こぼれてしまわないように
“White Night”|イルミネーション

五|七|五|七七

歩き指揮・|運転中の|ながら指揮
たいへん危険となっております

 

こんなふうに言葉としてつながってしまうことでリズムが面白くなる。短歌はリズムで味わうものでもあるんだなあ。そして句の区切り方の変化って、音楽的に言うとシンコペーションみたいですよね。強拍と弱拍の変化、アクセントの移動で、独特のリズム感がうまれるように。言葉も拍子(句)どおりの規則正しいリズムもあれば、変化球で独特なグルーヴ感がうまれることもある。そんな気もしてとても楽しんでいます。

 

 

ピアノ弾く人の通るステップに
Summerを弾けるようになりたい

句で区切ると

ピアノ弾く|人の通る|ステップに
Summerを弾ける|ようになりたい

意味で区切ると

ピアノ弾く人の|通るステップに
Summerを|弾けるようになりたい

 

おもしろいですよね。

 

短歌は”いま”を詠む

短歌に言葉少なに託すこと。そのときの思い、その瞬間のこと、いまここ、を詠むものです。それは日記のようですし、140文字のツイートのようです。短歌は、そこに31文字というルールがあるだけ。少ない文字数ともいえるけれど、きっちり文字数を使い切らないともいけない。この範囲のなかで、なにをどう詠めるか。過去に思い馳せて詠むものもあると思います。それでも、詠んでいる(想っている)ことは”いま”です。常に、”いま”を起点としています。

詠み人は、その短歌をつくったときの光景や感情や季節をしっかりと覚えていたりするものです。なんとなくわかる、なぜあのときあの短歌をつくったのか。自分の”いま”を短くささやかに一首ごと綴っていく、そんな記憶のあたため方も素敵だと思いませんか。

 

色彩豊かに

8色の絵の具で描く世界。限られた色で趣向を凝らし表現する世界。一方で、もっと手持ちの絵の具がふえたなら。200色の絵の具で描く世界。色彩豊かに、イマジネーション豊かに、伝わるものも豊かに。

手持ちの言葉がふえたなら。表現豊かに、コミュニケーション豊かに。『言葉は武器になる』『言葉は人をつくる』よく言われます。なにかを目指して精進するわけじゃなくても、言葉の引き出しをふやすことは、シンプルに感情を豊かにすることにつながります。

「感動した」の一言も、「心の底にあるマグマが一気に爆発した」、「僕はそのとき確実に数センチは宙に浮いていたと思う」、「新しい風が吹き込んできて、僕のなかの新しい扉を開いてしまった」なんて。

これ、言った人は言葉と一緒に体感している、そんな自分をイメージしていますよね、きっと。シンプルに、自分に合う、自分の好きな言葉を磨いていきたい。人として豊かな人に、ちょっとずつでも前進したい。

 

 

次の「久石譲を短歌で詠む 100」がいつかまたできますように。もし、おもしろそうかもと思ってくれたら、ツイッターのハッシュタグ #久石譲を短歌で詠む で一緒に詠みましょう!

それではまた。

 

 

2023.01.05 update

 

 

reverb.
a tanka; a traditional Japanese poem containing five lines of 5, 7, 5, 7 and 7 syllables, respectively, for a total of 31.

 

 

*「Overtone」は直接的には久石譲情報ではないけれど、《関連する・つながる》かもしれない、もっと広い範囲のお話をしたいと、別部屋で掲載しています。Overtone [back number] 

このコーナーでは、もっと気軽にコメントやメッセージをお待ちしています。響きはじめの部屋 コンタクトフォーム または 下の”コメントする” からどうぞ♪

 

Overtone.第34回 久石譲ベストアルバム「Dream Songs: The Essential Joe Hisaishi」を聴く

Posted on 2020/08/13

ふらいすとーんです。

久石譲ベストアルバム『Dream Songs: The Essential Joe Hisaishi』が2020年2月に世界同日リリースされました。初めての世界共通盤、さらにストリーミングリリース、新たにミュージックビデオ公開など、これまでの活動集大成のような永久保存盤です。そして、ここからまた次の世界発信に向けて動き出す予感すら、記念すべき一枚です。

 

久しぶりに一曲一曲ゆっくり聴きました。ファンにとっても節目のような心持ちで、初めて聴いたときのあの感動や、懐かしさ、新しく抱く感情もあったりしながら、久石譲音楽と共に歩んできた時間に思い馳せる、そんなベスト盤です。

コンサートでプログラムされるときを除いて、昔の曲について振り返ること、今感じること、今記すこと。いい機会だと思って、このベスト発売当時ツイッターに一曲ごとコメントしていきました。今回はそれをまとめたものです。一般的な楽曲解説にはなっていないので、ぜひオリジナル盤やベスト盤のライナーノーツなどで、詳しくは紐解いてもらえたらなと思います。

 

いちファンが語るその曲のこと(魅力・思い出・解説)です。あなたが思うその曲のこと(魅力・思い出・解説)と少しでも共感することがあったならうれしいです。ツイートしたそのままをご紹介します。

 

久石譲の約40年間の名曲たち。

久石譲と歩んできたファンも40年・30年・20年・10年。

これから歩みはじめるファン。

ぐるぐる螺旋のように上昇気流にのって。

それは広がり、膨らみ、溢れ、つながり。

このベストアルバムは ” for ALL FANS”。

 

全体

DISC1はオーケストラを中心に、DISC2はピアノやアンサンブルを中心にまとめられています。宮崎駿監督・北野武監督の映画作品を軸にTV・CM音楽まで。ちゃんと聴いてみようかな、そんな人には涙モノです。オリジナル盤より音質も向上しているのでオススメ満点な永久保存盤!

往年ファンのみなさま。新鮮味はありません。でも音質は向上しております。さて、僕はこう思います。レコード会社の都合や予算からではない、世界リリースという大きな意味のある一枚です。応援してきたその人は、そういう人になったんだ。そんな証ですね。受け取りましょう。

オリジナル盤とゆっくり聴きくらべ。ファンにとっても節目のような心もち。『Melodyphony』からの曲は、より音がくっきりになった印象です。全曲ボリュームレベルきれいに統一コントロール、とおして聴いてもまったく古い新しい凹凸は感じない。1988-2016リリースCDから。

たとえば、”The Wind of Life”はオリジナル盤でレベル超えて音割れしてる箇所あるけれど(3:17-,4:00-)、『Piano Stories Best』でそこはキレイになっていて、もちろんベスト盤でもキレイな音質を引き継いでいます。CD盤愛聴、Apple音質やハイレゾ音源は未開拓です。

 

DISC 1

One Summer’s Day
淡い曲だと思った。でもそこに秘められたもの、奥ゆかしさ。時間とともに輝きをましていった曲。ハープ、グロッケン、弦トレモノの舞う光を反射したような音像(2:16-)も、よりくっきりきらめいている。

Kiki’s Delivery Service
おしゃれにドレスアップしたキキがまぶしい。ヴァイオリン・ソロやチェロ・ソロ、一歩前に出たように輪郭がさらに浮き立ち(3:19-)かけあう立体的空間がのびやかに広がっている。

Summer
日本の夏。夏休み。なつかしい夏。戻れない夏。楽しみな夏。この曲には聴いた人の数だけの”わたしの夏”がある。イントロからのピッチカートはこじんまりとかたまらず、高低豊かな弦たちでふくらみ(-1:07)、木管楽器たちの戯れ(3:14-)もみずみずしい。

il porco rosso
ジブリコンサート(世界ツアー中)をベースにストリングスを加えた短縮版。『Melody Blvd.』のサックス版もいい、『PIANO STORIES III』のフリューゲルホルン版もいい、コンサートでしか聴けない久石譲ピアノソロ版もいい。カッコイイとは、こういうことさ!

Madness
この曲を聴きにコンサートを楽しみにしていた時代がある。ソロ作品から提供するかたちとなったこの曲。スタジオジブリ作品に、久石譲の作家性が色濃く反映されるという巡りあわせ。それは、長いジブリ史のなかで大きな価値をもってくると思う。

Water Traveller
大きなメロディ、独特なハーモニーの流れ、咆哮する金管楽器、大きな水しぶきのようなシンバルやドラ。この曲を気に入って類型を見つけようと思ってもなかなか探せない。もし映画のためじゃなかったら、きっと壮大な序曲として絶対的ポジションにある曲。

Oriental Wind
口あたりがいいだけじゃのこらない。消えていくCM音楽はたくさんある。ふと手のとまる印象的なメロディに、現代的アプローチを盛りこみアート性を高めた音楽作品になっているからこそ、今でものこっている曲。○鷹じゃなくて伊右衛門です。

Silent Love
寄せては返す波と、短いサインの紡ぐ以心伝心。唯一、サントラからのオリジナル収録。『WORKS・I』にも壮大なフルオケ版はあるけれど、今ならまたちがったオーケストラ版や室内楽版を聴かせてくれそうな、そんな期待をしてしまう曲。

Departures
チェロの音域は人の声に近いという。チェロが歌っている、語っている。人が歌うように語るように。いや、言葉にならないこと想いをチェロが代弁しているのかもしれない。おくる人おくられる人の魂のふるえ。胸をつくものがある。

ハープ、マリンバなどの打楽器たちの隠し味がすごく効いているさまがよくわかる。ベスト盤を聴いて新鮮な感動だった。この曲だけじゃなく『メロディフォニー』から収録された曲たちは、ほんとみずみずしい鮮度あがっている。音質向上に感謝です。

“PRINCESS MONONOKE” Suite
久石譲が日本人作曲家であることに、そして同じ日本人であることに、喜びと誇り胸抱くのは、”Summer”よりも”Oriental Wind”よりも、この『もののけ姫』の音楽かもしれない。そこにはたしかなDNAの受け継がれがある。むしだしのドメスティック。

The Procession of Celestial Beings
高畑勲×久石譲のタッグでしか生まれなかった曲。監督からのオーダーを見事に結晶してみせた曲。竹取物語のひとつの答えがここにある。ふたりの作品コラボレーションがひとつだけでもあるかないか、あるという歴史的足跡は大きいと思う。

My Neighbour TOTORO
このオーケストラ版は誕生したときから完璧だった。オーケストラの魅力、ピアノの魅力、トトロの魅力、とびきり溢れてる。もっとこうしたほうが、そんな必要のない、誕生したときのまま。それから約20年。驚異的。

ずっと気になってたけど。ベストアルバムを公式見解とするなら、曲名のときは”Neighbour”(イギリス英語)になってて、作品名のときは”Neighbor”(アメリカ英語)になってる。でもまだ、コンサートプログラムとかごっちゃになってるの多い。その心は?

 

DISC 2

Ballade
こんな演奏を聴かせてくれるバーがあったなら。現実から隠れた光をおさえた空間と、お酒でゆっくりきれいに洗い流してくれる時間。そして少しタフになって、少しやさしくなってお店を出ていく。不純物だらけの日常を濾過するとき。

KIDS RETURN
サントラのシンセサイザー版は覚醒させる。フルオーケストラ版は解放させる。このアンサンブル版は青春の鋭利さやトゲをえぐってくる。挑発的に、痛々しいほどまっすぐに。表情もコロコロ変わる。そしてどのバージョンにも清々しい疾走感がある。

Asian Dream Song
歌曲版サビのないこちら原型。羽生結弦選手のおかげで新たな生命とファンを獲得した幸福な曲。そのスポーツとこの曲に共通するのは、芯の強さと芸術性の高み。いつまでも輝きを失わない。”View of Silence”も収録してほしかったですね。

羽生結弦選手「Hope&Legacy」”View of Silence”。『PRETENDER』CD収録曲ですが、2001年福島「うつくしま未来博」上映作品『4 MOVEMENT』(監督:久石譲)でも使われた曲。この曲には東日本大震災、東北への想いが込めれているのかも。”Asian Dream Song”はスケート始めた頃と夢。象徴的な2曲にのせて。

Birthday
名は体を表す。曲名がそうだから誕生日をイメージさせるのか。純粋無垢なメロディの調べがほわほわ温かさをイメージさせるのか。生まれてきた命への、そして幾度巡ってくる誕生記念日への祝福の曲。スイートな曲。

Innocent
いろいろなCDに、いろいろなバージョンで、いろいろな曲名で収録されている「君をのせて」。器楽版は”Innocent”、歌曲版は”Carrying You”となっているのも象徴的。数ある久石メロディのひとつのタイプ、初期からの原石、イノセントなメロディ。

Fantasia
シンプルなピアノ版を聴いても、そのスケールの大きさは伝わる。限られたハーモニーで紡ぐ壮大なメロディは、絵画的でもあり宇宙的でもある。これがアニメーション映画につけられた音楽か、過去・現在・近未来、時間をのみこむ旋律。ここからすべてがはじまった。

「風の伝説」をベースとしながらも、「遠い日々」もモチーフ(3:40-)や「ナウシカ・レクイエム」からも(4:30-)織りこまれたピアノ幻想曲。”Symphonic Poem NAUSICAA 2015″ [The End of the World収録]の4:00-,7:00-などで登場しています。

HANA-BI
HANA-BIとは生と死。刹那にエモーショナルにピアノは語る。すごく離れたものでもなく、隣り合わせでもなく、ひとつの表裏かもしれない。光と影。メロディをささえる重い低音が、生と死のたしかな存在感に胸を燃やす。咲くこと、散ること。

The Wind Forest
現代人が感じる日本の原風景。体験してきたこと、童心、ぬくもりのある光景。ふしぎと古さを感じさせない、昭和・平成・令和、世代を超えてつながる珠玉のメロディ。

Angel Springs
The Wind of Life
『Piano Stories II』は一緒に過ごした時間の一番長いアルバムかもしれない。毎日、365日。少しだけでも曲がらずに育ってこれたなら、感謝しなくちゃ。そういう一枚があるだけで、思い出は甘く切なくいつでも輝く。

Nostalgia
十代にもノスタルジーはある。年代ごとにその質感は変わっていく。昔の記憶で心と体を温める。郷愁たっぷり、ひたりたいときだってある。夕陽のようなぬくもりは、明日への熱源になっていく。

Spring
Summerの姉妹曲。それはタイトルだけじゃない。[ラレミファ(ミーレレー)]の”Summer”と、[ラファソラ(ミーレレー)]の”Spring”。ニ長調の同じモチーフから変奏された姉妹曲。軽やかで爽やかなふたつ。AutumnやWinterは?と待ちこがれた時代がなつかしい。

Ashitaka and San
エバーグリーンな曲。防ぎたかった破壊がある。防げなかった破壊がある。そこから学んだこともある。でも、失われたものの大きさを忘れてはいけない。どんな状況でも鎮魂の祈りを、どんな状況でも希望の願いを。そこからしかほんとうの再生はうまれない。

『銀河鉄道の夜』親和性のある楽曲ひとつ。宮沢賢治に造詣の深い宮崎駿・高畑勲 両監督。先に完成されたその曲を聴いて、とても気に入ったんじゃないかな、同じ空気感や雰囲気でとお願いしたんじゃないかな。真実はわからない。ひとつの空想です。

Ponyo on the Cliff by the Sea
すべての楽器が音をはじいて弾く、音符の粒たちがぷちぷちかわいく跳ねあう。ベストアルバムを聴きながら、ハッとよぎった。「あら、わたし達はもともと泡から生まれたのよ。」グランマンマーレの台詞。音の粒、泡、生命。

Cinema Nostalgia
古きよき映画の時代。それはサイレント映画か、白黒映画か、映写機まわすおじさんのいた時代か。僕らにはわからない。けれど、音楽が運んでくれる佇まい・味わい・香りは、あの時代を感じることができる。心のフィルムに焼きつける。

Merry-Go-Round
回転木馬のアップダウンと、長調と短調の交互する旋律。人生山あり谷あり、一喜一憂。メリーゴーランドから眺める景色は、まるで自分が世界の中心のように廻る廻る。踊るワルツ。宮崎駿監督が命名した”人生のメリーゴランド” タイトルもすごい!曲もすごい!

 

 

DISC 1
1. One Summer’s Day 映画『千と千尋の神隠し』より
2. Kiki’s Delivery Service 映画『魔女の宅急便』より
3. Summer 映画『菊次郎の夏』より
4. il porco rosso 映画『紅の豚』より
5. Madness 映画『紅の豚』より
6. Water Traveller 映画『水の旅人 侍KIDS』より
7. Oriental Wind サントリー緑茶『伊右衛門』CMソング
8. Silent Love 映画『あの夏、いちばん静かな海。』より
9. Departures 映画『おくりびと』より
10. “PRINCESS MONONOKE” Suite 映画『もののけ姫』より
11. The Procession of Celestial Beings 映画『かぐや姫の物語』より
12. My Neighbour TOTORO 映画『となりのトトロ』より

DISC 2
1. Ballade 映画『BROTHER』より
2. KIDS RETURN 映画『KIDS RETURN』より
3. Asian Dream Song 1998年「長野冬季パラリンピック」テーマソング
4. Birthday
5. Innocent 映画『天空の城ラピュタ』より
6. Fantasia (for Nausicaä)  映画『風の谷のナウシカ』より
7. HANA-BI 映画『HANA-BI』より
8. The Wind Forest  映画『となりのトトロ』より
9. Angel Springs サントリー「山崎」CMソング
10. Nostalgia サントリー「山崎」CMソング
11. Spring ベネッセコーポレーション「進研ゼミ」CMソング
12. The Wind of Life
13. Ashitaka and San 映画『もののけ姫』より
14. Ponyo on the Cliff by the Sea 映画『崖の上のポニョ』より
15. Cinema Nostalgia 日本テレビ系「金曜ロードショー」オープニング・テーマ曲
16. Merry-Go-Round 映画『ハウルの動く城』より

 

 

 

 

そして、久石譲ベストアルバム『Dream Songs: The Essential Joe Hisaishi』発売とともに、新たに制作され公開されたMusic Videoたち。

 

Joe Hisaishi – One Summer’s Day

 

Joe Hisaishi – Summer

 

Joe Hisaishi – Nostalgia

 

Joe Hisaishi – My Neighbour TOTORO

from Joe Hisaishi Official YouTube

 

 

オリジナル・リリース

DISC 1
Track.1,2,3,6,7,9,12
Disc. 久石譲 『Melodyphony メロディフォニー ~Best of JOE HISAISHI〜』

Track.4,5
Disc. 久石譲 & 新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ 『The End of the World』

Track.8
Disc. 久石譲 『THE BEST COLLECTION presented by Wonderland Records』

Track.10
Disc. 久石譲 & 新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ 『真夏の夜の悪夢』

Track.11
Disc. 久石譲 『WORKS IV -Dream of W.D.O.-』 *抜粋

DISC2
Track.1,7,13
Disc. 久石譲 『ENCORE』

Track.2
Disc. 久石譲 『Shoot The Violist ~ヴィオリストを撃て~』

Track.3,9,12
Disc. 久石譲 『PIANO STORIES II ~The Wind of Life』

Track.4,11,16
Disc. 久石譲 『FREEDOM PIANO STORIES 4』

Track.5,6,8
Disc. 久石譲 『Piano Stories』

Track.10,15
Disc. 久石譲 『NOSTALGIA ~PIANO STORIES III~』

Track.14
Disc. 久石譲 『Another Piano Stories ~The End of the World~』

 

Also included in
DISC2 Track.5,6,8,9,12,15
Disc. 久石譲 『Piano Stories Best ’88-’08』

DISC1 Track.1,2,12 & DISC2 Track. 6,8,13,14
Disc. 久石譲 『Ghibli Best Stories ジブリ・ベスト ストーリーズ』

 

 

 

世界盤をベースに、デザイン・円盤・英文ブックレットすべて共通です。国内盤は対訳ライナーノーツが封入されています。洋楽アーティストの日本盤に追加でブックレットが入っているのと同じ、世界仕様です。各国盤にも対訳がついてくるんだと思います。

サブスク解禁で久石譲音楽が手軽に聴けるようになりました。海外ファンも公式音源を迷うことなく探せて聴けるようになりました。海外コンサート会場でも文句なしにおすすめできる、ワールドワイド・ベスト。これは総決算・到達点ではなく、新しいはじまりの第一歩です、たぶん。

それではまた。

 

reverb.
次の世界リリースはオリジナルアルバムか、第二弾ベストアルバムか♪

 

 

*「Overtone」は直接的には久石譲情報ではないけれど、《関連する・つながる》かもしれない、もっと広い範囲のお話をしたいと、別部屋で掲載しています。Overtone [back number] 

このコーナーでは、もっと気軽にコメントやメッセージをお待ちしています。響きはじめの部屋 コンタクトフォーム または 下の”コメントする” からどうぞ♪

 

Overtone.第33回 雑音ノート ~倍音をつくれますか?~

Posted on 2020/05/17

ふらいすとーんです。

今回テーマはありません。

メモのように、ひとり言のように。

今思っていることを、サクッと、ポンッと、ランダムに。

 

コメント、Twitter・Facebookでも、

なにかご意見ありましたらお気軽にお待ちしています♪

 

WDO

2019年夏に書いたこと。

”今後の久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラについて。

久石さんはパンフレットで「第2期の区切り」と語っています。2004年~2011年の第1期、2014年~2019年の第2期。ここからは個人の推測です。来年はTOKYO2020オリンピック開催です。交通機関や宿泊施設などの影響も大きく都心でのイベント規制などもあるのかもしれません。ちょうど例年のW.D.O.開催時期とも重なります。2022年公開目指して製作が進められている宮崎駿監督の最新作『君たちはどう生きるか』。(同年には愛知県『ジブリパーク』開業予定もある。)そんな外的要因と、久石さんのこれから先に向けて思うところ、、来年はおそらく、数年の小休止になるのかもしれませんね。”

Blog. 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2019」コンサート・レポート より抜粋)

 

 

2020年WDOは開催されないだろうと思っていました。上に書いたとおりです。開催期間のイベント自粛要請は文化・スポーツ・学校など各方面事前に出されていました。人の集中と移動、交通の混雑、宿泊施設の混雑、会場の確保など。五輪中は五輪イベントに集中したい。そんな思惑が見え隠れしていました。少なくとも例年のように夏WDO開催はないだろうと。がんばって東京以外ではコンサート・ツアーできるかもしれない。でも、東京公演のないWDOって、ちょっと想像できませんよね。

新型コロナウイルスの影響で五輪は2021年夏開催予定されています。オリンピック・パラリンピックに向けていろいろな準備調整がまた始まります。そして、同じようにまた、あらゆるイベントの同時期自粛要請が出ることになるんだろうと思います。

もちろん、久石さんは2019年に語った時点で、もっとほかの理由や思うところもあって、1年?数年?WDO休止することを決めているのかもしれない。

2020年春から夏にかけての久石譲コンサートは、国内公演も海外公演もほぼ延期、来年に日程調整されています。オーケストラのスケジュールもあるので、音楽イベントは1~2年先まで予定をみます。単発ならフットワーク軽く運良くすべりこめるかもですが、ツアーや海外公演はまた別の事情も発生します。

さて、次のWDOはいつ?

冬ツアーもいいですね。

(新型コロナウイルスの継続的影響や五輪開催には…ふれません)

 

 

こんなとき

コンサート開催できない。じゃあ、レコーディングでもしますか! とはいかないですね。3密です。各オーケストラ団体も公演はおろか、リハーサルすらできない。3密です。会場にお客さんが集まる以前に、オーケストラはステージであれスタジオであれ、密閉空間・密集状態・密接状態での演奏です。演奏にあわせて呼吸も深く大きくなるし、管楽器は息を吹き込む楽器です。人数が減った室内楽やアンサンブルでも状況は同じです。まいった。

 

 

こんなとき

新しいレコーディングはできませんが、過去の未発売音源、CD化されていない曲たちを発表しよう! そんな企画をすすめることはできますね。新しい書籍化の企画とか、新しいスコア化の企画とか。どうでしょう。第2弾の世界ベスト盤の企画もすすんでいるかもですね。どうでしょう。

エンタメ界からの仕事はあったのかな?新しい映画音楽やTV・CM音楽とか。それもまた、撮影スケジュールなんかに影響も出てくる話でしょうし。どうでしょう。

久石さんは、オリジナル新作を書き下ろしたりしているでしょうか。どうでしょう。

今発表したい作品があったとしてもレコーディングできない、今聴かせたい作品があったとしても演奏会を開けない。でも、僕らはいつかのそのときを信じて希望をもって待つ!

 

 

ジブリコンサート

世界ツアー中のコンサートも、来年へ持ち越された公演たち。ヨーロッパ・アメリカを廻り、アジアを廻り、日本凱旋公演。きっとそんな数年越しの大プロジェクトなんだろうと楽しみに信じています。日本凱旋のときには、2008年武道館コンサートからさらにパワーアップ! 宮崎駿監督最新作もプログラムされるのかもしれない!

会場規模を考えると、都心のみ公演かもしれない。そんな予定かもしれない。なんとかがんばって、1~2万人動員規模の各地方公演まで広げてほしい。2020年2月のメルボルン公演のように野外コンサートだったら、日本でもたくさんの人が集まれるかもしれない。元気に楽しみに待ちたい!

 

 

ネクスト・ジブリコンサート

新型コロナウイルスに世界が打ち勝った日には。スタジオジブリ交響組曲シリーズでツアーを廻るのはどうでしょう。関東は「風の谷のナウシカ」「天空の城ラピュタ」、東北は「となりのトトロ」「魔女の宅急便」、関西は「紅の豚」「もののけ姫」のように。順番に当てはめただけでも、なかなかの充実度です。久石譲オリジナル作品も組み込める時間枠もありますね。

本家本元、WDOコンサートで新日本フィルと廻るのもいいですね。はたまた、全国津々浦々、その地域をくまなく廻れるように、地方オーケストラと廻るのもいいですね。地域ごとのオーケストラと地域ごとのプログラムなら、オーケストラの負担もぐっと減る。久石さんの負担はぐっと数倍にもなるけれど。。そうやって、全国のオーケストラ団体や会場施設が活き活きするなら、音楽がつくりだすパワーは無限です。

 

 

質問箱

最近ツイッターの質問箱なるものが気になっています。ファンサイトのアカウントで質問箱開設しようかなあ。ここに久石譲にまつわる質問を受け付けて、答える。答えるんだけど、僕じゃわからないこともたくさんあるから、「誰か答えてー」と投げる。誰かが答えてくれる。

Yahoo知恵袋のようなものですね。でも、それと違うのは、いい塩梅で匿名性が希薄になる。ツイッターのやりとりだから、相互にアカウント(ツイッター上の人となり)がわかっている。無責任な、強い口調で吐き捨てるような、攻撃的な回答をする人はいないでしょ? ファン同士の親切心で交流できるんじゃないかなあ。

あっ、質問者は匿名、誰かわからないのか。でも、ファンサイトのアカウントで回答、もしくは回答を投げたものに、親切な人がリプライで回答したらいいですよね?ちがうのかな?

ファンサイトのフォロワー数は1500くらい。だから、そんなに活発な質問回答のキャッチボールはないんじゃないかあ、緩やかなペースと環境でできるんじゃないかなあ、と思っています。そして、どこかのタイミングでQ&Aとしてたまったものを、ファンサイトによいしょと置いてしまう。カテゴライズできるなら整理する。そうすれば、未来の質問者のためにも、いい道案内になるんじゃないかなあ。

どんな質問があるのは想像できないですけれど。たとえば「最近久石さんのファンになりました。どのCDから聴いたらいいですか?」とその回答。たとえば「この曲がすごく好きです。そこからほかのおすすめはありますか?」とその回答。「コンサートに行くときの服装は?」とその回答。「ミニマルってなんですか?」とその回答。「この曲の、久石さんがコンサートで弾いてるの同じ楽譜はありますか?」とその回答。あんまり思いつかない。軽いものも、コアなものも、いろんなことが飛び交うと、楽しいし気づくこともあるのかなあ。

ファンひとりひとりにファンとしての歴史があります。歩んできたなかで、当たり前になってしまっていること、空気のように知っていること。誰かから質問されて、知らない人もいるんだ(知らなかった過去の自分をはっと思い出す)、そういうのってどんどん増えていきますよね。

いらないかな? あってうれしい人いるかな? ファンサイトにBBSや掲示板は常設しないです。気軽になんでも書きこめるコミュニケーションツールというよりも、目的がはっきりした(質問と回答)コミュニケーションになって、それぞれのファン交流も広がるかもしれないし、いいんじゃないかなあと、楽観的に思っています。

質問があるまる場所、質問に答えてくれる場所、それが響きはじめの部屋のなかのスペースにある。そんなイメージです。

どう思いますか?

 

 

アンケート

『メロディフォニー』久石譲ベストアルバム発売当時、事前に曲のファン投票企画がありました。そういうイメージ。『メロディフォニー2』があるならこの曲をオーケストラ・レコーディングしてほしい! そんなファン投票ページがあってもいいなあ、と思っています。

期限のない常設、ファンによる人気曲アンケート。新しい曲が発表されれば、候補も追加されていく。集計結果(途中集計)もいつでも見れるもの。あの曲そんなに人気あるんだあ、これ聴いたことなかったから聴いてみようかなあ、とか誰が見ても楽しめますよね。

ファンの意思とかリアクションがかたちとなったものだし、伝えることができるし、なんか風通しよくていいなあ。

ただ、このアンケート企画はずっと思っているんですけど、思っているだけ。いかんせん、どういうツールを使ったらいいのか、ウェブのプログラミングを依頼するとか、まったくわからんのです。簡単に使えそうで、イメージにかなうツールがなかなか見つからない。

もしこんなファンの人気曲が、巡り巡って久石さんサイドに伝わったとしたら。WOW! コンサートの演目に影響したり、CD収録曲に影響したり、もしかすると『メロディフォニー2』の発売きっかけになったりでもしたら! ファンたちで動かした歴史だ。そんなことにもなるかもしれません。なんてね。

どう思いますか?

 

 

 

 

上の画像は、当時オフィシャルサイトで募っていたリクエストページです。3つまでチェック入れて投票できる。リストにない場合は枠内に書きこめる。シンプルでわかりやすいですよね。

こういうのでいいんです。ただ、これは送信するタイプです。リクエストを送って、その集計結果は後日開示してもらわないとわからない。

僕が希望しているやり方は、投票して、かつ集計結果もリアルタイムで見れるもの。投票しなくても、集計状況が誰でも見れるもの。オープンなアンケートページです。

いや…

そこにこだわらなくてもいいかあ。リアルタイムで見れることに。ここにこだわるとツールが見つからない。もしできないなら、同じようにリクエストを送信して、吸いこまれる一般的なタイプでもいいです。その場合、アンケートの途中経過(集計結果)の更新は、月1くらいになるとは思いますけれど。今こんな感じですよと。それでもいいかあ。…

どう思いますか?

 

 

おわりに

とりとめもなく記しました。読みづらさ、お許しください。僕の目標として、Overtoneしたいことや特集としてまとめたいことなんかも宿題で抱えながら。だいたいがとろい人、だから、なんでもかんでも手をつけられないし、ゆっくりコツコツしかできない。

質問箱もアンケートも、空想でおわるほう可能性のほうが高い。今は強くそう思っています。胸張って言うことじゃないですね。期待しないでください。期待するような話じゃなかったかもしれないですね。

 

ただ、なんか反応があるとうれしいなあ!

 

なにかのきっかけになるかもしれないと、

今思っていることを、サクッと、ポンッと、ランダムに。

それではまた。

 

reverb.
Overtoneの画像に使っている下の3つの波形は、ある3つの楽器の倍音波形です♪

 

 

*「Overtone」は直接的には久石譲情報ではないけれど、《関連する・つながる》かもしれない、もっと広い範囲のお話をしたいと、別部屋で掲載しています。Overtone [back number] 

このコーナーでは、もっと気軽にコメントやメッセージをお待ちしています。響きはじめの部屋 コンタクトフォーム または 下の”コメントする” からどうぞ♪

 

Overtone.第32回 Textsに寄せて ~雑文集ノススメ~

Posted on 2020/04/27

ふらいすとーんです。

このたび「Texts」ページができました。久石譲があらゆる媒体で発信したインタビューを一覧リスト化したものです。雑誌・新聞・Webなどで「久石譲が語ったこと Joe Hisaishi Interview」。

ファンサイトを運営するにあたり、ある時期からこれまでの雑誌インタビューを整理したり、切り抜きファイリングしたり、持っていなかったものを入手したり、知らなかった掲載情報を調べなおしたり。手元のコレクションを整理整頓するのと並行して、ファンサイト内でも内容紹介してきたものたくさんあります。

数年かかりました。ここでようやくひと区切り、まとめてきたものをインデックスしてご紹介しようと「Texts」です。

 

Texts

 

 

一覧リストにするにあたってどう並べようか。スタジオジブリ作品など映画ごとにまとめたほうがいいのか、CD作品ごとにまとめたほうがいいのか。そのほうが見る人も目的をもって探しやすいかもしれない。でも、ひとつの雑誌インタビューのなかで語られていることは、そのときの映画のことCDのこと重層的です。だったらと、シンプルに年代順に並べることにしました。そして、大見出しも載せることで、どういう内容について語られているのか、内容を開く前に目安にしてもらえるかもしれないと。

年代順に並べるメリットはあります。音楽担当したあの映画、リリースされたCDやその他音楽活動。いつの出来事なのか年表はわかっている、その年あたりに照準を絞って探してもらったなら、何か語っていることがあるかもしれない、ないかもしれない。わかりやすいものさしになります。

 

なぜやるのか?

ぜひこちらをご覧いただけたら幸いです。

 

雑文集ノススメ

あらゆる時期に、あらゆる媒体に、あらゆる分野のことを語っている久石譲。これら色とりどりのインタビューたちが、いつの日か一冊の本にまとめられたらいいなあと思っています。これまでの久石譲著書の特色は、ある時期の音楽活動に深く切りこんで記録したエッセイのようなもの、雑誌連載から書籍化されたもの、対談、これらが中心です。つまりそこには、時間軸や内容軸としてテーマがあります。それは局所的な狭義的な範囲でもって凝縮されている、本にもまとめやすい。

ある作家や作曲家のなかには、点として雑誌や新聞で発表してきた掲載物を、無造作にまとめたようなインタビュー集、いわば雑文集のようなかたちで出版されたものがあります。僕は、久石譲著書のなかにも、こういった性格のものがあってもいいんじゃないか、いやむしろ、あってしかりじゃないかくらい思っています。

思っている理由をすすめていきます。

 

◇インタビューのよさ

なんといっても、その時々の濃く深い内容が語られています。それが映画の音楽制作なのか、オリジナルアルバムなのか、コンサートなのか。いずれも、そのときの旬な話題について非常に高い鮮度で語られています。ホット=記憶が新しい、時間をおいて振り返ったときには語らないようなこと忘れてしまうようなことも、リアルタイムの濃密さがそこにはあります。

インタビュアーをおかずに久石譲だけが語っているタイプもあります。インタビュアーの質問に答えるタイプもあります。前者が語りたいことを語るなら、後者は聞きたいことを語らせる。また、インタビュアーが聞き手に徹していたとしても、必要な合いの手や質問を得ることによって、よりわかりやすく読者に届くようにかみくだかれる、インタビューという空間の魅力です。

そこで語られるテーマも、発信元メディアの特性を生かしたものもあります。音楽話はもちろんビジネスに置き換えれることだったり、切り口のバリエーション豊富です。

 

 

少しだけ選んだものをご紹介します。

 

「感性に頼って書く人間はダメですね。2~3年は書けるかもしれないけれど、何十年もそれで走っていくわけにはいきません。自分が感覚だと思っているものの95%くらいは、言葉で解明できるものなんです。最後の5%に行き着いたら、はじめて感覚や感性を使っていい。しかし、いまは多くの人が出だしから感覚や感性が大事だという。それだけでやっているのは、僕に言わせると甘い。ムードでつくるのでなく、極力自分が生みだすものを客観視するために、物事を論理的に見る必要があります。」

Blog. 久石譲 『WORKS IV』 発売記念インタビュー リアルサウンドより 抜粋)

 

 

「例えば、2時間の映画を手がける場合、1本につき30数曲、ややシリアスな作品で曲数を減らしても15~16曲を書かなければなりません。それらの曲を本編のどの部分に付けるのか。いわば、音楽が流れない沈黙の部分も含めた、2時間の交響曲を書くようなものです。メインテーマがひとつ、サブテーマが複数あるとして、それらのテーマをどのように配置していくか。同じテーマを悲劇的に使ったり、軽く流したりする場合も、画面と呼吸を合わせていかなければならない。それらをすべて構成し、組み立て、全体のスコアをどう設計していくか。その95パーセントは、テクニックで決まります」

Blog. 「オールタイム・ベスト 映画遺産 映画音楽篇 」(キネ旬ムック) 久石譲 インタビュー内容 より抜粋)

 

 

「でも、そのことが良い音楽を作る決定的な要素になったんですね。全部で8トラックしかないということは、ハイハットとキックとスネアを使って、ベースを入れて、キーボードが4声だったらもう終わり。すると、そこで工夫が必要になってくるんです。当時、FAIRLIGHTのシーケンサーを使わせたら、僕は絶対に世界一うまかったと思いますよ(笑)。壮大な音を8つの音だけで、いかに作り上げるかということを考えることが、ものすごい訓練になり、その感覚は現在に至るまでずっと続いています。今のように、1チャンネルだけで幾らでも音が出るような環境でやっていると、90%以上は無駄な音を入れてしまっていると思いますよ。ああいうふうに音楽を作っていては、感性は育たない。必要なのは、いかに無駄な音を使わず、しかも色彩豊かに作り上げるかという訓練だと思います」

Blog. 「キーボードマガジン Keyboard Magazine 1999年8月号」 久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 


これ、好きな話です。当時読んだときよりも今のほうがよく響いてくる。1980年代初期シンセサイザーでの作曲活動がメインだった久石譲です。8つの音(チャンネル)だけで音楽を成立させるという訓練は、つきつめれば、フルオーケストラ作品を弦楽合奏や弦楽四重奏という限られた声部に置き換えることができるということ。フルオーケストラが30~40チャンネルあるとしたら、弦楽四重奏は4チャンネル(ヴァイオリン×2,ヴィオラ,チェロ)です。音楽編成を変幻自在に拡大・縮小して再構成する久石譲の技は、こういった時代の経験のなかで磨かれてきた。もっとさかのぼれば、源流にクラシック音楽の教養があったからこそです。なかなかに深いお話だと思います。

 

 

「難しかったんだよね。それまでガッチリとコンセプトを組んできたんだけれど、最後の最後で自分を信じた感覚的な決断をしたということです。あの弦の書き方って異常に特殊なんです。普通は例えば8・6・4・4・2とだんだん小さくなりますね。それを8・6・6・6・2と低域が大きい形にしてある。なおかつディヴィージで全部デパートに分けたりして……。チェロなんかまともにユニゾンしているところなんて一箇所もないですよ。ここまで徹底的に書いたことは今までない。結果として想像以上のものになってしまって、ピアノより弦が主張してる……ヤバイ……と(笑)。」

Blog. 「キネマ旬報 1996年11月上旬特別号 No.1205」 久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 


これは『Piano Stories II』のお話です。ちょっと聴き方が変わりますよね。ほかにも、たくさんのインタビューのなかには音楽制作の貴重な過程、録音や収録に使われた専門的な機材のことも話題にのぼったりします。手元にあるインタビューをすべて読み返し、各CD作品ページで必要な情報(インタビュー内容)はあわせて紹介しています。気が向いたら、好きなCD、気になるCDの”Disc.”ページものぞいてみてください。今まで知らなかったエピソードが、そこにあるかもしれない、ないかもしれない。

 

 

「コントラバス・コンチェルトやエレクトリック・ヴァイオリンなどのソロ楽器を持つ曲を書くときは、いつも楽器を買うんですよ。コントラバスのときも買って、響きを体感するために毎日作曲の前に15分くらい弾いていましたね。だから今回もバンドネオンを買おうとしたけど、売ってないんです!もう作ってないですし。それで三浦くんに相談したら、お持ちの楽器の中の一つを貸していただくことになって。それを毎日弾いてたんですけどね、弾いたって言ってもまあ、びっくりしました。こうやって引っ張ってレ~って鳴ってるのに、押したらミになっちゃうんだよ!違うんだよね。往復で違うんだ音!みたいな! キーの配列もまるで規則性がない。これじゃ覚えられない……。でも逆に、このバンドネオンだからこそ(配列のおかげで)音の跳躍ができるというのがわかってきた。裏技を使えばなんとかなるんじゃないかみたいな。ということがあって、あとは信頼して書くしかなかった。」

Blog. 「LATINA ラティーナ 2018年1月号」 久石譲×三浦一馬 対談内容 より抜粋)

 

 

「小学校の音楽の授業で習うことですけど、音楽の中には”メロディー”と”ハーモニー”と”リズム”という三要素があるんです。僕らが音楽を作る上でも重要なのはこの三要素なんですよ。今回、メインテーマの”メロディー”が非常にシンプルで分かりやすいので、”リズム”や”ハーモニー”が相当複雑な構成になっても成立するんです。そこは良かったところですね。この曲の良さは、”ポ~ニョポ~ニョポニョさかなのこ”という最初の部分のメロディーですべて分かってしまうところ。そのメロディーを認識させるために4小節とか8小節とか必要としないですから。1フレーズだけで分かるので、どんな場面でも使えるんです。すごく悲しい感じにもできるし、すごく快活にもできるから、いくつでもバリエーションが作れるんです。メインテーマのアレンジを変えて使うという方法は、前作の『ハウルの動く城』の経験が生きましたね。今回、『崖の上のポニョ』でも徹底的にアレンジを変えました。使い回しは一つもありませんよ」

「音楽を入れるのに楽なところは一つもありません。その中でも悩んだところは、宗介が”リサ!リサ!”って叫ぶ場面と、その後のおばあちゃんたちがいる”ひまわりの家”が水没している場面ですね。ひまわりの家の場面には音楽が必要だと思ったんですが、そうすると宗介のシーンには音楽が入れられないなって。2つの連続する場面のどちらにも音楽が入っていたら”音楽ベッタリ”な感じになってしまいますからね。僕も宮崎さんも悩んだんですけど、宗介のシーンには音楽は要らないという話になりました。ところが、作っていくうちに、”やっぱりこれだとおかしい”っていうふうに思えてきたので、宗介のところにも音楽を入れることにしたんです。でも、ひまわりの家の部分がフルオーケストラなので、違いが出せるように宗介のところはピアノ一本で入れることに。いやぁ、うまくいきましたね。惜しいのは、僕のピアノがちょっと強かったことかな。オケの録音の後にとったので、ちょっと力が入り過ぎたみたいです(笑)」

Blog. 「別冊カドカワ 総力特集 崖の上のポニョ featuring スタジオジブリ」(2008) 久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 


ジブリ音楽に関しては、一番インタビューの質量ともに豊富かもしれません。映画ごとにたくさんのエピソードがあります。こういうのを読むだけでも、ファンはワクワクうれしいですよね。どれどれ「28.宗介のなみだ」聴きなおしてみようか、なるほど言われてみれば、愛着ますなあ、なんてことも。

 

 

「そうなんです。音楽としてつまらなくて、それが実は「劇伴」というやつなんですが、そんな単体で聴いたらつまらないものを何となく流しておくみたいな、そんな音楽なんてつけちゃマズイですよ。映画の音楽をやったことがある作曲家にね、「久石さん、映画の音楽って安いでしょう」って言いにくる人がいるんです。そのとき「あ、ごめん、俺、恐らく日本の映画の4、5本くらいの音楽予算がないとやらないから、決して安くないよ」って、はっきり言いますよね。「これはぜひ久石さんの音楽が欲しい。でも予算がなくて」なんてさ、それで役者の衣装に費用をかけたりするとさ、「こらっ」って、思うじゃないですか。だったら衣装の一つや二つ削って、音楽予算を作ればいいじゃないかと。例えば「内容さえよければ、どんなに低予算でも私はやります」っていえば、それは70点の回答なんだけれど、それって逃げてる言葉なんです。自分をカヴァーしているだけ。「安いものは基本的にやりません」って言う方が誠意があると思う。」

-それは久石さんを追い込み発言ではありますが、映画音楽ってお金が必要なんだという認識にもつながりますし、当然いい音楽を作るにはお金がいる。

久石:
「いります。シンセで後ろにちょこっと流しておこうという話でなければ、やはりちゃんとお金をかけなければいけない。もし僕が安いギャラで引き受けてしまったら、後に続く連中がもっと安くなってしまう。だれかが突っ張って言っていかないと、ほかの連中がもっとかわいそうになってしまう。自分が置かれた立場を考えると、責任感というものが少しは芽生えましたね。そういう意味では発言の場を作って、機会のあるごとに言っていかないと、日本の映画が豊かにならない気がするんですよ。自分自身がやりやすくなるためにも環境を作っていかなければいけないんです。」

Blog. 「キネマ旬報 2000年7月上旬 夏の特別号 No.1311」 久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 


こんな久石さんも好きです。そしてちゃんと芯がある。

 

 

「この次は絶対にクリアーにしようと、絶えず線になって反省して、さらに理想的な高い完成度の…、ここが難しいんですけどね。完成度が高ければいい音楽になるかというと、ものすごく立派な譜面を書いたからってそうはならない。むしろちょっと粗っぽく書いて、なんだかなあっていうときのほうが、人々に与えるインパクトが大きいケースもありますからね。実のところ、音楽がまだわからない。だからたぶん、10年後もそういうことに悩みながら、『いい音楽をどう創ろうか』と考えていくんじゃないかと思います」

Blog. 「MUSICA NOVA ムジカノーヴァ 2007年3月号」久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

「結局、クオリティを上げるのは努力しかないんですよ。一にも努力、二にも努力。自分が納得するまで、これでいいと思うまでやり続けるしかない。それだけです。だから絶えず不安です。書けなくなるんじゃなうかとか、今回は本当にできるのかとか、いつも不安を抱えている。でも、そうするとどこかでアドレナリンがぶわっと出て、意欲が湧き上がってくれる。それで仕事をなんとか乗り切ってる。かっこいいことなんか何もない。いつもギリギリ。でも仕事って、そういうものじゃないですか。のた打ち回れば、のた打ち回っただけ少しはよくなるだろう。そう信じて、最後の最後まで粘り続けられるかどうか。それで作品の質は決まるのだと思う」

Blog. 「GOETHE ゲーテ 2013年7月号」映画『奇跡のリンゴ』久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

「久石さんとは同じ時代を生きてきたと思う」。宮崎が語る。「作るに値する映画はいつの時代にもあるだろうという仮説のもとにやってきました。そのたんびにいっしょにやろうと。ここまで来たら最後までいっしょにやると思う。彼の音楽はぼくの通俗性と合っているんですよ。彼の音楽の持ち味は”少年のペーソス”です。それは彼のミニマルの底流にもあるし、『ナウシカ』のときからあった。映画によって隠したり、ちょっと出したり、うんと乾いて見せたり。手を替え品を替えやりながら生き残ってきた人だから、そう簡単に手札を見せるわけがない。でも”少年のペーソス”はずっと変わっていない。そこがたぶんぼくと共通している」

Blog. 久石譲 雑誌「AERA」(2010.11.1号 No.48) インタビュー より抜粋)

 

 

◇対談のよさ

これまでに各界著名人と対談しています。その魅力をひと言でいえば、対談で起こる化学反応な話題の広がりです。プロのインタビュアー(音楽や各業界に精通している人)であれば、こんなことは聞かないよなあ、でも!読者としては聞いてくれてありがとう!な話。思いもよらない切り口や質問がとんでくる。キャッチボールが豪球になっていったり、あるいはラフなゆるい空気になったからこそ生まれる会話。積極的には語ったことないんだけど、聞くなら答えるよ、そんなナイストス!の応酬も対談の面白さです。

インタビューに答えるための、もちろんプロモーションの側面も担った、準備された回答はぐっと減ります。その場、その時、空気、一期一会。これらの貴重な話は、この相手だから聞けたこと、このタイミングだから語られたこと、会話が生きもののように躍動感あるものになっています。

 

 

少しだけ選んだものをご紹介します。

 

秋元:
僕らはよくいろんな方とコラボレーションをするじゃないですか。ドラマでも映画でも悲しいメロディーというと、普通の音楽監督というのは聴いただけで悲しい曲を書いてきてくれる。でも驚かないんですよ。脚本でも音楽監督でも役者でも、やっぱり一緒にやった人が自分が投げたアイデア以上ものもを返してくれて、お互い驚きあいながら作っていかないとダメなんですよね。今回はそこが非常におもしろかった。日活の会議室で初めてブルガリアン・ヴォイスを聴いた日、久石さんが曲を流す前に「いっちゃっていいですか?」と訊ねられて、曲を聴いたら本当にいっちゃってた(笑)。すごくいいなあと思った。作詞でもそうなんですけど、どこまで奇を衒っていいかを判断するのは難しいんですよ。ただ奇を衒ってるだけだと単なる企画もの、イロモノになっちゃう。だから微妙に奇を衒っている新しさ、そこが一番難しいんですよね。

久石:
単に奇を衒うというのはできるんだけど、それがどう主題に関わってくるかですね。それができたのはやはり秋元さんに対する信頼です。受け止めてもらえるというのがあったので。こちらが窮屈にならずに持っているアイデアをぶつけられたんです。

秋元:
いや、それはプロの技ですよ。ブルガリアン・ヴォイスから嵐のシーンのオーケストレーションまで幅が広い。ブルガリアン・ヴォイスだけのアイデアを出せる人はブルガリアン・ヴォイスのテイストで最後までいっちゃうんですね。そうすると今度は映像と音楽が分離してしまう。それにしてもラッシュの音がない時に比べて数百倍良かったです。

久石:
日本映画としては本当にお金を出してもらったんですよ。ホールでオーケストラをきっちり録れるなんてまずないですから。これだけの規模でできたからこそなんです。

秋元:
オーケストラというと、それだけの人数と楽器を集めて、ホールまで借りるのは、すごくお金がかかる。だから大抵みんな打ち込みでやるんですけど、久石さんがホールでモニータに映像を流して同時に録ろうとおっしゃった。すごく贅沢ですよ。アメリカではそういうシステムが整っているけど、日本ではなかなかできない。

久石:
設備が整ったところで録るわけではないので、レコーディング機材を全部運び込まなくてはいけなくて、ものすごく大変なんです。しかもいろいろトラブルがあるし。

秋元:
我々も、いつもああいうことができると思ってはいけないんですね。

久石:
でもこの先デジタルになったら、もっとああいうやり方の重要性が出てきますよ。ホールのアンビエントがそのまま再現されるから、とても奥行きが深くなる。

Blog. 「秋元康大全 97%」(SWITCH/2000)秋元康×久石譲 対談内容 より抜粋)

 

 

 

久石:
ものをつくる場所というのはこだわりますよね。雰囲気的にものをつくれる環境を選びます。レコーディングスタジオに入るとミュージシャンやスタッフなど人も大勢いますし、作業場ですね。今日もこの取材後にスタジオに移動してCM音楽のレコーディングをするのですが、完成させた譜面を持ってスタジオに入ります。やはり曲づくりの場所とは分けています。演奏しないことにはレコーディングにならないので、レコーディングする場所としてそこはきちんと分けています。

稲越:
その場でアレンジとかして違ってきたりするのですか?

久石:
僕はスタジオに入ってしまったらもうまったく変えません。

稲越:
えっ、変えないんだ……

久石:
レコーディングは誰よりも早いと驚かれます。二日間のレコーディングを予定していても、たいてい一日目で半分以上の曲数を録ってしまいますから。一日の場合も、二一時までスタジオを借りていたとしても、一八時、一八時半には終わってしまうことが多いです。このあいだ久しぶりにスケジュールの組み方の問題もあり、遅くなることがありましたけど、これなんかは例外です。

Blog. 「CUE+ 穹+ (きゅうぷらす) Vol.12」(2007) 久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

 

冨田:
「いや、ほんとうにぼくらの仕事は肉体労働だよ。やっとこの頃、どうにか自分でコントロールできるようになってきたけど。久石さんなんか、いまが死ぬほど忙しいでしょう? 仕事がいろいろな方向へ拡がっているものね。すごく興味を持って見させていただいているんですよ」

久石:
「いやいや、ボクにとっては、一瞬のうちに響きやサウンドが聴き手の耳を惹きつけてしまうという冨田さんの仕事がいつも一番気になってきたものなんです」

Blog. 「CDジャーナル 2002年4月号」 冨田勲 vs 久石譲 対談内容 より抜粋)

 

 

 

林:
「坂の上の雲」のテーマ音楽が聞こえると、意味もなく悲しくなるんですけど、雲の向こうに壮大な世界が広がっていくような気がして。あの音楽を聴いただけで、みんな胸がキュッとなるんじゃないですかね。

久石:
それはすごく嬉しいです。ああいう大型のドラマになると、大河ドラマのオープニングみたいに、「ジャジャジャ~ン!」という派手な音楽で出るのがふつうなんでしょうけれども、僕、そうはしたくなかったんです。あれだけの大作なんだから、その精神を受け止めるような、バラード的なもののほうがあの世界観が出るんじゃないかと思ったんです。

~中略~

久石:
映画の音楽だとかをしばらくやってると、飽きちゃうんです。「これでいいのかな」と思うと、逆に完全に作品風に振っちゃって。そうすると今度は独りよがりになりがちなんです。あっちでぶつかり、こっちでぶつかり、の繰り返しですね。

林:
團伊玖磨さんみたい。團さんは大作を書く一方で、シンプルで、みんなが好きな「ぞうさん」もお書きになっていて、懐の深さが似てますね。

久石:
「ぞうさん」は、まど・みちおさん作詞で、あれは名曲ですね。ああいうシンプルな曲ほど難しいんです。「♪ぞーうさん ぞーうさん おーはながながいのね……」って、言葉のカーブとメロディーカーブが一致してるんですよ。

林:
ほおー、そこまで考えたことなかったです。「♪歩こう 歩こう……」(「となりのトトロ」の主題歌)もカーブが合ってますよね。

久石:
合わせてます。ポニョ(「崖の上のポニョ」)もそうですね。

Blog. 「週刊朝日 5000号記念 2010年3月26日増大号」久石譲×林真理子 対談内容 より抜粋)

 

 

 

淳:
僕は宮崎監督が久石さんの楽曲に合わせて物語を作ってる部分もあるんじゃないかって思ってるんですが、その辺はどうですか? 「その曲ができたなら、こういう演出にしていこう」って。だって音楽があまりにも作品にマッチしてますもん!

久石:
それはたぶんないと思います。確かに早い時期にイメージアルバムを作って、それを宮崎さんがお聴きになってるっていうのは聞きますけど、非常にピュアに絵コンテをしっかり描かれる方だから。

Blog. 「月刊サーカス CIRCUS 2012年4月号」FACTORY_A 久石譲×田村淳 対談内容 より抜粋)

 

 

ほかにも、鈴木光司さん、飯島愛さん、そして対談本もある養老孟司さんとは、共著以後に2~3回ほど雑誌をとおして対談しています。

 

 

◇本としてまとめることが大切

スタジオジブリ関連本はたくさんあります。そのなかに、宮崎駿監督・高畑勲監督のインタビューをあつめたものも、きっちり歴史をのこすように出版されています。

鈴木敏夫プロデューサーは、こう語っています。

”以前、高畑勲・宮崎駿がいろんな媒体で書き散らかした文章、話したインタビューを、年代順にまとめた本があると便利だと思い、それぞれ一冊にまとめました。文庫も複数の出版社からばらばらに出ているんじゃなくて、一社でやってもらえないかなと”

 

Overtone.第27回 「映像から音を削る 武満徹 映画エッセイ集/武満徹 著」を読む ~ウソとマコト I~ で題材にしたこの本も、巻末に《初出一覧》がぎっしり掲載されています。○○○○年○月○日○○新聞、○○○○年○○雑誌○○月号というように。もしこういった編集作業をへた書籍化がなければ、今読むことはできなかったでしょう。

 

 

◇久石譲論 本ノススメ

宮崎駿も、高畑勲も、北野武も、武満徹も、ほかにもたくさんのプロフェッショナル。映画界、音楽界、スポーツ界。自らのの著書とならんで、そこには研究本があります。”宮崎駿論”は国内にとどまらず海外専門家によっても多数執筆されています。解説・分析・批評・論考・攻略・研究・専門・特集、どんな言葉を使ってもいいです、そういった類の書物。深く切りこんだタイプのものは、そんな視点や考察もあるのかと楽しく驚かされますし、クロノジカルにまとめたタイプのものは、まさに年代記、歴史の足跡を紐解く充実度があります。

 

でも、久石譲の音楽活動について、

そういった本はない。

ずっと不思議だったんです。

なんでないんだろう?

あるとき、ひとつの答えを得た。

 

それは、歴史的資料の絶対数が少ないからじゃないか。歴史的資料を本という単語に置き換えてもいいです。研究したいにも、分析したいにも、資料が少なければできません。どういう制作過程だったのか、当時の環境や志向性は、その時にどんなことを語っていたのか。可能なかぎり集めて広げて、自分なりの論考にまとめていく。

音楽という特性についても。音楽を聴いただけで語るなら、それは解説こそできても、深く鋭い研究はできません。もし仮に、音楽という素材だけで扱うにしても、そこには必ずスコアが必要になります。いくらプロの音楽評論家といえど、聴いたものだけで分析して語れというのは、とても難しい。

宮崎駿監督の著書は11冊あります(対談・インタビュー・共著も含む)。さらに、「ジブリの教科書 シリーズ」のように、各作品で本をまとめたものにも、製作当時のインタビューは収録されています。付随する製作スタッフ(原画・動画・色彩・声優・プロデューサーなど)の話から、浮かび上がってくることもあります。そして「イメージボード集」や「絵コンテ集」、これが映画をつくるための設計図になります。このような重層的な歴史的資料の充実と提示こそ、今なお論考を活発化させ深めさせている要因のひとつだとしたら。

スコアは音楽をつくるための設計図です。ベートーヴェンの音楽を専門的に分析するなら、そこには片手にスコア、片手に資料を準備して臨みますよね、たぶん。音楽評論家は、そこから新しい見方や解釈を得て、議論を深め、音楽と一緒に歴史的価値を引き継いでいく。ここは大切! それが指揮者や演奏者だったらどうでしょう。そこには片手にスコア、片手に資料を準備して臨みますよね、たぶん。深い理解を求め、新しい視点を模索し、”今”という時代に照らし合わせて表現豊かに奏でられる。長く演奏され聴きつがれる音楽になる。

 

僕は、ひとつの答えとしてそう導きました。

 

すべてを包括できてはいないけれど、ひとつの要因として、少しは当たっているような気がしています。つまるところ、僕が強く希求しているのは、「新しい聴き方」のサンプルの提示です。こういう聴き方もある、こういう背景がわかるともっとおもしろく聴けるよ。個性豊かな解釈の集合体が、よりその音楽を重層的に魅力あるものにするように。自分にはない音楽の聴き方、うけとり方を、もっともっと浴びたい。すごいな久石譲!と唸りたい。

日本映画音楽界のひとつの時代を築いてきた久石譲、日本現代作曲家として作品を発表しつづけてきた久石譲。次世代の音楽家たちに影響をあたえ、その血肉や遺伝子のようなものは、確実に音にも方法論にも見受けられることもあります。久石譲ファンであること、久石譲音楽を聴いて育ったこと、そう公言する作曲家は日本ではもちろん、海外作曲家からのリスペストを耳にすることも。

そんな輝かしい久石譲の軌跡をまとめた本が、バラエティ豊かな”久石譲論”書物たちが、久石譲著書と久石譲楽譜の横に並んで置かれている光景。ちっとも不思議なことじゃないですよね。

 

それではまた。

 

reverb.
久石譲インタビュー集と久石譲論の2タイプの書籍化希望のお話でした。

 

 

*「Overtone」は直接的には久石譲情報ではないけれど、《関連する・つながる》かもしれない、もっと広い範囲のお話をしたいと、別部屋で掲載しています。Overtone [back number] 

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Overtone.第31回 ファンサイトにあらゆるテキストを記録する5つの理由

Posted on 2020/04/21

ふらいすとーんです。

ファンサイトでは、久石譲インタビュー内容などたくさんのテキストを載せています。雑誌・新聞・Webインタビューから、CDライナーノーツ・コンサートパンフレット・映画パンフレットなど多岐にわたります。

 

なぜこんなことをするのか?

それは、もちろん久石譲の音楽活動をあらゆる角度から記録しつづけることを目的としているサイトだからです。とはいっても、決して声を大にして言えるアピールポイントではありません。誉められることでもない、微妙なバランスのなか存在することができています。このことはいつも謙虚に、感謝の気持ちでいっぱいです。

 

なぜそこまでするのか?

リスクをおかしてまで、テキストを載せつづける理由はあります。ケンカを売っているわけでも、挑発的に臨んでいるわけでもありません。僕なりの小さな信念がそこにはずっとあります。でも、その小さな信念は、僕だけの小さな正義であって、振りかざすことはできません。いつか続けられなくなる日もくるかもしれない。そう思っています。

今回は、ファンサイトを運営するにあたって、あらゆるテキストを記録する理由をお話したいと思います。言い訳がましい、弁護がましく響くかもしれません。それでもなお、しっかり自分の思うところを示すことも大切だと思い、とすすめていきます。

 

1.書写すること

書き写すことの学びは大きいです。目で追って読む読書よりも、口に出して読む音読よりも、一言一句を丁寧に書き写す作業は、記憶と吸収力の差に直結すると信じています。小学校の授業でもありましたよね。大人になっても好きな本の一節や詩を、ノートに書き残すことはあったりしますね。書くという運動をとおして、自分のからだのなかに入っていく感触や手ごたえのようなもの。

実は、最初の動機はこの一点でした。久石譲の音楽活動という長い歴史を、少しでも自分のなかに血肉として吸収したい、覚えたい。インタビューのなかに知らない言葉があれば、パソコンのページを切り替えて、すぐに調べることもできる。久石譲の口から飛び出した他作曲家やその音楽作品、気になるキーワードもまた、同じように書き写しと並行して調べることができる。そういうことを、ひとつひとつやりこなすうちに、小さな好奇心が小さな学びとなって、ぷつっぷつっと自分のからだに付随してくる感覚です。

たぶん、読むだけだと、知らないことも知らない言葉も、読み流してなんとなく前後の文脈でフィーリングで理解します。雑誌1ページのインタビューも、読むと3-5分、書くと調べると15-30分。そんなアナログな作業を、僕はとてもささやかに楽しんでいます。

 

 

2.ファイリングすること

「そういえばこの曲について、何か言ってたな。あれどの本だっけ? えーっと、時代からみてあの本かなあ…」、「えっ、本じゃない?! じゃあ雑誌かなあ、パンフレットかなあ、動画かなあ…ムリ探せない…」

本であればわりとすぐに見つけることができる内容も、それ以外のメディアに書かれたこと語られたことから探すのは本当に大変です。そうやって、忘れられていく歴史的資料も多く、それは自然の流れなのかもしれません。残らなくていい記憶や記録というものもあるでしょう。時間のフィルターで大切なことだけが残っていく。

そうか、Web上に文章をのせてしまえば、自分のための検索として探しやすくなるな。Web上にファイリングしてしまえば、アーカイブしてしまえば、いつでもサクッと探しやすくなる。自分のために始めたことです。それがほかの人の役にも立つかもしれない、という心優しいことまでは、ちっとも考えていませんでした。Webにあげるということは、公開されるということ。もちろんその責任も理解していますが、静かに記録していくだけ、そっとファイリングされていくだけ。でも、今となってはそんな無責任な立場はとれません。だったら、やるなら穴がたくさんあいたパズルよりも、できるだけ公平に完全に近いかたちで網羅していきたい。その一心です。

 

 

3.Webインタビュー

近年はWeb公開される久石譲インタビューも多いです。インフォメーションで発信メディアを紹介するだけでなく、その内容をファンサイトでもあえて同じく収めています。理由はひとつだけ、公開終了になったら見れなくなってしまうからです。パズルのピースが時間とともに自然消滅的に抜け落ちてしまう。そんな風化にあらがうように、出典元をしっかり明記したうえで、記録させてもらっています。

 

 

4.書き起こし(ラジオ・TV・動画)

ラジオ出演した内容を運良く録音できたとして、それをそのまま音源としてアップロードすることはNGです。ずいぶん悩んだのですが、意を決して音声を書き起こして記録することにしました。悩んだ理由は、シンプルに膨大な時間とエネルギーがかかるからです。

便利なITツールで、パソコンで音声を流すと、それを自動で文字起こししてくれる、そんなソフトもたくさんあります。ちょっと試したこともあります。でも、テキスト化された文章は50点くらいしかあげられません。細かく添削しないといけないなら、ゼロから書き起こしたほうが、きっと楽です。集中力も精神力もかなり鍛えられますが、海外小説を辞書片手に翻訳するような、大きくカラフルなタペストリーを黙々と織りあげるような。そんな超アナログな作業を、僕はとてもコツコツと楽しんでいます。

Web動画もWebインタビューと同じく、いつかは公開終了となってしまいます。公開中の動画URLを紹介したうえで、話していることを文字にしています。

 

Transcription from RADIO

Transcription from TV

Transcription from VIDEO

ほか

 

 

5.世界中のファンが読むことできる

あらゆるテキストを記録するなかで気づいたことがあります。そうか、喜んでもらえるかもしれないと思ったことがあります。海外の久石譲ファンです。

 

情報をさがす
日本であれば簡単に情報は探せるし、新しい情報にもすぐに気づくことができます。それをそのまま見るなり読むなり聞くなり、なんの不便もなく理解吸収できます。でも、海外の人にはむずかしい。

 

CDライナーノーツ
海外ファンは久石譲CDの日本盤を買いたいはずです。でも、買っても日本語で書かれたライナーノーツは読むことできません。もし、Web上にテキスト化されたものがあれば、翻訳ツールを使って簡単に自国語として80~90%以上の理解度で、読み楽しむことができます。

僕も海外アーティストのCDを買ったりして、そこにぎっしりとインタビューが載っているのに英語が読めない、残念な思いをすることはたくさんあります。もし読んで楽しめたなら、音楽の聴きかた・楽しみかた・感じかた、さらに大きく広がるだろうなあと。

近年、LP化された久石譲オリジナル作品シリーズや、世界同時リリースのベスト盤は、英文ライナーノーツも併記されています。日本語だけよりは、ずいぶん親切に、そして世界へ向けたメッセージになりますよね。

 

 

雑誌インタビュー
海外から雑誌を買う人まではいないと思いますが、コレクションに購入しても、写真や雰囲気を眺めることしかできません。Web上にテキスト化してしまえば、同じように翻訳ツールで読むことができます。ここで肝心なのは、CDライナーノーツにしても雑誌にしても、写真や画像でアップロードしても意味がない(その前にその行為はNGです)。ウェブテキストになっていないと翻訳できません。スキャンしてアップしてしまえばすむ簡単なことも(くりかえしその行為はNGです)、海外ファンには伝わらない。1回ボタンをおしてカシャッと1秒で終わることと、カチカチと奮闘しながら時間をかけてタイピングすること。その時間のなかにささやかな親切心のようなものを感じてもらえたら、うれしく思います。

 

書き起こし
自動で文字起こししてくれるITツールがあると紹介しました。実際に、久石譲ファンに限らず、海外ファンがお目当ての日本人を追っかけるなかで、こういったツールを駆使している人はいます。逆もまたしかりです。英語を読みあげている音声を文字化して、できあがったものを日本語に翻訳してみる。そういう使い方をしている人や分野は多いかもしれません。

でも50点なんです。とくにフリーソフトは。だったら、正確さを最大のモットーとして、日本人であることを武器として、書き起こしまでしたものを公開できたなら。きっと正しく伝わり、きっと正しく喜んでくれますよね。

 

 

近年、久石譲著書は中国などでどんどん翻訳されています。これはとてもうれしい動きです。でも、時代的にみて少し古い書籍たちになっていきます。そこにも十分な価値はあります。自国語で読めるのはなんといってもうれしいものです。リアルタイムな雑誌やラジオで「久石譲が語ったこと」は、瞬間的にはファンサイトで補ってもらいながら、長い目でみると、これから新しい久石譲著書が出版されていくといいなあと思っています。

 

◇データベース

このようにしてファンサイトのデータベースはできあがっています。もし気になることを調べたいときには、サイト内検索窓でキーワード検索してください。いろんな情報が見つかると思います。

ただし、”あいまい検索”はヒットしません。サイト内に書かれている正確なキーワードが必要です。Googleなら【ハウル動城】で《ハウルの動く城》のことだとヒットしてくれますが、こまやかな気配りは叶いません。ちゃんと【ハウルの動く城】と検索窓に入れてくださいね。

僕も気になって調べたいときに、調べるキーワードに迷走することがあります。あれ、この言葉は入ってなかったんだ…なんて言ってたっけなあ…と。

また、BiographyやDiscographyには、関連記事は紐付けているものも多いです。たとえばCD作品のページに、それにまつわるインタビュー記事をあわせて紹介しています。

 

◇正しく活用するために

久石譲が語ったことと、僕が思ったこと書いたこと。それは明確に区別しています。「久石譲はこう語っています」とテキストを抜粋紹介したうえで原典も記しています。その下や別のセンテンスで自分の文章を書いています。ごっちゃまぜにならないよう気をつけています。事実や正確性がゆがめられないように。

どうしても、それができないときもあります。そんなに多くはない、たとえばこの文章です。

 

”映画のメインテーマをロンドン交響楽団でやりたい、という久石譲の希望を実現させたのは、アビー・ロード・スタジオのチーフエンジニア、マイク・ジャレット氏です。オーケストラの手配からレコーディングのスケジュールまで。用意したのは85人編成、三管編成に6ホルン、50名のストリングスという大編成オーケストラでした。レコーディングも立ち会い機材やマイクを調整しと、当時の久石譲には欠かせない存在であり、強い絆と信頼で結ばれたパートナーです。

当時、こんなに大きな編成はコンサート用でも書いたことがなかった、という久石譲は、ロンドンに持ってきていた資料も少なく、現地でマーラーの交響曲第5番のスコアを買った。それを教科書として(音楽を真似するという意味ではなく)スコアから学びながら、図書館に通いながら書きあげたのが映画メインテーマ曲です。

ところが、1993年6月23日、マイク氏は37歳の若さで突然病気に襲われて亡くなってしまいます。一緒に制作を進めていた矢先の出来事です。アビーロードでのミックスダウンが終わったときマイク氏はこう言ったそうです。「これはハリウッドにも負けないグレートな音楽だよ」。彼の最後の仕事となったのが、久石譲とのこの映画音楽制作でした。”

Overtone.第30回 久石譲もうひとつの ”HOPE” より抜粋)

 

久石譲著書からのオリジナル文章は書き写さないこと、またこの本が絶版であること。これらを考慮して、本の数ページを要約して書いている例です。本のなかに【当時の久石譲には欠かせない存在であり、強い絆と信頼で結ばれたパートナーです。】、こんな文章はなかったはずです。同じ趣旨のことは言っていたにせよ、使っている言葉や表現は違うはずです。ここに僕の意思や伝え方が入ってしまっています。なるべくこういった方法での文章は、載せないほうがいいと思っています。ごちゃまぜになってしまうので。

 

すべては正確に知ってもらうために

もし、選り好みがはたらいてしまったら。ジブリのことはのせるけど、クラシックはのせないとか。オリジナル作品のことは追求するけど、CM音楽は興味ないとか。こうなると本末転倒です。だから、やるならできるだけ漏れのないように、穴抜けのないように。徹底的にやることが正確性と公平性の担保になると信じています。そうすることで、往年ファンだけどこのテリトリーは知らなかったという人、新しいファンで過去の活動をゆっくり探求していきたい人、海外ファンへの安心できる手引き。少しでもなにかのきっかけになれるならと思っています。

今までわからなかったことが、わかってくるとき。今まで興味のなかったことが、好奇心に変わるとき。あのときはスルーしていた久石譲の言葉が、今になって響いてくることもあります。インタビューを読み返すと、気になるポイントが変わってくることもあります。お気に入りの小説を数年後に読み返したら、感じ方や印象が以前とずいぶん変わっているように。

アーカイブすることは、過去をどんどん蓄積していくことだけじゃないと思っています。どんどん上積みされて古くなっていくものだけじゃないと思っています。アーカイブにふれることで、感じとりかたの変化した自分をもまた感じることができる。これは、ファンとしてたしかな成長や変化ともいえる瞬間です。また、あのときの点と点、久石譲の発言が活動が、時間の流れでやっと反応するように、ある日突然その重みや輝きがますこともあります。アーカイブは混ざることのない地層とはちがう、常に過去と現在を往来しています。そしていくつかの未来の方向性をさし示していることもあります。

 

久石譲ファンサイト 響きはじめの部屋 Joe Hisaishi fan site “Hibikihajime No Heya” ~The room filled with Joe Hisaishi music~ です。《この部屋は久石譲音楽で満たされています》と表現しています。そこには音楽や音源そのものはありません。久石譲音楽をかたちづくっている大切な記録や足跡が資料館のように保管され、積み重なり溢れていったらいいなあと思っています。

それではまた。

 

reverb.
次回はつづけてテキストについて♪

 

 

*「Overtone」は直接的には久石譲情報ではないけれど、《関連する・つながる》かもしれない、もっと広い範囲のお話をしたいと、別部屋で掲載しています。Overtone [back number] 

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Overtone.第30回 久石譲もうひとつの ”HOPE”

Posted on 2020/03/24

ふらいすとーんです。

久石譲と”HOPE”

2016年フィギュアスケート羽生結弦選手がFS楽曲として使用し「Hope&Legacy」と名づけられた曲。久石譲「View of Silence」「Asian Dream Song」ふたつの楽曲を組み合わせた曲は、過去の名曲を新しい作品として蘇らせた印象的なトピックです。

 

  • ふたつの楽曲について(制作エピソード, CD・DVD収録作品)
  • 1998年長野パラリンピック冬季競技大会 プロデュース, テーマ曲
  • 久石譲が大会テーマに掲げた「Hope&Legacy 希望と遺産」
  • 1998年羽生選手がフィギュアスケートを始めた年
  • 2016年約10年ぶりにコンサート披露されたふたつの楽曲
  • フィギュア音響デザイナーが明かす「Hope&Legacy」誕生秘話

 

このあたりのことはまとめていますので、ゆっくりじっくり紐解いてみてください。

 

 

 

久石譲ともうひとつの”HOPE”

今回のお話はこちらです。

 

もうひとつの”HOPE”ってどの曲?

”HOPE”その象徴的な時代は?

「Two of Us」コンサートプログラムのわけ?

 

この大きく3つのことを、時代の流れにそって見ていきたいと思います。

 

 

映画『水の旅人 侍KIDS』(1993)

1990年代初頭、久石譲は音楽制作の拠点をロンドンにおいていました。この時期いくつかのオリジナルアルバムと映画サウンドトラックが制作されています。そのなかのひとつに、映画『水の旅人 侍KIDS』の音楽があります。

映画のメインテーマをロンドン交響楽団でやりたい、という久石譲の希望を実現させたのは、アビー・ロード・スタジオのチーフエンジニア、マイク・ジャレット氏です。オーケストラの手配からレコーディングのスケジュールまで。用意したのは85人編成、三管編成に6ホルン、50名のストリングスという大編成オーケストラでした。レコーディングも立ち会い機材やマイクを調整しと、当時の久石譲には欠かせない存在であり、強い絆と信頼で結ばれたパートナーです。

当時、こんなに大きな編成はコンサート用でも書いたことがなかった、という久石譲は、ロンドンに持ってきていた資料も少なく、現地でマーラーの交響曲第5番のスコアを買った。それを教科書として(音楽を真似するという意味ではなく)スコアから学びながら、図書館に通いながら書きあげたのが映画メインテーマ曲です。

ところが、1993年6月23日、マイク氏は37歳の若さで突然病気に襲われて亡くなってしまいます。一緒に制作を進めていた矢先の出来事です。アビーロードでのミックスダウンが終わったときマイク氏はこう言ったそうです。「これはハリウッドにも負けないグレートな音楽だよ」。彼の最後の仕事となったのが、久石譲とのこの映画音楽制作でした。

『水の旅人 侍KIDS オリジナル・サウンドトラック』CDライナーノーツのクレジットには、こう刻まれています。

 

Produced by JOE HISAISHI

All Songs composed and arranged by JOE HISAISHI

Recorded and Mixed by
MIKE JARRATT (for Abbey Road Studios)
Steve “Barney” Chase (for THE TOWNHOUSE)
SUMINOBU HAMADA (for Wonder Station)
TORU OKITSU (for Wonde Station)

Recorded and Mixed at
Abbey Road Studios , Air Studios , Lyndhurst Hall , Wonder Station
Avaco Creative Studios , Kawaguchiko Studio

Performed by
London Symphony Orchestra [1,7,16]

Dedicated to memory of MIKE JARRATT

久石譲 『水の旅人 オリジナル・サウンドトラック』

 

そして、映画エンドロール、最後に大林宣彦監督のクレジットが流れるその前に、CDと同じ追悼クレジットがしっかりと刻まれています。

 

 

オリジナルアルバム『地上の楽園』(1994)

CDライナーノーツには、物語風のエピソードが記されています。

そのなかに、

”例えば「HOPE」あのビル・ネイソンが詞を書いて歌ってもいるよ。すごくいい仕上がりだ。きっと君も気に入るはずだ。もともと「HOPE」は19世紀のイギリスの画家ワッツが描いたものなんだけど、地球に座った目の不自由な天女がすべての弦が切れている堅琴に耳を寄せている。でもよく見ると細く薄い弦が一本だけ残っていて、その天女はその一本の弦で音楽を奏でるために、そしてその音を聞くために耳を近づけている。ほとんど弦に顔をくっつけているそのひたむきな天女は、実は天女ではなく”HOPE”そのものの姿なんだって。いいだろう、だからほんとはその絵をこのアルバムのジャケットにしたかったんだよ。何故か無理だったけどね。”

(『地上の楽園』CDライナーノーツより 抜粋)

 

ここで登場するのがこの絵です。

 

HOPE 地上の楽園

「Hope」(1886)
GEORGE FREDERIC WATTS
Oil on canvas, 142.4×111.8cm
Tate Gallery (N 01640)

 

収録曲「HOPE」についてもこう書かれています。

 

4. HOPE
その日、僕はテイトギャラリーにある「HOPE」の前に立った。1886年、WATTSが描いたそれはいつもと変わりなく僕を迎える。地球に座った目の不自由な天女「HOPE」が奏でる音楽を聞きたいと君はいった。

(『地上の楽園』CDライナーノーツより 抜粋)

 

 

絵と曲がつながりました。

 

この曲、実は「水の旅人 メインテーマ」と同じ曲なんです。

まったく曲調も雰囲気も違うので、またインスト曲とボーカル曲なので、突然そんなこと言われても、そうだったっけ? と半信半疑かもしれません。今から、Aメロ・Bメロ・サビ・間奏と、ふたつの曲を線でつながていきます。そう言われればそう聴こえてくるかも…。そんなレベルじゃありませんよ。ちゃんと同じ原石から分かれた、いわば二卵性双生児のようなふたつの曲。

 

ぜひ『地上の楽園』CD盤をひっぱり出してきてください。

 

地上の楽園

 

「HOPE」
Aメロ(00:25~00:59)
Bメロ(01:00~01:20)
サビ(01:21~01:37)
間奏(02:45~03:18)

それぞれのパートが一致していきます。

「Water Traveller」(水の旅人 メインテーマ)
Aメロ(01:36~02:23)
Bメロ(02:24~02:50)
サビ(04:41~05:31)
間奏(05:49~06:34)

となります。

「Water Traveller」の印象的な主題(サビのようなもの)であり幾度登場する旋律(00:26~01:09)は、「HOPE」には使われていません。

「HOPE」のサビとなっている旋律は、「Water Traveller」の中間部パートにあたるという離れ業。さらには、「HOPE」間奏はコード進行もまったく違うので一致しにくいですが、シンセストリングスで鳴っている旋律が「Water Traveller」ではホルンの旋律、まったく同じです。

 

Joe Hisaishi – Water Traveller

from Joe Hisaishi Official YouTube

 

『長野パラリンピック支援アルバム HOPE』(1998)

CDライナーノーツには、このようなメッセージが記されています。

 

”長野パラリンピックは、アジアで初めて開催される冬季競技大会であり、20世紀最後の大会となります。大きな時代の変わり目の時、開会式は希望「HOPE」をテーマにしました。

そして、このテーマの出発点となったのが、フレデリック・ワッツの描いた一枚の絵「HOPE」です。今回このアルバムに参加して頂いたアーティストには、この絵を見てもらったイメージから新曲を作って頂いたり、演奏して頂いたりしています。”

(『長野パラリンピック支援アルバム HOPE』CDライナーノーツより 抜粋)

 

収録曲のなかに「HOPE」や「Water Traveller」は含まれていませんが、1990年代の久石譲音楽活動において、ひとつのテーマとなっていたのが”HOPE”であることがわかります。大会テーマ曲「旅立ちの時 ~Asian Dream Song~ / 宮沢和史 with 久石譲」はこのアルバムに収録されています。

 

久石譲 『長野パラリンピック支援アルバム HOPE』

 

 

「HOPE & LEGACY 希望と遺産」

長野パラリンピックの開会式は「Hope 希望」をテーマに、閉会式は「Hope & Legacy 希望と遺産」をテーマに行われました。久石さんは式典の総合プロデューサーを務めていました。開会式フィナーレでは、盛大な演出のもと「旅立ちの時 ~Asian Dream Song~」が披露されています。

 

『Melodyphony メロディフォニー ~Best of JOE HISAISHI〜』(2010)

2009~2010年、久石譲は音楽活動の両軸である作家性と大衆性の集大成となる、それぞれふたつのアルバムを完成させます。『Minima_Rhythm』(2009)と『Melodyphony』(2010)です。

『Minima_Rhythm』のエピソードでは、こう語っています。

 

-アビー・ロード・スタジオへの想い

久石:
僕がロンドンに住んでいた頃、アビー・ロード・スタジオにマイク・ジャレットというとても親しいチーフエンジニアがいたんです。一緒にレコーディングをすることも多く、本当に信頼の置ける人物だったのですが、惜しいことに若くしてガンで亡くなってしまった。彼の最後のセッションが僕との仕事で、ロンドン交響楽団演奏による『水の旅人』のメイン・テーマのレコーディングだったんです。そのときはエアー・スタジオのリンドハース・ホールで録ったんですが。そしてマイクは亡くなり、僕はロンドンを引き払った。そのあたりのことは『パラダイス・ロスト』という本にかなり詳しく書いています。その後、ロンドンでのレコーディングは何度もしたんだけど、アビー・ロード・スタジオでのレコーディングは避けた。ちょっと行くのがきつかった……。

数年前、『ハウルの動く城』のとき、チェコ・フィルハーモニー交響楽団でレコーディングしたものを、アビー・ロード・スタジオでサイモン・ローズとMixしたんです。それが久しぶりでしたね。そのとき、このスタジオに戻ってきたなぁという感慨があって、スタジオの隅、地下のレストラン、どこもマイクの遺していった匂いのようなものが感じられた。イギリス人独特のユーモアや品の良さ、クリエイティブな匂いとでもいうのかな。

そして今回、僕としては最も大切なレコーディングになるので、それはアビー・ロード・スタジオ、そしてロンドン交響楽団しか考えられなかったのです。マイクの亡き後も、アビー・ロード・スタジオでは伝統がきちんと引き継がれています。マイクのアシスタントだったサイモンは、今はジョン・ウィリアムズ等を録る一流のエンジニアになっているし、今回のエンジニアのピーター・コビンは、マイクの抜けた穴を埋めるべく、オーストラリアのEMIからスカウトされた。高い水準を維持するために。

Blog. 久石譲「Orchetra Concert 2009 Minima_Rhythm tour」コンサート・パンフレットより 抜粋)

 

 

そして、『Melodyphony』では、

 

”ロンドン交響楽団とは、15年くらい前に、「水の旅人 -侍KIDS」という映画のテーマ音楽を録ったんですね。また昨年には、前作となる「ミニマリズム」の録音も行いました。日本以外で音楽を表現できる場として、ロンドンでの活動がまた復活したというのがうれしいですね。

私には、大きな夢が2つありました。一つは、芸術家としての自分が追い求める、ミニマル・ミュージックをテーマとしたアルバムを完成させること。この目標は、昨年の時点で「ミニマリズム」というアルバムを完成させることで実現しました。ただそれだけではなくてもう一つ、これもやはり自分が長年続けてきた映画音楽やテレビ・ドラマのサウンド・トラックに代表されるメロディアスな音楽を、オーケストラを使って録りたいと去年からずっと思っていたんですよ。つまり、作家としての自分と、メロディー・メーカーとしての自分の両方を生かしたいというか。去年の「ミニマリズム」の録音時に書いていたノートを引っくり返してみると、両方の種類の音楽についてのメモを残しているんですね。年が明けて考えてみて、やはりこれは両方あってこそ自分の姿ではないか、と強く思うようになって。「ミニマリズム」と「メロディフォニー」の2つを持って、自分をすべて表現できるという気持ちです。”

Blog. 久石譲 「ミニマリズム」「メロディフォニー」 Webインタビュー内容 より抜粋)

 

 

 

あえて距離をとっていたアビー・ロード・スタジオへの想い、自身の大切な作品となる『Minima_Rhythm』と『Melodyphony』を、ふたたびイギリスへ行き、ロンドン交響楽団で録音したかったという強い想いが伝わってくるエピソードです。

宮崎駿監督作品、北野武監督作品をはじめ、多彩で人気のあるメロディたちがたくさんあるなか、「Water Traveller(水の旅人 メインテーマ)」がしっかり選ばれ、15年前と同じロンドン交響楽団によって『Melodyphony』に収録されたこと。

『Melodyphony』から10年後の2020年、久石譲が世界に向けてリリースしたベストアルバム『Dream Songs: The Essential Joe Hisaishi』にも収録されている「Water Traveller」。久石譲ファンにとっても人気のある曲、コンサートでもたびたび演奏される曲、そして久石譲にとっても特別な一曲なのかもしれませんね。

 

久石譲 『メロディフォニー』

 

 

【Hope】for Piano and Strings
View of Silence
Two of Us
Asian Dream Song

「久石譲 ジルベスターコンサート 2016」のプログラムでサプライズの演目です。久石譲ピアノと弦楽合奏による3つの楽曲からなるコーナー。冒頭で紹介したフィギュアスケート羽生結弦選手の「Hope&Legacy」が世界中に感動をあたえた年、その同じ年の大晦日に披露された息を吹き返した名曲たち、象徴的な出来事でした。

 

久石譲のコメントには、

”弾き振り(ピアノを弾きながら指揮もする)に初挑戦します。そのためこのコーナーはすべて新しくオーケストレーションし直しました。

その弾き振りの「HOPE」というコーナータイトルは長野パラリンピックのときに作った応援アルバムのタイトルからとりました。折しもフィギュアスケートの羽生結弦さんが今年の演目で採用している楽曲が2曲含まれます、お楽しみに。”

Blog. 「久石譲 ジルベスターコンサート 2016」 コンサート・レポート より抜粋)

 

 

ふむふむ。よくわかります。それじゃ、「View of Silence」と「Asian Dream Song」にはさまれた「Two of Us」、どうしてこの曲が選ばれたんだろう?  それを紐解くヒントもまた、”HOPE”というテーマにあり、マイク・ジャレット氏との共同作業のなかにありそうです。1990年代前半のディスコグラフィーから、クレジットでわかっているものをピックアップします。

 

久石譲 i am
1991.2.22
I am

Recorded at:
Abbey Road Studio London
Taihei Recording Studio Tokyo
Music Inn Yamanakako Studio Yamanashi
Wonder Station Tokyo

 

My Lost City 久石譲
1992.2.12
My Lost City

Recorded at Abbey Road Studio, London etc
Recording Engineer:Mike Jarratt (Abbey Road Studio)

 

久石譲 Symphonic Best Selection
1992.9.9
Symphonic Best Selection

Recording & Mixing Engineer:Mike Jarratt (Abbey Road Studio)
Mixed at Wonder Station, Tokyo

「完全決定ではないんですが、このライヴをやった時には、一応ライヴ盤も作ってみようという発想はあったんです。ただああいうクラシックの形態だと後で手直しがきかないんですよ。ですから、上がったもののクオリティによって出すか出さないかを最終的に決めようというスタンスはとってたんです。ただ、録るということに対する最大限の努力としてアビー・ロード・スタジオのチーフ・エンジニアのマイク・ジャレットを呼んだりとか、サウンドのクオリティが高いものになるよう万全は期したつもりです。」

Blog. 「キーボード・マガジン 1992年10月号」「Symphonic Best Selection」久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

久石譲 Sonatine ソナチネ
1993.6.9
Sonatine ソナチネ

Mastered at Abbey Road Studios

 

久石譲 水の旅人 オリジナル・サウンドトラック
1993.8.4
水の旅人 -侍KIDS- オリジナル・サウンドトラック

Recorded and Mixed by
MIKE JARRATT (for Abbey Road Studios)
Steve “Barney” Chase (for THE TOWNHOUSE)
SUMINOBU HAMADA (for Wonder Station)
TORU OKITSU (for Wonde Station)

Recorded and Mixed at
Abbey Road Studios , Air Studios , Lyndhurst Hall , Wonder Station
Avaco Creative Studios , Kawaguchiko Studio

 

地上の楽園 久石譲
1994.7.27
地上の楽園

Recorded at:
Townhouse Studio,London
Abbey Road Studio,London
Music Inn Yamanakako
Crescente Studio Tokyo
Wonder Station Tokyo

 

 

もう見えてきましたね。

今回、映画『水の旅人 侍KIDS』(1993)を起点に紹介してきましたが、アビー・ロード・スタジオでの録音は、すでに『I am』(1991)までさかのぼります。そして『My Lost City』(1992)では、マイク・ジャレット氏がクレジットされています。『Symphonic Best Selection』(1992)では、マイク氏を日本にまで呼び寄せるほどの信頼と絆、『水の旅人 侍KIDS』を経過して、氏の亡きあと『地上の楽園』(1994)までアビー・ロード・スタジオで音楽活動し、これを区切りにロンドンをあとにします。

「Two of Us」は『My Lost City』に収録されています。マイク・ジャレット氏と一緒に仕事をした1990年代前半、ここからひとつの楽曲を選びたかったのではないか。メロディの際立ったものからのセレクト、ファンのあいだでも長い間人気のある「Two of Us」が選ばれたのではないか。そして、1998年の長野パラリンピックからとったというコーナータイトル「HOPE」は、同時にロンドン音楽活動時代と重なる、いわば時代の足跡です。

 

 

もうひとつの”HOPE”ってどの曲?

”HOPE”その象徴的な時代は?

「Two of Us」コンサートプログラムのわけ?

 

それは、

  • 「水の旅人 侍KIDS」メインテーマ
  • アビー・ロード・スタジオ
  • マイク・ジャレット氏
  • 「HOPE」というボーカル曲
  • 「HOPE」の絵
  • 「長野パラリンピック」ひき継がれたテーマ”HOPE”
  • 旅立ちの時 ~Asian Dream Song~
  • 「Water Traveller」『Melodyphony』収録
  • ふたたびアビー・ロード・スタジオ、ロンドン交響楽団
  • コンサートコーナー「HOPE」
  • 1990年代の音楽活動を象徴するテーマ”HOPE”
  • 「Two of Us」『My Lost City』収録曲

 

こういったいくつもの点と点が、絡み合いながら、単純な一本の線になるのではなく、時代の足跡のように、幾重にも交錯しあいながら、結ばれていくようです。

久石譲のインタビューにもありましたが、この時代のことは書籍『パラダイス・ロスト』に詳しく書かれています。ただ絶版かもしれません。小説というかたちをとっていますが、そのなかにあるのは、ほぼノンフィクションです。これは物語なのかエッセイなのか、フィクションなのかノンフィクションなのか、不思議な余韻をのこす本です。おそらくは「小説」という体裁をとることでしか書けなかった、久石譲自身に深く切り込んだものだからかもしれません。

「水の旅人 侍KIDS」メインテーマにおける、他の久石譲楽曲と類似性をみない独創的で雄大な序曲のような大編成オーケストラ曲。コンサートリハーサルではまずこの曲をやるというほど、その鳴りのよしあしのベンチマークとなっています。またコンサートでも序盤にプログラミングされることも多いです。

「水の旅人 侍KIDS」メインテーマ=「HOPE」(地上の楽園)=「Water Traveller」=「HOPE」の象徴、と簡単な一直線で言うつもりはありません。たぶんそういうことでもありません。ただ、なにかしらつながっているんだという実感のようなものが伝わったなら、うれしいです。

 

 

 

Overtone.第3回 羽生結弦×久石譲 「Hope&Legacy」に想う(2017.1.20)の結びにこう記していました。

”実は「HOPE」には、もうひとつ久石さんエピソードがあります。ありますが、それはまた別の機会に。ちゃんと調べなおしたい、紐解きなおさないといけない。”

…だいぶん時間があいてしまいましたが、ようやく -完- となります。

それではまた。

 

reverb.
久石さんの公式音源から紹介できるのはうれしいかぎり♪

 

 

 

*「Overtone」は直接的には久石譲情報ではないけれど、《関連する・つながる》かもしれない、もっと広い範囲のお話をしたいと、別部屋で掲載しています。Overtone [back number] 

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