Overtone.第47回 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2021」コンサート・レポート by ふじかさん

Posted on 2021/07/30

4月21~24日開催、7月25~26日振替開催、国内3都市5公演と世界各地ライブ配信も実現した「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2021」コンサートツアーです。4月の緊急事態宣言を受けツアー途中で中止となってしまいましたが、それから間を置かず7月振替公演を叶えてくれました。W.D.O.2021完走してくれたこと、尽力いただいた皆さまへ感謝の気持ちでいっぱいです。

今回ご紹介するのは、WDOだけでも3回連続(2018/2019/2021)でレポートしてくれる、ふじかさんです。さすが久石譲音楽を広く深く愛してやまない、ふじかさんです。過去作品たちから新作につながっているもの、そして未来の新作たちへつながるかもしれないもの。久石譲曲の点と点が線になっていて理解をやさしく助けてくれるレポートです。

 

 

久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2021
JOE HISAISHI & WORLD DREAM ORCHESTRA 2021

[公演期間]  
2021/04/21,22,24
2021/07/25,26

[公演回数]
5公演
4/21 京都・京都コンサートホール 大ホール
4/22 兵庫・兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホール
4/24 東京・すみだトリフォニーホール

*緊急事態宣言を受け2公演とライブ配信 中止
4/25 東京・すみだトリフォニーホール
4/27 東京芸術劇場 コンサートホール
4/27 ライブ配信(日本・海外)

*振替公演
7/25 東京芸術劇場 コンサートホール
7/26 東京・すみだトリフォニーホール
7/25 ライブ配信(日本・海外)

[編成]
指揮:久石譲
ソプラノ:林正子(4/21,22,24) 安井陽子(7/25,26)
管弦楽:新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ
コンサートマスター:豊嶋泰嗣

[曲目]
久石譲:交響曲 第2番 *世界初演
    Symphony No.2 (World Premiere)
    Mov.1 What the world is now?
    Mov.2 Variation 14
    Mov.3 Nursery rhyme

—-intermission—-

久石譲:Asian Works 2020 *世界初演
    I. Will be the wind
    II. Yinglian
    III. Xpark

久石譲:交響組曲「もののけ姫」2021
    Symphonic Suite “Princess Mononoke” 2021

—–encore—-
久石譲:World Dreams

 

 

WDO2021東京芸術劇場公演の様子をレポートさせて頂きます。

2021年7月25日 東京芸術劇場 15:00開演

今回のWDO公演は新型コロナウイルスによる情勢の変化で大きく振り回されるツアーとなってしまいました。本来は4月末に開催予定でしたが、3度目の緊急事態宣言により公演は中止。およそ3か月遅れ、再度公演が設定されましたが、またしても4度目の緊急事態宣言が発令され、そのような状況下での開催となりました。ちょうど、東京オリンピックの開催とも重なり、会場では消毒・検温のほか、手荷物検査も実施されていました。個人的には2019年の静岡公演以来、約2年ぶりのWDOとなりました。

今回の目玉はコロナ禍で書き上げられた『Symphony No.2』。前作の交響曲となる『The East Land Symphony』からは早くも5年となり、待望の最新作の交響曲となりました。そして同時に演奏される『もののけ姫組曲』は2016年WDO公演にもプログラムされており、破壊と再生をキーワードにどんな世界観が構築されるのか本当に楽しみにしていました。

 

会場に入ると、ほぼ満席の客席。しかし、会話は少なく、いつもよりは静かな印象を受けました。

15時すぎに楽団員の登壇に続き、コンサートマスターの豊嶋さんが登場。チューニングののちにしばしの沈黙。ほどなくして、久石さんが登場。前回のFOC Vol.3と同様、コンマスとの握手はせず会釈のみで、指揮台へと上がります。

 

 

Joe Hisaishi 『Symphony No.2』

『1楽章 What the world is now?』

前作の交響曲『The East Land Symphony』では再生と東日本大震災以降の日本を軸に構成されていて、楽曲の始まりから重々しい雰囲気で導入されるのが印象的でしたが、今回の『No.2』ではプログラムにて「純粋に音の運動性を追求する楽曲を目指した」との記載がありました。

早速、導入部では前作のような重々しい和音ではなく、どこか浮遊感のある和音にストリングスが散発的に2音の音を折り重ねていくような展開から始まりました。同時にチェロによるモチーフが提示され、そのモチーフが木管へと引き継がれていきます。その後はストリングスが細かいパッセージを構成しながら、打楽器隊のパワフルな演奏が加わります。雰囲気としては先日のFOC Vol.3で披露されたレポ・スメラの『Symphony No.2』を彷彿とさせるものもありました。

テンポもリズムも大きく変わっていきますが、軸となるのは冒頭で提示されたチェロによるフレーズで、それらを取り込み、変容しながらフィナーレへと一気に駆け上がっていきました。息つく間もなく、次々と曲の構成が変わっていく様子はまさしくタイトルにもあるように、今日のコロナ禍での世界の様子を暗示させるものも感じました。

演奏後、一瞬拍手が入りそうになりましたが、間一髪で鳴りませんでした…

 

『2楽章 Variation 14』

去年のMusic Future Vol.7にて小さい編成での試演がされましたが、いよいよ完全版での披露となります。『1楽章』の雰囲気とは一気に変わり、どこか陽気でリズミックなモチーフが提示され、次々と変奏されていきます。このどこか陽気でリズミックなモチーフはまるで『Encounter』のようなユーモアも感じます。様々な音色とアレンジで受け継がれゆくモチーフは聴いていて本当に楽しく、後半にゆくにつれて体を揺らしていきたくなるようなわくわく感に包まれます。終盤は冒頭のモチーフが華やかなパーカッションとスピード感ある演奏により、スリル満点になります。その後、ストリングの短いフレーズを繰り返しながら、チェロの音色で終わります。

 

『3楽章 Nursery rhyme』

プログラムには「日本のわらべ歌をもとにミニマル的アプローチでどこまでシンフォニックになるのかの実験作である」と記載がありました。

わらべ歌のモチーフがコントラバスから始まり、チェロ、ヴィオラ、2ndヴァイオリンと受け継がれていきます。冒頭がコントラバスから始まることにびっくりしましたが、ある意味マーラーの『Symphony No.1 3楽章』のフランス民謡(日本語歌詞では「グーチョキパーでなにつくろう」)というモチーフを引用したような部分と共通のものも感じました。

わらべ歌モチーフがミニマル的なアプローチで発展をしていく様子は、以前『なよたけのかぐや姫(女声三部合唱のための)』にて実践してきた部分も取り入れられたような部分もあり、いままでの作品にて実験・実践してきた部分も活用し、今回の楽曲へ応用して取り組まれていった様子も感じることができ、それらを踏まえると前作の『The East Land Symphony』とはうって変わって、純粋に音の運動性を追求した作品であると改めて意識することができました。

ミニマルアプローチでの盛り上がりがピークに達したところ、一瞬演奏が途切れます。この瞬間に一瞬拍手がなるハプニングもありました。その後は、再度冒頭のコントラバスによるモチーフの再提示がありますが、副旋律も加わりより重厚な演奏になります。このモチーフを再度発展させていき、再び盛り上がりのピークへ。最終盤は、コントラバスソロによりモチーフを歌い上げ、静かに終わります。

 

 

今回の『Symphony No.2』から感じられたことは、ここ近年のミニマル作品にて取り入れてきた部分を様々な形で活用し、構成していった部分でした。各楽章ともそれぞれ、モチーフを提示し、アレンジさせ発展していきます。そしてただズレていくためだけのミニマルではなく、ミニマルもエッセンスの一つとして構成されています。

近年の『Single Track Music 1』『Chamber Symphony No.2』『I Want to Talk to You』『Encounter』『2 Pieces』などなど単旋律の追求、モチーフの発展の仕方など、様々な方法を実験し、行きついた作品が今回の交響曲であると感じました。そして、日本の作曲家だからこそできた西洋楽器と東洋のメロディ・モチーフとの融合。

今後、この楽曲は世界での演奏会でも数多く予定されていており、日本のエンターテインメント性をも訴えることができる作品だと思います。いずれは、日本を代表する交響曲のスタンダードとしてラインナップされるとファンとしてはうれしい限りです。もし、FOCなどでの少し小さい編成でのオーケストラにて演奏した場合、どのような表情へ変わるのか…音を運動性を追求した作品だけあって、今後の様々な発展も期待できる作品となりました。

 

 

Joe Hisaishi『Asian Works 2020』

2020年に発表されたエンターテインメント作品をピックアップしたコーナー。近年のエンタメ作品は発表のみでコンサートでの披露や音源化されることなく埋もれてしまうことが多かったですが、今回のコンサートでは一挙に3曲もコンサートのピースとして披露されました。本当にうれしい限りです。

 

『Ⅰ.Will be the wind』

ミニマルテイストを感じさせるピアノのフレーズを軸に、次々と様々な楽器が折り重なるように演奏されていきます。要所要所に入ってくるミニマル特有のズレが聴いていてなんともクセになります。後半に入るにつれ、加わってくる弦楽器の少し切なげなメロディとミニマルの交差から久石さんのエンターテインメント性が光ります。最後は力強く、バンっ!とフィニッシュです。

 

『Ⅱ.Yinglian』

香港映画の『赤狐書生オリジナルサウンドトラック』から『英蓮』がセレクト。ピアノの刻みから展開されるクラリネットから聴こえてくる、浮遊感のあり、掴みどころがないようなフワフワとしたメロディ。近年のエンタメ作品で実施されている引いた音楽がここでも実践されている気がしました。

 

『Ⅲ.Xpark』

最後は台湾の水族館のための音楽からセレクト。フルートの明るく楽しいミニマルを感じさせるメロディから始まり、木管の演奏へと続きます。ミニマル素材と海や深海などのテーマとの相性は抜群。水の流れを感じさせる雄大な弦の調べや、光を感じさせる伴奏のリズム。久石さん自身も楽しそうに体を揺らしながら指揮をしていたのが、印象的でした。最後は水の気泡が弾けるようなピチカートでポンッ!と終わりました。

 

近年のエンタメ作品では、ミニマルの要素が随所に取り込まれていて作品のクオリティが一段と高められています。納品先で流れて終わりではなく、コンサートで取り上げても作品として成立する完成度。この3曲を聴くと、いままで発表されコンサート等でのお披露目がまだの作品も今後の演奏があるのでは…!と期待のできるコーナーでもありました。

 

 

Joe Hisaishi『Symphonic Suite “Princess Mononoke” 2021』

今回のコンサートのもう一つの目玉、『もののけ姫組曲』が満を持して登場です。ちなみに私自身、2016年版演奏時はプログラムされていないほうの公演(Bプロ)を聴いたため、この組曲はいまだに聴いたことがありませんでした。今回ようやく初鑑賞です。

 

『アシタカせっ記』

久石さんの大きな振りとともに轟く大太鼓の音色。一気に物語の世界観へといざないます。メロディの入口にはパーカッションも加わり、より壮大な印象へ。

『TA・TA・RI・神』

再び、久石さんの大きな振りとともに轟く大太鼓とさらに和太鼓の音色。緊張感あふれるメロディと吠える金管、炸裂するパーカッション。会場が揺れるような演奏の迫力に会場全体も圧倒されたような雰囲気を感じました。

『旅立ち~西へ~』

先ほどの緊張感からはうって変わり、『もののけ姫』のメロディを軸に楽曲が展開されていきます。後半での壮大なパートではメロディの美しさとアレンジの力強さが見事に伝わってきます。

『コダマ』

コダマの首を回す音は打楽器にて見事に表現。原曲でのシンセの音は木管や金管の息の長い音色で再現。コミカルで不思議な雰囲気のこの楽曲もオーケストラにて完全に構築されていました。

『呪われた力~神の森』

劇中にてアシタカが敵から襲われるスリリングなこの曲も取り込まれ、そのままシシ神のテーマへ。木管から紡がれる怪しい雰囲気から混沌を感じさせる激しいパートへ。

『もののけ姫』

ゲストソプラノが登場し、有名な主題歌を披露。途中から転調し、ソプラノの美しさがより感じられる場面では、生演奏だからこそ伝わってくる気迫も感じられ鳥肌が立ちました。

『黄泉の世界~死と生のアダージョ』

終盤に向けて組み込まれた世界崩壊のクライマックス。手に汗握るようなスリリングな楽曲に時折顔をのぞかせる『もののけ姫』のテーマ。

『アシタカとサン』

組曲の終盤を飾るのは、物語では再生のテーマとして流れた本楽曲。今回のアレンジでは豊嶋さんのヴァイオリンソロを堪能できるバージョンへと進化しており、久石さんも短いながら、ピアノの伴奏として参加します。後半ではソプラノが加わり、希望の歌詞を豊かに歌い上げ、希望の鐘も響きながら美しく幕を閉じました。

 

 

会場からは割れんばかりの惜しみない拍手。

何度かのカーテンコールののちにアンコールへと進みます。

 

Encore

Joe Hisaishi『World Dreams』

いままで、何度も聴いてきた本楽曲でここまで泣きそうになってしまったのは初めてでした。コロナ禍で日常はもちろん音楽を楽しむ状況まで一変し、いままでとはまったく違う世の中になってしまいました。今の世界の夢ははやく日常を取り戻すこと。そこへ向かいたいというエネルギーがこの楽曲に凝縮されていて、改めて元気と活力をもらうことができました。

「哀しみにつまずけば 自由がみえる 歓びの灯が消えても ともに歩き続けよう」

 

演奏が終わると再び、拍手喝さい。

なかなか鳴りやまない拍手の中、大盛況で振替公演1日目は幕を閉じました。

 

2021年7月28日 ふじか

 

 

 

純粋に読んでいて楽しいです。リラックスしていて力まずにすっと読みやすいというかなあ、自分のと比べるとなおさら(苦笑)。今回も共感できるところ、新しい発見なところ、おもしろい表現なところ、とマーカーを引いていったら、なんとカラフルになるだろう! そんな感想です。いつも素敵なレポートありがとうございます。

 

いつも楽しいツイートもチェックです。好きな音楽ジャンルでFFつながりたくなるかも(^^)

ふじかさん
@fujica_30k

 

 

こちらは、「コンサート・パンフレット」から久石譲による楽曲解説や、いつものコンサート・レポートをしています。

 

 

 

 

「行った人の数だけ、感想があり感動がある」

久石譲ファンサイト 響きはじめの部屋 では、久石譲コンサートのレポートや感想、いつでもどしどしお待ちしています。応募方法などはこちらをご覧ください。どうぞお気軽に、ちょっとした日記をつけるような心もちで、思い出をのこしましょう。

 

 

みんなのコンサート・レポート、ぜひお楽しみください。

 

 

reverb.
レポート多いと感想や感動が立体的になってきてうれしいです(^^)

 

 

*「Overtone」は直接的には久石譲情報ではないけれど、《関連する・つながる》かもしれない、もっと広い範囲のお話をしたいと、別部屋で掲載しています。Overtone [back number] 

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Overtone.第46回 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2021」コンサート・レポート by tendoさん

Posted on 2021/07/29

4月21~24日開催、7月25~26日振替開催、国内3都市5公演と世界各地ライブ配信も実現した「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2021」コンサートツアーです。4月の緊急事態宣言を受けツアー途中で中止となってしまいましたが、それから間を置かず7月振替公演を叶えてくれました。W.D.O.2021完走してくれたこと、尽力いただいた皆さまへ感謝の気持ちでいっぱいです。

今回ご紹介するのは、韓国からライブ・ストリーミング・レポートです。感嘆すると思います、日本ファン顔負けの精通ぶりに。もし僕が海外作曲家にお気に入りがいたとして、ここまでリアルタイムに正確に音楽活動を追っかけられるかな。時差なし!誤差なし!すごいですっ!

 

 

久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2021
JOE HISAISHI & WORLD DREAM ORCHESTRA 2021

[公演期間]  
2021/04/21,22,24
2021/07/25,26

[公演回数]
5公演
4/21 京都・京都コンサートホール 大ホール
4/22 兵庫・兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホール
4/24 東京・すみだトリフォニーホール

*緊急事態宣言を受け2公演とライブ配信 中止
4/25 東京・すみだトリフォニーホール
4/27 東京芸術劇場 コンサートホール
4/27 ライブ配信(日本・海外)

*振替公演
7/25 東京芸術劇場 コンサートホール
7/26 東京・すみだトリフォニーホール
7/25 ライブ配信(日本・海外)

[編成]
指揮:久石譲
ソプラノ:林正子(4/21,22,24) 安井陽子(7/25,26)
管弦楽:新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ
コンサートマスター:豊嶋泰嗣

[曲目]
久石譲:交響曲 第2番 *世界初演
    Symphony No.2 (World Premiere)
    Mov.1 What the world is now?
    Mov.2 Variation 14
    Mov.3 Nursery rhyme

—-intermission—-

久石譲:Asian Works 2020 *世界初演
    I. Will be the wind
    II. Yinglian
    III. Xpark

久石譲:交響組曲「もののけ姫」2021
    Symphonic Suite “Princess Mononoke” 2021

—–encore—-
久石譲:World Dreams

 

 

はじめに

久石譲のアルバムは、多くの曲をTENDOWORKで扱ってきたが、いざジブリ曲は扱ったことがない。ジブリ曲はあえて私が説明しなくても広く知られていることもあるし、たくさん聴かれていることもあるからだ。また、久石譲が最終的に作曲家として追求したミニマル音楽をより応援したいこともあった。

それにもかかわらず、今回のコンサートは、久石譲の第二交響曲が演奏される歴史的なコンサートなのでしっかりレビューみたいという思いがした。

 

W.D.O.の紹介

W.D.O.は久石譲の代表的なコンサートシリーズだ。それほど歴史も深い。韓国にも来韓して素晴らしい演奏を披露したことがある(WDO2017)。特に2008年の「久石譲 in 武道館」公演をはじめ、数多くの公演を行い、2015年から、新しいプロジェクトとしてスタジオジブリ・アニメーション音楽の交響組曲に取り組んでいる。

 

紆余曲折の多かったコンサート

今回のコンサートは本当にいろいろな情報が何度も出入りした。それだけ紆余曲折が多かった。2019年を最後に再準備期間に突入したW.D.O.が、2年ぶりにW.D.O.2021に戻るというびっくりするニュースが流れてきた。2020年だけスキップして、1年ぶりに帰ってきたも同然だった。さらに、予想もしなかった4月の公演日程だった。(ほとんどW.D.O.公演は8月頃の夏に行われる。)次いでライブストリーミング公演の計画発表。しかし、「ワールド・ドリーム・オーケストラ」ツアーの途中、日本の緊急事態宣言でキャンセルされてしまう。

後に振替公演の知らせが聞こえてきたが、再び緊急事態宣言のニュースも聞こえてきてパニックに陥った。それにもかかわらず、結果的に公演が行われた。だからこそ、感慨深いコンサートではなかっただろうか。

 

これからしっかりコンサートのレビューを始める。

 

Joe Hisaishi:Symphony No.2

久石譲の第二交響曲だ。「久石譲の交響曲第1番は何か」というささやかな議論になるがパスしよう。

 

Mov.1 What the world is now?

 

第1楽章は、現在のパンデミックをはじめとする世界各国の悲劇を意識したようなタイトルの「What the world is now?」 悲壮な雰囲気が逸品だった。少し難しく感じられるミニマル曲だ。

 

 

久石譲の曲には、ウッドブロックが本当にたくさん入る。交響曲第2番の第1楽章からウッドブロックが登場する。チクトクチクトクする効果音を響かせた。(このコンサートでウッドブロックのすごい活用度を知ることができるだろう。)

このウッドブロックの音が鳴り止む頃にものすごく曲が激しくなるが、この時、登場するフレーズでフィリップ・グラスのGlassworksの素早く繰り返されるフレーズが思い浮かんだ。「The Border」では、だんだん低い音に下がっていくような印象的な部分があるが、今回の曲では似たような形だが、むしろだんだん高い音に上がっていくようなフレーズがあった。(これを狙ったのかもしれない。)

 

Mov.2 Variation 14

 

第二楽章の「Variarion14」は「MUSIC FUTURE VOL.7」でより小さな規模で演奏されたことがあった。リズム感とウィットに富んだ曲だ。名前にふさわしく、変奏曲形式である。久石譲の”Single Track Music”の手法が少し連想される面があり印象的だった。これはなんの和音もなく曲が成り立つ手法であるが、不協和音などに依存する現代音楽の限界を克服しようとする試みの一種であるように見えた。演奏されるメロディのいくつかの箇所で、他の楽器が同じ音に短く重ねて演奏する部分があり、リズム感もキープし雰囲気もアップする感じだった。(ただし、これによる演奏難易度は非常に上昇するものと予想された。)しかし、この曲は厳然として見れば”Single Track Music”ではない。中間部分からセクションが互いにすれ違いからだ。

 

 

最後の頃にはとても静かになり、グロッケンシュピールとヴィブラフォンが演奏される場面があるが、すぐに続く激しいトゥッティ演奏がハイライトだ。この部分は、僕のお気に入りの部分だ。”Single Track Music”の限界を振り切ってすっきりと演奏されるフレーズと、各楽器の激しい演奏が逸品だ。最後のチェロの締めも素晴らしい。

 

Mov.3 Nursery rhyme

 

最初コントラバスが奏でる童謡がテーマになる。なのでタイトルも「Nursery rhyme」。これは日本の童謡で、日本人のツイッターの反応を見ると、「かごめかごめ」という曲の少しの変形だと多く言われている。

静かで落ち着いた曲のように思えるが、すぐに拍子が速くなりテーマになるメロディも複雑になる。主題となるメロディがシンプルな童謡だったので、それでも比較的聴きやすかった。 (コロナ以降の楽めるコンサートが目標になっているため、第2、3楽章はわざとシンプルに書いた感じがする。)

このような強烈な速さで進行された後クライマックスに入る。この部分では、多くの人々が音楽が終わった感じることもあったようだ。しかし、クライマックスの後つかの間の静寂に続いて、再び重く荘重に変奏主題が演奏された後、コントラバスが静かにソロで演奏されて終わる。とても劇的な構成だ。

 

だから結論的に、久石譲の交響曲第2番は、全体的に変奏曲の形式で成り立っていて、ある意味退屈になりうる危険な構造だったかもしれないが、悩みと研究を重ねて交響曲まで成立させた大作とすることができるようだ。

 

 

Joe Hisaishi:Asian Works 2020

I. Will be the wind

 

中国で公開されたLEXUSテーマ曲「Will be the wind」だ。とても洗練された雰囲気の曲だ。典型的なメロディ+ミニマルな感じの曲。風が吹くような感じのモチーフが様々に変化し、心を揺さぶる。単純なモチーフの繰り返しではない、無意識の何かを引き出す不思議な魔法を使う曲だ。ピアノの旋律もとても印象的だ。また、久石譲の武器であるマリンバも欠かせない。最後までよどみなく吹き荒れる素敵な曲だ。

 

II. Yinglian

 

いよいよTENDOWORKでレビューしていた曲が登場した。(https://tendowork.tistory.com/66)「Yinglian」は『赤狐書生』という香港映画のラブテーマに当たる曲だ。とても魅惑的なメロディが印象的だ。特異な点は、「MUSIC FUTURE Vol.7」でも演奏されたジョン・アダムズの「Gnarly Buttons:Movement III – Put Your Loving Arms Around Me」ととても似た雰囲気の曲ということである。これは久石譲の意図なのか?聴き比べてみるのもおもしろいだろう。クラリネットのソロ演奏は本当に素晴らしかった。

 

III. Xpark

 

祭り的な雰囲気のとても明るい曲だ。Xparkの館内展示音楽として久石譲が作曲した曲は全7曲だが、このうち1曲がW.D.O.で演奏されたものである。YouTubeでXparkに関する動画を見ながらいくつかの曲の一部を聴いてみると、すべて美しく素晴らしい曲ばかりだ。海外に出て行くことができないため、実際に聴くことができない貴重な音源である。コンサートでこういう形でも1曲ちゃんと聴けてうれしい。

 

 

豊嶋泰嗣さんのヴァイオリン・ソロ部分でこんなに明るい笑顔を見せてくれる久石譲さん…!!!

 

 

Joe Hisaishi:Symphonic Suite “Princess Mononoke” 2021

 

W.D.O.2016で演奏された交響組曲が完全版に進化した。2016年に演奏された「Symphonic Suite “Princess Mononoke”」は音源発売もされず、コンサートの映像化もされなかった。だからファンたちがとても熱望した曲だが、この機会にアルバム発売にもつながってほしい。やはりもののけ姫の曲は胸を鳴らし、耳を清めるような感じだった。

 

 

ウッドブロックをたたきながらコダマを表現した。(大太鼓の横の楽器もウッドブロックだろうか。 鉄製の感じがするんだけど… マレットの違いかも…)この曲は、1998年にアルバムとして発売された「交響組曲もののけ姫」になかった追加された部分だ。

 

 

ソプラノ安井陽子さんが「もののけ姫」を素敵に歌ってくれた。クライマックスの部分はいつ聴いても身の毛がよだつほどいい。

 

 

いまにも終わりそうだった交響組曲は、世界の崩壊を表現した楽曲が演奏され、再び緊張が高まる。コントラバスを下から上へ上から下へと演奏される技法が印象的だ。この部分が追加されることでもののけ姫の物語世界が完成されて、音楽的にもより完成された感じだ。

 

 

最後の曲「アシタカとサン」。個人的にもののけ姫で一番好きな曲だ。久石譲のピアノ演奏とコンサートマスター豊嶋泰嗣さんの素敵なヴァイオリン・ソロ演奏。久石譲のピアノは概ね伴奏にとどまりヴァイオリン・ソロがとても華やかだった。久石譲のピアノ演奏はいつ聴いてもいいが、「アシタカとサン」ピアノ・ソロとして多く演奏されてきたので、ヴァイオリン・ソロ演奏で聴くととても新鮮だった。特に今回のコンサートのために変形されたフレーズが心をつかんだ。次いでソプラノ安井陽子さんのボーカルバージョンが引き継がれた。 武道館の合唱バージョンはもうおなじみだったからソプラノバージョンもとても良かった。原曲のカウンターテナーともまた違った感じだ。

今回のコンサートでは、久石譲がコンサートの出演者紹介で「Conductor, Piano」ではなく、「Conductor」としてだけ紹介された。指の負傷の影響もあったはず、それでも指揮台からメインピアノに移動してピアノ演奏を披露するサプライズ演出を見せた。たとえ短い演奏でも、こんなファンサービスに感動した!!

 

World Dreams

 

コンサートのアンコール曲は「World Dreams」で終わる。W.D.O.の象徴になってしまった曲だ。2019年以降、「World Dreams」が終わるとマリンバの音が幻聴で聞こえてくる後遺症があるが、どうしようもない。

 

 

久石譲の今回の「ワールド・ドリーム・オーケストラ・2021」コンサートは、2016年のコンサートと似ている面がある。久石譲の「The East Land Symphony」と「もののけ姫交響組曲」が演奏された2016年、そして久石譲の「交響曲第2番」と「もののけ姫交響組曲2021」が演奏された2021年。本当に素晴らしい組み合わせだ。 2016年のコンサートが映像化されていないことが残念でならない。

また、リアルタイムストリーミングの利点は、彼のコンサートをリアルタイムで見て、感じた点を、日本の観客とすぐに共有することができるし、今すぐ映像と録音に残ったコンサートを何回も繰り返すことができるということだ。テレビやブルーレイとは異なり、編集の心配もなく、公演開始前の楽器のチューニング、舞台セッティングの過程などを生き生きと見ることができるのもいい。

これからもリアルタイムのストリーミングが慣行として残ってほしいという願いをもって終了。

 

2021年7月27日 tendo

 

出典:TENDOWORKS|久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ2021 コンサート・レビュー
https://tendowork.tistory.com/70

 

 

tendo(テンドウ)さんのサイト「TENDOWORKS」には久石譲カテゴリーがあります。そこに、直近の久石譲CD作品・ライブ配信・オフィシャルYouTube特別配信をレビューしたものがたくさんあります。ぜひご覧ください。

https://tendowork.tistory.com/category/JoeHisaishi/page=1

 

”2019年以降、「World Dreams」が終わるとマリンバの音が幻聴で聞こえてくる後遺症があるが、どうしようもない。”

ここは、組曲「World Dreams」I.World Dreamsの終わり、ストリングの響きをのこしたまま II.Driving to Futureのマリンバへとつながっていく。組曲版が染みついてしまってるからの幻聴ですね♪ もしこの部分を見て、「それわかるっ! おなじくそうなるっ!」って思った人、tendoさんと楽しく仲良くなれると思います。ぜひツイッターでFFつながってください(^^)

tendo
@tendo01

 

tendoさんとはSNSで交流しています。ご自身のサイトに公開していたレポートを、日本語に翻訳するかたちで紹介させてもらうこと、快諾してくれました。なるべくオリジナルテキストの雰囲気が残るように必要な添削と最低限の補正にしています。複数の翻訳サイトを使って吟味しました。tendoさんのレポートおもしろかったですよね、 かなり伝わるもの多かったですよね。果汁100%のままとはいきませんが、80%くらいで美味しさ伝わったならうれしいです。

 

 

こちらは、「コンサート・パンフレット」から久石譲による楽曲解説や、いつものコンサート・レポートをしています。

 

 

 

 

「行った人の数だけ、感想があり感動がある」

久石譲ファンサイト 響きはじめの部屋 では、久石譲コンサートのレポートや感想、いつでもどしどしお待ちしています。応募方法などはこちらをご覧ください。どうぞお気軽に、ちょっとした日記をつけるような心もちで、思い出をのこしましょう。

 

 

みんなのコンサート・レポート、ぜひお楽しみください。

 

 

reverb.
ライブ配信が海外ファンレポート第1号を叶えてくれました(^^)

 

 

*「Overtone」は直接的には久石譲情報ではないけれど、《関連する・つながる》かもしれない、もっと広い範囲のお話をしたいと、別部屋で掲載しています。Overtone [back number] 

このコーナーでは、もっと気軽にコメントやメッセージをお待ちしています。響きはじめの部屋 コンタクトフォーム または 下の”コメントする” からどうぞ♪

 

Overtone.第45回 「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2021」コンサート・レポート by A.Mさん

Posted on 2021/07/27

4月21~24日開催、7月25~26日振替開催、国内3都市5公演と世界各地ライブ配信も実現した「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2021」コンサートツアーです。4月の緊急事態宣言を受けツアー途中で中止となってしまいましたが、それから間を置かず7月振替公演を叶えてくれました。W.D.O.2021完走してくれたこと、尽力いただいた皆さまへ感謝の気持ちでいっぱいです。

今回ご紹介するのは、いち早く京都公演のコンサート・レポートを送っていただいていたA.Mさんです。ようやくオープンにすることができます。ありがとうございます。

 

 

久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ 2021
JOE HISAISHI & WORLD DREAM ORCHESTRA 2021

[公演期間]  
2021/04/21,22,24
2021/07/25,26

[公演回数]
5公演
4/21 京都・京都コンサートホール 大ホール
4/22 兵庫・兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホール
4/24 東京・すみだトリフォニーホール

*緊急事態宣言を受け2公演とライブ配信 中止
4/25 東京・すみだトリフォニーホール
4/27 東京芸術劇場 コンサートホール
4/27 ライブ配信(日本・海外)

*振替公演
7/25 東京芸術劇場 コンサートホール
7/26 東京・すみだトリフォニーホール
7/25 ライブ配信(日本・海外)

[編成]
指揮:久石譲
ソプラノ:林正子(4/21,22,24) 安井陽子(7/25,26)
管弦楽:新日本フィル・ワールド・ドリーム・オーケストラ
コンサートマスター:豊嶋泰嗣

[曲目]
久石譲:交響曲 第2番 *世界初演
    Symphony No.2 (World Premiere)
    Mov.1 What the world is now?
    Mov.2 Variation 14
    Mov.3 Nursery rhyme

—-intermission—-

久石譲:Asian Works 2020 *世界初演
    I. Will be the wind
    II. Yinglian
    III. Xpark

久石譲:交響組曲「もののけ姫」2021
    Symphonic Suite “Princess Mononoke” 2021

—–encore—-
久石譲:World Dreams

 

 

京都公演 コンサートレポート

4月21日に行われた京都公演に行ってきました。

私にとって、初めてのコンサートでした。

久石譲さんと彼の音楽に出会ったのは中学1年生の頃です。たまたまYouTubeで武道館公演の動画を見つけたのがきっかけです。初めて彼の音楽を聴いた時に本当に感動しました。音楽で人の心は動くのだと、そう実感した瞬間でした。そして、人生で1度は必ず久石譲さんのコンサートに行こうと決めた瞬間でもありました。

実際にコンサート会場を訪れて見ると、会場にいる人たちの年齢層の広さに驚きました。幼稚園生、小学生辺りの子どもから親世代の方々、ご年配の方まで、幅広い年代の方が男女問わず大勢訪れていました。久石譲さんの音楽はたくさんの人に年齢性別問わず愛されているのだと実感しました。

私にとってもののけ姫は人生のバイブルと言っても過言ではありません。アシタカを見ると真っ直ぐに生きなければと常に思います。そんなもののけ姫の音楽を生で聴くことが出来て本当に感無量でした。特にアシタカせっ記を聴いた時、全身を血が駆け巡ったようでした。心が震えるとはこのことなのかと感じました。アシタカせっ記の美しい音色や力強さはまさにアシタカの心、生き方そのものなのだと思いました。

ずっと前から画面越しに見ていた人、聴いていた音楽を今目の前にしている…あの瞬間は一生の思い出です。

辛い時や悲しい時、心を沈めたい時やリラックスしたい時にはいつも久石譲さんの音楽がありました。私にとって久石譲さんと彼の音楽は人生の大切な、大切な一部です。

本当に素敵な音楽をありがとうございます。これからも応援しています。

そして、久石譲さん、新日本フィルの皆様を初めとした、コンサートスタッフの皆様、今回の素晴らしいコンサートを実現していただいて本当にありがとうございました。一人一人の力のおかげで、コンサートは成り立ったのだと思います。これからもなかなか思うように行動できなかったり、自由を制限されることがあると思いますが、きっと私はコンサートの思い出と彼の音楽に心を何度も癒されることになるでしょう。

ずっとずっと久石譲さんの音楽が大好きです。

2021年4月24日 A.M

 

 

 

とても心伝わるレポートありがとうございます。初めてのコンサート、きっと一生の思い出になりますね。そんな大切な想いとコンサート感想をいただいてとても光栄です。書き残す場所として、伝える場所としてファンサイトに送っていただき本当にありがとうございます。

コンサート会場でプレゼントやお手紙を出演者へ預けることもできない今。ちょっとした声援、ファンとの一瞬の会話もできない今。きっと演奏者の皆さんへも観客の生の声が届きにくくなっていると思います。これまでコンサートのたびにお互い活力や喜びになっていたもの。

届くかはわかりませんが、めぐりめぐってきっと届く!もしそう信じてくれるのなら。コンサートの感動を伝える場所として、ファンサイトをひとつの選択肢にしてもらえたらうれしく思います。届きやすくなるように日々がんばっていきます(^^)

 

 

 

4/21京都公演

リハーサル風景

from 久石譲コンサート公式Twitter
@joehisaishi2019

 

コンサート風景

from 新日本フィルハーモニー交響楽団公式Twitter
@newjapanphil

 

 

4/22兵庫公演

リハーサル風景

from 久石譲コンサート公式Twitter
@joehisaishi2019

 

コンサート風景

from 新日本フィルハーモニー交響楽団公式Twitter
@newjapanphil

 

 

 

こちらは、「コンサート・パンフレット」から久石譲による楽曲解説や、いつものコンサート・レポートをしています。

 

 

 

 

「行った人の数だけ、感想があり感動がある」

久石譲ファンサイト 響きはじめの部屋 では、久石譲コンサートのレポートや感想、いつでもどしどしお待ちしています。応募方法などはこちらをご覧ください。どうぞお気軽に、ちょっとした日記をつけるような心もちで、思い出をのこしましょう。

 

 

みんなのコンサート・レポート、ぜひお楽しみください。

 

 

reverb.
紹介できたこと、とてもうれしく思います♪

 

 

*「Overtone」は直接的には久石譲情報ではないけれど、《関連する・つながる》かもしれない、もっと広い範囲のお話をしたいと、別部屋で掲載しています。Overtone [back number] 

このコーナーでは、もっと気軽にコメントやメッセージをお待ちしています。響きはじめの部屋 コンタクトフォーム または 下の”コメントする” からどうぞ♪

 

Overtone.第44回 新しいミニマリズムのかたち

Posted on 2021/07/20

ふらいすとーんです。

久石譲の真骨頂ミニマリズムについて、進化つづけるミニマリズムについてです。

 

ミニマリズムとは 

「Minima_Rhythm」というタイトルは、ミニマル・ミュージックの「Minimal」とリズムの「Rhythm」を合わせた造語だが、リズムを重視したミニマル・ミュージックの作品を作りたいという作家の思いからつけた。

不協和音ばかりに偏重してしまった現代音楽の中でも、ミニマル・ミュージックには、調性もリズムもあった。現代音楽が忘れてしまったのがリズムだったとするならば、それをミニマル・ミュージックは持っていた。

映画音楽やポップスのフィールドで仕事をしてきた。言うまでもなくポップスの基本はリズムであり、またメロディーにもある。そこで培ってきた現代的なリズム感やグルーヴ感、そういうものをきちんと取り入れて、両立させることで独自の曲ができるのではないか。もう一回、作品を書きたいという気持が強くなったとき、自分の原点であるミニマル・ミュージックから出発すること、同時に新しいリズムの構造を作ること、それが自分が辿るべき道であると確信した。それがごく自然なことだった。

(『Minima_Rhythm ミニマリズム』CDライナーノーツより 抜粋)

 

 

久石譲が若い時代に封印したクラシックに戻り、つよく作品をのこしたいと作家性を解放しはじめることになったのが、『Minima_Rhythm ミニマリズム』(2009)の発表です。ここから以前にまして、エンターテインメント音楽の大衆性とオリジナル作品の芸術性を両軸に、大きな翼を広げていくことになっていきます。

 

自らの原点であるミニマル・ミュージックを追求し、シンフォニックな作品を凝縮した記念碑的アルバム。フルオーケストラから室内オーケストラまで、クラシックの語法を施しながら、色濃く久石譲の作家性をもあぶり出してみせたミニマリズム出発点です。たとえて言うなら、シンフォニック・ミニマリズム。

久石譲 『ミニマリズム』

 

 

指揮者久石譲としての現代的アプローチも如実に、ソリッドな響きに磨きのかかったアルバム。室内楽編成で彩られた作品は、ピアノソロ、2つのマリンバ、4つのサキソフォンとパーカッション、弦楽四重奏という独創性あるもの。最小(音型・編成)にこだわった芸術性で新しい方向性をすでに示してします。たとえて言うなら、室内楽ミニマリズム。

 

 

いよいよ長大な交響曲が姿を現した、それは未完となっていた交響曲第1番の完全版なる作品を遂に収録したアルバム。おさまりきらないカオスは、パーカッションが炸裂しソプラノが浄化する。またファンファーレ感きらめく新たなコンセプトと着想でまとめあげた祝祭的作品も。たとえて言うなら、管弦楽ミニマリズム。

 

 

最新作は、ミニマル×コンチェルトという斬新なコンセプト。さらにはソリストに迎える楽器も、協奏曲の数が稀有なコントラバスと、これまでのイメージを覆し新しい表現力に挑んだ3本のホルン。久石譲にしか書けない協奏曲を、久石譲とともに現代的アプローチを磨いてきたFOCの演奏で収録。たとえて言うなら、協奏曲ミニマリズム。

 

 

このように振り返ってみると、ミニマリズムはシリーズをかさねるごとに、コンセプト・音楽構成・楽器編成と、それぞれの盤に独自のカラーとテーマ性で練られ、それぞれの立ち位置で堂々と君臨していることがわかります。すべてに共通しているのはクラシック・フィールドから発表されていることです。伝統的なクラシックの手法を受け継ぎながら、現代の作品として新しい可能性を追求しています。

 

 

久石譲の現代作品はこれだけでしょうか?

歩みのなかで忘れてはいけないこと、あくまでも”Minima_Rhythm”出発点は【原点のミニマル・ミュージックをベースに作品を書くこと】であったということです。すでに『ミニマリズム2』(2015)の時には出発点から大きく進化しています。一般的なミニマル・ミュージックの狭義から大きく飛び越えています。

“ミニマリズム Minima_Rhythm”アルバムには収録されていないけれど、久石譲オリジナル作品の多くにミニマル手法は盛りこまれ、あらゆるかたちでミニマルなエッセンスは散りばめられています。

 

主なオリジナル作品(2000-)

2005年
DEAD for Strings,Perc.,Harpe and Piano
(『WORKS III』収録)

Links
(『Minima_Rhythm』収録)

Orbis
(『Melodyphony』収録)

MKWAJU 1981-2009 for Orchestra
(『Minima_Rhythm』収録)

DA・MA・SHI・絵
(『Minima_Rhythm』『Spirited Away Suite』収録)

Sinfonia for Chamber Orchestra
(『Minima_Rhythm』収録)

The End of the World
(『Minima_Rhythm』収録)

2010年
弦楽オーケストラのための 《螺旋》 *
*Unreleased

Prime of Youth *
*Unreleased

2011年
5th Dimension
(『JOE HISAISHI CLASSICS 4 』収録)

2012年
Shaking Anxiety and Dreamy Globe
(『Minima_Rhythm II』収録)

2014年
Single Track Music 1
(『Minima_Rhythm II』収録)

String Quartet No.1
(『Minima_Rhythm II』収録)

Winter Garden for Violin and Orchestra *
*Unreleased

2015年
祈りのうた ~Homage to Henryk Górecki~
(『The End of the World』収録)

The End of the World for Vocalists and Orchestra
(『The End of the World』収録)

室内交響曲 for Electric Violin and Chamber Orchestra
(『MUSIC FUTURE 2015』収録)

コントラバス協奏曲
(『Minima_Rhythm IV』収録)

Orbis for Chorus, Organ and Orchestra *
*Unreleased

2016年
TRI-AD for Large Orchestra
(『Minima_Rhythm III』収録)

THE EAST LAND SYMPHONY
(『Minima_Rhythm III』収録)

2 Pieces for Strange Ensemble
(『MUSIC FUTURE II』収録)

2017年
Encounter for String Orchestra
(『Spirited Away Suite』収録)

ASIAN SYMPHONY
(『Symphonic Suite Castle in the Sky』収録)

室内交響曲第2番《The Black Fireworks》〜バンドネオンと室内オーケストラのための〜
(『MUSIC FUTURE III』収録)

2018年
The Black Fireworks 2018  for Violoncello and Chamber Orchestra
(『MUSIC FUTURE IV』収録)

2019年
Variation 57 for Two Pianos and Chamber Orchestra *
*Unreleased

2020年
The Border  Concerto for 3 Horns and Orchestra
(『Minima_Rhythm IV』収録)

2 Pieces 2020 for Strange Ensemble *
*Unreleased

Variation 14 for MFB *
*Unreleased

2021年
I Want to Talk to You ~ for string quartet, percussion and strings ~ *
*Unreleased

交響曲 第2番 *
*Unreleased

 

久石譲オリジナル作品一覧はこちらにまとめています。上記は大きく抜粋したものです。その全貌や変遷はこちらからどうぞ。

 

 

久石譲コンサート活動の転換点となった「久石譲 フューチャー・オーケストラ・クラシックス(FOC)」と「久石譲 presents ミュージック・フューチャー(MF)」、この2つのコンサート・シリーズは創作活動にも影響を与えている分岐点です。

コンサートそのものに大きなコンセプトを備えているので、おのずとそこで発表される久石譲新作も、コンセプトに沿ったものという新しい指向性をうみだすことになりました。最新アルバム『Minima_Rhythm IV』に収録された「The Border Concerto for 3 Horns and Orchestra」はFOCコンサートで初演されたものです。

 

 

新しいミニマリズム 1

注目したいのは、MFコンサートで新作として初演される個性的で先鋭的な作品たちです。オーソドックスな楽器編成ではなく、ストレンジな特殊編成でつくりあげられているという点においても。

《ソリストのためのミニマリズム》です。こんなにおもしろい構成ってなかなかないと思います。変わった楽器編成かつソリストを迎えたかたちで、ミニマル手法を駆使した音楽を構成しています。ソリスト×ミニマルって世界中をみわたしても、作品群として築いている人ってそういないんじゃないかな。オーケストラとして、アンサンブルとしては、もちろんあります。でも、ソリストのためのミニマル作品ということは、ソリストを務める演奏者に求められるものも大きく、またソロ楽器のことも熟知したうえで表現力を開花できる作曲家、ということになるからです。

 

《Minima_Rhythm for Soloists》

室内交響曲 for Electric Violin and Chamber Orchestra
(エレクトリック・ヴァイオリン)

 

室内交響曲 第2番《The Black Fireworks》
~バンドネオンと室内オーケストラのための~

 

The Black Fireworks 2018 for Violoncello and Chamber Orchestra
(チェロ)

 

Variation 57 for Two Pianos and Chamber Orchestra *
(2台のピアノ)*Unreleased

 

タイトルを見ただけでも、なんと意欲的で衝撃的な作品が並んでいることか。エッジの効いたサウンドはときにサンプラーやキーボードもアクセントになっています。実験性の高いというには完成度の高すぎる、その時期の創作活動のマイルストーンとなっている楽想・音色・コンセプト・手法・こだわりなどが濃厚に反映されている。そして、オーケストラ作品よりも編成規模も中、時間も中、ほどよい大きさと長さは、より一層ミニマル・ミュージックを突きつめるのにも適している。新しい感覚で聴き手を魅了し、躍動と静謐の緩急で覚醒させ、未来を切り拓いていこうとするエネルギーに溢れています。そして!(ここ大切)、ソリストをおくことで、呼吸するミニマル、エモーショナルなミニマルを強く打ち出しています。

 

広く協奏曲も for ソリスト。

最新作『Minima_Rhythm IV』に収録された「Contrabass Concerto」も「The Border Concerto for 3 Horns and Orchestra」も協奏曲というグルーピングであり、ソリストを迎えある楽器にフィーチャーした音楽構成という意味では、上のMF作品群と同じです。一方では、MFの室内交響曲と銘打ったエレクトリック・ヴァイオリンやバンドネオンの作品も、音楽構成は協奏曲形式です。2つの協奏曲もMF作品群も《ソリストのためのミニマリズム》という大きなグルーピングにもなります。

音源化されていない「Winter Garden for Violin and Orchestra」もヴァイオリン協奏曲の構成をとった珠玉の作品です。まだかまだかと待ち望んでいるファンはとても多い。

久石譲の大きなこだわり。一貫してすべての作品で、ソロ楽器とオーケストラ(アンサンブル)が役割の切り離された主従関係のような構成をとっていません。ソロが主役、オケが伴奏ではなく、一体化して聴かせる音楽になっている。旋律も音色も融和することで、絶妙な調和をうみだし、ソリストふくめ全奏者がアンサンブルする一員となっている音楽構成です。

ソリストのために構成された音楽は、性格・カラー・コンセプトを決定づける大きな要素になります。そして、伝統的な協奏曲形式をとりながらも、斬新で意欲的な現代にしか書けないもの。久石譲の《ソリストのためのミニマリズム》とは挑戦であり開拓である、と強く感じます。

 

 

新しいミニマリズム 2

久石譲の音楽は、エンターテインメント音楽(大衆性)とオリジナル作品(芸術性)の二面性のバランスをとりながら、いずれか一方を強く打ち出すかたちで、境界線を引くように生みだされてきました。

近年は、エンターテインメント音楽とオリジナル作品の発表比率が5:5に近づいているだけではなく、エンターテインメント音楽においても、色濃く作家性をにじませた楽曲をつくっています。つまり大衆性と芸術性の二面性という境界線をクロスオーバーするような作風が目立ってきました。

《エンターテインメント・ミニマリズム》あるいは《クロスオーバー・ミニマリズム》です。エンターテインメントの壁をすり抜けて、ミニマルなアート性を貫いた楽曲たち。映画音楽やCM音楽という壁をすり抜けて、オリジナル作品へと昇華したり組み込まれた楽曲たち。

 

《Minima_Rhythm for Crossover》

ASIAN SYMPHONY
(『Symphonic Suite Castle in the Sky』収録)
映画『花戦さ』のために書き下ろされた楽曲が、ひとつの楽章として組み込まれています。

Variation 57 for Two Pianos and Chamber Orchestra *
*Unreleased
ダンロップCM音楽のために書き下ろした楽曲が、ひとつの楽章として組み込まれています。

 

ほかには、直近から映画『海獣の子供』『赤狐書生』、テレビ『ディープオーシャン』、プラネタリウム『ad Universum』、プロモーション『Will be the wind(レクサス中国)』『Prayers(明治神宮)』など、さまざまな機会でミニマル手法の多面性を開花させています。このなかには、すでに演奏会用に再構成された作品もあります。

ここでひとつ象徴的な言い方をしてみましょう。これまでは聴いてすぐ「あっ、久石メロディだ」とわかる楽曲がエンターテインメント音楽にありました。最近は、「あっ、この音楽久石さんかな」とわかるミニマル手法の楽曲がエンターテインメント音楽にあります。ミニマルなエッセンスが広くお茶の間にも顔をのぞかせしっかり浸透しはじめている。

 

少し横道に。

久石譲は「ASIAN SYMPHONY」を【メロディアスなミニマル】(2017)と言い、「DEAD」を【最も自分らしい曲でもある】(2018)と言っています。ここで引き出したいのは、メロディとミニマルを融合させるかたちをこの2作品はとっているということです。これこそが、久石譲独自の音楽を確立するひとつのモデルとなっています。

エンターテインメントとオリジナル作品、メロディアスとミニマル。エンターテインメントはメロディアス、オリジナル作品はミニマルと、これまでは並走する2本の線だったものが、4つの点を縦横無尽にクロスして、これまでの境界線をとっぱらって、なんの矛盾もなく共存できる、いかなる可能性をも秘めています。

 

 

《Minima_Rhythm for Soloists》×《Minima_Rhythm for Crossover》

Untitled Music *
*Unreleased
TV番組『題名のない音楽会』のために書き下ろされたテーマ曲で、番組司会を務めた五嶋龍さんに華を添えるように、ヴァイオリンをフィーチャーした楽曲になっています。久石譲の新しい方向性を導いたといってもいい、秀逸なエンタメ×ミニマルの結晶です。オリジナル作品一覧にラインナップしたいほどに。

The Dream of the lambs
(『羊と鋼の森 オリジナル・サウンドトラック SPECIAL』収録)
映画エンディングテーマとして書き下ろされた曲で、久石譲と辻井伸行というコラボレーションは大きな話題にもなりました。ミニマルとメロディアスが交差するこの曲は、記憶にのこる印象的なメロディと高度な律動で、心地よい情感と緊張感に魅了されます。

 

この2曲は、今ある単曲としても素晴らしいです。もしかしたら、これから大きな作品へと再構成される可能性もないとは言えない、久石譲作品を並べるうえで外せない作品です。

リスペクトする演奏家、コラボレーションしたい楽器、ソリストのために書き下ろされる作品。世界で活躍する次世代を担う若きトッププレーヤー、五嶋龍(ヴァイオリン)、辻井伸行(ピアノ)、三浦一馬(バンドネオン)、現代的なアプローチとリズム感覚にも優れ、若い才能と強い個性で久石譲音楽を輝かせる。抜群の安定感と充実した表現力でリードするトッププレーヤー、西江辰郎(ヴァイオリン)、マヤ・バイザー(チェロ)、滑川真希(ピアノ)、石川滋(コントラバス)、福川伸陽(ホルン)、演奏不可能を可能にする熟練の技術と集中力。こういった一流演奏家たちこそ、100年後のソロ楽器レパートリーへと久石譲音楽をつないでくれる確かな先導者たちです。

 

 

新しいミニマリズム 3

久石譲の初期作品は、アンサンブル曲やシンセサイザー曲があります。のちに、オーケストラ作品として生まれ変わったものも数多くあります。「MKWAJU 1981-2009 for Orchestra」「DA・MA・SHI・絵」「DEAD for Strings,Perc.,Harpe and Piano」「The End of the World」など。オリジナル版から発展させたもの、完全版へと昇華させたもの、これがこれまでのひとつの流れでした。

久石譲の近年作品は、完全版としてあるものを新たに置き換える、そんな手法も目立つようになりました。《リコンポーズ・ミニマリズム》です。楽器編成を拡大したり、反対に縮小したりすることで、その楽曲の核を強く浮かびあがらせる。あるいは、楽器や構成を換えても楽曲の核を失わないことを確かめるように。そのようにして再構成(リコンポーズ)していく。オリジナル版からリコンポーズまでの期間が短いというのも特徴といえます。

 

《Minima_Rhythm for Recomposed》

Shaking Anxiety and Dreamy Globe
[2台ギター版]
[2台マリンバ版]

Single Track Music 1
[吹奏楽版]
[サクソフォン四重奏と打楽器版]

Encounter
[弦楽四重奏版] 第一楽章
[弦楽オーケストラ版]

祈りのうた
[ピアノ版]
[ピアノと弦楽合奏とチューブラー・ベルズ版]

The Black Fireworks
[バンドネオンと室内オーケストラ版]
[チェロと室内オーケストラ版]

2 Pieces for Strange Ensemble *
(2016年版/2020年版 改訂)

Variation 14 for MFB *
(交響曲第2番からひと楽章を先行披露)

I Want to Talk to You *
(合唱版/器楽版 先に完成の合唱版は未初演)

*Unreleased

 

 

また、作品をまたいだ転用手法もあります。

 

The End of the World for Vocalists and Orchestra
III.D.e.a.d
「D.E.A.D」第2楽章<The Abyss~深淵を臨く者は・・・・〜>がひとつの楽章として組み込まれています。

Orbis for Chorus, Organ and Orchestra
III. Mundus et Victoria ~世界と勝利
「Prime of Youth」をベースに合唱パートを加えひとつの楽章として再構成されています。

The Border  Concerto for 3 Horns and Orchestra
III. The Circles
「室内交響曲 for Electric Violin and Chamber Orchestra」第3楽章をベースにひとつの楽章として再構成されています。

 

このように、一度コンポーズ(作曲・構成)したものを、柔軟にリコンポーズ(再構成)することで、久石譲作品の足腰はどんどん鍛えられ、強靭なコアを磨きあげていっている。クラシック音楽では、旋律の転用をはじめ楽曲まるまる転用という手法は一般的にあります。ベートーヴェンでもマーラーでもお気に入りのメロディをいろいろな作品に使っていたりします。そこには、作曲家のオリジナリティが強くあるもの、作曲家の執着が強いもの、作家性としてコアなパーツが転用されていると捉えることもできます。作曲家の視点でみるなら、転用に値すると判断したもの、ということでしょうか。

裏返せば、リコンポーズほど作家性が色濃く出る手法はありません。自作品であれば、リコンポーズするだけのオリジナル性をもっていないとBefore作品もAfter作品もその魅力を発揮でません。他作品であれば、オリジナル版から新しい魅力を引き出せる、あるいはリコンポーズした人が誰なのか聴いてわかるほどのアイデンティティをそこへ残せるか。「フィリップ・グラス:TWO PAGES」を久石譲がリコンポーズした版のように。

リコンポーズについては、これから先もふれることがあると思うので、いまはキーワードだけ残させてください。……リワーク、再構成、再構築、脱構築、再作曲、解体、変形、変容、再発見、再創造…どれも久石譲リコンポーズ・ワークスにつながるように思います。

久石譲は、自らを作曲家という肩書きにこだわっています。多種多彩なコンサート活動をみわたせば、プログラム(選曲)ふくめプロデューサーでもあります。指揮者として臨んだコンサートでも、古典作品と現代作品を同じアプローチで扱いソリッドに表現構成しています。コンポーズには作曲という意味がありますが、構成するという意味もあります。久石譲の活動をみると、大きく音楽を構成している人のようにも思えてきます。久石譲は作曲家であり音楽を構成するコンポーザー。現代における稀有な音楽家です。

 

 

新しいミニマリズム 4

最後はやっぱり《交響曲ミニマリズム》です。

 

《Minima_Rhythm for Symphony》

THE EAST LAND SYMPHONY

 

記念すべき第1交響曲は、「THE EAST LAND SYMPHONY」とされています。もともとは未完で発表された「交響曲第1番 第1楽章」を、そのまま第1楽章として継承し全5楽章からなる作品として誕生しました。

位置づけとしての番号付け【第1交響曲 / シンフォニーNo.1】はしていますが、作品名としての番号付け【交響曲第1番 / シンフォニー No.1】はされていません。このあたりの思いについて、以前少し語られたことがあります。

 

”これはすごく悩みます。シンフォニーって最も自分のピュアなものを出したいなあっていう思いと、もう片方に、いやいやもともと1,2,3,4楽章とかあって、それで速い楽章遅い楽章それから軽いスケルツォ的なところがあって終楽章があると。考えたらこれごった煮でいいんじゃないかと。だから、あんまり技法を突き詰めて突き詰めて「これがシンフォニーです」って言うべきなのか、それとも今思ってるものをもう全部吐き出して作ればいいんじゃないかっていうね、いつもこのふたつで揺れてて。この『THE EAST LAND SYMPHONY』もシンフォニー第1番としなかった理由は、なんかどこかでまだ非常にピュアなシンフォニー1番から何番までみたいなものを作りたいという思いがあったんで、あえて番号は外しちゃったんですね。”

Blog. NHK FM「現代の音楽 21世紀の様相 ▽作曲家・久石譲を迎えて」 番組内容 より抜粋)

 

 

さらに悩ましいことに、「THE EAST LAND SYMPHONY」(2016)を第1/No.1としてしまうと、それ以前の交響作品たちは??

 

多楽章で構成されたオーケストラ作品(改訂 発表順)

  • DEAD for Strings,Perc.,Harpe and Piano ※弦楽オーケストラ
  • Sinfonia for Chamber Orchestra ※室内オーケストラ
  • Winter Garden for Violin and Orchestra ※協奏曲形式
  • The End of the World for Vocalists and Orchestra ※スタンダード曲含む
  • Orbis for Chorus, Organ and Orchestra
  • ASIAN SYMPHONY
  • THE EAST LAND SYMPHONY ← 第1/No.1

 

実は、こう振り返ってみると、もし仮に過去作品から純粋な【久石譲 第1交響曲】を選ぼうとすると、、「Sinfonia for Chamber Orchestra」「Orbis for Chorus, Organ and Orchestra」「ASIAN SYMPHONY」あたりに絞られてくることにも気づいてきます。見方によるけれど「The End of the World for Vocalists and Orchestra」くらいの4作品まで。ふむ、4作品も候補があれば充分あふれてる気もしてくる。交響曲をフルオーケストラの管弦楽作品としたときにです。

個人的には、作品番号付けしてほしい派です。「THE EAST LAND SYMPHONY」ではなく、「交響曲第1番《THE EAST LAND SYMPHONY》」でも「交響曲第1番《THE EAST LAND》」でもいいので。

 

理由は2つです。

久石譲の交響作品がワンセットとして機能すること。「今日は3番聴こうかな、今日は5番な気分だな」とか、そういうあり方をひとつひとつの作品がしてくれることで、久石譲音楽が多面的に有機的に響きあうこと。数字的な無機質さの良さ(機会を狭めない)もあります。

もうひとつは番号付けによる関連付けです。未来の話をします。たとえば100年後、「久石譲:交響曲第5番《○○○》」が注目されたとします。引っ張られるように、ほかの番号作品は?と注目が連鎖していきます。歴史のなかで見直されてきたマーラー交響曲たちのように。もしこれが、《○○○》だけだったら注目が点で終わる可能性もあるのかもしれません。番号付けすることで交響作品の点と点が線となり、久石譲交響作品の歴史としてわかりやすくなります。

 

外堀から攻める。

「シューマン:交響曲 第4番」、作曲年次としては、第1番《春》に次ぐ2番目の交響曲であるが、改訂後の出版年次(1854年)により第4番とされた。(ウィキペディアより)

「メンデルスゾーン:交響曲 第4番」、第1番、第5番に次いで実質3番目に完成された。「第4番」は出版順である。(ウィキペディアより)

長い長い歴史でみたときに、実は完成はこっちが先とか初演はこっちが先とか、そういうことは、重要じゃない、いや重要なんです。聴く人が深く紐解こうとしたときに、聴く人が深く聴き入ろうとしたときに、トリビアな味わいになっていくじゃないかなあと思います。

 

 

そして第2交響曲は、「交響曲 第2番」として2021年に初演されたばかりです。なんとタイトルがなくなって純粋な作品番号だけになっています。…と書いていたところに、最新ウェブインタビューでその理由も知ることができました。

 

”でも、そういうタイトルを付けると、必ず〈Borderってどういう意味ですか?〉とか質問されるじゃないですか。そこで僕が言った言葉が聴く人にある種のイメージを付けてしまいますよね。現代音楽の人は実はそういうことが大好きなのですよ。そこで、僕はタイトルを付けることはやめてしまったのです。

例えば、〈9.11についての作品〉〈東日本大震災に向けたレクイエム〉〈政治に対する怒り〉といったきっかけで書かれた作品はすごく多い。でも、僕は、そういうのはゼロなんですよ。音の運動性をきちんと書きたい訳です。〈純音楽〉と言ったらいいのかな、バロック時代のように音のフレーズを運動体として、文学的な意図なんて一切無しに、音を論理的に構成していくことをやりたいんですよ。だから、タイトルを付けられないんですね。

今、9月の新日本フィルハーモニー交響楽団の定期演奏会のために書いている作品も、同時に演奏するマーラーと同じ編成のオーケストラ曲ですが、あくまでも〈交響曲〉というタイトルで、特にサブ・タイトルは付けません。そういう意味でも、今回の『ミニマリズム4』のアルバムは、ひとつの特徴ある作品集となったと思います”

Info. 2021/07/15 久石譲がコントラバス石川滋、ホルン福川伸陽と語る挑戦に満ちた協奏曲集『ミニマリズム4』(Web Mikikiより) 抜粋)

 

 

とても賛成です。なんだか勇み足だったかな。ポイントは【運動性】【純音楽】と前インタビューの【ピュア】といったキーワードに象徴されています。純粋に音の運動性で論理的に構成した作品ということですね。こうなってきたら、もっと柔軟に、ベートーヴェン交響曲のように(本人が付与したわけではないけれど)、サブ・タイトル付きの交響曲と番号のみ交響曲とが並んでていいんじゃないかなあと思います。だから、想いも込めた「交響曲 第1番《THE EAST LAND》」と次は「交響曲 第2番」そして次は、というように…しつこいかな。

過去の交響作品たちも、新しい番号をもらう日がくるかもしれません。たとえば、「The End of the World」が交響曲第○番とされる日には、今あるスタンダード曲の引用楽章はなくなるかもしれないとか、「DEAD」の弦楽オーケストラ構成が管弦楽に拡大されるならばとか、「Orbis」は完全版となって第9交響曲にあたるのかな!?とか…改訂や出版のタイミングで晴れて番号もらえる…しつこいかな。

「交響曲 第2番」についてのレビューは、少し先に控えています。「久石譲&WORLD DREAM ORCHESTRA 2021」コンサート・レポートでたっぷり感想を語れたらと思っています。たぶん重複しますが、強く言いたいこと。「THE EAST LAND SYMPHONY」と「交響曲 第2番」の2作品だけを並べてみても、そこには大きな3つの要素があります。古典のクラシック手法、現代のミニマル手法、そして伝統の日本的なもの。この3つの要素と音楽の三要素(メロディ・ハーモニー・リズム)の壮大なる自乗によって、オリジナル性満ち溢れた久石譲交響曲は君臨しています。これは誰にもマネできるものではありません。《Minima_Rhythm for Symphony》、これこそまさに久石譲にしかつくれない交響曲であり、《総合的な久石譲音楽のかたち》と言うべきものです。

 

 

むすび。

今までの流れだけを見て、今の時点だけをとらえて、カテゴライズしてしまうのは可能性を狭めてしまいます。作品たちのそれぞれの立ち位置や、作品群としての位置関係などは、あとから大きく見たときにわかってくるでいい。そう思っています。むしろ、いろいろと楽しく推測したり空想広げたら、無限の方向性や新しい転換点がまだまだこの先待ちうけているんだろうなあという、予想もできないワクワク感でいっぱいになってきます。

 

2020年『Dream Songs: The Essential Joe Hisaishi』久石譲音楽のメロディにフォーカスした自作品や映画音楽などからセレクトされた世界リリース・ベスト盤です。2021年『Songs of Hope: The Essential Joe Hisaishi Vol. 2』では、オリジナル作品からも収録されます。これまで以上に、世界中から注目を浴びることは間違いありません。

もっともっと先に、「ミニマリズム Minima_Rhythm」のワールド・ベストが発売されることにでもなれば、もっともっと久石譲作品が広く聴かれることになるでしょう。「Minima_Rhythmシリーズ」のユニバーサルミュージック、「MUSIC FUTREシリーズ」のオクタヴィア・レコード、ぜひレーベルの枠を越えてオールタイム・ミニマリズムになったら、なおいいなあと思います。

 

久石譲ミニマリズムの足跡をたどること、それは現代作曲家としての久石譲の足跡をたどることそのものです。時代ごとのアイデア・コンセプト・テーマを、純粋に音楽的に具現化されたもの。クラシック・現代音楽・最先端まで時代の語法を駆使しながら、論理的に構築された音楽たち。エンターテインメント音楽ではうかがい知れない、時代の空気を色濃くあぶり出しすような現代の音楽たち。点と点がしっかりと線になっている久石譲オリジナル作品は、20-21世紀の歴史を刻み未来のレパートリーとなりますように。《新しいミニマリズムのかたち ミニマリスト:久石譲》でした。

 

Modern Minima_Rhythm Style
Minimalist: Joe Hisaishi

 

それではまた。

 

reverb.
今回は、久石譲の音楽活動をリアルタイムに(必死についていこうと!?)歩んでいるファン、そんな歩速と歩幅で、足なみ緩めることなく一気に進みました。こんな作品知らなかった、こんなコンサート活動知らなかった、こんな歴史知らなかった、ということもあると思います。興味あるところからゆっくりのぞいてもらえたなら、じんわりたしかにわかってくることもあると思っています。いつも頭の中散らかっています(^^;

 

 

*「Overtone」は直接的には久石譲情報ではないけれど、《関連する・つながる》かもしれない、もっと広い範囲のお話をしたいと、別部屋で掲載しています。Overtone [back number] 

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Overtone.第43回 「久石譲 FUTURE ORCHESTRA CLASSICS Vol.3」コンサート・レポート by ふじかさん

Posted on 2021/07/14

7月8,10日開催「久石譲 FUTURE ORCHESTRA CLASSICS Vol.3」コンサートです。

今回ご紹介するのは、久石譲ファンの一人、ふじかさんのコンサート・レポートです。東京公演(8日)、見ているだけでワクワク楽しいです。とてもわかりやすくて音がイメージが伝わってきます。そして深い。いろいろな音楽を聴きながら取り込みながら、自分のなかに消化している絡みあっている。ふじかさんの濃密な私的体験を、読んでいるだけなのにたしかに感じることができます。

 

 

久石譲 FUTURE ORCHESTRA CLASSICS Vol.3

[公演期間]  
2021/07/08,10

[公演回数]
2公演
東京・東京オペラシティ コンサートホール
長野・長野市芸術館 メインホール

[編成]
指揮:久石譲
管弦楽:Future Orchestra Classics
コンサートマスター:近藤薫

[曲目] 
レポ・スメラ:交響曲 第2番
久石譲:I Want to Talk to You ~for string quartet, percussion and strings~

—-intermission—-

ブラームス:交響曲 第2番 ニ長調 Op. 73

—-encore—-

ブラームス:ハンガリー舞曲 第17番

 

 

JOE HISAISHI FUTURE ORCHESTRA CLASSICS VOL.3の東京公演のレポートをさせて頂きます。

2021年7月8日 東京オペラシティコンサートホール 19時開演

2020年夏の開催から2度の延期を経て、ようやく開催された本公演。ブラームスの交響曲2番を軸にしたコンサートがようやく開催されました。

 

18:50ごろに会場に到着しました。

コロナ禍のため、入場の様子は様変わりしており、検温と手の消毒はもちろん、チケットは係員に見てもらったのち、もぎりは自分で行い、半券は箱の中に入れるという流れに変わっていました。

会場へ入ると、「コロナ感染症への対策へご協力ください。」というアナウンスが流れており、平常時ではないコンサートという雰囲気を感じられました。

 

19:00すぎに楽団員がステージに集結し、改めてメンバーを見ると、各オーケストラの首席レベルの奏者が次々と登壇し、スペシャルなオーケストラであると改めて認識しました。

チューニングが終わるとともに、黒いマスクをした久石さんが登場。お辞儀をし、しばしの沈黙ののち、コンサートが始まります。

 

1,Lepo Sumera 『Symphony No.2』

日本初演となった本楽曲。パンフレットには作曲者本人より解説も寄稿されていました。

『1楽章 Moderato tranquillo attaca』
ストリングスの序章から始まり、ステージ中央に設置された2台のハープよりモチーフの提示が行われます。通常のオーケストラだと、ハープの音色はステージ後方より音色が聞こえてきますが、今回は指揮者の目の前に設置されたことにより、より近くに感じられるとともに、より立体的な響きの印象を感じました。ミニマルミュージックのエッセンスを感じれる冒頭のモチーフを、音型とリズムを微妙に変容させながら、様々な形で提示していきます。音の増減の様子はフィリップ・グラスの『Two Pages』を連想させます。ハープのモチーフとともに、打楽器・金管群の演奏が加わっていきます。ハープのモチーフをなぞるように木管、弦楽器と音色が広がっていきます。中盤から後半にかけて入ってくるチューブラーベルズの音色が『The End of the World』のような警告の鐘のような雰囲気を感じ、今現在の世界の様子を表しているような印象を受けました。

『2楽章 Interludium』
ハープの前奏に続き、弦楽器がモチーフを繰り返していきます。途中で入ってくるフルート、オーボエの掛け合いのようなモチーフに浮遊感と不安定感を感じさせます。

『3楽章 Spirituoso』
1楽章の弦のモチーフの提示とともに、ハープが軸となる音型を奏でていきます。弦楽器による細かく、息の長いパッセージが全体を構成していくなか、金管・打楽器隊による力強い音がより強烈に印象を残していきます。個人的には日本人作曲家佐藤直紀さんの映画『永遠の0』のメインテーマのような雰囲気を感じました。終盤に行くにつれ、さらに力強くなってゆく金管・打楽器隊の音色には圧倒されました。フィニッシュは再度ハープ2台による演奏ののち、静かに幕を閉じていきました。

 

パンフレットには「アルヴォ・ペルトが静なら、スメラは動である」という久石さんからのコメントがありました。まさしくその通りで、さらには丁度コンサートの前後で発表になった4度目の緊急事態宣言に対する情勢の緊張・不安感を感じさせ、強く現状とを結びつける印象を受けました。

 

ステージの舞台替えが行われたのち、2曲目が始まります。

 

2、Joe Hisaishi『I Want to Talk to You~for string quartet,percussion and strings~』

3月の日本センチュリー交響楽団との初演で演奏された本楽曲が、今回のFOCのセットリストにも組み込まれました。本来は合唱編成で、2曲からなる構成ですが、今回はパンフレットから1曲のみの演奏と記載がありました。

冒頭、1st ヴァイオリンソロの「レラレラー、レラーシ♭」という短いモチーフが提示されます。それに答えるように2nd ヴァイオリンソロが同じモチーフを演奏します。このモチーフはミニマルミュージックのエッセンスを含んでいるため、徐々に音の増減が行われるとともに、音域が変化し、ヴィオラ、チェロも演奏に加わっていきます。音型の提示が進むとストリングスも演奏に加わり、全体を俯瞰していくような構成が組まれていきます。

その後、再びカルテットによる新たな音型の提示をします。このカルテットによるモチーフはなかなかユニゾンにならなかったり、ハーモニーとなって表現されていくことがあまり無く、その様子はまるで携帯電話ツールのコミュニケーションにより、直接顔を合わせずに事が進んでいく様子に警告を表しているような印象を感じ取ることができました。

中盤から後半にかけては大太鼓などのパーカッションも加わることによって、よりスリリングな緊張感を味わうことができ、『死の巡礼』のような弦楽による焦燥感を感じられます。終盤はカルテットにより、序盤のモチーフが再現されたのち、静かに幕を閉じます。

 

演奏後、カルテットメンバーと久石さんの何度かのカーテンコールが行われました。

 

休憩

 

3、Johannes Brahms『Symphony No.2 in D major Op.73』

『1楽章 Allegro non troppo』
序盤のチェロによる「レド♯レー」の提示から、「あっ、これがFOCなのか!」という印象を受けました。わずか3音ですが、早く、キレのある音色。力強く、優美な音に早速感動してしまいました。

(ちなみに補足ですが、この主音から半音さがり主音に戻るという音の流れは耳に残りやすいため、久石さんの楽曲でもメロディの冒頭に現れることがあり、映画『ウルルの森の物語』より『おかあさん』のテーマ(in D)、映画『おくりびと』より『KIZUNA』(in C)、映画『となりのトトロ』より『となりのトトロ』(in F)など様々あります) 

有名な『ブラームスの子守歌』のメロディが紡がれる部分は、序盤と同じくチェロの音色から始まりますが、まるで男性が歌を歌っているような色っぽい雰囲気を感じさせてくれました。その後の激しいパッセージからはキレの良さが伝わってきて、わくわくが止まりませんでした。弦楽による『子守歌』のメロディを彩るフルートによる副旋律は遊び心と華やかな雰囲気が伝わってきます。通常省略されることの多い、提示部の繰り返しですが、FOCではきっちりと再現。1度目とはまったく音色が異なり、より輪郭をしっかりと感じれるとともに、主題の再認識と1回目で気になった部分を改めて復習することできました。終盤にはピチカートによる演奏も出てきますが、久石さんによるピチカートのアプローチはなぜかジブリの雰囲気をとても感じさせ、同じような印象はベートヴェンの『Symphony No.9』の『第3楽章』の途中でも感じられたことがありました。楽章の切れ間に拍手が入ってしまうハプニング(?)も本公演ではありました。

『2楽章 Adagio non troppo』
『1楽章』と同じように提示されるメロディはチェロの導入より始まります。事前インタビュー動画でも久石さん本人が述べられていましたが、今回のブラームスでは「歌う」ということを意識されていました。『2楽章』では特に感じられ、奏者からの身振りより伝わってきて、感情を揺さぶれる熱い楽曲ということを改めて認識しました。後半で演奏される暗い雰囲気を感じさせる部分も熱情的で重々しくなく、ある種清涼感すら覚えました。

『3楽章 Allegretto grazioso(Quasi andatino)』
オーボエによるキャッチャーなメロディから始まり、そのメロディが変奏されていきます。変奏の過程で大きくテンポが変わる部分がありますが、この部分は生で聴いていて本当に驚きました。まるで映画『ハリーポッターとアズガバンの囚人』の冒頭に出てくるロンドンバスのような印象をうけ、止まっているとき(ゆったりとした演奏)は優雅に、発進するともにキレッキレのスピード感。緩急のあるテンポ設定にスリルと高揚感を感じ、病みつきになっていました。世界初演の時にアンコールにて『3楽章』が披露されたのもわかる気がしました。冒頭で提示されたメロディが違和感なく短調へ変身する部分も自然で、ブラームスのオーケストレーションの巧さも際立って聴くことができました。

『4楽章 Allegro con spirito』
序盤から始まる激しいリズムとアップテンポで力強いメロディに圧倒されます。しかし、要所要所で奏でられる快活さ溢れるメロディはヴァイオリン奏者も身を乗り出すようような演奏に楽しさを覚えます。事前インタビューにて久石さんが、「我々はスポーツカー」という発言はしておられましたが、この楽章での最終盤でははまさしくスポーツカーの様子を感じさせてくれました。休符が現れる箇所ではまさしくバンクを高速で超えてジャンプしてゆくスポーツカーのよう!疾走感と爽快感と一気に感動のフィナーレへと向かいました。

前半の重いプログラムからは一転、優美で力強く、希望を感じさせるようなブラームスのメロディと構成。現在の情勢に一筋の希望の光を与えるような交響曲に終始感動してしまいました。そしてFOCというスーパーオーケストラの演奏はとても病みつきになります。

 

何度かのカーテンコールとともにアンコールへと進みます。

 

Encore

Johannes Brahms『Hungarian Dance No.17』

前回でのVol.2では『4番』が披露されましたが、今回は『17番』をセレクト。オーケストラ版ハンガリー舞曲はより緩急がはっきり目立つとともに、より華やかな雰囲気になります。中盤のいかにも踊りだしたくなるようなパートから、終盤の悲しげで力強いフィナーレまで。短い曲でありながら、ブラームスという作曲家の作曲のすばらしさとオーケストラという世界の奥深さを感じられました。

 

拍手喝采のなか、カーテンコールが行われ、弦楽のソリストと肘を合わせる久石さん。1年半ぶりのFOC第三回公演は感動と熱狂的な渦のなか、無事に開催を終了しました。

 

2021年7月13日 ふじか

 

 

こちらは、「コンサート・パンフレット」から久石譲による楽曲解説や、いつものコンサート・レポートをしています。

 

 

 

「行った人の数だけ、感想があり感動がある」

当サイトでは、久石譲コンサートのレポートや感想、いつでもどしどしお待ちしています。応募方法などはこちらをご覧ください。どうぞお気軽に、ちょっとした日記をつけるような心もちで、思い出をのこしましょう。

 

 

今回、このふじかさんのコンサート・レポートが送られてきたとき、「はあ、こんなの見せられたら、もっといろんな人に書いてほしいな」ってまっさきにそう思いました。うん、そのくらいうれしかったし(突然送られてきたし)、すばらしいなって思いました。コンサートの感動をわかちあえる、コンサートの感想を共有しあえる、そんな日がまたこれから、少しずつふえていきますように。

 

過去2回のふじかさんコンサート・レポートもぜひお楽しみください。

 

 

 

reverb.
コンサート会場で楽しく話せる日がきますように(^^)

 

 

*「Overtone」は直接的には久石譲情報ではないけれど、《関連する・つながる》かもしれない、もっと広い範囲のお話をしたいと、別部屋で掲載しています。Overtone [back number] 

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Overtone.第42回 映画音楽がクラシックになる日 ~ジョン・ウィリアムズと久石譲~

Posted on 2021/06/20

ふらいすとーん。

ここ4回にわたって、ジョン・ウィリアムズ映画音楽を紹介してきました。約50年に近づいている音楽活動のなか、時代ごとにいろいろなベスト盤や企画盤があります。わりと新しいCD作品(2016-2020)から、ジョン・ウィリアムズが到達した偉業の集大成であり、かつ現在進行系でもある、そんなホットなアルバムを4枚選びました。

 

映画音楽がクラシックになる日

 

 

ここでおさらい。それぞれにしっかりとしたカラーやコンセプトのアルバム、ちょっと整理しましょう。

 

Overtone.第38回 「ジョン・ウィリアムズ・プレイズ・スピルバーグ」を聴く

  • 選曲はスピルバーグ監督作品
  • 新アレンジに新録音
  • 多彩な音楽構成に楽器編成

時代の新しいスピルバーグ監督コラボ作品から、すべて演奏会用に新アレンジ・新スタジオ録音された曲たちは、映像になんの遠慮もいらない迫力あるサウンドでダイレクトに響きわたっています。ときに楽曲を彩る楽器たちはフルート/トランペット/合唱まで。多楽章で構成された大作は、ソリストにアルトサックス/ビブラフォン/ベースを迎えてジャジーなアメリカン・サウンドが大きく自由に展開しています。

 

 

Overtone.第39回 「ジョン・ウィリアムズ・セレブレーション」を聴く

  • 映画音楽から代表作を網羅
  • コンサート完全収録の2枚組
  • フライングテーマでプログラム

若手人気指揮者ドゥダメルによるジョン・ウィリアムズ演奏会。映画音楽を中心にオリンピック作品まで、代表作を網羅した作品集にもなっています。アンコールまで完全収録したライヴ録音は2CDのボリュームです。クラシック指揮者がリスペストを込めて、自ら《フライング・テーマ》でプログラム構成し、魅力的な選曲で配置、ひとつの大きな交響曲のようにかたちにした未来型クラシック演奏会です。

 

 

Overtone.第40回 「アクロス・ザ・スターズ ~ジョン・ウィリアムズ傑作選」を聴く

  • ヴァイオリンとオーケストラのための
  • 主役ヴァイオリンの輝く選曲
  • 高度で多彩な表現力を追求した編曲

世界的ヴァイオリニストのムターを迎えて、ヴァイオリンとオーケストラのための珠玉の作品集です。主役ヴァイオリンの輝く選曲は、いつもなら隠れがちなジョン・ウィリアムズの名曲たちにもスポットを当てています。高度で多彩な表現力を追求した編曲は、原曲のイメージを広げ、ヴァイオリンの魅力を存分に楽しめる。新たな生命を吹き込まれた楽曲たちは、エンターテインメントの大衆性と高度な芸術性が出会った瞬間です。一流演奏家たちも喜ぶレパートリーの殿堂入り、そんな未来の切符をすでに手にしているかのようです。

 

 

Overtone.第41回 「ジョン・ウィリアムズ ライヴ・イン・ウィーン」を聴く

  • 黄金ディスクの誕生
  • ムターも華を添えた豪華プログラム
  • オーケストラの魅力伝える映画音楽

映画音楽の巨匠と世界最高峰のオーケストラによる世紀の共演です。最高の演奏は、最高の録音技術で聴く/観る 黄金ディスクの誕生です。単に有名メインテーマを並べたわけではない、抜群の選曲と配置で仕立てられ、ムターも華を添えた豪華なプログラムです。現代の大衆娯楽である映画、そのなかには伝統芸術なオーケストラ作品として生まれ変わることができる映画音楽がある。そしてコンサートは現代文化の宝物であると、今こそかみしめる歴史的公演です。

 

 

各Overtoneでは、そこからつながるかもしれない、久石譲話や久石譲音楽も登場しています。よかったら、ぜひのぞいてみてください。

 

 

たとえば。

久石譲がジョン・ウィリアムズについて語ったこと (2005)

“やっぱりオーケストラを扱って映画音楽をやってるから比べられるのはしょうがないと思うし、昨年、ワールド・ドリームでスター・ウォーズのテーマを自分で振ってみてよくわかったんだけど、あれだけのクオリティと内容のオーケストレーションをやれる人はいないですよ。すごく尊敬してるし、僕なんかまだまだだな、と思います。でもね、実際の音楽でいうと、僕と彼の作るものはまるで違うんですよ。僕は東洋人なので、5音階に近いところでモダンにアレンジしてやったりするものが多いんです。でもJ・ウィリアムズはファとシに非常に特徴がある。正反対のことをやってるんです。それはすごくおもしろいなあと思いますね。音楽の内容も方法論も違うけど、僕もあれくらいのクオリティを保って作品を発表し続けたいですね”

Blog. 「月刊ピアノ 2005年9月号」 久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

演奏会用作品

4つのアルバムに収録された楽曲はすべて、映画公開後にジョン・ウィリアムズ自ら演奏会用に編曲したものです。サウンドトラックからそのまま抜き出したのでは披露できないものを、音楽作品にしたものです。

久石譲も映画・TV・CMのために書き下ろした楽曲を、演奏会でプログラムできるように再構成します。サントリー伊右衛門「Oriental Wind」も初めはCMのために作った15秒・30秒ほどの曲です。弾きはじめたと思ったら、すぐに終わってしまう長さのものを、演奏会用に充実した起承転結パートを構成し、聴きごたえのある満足感ある作品へとなった。なったからこそ、CM音楽を飛び越えてコンサートで聴くことができています。

 

オーケストラ作品

ジョン・ウィリアムズも久石譲も、原曲からオーケストラ編成をベースに曲づくりされていることが多いです。大中小いろいろな編成であっても、さらにアンサンブルであっても、オーケストラで使われている生楽器です。加えて久石譲の場合は、シンセサイザーや異色楽器が曲に色を足すこともあります。そんな原曲たちを前にしても、色が抜け落ちてしまうことなく遜色なく、華麗なオーケストレーションでアップデートしていきます。

例を挙げると。

映画『もののけ姫』は、主題歌やサントラ曲ではケーナや篳篥といった民族楽器を隠し味に使っています。のちの交響組曲やコンサートでは、民族楽器や電子楽器を排除し、伝統的なオーケストラサウンドだけで、もののけ姫の世界観を見事に表現しています。

映画『風立ちぬ』『かぐや姫の物語』はじめ、映像やセリフのためにうすく書いた曲も、交響組曲は緩急豊かにダイナミックにドラマティックに。メロディにからまる旋律たちも増えて彩られ、音楽はさらに雄弁になって物語は進行しています。

映画『あの夏、いちばん静かな海。』「Silent Love」も、映画『キッズ・リターン』「Kids Return」も、シンセサイザー主体の原曲が、オーケストラ作品に生まれ変わるなんて。シンセサイザーだからこそできた曲だと思っていたものが、なんのその劣ることなく素晴らしいなんて。

 

それができる人

いかなる原曲も、演奏会用オーケストラ作品へと昇華できる人。それがジョン・ウィリアムズであり久石譲です。クラシック音楽からの流れの上に立っているふたりです。純粋なオーケストラを使って、クラシックの語法を使って、音楽を建築的につくりあげていきます。壮大なシンフォニー、組曲、ソリストを迎えた小協奏曲、独創的な編成など、音楽的にも多種多彩な作品たちが誕生します。流行にぶれない普遍的な魅力をまとって愛されつづけることになっていきます。

 

 

“久石譲が語ったこと”

”映画など他の仕事でつくった音楽を「音楽作品」として完成させる、という意図で制作しています。映画の楽曲であれば、台詞が重なったり、尺の問題があったりとさまざまな制約があるので、そうした制約をすべて外し、場合によってはリ・オーケストレーションして音楽作品として聴けるようにする。『WORKS』シリーズはそうした位置づけの作品です。”

Blog. 久石譲 『WORKS IV』 発売記念インタビュー リアルサウンドより より抜粋)

 

“それはですね、映像の仕事の場合、基本的には監督にインスパイアされて、すごく一所懸命曲を書くわけです。ところがやはり映像の制約というものもある。『このシーンは3分です』だとか。だから映像の中のドラマ性に合わせなくてはいけなくて。映像と音楽合わせて100パーセント、もしくは音楽がちょっと足りないくらいがいいときもある。そこから解放されて音楽自体で表現、音楽だけで100に。つまり本来曲がもっている力を音楽的にすべて表現できる。そこが今作なんです。”

Blog. 「週刊アスキー 2010年11月9日号」「メロディフォニー」久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

久石譲 『WORKS 1』

 

久石譲 『WORKS2』

 

久石譲 『WORKS3』

 

久石譲 『メロディフォニー』

 

 

 

スタジオジブリ交響組曲

ジョン・ウィリアムズには、王道シンフォニックな「スター・ウォーズ組曲」や、個性光るジャジーな「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン組曲」などがあります。ひとつの映画作品をひとつの音楽作品に、映画の世界観を音楽的に広げ膨らませることで十分に楽しめる組曲たち。

久石譲も、2014年から本格的にスタジオジブリ作品の交響組曲化プロジェクトをスタートさせました。スタジオジブリ作品を音楽作品としてもきっちり残すこと。そして、年々高まる人気に裏打ちされたアンオフィシャルな演奏機会の急増、オフィシャル版を演奏したい要望に応えるためにも、公式録音と公式総譜という手引きを残すこと。

こういった一連の作業は、古典からあります。チャイコフスキーのバレエ音楽も、舞台のために書かれた劇音楽から演奏会用組曲として再構成されました。このおかげで、演奏会の定番レパートリーになり、そのなかからキャッチーな曲たちは、映画・TV・CMなどでも広く親しまれています。もし、バレエ公演でしか聴けない音楽のままだったなら…。「花のワルツ」も「あし笛の踊り」も、ディズニー映画『ファンタジア』に使われることもなく、ソフトバンクCMでお茶の間に流れてくることもなく…。

ジョン・ウィリアムズも久石譲も、映像がないともたないような音楽はつくっていません。作品の世界観に深く音楽をつけているから、たとえ映像がなくてもふっとイメージが立ち上がる。曲だけ聴いても、どのシーンかすぐにわかるくらい際立つ音楽たちがそこににあります。そして皮肉なことに(とてもいい意味で)、使い回しがきくように作った曲ほど汎用性がない、ピンポイントに射抜くように作った曲ほど可能性がある、これは真理です。作品を越えて使われる、時代を越えて残る。強いコアをもった曲たちからなる組曲化は、作曲家がその作品のもうひとつの照らしかたをしてみせたアナザー・ストーリーともいえます。

 

 

“久石譲が語ったこと”

“だからシンフォニック・スイート(交響組曲)として20分ぐらいで、オーケストラがしっかりと演奏できるバージョンを、いままでにジブリで音楽を担当した10作品中、6作品ほど作っています。

比べるのはおこがましいですけど、チャイコフスキーが《白鳥の湖》や《くるみ割り人形》を組曲にしているのと同じ行為だと思っていて。オーケストラの能力を発揮できるコンサート・ピースとして成立できれば、凄く幸せですね。”

Info. 2020/10/30 久石譲が続けてきた音楽を未来につなぐチャレンジ WEBインタビュー (ONTOMO) より抜粋)

 

 

 

 

 

 

 

 

未来のコンサート

ここまでそろえば未来は明るい。

ジョン・ウィリアムズの作品を集めるということは、アメリカ音楽史プログラムです。ハリウッド映画=アメリカ(たとえ映画がアメリカを描いていなくても、映画産業の象徴としてのハリウッド)。映画を巡る旅は、アメリカ音楽史を巡る旅です。これまでに、ガーシュウィンの「ラプソディ・イン・ブルー」や、バーンスタインの「ウエスト・サイド物語」が定番曲となってきたように、これからは、同じアメリカ人作曲家のジョン・ウィリアムズ作品が、新しいレパートリーとなっていくでしょう。きっと。

久石譲の作品を集めるということは、日本音楽史プログラムです。スタジオジブリ作品や邦画のなかには、日本を舞台にした作品も多いです。おのずと日本を感じさせる音楽たちは、伝統的な音階のものからモダンな和を感じるものまで。琴や篳篥といった邦楽器を使っていなくても、西洋オーケストラ楽器だけで日本を響かせてしまう久石譲音楽。どこか懐かしいのに古くはない、時代を超越した原風景な日本を呼び起こしてくれます。

スタジオジブリ交響組曲をそのままプログラムすることもできるでしょう。はたまた、スタジオジブリ作品から《フライング・テーマ》(飛ぶシーン)を象徴する曲をセレクトして、作品をまたいでプログラムすることもできるようになるかもしれません。はたまた、手がけてきた数多くの映画・TV・CM音楽のなかから《海》や《日本》といったテーマでプログラムすることもできるようになるかもしれません。

パズルのピースが多ければ多いほど、その組み合わせは無限大に広がります。久石譲も、自身の指揮で演奏や録音を重ねて、公式スコアまで監修することに力を入れています。ニーズに応える環境は整い、他者の指揮による演奏会もふえ、これからは世界各地で新しいレパートリーとなっていくでしょう。きっと。

 

それができる人

映画音楽ふたりの巨匠は、人気も芸術性もトップクラスです。かつて映画黄金期を支えたオーケストラサウンドは、時代が進むにつれてオールドスタイルと言われるようにもなりました。それを経てふと今見わたすと、伝統や手法をしっかりと受け継いだ作曲家、オーケストラで2時間の映画音楽を構成できる作曲家は、どのくらいいるでしょうか。ジョン・ウィリアムズと久石譲は、過去からバトンを渡された正統な継承者にして現在も走り続けるトップランナーです。

ある演奏家・ある楽器のために再構成するというコンセプトを得たならば、思いもよらない化学反応も起こります。作曲家の手によって新しい輝きをもち、そこへ演奏家のインスピレーションと表現力も加わり、予想を越えたものが生まれることもある。ヴァイオリンのための編曲という範疇には収まりきれなかった光、ムターとのコラボレーションなどは、まさにそんな結晶です。

あるいは。ドゥダメルは、独自の解釈で楽曲の新しい魅力を引き出し、新しい切り口でプログラム構成することで、マンネリズムから見事に脱却しています。作曲家と指揮者のあいだにも、思いもよらない化学反応は起こります。「こんな名曲ありました、懐かしいでしょう」、そういった回顧なスタンスはありません。同じように、過度に映像の余韻に浸るような、過度に記憶の残像の力を借りるような陶酔型もそこにはありません。真っ向から純粋に音楽と向き合い現代的にアプローチしていく。今聴く価値のある音楽として響かせています。

 

映画音楽のポテンシャル

ベートーヴェンもモーツァルトの時代も、大衆文化のなかに音楽があり、演奏会は大衆娯楽のひとつでした。でも、一度に聴いてもらえるのは観客数百人。録音技術もない、演奏会を繰り返し楽譜出版を並行することで、なんとか忘れられずに今まで残ってきた音楽遺産です。

ジョン・ウィリアムズも久石譲の時代も、大衆文化のなかに音楽があり、映画は大衆娯楽のひとつです。そして、一度に聴いてもらえるのは映画館と観客のかけ算。国境を超えて公開されることもあれば、VOD配信というデジタルな選択肢も増え、世界中で広く認知される可能性をもっています。さらに、サウンドトラックはCD盤から配信やサブスクまでと、映画音楽にふれるアクセスポイントは広がっています。

 

 

”ジョン・ウィリアムズが語ったこと”

“音楽を書くチャンスを与えられること、かな。もし映画が成功すれば、何万、何百万もの観客がその音楽を聴くことになる。より多くの人が楽しんでくれれば、より大きな喜びになるからね。このことは作曲家にとって今世紀でも新しいことのひとつだ。今世紀初めには千人、2千人だった観客が、今では世界中の人が対象になっているんだ”

Overtone.第38回 「ジョン・ウィリアムズ・プレイズ・スピルバーグ」を聴く より抜粋)

 

“久石譲が語ったこと”

“自分が想像してる以上に、世界はソーシャルメディアで変革されてきすぎっちゃってるんですね。そういうなかで結局、映画という表現媒体のなかで、アニメーションというものが持ってるものと、例えばゲームとかね、そういうものが持ってる力を、もう過小評価してはやっていけないだろうと。表現媒体に対する制作陣が昔のイメージで凝り固まって、作品とはこんなもんだっていうことで作っていくやり方が、もう時代に合わない。やはりアニメーションというのはある種の可能性があるわけだから、それをもっと若い世代の人とやっていく、あるいはその時に自分も今までの音楽のスタイルではないスタイルで臨む、今回みたいにミニマルで徹するとかね。そういう方法で新しい出会いがあるならば、これは続けていったほうがいいなあ、そういうふうに思います。”

Info. 2019/06/14 映画『海獣の子供』久石譲メイキングインタビュー 動画公開 より抜粋)

 

“今年の2月にパリでコンサートを行った時、フランスメディアのインタビューを受けましたが、みんな『二ノ国』のことを知っていました。「今度映画化されるんですよね。音楽を担当するんでしょう」と質問された。日本国内のみではなく、海外でも認知されているタイトルが、『二ノ国』。それが映画化されるということで、みんな期待を持っているんだなと感じています。日本のみならず海外にも、この音楽が映画とともにみんなに聞いてもらえたら、僕にとっては何よりの喜びです。”

Blog. 「映画「二ノ国」公式アートブック」 久石譲インタビュー内容 より抜粋)

 

 

ちょっとアングルを変えて。

 

“久石譲が語ったこと”の反転

”とにかく今で言うところの、最も優れたキャッチーな作曲家である。ブラームスは「彼がゴミ箱に捨てたスケッチでシンフォニーが1曲書ける」というほどドヴォルザークのメロディを評価していた。が、それだけではなくスコアを追っていくとよくわかるのだが、とても緻密にオーケストラを書いている。色々なモチーフ(音型)を散りばめ、ポリフォニックに構築しながら全体の構成に気を配っている。ところが、幸か不幸か、あまりにもメロディがキャッチーなため、「タータータータータターン(第4楽章の10小節目)」と派手にホルンとトランペットが第1テーマを鳴り響かすと、聴衆の耳はそちらに集中するので、メロディの後ろの緻密さにはなかなか気づかない。”

”シューベルトの最も天才的な部分は、ハーモニー感覚の凄さにある。普通は、ある調からある調に移るには正当な手続きを踏んで転調するように書くのだが、シューベルトはたった一音で次の調に自然に移ってしまう。例えば、第1楽章の38小節目のホルンとファゴットが最後の2音だけで転調してしまうのだ。或いは、第2楽章の後半で、第1ヴァイオリンだけになり、その最後のたった一音で完全に転調してしまう(280小節、295小節など)。これほどの天才は他に見たことがない。”

Disc. 久石譲 『JOE HISAISHI CLASSICS 1 』 CDライナーノーツより 抜粋)

 

 

作曲家・指揮者の視点で楽曲解説した久石譲の言葉からです。ドヴォルザークやシューベルトといったクラシック作曲家について語っていることですが、ぐるっと反転して、これって久石譲音楽にも見受けられることじゃないか!そんなふうに思えてきます。あまりにもキャッチーなメロディは、甘美すぎると受けとられがちですが、メロディをささえるハーモニーやリズムはあらゆる手を駆使して緻密に構成されている。音楽専門的にはわからなくても、感覚的にわかる感触のようなもの。ああ、だから聴くたびにおもしろいのか!ああ、だからいくら聴いても聴き飽きないのか!ああ、だからコンサートで聴くたびに耳に飛び込んでくる旋律たちが新鮮なのか! と。

 

これもまた象徴的です。

 

”メロディは記憶回路なんですよ。記憶回路であるということは、シンプルであればあるほど絶対にいいわけです。メロディはシンプルでもリズムやハーモニーなどのアレンジは、自分が持っている能力や技術を駆使してできるだけ複雑なものを作る。表面はシンプルで分かりやすいんだけど、水面下は白鳥みたいにバタバタしてるんです。”

Blog. 「キーボード・マガジン 2005年10月号 No.329」 久石譲 インタビュー内容 より抜粋)

 

 

映画音楽ふたりの巨匠は、親しみやすいメロディを生み出し、メロディが輝くオーケストレーションで作品をつくりあげています。映画を見終わって、『スター・ウォーズ』のメロディが頭から離れないほどに、『崖の上のポニョ』の歌を思わず口ずさんでしまうほどに。「ウィーンフィル ・ニューイヤーコンサート」の楽曲たちも、演奏に合わせて鼻歌できるほどのキャッチーなメロディに、自然と軽やかになるリズミックなポルカやワルツたちです。

 

 

今のコンサート

未来は明るい。

未来から今を照らすとここも輝く。

今の久石譲コンサートは、大きくWDO*に代表されるエンターテインメント・コンサートと、大きくFOC*やMF*に代表されるクラシック・コンサートの両軸があります。海外公演も人気を博しているジブリコンサート*では、指揮者+ピアニストとして映像との共演でパフォーマンスの完成度も極めています。WDOコンサートでは、スタジオジブリ交響組曲や新作の世界初演も自らの指揮で果たしています。クラシック・コンサートでは、作曲家視点の新しい解釈で話題を集めています。今発信したい音楽を、古典作品から現代作品まで並列して意欲的にプログラムしています。

*
「久石譲&ワールド・ドリーム・オーケストラ(WDO)」,「久石譲&フューチャー・オーケストラ・クラシックス(FOC)」,「久石譲 presents ミュージック・フューチャー(MF)」,「久石譲 シンフォニック・コンサート スタジオジブリ宮崎駿作品演奏会」

 

これすべて今しかできないことです。未来のコンサート、久石譲の名曲たちがプログラムされるコンサートとは大きくちがう。きっと久石譲の音楽は未来でも愛聴され、多くの演奏機会に恵まれるでしょう。そこに不安はありません。そこは未来の音楽家のみなさんぜひ託されてください。どうぞよろしくお願いします。

でも、そこには指揮者久石譲もピアニスト久石譲もいません。ジブリ映像と一緒に作曲家本人の指揮とピアノで楽しめることもありません。久石譲がプログラムしたい古典作品や現代作品が並ぶこともありません。作曲家久石譲の視点でベートーヴェンが響くこともありません。久石譲の新作が自身の指揮で世界初演されることもありません。

そう思えばこそ、今の久石譲コンサートは強く輝いています。久石譲は今しかできないことをやっているんだと。久石譲のいるコンサート、久石譲のプロデュースするコンサートに足を運べるチャンスをもっている。聴衆もまた今しかない時間のなかにいます。

 

 

フルオーケストラによる映画音楽が、クラシックのメインストリームでも熱狂的に支持されるという、音楽史の新しいページを拓いているジョン・ウィリアムズと久石譲です。現代の大衆娯楽と伝統的な芸術の幸福なかたちといえる、品格のあるシンフォニックな作品たち。

シェーンベルクやショスタコーヴィチといったクラシック作曲家も、映画音楽を手がけています。『春の祭典』でセンセーショナルを巻き起こしたストラヴィンスキー。映画『ジョーズ』のジョン・ウィリアムズ音楽には、この作品からの影響が色濃くあります。そうして、今やクラシック音楽において人気レパートリーと高い評価を得ている『春の祭典』ですが、ストラヴィンスキーは2021年に没後50年を迎えたばかりです。

ジョン・ウィリアムズ音楽も久石譲音楽も、強引にプッシュしたり、無理やり割り込む必要もなく、これから自然とゆっくりなじんでいくことでしょう。未来のクラシックとなりうるふたりの作品は、それぞれ個性豊かに欧米とアジアの大衆文化、20~21世紀エンターテインメントをも表現しています。『ハリー・ポッター』や『千と千尋の神隠し』といった映画音楽を通して、西洋文化と東洋文化の世界観をあぶり出してみせたように。

クラシック音楽からの流れの上に立っているふたりが、伝統をつなぎながら今を体現しながら、映画音楽で果たしてきた功績は大きいと思います。もし、今世紀を代表する映画について語るなら、そこにはおのずとジョン・ウィリアムズと久石譲も引っ張られてきます。まちがいなく今世紀を代表する作曲家です。また、演奏家や指揮者によって、新しい表現が可能性がうまれつづける。映画音楽へのリスペクトが尽きないかぎり、新しい感動が生まれつづける。映画音楽がクラシックになる日は、もうすぐそこまできています。

 

それではまた。

 

reverb.
久石譲とジョン・ウィリアムズ、夢のプログラムあったらいいな♪

 

 

*「Overtone」は直接的には久石譲情報ではないけれど、《関連する・つながる》かもしれない、もっと広い範囲のお話をしたいと、別部屋で掲載しています。Overtone [back number] 

このコーナーでは、もっと気軽にコメントやメッセージをお待ちしています。響きはじめの部屋 コンタクトフォーム または 下の”コメントする” からどうぞ♪

 

Overtone.第41回 「ジョン・ウィリアムズ ライヴ・イン・ウィーン」を聴く

Posted on 2021/05/20

ふらいすとーんです。

映画音楽のレジェンド、ジョン・ウィリアムズです。わりと新しいCD作品から、ジョン・ウィリアムズが到達した偉業の集大成であり、かつ現在進行系でもある、そんなホットなアルバムを紹介します。4回にわたる予定、その4回目になります。

 

前回まで

 

 

黄金ディスクの誕生です!ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団、クラシック音楽の歴史をそのまま体現してきたといっていい世界屈指のオーケストラと、ジョン・ウィリアムズ指揮による奇跡のコンサート。毎年「ウィーン・フィル ニューイヤー・コンサート」も開催される、あの黄金のホール音響を完全収録したものです。

 

CD帯にはこうあります。

心躍るメロディが最高の演奏で甦る!最高峰のオーケストラが本気で燃えた、白熱のライヴ映像!

世界最高のオーケストラが10年越しのラヴ・コールを実らせた奇跡のコンサート。映画音楽の神様ジョン・ウィリアムズとウィーン・フィルの全身全霊の気迫がこもった”一期一会”の演奏は聴く者全ての心を鷲掴みしに、元気と勇気を与えてくれるものです。

(CD帯より)

 

 

発売直前には、久石譲はじめ各界著名人がコメントを寄せたことでも話題は広がりました。

 

“これは素晴らしいコンサートだ。ウィーン楽友協会におけるジョン・ウィリアムズの楽曲は、誰でも知っている名曲ばかりで楽しめる。ウィーン・フィルはアメリカのオーケストラとは一味違った奥行きのある演奏で臨んでいるし、ゲストのヴァイオリニスト、アンネ=ゾフィー・ムターも若々しい演奏をしている。ジョン・ウィリアムズの楽曲はクラシック音楽のエッセンスが鏤め(ちりばめ)られており、彼がいかにクラシック音楽を愛でているかわかる。映画音楽の巨匠と世界最高峰のオーケストラの共演であるこのCD及びブルーレイは我々の財産となった。”

久石譲

 

 

結果(いまのところ)。

2020年8月に世界同時発売された本盤は、2020年度オリコン年間クラシックアルバムランキングで第1位を獲得しています。2020年、最も売れたクラシック作品となりました。その人気は日本のみならず、世界のランキングを席巻。アメリカ、イギリス、オーストラリアのクラシカル・チャートでは首位を獲得。ドイツ、オーストリアでは、ポップス・チャート10位圏内にランクイン。ストリーミング回数も1億5千万回を超え、iTunesクラシカル・アルバムチャートでは、世界15ヵ国以上で1位を記録するなど、発売から半年あまりの時点(2020.12月)ですでに快挙です。

 

 

ジョン・ウィリアムズ ライヴ・イン・ウィーン
JOHN WILLIAMS LIVE IN VIENNA

【デラックス盤(日本)】

CD
1.ネヴァーランドへの飛行 (『フック』から)
2.『未知との遭遇』から抜粋
3.悪魔のダンス (『イーストウィックの魔女たち』から)
4.地上の冒険 (『E.T.』から)
5.『ジュラシック・パーク』のテーマ
6.ダートムア、1912年 (『戦火の馬』から)
7.鮫狩り – 檻の用意!  (『ジョーズ』から)
8.マリオンのテーマ (『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』から)
9.メイン・タイトル (『スター・ウォーズ/新たなる希望』から)
10.レベリオン・イズ・リボーン (『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』から)
11.ルークとレイア (『スター・ウォーズ/ジェダイの帰還』から)
12.帝国のマーチ (『スター・ウォーズ/帝国の逆襲』から)
13.レイダース・マーチ (『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』から)

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 
ジョン・ウィリアムズ(指揮)
アンネ=ゾフィー・ムター(ヴァイオリン3 & 13)
録音時期:2020年1月
録音場所:ウィーン、ムジークフェラインザール
録音方式:ステレオ(デジタル/ライヴ)

[Blu-rayビデオ]
01.ネヴァーランドへの飛行 (『フック』から)
02.『未知との遭遇』から抜粋
03.ヘドウィグのテーマ (『ハリー・ポッターと賢者の石』から) ※
04.『サブリナ』のテーマ ※
05.ドニーブルーク・フェア (『遥かなる大地へ』から) ※
06.悪魔のダンス (『イーストウィックの魔女たち』から)
07.地上の冒険 (『E.T.』から)
08.『ジュラシック・パーク』のテーマ
09.ダートムア、1912年 (『戦火の馬』から)
10.鮫狩り – 檻の用意!  (『ジョーズ』から)
11.マリオンのテーマ (『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』から)
12.レベリオン・イズ・リボーン (『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』から)
13.ルークとレイア (『スター・ウォーズ/ジェダイの帰還』から)
14.メイン・タイトル (『スター・ウォーズ/新たなる希望』から)
15.すてきな貴方 (『シンデレラ・リバティー/かぎりなき愛』から) ※
16.決闘 (『タンタンの冒険/ユニコーン号の秘密』から) ※
17.追憶 (『シンドラーのリスト』から) ※
18.レイダース・マーチ (『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』から)
19.帝国のマーチ (『スター・ウォーズ/帝国の逆襲』から)
ボーナス:
ジョン・ウィリアムズとアンネ=ゾフィー・ムターの対談 (約27分) ※

※ ブルーレイのみ収録

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
ジョン・ウィリアムズ(指揮)
アンネ=ゾフィー・ムター(ヴァイオリン3-6 & 15-18)
収録:2020年1月 ウィーン、ムジークフェラインザールでのライヴ

 

 

パッケージ補足

◇本盤(2020年8月発売)はCD・LP・CD+Blu-ray(デラックス盤)として発売され、さらには日本盤と海外盤ではUHQCD、MQACD(ハイレゾ音源)の可否など、さまざまなタイプがあります。

◇Blu-ray映像はライヴ完全収録で、CDは全19曲から13曲が選ばれています(約74分)。収録時間の影響でしょうか。またCDは曲順が異なり、1曲終わるごとの拍手もきれいにカット、CD作品として聴いてほしいこだわりも伝わってきます。

◇完全収録されているCD+Blu-ray(デラックス盤)をおすすめします。日本盤は、音質も最新技術採用で、映像も日本語字幕付きで曲合間のジョン・ウィリアムズMCも楽しめます。もちろんジョン・ウィリアムズとムターの対談も日本語テロップ付き。

↓ここから最新情報追加↓

◆2021年2月には、2CD完全収録盤(SACDハイブリッド)と、ブルーレイ単体(デラックス盤からの分売)が発売されました。ただ…この2CDは映像から音楽だけを抜き出したような一体化した音像になっています。一般的に観客席から聴いたような。拍手もそのまま入っています。ステージの幾重のマイクから収録した音像は従来盤(CD・LP・CD+Blu-ray)のほうなので、やっぱりデラックス盤をおすすめします。

◆音響ファンもなやます最先端の録音技術でそれぞれパッケージ化されています。CDはどのタイプを選んだとしても、通常の音楽プレイヤー再生OKです。

 

パッケージ全ラインナップは公式サイトをご参照ください。

ユニバーサル・ミュージック・ジャパン|ジョン・ウィリアムズ
https://www.universal-music.co.jp/john-williams/discography/

 

 

ジョン・ウィリアムズが語ったこと

ムジークフェライン(ウィーン楽友協会)で偉大なウィーン・フィルハーモニー管弦楽団を指揮するという特権は、私の生涯における大きな名誉となりました。有名な大ホールの音響は、伝え聞く通り素晴らしいもので、ドイツ・グラモフォンが見事に演奏を収録しました。オーケストラのあたたかい待遇と、音楽に対する輝かしい熱意にも深い感銘を受けました。世界中の音楽家と聴衆が、同じ空間で音楽の喜びを共有することが困難な現在において、今回の特別なコンサートを愛おしく振り返りながら、私が美しいウィーンで体験した喜びのいくばくかを、リスナーの皆様にお伝えすることが出来ればと願っております。

(CDライナーノーツより)

 

 

レコード芸術誌から四連発!

本盤は、クラシック音楽誌「レコード芸術 2020年9月号」〈先取り!最新盤レビュー〉コーナーでいち早く紹介されただけでなく、翌「レコード芸術 2020年10月号」の新譜月評で特選盤にも選ばれています。専門家たちのレビューも、いつにもまして跳ねるように軽やかで、まるでいちファンのような距離感がこちらにもストレートに伝わってきます。

 

 

個人的なレビューいらずの、音楽専門家たちの声をご紹介します。

 

 

先取り!最新盤レヴュー

ウィーン・フィルで聴く&観る
圧巻のジョン・ウィリアムズの世界

遂にウィーン・フィルを振るジョン・ウィリアムズ

天下のイエロー・レーベルから、ジョン・ウィリアムズが指揮した自作自演集が出る、(~中略~)、今回のディスクで演奏しているのが、ウィーン・フィル(以下VPO)だという情報を目にした時には、さすがにびっくりした。

さて、音を聴いていこうではないか(今回はWAVファイルでの試聴)。ジョン・ウィリアムズに限らず、映画音楽の場合、サウンドトラックが映画館のスピーカーからの再生を前提にしていることもあり、オリジナル・スコアで演奏しても、音圧の面をはじめとして、どこか物足りなく感じるケースもあるのだが、当盤の1曲目に配されている《ネヴァーランドへの飛行》(『フック』から)では、シンフォニックな厚みが十分に確保されているのが好ましい。麗しいホルンの調べをはじめ、VPOのサウンドもじつにすばらしい。

ジョン・ウィリアムズのシンフォニック・スコアが備えているコルンゴルト的な味わい(さらに遡ればマーラーの第7番の終楽章)を、VPOが見事なまでに引き出しているのが圧巻だ。ムターがソロを担当したナンバーでは、その圧倒的なテクニックに加え、絶妙なフレージングと美音が耳に残ることだろう。そして、作曲者本人も絶賛したという《帝国のマーチ》(『スター・ウォーズ』から)もエキサイティングだ。

 

映像盤がつく「デラックス」はいっそうの楽しさ

なお、デラックス盤には、ブルーレイ・ビデオがプラスされ、コンサートの映像(通常盤には入っていない曲も収録)を見ることができる。ジョン・ウィリアムズが指揮台にのぼると、聴衆がスタンディング・オベーションで迎える様子や、真っ青なドレスに身を包んだムターの演奏姿に加え、VPOの楽団員がじつに満足そうに、そして、時には笑みを浮かべながらプレイしているのが確認できる。それこそ、あのムジークフェラインザールのステージには、あふれんばかりに弦楽器奏者たちがひしめき、《メイン・タイトル》(『スター・ウォーズ/新たなる希望』から)では、ウィンナ・ホルン奏者が8人も映っているカットも出てくるほどだ。なるほど、これだけの特大編成であるが故に、豊麗でシンフォニックなサウンドが、喜びをもって湧きあがってくるのだろう。老ジョン・ウィリアムズも、じつに幸せそうに指揮をしている。ここは、ぜひとも、デラックス盤をお勧めしたいと思う。

満津岡信育

(「レコード芸術 2020年9月号 Vol.69 No.840」より 抜粋)

 

 

特選盤

まちがいなく今年最高の話題盤だろう。今年1月、ウィーン・フィルはジョン・ウィリアムズを指揮台に招き、彼の作品ばかりによる演奏会を行なった。当盤はその模様を収める。演奏は最高の一言だ。ウィーン・フィルの輝かしい響きとのびやかな歌いぶりは、ウィリアムズの音楽と予想以上にぴったりで、ハリウッドの映画音楽が目指した理想のサウンドはこれだったのではないかとさえ感じる。ウィーン・フィルはこれまで夏の野外コンサートで『スター・ウォーズ』や『ハリー・ポッター』を演奏したことがあるが、比べものにならない。8曲(CDでは2曲)で独奏を務めるムターも興が乗っている。なお、このアルバムには複数のヴァージョンがあるが、もし買えるなら、ブルーレイ(映像)ディスクの入ったデラックス・エディションを強くお薦めする。CDより6曲も多いし、前島秀国氏の愛情あふれる解説も読めるし、曲間のウィリアムズの話も、短いが面白いし、なにより楽員や聴衆やウィリアムズ自身の笑顔が見られる。彼らの幸せそうな顔を見ていると、近年、20世紀音楽のレパートリー拡大やHIPの普及によってやや存在感の低下していたウィーン・フィルにとって、彼らがもっとも得意とするロマン派から20世紀前半あたりまでのクラシックを随所で参照するウィリアムズの音楽との出会いは、今後、彼らが進むべき道のひとつを示唆する歴史的なできごととなったのではないかとさえ感じた。

 

[録音評]

ステージ上のオーケストラから若干離れたところから見ているサウンド・ステージ。ホール自体の響きの魅力も含めてジョン・ウィリアムズの世界が音色的な深みを獲得。ステージ上の前後の距離感もきちんと見えてくるがさすがにマルチ・マイクで音数の多さの豪華絢爛なこと。ソロ・ヴァイオリンは若干のトリミング感はあるがオーケストラとの一体感も失っていない。CDでもいい録音だが、デコードして聴くとさらに空間の広がりがあり、現場の空気感が見事に再現されている。いい意味で金のかかった録音。

(「レコード芸術 2020年10月号 Vol.69 No.841」より 抜粋)

 

 

さらに(三発目)、翌「レコード芸術 2020年11月号 Vol.67 No.842」連載「View point」(音楽評論家二人が毎月一枚のディスクを取り上げて語りあうコーナー)では、6ページにわたってその魅力についてクラシックな視点で多角度的に語られています。ボリュームがすぎるため、ぜひ本誌を手にとってみてください。

そうして(四発目)、本盤は「レコード芸術」誌が主催する日本で最も権威のあるクラシック音楽賞「2020年度第58回レコード・アカデミー賞」において「特別部門 企画・制作賞」を受賞し高い評価を得ています。

 

 

オススメは溢れる。

夢のコンサートは、夢のディスクになった。黄金の輝きは、世界中の音楽ファンも黄金の笑顔に輝かせた。もうお祭り状態なんだけれど、イベント感に終わらない高い芸術性の到達点。どれほど言葉をついやすよりも、至福の音楽を浴びることで感じること。オススメしたい言葉や気持ちは溢れるばかり、行き着く先は、聴いて!の三文字になってしまいます。

 

 

ドイツグラモフォン公式チャンネルには、いくつか公式動画が公開されています。

 

John Williams & Vienna Philharmonic – Williams: Theme from “Jurassic Park”

ふくよかなホルン、壮観でしなやかな演奏。ウィーン・フィルの美質を輝かせるかのような作品です。ブラームス交響曲の、あのホルン名旋律や重厚な弦楽旋律にも引けを取りません。

 

John Williams & Wiener Philharmoniker – “Main Title” from “Star Wars: A New Hope”

純粋にシンフォニックなオーケストラ作品であり、ライト・モチーフなどの手法はワーグナーにも通じます。映画登場人物たちを象徴する旋律たちが、次々と奏であいながら、壮大な宇宙の物語を表現しています。果てのない宇宙空間が広がっているような、大きな音楽空間です。

 

Marion’s Theme (From “Indiana Jones and the Raiders of the Lost Ark”)

極上のシルクのようなストリングスにうっとりです。やわらかく、なめらかで、つやのある弦楽器の音色に、透明感のある木管楽器。珠玉の宝石のようです。

 

John Williams & Vienna Philharmonic feat. Anne-Sophie Mutter – “Hedwig’s Theme” From “Harry Potter”

クラシック音楽でいう「トランスクリプション(編曲)」の手法で、新たな可能性を示してくれた曲です。パガニーニやリストにもつながる超絶技巧を追求したコンサート・ピースと呼べるものに昇華していて、ムターのパフォーマンスは圧巻です。

CDには収録されなかった6曲は、すべてムター共演曲です。前年『アクロス・ザ・スターズ ~ジョン・ウィリアムズ傑作選』CDに、ウィーン・フィルではないですがセッション録音されすべて収録されています。コンサートからCDへの収録時間の調整で、優先順位からなくなく除外されたものと思われます。

ムターとウィリアムズがつくりあげたCD作品が先にあったからこそ、ウィーン・フィルとの歴史的コンサートで実現できた、ムタープログラムが華を添えるというスペシャルな演出ができたことはたしかです。

 

John Williams & Vienna Philharmonic – Williams: “Devil’s Dance” from “The Witches of Eastwick”

このムター共演曲は、『アクロス・ザ・スターズ ~ジョン・ウィリアムズ傑作選』発売時にはない、本盤CDに収録された世界初録音です。冒頭から1分間の緊張感にみちた無伴奏のヴァイオリン独奏は、もう映画音楽とは思えないほどです。アクロバティックな技術を、美麗にエモーショナルに聴かせるムターは、音楽のむずかしさではなく、音楽の魅力や楽しめる表現力で魅せてくれます。

 

John Williams & Vienna Philharmonic – Williams: Imperial March (from “Star Wars”)

from ドイツ・グラモフォン公式YouTube

ほとんど原曲から不変なこの楽曲は、最初からフル・オーケストラを前提にした楽曲であった証です。ウィーン・フィルの金管楽器奏者たちたっての希望でプログラムに追加されアンコールで披露されました。ジョン・ウィリアムズも「これまでで最高の演奏のひとつ」と語ったほど渾身の演奏です。

曲がはじまってからすぐに反応する、観客たちの最高潮に達したボルテージもすごいです。映像では熱気そのままに伝わってきますが、CD盤ではきれいに観客側の音はすべてカットされています。この曲だけでなく、全曲にいえることですが、曲が終わるごとに拍手喝采の起こったコンサート。曲終結部に起こる食い気味な拍手も歓声も、すべてきれいにカットされています。臨場感はライヴ音響そのままに、楽器ごとの音を細かく拾うマイクで、CD作品としても聴いてほしいこだわりを極めた、感嘆のため息がもれます。

ライブ会場の観客のリアクションを見ながら、まるで自分も観客の一員になれたような感覚になります。祝祭ムードに包まれたコンサートは、映像からも音楽からもきらびやかな喜びや幸せが舞っているようです。こんなにも心揺さぶられる、自然と笑顔になる、エネルギーが湧きあがってくる。コンサートは現代文化の宝物です。

 

 

ドイツ・グラモフォン公式チャンネルには、上の映像盤からの公式動画だけでなく、CD盤全13曲の公式音源も公開されていると思います。

また、CDライナーノーツは一曲ごとに充実した楽曲解説になっています。久石譲CD作品でもおなじみ前島秀国さんによる音楽的解説と、映画シーンから見た視点なども盛り込まれ、とても深く紐解いた分析になっています。ぜひ手にとってみてください。

 

 

「ウィーン・フィル ニューイヤー・コンサート」のジョン・ウィリアムズ映画音楽版といっていいほどです。ウィーンにゆかりのある曲たちで構成されたニューイヤー・コンサートと同じように、映画音楽のみでプログラムされた演奏会。そんななかでも、有名どころのメインテーマを並べたわけではない、短い曲を抜群の選曲と流れで配置し、飽きさせないフルコースのように仕立てられています。このあたりの曲と曲の流れるようなテンポ感もニューイヤー・コンサートに近いです。『E.T.』や『シンドラーのリスト』からの曲は、曲の後半ではじめてメインテーマが登場するなど、主題曲からではない再現部のような構成をもった楽曲が選ばれていて、あとから追いかけてくる感動があります。夢のテーマパークを、フリーパスで心おきなく楽しんだような幸せなコンサートです。

 

現代の大衆娯楽と伝統的な芸術のひとつの到達点。「カルミナ・ブラーナ」(カール・オルフ)だって、当時の大衆文化や世俗習慣を大いに盛り込んだ作品として誕生し、今ではクラシック音楽演奏会で人気のある作品になっています。現代の大衆娯楽である映画、その映画音楽のなかには伝統的な芸術であるオーケストラ作品として独立できる楽曲がある。オーケストラの魅力を伝えることのできる作品に、これはポップス寄りだとかこれは邪道だとか、、ジャンルの先入観や境界はもういらない。ジョン・ウィリアムズ×ウィーン・フィルの歴史的な公演は、そのことを力強く高らかに宣誓してくれました。

 

 

ジョン・ウィリアムズのCD作品は、年代ごとにいろいろなコンセプト盤やベスト盤が刻まれてきました。僕も同じ歩みで聴いてきたCDも多いなか、いくつか聴きなおしながら、今おすすめしたい4枚のディスクを4回にわたって紹介してきました。それぞれしっかりとしたカラーやコンセプトのあるアルバムです。ぜひゆっくり選んで聴いてみてください。

それではまた。

 

reverb.
この奇跡のコンサートは、COVID-19前夜の2020年1月開催でした。

 

 

*「Overtone」は直接的には久石譲情報ではないけれど、《関連する・つながる》かもしれない、もっと広い範囲のお話をしたいと、別部屋で掲載しています。Overtone [back number] 

このコーナーでは、もっと気軽にコメントやメッセージをお待ちしています。響きはじめの部屋 コンタクトフォーム または 下の”コメントする” からどうぞ♪

 

Overtone.第40回 「アクロス・ザ・スターズ ~ジョン・ウィリアムズ傑作選」を聴く

Posted on 2021/04/20

ふらいすとーんです。

映画音楽のレジェンド、ジョン・ウィリアムズです。わりと新しいCD作品から、ジョン・ウィリアムズが到達した偉業の集大成であり、かつ現在進行系でもある、そんなホットなアルバムを紹介します。4回にわたる予定、前回につづいてその3回目になります。

 

前回まで

 

 

奇跡のコラボレーション!世界的ヴァイオリニストのムターによるジョン・ウィリアムズ作品集です。あの名曲たちが、さらにエモーショナルに美麗に響きわたります。僕は、このCDを聴いたときに、そうか!こんな遺しかたもあったのか!こんな甦りかたもあったのか! と新しい可能性を感じ強烈な衝撃をうけました。

 

ポイントは3つです。

  • 作曲家によるソリストのための編曲版
  • 高い技術を必要とする音楽作品の完成度
  • 演奏会レパートリーとして定着へ

 

 

アクロス・ザ・スターズ~ジョン・ウィリアムズ傑作選(SHM-CD)日本盤(全12曲)

 

ACROSS THE STARS -DELUXE EDITION- (CD+DVD) import(全17曲)

[CD]
1. レイのテーマ  – 『スター・ウォーズ /フォースの覚醒』から
2. ヨーダのテーマ  -『スター・ウォーズ /帝国の逆襲』から
3. ヘドウィグのテーマ  -『ハリー・ポッターと賢者の石』から
4. アクロス・ザ・スターズ  -『スター・ウォーズ /クローンの攻撃』から
5. ドニーブルーク・フェア  -『遥かなる大地へ』から
6. さゆりのテーマ  -『SAYURI』から
7. 追憶  -『シンドラーのリスト』から *
8. 夜の旅路  -『ドラキュラ』から
9. サブリナのテーマ  -『サブリナ』から
10. 決闘  -『タンタンの冒険 /ユニコーン号の秘密』から
11. レイア姫のテーマ  -『スター・ウォーズ /新たなる希望』から *
12. 会長さんのワルツ  -『SAYURI』から *
13. ルークとレイア  -『スター・ウォーズ /ジェダイの帰還』から
14. すてきな貴方  -『シンデレラ・リバティー /かぎりなき愛』から
15. シンドラーのリストのテーマ  -『シンドラーのリスト』から
16. Markings  –  J.ウィリアムズがムターのために作曲した新曲 (世界初録音) *
17. 平和への祈り  -『ミュンヘン』から *

*デラックス盤CD用 ボーナストラック (only import)

 

[DVD]
アンネ=ゾフィー・ムター&ジョン・ウィリアムズ インタビュー

アンネ=ゾフィー・ムター(ヴァイオリン)
ロサンゼルス・レコーディング・アーツ・オーケストラ
ジョン・ウィリアムズ(指揮)

録音時期:2019年4月
録音場所:ロサンゼルス
録音方式:ステレオ(デジタル/セッション)

 

[CD]
1.Rey’s Theme – from STAR WARS: THE FORCE AWAKENS
2.Yoda’s Theme – from STAR WARS: THE EMPIRE STRIKES BACK
3.Hedwig’s Theme – from HARRY POTTER AND THE PHILOSOPHER’S STONE
4.Across the Stars (Love Theme) – from STAR WARS: ATTACK OF THE CLONES
5.Donnybrook Fair – from FAR AND AWAY
6.Sayuri’s Theme – from MEMOIRS OF A GEISHA
7.Remembrances – from SCHINDLER’S LIST *
8.Night Journeys – from DRACULA
9.Theme – from SABRINA
10.The Duel – from THE ADVENTURES OF TINTIN: THE SECRET OF THE UNICORN
11.Princess Leia’s Theme – from STAR WARS: A NEW HOPE *
12.The Chairman’s Waltz – from MEMOIRS OF A GEISHA *
13.Luke and Leia – from STAR WARS: RETURN OF THE JEDI
14.Nice to Be Around – from CINDERELLA LIBERTY
15.Theme – from SCHINDLER’S LIST
16.Markings for solo violin, strings and harp (Dedicated to Anne Sophie Mutter) *
17.A Prayer for Peace – from MUNICH

*Bonus tracks

ANNE-SOPHIE MUTTER violin
 THE RECORDING ARTS ORCHESTRA OF LOS ANGELES
JOHN WILLIAMS conductor

[DVD]
Anne-Sophie Mutter in conversation with John Williams

 

 

日本盤はSHM-CD仕様になっていますが全12曲です。海外盤は全17曲と5曲多いうえに、ふたりの対談DVD付きです(日本語字幕なし)。

 

 

ジョン・ウィリアムズの代表曲たち『スーパーマン』『ジュラシック・パーク』『E.T.』などのメインテーマは、ここにはありません。それらは、ファンファーレ的であり、金管楽器が高らかに鳴り響くことが持ち味です。本作には、ヴァイオリンとオーケストラの組み合わせが映える選曲がなされています。また女性キャラクターのために書かれたテーマ曲など、恒例なベストアルバム的選曲では決してお見かけできないラインナップに、きっと新しいめぐり逢いがあります。

 

 

ジョン・ウィリアムズが語ったこと

「私は、彼女が確立した素晴らしいキャリアに、ささやかながら何らかの貢献が出来るかもしれないと喜びを感じ、同時にやりがいのある仕事だと感じた」

「今回のムターとの録音は、インスピレーションに溢れた仕事でした。彼女は予想もしない新しい演奏で、すでに親しまれてきたテーマ曲の数々に新たな生命を吹き込み、作曲家としての私に大きな喜びを与えてくれました」

「ムターは、ヴァイオリンという楽器であらゆる時代の名曲を演奏し続けてきました。その楽器で私の作品が演奏されるのは、この上ない名誉です」

「長年なじんできたテーマの中からいくつか選び、編曲しましたが、それをヴァイオリンで演奏すると、今までと異なるエモーショナルな体験が得られるのです」

from CDライナーノーツ

 

 

本盤は、クラシック音楽誌「レコード芸術 2019年10月号」〈先取り!最新盤レビュー〉コーナーでいち早く紹介されただけでなく、翌「レコード芸術 2019年11月号」の新譜月評で特選盤にも選ばれています。世界的ヴァイオリニストの録音とあらば注目されることはもちろんです。しかし、だからといってクラシック音楽たちと並列して高い評価を受けるとは限りません。映画音楽が芸術性を高めた音楽作品へと昇華されたからこそです。

 

 

個人的なレビューいらずの、音楽専門家たちの声をご紹介します。

 

 

先取り!最新盤レビュー

作曲家自身の編曲によるムターのための「傑作選」

ムターの申し出で実現した新しい映画音楽の姿

アンネ=ゾフィー・ムターが、ジョン・ウィリアムズの作品を録音したというニュースを目にして、筆者は、「え?そうなの?」と驚いた一人である。ところが、当盤のブックレットによれば、ムターは、ジョン・ウィリアムズの音楽の大ファンで、「彼の担当した映画を映画館に観に行き、音楽の中でヴァイオリンやチェロが用いられていると、『私も弾きたい!』といつも思います。そしてついに、彼自身の素晴らしい編曲で、有名なテーマ曲を全部弾けるようになったのです」という言葉が掲載されている。しかも、ムターの方から、アルバムを作りたいと申し出たということである。

当盤は、ジョン・ウィリアムズの映画音楽から12曲がセレクトされているが、《シンドラーのリスト》のように、もともとヴァイオリン独奏を用いて書いた楽曲(既存の編曲を一部用いたものもあり)以外は、作曲者本人が新たに編曲した点も重要である。美しいメロディを、単にヴァイオリンに割り振って、イージー・リスニング的に聞かせていくアプローチとは正反対に、ヴァイオリンという楽器が備えている表現力を活かしながら、原曲が持っているイメージをさらに広げることに成功しているのである。

 

ムターなればこそ可能な華麗かつ強靭な表現

1曲目の《レイのテーマ》から、ムターの美音を活かしつつ、重音奏法を盛り込み、シンフォニックな高揚感も効果的だ。3曲目の《ヘドウィグのテーマ》は、ロマン派のヴィルトゥオーゾ型の演奏会用変奏曲のようになっている点も興味深い。映画『ハリー・ポッター』の世界観を写し出すように、重厚でありながら、神秘的な響きが取り込まれている。カデンツァでは、日常世界からの逸脱を示すように、呪縛力に富んだ音楽となり、ムターが集中力あふれる熱演を展開している。

6曲目の《さゆりのテーマ》は、日本を舞台にした映画『SAYURI』のメイン・テーマであり、原曲では、ヨーヨー・マが演奏していた楽曲だ。当盤では、それをヴァイオリン用に改編しているが、胡弓のようなグリッサンドを活用し、平均律を逸脱して、東洋的な雰囲気を醸し出す箇所をはじめ、G線上で朗々と歌い抜いていく場面の美しさが圧巻だ。

9曲目の《決闘》は、映画『タンタンの冒険/ユニコーン号の冒険』のエンドロールが原曲で、前島秀国氏の解説によれば、1930年代にハリウッドで量産された剣戟映画へのオマージュとして作曲されたそうだが、無伴奏で弾く箇所は、ルトスワフスキやペンデレツキを演奏したムターだからこそ可能な峻烈な表現に加え、微妙な音程の取り方など、じつに刺激的な演奏が収録されている。もちろん、それだけではなく、当アルバムでは、ある時は明るく美麗な音で美しい旋律を歌い抜き、またある時は強靭な響きを発するなど、ムターの変幻自在な表現力が光っている。ジョン・ウィリアムズの編曲譜も充実している。ヴァイオリンの細かなテクニックに関しては、ムターとの打ち合わせの成果が活かされているに違いない。オーケストラは71名編成とのこと。映画音楽ファンはもとより、クラシック音楽ファンにも、声を大にしてお薦めしたい一枚だ。

満津岡信育

(「レコード芸術 2019年10月号 Vol.68 No.829」より)

 

 

特選盤

秀抜なアイディアが実を結んだと言おうか、夢の顔合わせから予想を超える結果が生み出されたと言おうか。一見コマーシャルな”売り物アルバム”のように見えながら、実はスーパーマン同士が心を寄せ合っての丹精から生み出された、きわめて高度な、しかも喜びに満ちた奏楽が、当アルバムを彩っているのだ。要は、アメリカ映画音楽界の巨匠ジョン・ウィリアムズが、現代のカリスマ的ヴァイオリニスト、アンネ=ゾフィー・ムターのために──というより、彼女と共に演奏するために──『スター・ウォーズ』『ハリー・ポッター』ほかアメリカ名画の数々に寄せた自分の楽曲を改めてヴァイオリン・ソロとオーケストラのために編曲し、自分は指揮棒をとって、共に録音したアルバムがこれなのだ。

(以下、省略)

 

ムターによるジョン・ウィリアムズの映画音楽集。当盤の前島秀国氏の解説によれば、ウィリアムズが自作の映画音楽だけを、特定のソリストのために編曲したアルバムはこれが初めてなのだという。指揮はもちろん、ウィリアムズ自身、オーケストラはハリウッド映画専門のオーケストラ、ロサンジェス・レコーディング・アーツ・オーケストラ。収録作品映画『スター・ウォーズ』『ハリー・ポッター』『シンドラーのリスト』などだが、日本を舞台にした『SAYURI』のテーマ曲なども。編曲といっても、どの曲もかなり凝った内容になっていて、ヴァイオリンとオーケストラによるシンフォニックな幻想曲風作品や変奏曲に仕立てられていて聴き応えがある。ムターはさすがにすばらしい。1曲目の〈レイのテーマ〉から艶やかな音色で豊かなヴィブラートで奏でられるフレーズはどれもが明るい気品に輝いていて、名旋律をゴージャスに彩る。〈ヨーダのテーマ〉もそうだが、フレージングの見事なこと。ときに心震え、ときに地平線の彼方まで飛んでいく。美しくかたちの整った音だけではない。〈ヘドウィグのテーマ〉ではファンタジー豊かに実に多様な音色で豊かな幻想味を出しているし、『シンドラーのリスト』の〈テーマ〉でも「泣き」の入った掠れた音色と情感の籠ったフレージングで、セッションを訪れたスピルバーグを感動させたというが、それも頷ける。ムターのヴァイオリンの豪奢な音色と卓越した表現力の賜物だろう。

(「レコード芸術 2019年11月号 Vol.68 No.830」より)

 

 

ここまで言われたら、もう何も言うことはない。

音楽通たちも絶賛したアルバムです。とにかくすごい!ということは伝わると思います。レコーディングは5日間におよぶ充実したセッション録音です。パフォーマンスも録音技術も完成度を極めています。あとは、曲を聴きながら、曲ごとに上の解説と照らし合わせながら、読んだり聴いたりしてもらえると、よりぐっと染みわたってくると思います。僕は、個人的に、専門的解説に際して、そういう解釈するんだとか、そういうところに注目するんだとか、そういう表現するんだとか、自分にはない視点や発見があるからおもしろいです。そういったこともあって、少し長いですが原文ままに紹介させてもらいました。

 

 

作曲家によるソリストのための編曲版

メロディをヴァイオリン用にアレンジした、イージーリスニング的なものではありません。ヴァイオリンという楽器の表現力や可能性を最大限に追求した編曲版たちです。それは、例えば、久石譲作品でいえば「Untitled Music」や映画音楽からは「ヴァイオリンとオーケストラのための「私は貝になりたい」」などが浮かんできます。

ヴァイオリンを独奏楽器にするということは、ヴァイオリンが映えるためのオーケストレーションを施し、カデンツァなどを盛り込みながら小協奏曲のように構成する。クラシック音楽の方法論を実践できる作曲家、それがジョン・ウィリアムズであり久石譲です。

本盤を聴いて、そうか!久石譲音楽もまだまだいろいろなかたちで遺すことができる!甦ることができる! そう思いました。スタジオジブリ作品の交響組曲化は進んでいますが、また異なるベクトルで、ソリストのための作品集という切り口もある。

 

‘I’d Rather be a Shellfish’ for Violin and Orchestra (Live In Tokyo / 2014)

from Joe Hisaishi Official

 

 

 

高い技術を必要とする音楽作品の完成度

そうやって新しい生命を吹き込まれた作品は、決して安易なアレンジものではない、正統な音楽作品として完成度を誇っています。本盤の公式音源から1曲紹介します。「ハリー・ポッター」ふんだんなヴィルトゥオーゾ(超絶技巧)や、華麗なカデンツァも配置された変奏曲です。ヴァイオリンの奏法も重奏からピッツィカートまで多彩に、いろいろな音色で魅せてくれます。速いパッセージを縦横無尽に弾きこなし、かすれた音から圧のかかった音、はたまた弦と弓が当たって音色になる瞬間の音まで。魔術的な編曲と演奏は、ヴァイオリンの魅力を存分に楽しむことができます。

 

Hedwig’s Theme (From “Harry Potter And The Philosopher’s Stone” / Audio)

from Anne-Sophie Mutter VEVO official YouTube

 

原曲のイメージからは、次元の異なる昇華です。美しいメロディと磨き抜かれた技巧。エンターテインメントとしての大衆性と高度な芸術性の結晶です。

本盤を聴いて、そうか!久石譲音楽もまだまだいろいろなかたちで遺すことができる!甦ることができる! そう思いました。『魔女の宅急便 組曲』から「おかあさんのホウキ」、WDOコンサートマスターによるヴァイオリン・ソロは、うっとり魅了されます。こちらは、組曲からの抜粋になりますけれど、スタジオジブリ音楽/映画音楽/テレビ・CM音楽と、久石譲音楽には無限の可能性があります。

 

Symphonic Suite “Kiki’s Delivery Service” : Mother’s Broom (Live In Japan / 2019)

from Joe Hisaishi Official

 

 

 

楽器かわってこんな曲も。トランペットをフィーチャーした「天空の城ラピュタ」WDO版も人気です。

 

Castle in the Sky

 

 

演奏会のレパートリーとして定着へ

これだけ音楽性の高い楽曲であれば、演奏会にも引っ張りだこです。スコア出版されれば(譜面の提供環境が整えば)、レパートリーの殿堂入りまちがいなしです。本盤ジョン・ウィリアムズ傑作選は、それほどにスコアの要望や演奏の需要は高いと思います。一定期間はムターに独占的機会があるのかもしれませんが、一般にスコア化された日には、ますます演奏機会は世界に広がります。

本盤を聴いて、そうか!久石譲音楽もまだまだいろいろなかたちで遺すことができる!甦ることができる! そう思いました。久石譲の数ある名曲たちも、久石譲の手によって、いろいろな編曲版がのこされたなら。オーケストラ、アンサンブル、ソリストを迎えて。本格的な音楽構成だからこそ、一流演奏家たちも喜ぶレパートリーへとなっていきます。そして、演奏版の種類と演奏機会はかけ算となり、私たち聴衆は、溢れるほどにさまざまなに、楽しむことができるようになります。

 

 

Remembrances (From “Schindler’s List”)

こんなに素晴らしい曲が、デラックス版(輸入盤)にしか収録されていないなんて。後半の「シンドラーのリスト」メロディのヴァイオリン独奏は涙ものです。

 

 

ムター公式YouTubeには、本盤全12曲の公式音源が公開されています。ムター公式やドイツ・グラモフォン公式とあわせれば、デラックス版に収録されている追加5曲も聴くことできると思います。うまく英語曲名で探してみてください。

 

ACROSS THE STARS – John Williams & Anne-Sophie Mutter (Official Audio) playlist 12 songs

https://www.youtube.com/watch?v=bmBE6_gCTww&list=PLYS8O7ZO9o2NbFsids6tC5y98PDXKuBsi&index=1

 

また、CDライナーノーツのほうは、一曲ごとに充実した楽曲解説になっています。久石譲CD作品でもおなじみ前島秀国さんによる音楽的解説です。原曲との違い(旋律楽器・構成)も具体的に、映画で使われたシーン解説も含めてファン必読です。

 

 

 

DVD映像の抜粋からなる公式トレーラー動画では、レコーディング風景をまじえたインタビューを見ることができます。

Across the Stars” – Anne-Sophie Mutter and John Williams (Trailer)(約6分)

 

 

ヨーダのTシャツを着て録音に臨んだムター、チャーミングです。

 

 

現代に高い人気と、高い影響力と、高い評価を誇る、そんな二人のコラボレーション。クラシック音楽ファン、ヴァイオリンファン、映画音楽ファン、そんなすべてのファンに捧げる名盤です。きっとこれから先もずっとずっと愛聴されていくでしょう。

前回紹介した「ジョン・ウィリアムズ・セレブレーション」と並んで、今回紹介した「アクロス・ザ・スターズ」は、映画音楽が21世紀のクラシックになることへの力強い宣誓のようです。そして、…そうか!久石譲音楽もまだまだいろいろなかたちで遺すことができる!甦ることができる! そう思いました。それが一番言いたかった。

 

 

おまけ

これまたジョン・ウィリアムズが、世界的ヴァイオリニストのイツァーク・パールマンのために、自作以外の映画音楽からもセレクトしアレンジを施した作品集『シネマ・セレナーデ』(1996)です。往年名作たちから選曲されています。この一曲のクレジットを見ただけでも奇跡です。演奏も奇跡です。

13.「ニュー・シネマ・パラダイス」より愛のテーマ
演奏:イツァーク・パールマン
作曲:エンニオ・モリコーネ
編曲:ジョン・ウィリアムズ

指揮:ジョン・ウィリアムズ
演奏:ピッツバーグ交響楽団

 

それではまた。

 

reverb.
ムターとの共演はウィーンフィルとの共演にもつながっていきます♪

 

 

*「Overtone」は直接的には久石譲情報ではないけれど、《関連する・つながる》かもしれない、もっと広い範囲のお話をしたいと、別部屋で掲載しています。Overtone [back number] 

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Overtone.第39回 「ジョン・ウィリアムズ・セレブレーション」を聴く

Posted on 2021/03/20

ふらいすとーんです。

映画音楽のレジェンド、ジョン・ウィリアムズです。わりと新しいCD作品から、ジョン・ウィリアムズが到達した偉業の集大成であり、かつ現在進行系でもある、そんなホットなアルバムを紹介します。4回にわたる予定、前回につづいてその2回目になります。

 

前回まで

 

 

ジョン・ウィリアムズ傑作集といえる収録曲たちは、2CDのボリュームです。若手人気指揮者ドゥダメルによって、ゴージャスなサウンドに心躍ります。本盤は、2019年1月コンサートのライヴ録音で、アンコールまで収録した完全盤でのリリース。ジョン・ウィリアムズの代表作を網羅した作品集になっています。

 

 

ジョン・ウィリアムズ・セレブレーション
ドゥダメル/ロサンゼルス・フィルハーモニック(2019)

CELEBRATING JOHN WILLIAMS
LOS ANGELES PHILHARMONIC・GUSTAVO DUDAMEL

CD 1

1. オリンピック・ファンファーレとテーマ
2.『未知との遭遇』から抜粋
3.『ジョーズ』から 鮫狩り/檻の用意!
4.『ハリー・ポッターと賢者の石』から ヘドウィグのテーマ
5.『ハリー・ポッターと秘密の部屋』から 不死鳥フォークス
6.『ハリー・ポッターと賢者の石』から ハリーの不思議な世界
7.『シンドラーのリスト』から テーマ
8.『E.T.』から 地上の冒険
9.『フック』から ネヴァーランドへの旅立ち

CD 2

1.『ジュラシック・パーク』から テーマ
2.『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』から オートバイとオーケストラのスケルツォ
3.『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』から マリオンのテーマ
4.『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』から レイダース・マーチ
5.『SAYURI』から さゆりのテーマ
6.『スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲』から 帝国のマーチ(ダース・ベイダーのテーマ)
7.『スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲』から ヨーダのテーマ
8.『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』から 王座の間とエンドタイトル
9.『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』から アダージョ
10.『スーパーマン』から マーチ

グスターボ・ドゥダメル 指揮
ロサンゼルス・フィルハーモニック

録音:2019年1月24-27日 ウォルト・ディズニー・コンサート・ホール〈ライヴ〉

 

 

曲名を見ただけで、いくつかはメロディが自然に浮かんでくる。いろいろなオススメポイントを書いていきたいところです。でも、その必要はないかもしれません。本盤は、クラシック音楽誌「レコード芸術 2019年5月号」で、堂々とクラシックCD盤たちと並んで紹介されていただけでなく、なんと特選盤にも選ばれました。クラシック音楽界やクラシック音楽専門家から見ても、熱い視線で話題となり太鼓判な一枚として選ばれた、そんな王道作品です。

 

 

特選盤

ドゥダメルは、「ジョン・ウィリアムズは現代のモーツァルトだ」というほど、彼の大ファンなのだという。そのドゥダメルが、ロサンゼルス・フィルとともに、今年87歳を迎えたこの大作曲家の名曲の数々を演奏したアルバムだ。今年1月のライヴ録音だが、3月には東京でも同様のプログラムによる演奏会が行われたので、聴かれた方も多いだろう。ドゥダメルは、ウィリアムズの作品をしばしば取り上げており、2015年末に公開された『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』では、オープニング及びエンディング・テーマの指揮も担当していた。なお、ドゥダメルは2014年にも同様のコンサートを行なっていて、これはブルーレイ/DVDが出ている。作曲者本人やパールマンの出演したそちらも良かったが、曲目の豪華さでは今回の方が上だ。とにかく、スピルバーグ作品を中心に、誰もが知っている名作の、誰もが聴いたことのある名旋律がずらりと並ぶ。あらためて、ジョン・ウィリアムズの業績の桁外れの大きさを実感させられる。近現代のクラシック音楽のさまざまな語法を自由自在に使い、それでいて誰の心も揺さぶる力のある彼の音楽には、どこか魔術的な魅力がある。演奏は非の打ちどころがない。輝かしく澄んだサウンド、シャープで生き生きとしたリズム、そして迫力とスピード感。いわゆるクラシックの指揮者とオーケストラが映画音楽を演奏したアルバムは結構あるが、これはその究極の形だろう。

[録音評]
かなりの大編成による演奏のようであるが、聴こえて来る感じは広いステージのイメージではなく、むしろサウンドトラックのようなスタジオ収録風である。ロス五輪をはじめ、懐かしい名画からの聞き憶えのある曲ばかりだから、自然と頭の中に映像が浮かんでくる。映画館で聞いた迫力ある効果音的な打楽器の重低音や金属音がここでも同じように再現されている。

(「レコード芸術 2019.5月号 Vol.68 No.824」より)

 

 

レコード芸術評をもとに補足です。

2019年1月ロサンゼルス・フィルハーモニック創立100周年記念シーズンのハイライト(2018/2019)としてコンサート開催されました。3月21日、オーケストラもプログラムもそのままに日本公演を果たしています。そのときの「シンドラーのリスト」ヴァイオリン・ソリストは三浦文彰さん。日本公演の模様は、5月5日にTV放送(NHKEテレ)され反響を呼び、時期をおいて再放送もされました。

 

 

21世紀のクラシック ~指揮者~

グスターボ・ドゥダメルは、ロサンゼルス・フィルハーモニックの音楽監督も務め、「ウィーンフィル・ニューイヤーコンサート2017」の指揮も務めるなど、今最も注目されている指揮者の一人です。また、ジョン・アダムズがドゥダメルのために作品を書き下ろしたりと、古典作品だけでなく現代作品にも鋭い感覚をもっています。

ジョン・ウィリアムズとの交流も深く、映画『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』でのOP/ED曲の指揮はジョン・ウィリアムズたっての希望だったというエピソードもあります。そのほか、ディズニー映画『くるみ割り人形と秘密の王国』(作曲:ジェームズ・ニュートン・ハワード)のサウンドトラック録音指揮を務めていたり、エンターテインメントでも活躍の場は広いです。

クラシック音楽も現代作品もこなせる感覚の新しさ。複雑な構成やリズムも得意とするソリッドなアプローチも特徴です。ジョン・ウィリアムズへのリスペクトも強く、本盤でも決してポップスな指揮はしていません。ドゥダメルが選曲したというプログラムは、まるでジョン・ウィリアムズの作品群をひとつの大きな交響曲として構成しているような、そんな意気込みや気概をひしひしと感じます。

 

 

 

久石譲がドゥダメルについて語ったこと。

『音楽する日乗』の「ドゥダメルの演奏会を聴いて」「指揮者のような生活」項にてたっぷり語られています。演奏会で聴いたプログラム感想(マーラー:交響曲第6番、ドヴォルザーク《新世界》ほか)、オーケストラのアプローチ特徴や対向配置のこと、ほか。久石譲指揮や久石譲コンサートにも通じる反映されている、久石譲の指向性がとてもよく伝わってきます。ぜひ手にとってみてください。

 

 

 

21世紀のクラシック ~オーケストラ~

ロサンゼルス・フィルハーモニックは、映画『スター・ウォーズ』シリーズ(1980’s)のサウンドトラック録音を担当するなど、古くから映画音楽やジョン・ウィリアムズ作品ともゆかりのあるオーケストラです。

本盤も、大編成オーケストラです。3管編成、ホルン8、トランペット5など、マーラー作品にも負けないほどの大きさで、ダイナミックに迫ってきます。また、ドゥダメルは対向配置をとっているのも特徴で、ほとんどのクラシック公演でも録音でも、オーケストラは対向配置です。久石譲も対向配置です。

映画音楽名曲集コンサートのような、ポップス・コンサートには決してなっていない。ポップス・オーケストラのように、ドラム・ギター・ベースがリズムを刻むこともありません。純粋なオーケストラの編成で、クラシック音楽と同じように至極の音楽空間が広がっています。

本公演から1曲だけコンサート動画がアップロードされていました。圧巻の大編成!対向配置!パフォーマンス!ぜひ堪能してください。

 

LA Phil & Gustavo Dudamel – Williams: Theme from “Jurassic Park” (Live at Walt Disney Concert Hall)

from ドイツ・グラモフォン公式YouTube

 

 

対向配置の特徴やその魅力については、ここでも少し語っています。もし興味あったらどうぞ。

 

 

21世紀のクラシック ~プログラム I~

ジョン・ウィリアムズの作品を集めるということは、アメリカ音楽史プログラムです。ハリウッド映画=アメリカ(たとえ映画がアメリカを描いていなくても、映画産業の象徴としてのハリウッド)。映画を巡る旅は、音楽を巡る旅であり、アメリカ音楽史を巡る旅にもなります。これまでに、ガーシュウィン「ラプソディ・イン・ブルー」や、バーンスタイン「ウエスト・サイド物語」が演奏会でプログラム定番曲となってきたように、これからは、同じアメリカ人作曲家のジョン・ウィリアムズ作品が、新しいレパートリーとなっていきそうな予感です。

あまりにもキャッチーなメロディは、あまりにもエンターテインメントな盛り上がりかたは、クラシック音楽と並列にはできない、そぐわない。そんな傾向もまだまだ根強い昨今です。でも、モーツァルトだって、誰でも口ずさめるキャッチーなメロディもあれば、清らかで純粋なハーモニーで直球いってる作品もたくさんあります。

本盤の収録曲はすべて、映画公開終了後にジョン・ウィリアムズ自ら演奏会用に編曲したものです。サウンドトラックからそのまま引っ張り出すと、曲の一部しか聴けないとか、フェードアウトして終わるとか、演奏会では披露できない曲もあります。それらを、もっと音楽的に発展させたり、音楽作品として独立できるよう再構成したものです。ジョン・ウィリアムズ作品は、公式スコアが普及しているおかげもあってか、多くの演奏機会に恵まれ定着してきた曲たちです。

 

 

21世紀のクラシック ~プログラム II~

ドゥダメルは、ジョン・ウィリアムズの数ある名曲たちから、ベストアルバム的にプログラムしているわけではありません。《フライング・テーマ》《空への憧れ》《自由への夢》をテーマにおき、『ハリー・ポッター』『E.T.』『フック』『スーパーマン』の飛翔テーマを含めた大きなプログラム構成になっています。

久石譲に置き換えたら。演奏会用に再構成すること、公式スコアとしてかたちに残すことは、並行して行われています。これまでに手がけてきた数多くの映画・TV音楽から、《海》をテーマにプログラムを組むこともできるようになるかもしれません。スタジオジブリ映画・ジブリ交響作品から《フライング・テーマ》を象徴する楽曲たちを選んで、作品を超えてプログラムすることもできるようになるかもしれません。

音楽作品(再構成・スコア)としてきちんと残すということは、未来のクラシックになるためにとても大切なことです。それを今かたちにしている、そんななかに僕らは聴衆として一緒に歩んでいる。そんな気もしてきませんか?

 

 

Out To Sea / The Shark Cage Fugue (From “Jaws” / Live At Walt Disney Concert Hall, Los Angeles / 2019) · Los Angeles Philharmonic · Gustavo Dudamel

from ロサンゼルス・フィルハーモニック LA Phil 公式YouTube

 

ドゥダメルの指揮は、きっちり縦のラインのそろった、ソリッドなリズム表現です。ジョン・ウィリアムズ本人の指揮のほうが横揺れしているかもしれません。それほどに、律儀に正確に忠実に、スコアと向き合い具現化しているアプローチです。

映画『ジョーズ』の音楽といえば、あの恐怖がじわじわと迫ってくるような曲がポピュラーですが、こんな音楽もあったんだと新鮮さのある曲です。バロック音楽のフーガのような精緻な声部が折り重なり、まるで陽気で軽やかな海賊映画のようです。

 

 

ロサンゼルス・フィルハーモニック公式YouTubeには、本盤全19曲の公式音源が公開されています。ライブ音源ながら、スタジオ収録のような引き締まった音像です。CD2枚組のボリュームと練られたプログラム構成は、聴きごたえたっぷりです。

 

Celebrating John Williams (Official Audio) playlist 19 songs

https://www.youtube.com/watch?v=uHWIbM2NGOE&list=OLAK5uy_ll6sgiqDqqf99gUOws2nl–OF3RMPF8nI

 

また、CDライナーノーツのほうは、一曲ごとに充実した楽曲解説になっています。久石譲CD作品でもおなじみ前島秀国さんによる音楽的解説と、映画シーンから見た視点なども盛り込まれ、とても深く紐解いた分析になっています。ぜひ手にとってみてください。

 

 

 

「ジョン・ウィリアムズ・セレブレーション」このアルバムの最大の功績は、ジョン・ウィリアムズ音楽を、21世紀のクラシック作品として花開かせたことだと思います。この第一歩は、やがて未来への大きな布石となっていくだろう、大きな分岐点となっていきそうです。

それではまた。

 

reverb.
昔ジョン・ウィリアムズ ファンクラブにも入会していました♪

 

 

*「Overtone」は直接的には久石譲情報ではないけれど、《関連する・つながる》かもしれない、もっと広い範囲のお話をしたいと、別部屋で掲載しています。Overtone [back number] 

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Overtone.第38回 「ジョン・ウィリアムズ・プレイズ・スピルバーグ」を聴く

Posted on 2021/02/20

ふらいすとーんです。

映画音楽の巨匠ジョン・ウィリアムズです。2017年、生誕85周年を記念して企画されたディスク「ジョン・ウィリアムズ・プレイズ・スピルバーグ」です。スティーヴン・スピルバーグ監督とのコンビ(43年間の交流と27本の作品)から、選りすぐりの曲をすべて新アレンジ・新スタジオ録音、ジョン・ウィリアムズ自ら指揮したアルバムです。

 

このアルバム、すごくいい!

おすすめしたい理由は2つあります。ひとつは、音がいい。ひとつは、聴き逃していた名曲たちです。収録曲だけ見たなら、なかなか手にとらない一枚かもしれません。自信をもっておすすめします。

 

音がいい

音がいい。サウンドトラック盤よりもダイレクトに解放された音像がそこにはあります。耳が喜ぶ楽器たちの生の音がします。

ハリウッド映画音楽ってフィルターかかってる?!音質が抑制されてる?! そんなことを思うときがあります。マイルドな音像仕上がりといえば聞こえはいいですが、どうも薄い膜が一枚あるような印象を受ける。端的に言えば、楽器そのもののからの音がダイレクトに響かない。ざくざく強く摩擦する弦楽器も、突き抜けて破裂するような金管楽器も、息を吹き込む風圧の木管楽器も。まるでそのままだと粗いからと、少しヤスリをかけたようなまろやかなミキシングになっている。

ジョン・ウィリアムズの手がけた『ハリー・ポッター』や、近年フィナーレを迎えた『スター・ウォーズ』の新作音楽も、そのほか多くのハリウッド超大作に同じような音像を感じていまうときがあります。ずっと鳴りっぱなしのハリウッド映画音楽だから?音も丸くしてる?、、、これはハリウッドでは主流な音響の仕上げ方なのかな? 久石譲音楽や邦画サウンドトラックではあまり感じないことです。

そこへきての本アルバムです。音楽作品として新アレンジ・新録音したというだけでも、期待は高まりますが、一曲目からそのダイレクトな楽器音に感動します。特に、ハリウッド映画音楽といえば、フルオーケストラのなかでも、金管楽器たちの咆哮が魅力です。ファンファーレ的ホーンセクションは定番ものです。ここに収録された楽曲たちは、音楽構成として映像から解放されただけでなく、音像としてもなんの遠慮もいらないほど解放的に響きわたります。

 

聴き逃していた名曲たち

わりと新しめのスピルバーグ作品から選ばれています。それは、スピルバーグ作品集の3枚目にあたるからです。

スピルバーグ×ウィリアムズのコラボレーションによる作品集は、過去2枚リリースされています。本作同様、サウンドトラック盤からのセレクトではない、本人指揮・新録音されたもので、演奏はいずれもボストン・ポップスです。そちらのほうに『ジョーズ』『未知との遭遇』『レイダース』『E.T.』『インディ・ジョーンズ』『ジュラシックパーク』『シンドラーのリスト』等、世界中で大ヒットした映画から収録されています。(『スピルバーグの世界』1991CD/『スピルバーグ・スクリーン・ミュージック・ベスト Williams on Williams』1995CD)

あえて、過去2枚のウィークポイントをあげるとすれば、サントラ盤と変わらない1990年代の音質であり、サントラ盤と変わらない同アレンジで録音だけが新しい。コンサート用に書き直されたものではない。ボストン・ポップスの音でとおして聴きたいファンにはうれしいディスクです。

3枚目に当たる本作は、演奏会用に再構成されたもの、より大胆で自由な多楽章に飛躍したもの、サウンドトラック盤よりも解放された高音質。収録曲だけを眺めてみると、いくぶん馴染みのないラインナップに見えますが、そんな心配を見事に裏切ってくれます。そこには、今も変わらぬ最高に豊かで実りの多いコラボレーションの結晶たちが、自信に満ち輝きながら待っています。

 

 

ジョン・ウィリアムズ・プレイズ・スピルバーグ(2017)

The Spielberg/Williams Collaboration Part III

 

※日本独自企画2枚組
(Blu-spec CD2+DVD)

DISC1(CD)
01. マットの冒険~『インディ・ジョーンズ クリスタル・スカルの王国』(2008)
02. アフリカよ、涙を拭いて~『アミスタッド』(1997)
03. BFG~『BFG:ビッグ・フレンドリー・ジャイアント』(2016)
04. 何人に対しても悪意を抱かず~『リンカーン』(2012)
05. 決闘~『タンタンの冒険 ユニコーン号の秘密』(2011)
06. 新たな始まり~『マイノリティ・リポート』(2002)
ー アルト・サックスとオーケストラのための逃奏曲~『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』(2002)
07. 第1楽章《包囲》
08. 第2楽章《揺れる心》
09. 第3楽章《歓喜の飛翔》
10. マリオンのテーマ~『レイダース 失われたアーク《聖櫃》』(1981)
11. 戦没者への讃歌~『プライベート・ライアン』(1998)
12. 1912年、ダートムア~『戦火の馬』(2011)
13. ヴィクターの物語~『ターミナル』(2004)
14. 平和への祈り~『ミュンヘン』(2005)
15. 移民と建築~『アンフィニッシュト・ジャーニー』(1999)
16. 何人に対しても悪意を抱かず[オルタネイト・ヴァージョン]~『リンカーン』(2012)

1.The Adventures Of Mutt  “Indiana Jones And The Kingdom Of The Crystal Skull”
2.Dry Your Tears, Africa  “Amistrad”
3.The BFG  “The BFG”
4.With Malice Toward None  “Lincoln”
5.The Duel  “The Adventures Of Tintin”
6.A New Beginning  “Minority Report”
7.Escapades For Alto Saxophone And Orchestra Movement 1:Closing In  “Catch Me If You Can”
8.Escapades For Alto Saxophone And Orchestra Movement 2:Reflections  “Catch Me If You Can”
9.Escapades For Alto Saxophone And Orchestra Movement 3:Joy Ride  “Catch Me If You Can”
10.Marion’s Theme  “Raiders Of The Lost Ark”
11.Hymn To The Fallen  “Saving Private Ryan”
12.Dartmoor, 1912  “War Horse”
13.Viktor’s Tale  “The Terminal”
14.Prayer For Peace  “Munich”
15.Immigration And Building  “The Unfinished Journey”
16.With Malice Toward None (Alternate Version)  “Lincoln”

指揮、作曲:ジョン・ウィリアムズ
演奏:レコーディング・アーツ・オーケストラ・オブ・ロサンゼルス
録音:2016年9月~10月

DISC2(DVD)
スペシャル・ドキュメンタリー映像(2016年10月撮影)

スピルバーグとウィリアムズの対談/レコーディング風景
日本語字幕付 approx.24min

 

 

※世界発売4枚組「JOHN WILLIAMS・STEVEN SPIELBERG THE ULTIMATE COLLECTION」(3CD+DVD)から、最新盤のDISC3と日本語字幕付DVDとして発売。DISC1・2は上にも書いた過去作品(1991・1995)です。

 

 

 

公式チャンネルSony Soundtracks VEVO には、本作から3曲ほどセレクトされた公式音源が公開されています。くわえて、DVD収録されているレコーディング風景+インタビューの動画もいくつかの曲でトリミング公開されています。それらをまじえながら。

 

01. マットの冒険~『インディ・ジョーンズ クリスタル・スカルの王国』(2008)

一曲目から音がいい!よく鳴ってる!インディ・ジョーンズのあのメロディがモチーフとして散りばめられて、あらるゆところで顔を出す愉快な一曲。勢いある序曲のような迫力です。

(search for “Indiana Jones and the Kingdom of the Crystal Skull – The Adventures of Mutt (John Williams – 2008)”)

(*以下、くすぐる好奇心すぐに音源聴いてみたい人は、英語曲名で検索すると便利かも、サントラver.も本アルバムver.もヒットしやすくなるかも)

 

02. アフリカよ、涙を拭いて~『アミスタッド』(1997)

いかなるテーマの映画でも、本格的な音楽をつくりあげてしまうジョン・ウィリアムズ。本盤のために編成されたオーケストラ95名と合唱120名はレコーディング風景動画でも見ることできます。この曲を聴きながら、、『ライオン・キング』や南の島を題材にしたディズニー映画なんかをふと思い出し、、そういえばジョン・ウィリアムズってディズニー映画やったことないよね、、たぶん。

John Williams – Dry Your Tears, Afrika from “Amistad” (Pseudo Video)

John Williams – Dry Your Tears, Afrika from “Amistad” (Behind the Scenes)

 

03. BFG~『BFG:ビッグ・フレンドリー・ジャイアント』(2016)

『ハリー・ポッター』にも負けないファンタジー音楽に心躍ります。ストリングスが大きく羽ばたいたり、フルートが自由に駆けまわったり、スリリンズな緊迫シーンもはさみながら、映画本編ダイジェストのような約7分作品に。思わず映画見ました、思わずサウンドトラック聴きました。こんな作品あるなんて知らなかった。

 

04. 何人に対しても悪意を抱かず~『リンカーン』(2012)

サウンドトラックでは2分に満たないメインテーマ、かつ、ストリングス・メインだったもの。新アレンジでは約5分構成、メロディにトランペットをフィーチャーしています。沁みます。アメリカを象徴する音=トランペット、みたいなイメージを築いた感のあるジョン・ウィリアムズ。『JFK』『プライベート・ライアン』の主題曲でも、気高い旋律を悠々と奏するトランペットは、アメリカの誇りすら感じます。またメロディだけを抜き取るとちょっと牧歌的だったりするところも、郷愁感を刺激するのかもしれません。

 

ー アルト・サックスとオーケストラのための逃奏曲~『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』(2002)
07. 第1楽章《包囲》
08. 第2楽章《揺れる心》
09. 第3楽章《歓喜の飛翔》

本作のハイライト約16分の大作です。アルト・サックス、ビブラフォン、ベースにそれぞれゲスト・プレーヤーを迎え、JAZZYで華やかなザ・アメリカンです。フィーチャーされた楽器たちはカデンツァのような独奏パートもふんだんに盛り込まれ、かなりかっこいい、とにかく楽しい作品です。

どうしても聴いてほしい、探しました。公式楽譜もあるということかな、同じ構成で演奏されたコンサートから。アメリカ音楽=『ウエスト・サイド物語』と定着した演目もありますね。この作品は、演奏会に腕利きプレーヤーたちを招集し、新定番のアメリカン・プログラムになっていける作品。そんな未来を感じます。映像でみるとソリストたちの活躍も光ります。聴いてしまったら、アメリカ夢見心地。

John Williams – Catch Me If You Can, conducted by Andrzej Kucybała

 

 

ここで唐突に久石譲。新たにサックスパートが書き加えられた2015年版『The End of the World for Vocalists and Orchestra』 II. Grace of the St. Paul も印象的です。

 

II. Grace of the St. Paul
“楽章名はグラウンド・ゼロに近いセント・ポール教会(9.11発生時、多くの負傷者が担ぎ込まれた)に由来する。冒頭で演奏されるチェロ独奏の痛切な哀歌が中近東風の楽想に発展し、人々の苦しみや祈りを表現していく。このセクションが感情の高まりを見せた後、サクソフォン・ソロが一種のカデンツァのように鳴り響き、ニューヨークの都会を彷彿とさせるジャジーなセクションに移行する。そのセクションで繰り返し聴こえてくる不思議な信号音は、テロ現場やセント・ポール教会に駆けつける緊急車両のサイレンのドップラー効果を表現したものである。”(楽曲解説より)

 

 

10. マリオンのテーマ~『レイダース 失われたアーク《聖櫃》』(1981)

この新アレンジ版は、以降のコンサート定番曲になっていきます。ウィーン・フィルとの世紀の共演(2019)でもプログラムされました。その話はまたいつか。

John Williams – Marion’s Theme from “Raiders of the Lost Ark” (Pseudo Video)

John Williams – Marion’s Theme from “Raiders of the Lost Ark” (Behind the Scenes)

 

11. 戦没者への讃歌~『プライベート・ライアン』(1998)

あっ、ここで出てきた『プライベート・ライアン』。『リンカーン』で話したことです。アメリカを象徴するような音=トランペット、崇高で厳粛な佇まい、胸に手をあてる誇りと気高さ。愛国心と郷愁感を包みこむ旋律。ジョン・ウィリアムズの3大アメリカン・トランペット・メロディ(と勝手に呼んでいる)、一番好きなのは『JFK』です。

John Williams – Hymn to the Fallen from “Saving Private Ryan” (Pseudo Video)

John Williams – Hymn to the Fallen from “Saving Private Ryan” (Behind the Scenes)

from SonySoundtracksVEVO YouTube

 

ほかにも、5.『タンタンの冒険 ユニコーン号の秘密』楽しい冒険音楽とハラハラドキドキ臨場感、13.『ターミナル』クラリネットが自由に跳躍、14.『ミュンヘン』重厚な弦楽が美しい、15.『アンフィニッシュト・ジャーニー』ファンファーレ金管楽器の大活躍。この音楽構成にこの最高音質あり、録音してくれてありがとう!と叫びたくなるアルバムです。

 

 

ジョン・ウィリアムズが語ったこと

■映画音楽の仕事の魅力について

「音楽を書くチャンスを与えられること、かな。もし映画が成功すれば、何万、何百万もの観客がその音楽を聴くことになる。より多くの人が楽しんでくれれば、より大きな喜びになるからね。このことは作曲家にとって今世紀でも新しいことのひとつだ。今世紀初めには千人、2千人だった観客が、今では世界中の人が対象になっているんだ」

■理想的な映画音楽について

「理論でいえば、音楽それ自体がしっかりしたメロディーを持ち、さらに覚えやすい要素を持っているものだろう。言い換えるなら、個性的で覚えやすく、音楽自体が力強いものということになる」と述べており、旋律への配慮の一方で「テクスチュア(構造)やトーンカラー(音色)を考えることはとても重要なこと」とも加える。

(CDライナーノーツより 一部抜粋)

 

 

久石譲がジョン・ウィリアムズ音楽について語ったこと

”「何なに風に書いてください、と頼まれると、すぐお断りしますね。たとえば、ジョン・ウィリアムズ風に勇壮なオーケストラ……じゃジョン・ウィリアムズに頼めば……となっちゃうわけですよ。僕がやることじゃない。余談になりますけど、ジョン・ウィリアムズの曲はどれを聞いても同じだ、という風に良く言われますけど、それはまったくナンセンスな話なんですね。つまり、彼ほど音楽的な教養も、程度も高い人になると、あれ風、これ風に書こうと思えば簡単なんですよ。だけど、あれほどあからさまに『スター・ウォーズ』と『スーパーマン』のテーマが似ちゃうのは、あれが彼の突き詰めたスタイルだから変えられないわけですよ。次元さえ下げればどんなものでも書けるんです。だけど、自分が世界で認知されている音というものは、一つしかないんです。大作であればあるほど、自分を出しきれば出しきるほど、似てくるもんなんです」”

 

深いお話です。これ、1987年のインタビューなんです。当時からいち早くジョン・ウィリアムズの魅力とその本質を見抜いていた! そんな決定的証拠になります。その後も、けっこういろいろな機会に語っています。上に抜粋した同旨を別の言葉でかみくだいていたりと、多角的に発言の真意をつかみやすくなる、とても興味深いです。こちらにまとめています。

 

 

本作録音のあと。

29本目のコラボレーションとなった新作映画『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』(2017)。これがなぜか、今回の流れに反して、サントラ盤の音がいい。鳴りのいいダイレクトな音しています。

実話をもとにしたもので、サウンドトラックも40分ほど、音楽の出番は控えめです。このために編成された76人オーケストラながら、ハリウッドらしい音の厚みもまた控えめです。

CDライナーノーツには、”同音型や律動の反復による劇的緊迫の創出”、”これみよがしな旋律美は差しこまれない”、”実にストイックな仕事”、などというキーワードが並んでいますが、この言葉のピースたちで十分に言い表している、そんな作品です。

 

The Court’s Decision And End Credits (“The Post” Soundtrack)(約11分)

エンドロール楽曲11分と長いですが、これは本編の主要楽曲たちをつなげているからです。アレンジもエンドロール用に書き直されていて、紹介するのにわかりやすい。

4:10~6:00
「ラシドレ」とか「シドレミ」とか、横並びする4つの音が基本音型になっています。このシンプルな音型が強弱や厚みをともないながら緊張感増していきます(4:30~)。音型の間隔がタイトになり、金管楽器も重厚にプラスされます(5:05~)。つかのまクールダウン、木管楽器に音型を引き継ぎ(5:15~)、ダイナミクスの十分なバネで大きく展開ピークを迎えます(5:30~)。

7:10~9:00
なんとも極上サスペンスな極小音型。最初だけ登場するようにみえますが、主役が管楽器に移ってからも後ろにまわり(7:40~)、高音弦楽器が大きなメロディを奏でるときも低音弦楽器で刻みつづけ(7:47~)、大きく開ける展開になっても通奏パターンは保たれ(8:03~)。最後にまた第1主題を再現します(8:45~)。

 

えーっ!ジョン・ウィリアムズでもこんな音楽書くんだ! それでいて、ちゃんとジョン・ウィリアムズしてる! そんなふたつの感想をもってしまう。作家性の垣間見える珍しい立ち位置の楽曲、好きです。クラシック音楽でいえば、ベートーヴェン:交響曲 第5番《運命》第1楽章が「ダダダダーン」のモチーフで構築されているのと同じ手法ですよね。そのピンポイント版というか、手法のひとつを抜き出したわかりやすさみたいなものがあります。

 

 

近年の映画音楽の傾向。

これは個人の解釈です。旋律美のメインテーマとそのバリエーションという方法論は少し影をひそめ、同音型の反復手法やそこからの変化・発展という方法論に、ますますシフトしてきているように感じます。もちろん旋律タイプも音型タイプも昔からあるものですが、その比重やバランスが変わってきているように感じる。

ミニマル・ミュージック主流とも、ポスト・ミニマルとも言わないけれど、明らかにモチーフ主体の音楽構成が増えてきています。『ファンタスティック・ビースト』の映画音楽もそうですし、日本ではまだ少ないかもしれないけれど、海外TVドラマ音楽(欧米・アジア)などでも強く感じます。

少し前までは、この手法がなんちゃってミニマルみたいで、あまり好きではありませでした。とりあえず、通奏低音のように鳴っているBGMや場繋ぎ音楽みたいで。でも、『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』のジョン・ウィリアムズのように、一線を画して本格的につくりあげている人はいるしいたし、この手法をメインとした映画音楽作曲家たちの点在は、若い世代へも着実に増えてきているように思います。

同音型の反復手法やそこからの変化・発展という方法論。言い換えると、モチーフ、小さいメロディ、限られた一つの素材、短い旋律のパターン、これらを変化させること・展開させていくこと。久石譲の映画音楽ではおなじみのことです。いや、むしろ何十年も前からその手法をリードしてきた人のひとりです。久石譲の”幹をつくる”音楽たちが、次の世代の作曲家たちの”花”へとなろうとしているような気がしてきます。そういう視点で、いろいろな国の、いろいろなサウンドトラック盤にふれてみるとおもしろいです。

 

 

話を、音がいい、に戻して。

久石譲さんです。

2001年に指揮者デビューを果たして以降、オリジナルアルバムもサウンドトラックも久石譲指揮によるものが多くを占めています。サントラ音楽であっても、映像のために音質を犠牲にすることはありません。すべての録音でプロデュース、トラックダウンの仕上げまできっちり監修しています。

ここで、条件の近いもの(オーケストラメインの編成・ホール録音)として、『千と千尋の神隠し』を聴いてみます。サウンドトラック盤も交響組曲盤も、どちらも臨場感あるダイナミックな音像が広がっています。

2001年に指揮者デビューを果たして以降、、そう書きました。ここは結構なポイントになりそうです。なぜなら、指揮者久石譲として研ぎ澄まされていくということは、音楽収録にもおのずと反映されてくるからです。そこには、指揮者の耳、指揮台で耳にする音、ダイレクトに録音される。今、聴いている久石譲音楽たちは、指揮台で久石譲が耳にしていたものに限りなく近い音、指揮台で楽器ごとバランスや立体的な音配置を納得した音、指揮者のもとへ集まってくる音圧を感じた音、それをそのままバーチャル体感することができている。そんな言い方もできるかもしれませんね。

もしそう言えるのなら。『交響組曲 風の谷のナウシカ』(2016)や『交響組曲 天空の城ラピュタ』(2018)は、1980年代から時代を経て、新たに久石譲による指揮はもちろん、新たに指揮台バーチャルな音質的価値を獲得した録音の登場となった。そんな言い方もできるかもしれませんね。

 

久石譲 『千と千尋の神隠し サウンドトラック』

 

 

 

監督と作曲家の運命的な出会い。ジョン・ウィリアムズ自身が指揮した、スピルバーグ映画がなければ作曲しなかった、生まれることのなかったかもしれない名曲の数々。輝けるコラボレーションの軌跡を集大成したアルバム「ジョン・ウィリアムズ・プレイズ・スピルバーグ」です。どんどんいい音にふれていきましょう!

それではまた。

 

reverb.
次のコラボレーションは映画『インディ・ジョーンズ 5』(2022予定)です♪

 

 

*「Overtone」は直接的には久石譲情報ではないけれど、《関連する・つながる》かもしれない、もっと広い範囲のお話をしたいと、別部屋で掲載しています。Overtone [back number] 

このコーナーでは、もっと気軽にコメントやメッセージをお待ちしています。響きはじめの部屋 コンタクトフォーム または 下の”コメントする” からどうぞ♪